2021年12月22日水曜日

苦痛の少ない内視鏡検査

ゲスト/やまうち内科クリニック 山内 雅夫 院長


胃内視鏡検査、大腸内視鏡検査について教えてください。

 これまで、胃内視鏡検査は口から入れる経口内視鏡を用いるのが一般的でした。しかし、最近は「経鼻内視鏡検査」という鼻から挿入する方法で検査が行われることも増えてきました。経鼻内視鏡は以前からありましたが、近年は著しく性能が良くなり、導入する医療機関が急増しています。

 経鼻内視鏡は弾力性のあるしなやかなチューブで、直径は5mm台と一般的な経口内視鏡に比べて細く、スムーズに挿入することができます。画像もクリアな高画質で、視野が広く、ごく小さな病変も発見することが可能です。

 経口内視鏡は挿入時、舌の付け根の舌根という部分に内視鏡が触れることで、検査の最中に「オエッ」という吐き気をもよおすことがあるなど、患者さん の負担が大きかったのですが、経鼻内視鏡では鼻から挿入した内視鏡は鼻腔(びくう)を通って食道に入るため、嘔吐(おうと)感や痛みがほとんどありません。また、検査中に医師と会話できることも、患者さんと医師双方にとって大きなメリットになっています。

 大腸内視鏡というと、どうしても辛く苦しい検査を想像してしまう方が多いと思いますが、こちらも器具や技術の進歩により、従来に比べて検査は楽になってきています。多少の圧迫感はあっても、痛みを抑えて検査を終えることができます。また、鎮痛剤を用いることで、眠っている間に治療が終わるケースもあるようです。


内視鏡検査を受けるべき年齢や頻度について教えてください。

 大腸がんのリスクが高くなる40代以上は、胃がんのリスクが高くなる年代でもあります。「検査が怖い」「以前すごくきつかった」など、大腸や胃の内視鏡検査を苦手とするために、がんなど重篤な病気の発見が遅れてしまう例も少なくありません。がんや潰瘍など、食道や胃、十二指腸、大腸、小腸などの疾患は、早期発見・早期治療が完治への近道です。そのためには、定期的な検査が重要です。

 それぞれの内視鏡検査を受けるのに適切な時期や間隔は、病歴・経過や家族や近親者の病歴などにより個人差はありますが、基本的には40歳になったら「まずは一度」、50歳代以降では1年〜数年ごとに検査されることをお勧めします。


2021年12月15日水曜日

高齢者のうつ病

 ゲスト/医療法人社団 図南会 あしりべつ病院 山本 恵 診療部長


高齢者のうつ病について教えてください。

 高齢者のうつ病は「老年期うつ病」とも呼ばれ、他の年代のうつ病とは区別されることがあります。基本的に、診断基準は全ての年代で共通ですが、発病の原因として高齢者特有の誘因があります。

 老年期は抑うつ状態、うつ病が起こりやすい年代です。老年期は「喪失の季節」ともいわれるように、いろいろなものを失う時期です。体力が衰えたり健康を損なったりすること、定年退職や子どもの独立などにより「役割」を失ってしまうこと、親族や配偶者、友人との死別、老いてからの一人暮らしといった喪失体験や社会環境の変化が、うつ病の誘因になることがあります。

 高齢者のうつ病には、次のような特徴がみられます。①認知症と間違われやすい…高齢者が抑うつ状態やうつ病になると、認知症と間違われることが少なくありません。「もの忘れ」「受け答えがちぐはぐ」「反応が鈍い」などの症状から認知症だと思っていたら、実はうつ病だったということがあります(逆の場合、両方の場合もあります)。②自殺率が高い…日本の自殺者の約4割は高齢者です。老年期の自殺の背景にはうつ病が潜んでいることが多いです。③妄想が出やすい…「周囲の人に迷惑をかけている」「取り返しのつかない罪を犯してしまった」と思い込む罪業妄想、実際には預貯金などがあっても「お金がない」「財産がなくなり、今日の生活もできない」と訴える貧困妄想、疾患がないのに「不治の病にかかっている」と信じて疑わない心気妄想などが代表的です。④不安や焦燥感、身体症状が強い…若い人(他の世代)のうつ病だと意欲の低下や気分の落ち込みが前面に出るのに対し、高齢者の場合は不安や焦りが強く、また、頭痛やめまい、肩こり、腹痛、しびれ、ふらつきなど身体(心気)症状を伴うケースが多いです。いくら治療をしても体の調子が良くならない時は、うつを疑って見ることも大切です。


高齢者のうつ病にはどんな治療や対策が有効ですか。

 治療の柱の一つは、他の世代のうつ治療と同じく、抗うつ剤を中心とした薬物療法です。ただし、高齢者は老化に伴う身体機能の低下もあって、若い人に比べて副作用が出やすいので、服薬量や薬の飲み合わせなどに注意を払う必要があります。また、カウンセリングなどの精神療法、庭・畑作業といった精神作業療法(リハビリ)など、薬以外の選択肢も重要になります。同じうつ病であっても、患者さんの病状・回復状況などに応じて必要となる治療やアプローチは変わってきます。

 高齢者のうつ病は、単に「年のせい」で元気がないことなどと混同されがちですが、頻度の高い病気です。そして、治る可能性の高い病気です。本人に自覚がなくても、生活を共にしている家族や周囲の方が異変に気付くことがあります。「いつもと違う」「様子がおかしい」などと感じたら、心配していることを伝え、相手を急かさず、できるだけ安心させるような言葉をかけながら医療機関の受診を促してください。他の病気、診療科と同じように、治療していない期間が長くなるほど、症状はひどくなり治療が難しくなります。早期受診・治療がなによりも大切です。


2021年12月8日水曜日

緑内障のレーザー治療「選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)

 ゲスト/月寒すがわら眼科 菅原 敦史 院長


緑内障とはどのような病気ですか。

 緑内障は日本人の失明原因として最も多い進行性の病気です。主に眼圧が上がることで視神経に損傷が起きて発症します。最近は眼圧が正常範囲にもかかわらず視神経が障害される「正常眼圧緑内障」も増えています。40歳以上の20人に1人が発症するとされ、長い時間をかけて視野が狭くなります。やっかいなのは、重症化するまで自覚症状がないこと。気付いた時には治療が難しくなっているケースも少なくありません。

 進行してしまうと日常生活に不便を感じるようになりますが、早期に発見し、治療を継続することで進行を食い止められれば、不自由なく視力・視野を維持できます。自覚症状のない段階で病気を見つけるためには、目の定期検診が何よりも重要です。


緑内障の治療について教えてください。

 緑内障の治療は、症状が進行しないよう「眼圧を下げる」ことが目的です。方法としては、点眼薬による治療、レーザー治療、外科手術の3つがあります。

 一般的には点眼薬の投与から治療を開始します。複数の点眼薬を使うこともあります。すべての人に起きるわけではありませんが、「充血」「まつげが伸びる」「目の周りが黒ずむ」などの副作用が出ることもあり、継続的な使用が困難な患者さんもいます。また、毎日忘れずに点眼することは難しく、患者さんの4分の1以上が点眼開始から約3カ月で治療を離脱してしまうという報告もあります。

 点眼薬が使えない、継続できない場合など、点眼薬による治療の代わりになりうるのがレーザー治療「選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)」です。点眼薬との併用で治療効果を高める例も多いです。日帰りでの外来治療が基本となるSLTは、短時間で終わり痛みや合併症リスクの少ない低侵襲な治療法で、繰り返し治療を受けられることもメリットです。ただし、実施する医療機関が限られていること、SLTの適用となる患者さんでも約2〜3割の方には治療効果が十分に出ないケースがあることなど欠点もあります。点眼薬、レーザー治療で十分に眼圧が下がらない場合は外科手術が検討されます。

 大切なのは、信頼のできる眼科医とよく相談した上で、自分の病状やライフスタイルに最も合った治療法を選び、継続していくことです。

2021年12月1日水曜日

口腔機能低下症

 ゲスト/医療法人社団アスクトース 石丸歯科診療所 内山 喬博 副院長


口腔機能が低下した状態とはどういうことなのでしょうか。

 最近、以前に比べて「食べ物が口に残る」「食事の時にむせるようになった」「薬などが飲み込みにくくなった」「口の中が乾く」「食べこぼしをするようになった」「滑舌が悪くなった」などと感じている方はいらっしゃいませんか。これらはお口が元気をなくしてきているサインで、専門的には口腔機能低下といいます。

 お口が元気をなくす要因としては、加齢や全身のさまざまな病気もありますが、入れ歯や銀歯などが合わなくなっていることや歯周病で歯がぐらついていることなど、口の中に原因があることが多いです。

 お口が元気でなくなると、好きなものが食べられなくなったり、食べにくい野菜や肉などを避けたりするようになり、栄養の偏りやエネルギー不足を引き起こします。結果、元気が出なくなり、疲れやすく病気にもなりやすくなります。また、口の乾燥や汚れで口臭が発生したり、話しにくくなったりすることで、人と会うことに不安を感じ、外に出掛けることを億劫に感じて家にこもりがちになってしまうケースも目立ちます。

 このようにお口の健康は全身の健康に大きく影響を及ぼします。歯科医院では、簡単な検査でお口の健康度・元気度を調べることができるので、上手に利用してほしいです。


どのような検査や治療を行うのですか。

 〈舌についた汚れの量〉〈お口の乾燥状態〉〈かむ力〉〈舌と唇の動き〉〈舌の力〉〈かめているか〉〈飲み込めているか〉、これら7つの項目について歯や舌の状態のほか、唾液、発音などを調べ、3項目以上に問題がある場合、口腔機能低下症と診断されます。

 治療は、口腔機能低下症を引き起こしている原因を見つけ、それを取り除くことでお口の健康を取り戻していきます。例えば、入れ歯や銀歯が合わないことが原因と分かったら、調整したり作り直したりします。また、歯周病が原因なら、歯石を取るなど歯垢を除去する治療をして歯周病の進行を食い止めます。お口周りや舌の筋力をアップする口腔体操を指導し、かむ力や飲み込む力のトレーニングも行います。口の中以外に原因があると考えられる場合は、患者さんのかかりつけの内科と連携して対策を立てることもあります。

 繰り返しになりますが、お口の健康が全身の健康につながります。お口の元気の衰えを年のせいとあきらめて放置せず、気になることがあれば早めにご相談ください。

2021年11月24日水曜日

秋冬の乾燥肌対策

 ゲスト/宮の森スキンケア診療室 上林 淑人 院長


乾燥肌について教えてください。

 秋から冬にかけて寒い季節に、多くの人が悩まされる肌のトラブルといえば乾燥肌です。皮膚が乾燥して、カサカサした状態になり、ひどくなると白く粉をふいたり、ひび割れてうろこのようになったりします。ある程度乾燥すると、それだけでかゆみを伴い、かくとさらにかゆみが増すのでまたかく、という悪循環に陥りやすいです。中高年に多くみられますが、性別や年齢にかかわらず発症します。

 皮膚表面を覆う脂分など、皮膚の潤い(水分量)を保つ成分が、加齢や疲労、ストレスなどにより不足することが原因です。また、外気・室内の乾燥、皮膚を強く洗いすぎる生活習慣なども外的な要因として挙げられます。

 乾燥してカサカサした皮膚は、肌が本来持っている外部からの刺激を防ぐバリア機能が低下し、花粉やハウスダストなど、アレルギーの原因となっている物質に過敏に反応しやすくなります。また、乾燥肌をかくと肌に目に見えない細かな傷がたくさんできます。これらの傷から細菌などが入り込むと、湿疹や炎症などさらなる皮膚トラブルの原因となるので、早い時期から治療することが大切です。


乾燥肌の対策・治療について教えてください。

 対策の基本は保湿剤を塗り、皮膚の潤いを保つこと。皮膚科でも保湿剤を処方しますが、市販のものでも構いません。保湿剤は軟こうやクリーム、ローションなどいろいろなタイプが用意されていますが、その保湿成分は皮膚の水分が逃げないようにふたをする「エモリエント」と、皮膚に水分を与える「モイスチャライザー」の2つに分類されます。自分の肌に合ったもの、使いやすいものを選んでください。1日2回は塗るよう心掛けてください。

 そのほか、暖房で乾燥しがちな室内は、加湿器を使って一定の湿度を保ち、肌の水分の蒸散を防ぎましょう。入浴の際は“ごしごし洗い”ではなく、手で石けんを泡立てて、優しく洗うようにすると肌への負担は少ないです。

 かゆみが強い場合や、すでにかいて炎症を起こしているときは、保湿剤だけでは皮膚の状態は改善しません。皮膚のダメージに応じて、かゆみや炎症を抑える塗り薬、飲み薬を処方してもらう必要があります。ただの乾燥肌と思っていたら別の皮膚の病気が隠れていたというケースもあるので、自己判断に頼らず、皮膚科医と相談の上で治療することをお勧めします。


2021年11月17日水曜日

摂食障害

 ゲスト/医療法人北仁会 いしばし病院 畠上 大樹 医師


摂食障害とはどのような病気ですか。

 摂食障害はさまざまな心理的・社会的な要因から、体重や体型の変化に過度にこだわり、食行動に異常を起こす病気です。10〜20代の若い女性を中心に増加傾向にあり、“やせ願望”からダイエットを繰り返すことが発症のきっかけとなる例が目立ちます。大きく分けて、極端に食事を制限する「拒食症」と、過剰に食べる「過食症」があります。いずれも太ることへの恐怖感を持っており、拒食の反動から過食に変わるケース、拒食と過食を繰り返すケースなどさまざまです。

 健康上、明らかに問題をきたしているのに、自分が病気だという認識を持てなかったり、病気に気づいても隠したり、適切な治療を受けないまま重症化するケースが多いです。極端な低体重や肥満を招くため、栄養失調による生理不順や骨粗しょう症、感染症、肝機能障害などさまざまな身体的症状がみられるようになり、日常生活にも影響が出てきます。

 摂食障害の死亡率は約5%と精神疾患の中で特に高い数値となっています。症状が出てから受診するまでの期間が、その後の経過を大きく左右するため、早期の診断・治療開始がとても重要です。


治療について教えてください。

 摂食障害の治療は、まず自分を苦しめているのは自分自身ではなく、「病気」であることを認識し、「気の持ちよう」や「本人の努力」だけでどうにもならないと知ることから始まります。

 そのために、病気を「別れなければいけない恋人」に例えるなどし、擬人化することで、患者さんの内面に問題があるのではなく、その恋人=病気こそが問題の元凶なのだというふうに発想の転換を図ってもらう(外在化の技法)など、患者さん自身が治療に積極的に取り組み、医療者と力を合わせて治していこうという気持ちを持ってもらえるよう、さまざまな手を尽くします。

 治療に特効薬はありませんが、カウンセリングによる認知行動療法や自助グループでの対話などに効果が認められています。一般的に摂食障害の治療は時間を要することが多いです。一進一退を繰り返しながら徐々に良くなっていきます。回復への道は決して平坦ではありませんが、必ず治る病気です。あせらず、あきらめず、ゆっくりと治療を続けることが第一です。

2021年11月10日水曜日

慢性硬膜下血腫

 ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長


慢性硬膜下血腫とはどのような病気ですか。

 転んで頭を打ったり、強くぶつけたりした時、頭の中に出血する場合があります。けがをしてすぐに出血が起きた場合は、「急性の出血」あるいは「血腫」などといいます。一方、けがをしてすぐの検査では異常がなかったのに、受傷してから1〜2カ月ほど経ってから徐々に頭の中に血が溜まってくる病気があり、これを「慢性硬膜下血腫」といいます。

 慢性硬膜下血腫は、50歳以上の中高年の方に多くみられ、お酒をよく飲む方、肝臓の悪い方、治療で血液をサラサラにする薬を服用している方もかかりやすいとされます。軽いけがの後でも発症することがあるので注意が必要です。冬季の北海道は、特に雪道の転倒事故に気を付けてください。

 慢性硬膜下血腫は、出血が少ない場合はほぼ無症状です。ある程度、血が溜まってくると脳を圧迫し、さまざまな症状が出てきます。頭痛や頭の重だるい感じが代表的な症状です。治療前には自覚症状を訴えていなかった患者さんでも、治療後に頭が軽くなったという方が少なくないです。圧迫が進むと、足元がおぼつかなくなるなどの歩行障害や手足のまひといった、脳梗塞などの脳血管障害と似た症状を示すことも多いです。高齢者の場合、認知症と間違われているケースもよくみられます。また。高齢者は圧迫による頭痛などの症状を自覚していない例もあり、そのまま寝込んでしまっていることもあるので、家族など周りの人が注意する必要があります。


治療について教えてください。

 無症状であれば、よほど圧迫が強くない限りは経過観察をします。内服薬を使用して様子をみる場合もあります。ここ最近では、血腫の治癒を促進する効果のある漢方薬を使うケースも増えています。

 圧迫が強い時や、先に挙げた症状が出ている時は、手術を行います。脳外科の手術というと大変怖いイメージを持っている方も多いと思いますが、硬膜下血腫の手術は局所麻酔で行うもので、体への負担も少なく、高齢者でも受けることができます。むやみに恐れる必要はありません。

 頭を打っても、軽いけがであれば、慌てて病院に行かなくても大丈夫です。しかし、1カ月以上経ってから、頭が痛くなってくるなどの症状が出てきた時は、我慢しないで脳外科医を受診するようにしてください。

2021年11月3日水曜日

膵囊胞性腫瘍

 ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長


膵囊胞(すいのうほう)性腫瘍とはどのような病気ですか。

 囊胞とは、内部に液体がたまった袋のことで、膵臓の中や周りに液体がたまった袋ができた状態を膵囊胞といいます。いくつかタイプがありますが、そのうち腫瘍によるものが膵囊胞性腫瘍です。一般的に無症状で、検診などで偶然発見されるケースが多く、全人口の約2〜3%の人が膵囊胞性疾患を合併しているという報告もあり、決してまれな病気ではありません。年齢とともにその割合は増加し、80歳以上では約1割の合併頻度ともいわれています。基本的に経過観察でよいものと、放置していると悪性になる可能性が高いものがあります。

 膵囊胞性腫瘍のなかで、よくみられるのは膵管内乳頭粘液性腫瘍で英語の頭文字をとってIPMNと呼ばれます。検診で膵囊胞を指摘された場合、IPMNの可能性が高いといえます。膵管は、樹木のように中心に幹になる部分(主膵管)があって、そこから枝分かれしていますが、IPMNは主膵管にも枝分かれした部分にもできます。前者を主膵管型IPMN、後者を分枝型IPMNと分類しています。悪性を示す重要な所見として注意が必要なのは、主膵管の太さ(10mm以上)や嚢胞内の腫瘍の存在や造影剤によって染まるのう胞壁、のう胞が3cmを超えるサイズ、膵炎や黄疸などの症状があるケースなどです。


治療について教えてください。

 IPMNの治療は、先に述べた悪性を示す所見を認め、がんの可能性が高い場合は手術を選択します。一方、がんの可能性の低いIPMNについては、MRIなどを使って、大きさに変化がないかを数年間にわたって経過観察することが推奨されています。観察途中で、がん化を疑う変化がみられた場合は手術を行います。

 IPMNは、良性の病変から悪性の病変までを含んだ、大腸ポリープのような病変と考えてもらえば分かりやすいかと思います。時間経過とともに段階的に悪性になっていくことが知られており、悪性になると周囲臓器に浸潤し、膵がんと同様の経過をたどります。ただ、悪性化の前段階で発見・治療が可能な「治癒が見込める膵がん」ということもできます。検診などで膵囊胞を指摘された場合は、決して放置しないで、まずは精密検査を受けることが大切です。

2021年10月27日水曜日

うつ病からの復職

 ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 小谷 育男 診療部長


うつ状態を来す病気や障がいについて教えてください。

 古典的なうつ病は、中高年で職場に過剰に適応するような働き方の人がかかるというのが典型的ですが、最近ではより若年の社会人・職業人としての経験が浅い人で、仕事には行けないが趣味的なことは病前と同様に楽しめたりする「新型うつ」や「ディスチミア親和型うつ」と呼ばれるような病像の方も増えています。

 ほかに、確かに初発がうつ状態であっても、気分が高揚したり、攻撃性や活動性が高まったりする躁(そう)状態が、目立たず気付きにくい形で病歴の中にある「双極性障害」の方もいます。また、職場不適応などで二次的にうつ状態を来す原因として軽度の知的障がいや、知的機能のアンバランスさや、「グレーゾーン」と呼ばれる境界知能に位置することが目立たない形で存在する場合も在り、うつをきっかけに受診したことで、こうした生きづらさの原因が明らかになるケースもあります。

 うつ状態の治療ですが、近年はさまざまな苦悩を和らげたり、回復するまでの期間を短くしたりする上で効果のある薬が充実してきました。ただ、本質的には休養や環境の調整が大切で、そこが十分にできないまま、焦って元の生活に戻ろうとして、かえって失敗してしまうケースも多くみられます。

 うつが重篤な時期には「思考抑制」といって物事を考えたり判断したりする機能も衰えますが、症状が改善するに従って思考抑制が取れ、状況が見えてきて焦燥が募るような心境になることも多々あります。患者さんご本人の心情に寄り添いながらも、焦ってしまって回復への道のりが台無しにならないよう、周囲の御家族や主治医、産業医などが協力して順当な判断をしていくことが大切です。

主治医や産業医との連携について教えてください。

 近年は事業所・職場のメンタルヘルス対策の態勢も整いつつありますが、力の入れようは個別の事業所によってさまざまで、専任の産業医がいない職場や北海道の職員の相談も首都圏等の遠隔地からの通信で対応しているケースもあり、中には大部分を外部機関に任せているようなところもあります。また、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、復職プログラムも遠隔からのカウンセリングに限定され、本人の回復度と不適合な内容で、かえって自信を失ったり自尊感情が低下して、回復が遠ざかる場合もあります。復職へ向けての進め方は、適宜、病状や職場の状況を踏まえて、主治医と産業医、職場の衛生担当者が協議しながら実情に即して進めていくことが、「コロナ前」と比べてもより重要になっているといえます。

2021年10月20日水曜日

在宅(訪問)診療の役割とメリット

 ゲスト/医療法人社団 慈昂会 新道東在宅診療クリニック 小関 至 院長


病院に通うのが大変になってきました。在宅で診てもらう方法はありますか?

 現在の医療制度には外来と病院入院のほかに、「在宅(訪問)診療」というシステムがあります。これは通院が困難などで自宅での療養を希望する患者さんのために、医師が患者さんの自宅などに訪問して診察を行うものです。“在宅”とは自宅はもちろん、老人ホームや高齢者住宅も含まれます。医療機関によって異なりますが、一般的には訪問看護や介護ケアの指導・指示、療養生活の助言など、医療面だけでなく介護や精神面からもトータルでサポートしていくのが特徴です。患者さんだけでなく、ご家族も含めて支援するのが在宅診療です。

 在宅診療は、急病時に駆け付ける往診と異なり、前もって定めた日程に沿って定期的な診療を行います。月2〜4回の訪問が一般的ですが、急に体調が悪くなったり、普段とは違う症状が出たりした場合は、電話相談や緊急往診など24時間365日対応するクリニックが多いです。また、万が一の際に入院や、在宅ではできない検査や治療を実施できる医療機関と連携し、緊急時のバックアップ体制も確保しています。

 在宅診療では、自宅・施設での点滴や採血、在宅酸素療法、がんの指導管理・緩和ケア、薬局との連携による薬の処方・配達・服薬指導など、基本的には通院・入院するのと同等の医療を受けることができます。また、ご本人やご家族が希望すれば、在宅での看取りも可能です。患者さんにとっては通院や入退院の負担が減り、自宅という自分の好きなように過ごせる環境で診療やケアを受けられることが、在宅診療の最大のメリットといえます。

 新型コロナの感染拡大が医療や介護のあり方にも影響を与えています。感染対策で患者さんが外来受診を控えていること、また、コロナ禍での面会禁止などの不便さを解消するために、通院治療・入院治療から在宅診療に切り替える患者さんが増えています。持病が重症化しても病院には行きたくない、自宅で人生の最期を過ごしたいと意思表示される人も増えてきており、高齢者を中心に在宅医療の利用は今後さらに増えると予想されています。一方で、在宅を望んでもいろいろな条件があって“無理”だと思っている人がまだまだ多いようです。必要とする人ならばほとんどのケースで、住み慣れたわが家での診療に切り替えられるという選択肢があることを知ってほしいと思います。在宅診療を検討している人は、今かかっている病院の先生に相談するか、在宅診療専門のクリニックなどに直接問い合わせてください。

2021年10月13日水曜日

統合失調症

 ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院 玉城 元之 医長


統合失調症とはどのような病気ですか。

 統合失調症は、10代後半から40歳くらいまでに発症しやすい脳の病気です。実際にないものが見える幻覚や人の悪口などの被害妄想といった「陽性症状」と、喜怒哀楽の表現が乏しくなったり、考えがまとまらなくなる状態が続いたりする「陰性症状」、記憶力や注意・集中力、判断力が低下する「認知機能障害」という3つの症状が特徴的です。周囲から見ると病的であっても、本人が病気を自覚できないのも特徴の一つで、受診や治療を拒むケースも少なくありません。

 原因はまだ特定されていませんが、脳内の神経伝達物質であるドーパミンの過剰分泌の関与が指摘されています。また、過度なストレスが発症の引き金になるとも考えられています。

 統合失調症は100人に1人がかかる身近な病気です。決して特殊な病気ではありません。もし病気になったとしても、患者さん本人はもちろん、家族のせいではないことを理解してください。また、統合失調症は不治の病ではなく、回復可能な病気です。適切な治療と精神科リハビリを行うことによって、多くの患者さんが自立した社会生活に復帰していることも広く知ってもらいたいです。


治療について教えてください。

 代表的な治療として、薬による治療と精神科リハビリがあります。

 ドーパミンの活動を抑える「抗精神病薬」を中心に、不安や抑うつを和らげる薬や睡眠薬、抗精神病薬の副作用を抑える薬などが使われます。いったん回復し安定しても、また症状が悪化したり再発したりするのを防ぐために、服薬をきちんと継続することが大切です。抗精神病薬は、以前は飲み薬による投与が一般的でしたが、現在は1回の注射で2〜4週間効果が持続する注射剤が登場しています。

 症状が安定してきたら、回復の程度に応じた精神科リハビリを行なっていきます。具体的には、作業療法士の指導のもと、さまざまな軽作業を通じて生活リズムや認知機能の改善を目指す「作業療法」や、地域生活に必要なコミュニケーション能力や自立生活技能などを訓練する「社会生活技能訓練」などがあります。

 多くの病気と同様に、統合失調症も発症から治療を開始するまでの期間が短いほど治療効果が高くなり、社会復帰後の状態も良好であることが分かっています。早期発見、早期治療が大切です。

2021年10月6日水曜日

白内障手術が心身機能に及ぼす好影響

 ゲスト/月寒すがわら眼科 菅原 敦史 院長


白内障とはどのような病気ですか。

 白内障は目の中でレンズの役割を果たす水晶体が濁って見えにくくなる疾患です。白内障の原因の大半は加齢に伴うもので、早い人では40歳代に発症します。50歳、60歳と年代が上がるにつれ罹患率は増え、80歳代ではほぼ100%がかかるとされています。

 初期の白内障は点眼薬で進行を遅らせることができますが、濁った水晶体を元に戻すことはできません。進行した白内障には手術が行われます。手術では眼球に2.4mm程度の極めて小さい切開を行い、超音波によって水晶体を細かく砕いて取り除きます。代わりに、人工の水晶体である「眼内レンズ」を挿入します。局所麻酔を使用するため手術中の痛みはほとんどありません。手術は10~15分で終了し、最近は日帰りでの手術が主流になっています。


白内障手術が視力の回復・改善のほかに、心身に及ぼす好影響について教えてください。

 目は五感の中でも特に重要な感覚器官で、人はその情報の8割以上を目から得ているとされます。「人生100年時代」といわれる今、これからの高齢化社会では、元気に自立して日常生活を送ることができる「健康寿命」を延ばすことが大切ですが、そのためには、年齢を重ねても健やかな視界を保てるように目の加齢対策が非常に重要です。見えにくさを我慢するのはストレスですし、何より転倒のリスクが増大します。また、交通事故のリスクが高まり、万一の災害時にも困ることが多くなります。白内障は年を取ると避けられない病気ですから、白内障手術は健康寿命延伸の大きなカギを握っています。

 白内障と診断された65歳以上の米国女性を最長20年余り追跡調査したところ、白内障の手術を受けた人は受けなかった人に比べ、がん、血管疾患、呼吸器疾患、神経疾患、感染症などによる死亡リスクが37〜69%低下していたとの研究報告が米医学誌に発表されています。また、白内障の手術を受けた人は受けなかった人に比べ、認知症や認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)になるリスクが下がるという報告や、睡眠障害のある人が、白内障の手術後、光が眼内(網膜)に届きやすくなり、体内時計が正しく動き出し、睡眠障害が改善したというデータも発表されています。

 ものが見えにくくなると、人の心身にさまざまな悪影響を及ぼします。日常生活に少しでも不自由を感じるなら、早めに眼科を受診して自分の目の状態を把握しておくことが大切です。


2021年9月22日水曜日

秋から悪化しやすい呼吸器疾患

 ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長


季節によって症状が変動しやすい呼吸器疾患、特に秋から悪化しやすい病気について教えてください。

 朝晩の冷え込みなど、天候や気温、湿度が変わりやすい秋口は、呼吸器の不調で来院される方が多くなる時期です。

 季節によって症状が変動しやすい(季節性のある)呼吸器疾患の一つが「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」です。喫煙が主な原因とされ、肺への空気の通りが慢性的に悪くなり、ゆっくりと進行していきます。せき、たん、息切れなどが主な症状ですが、夏は症状が大変落ち着く季節で,軽症のCOPDの患者さんは治ったかと勘違いするほど調子が良くなります.一方,気管支は乾燥して冷たい空気に弱く,COPDの患者さんは秋~冬になると冷気を吸い,息苦しくなったりして,かぜなどの感染症をきっかけに症状が重症化(急性増悪)することもあり注意が必要です。

 「ぜんそく」も秋になると「夏には調子が良かったのに、近頃はどうも調子が悪い」と訴える患者さんが増えてきます。気温のほか気圧の変化(台風・低気圧)など原因はいろいろありますが、高温多湿になる夏の時期に急増したダニが秋口に死に、死骸が飛び散ることも要因です。ダニは死骸でもアレルギーを引き起こします.また、北海道では春にシラカバ,初夏にイネ科(カモガヤなど)による花粉症やぜんそくの悪化がありますが,晩夏から秋にもキク科(ブタクサ、ヨモギなど)の植物による花粉症が多くみられます。「たかがせき」と思わずに、気管支からの危険信号と捉え、原因を特定し、それに合った治療を受けましょう。

 COPD、ぜんそくもそうですが、「病気=症状」と考えるのは間違いで、患者さんが病気(病態)を持っていても必ずしも症状が出るわけではありません。自分は健康だと思っていたのに、実は病気が隠れていて、秋になって突然発作を起こして来院される患者さんもいらっしゃいます。そこで、はじめて病気だったと気付くケースです。

 このように、COPD、ぜんそくは季節性のある病気です。夏、症状がしばらく落ち着いている時期や、治ったと思うぐらい体調のいい時期があっても、秋から冬にかけて症状が一気に悪くなることがあると再確認し、要注意時期と考えてください。COPDやぜんそくの患者さんにとって最もリスクになりうることは、治療を中断し、病気(病態)がコントロールできていない状態です。「調子がいいから」といって、自己判断で服薬などの治療を中断するのではなく、適切な治療を継続することが何よりも重要です。

2021年9月15日水曜日

認知症

 ゲスト/医療法人北仁会 いしばし病院 藤本 純 副院長


認知症について教えてください。

 記憶や判断など脳の知的な能力を「認知機能」といいます。認知症とは、何らかの原因で脳細胞が障害を受け、生活に支障をきたしている状態のことを指します。認知症は人口の高齢化に伴って増え続け、現在国内で500万人以上、65歳以上の4人に1人は認知症か、認知症の一歩手前の状態とされる軽度認知障害(MCI)といわれています。

 認知症にはさまざまな種類があります。最も多い認知症は「アルツハイマー型認知症」で、全体の6〜7割程度を占めています。病初期に目立つ症状は記憶力の低下で、特に新しい記憶が障害されます。そのほか、脳梗塞などが原因の「脳血管性認知症」、実際にはそこにないものが見える幻視や、手足のふるえなどパーキンソン病のような症状がみられる「レビー小体型認知症」、性格や人格の変化が特徴的な「前頭葉側頭葉変性型認知症」が代表的な認知症です。

 また“治せる認知症”として知られるのが、認知症のような症状が出る「正常圧水頭症」です。脳内の脳室と呼ばれる場所に髄液が過剰にたまる病気で、適切な治療をすれば症状が改善する人が多く、ほかの認知症との違いについて啓発を進める必要があります。


診断や治療について教えてください。

 認知症の診断で重要なのは、認知機能の低下が認知症によるものかどうかを判断すること、そして、認知症であることが明らかであれば、その原因疾患をきちんと鑑別することです。通常、医師の問診やスクリーニング検査、描画テスト、CTやMRI、放射線を含んだ薬剤を注射し、脳の血流量の変化を調べるSPECTといった脳画像検査の結果などを総合的にみて見当をつけていきます。

 認知症の原因となる脳病変の進行を止めたり遅くしたりする根本的な治療薬は、先日アデュカヌマブというアルツハイマーの原因とされているアミロイドβを減少させる新薬が米国で承認されました。しかし本邦での承認はまだされておらず、今後の動向に注目です。しかしこれも初期段階での使用を想定しており、早期の発見がより重要になってきます。

 早期発見には、家族や周囲の方の直感に勝るものはありません。「おや?」と思ったら、すぐに受診につなげることが大切です。

2021年9月8日水曜日

パニック症

 ゲスト/医療法人社団 正心会  岡本病院  山中 啓義 副院長


パニック症とはどのような病気ですか。

 「テスト前にパニックになる」「怖い映画を観てパニックになる」─このように何かしらの誘因があって症状が出るものはパニック症ではないというのがポイントです。つまり、パニック症は“何の前触れもなく突然に”交感神経症状や過換気症候群を起こす病気のことです。国内有病率は1.8%と推定され、成人女性に好発します。

 症状は「発作時」と「非発作時」の2つに分けられます。発作時の症状は、突然の交感神経症状(動悸、心拍数増加、発汗、震え、息苦しさ、窒息感、めまい)や過換気症候群です。過換気になると体内の二酸化炭素が必要以上に呼吸として排出されてしまい、血液がアルカリ性になります。これにより、血中のカルシウム濃度が低下し、手足のしびれやひきつけなどのテタニー症状があらわれます。発作はいきなりの出来事なので「このまま死んでしまうのではないか」という恐怖を抱き、それは10分以内にピークに達するといわれています。

 非発作時の症状ですが、発作を何度も経験すると「また、あの発作が起こるのではないか」「外出先で発作が起きたらどうしよう」という不安が常につきまとうようになります。これを「予期不安」と呼びます。さらに繰り返し発作を起こすと、以前発作を起こした場所や発作が起きたときにすぐに助けを得られないような場所(電車、地下鉄、飛行機、エレベーター、MRI、歯医者、美容室など)を避けたり恐れたりするようになります。これを「広場恐怖」と呼びます。


診断や治療について教えてください。

 原因についてはさまざまな研究報告がありますが、脳のある部分(大脳・大脳辺縁系・青斑核・視床下部)に通常とは異なる変化が起こっているのではないかと指摘されています。また、神経化学伝達物質であるセロトニンの分泌異常が関与しているとも考えられています。

 診断は詳細な問診に加えて、パニック症重症度尺度(PDSS)を用います。PDSSは重症度を評価する尺度で中核症状7項目を0から4の5項目で評価します。治療は心理療法である認知行動療法、薬物療法、セルフヘルプ(自身で認知行動療法の本を読むなど)のどれかを好みにより選択することが推奨されています。薬物療法では、抗うつ薬「SSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)」のパロキセチン塩酸塩水和物とセルトラリン塩酸塩は保険適用されており、第一選択薬として推奨されます。

 この病気を放置すると「うつ病」を合併するケースが多いことが報告されています。また、パニック症は循環器領域や呼吸器領域の病気(狭心症、不整脈、気管支ぜんそくなど)の症状と類似しており、内科や救急科においても鑑別診断の念頭に置くべき疾患の一つです。パニック症はとても辛いものですが、この病気で命を落とすことはありません。必要以上に恐れず、思い当たる症状があれば精神科・心療内科を受診してください。


2021年9月1日水曜日

コロナ禍でのがん検診の現況

 ゲスト/福住内科クリニック 佐藤 康裕 院長


コロナ禍におけるがん検診の受診状況について教えてください。

 2020年1〜12月のがん検診受診者数が前年と比べ3割ほど減少したとの報道がありました。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う検診の中止や受診控えが原因とみられ、日本対がん協会の調査によると最大2100人程度ががんを発見されなかった恐れがあると推計されています。

 新型コロナウイルス感染症の死亡者数は、昨年は約3500人でしたが、21年は6月末までの半年間で11000人以上と増加しています。一方で、われわれの脅威となる病気は新型コロナだけではありません。わが国のがん死亡者数は年間38万人を超え、死亡原因の第1位です。毎年新たにがんと診断される人は100万人以上いますが、そのうちの5人に1人が検診によって発見されています。

 早期がんはほぼ無症状であり、症状が出る頃には進行がんであることがほとんどです。がんは進行の程度によって治療成績が大きく異なり、例えば胃がんではステージ1期と4期の5年相対生存率は97.2%と7.1%であり大きな差がみられます。早期に見つかれば多くは治癒が期待できます。

 新型コロナの早期収束を目指していく必要がありますが、流行の状況を見ながら、がん検診の遅れを最小限にしていく必要もあります。一時検診を休止していたほとんどの医療機関も感染対策を行った上でがん検診を再開しています。


がん検診とはどのような検査なのですか。

 検診とは、ある特定の病気にかかっているかどうかを調べるために検査を行い、早期に発見し治療する事を目的とするもので「がん検診」が代表例です。がん検診は地域や職場が公的補助を出して行う「対策型検診」と、人間ドックなどほぼ自己負担で行う「任意型検診」があります。「対策型検診」は胃がん・大腸がん・肺がん・乳がん・子宮頸がんの5種に対して行われています。これらのがんは日本での頻度が高く、安全で精度の高い検査法があり、早期治療の効果が高いことから検診が勧められています。

 日本のがん検診受診率はもともと高くなく、例えば乳がん検診ではアメリカ85%、イギリス78%、韓国52%、日本42%と諸外国に比べ低率です。医療へのアクセスが良い日本なのでもっと受診率を上げることは可能だと思います。ワクチン接種が終わった人が、次にすべきことは昨年忘れていたがん検診ではないでしょうか。

2021年8月25日水曜日

オーダーメードの高位脛骨(けいこつ)骨切り術

 ゲスト/医療法人知仁会 八木整形外科病院  安田 和則 名誉院長


高位脛骨骨切り術について教えてください。

 膝関節の代表的な病気、「変形性膝関節症」は加齢と共に軟骨や骨がすり減り、O脚変形が強くなる病気です。立ったり座ったりする際や、階段の上り下りなどで膝が痛みます。患者さんは1000万人以上いるともいわれています。

 変形性膝関節症に対し、膝の変形を脛(すね)の骨の近位部で矯正し、膝の荷重位置をすり減った内側から正常な外側へと移す手術が「高位脛骨骨切り術(HTO)」です。この手術の最大の利点は自分の膝(関節)を温存できることで、合併症のリスクが少なく、術後の日常生活に対する制限がほとんどありません。回復すれば、テニスやジョギングといったスポーツや農作業などの重労働・力仕事も可能です。

 “骨切り術”にはさまざまな種類があります。近年は新しい術式も増え、患者さんの状態に合わせたオーダーメードの骨切り術が行われるようになってきました。一人ひとりの患者さんの病態、年齢、体型や生活環境、患者さんが希望する治療のゴールなど、さまざまな条件を総合的に判断して術式を選択します。例えば、膝の変形の程度が軽度である場合は、脛骨を内側から外側に向かって部分的な切れ目を入れ、内側を開いて矯正する「内側開大式高位脛骨骨切り術」を行うのが一般的です。また、この術式の合併症のリスクを低く抑えた改良術式「脛骨粗面下骨切り術(DTO)」を行うこともあります。一方、変形の程度が強く、矯正の角度が大きい症例には「逆V字型高位脛骨骨切り術」を行っています。この術式では、非常に大きな変形でも比較的安全に矯正を行うことができます。

 骨が完全に癒合するまではチタンプレートで強固に固定して、手術直後からリハビリを始めます。半月板損傷を伴っている場合は、関節鏡を使って断裂した半月板の切除や縫合を行います。必要に応じて軟骨移植もあわせて行うこともあります。患者さんのQOLに関するさまざまな要望に応えるため、膝関節外科医は膝に関するさまざまな治療を手掛けオーダーメード医療を行っています。

 このような新しい骨切り術式が開発されたことによって、これまでは人工膝関節しか選択肢がなかった患者さんが骨切り術で治療を受けることもできるようになり、自分の膝を温存しながら元の生活に戻れるケースも増えています。ただし、骨切り術の新しい術式を実施している医療機関は限られるので、自分が受けられる術式の詳細については、医師によく相談してみることをお勧めします。

2021年8月18日水曜日

関節リウマチ診療ガイドライン2020

 ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 医師


「関節リウマチ診療ガイドライン2020」とは、どのようなものですか。

 関節リウマチの治療法は日々進歩しています。日本リウマチ学会による「関節リウマチ診療ガイドライン」が6年ぶりに改定されました。その背景には、この十数年、リウマチの有力な治療薬が相次いで発売されている現状があります。これらの新しい薬をリウマチ医は適切に使い分ける必要があり、そういった最新の標準治療や推奨度に関する情報を現場に行き渡りやすくすることが診療の質を保つために重要で、ガイドラインがその役割を担います。今回は、その中から「治療原則」について紹介します。

 関節リウマチの治療目標は、疾患の活動性の低下や関節破壊の進行抑制を介して、長期予後の改善、特に患者さんが生活の質を高く保ちながら長生きすることです。その目標を達成するために、①関節リウマチ患者の治療目標は最善のケアであり、患者とリウマチ医の協働的意思決定に基づかねばならない、②治療方針は、疾患活動性や安全性とその他の患者因子(合併病態、関節破壊の進行など)に基づいて決定する、③リウマチ医は関節リウマチ患者の医学的問題にまず対応すべき専門医である、④関節リウマチは多様であるため、患者は作用機序が異なる複数の薬剤を必要とする。生涯を通じていくつもの治療を順番に必要とするかもしれない、⑤関節リウマチ患者の個人的、医療的、社会的な費用負担が大きいことを、治療にあたるリウマチ医は考慮すべきである、という5つの治療原則が挙げられています。

 ①は特に重要な項目です。自分の病気に対して受け身になるのでなく、積極的に情報を集めたり、医師に自分の気持ちや要望を伝えたり、“賢い患者”になること。そして、患者さんと医師とが同じ目標に向かう“協働”を大切にしながら、患者さんが納得した上で治療を進めるのが第一ということです。②〜⑤は、治療は疾患の活動性や安全性、合併症などに基づいて決められること。抗リウマチ薬、生物学的製剤、JAK阻害剤とさまざまな選択肢がある治療薬は、一人ひとりに合わせて選択し、治療の経過を通じ、症状に合わせて治療薬を変えていくことが効果を上げるために重要であること。私たちリウマチ医療者は、継続的な通院や治療が必要な患者さんのさまざまな負担、特に経済的負担を考慮し、可能な限り支援していく必要があることなどがまとめられています。

 改定されたばかりの新しいガイドラインを手に、この内容を患者さんと共有しながら、よりよい治療の提供を目指していきます。


2021年8月4日水曜日

高齢者のうつ病

 ゲスト/医療法人社団 図南会 あしりべつ病院 山本 恵 診療部長


高齢者のうつ病について教えてください。

 高齢者のうつ病は「老年期うつ病」とも呼ばれ、他の年代のうつ病とは区別されることがあります。基本的に、診断基準は全ての年代で共通ですが、発病の原因として高齢者特有の誘因があります。

 老年期は抑うつ状態、うつ病が起こりやすい年代です。老年期は「喪失の季節」ともいわれるように、いろいろなものを失う時期です。体力が衰えたり健康を損なったりすること、定年退職や子どもの独立などにより「役割」を失ってしまうこと、親族や配偶者、友人との死別、老いてからの一人暮らしといった喪失体験や社会環境の変化が、うつ病の誘因になることがあります。

 高齢者のうつ病には、次のような特徴がみられます。①認知症と間違われやすい…高齢者が抑うつ状態やうつ病になると、認知症と間違われることが少なくありません。「もの忘れ」「受け答えがちぐはぐ」「反応が鈍い」などの症状から認知症だと思っていたら、実はうつ病だったということがあります(逆の場合、両方の場合もあります)。②自殺率が高い…日本の自殺者の約4割は高齢者です。老年期の自殺の背景にはうつ病が潜んでいることが多いです。③妄想が出やすい…「周囲の人に迷惑をかけている」「取り返しのつかない罪を犯してしまった」と思い込む罪業妄想、実際には預貯金などがあっても「お金がない」「財産がなくなり、今日の生活もできない」と訴える貧困妄想、疾患がないのに「不治の病にかかっている」と信じて疑わない心気妄想などが代表的です。④不安や焦燥感、身体症状が強い…若い人(他の世代)のうつ病だと意欲の低下や気分の落ち込みが前面に出るのに対し、高齢者の場合は不安や焦りが強く、また、頭痛やめまい、肩こり、腹痛、しびれ、ふらつきなど身体(心気)症状を伴うケースが多いです。いくら治療をしても体の調子が良くならない時は、うつを疑って見ることも大切です。


高齢者のうつ病にはどんな治療や対策が有効ですか。

 治療の柱の一つは、他の世代のうつ治療と同じく、抗うつ剤を中心とした薬物療法です。ただし、高齢者は老化に伴う身体機能の低下もあって、若い人に比べて副作用が出やすいので、服薬量や薬の飲み合わせなどに注意を払う必要があります。また、カウンセリングなどの精神療法、庭・畑作業といった精神作業療法(リハビリ)など、薬以外の選択肢も重要になります。同じうつ病であっても、患者さんの病状・回復状況などに応じて必要となる治療やアプローチは変わってきます。

 高齢者のうつ病は、単に「年のせい」で元気がないことなどと混同されがちですが、頻度の高い病気です。そして、治る可能性の高い病気です。本人に自覚がなくても、生活を共にしている家族や周囲の方が異変に気付くことがあります。「いつもと違う」「様子がおかしい」などと感じたら、心配していることを伝え、相手を急かさず、できるだけ安心させるような言葉をかけながら医療機関の受診を促してください。他の病気、診療科と同じように、治療していない期間が長くなるほど、症状はひどくなり治療が難しくなります。早期受診・治療がなによりも大切です。

2021年7月28日水曜日

受動喫煙の害

 ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 院長


受動喫煙の害について教えてください。

 タバコの煙には、タバコを吸う人が直接吸い込む「主流煙」、吸って吐き出した「呼出煙」、また、火のついた先から立ち上る「副流煙」があります。喫煙者の周囲(空気中)には呼出煙と副流煙が混ざって漂いますが、そういった煙を自分の意思とは関係なく吸い込んでしまうことを「受動喫煙」といいます。

 タバコの煙には、200種類もの有害物質が含まれており、そのうち約70種類は発がん性の物質といわれています。問題になるのは喫煙者が吸い込む主流煙よりも、タバコの先から立ち上る副流煙の方です。主流煙は吸う時に800℃もの高温になるため、有害物質は燃焼されやすくなります。一方、副流煙は低温のため主流煙よりも煙の中にずっと多くの有害物質が残るとされます。主流煙を1とした場合、副流煙にはニコチンが2.8倍、タールが3.4倍、一酸化炭素が4.7倍も多く含まれます。

 ニコチンは神経毒性を持ち、血管を収縮させて血圧を上げます。また、依存性もあります。タールは、タバコの成分が熱で分解されてできる粘着性の物質で、ベンゼンなど多くの発がん性物質が含まれます。一酸化炭素は、タバコが不完全燃焼した時に発生する物質で、血液中で酸素よりも先にヘモグロビンと結合し、酸欠状態を引き起こします。また、血液中のコレステロールを酸化させ、動脈硬化を進行させます。

 受動喫煙にさらされると、がんや脳卒中、虚血性心疾患、呼吸器疾患などのさまざまな病気のリスクが高くなり、妊婦や赤ちゃんにも悪影響を及ぼすことが分かっています。受動喫煙との関連が確実とされる「肺がん」「虚血性心疾患」「脳卒中」「乳幼児突然死症候群」の4疾患について、わが国では年間約1万5千人が受動喫煙で死亡していると推計されています。

 タバコに含まれる有害物質や発がん物質は、喫煙者本人の健康を害するだけでなく、家族や友人、職場の同僚など身近な人の健康も脅かします。わが国の屋内での喫煙規制は遅れており、中途半端な分煙をしている店では、禁煙席であっても汚染が環境基準を大きく上回る場合が少なくありません。世界では「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」に示されているように、受動喫煙の健康被害は明白なものとして、分煙ではなく全面禁煙化が進んでいます。


2021年7月21日水曜日

不安症・不安障害

 ゲスト/医療法人五風会 福住メンタルクリニック 菊地 真由美 医師


不安症・不安障害とはどのような病気ですか。

 不安や恐怖は本来、危険やストレスが迫っていることをいち早く察知して対処するための、生きていく上で欠かせない情動です。ところが、不安や恐怖が何らかの原因で持続的に過剰になってしまい、日常生活を脅かす程度のものになってくると不安症・不安障害の可能性が出てきます。

 ある患者さんは、夜間にテレビを観てくつろいでいる時に突然、動悸と発汗、胸痛、窒息感に襲われ、「このまま死んでしまうのではないか」という強い恐怖から救急車を呼び、病院に搬送されましたが、検査や診察の結果、身体的にはまったく異常が見つかりませんでした。その後も同様の発作に何度も襲われ、いつ発作が起こるか不安で仕方がなくなり、発作が起こった時に助けを求められない状況を避けるようになってしまいました。また別の患者さんは、人前で話したり注目を浴びたりする状況で過度に緊張してしまうので、学校での発表や職場での会議がひどく苦痛になり、欠席・欠勤するなどして緊張する場面を避けるようになってしまいました。

 DSM-5という精神疾患の診断基準によると、不安症・不安障害には分離不安症、社会不安症、パニック症、広場恐怖症、全般性不安症などが含まれています。日本における不安症・不安障害の生涯有病率は約4%といわれており、決してまれな病気ではありません。

治療について教えてください。

 治療法は、薬物療法と精神療法(認知行動療法など)を併用するのが一般的です。薬物療法では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が現在よく使われています。不安症・不安障害では、脳の扁桃体という部位の働きが過剰になっていると考えられ、SSRIにはこの過剰な働きを抑える作用があります。その他、ベンゾジアゼピン系抗不安薬なども使われています。

 不安症・不安障害には、「不安」症状そのものと、不安により日常生活における「行動」が障害されるという2つの側面があります。不安をゼロにしようともがけばもがくほど、かえって不安は増強しやすいものです。加えて、完全主義的な傾向からいろいろな行動を、症状が消失してから着手しようと先送りにしがちです。一般に、不安症・不安障害の人は、より健康でありたい、より良い成績をおさめたい、成功したいという気持ちが強いことが多いのですが、その希求とは裏腹に、実際には回避行動により「こうありたいと思う姿」から遠ざかってしまいます。不安を持ちながらも、今できる“ほどほど”のことから少しずつ普段の行動を取り戻していくことが、回復への足掛かりとなります。


2021年7月14日水曜日

ブルーライトカット眼鏡の小児への悪影響

 ゲスト/ふじた眼科クリニック 藤田 南都也 院長


近年急速に普及しているブルーライトカット眼鏡は、子どもの目にどのような影響を与えるのですか。

 ヒトの目に見える光(可視光)は赤や緑、青などの波長の異なる光からなります。ブルーライトとは、パソコンやスマートフォンなどのデジタル端末の画面などから出る波長が短い青い光のことで、太陽光にも含まれています。この光を遮ることで、目の疲れや眼球の障害を防ぐなどとうたうブルーライトカット眼鏡が市販され、子ども用の商品も多く販売されています。

 ブルーライトカット眼鏡をめぐっては、大手メーカーが3月、約9,000人分を東京都渋谷区の小中学生に寄贈すると発表しました。これに対し今年4月、日本眼科学会や日本眼科医会などの6団体がブルーライト眼鏡について「子どもに推奨する根拠はなく、むしろ発育に悪影響を与えかねない」とする意見書を発表した。結果、計画が中止されるという騒動も起きました。

 日本眼科学会などの見解によると「液晶画面のブルーライトは曇り空や窓越しの自然光よりも光線量が少なく、網膜に障害を生じることはないレベルで、いたずらに恐れる必要はない」「子どもにとって、十分な太陽光を浴びない場合、近視進行のリスクが高まる。ブルーライトカット眼鏡の使用は、ブルーライトを浴びるよりもむしろ有害である可能性が否定できない」などと、する米眼科アカデミーなど国内外6本の研究成果を紹介。かみ砕いて説明すると、デジタル機器のブルーライトは網膜に障害を与えるほど強くなく、太陽光をカットすると、むしろ近視が進行するリスクが高まること。そのため、ブルーライトカット眼鏡を子どもが日中にかけることは、発育に悪影響を与える可能性があることが指摘され、小児への使用を推奨する根拠はないと結論付けています。つまり、小児への使用は「百害あって一利なし」といえます。

 子どもが深夜に長時間デジタル機器を使うことは好ましくなく、また日本眼科医会はデジタル機器からは30㎝以上目を離すことや、30分に1回は20秒以上遠くを見て目を休ませるを推奨しています。

 ブルーライトという言葉はよく知られるようになってきましたが、科学的根拠は一般の人には十分に知られていません。コロナ禍でオンライン授業の機会が増えるなど、子どもがデジタル端末を使用する機会は増えています。子どもの成長と目の健康を守るために、現時点で分かっている正しい情報を知ってほしいと思います。


2021年7月7日水曜日

新型コロナによる消化器症状

 ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長


新型コロナウイルスに感染するとどのような症状がでますか。

 現在、世界中で猛威をふるっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、軽症時には味覚・嗅覚障害や発熱、せき、鼻汁、咽頭痛などのいわゆる感冒症状を呈しますが、重症化すると肺炎を発症し呼吸不全から死に至ることもあります。呼吸器系以外にもさまざまな症状を引き起こすことが知られていますが、その中でも消化器症状は15~50%と高い頻度で認められます。主な症状は下痢、腹痛、吐き気・嘔吐、食欲不振などであり、特に下痢はCOVID-19患者の約40%にみられたという報告もあります。また、肝臓やすい臓に障害を引き起こすこともいわれています。

 発熱やせき、たんといった呼吸器系の症状と下痢などの消化器症状を同時に起こすケースが多くみられますが、消化器症状だけで来院しCOVID-19と診断された例も約3%あったと報告されています。

 COVID-19による消化器症状と、ほかのウイルスや細菌などによって引き起こされる消化器症状は、COVID-19感染を知るPCR検査や抗原検査以外で見分けることができません。そのため、下痢などの消化器症状が出現したときには以下の点に注意することが重要です。まず、排泄物や嘔吐物には病原体が多く含まれており、周囲の人への感染を拡げる原因となるので、それらを処理する際には手袋・マスクを着用し、手袋を外した後には石けんでの手洗いを徹底してください。次に、COVID-19の流行状況、周囲の感染者の有無、そして自身に消化器系以外の症状があるかを総合的に考えて、医療機関への相談や受診をできるだけ早目に検討することです。例えば、下痢症状がある場合ですが、COVID-19が特に流行している時期に、周囲に感染者がいて、せきなどの感冒症状もあるとなればCOVID-19が疑われる可能性が高いです。一方で、感染の流行が落ち着いている時期に、周囲に感染者がおらず、下痢以外の症状もないときなどは、COVID-19の可能性は低いと考えられます。

 COVID-19では、消化器症状が生じることは決してまれではありません。住んでいる地域での感染の流行状況や周囲の感染者の有無、呼吸器症状の合併などから総合的に判断していくことが重要です。最後に感染予防についてですが、マスクの着用と手洗い・手指衛生・うがいの励行など、基本的なことを徹底するのが何よりも大切です。


新型コロナによる消化器症状

 ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長


新型コロナウイルスに感染するとどのような症状がでますか。

 現在、世界中で猛威をふるっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、軽症時には味覚・嗅覚障害や発熱、せき、鼻汁、咽頭痛などのいわゆる感冒症状を呈しますが、重症化すると肺炎を発症し呼吸不全から死に至ることもあります。呼吸器系以外にもさまざまな症状を引き起こすことが知られていますが、その中でも消化器症状は15~50%と高い頻度で認められます。主な症状は下痢、腹痛、吐き気・嘔吐、食欲不振などであり、特に下痢はCOVID-19患者の約40%にみられたという報告もあります。また、肝臓やすい臓に障害を引き起こすこともいわれています。

 発熱やせき、たんといった呼吸器系の症状と下痢などの消化器症状を同時に起こすケースが多くみられますが、消化器症状だけで来院しCOVID-19と診断された例も約3%あったと報告されています。

 COVID-19による消化器症状と、ほかのウイルスや細菌などによって引き起こされる消化器症状は、COVID-19感染を知るPCR検査や抗原検査以外で見分けることができません。そのため、下痢などの消化器症状が出現したときには以下の点に注意することが重要です。まず、排泄物や嘔吐物には病原体が多く含まれており、周囲の人への感染を拡げる原因となるので、それらを処理する際には手袋・マスクを着用し、手袋を外した後には石けんでの手洗いを徹底してください。次に、COVID-19の流行状況、周囲の感染者の有無、そして自身に消化器系以外の症状があるかを総合的に考えて、医療機関への相談や受診をできるだけ早目に検討することです。例えば、下痢症状がある場合ですが、COVID-19が特に流行している時期に、周囲に感染者がいて、せきなどの感冒症状もあるとなればCOVID-19が疑われる可能性が高いです。一方で、感染の流行が落ち着いている時期に、周囲に感染者がおらず、下痢以外の症状もないときなどは、COVID-19の可能性は低いと考えられます。

 COVID-19では、消化器症状が生じることは決してまれではありません。住んでいる地域での感染の流行状況や周囲の感染者の有無、呼吸器症状の合併などから総合的に判断していくことが重要です。最後に感染予防についてですが、マスクの着用と手洗い・手指衛生・うがいの励行など、基本的なことを徹底するのが何よりも大切です。


2021年6月23日水曜日

子どもの矯正治療

 ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 院長


子どもの矯正治療について教えてください。

 「矯正はいつ始めればいいですか」と聞かれることがよくあります。矯正治療に年齢制限はありませんが、あごの骨が成長途中にある子どものうちに行うのがベストでしょう。成長する力を利用することで、正しくかめるように骨格を誘導し、スムーズに歯並びやかみ合わせを改善できるからです。将来の抜歯や手術を回避できる可能性も高くなります。また、この時期の矯正治療は使用できる装置の選択肢が豊富で、一人ひとりに合った治療法を選べるというメリットもあります。ただし、矯正治療を始めるのに適切な時期は、歯並びの現状、歯やあごの骨の発育状況などによって変わってきます。まずは矯正治療を専門とする歯科医に診てもらうことが第一歩です。

 小学校の入学時(上下前歯が乳歯から永久歯に生え変わる時期)に一度受診し、歯並びやかみ合わせを点検することをお勧めします。この時期にかみ合わせを見ると、お子さんの将来の歯並びが予測できます。はっきりと外観から分かる症例だけでなく、一般の方の目にはほとんど分からない不正咬合の兆候もみることができます。治療が必要かどうか、治療を始めるのに最適な時期はいつ頃かなど、お子さんの歯並びの現状と将来の見通しの説明を受けるチャンスと考え、気軽に相談してみてください。

 矯正治療は専門性が高く、また治療期間は長期にわたるので、理想の治療を受けられるよう、納得のいくまで話し合える矯正歯科医を見つけることが大切です。治療の相談時に診療システムや実績、費用などクリニック自身の説明を十分にしてくれること。お子さんに必要な検査や分析、診断をしたうえで治療の方針や計画を示してくれることなどがポイントになると思います。

 新型コロナウイルスの影響による受診控えが歯科領域でも目立ちます。歯科クリニックでは新型コロナ流行以前から口の中に入る器具をその都度滅菌したり使い捨てを採用したり、飛沫防止のため吸引装置を使ったりするといった標準予防策を徹底しています。加えて、患者さんごとに座席を消毒する、フェイスガードを着用しての治療、予約を制限して接触機会を減らす─など可能な限りの感染対策を講じ、患者さんたちが安心して受診・治療してもらえるよう不断の努力を続けています。感染リスクよりも、口腔内の治療を中断・放置する不利益の方がずっと大きいことを理解してもらいたいです。自己判断で受診を控えず、必要な時に適切な受診をしてください。


2021年6月16日水曜日

認知症

 ゲスト/医療法人北仁会 いしばし病院 藤本 純 副院長


認知症について教えてください。

 記憶や判断など脳の知的な能力を「認知機能」といいます。認知症とは、何らかの原因で脳細胞が障害を受け、生活に支障をきたしている状態のことを指します。認知症は人口の高齢化に伴って増え続け、現在国内で500万人以上、65歳以上の4人に1人は認知症か、認知症の一歩手前の状態とされる軽度認知障害(MCI)といわれています。

 認知症にはさまざまな種類があります。最も多い認知症は「アルツハイマー型認知症」で、全体の6〜7割程度を占めています。病初期に目立つ症状は記憶力の低下で、特に新しい記憶が障害されます。そのほか、脳梗塞などが原因の「脳血管性認知症」、実際にはそこにないものが見える幻視や、手足のふるえなどパーキンソン病のような症状がみられる「レビー小体型認知症」、性格や人格の変化が特徴的な「前頭葉側頭葉変性型認知症」が代表的な認知症です。

 また“治せる認知症”として知られるのが、認知症のような症状が出る「正常圧水頭症」です。脳内の脳室と呼ばれる場所に髄液が過剰にたまる病気で、適切な治療をすれば症状が改善する人が多く、ほかの認知症との違いについて啓発を進める必要があります。


診断や治療について教えてください。

 認知症の診断で重要なのは、認知機能の低下が認知症によるものかどうかを判断すること、そして、認知症であることが明らかであれば、その原因疾患をきちんと鑑別することです。通常、医師の問診やスクリーニング検査、描画テスト、CTやMRI、放射線を含んだ薬剤を注射し、脳の血流量の変化を調べるSPECTといった脳画像検査の結果などを総合的にみて見当をつけていきます。

 認知症の原因となる脳病変の進行を止めたり遅くしたりする根本的な治療薬は、先日アデュカヌマブというアルツハイマーの原因とされているアミロイドβを減少させる新薬が米国で承認されました。しかし本邦での承認はまだされておらず、今後の動向に注目です。しかしこれも初期段階での使用を想定しており、早期の発見がより重要になってきます。

 早期発見には、家族や周囲の方の直感に勝るものはありません。「おや?」と思ったら、すぐに受診につなげることが大切です。

2021年6月9日水曜日

最新の糖尿病治療

 ゲスト/医療法人社団 青木内科クリニック 青木 伸 院長


最新の糖尿病治療薬について教えてください。

 糖尿病治療薬の最近の進歩は目覚ましいものがあります。飲み薬では、高血糖の時にだけすい臓からインスリンを分泌させ、正常血糖値へ下げる「DPP-4阻害薬」があります。この薬は、理論的には低血糖を起こさず治療できる薬剤で、糖尿病の平均血糖の指標であるHbA1c値を1.0%前後下げます。この薬と同じ系統の注射薬も登場し、「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれています。この注射薬はHbA1c値を1.6%前後下げます。1日1回の注射が必要ですが、現在は1週間に1回で済む注射薬も出ました。この系統の注射薬は、すい臓のインスリンを出す細胞を保護し、インスリンの分泌を弱らせない作用も持ち合わせているといわれています。従来まで体重を減少させる糖尿病薬がありませんでしたが、「SGLT-2阻害薬」が登場し、この薬剤は血糖値を下げると同時に体重も減らします。最近の研究データ結果によると、この種の薬剤は、心血管系の心不全の出現を抑える働きと糖尿病性腎臓病を良くする働きを持ち合わせていることが判明してきています。

 一方、インスリン注射に目を向けると、「持効型インスリン(1回の注射で24時間効果を持続する長時間作用型インスリン)」があります。飲み薬の治療が効かなくなる症例でも、飲み薬をそのまま服用しながら、1日1回の持効型インスリンの注射を加えると血糖値が改善する症例もあります。「混合型インスリン」は従来まで濁った製剤でしたが、透明な製剤が登場し、10回以上振って混合しなくても済むようになりました。

 さらに、持効型インスリンと前述したGLP-1受容体作動薬の配合剤が登場し、1回の注射で空腹時血糖と食後血糖を下げる効果があります。


糖尿病の治療について教えてください。

 糖尿病の治療状況が良好といえる目安は、HbA1cが7.0%以下になっている場合です。糖尿病の患者さんの約半数が、高血圧と脂質異常症(高脂血症)を合併しているといわれています。糖尿病を合併した高血圧の治療はとても重要で、血圧の治療目標値は125/75mmHg以下です。自宅で測定できる血圧計を治療に役立てる方法もあります。この場合使用する測定器は、指先や手首に巻くタイプのものではなく、上腕に巻くタイプのものをお勧めします。脂質異常症の治療目標値は、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が120mg/dl以下です。糖尿病に重症の虚血性心疾患、腎疾患、脳梗塞、下肢動脈閉塞、メタボを合併している場合には、LDL-コレステロールは70mg/dl以下と治療の基準値が厳しくなりました。

 以上のようなさまざまな基準値を長期間保てると、眼底出血による失明、腎臓の悪化による透析、足の潰瘍・壊疽(えそ)による足の切断など、糖尿病に由来する重症の合併症にならなくて済みます。それ以外にも脳梗塞、心筋梗塞などの予防にもつながります。

2021年6月2日水曜日

ギャンブル依存症

 ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院 中村 俊介 医局長


ギャンブル依存症とはどのような病気ですか。

 パチンコや競馬、カジノなどのギャンブルにのめり込む精神疾患です。ギャンブルに常に心を奪われている状態になり、一度始めると自らの意思ではやめられません。ギャンブルのことでうそをついたり借金をしたり、家族や周囲を巻き込み、金銭トラブルや人間関係の破綻を引き起こします。単に意思が弱い人、だらしない性格の人が陥る嗜癖(しへき)と誤解されがちですが、アルコール依存症や薬物依存症などと同じく、治療が必要な病気です。依存症はとても身近で、誰でもかかる可能性があります。

 どの依存症にも関係が深いとされるのはドーパミンという脳内の快楽物質です。ギャンブル依存症の場合、ギャンブルに勝つことでドーパミンが放出され、強烈な快感が脳に記憶されます。何度か繰り返すうちに脳が刺激に慣れてしまい、より強い刺激・快感を求めるうちにのめり込んでしまうのです。

 また、ギャンブル依存症はアルコール依存症やうつ病などの気分障害を合併する頻度が高いことが分かっています。


ギャンブル依存症の治療について教えてください。

 強い依存の状態であれば、自分の力だけで克服・回復するのは難しく、医療機関や専門機関による治療や支援が必要です。

 治療はカウンセリングなどの精神療法が柱となります。物事の受け止め方のゆがみや偏りを修正していく「認知行動療法」、過去の自分の行動や生活態度を親など自分の身近な人との対人関係を通して振り返り、内省を深めることによって気付きや洞察を得る「内観療法」、普段の行動を変える必要性について動機付けを行い、自ら〈変わりたい〉という気持ちや発言を引き出す「動機付け面接」などがあります。

 同じ病気を抱えた人たちが集い、支え合いながら回復を目指す自助グループへの参加も非常に有効です。生き方そのものを変えない限り、ギャンブル依存症は再発してしまいます。仲間の苦労に共感すること、仲間の「ギャンブルをやめ続けている」成功例を身近に感じることが助けになります。また、孤立の防止が再発を防ぎます。


2021年5月26日水曜日

うつ病の養生

 ゲスト/医療法人社団 正心会  岡本病院  鈴木 志麻子 医師


うつ病の治療中・休養中は自宅でどのように過ごしたらいいでしょうか。

 うつ病の治療では、専門治療のほかにもご自身で取り組む「養生(生活に留意して健康の増進を図ること、病気の回復につとめること)」がとても大切です。

 ●生活リズムを整える…基本中の基本です。具体的には、起床と就寝の時刻、可能ならば食事や入浴の時刻をなるべく一定に保ちましょう。不規則な生活はうつ病を治りにくくします。午前中に日光に当たることで、体内時計をリセットして寝付きが良くなる効果があります。

 ●十分な睡眠をとる…遅くても23時ごろには床に就き、少なくとも7時間以上の睡眠をとるよう心掛けてください。夕方以降にコーヒーを飲んだり、寝る前にベッドの中でスマホを操作したりする習慣はやめましょう。また、お酒を睡眠薬代わりに飲むことは、実は逆効果です。酔ったまま眠るので睡眠が浅くなり、利尿作用で夜中にトイレに行く回数も増えます。

 ●お酒をやめる…少なくとも薬物療法中はお酒を控えましょう。お酒と一緒に飲むことによって薬の作用が強くなってしまったり、体に有害な作用が出たりする恐れがあるからです。また、憂さを晴らすために飲むお酒は、酔いから覚めた時に反動で強い憂うつや不安を起こしやすく、酒量が増えるとアルコール依存症を合併する危険もあります。

 ●バランスの良い食生活…現代人の食生活は「カロリーは過剰」で「栄養は不足」しがちです。貧血の方だと鉄分を補充するとうつ病の症状が改善するケースもあります。栄養バランスのよい健康的な食事をとることで、抑うつ症状が軽減したとの研究結果が報告されています。まずは「スナック菓子を減らす」「3食に野菜ジュースやヨーグルトを一品プラスする」等から始めましょう。

 ●適度な運動…週3〜5回程度の有酸素運動(ウォーキングやジョギングなら1回40分程度)で、うつ病の症状改善に薬物療法と同等の効果があると報告されています。最初は5分程度の散歩から始めてみましょう。

 ●気分に左右されずに活動する…うつ病は気分(調子)が良くなったり、悪くなったりを繰り返しながら、徐々に回復していく病気です。ですが、気分が良い時は活動し、悪い時は活動しないという「症状中心」の生活を続けていると中々自信がつきません。気分が悪い時でも、何かをやってみたら「意外と大丈夫だった」という経験は重要です。最初は小さなことから取り組んでみましょう。

 ●患者の役割を果たす…うつ病の急性期には過度の活動は病状を悪化させます。主治医とよく相談し、休むべき時は休みましょう。回復期に入った方や、軽度のうつ状態が慢性化している方は、気分に左右されずにいろいろな活動に取り組みましょう。休むべき時は休む、やるべき時はやる。それが「患者の役割」を果たすことです。

 医者任せ、薬任せにせず、ぜひ、ここに紹介した養生に取り組んでいただきたいと思います。

2021年5月19日水曜日

かくれ脳梗塞(無症候性脳梗塞)

 ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長


かくれ脳梗塞とはどのような病気ですか。

 脳ドックを受けたり、けがで脳の検査をしたりしたときに医師から、脳梗塞があると言われてドキっとした、という経験をされた方も多いのではないでしょうか。俗に「かくれ脳梗塞」というように、自分には思い当たるような症状がないのにもかかわらず、検査時に偶然見つかる脳梗塞をそう呼びます。正しくは「無症候性脳梗塞」といいます。

 脳梗塞と聞かされると驚かれると思いますが、すぐに大きな発作につながるケースは少ないので、必要以上に不安になる必要はありません。検査結果を伝える際に、医師の説明が十分でないために患者さんの不安が増している場合も多く、われわれ医療従事者も気を付けなくてはならないところです。「隠れ脳梗塞がありますよ」と言われた場合には、ご自身の持病や生活習慣などを見直すきっかけにしていただくのが得策ではないでしょうか。こういった機会に禁煙を決断される方もいらっしゃいます。


かくれ脳梗塞が見つかった場合、どう対応すればいいのですか。

 無症候性脳梗塞と診断された場合、差し迫った危険はないとはいえ、何も手を打たずに放っておいていいわけではありません。無症候性脳梗塞の方は、健常者に比べると脳梗塞や脳出血、あるいは認知症になる危険がやや高いことが分かっています。また、非常にわずかながら脳にダメージを与え続けている可能性があるという説も報告されています。つまり、自分が他の人より脳梗塞など脳の病気を発症するリスクが高いことを自覚して、その予防に積極的に取り組むことが大切です。

 だからといって、慌ててすぐに脳梗塞再発予防の薬を飲む必要性はありません。まずやるべきことは、脳梗塞の危険因子のチェックです。脳梗塞の発症に一番関係が深いのが「高血圧」の存在です。高血圧の方であれば、その後しっかり血圧を管理していくことがとても重要です。そのほかの危険因子には喫煙や糖尿病、脂質異常症などがあります。それぞれ医師の指導のもと適切に管理していく必要があります。

 脳神経外科の専門医では、さらに頸(けい)動脈の動脈硬化や脳血管のチェックなどを行って、リスクの高い方には内服薬を処方する場合もありますし、再発予防のための手術を勧める場合もあります。

2021年5月12日水曜日

花粉が原因となる皮膚炎(花粉症皮膚炎)

 ゲスト/宮の森スキンケア診療室 上林 淑人 院長  


花粉が原因となる皮膚炎について教えてください。

 本州の花粉症はスギ花粉が主な原因ですが、北海道の花粉症はシラカバ、ハンノキの花粉が主な原因で、ゴールデンウィーク前後からシラカバ花粉症が本格化します(札幌市内・北海道神宮境内に茂る木々にはスギの樹林もあり、円山や宮の森など周囲の地区ではスギ花粉にも注意が必要です)。さらに、ブナやマツ、クルミなどの樹木や、ヨモギやカモガヤなどイネ科の牧草による花粉症が9月ごろまで続きます。

 鼻水やくしゃみ、鼻づまりが花粉症の主な症状ですが、実は花粉が皮膚に付着することで、まぶたがむくんだり、目の周りや頬、鼻、口の周り、首周りなどがかゆくなったり、赤くなってガサガサに荒れたりといった症状を引き起こすこともあります。これがアレルギー性皮膚炎の一種である「花粉症皮膚炎」です。これは正式な病名ではなく、花粉が皮膚に影響を及ぼす症状の総称です。

 今年はコロナ禍でマスクを着用している時間が長いためか、鼻や口の周りは症状が軽く、まぶたや目の周りに症状が集中している印象があります。目の周りは皮膚が薄く、バリア機能が弱い部位なので、症状が強く現れやすいです。


花粉症皮膚炎の治療や予防について教えてください。

 毎年決まった時期になると顔や首がかゆくなったり、赤みやむくみ、ブツブツ、湿疹ができたりするようであれば花粉症皮膚炎が疑われます。希望があれば病院で調べられますので、相談してください。治療は、炎症を抑える外用薬と抗アレルギー薬(内服薬)を使います。アレルギー反応によって肌にかゆみが起こると、つい触ったりかいたりして炎症を悪化させてしまい、症状が慢性化するという悪循環に陥りやすいです。症状が出たら、早めに皮膚科を受診し、かゆみや炎症を抑えることが大切です。

 予防は、できるだけ花粉が肌に付着しないように心がけることです。新聞などの花粉飛散情報を常に注意し、特に風の強い日は外出を控え花粉を避けるようにしましょう。やむを得ず外出する際には必ず帽子や眼鏡、マスクを使って可能な限り花粉から身を守ること。普段コンタクトレンズを使っている人もこの時期は眼鏡の方がいいでしょう。また、外出先から帰ったら、まずは顔を洗って付着した花粉を水で流す習慣をつけてください。洗顔料を使わずに、水でやさしく洗い流すだけでも予防効果があります。

2021年5月6日木曜日

コロナ禍にあって〜女性のうつ病について〜

 ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 宮本 佐和 診療部長  

新型コロナウイルス流行に伴う外出自粛や休業要請によって、うつ症状など精神面での不調を訴える人が増えていると聞きますが、どうしてなのでしょうか。

 長引くコロナ禍もあって、多くの人の心は疲弊しています。コロナ禍で行動変容を求められた結果、憂鬱(ゆううつ)な気分が続いたり、不安、焦りといったうつ病の症状を訴えたりする人が増えています。いわゆる「コロナうつ」です。

 全国の自殺者も増加の兆しをみせています。警察庁の速報値では、2020年8月の自殺者は1849人で、前年同月より246人も増えています。特に女性への影響は深刻で、前年8月よりも45%も増え、男性の10%増と比べて顕著です。9月以降も女性の自殺は急増しています。なぜ、このようなことが起きているのでしょうか。コロナによる外出自粛で、夫や子どもの在宅が増え、これまで以上に家事や育児に負担がかかっていると指摘されています。実際に、私が診察する女性のうつ病患者さんも、家事や子育て、介護など家庭のケアワークの重圧をストレスに感じているケースが非常に多いです。また、雇用状況も大きく影響しているものと指摘されています。女性はパートや派遣社員など非正規雇用で働く人が多いため、コロナ禍による景気の悪化で、解雇や雇い止めなどの影響を受けやすいからです。先が見通せない不安や生活困窮も自殺の背景となる要因と考えられます。相次いだ有名人の自殺やその報道が与えた影響も少なくないと思います。

 男女にかかわらず、日本では公の場で孤独や苦悩を打ち明けることを不名誉ととらえる風潮があるように思います。うつ病など心の病と指摘されることを恥ずかしく思い、悩みや辛さを我慢してあまり口にしたがらない傾向があります。かえって孤独感や寂しさが増し、精神状態が悪化する要因となります。ツールの変容などによるコミュニケーションの変化は、人が慣れていくのに本来時間がかかるものです。新しい生活様式などあまりにも変化が早く、半年〜1年ぐらいでは人はついていけません。人間にとってコミュニケーションやつながりが生理的に深い意味を持っていることを、あらためて見つめ直す機会だと思います。

 気持ちの沈みや不眠、イライラ感、食欲低下、体のだるさは、だれにでも起こりますが、その強さと期間が長く続くなと思ったらそれがサインです。これまで心の問題を抱えながらも耐えていた人が、“新型コロナ”で最後の一線を越えてしまったケースも少なくないでしょう。頑張りようのない不安に気付いたら、病院に相談してほしいです。

2021年4月28日水曜日

ぜんそくの新治療薬

 ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長


ぜんそくの治療について教えてください。

 ぜんそくは、空気の通り道である気道が、炎症などによって狭くなり、呼吸が苦しくなる病気です。ぜんそくの治療に用いられる最も基本的な薬は、気道の炎症をしっかり抑える吸入ステロイド(ICS)です。また、長時間気道を広げる作用のある長時間作用性β刺激剤(LABA)もあり、最近ではその2種類が合剤(複数の成分が一つに含まれる薬)となった吸入薬も多数発売されています。最近、ぜんそく治療はさらに進歩し、ICS/LABAに加えてLABAとは機序の異なる気管支拡張薬である長時間作用性抗コリン剤(LAMA)を一つにまとめた合剤も登場し、その有効性が確認されています。

 LAMAは気管支を広げるだけでなく、咳(せき)や痰(たん)を抑える作用もあり、ICS/LABAの合剤ではゼイゼイ、ヒューヒューなどの喘鳴(ぜんめい)は抑えられても咳や痰が残ってすっきりしないという患者さんに、この3剤配合の薬が有効です。軽症であればICS/LABAの2剤、中等症〜重症であればICS/LABA/LAMAの3剤によるトリプル治療が有効となります。以前は、ICS/LABAの合剤とLAMAの2種類の吸入が必要でしたが、3剤の合剤が登場したことで1日1回の吸入で済むようになり、患者さんにとって治療の継続と症状のコントロールがしやすくなりました。

 医療は日々進展し、新しい薬や治療法が次々に誕生していますが、最新の治療がすべての患者さんに適しているとは限りません。今までの治療で効果が十分であれば、あえて取り入れる必要はありません。本当にその治療が適切かどうか、医師とよく相談することが大切です。

 ぜんそくの患者さんにとって、コロナ禍で一番のリスクになりうることは、治療を中断し、症状が落ち着いていても,気道の炎症がコントロールできていない状態です。ぜんそくをもっていても新型コロナへのかかりやすさは通常の人と同じで、また、ぜんそくは新型コロナ感染の重症化リスクではありません。内服や注射など全身にいきわたるステロイドは感染症を悪化させるといわれていますが、吸入ステロイドは全身にいかず、感染症を悪化させることもなく、抵抗力・免疫力の低下などの影響が出る心配もありません。それどころか、吸入ステロイドを吸入している患者さんは新型コロナにかかりずらいようであり、また吸入ステロイドは新型コロナの重症化を防ぐ効果もあります。実際に定期で通院し、きちんと吸入ステロイドを吸入している患者さんでは新型コロナに感染した方は非常に少ないようです。感染リスクよりも、ぜんそくの治療を中断する不利益の方がずっと大きいです。自己判断で治療を中断するのではなく、適切な治療を継続することが何よりも重要です。

2021年4月21日水曜日

高齢者のうつ病

 ゲスト/医療法人社団 図南会 あしりべつ病院 山本 恵 診療部長


高齢者のうつ病について教えてください。

 高齢者のうつ病は「老年期うつ病」とも呼ばれ、他の年代のうつ病とは区別されることがあります。基本的に、診断基準は全ての年代で共通ですが、発病の原因として高齢者特有の誘因があります。

 老年期は抑うつ状態、うつ病が起こりやすい年代です。老年期は「喪失の季節」ともいわれるように、いろいろなものを失う時期です。体力が衰えたり健康を損なったりすること、定年退職や子どもの独立などにより「役割」を失ってしまうこと、親族や配偶者、友人との死別、老いてからの一人暮らしといった喪失体験や社会環境の変化が、うつ病の誘因になることがあります。

 高齢者のうつ病には、次のような特徴がみられます。①認知症と間違われやすい…高齢者が抑うつ状態やうつ病になると、認知症と間違われることが少なくありません。「もの忘れ」「受け答えがちぐはぐ」「反応が鈍い」などの症状から認知症だと思っていたら、実はうつ病だったということがあります(逆の場合、両方の場合もあります)。②自殺率が高い…日本の自殺者の約4割は高齢者です。老年期の自殺の背景にはうつ病が潜んでいることが多いです。③妄想が出やすい…「周囲の人に迷惑をかけている」「取り返しのつかない罪を犯してしまった」と思い込む罪業妄想、実際には預貯金などがあっても「お金がない」「財産がなくなり、今日の生活もできない」と訴える貧困妄想、疾患がないのに「不治の病にかかっている」と信じて疑わない心気妄想などが代表的です。④不安や焦燥感、身体症状が強い…若い人(他の世代)のうつ病だと意欲の低下や気分の落ち込みが前面に出るのに対し、高齢者の場合は不安や焦りが強く、また、頭痛やめまい、肩こり、腹痛、しびれ、ふらつきなど身体(心気)症状を伴うケースが多いです。いくら治療をしても体の調子が良くならない時は、うつを疑って見ることも大切です。


―高齢者のうつ病にはどんな治療や対策が有効ですか。

 治療の柱の一つは、他の世代のうつ治療と同じく、抗うつ剤を中心とした薬物療法です。ただし、高齢者は老化に伴う身体機能の低下もあって、若い人に比べて副作用が出やすいので、服薬量や薬の飲み合わせなどに注意を払う必要があります。また、カウンセリングなどの精神療法、庭・畑作業といった精神作業療法(リハビリ)など、薬以外の選択肢も重要になります。同じうつ病であっても、患者さんの病状・回復状況などに応じて必要となる治療やアプローチは変わってきます。

 高齢者のうつ病は、単に「年のせい」で元気がないことなどと混同されがちですが、頻度の高い病気です。そして、治る可能性の高い病気です。本人に自覚がなくても、生活を共にしている家族や周囲の方が異変に気付くことがあります。「いつもと違う」「様子がおかしい」などと感じたら、心配していることを伝え、相手を急かさず、できるだけ安心させるような言葉をかけながら医療機関の受診を促してください。他の病気、診療科と同じように、治療していない期間が長くなるほど、症状はひどくなり治療が難しくなります。早期受診・治療がなによりも大切です。


2021年4月14日水曜日

整形外科手術に果たす麻酔科の役割

 ゲスト/医療法人知仁会 八木整形外科病院 松井 晃紀 医師


整形外科手術の麻酔について教えてください。

 麻酔の話を聞く機会はとても少なく、ご自身やご家族が「全身麻酔を伴う手術が必要」と診断された時などは、相当な不安を持たれることと思います。

 上肢、下肢、体幹部、頸部、頭部など、整形外科ではさまざまな部位のけがや病気で麻酔手術が必要になる場合があります。麻酔の方法は、意識がなく完全に眠った状態にする全身麻酔(点滴から眠くなる薬を入れるやり方が主流です)と、意識を保ったままの局所麻酔(硬膜外麻酔、腰椎麻酔、神経ブロックなど)に分けられ、患者さんの全身状態や手術の内容に基づいて、使い分けたり組み合わせたりします。

 麻酔科医の仕事は、手術中に患者さんを無痛の状態にしたり、眠らせたりするだけではありません。手術の前には患者さんのカルテや検査データを読み込むだけではなく、実際に患者さんとお会いし、麻酔を受けた経験、持病やアレルギーの有無、使っている薬などを聞き取りながら、麻酔や手術について正しい知識を持ってもらえるよう、不安感や心理的影響を少しでも軽くできるよう、患者さんが納得いくまで説明、話し合いを行います。その上で、一人ひとりの患者さんに最適な麻酔法を考え、予定されている手術のプランに無理がないかチェックします。

 術中も、麻酔科医は患者さんが手術室を退室するまでそばを離れません。呼吸、循環、体液、代謝、体温などの生体情報をモニターし、それらの情報をもとに患者さんの状況を判断し、薬剤投与や人工呼吸、輸液・輸血などの医療行為を行います。適切な麻酔管理によって、患者さんを安定した全身状態にコントロールすることを目指します。また、多くの患者さんが心配されるのは術後の痛みです。各種麻酔法を組み合わせ、術後の痛みを可能な限り和らげ、回復過程を少しでも快適に過ごすことができるようお手伝いすることも麻酔科医の重要な責務です。

 「副作用、合併症が怖い。本当に大丈夫なのか」という質問はよく聞かれます。麻酔技術の進歩、新しい麻酔薬や麻酔機器の開発などにより、麻酔が原因の副作用や合併症が起こるリスクは非常に低くなっています。しかし、予期せぬことが起こる可能性はゼロではありません。術前のリスク判定や麻酔計画を重視して副作用や合併症を予防し、万が一合併症が発生した場合でも、迅速に最善の対応をとれるようにすることが重要です。


2021年4月7日水曜日

リウマチなどの診療におけるWoCBA(ウォクバ)患者さんの治療

 ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 古崎 章 副院長


WoCBAとは何ですか。どういう意味を持つのでしょうか。

 「WoCBA(ウォクバ)」とは聞き慣れない言葉ですが、「Women of Child-Bearing Age」の略称で、日本語に置き換えると「妊娠出産育児可能な年齢の女性」という意味です。2014年にヨーロッパ・リウマチ学会(EULAR)で提唱された概念です。

 関節リウマチの好発年齢は40〜50歳といわれていますが、10〜20代で発症することもあります。また、膠原病の中でも全身性エリテマトーデスは、20〜30代に発症することが多いとされています。クローン病や潰瘍性大腸炎といった炎症性腸疾患も10〜30代に多く発症するといわれています。

 これらの年代は、一般に女性にとって妊娠・出産・育児にかかわる機会の多い年代であり、関節リウマチや全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患などの疾患では妊娠により病気が悪化するケースがあり、また使用される薬の一部が、妊娠・出産および授乳に影響を及ぼすことがあります。そのため、かつては関節リウマチをはじめとするこれらの病気の患者さんの妊娠が制限される傾向のあった時代もありました。

 しかし近年、リウマチ診療においては生物学的製剤のなどの新しい治療法の登場により、薬を使いながらの妊娠出産が可能となってきました。また、薬の使用による胎児や出生児の先天異常は、すべての先天異常の約1%程度であり、発症リスクは非常に小さいことが分かってきました。

 一方、関節リウマチなど病気の状態が悪いと、不妊率や妊娠中の合併症の発症リスクが高くなることなどが知られています。もちろんですが、妊娠中の喫煙、アルコール摂取、生活習慣病の罹患なども母体や胎児に悪影響を及ぼします。このため、WoCBA患者さんが妊娠を計画する時や妊娠中は、その時期に使用可能な薬剤を選択しながら、病状を上手にコントロールしたり、禁煙・断酒するなど日々の生活を改善し、妊娠・出産・育児に向けて体調やコンディションを整えたりする必要があります。

 妊娠・出産希望時の問題点とその対策について、かかりつけのリウマチ医だけでなく、看護師や薬剤師などのメディカルスタッフ、そして産婦人科医などに相談し、事前にしっかりと準備を進めていくことを「プレコンセプション・ケア」といいます。

2021年3月24日水曜日

最新の糖尿病治療

 ゲスト/医療法人社団 青木内科クリニック 青木 伸 院長


最新の糖尿病治療薬について教えてください。

 糖尿病治療薬の最近の進歩は目覚ましいものがあります。飲み薬では、高血糖の時にだけすい臓からインスリンを分泌させ、正常血糖値へ下げる「DPP-4阻害薬」があります。この薬は、理論的には低血糖を起こさず治療できる薬剤で、糖尿病の平均血糖の指標であるHbA1c値を1.0%前後下げます。この薬と同じ系統の注射薬も登場し、「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれています。この注射薬はHbA1c値を1.6%前後下げます。1日1回の注射が必要ですが、現在は1週間に1回で済む注射薬も出ました。この系統の注射薬は、すい臓のインスリンを出す細胞を保護し、インスリンの分泌を弱らせない作用も持ち合わせているといわれています。従来まで体重を減少させる糖尿病薬がありませんでしたが、「SGLT-2阻害薬」が登場し、この薬剤は血糖値を下げると同時に体重も減らします。最近の研究データ結果によると、この種の薬剤は、心血管系の心不全の出現を抑える働きと糖尿病性腎臓病を良くする働きを持ち合わせていることが判明してきています。

 一方、インスリン注射に目を向けると、「持効型インスリン(1回の注射で24時間効果を持続する長時間作用型インスリン)」があります。飲み薬の治療が効かなくなる症例でも、飲み薬をそのまま服用しながら、1日1回の持効型インスリンの注射を加えると血糖値が改善する症例もあります。「混合型インスリン」は従来まで濁った製剤でしたが、透明な製剤が登場し、10回以上振って混合しなくても済むようになりました。

 さらに、持効型インスリンと前述したGLP-1受容体作動薬の配合剤が登場し、1回の注射で空腹時血糖と食後血糖を下げる効果があります。

糖尿病の治療について教えてください。

 糖尿病の治療状況が良好といえる目安は、HbA1cが7.0%以下になっている場合です。糖尿病の患者さんの約半数が、高血圧と脂質異常症(高脂血症)を合併しているといわれています。糖尿病を合併した高血圧の治療はとても重要で、血圧の治療目標値は125/75mmHg以下です。自宅で測定できる血圧計を治療に役立てる方法もあります。この場合使用する測定器は、指先や手首に巻くタイプのものではなく、上腕に巻くタイプのものをお勧めします。脂質異常症の治療目標値は、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が120mg/dl以下です。糖尿病に重症の虚血性心疾患、腎疾患、脳梗塞、下肢動脈閉塞、メタボを合併している場合には、LDL-コレステロールは70mg/dl以下と治療の基準値が厳しくなりました。

 以上のようなさまざまな基準値を長期間保てると、眼底出血による失明、腎臓の悪化による透析、足の潰瘍・壊疽(えそ)による足の切断など、糖尿病に由来する重症の合併症にならなくて済みます。それ以外にも脳梗塞、心筋梗塞などの予防にもつながります。

2021年3月17日水曜日

白内障

 ゲスト/月寒すがわら眼科 菅原 敦史 院長


白内障とはどんな病気ですか。

 白内障は、目の中の水晶体という部分が白く濁って見えにくくなる病気です。水晶体を通る光が濁りによって妨げられて、物がかすんで見えたり、光をまぶしく感じたりします。症状は急に起こるのではなく、少しずつ見えづらくなっていくので、進行するまで気付かないことが多いです。

 白内障の原因の大半は加齢に伴うもので、早い人では40歳代に発症します。50歳、60歳と年代が上がるにつれ罹患率は増え、80歳代ではほぼ100%がかかるとされています。

治療について教えてください。

 初期の白内障は点眼薬で進行を遅らせることができますが、濁った水晶体を元に戻すことはできません。進行した白内障には手術が行われます。手術では眼球に2.4mm程度の極めて小さい切開を行い、超音波によって水晶体を細かく砕いて取り除きます。代わりに、人工の水晶体である「眼内レンズ」を挿入します。局所麻酔を使用するため手術中の痛みはほとんどありません。手術は10~15分で終了し、最近は日帰りでの手術が主流になっています。

 眼内レンズは1つの距離に焦点を合わせた「単焦点眼内レンズ」が使われていますが、近年では、遠距離と近距離の2点に焦点が合うように設計された「多焦点眼内レンズ(自費診療)」も一般的になってきました。それぞれのレンズの特徴をよく理解した上で、医師とじっくり相談しながら比較し、価格面も含め自身のライフスタイルに合わせて納得してから治療を受けることが大切です。

 70歳以上の方が運転免許を更新するには、その数か月前に高齢者講習を受講することが必要です。講習には視力検査を含む運転適性検査があります。講習の時点で視力が足りなくても直ちに免許証を取り上げられることはありませんが、その後の免許更新時の視力検査に合格できなければ、免許が取り消しになることもあります。超高齢化社会を迎えたわが国では、白内障に罹患する人口が激増しており、手術を希望されても1カ月〜数カ月待ちになる場合も少なくありません。白内障が原因で視力が落ちているときは、講習や更新に間に合うよう手術の予定を入れる必要があるので、早めに眼科を受診して自分の目の状態を把握しておくことが重要です。


2021年3月10日水曜日

コロナ禍のメンタルヘルス

 ゲスト/医療法人北仁会 いしばし病院 内田 啓仁 医師


コロナ禍でメンタルヘルス(心の健康)不調やうつ病は増加しましたか。

 新型コロナウイルスの感染拡大が問題となる中、外出自粛や休校、在宅勤務などによって社会環境は大きく変わりました。こうした変化と感染に対する不安にストレスを感じている人も少なくないと思います。実際に「コロナうつ」という言葉が生まれるなど、世界でメンタルヘルスの不調やうつ病の兆候を示す人が増えています。

 また、通常時でも秋から冬にかけては気分が落ち込む人が増えます。日照時間が短くなる季節に繰り返して生じるうつ症状の一種で、「冬季うつ病」「季節性感情障害」と呼ばれています。新型コロナの影響が長期化しているので、今まで持ちこたえていた人が息切れしてしまう懸念もあります。


心の不調を防いだり、「コロナうつ」に備えたりするにはどうしたらいいですか。

 まず、新型コロナに対しては「正しく恐れる」心構えを持つことです。徐々に対策や治療方法が明らかになっています。手洗いやうがいをすること、三密を避けることなどの対策によって感染リスクを下げられます。重症化するケースはしないケースよりはるかに少ないことも理解しておきましょう。

 身体的健康は、心の健康に直結します。規則正しい生活を送ることが何よりも重要です。食事、睡眠などの生活リズムを整え、少しでも運動をすることが大事です。毎日、同じ時刻に起きて窓際などで日光を浴びましょう。朝食を食べ、しっかりと目を覚ましてください。日中も意識して体を動かしましょう。自宅でのストレッチや体操、人混みを避けての散歩やウォーキングをお勧めします。また、心身をリラックスさせるのに有効なのが「腹式呼吸」です。背筋を伸ばして胸を軽く開き、鼻からゆっくりと息を吐いていきましょう。お腹の中の空気をすべて出すイメージで、おなかがへこむまで吐き切ります。非日常の生活に対応していくためには、心身を整える時間を意識的に持つよう心掛けることが大切です。孤独もストレスや心の不調の原因の一つです。友人や大切な人と電話、メール、SNSを利用して連絡を取り合ったり、オンラインでの集まりなど、“人とのつながり”を保ち、“笑う時間”や“楽しい時間”をつくることも考えましょう。

 日常生活に支障が出るほどの辛さ、苦しさを感じたり、不眠症状が現れたりする時は、精神科・心療内科を受診して相談してみてください。


2021年3月3日水曜日

肩こり

 ゲスト/医療法人社団 二樹会 足立外科・整形外科クリニック 加谷 光規 副院長


肩こりについて教えてください。

 肩こりに悩む人は多く、厚労省の国民生活基礎調査によれば、女性の不調の第1位、男性の第2位を占めています。肩こりの症状は肩や首筋の凝りや張り、痛みだけではありません。頭痛やめまい、吐き気、目の疲れ、手や腕のしびれなどの多様な症状も起こります。

  肩こりを起こす最大の原因は、悪い姿勢や体を動かさないこと、また、不自然な体の動かし方や使い方などによる筋肉の緊張です。首から肩、背中にかけての筋肉が強く緊張して血流が悪くなり、疲労物質がたまって攣縮(れんしゅく=ひきつり縮まること)した状態と考えられます。例えば、仕事や家事をしているときの姿勢がよくないなど、日々の暮らしの中で無意識のうちに肩こりの原因をつくり出しているのかもしれません。

 肩こりには、頸椎ヘルニアや心筋梗塞、がんなどの病気が潜むこともあります。運動時や労作時に痛くなる、徐々に症状がひどくなる、手足がしびれるなどがあれば、整形外科できちんと診察を受けることが大切です。


肩こりの治療について教えてください。

 診察では、まずは整形外科的な原因なのか、内科など他科の原因の可能性が高いのかを慎重に見極め、それぞれに応じた治療を選択します。

 治療は、消炎鎮痛剤などの投薬治療、牽引機器や温熱機器などを使う物理療法、姿勢矯正用のベルトなどを用いる装具療法があります。症状が強い場合や即効性を期待する場合、各種の「神経ブロック」や、超音波検査機器を用いて肩甲骨周囲の筋肉の間の筋膜部分に、生理食塩水などを注射し、筋膜間の滑りをよくして症状を改善する「筋膜リリース」という注射療法を行うこともあります。また、理学療法士が、患者さん一人ひとりの肩の状態に合わせて、肩周囲に対する筋トレ、リラックス・ストレッチ法などを指導する運動療法も重要です。

 肩こりの原因は多岐にわたります。肩周囲だけではなく、全身を診て、正しい姿勢を身に付けたり、首や肩の筋肉への負担を減らしたりするなど、凝りや痛みの原因となっている(予想される)根本の部分を治していく必要があります。

 筋肉の緊張による疲労、攣縮は、肩こりだけでなく、背中や腰、肘、臀部の痛みや違和感の原因となっているケースも少なくないので、慢性的な痛みが取れず悩んでいる方は一度、専門医にご相談ください。

2021年2月17日水曜日

うつ病の養生

 ゲスト/医療法人社団 正心会  岡本病院  鈴木 志麻子 医師


うつ病の治療中・休養中は自宅でどのように過ごしたらいいでしょうか。

 うつ病の治療では、専門治療のほかにもご自身で取り組む「養生(生活に留意して健康の増進を図ること、病気の回復につとめること)」がとても大切です。

 ●生活リズムを整える…基本中の基本です。具体的には、起床と就寝の時刻、可能ならば食事や入浴の時刻をなるべく一定に保ちましょう。不規則な生活はうつ病を治りにくくします。午前中に日光に当たることで、体内時計をリセットして寝付きが良くなる効果があります。

 ●十分な睡眠をとる…遅くても23時ごろには床に就き、少なくとも7時間以上の睡眠をとるよう心掛けてください。夕方以降にコーヒーを飲んだり、寝る前にベッドの中でスマホを操作したりする習慣はやめましょう。また、お酒を睡眠薬代わりに飲むことは、実は逆効果です。酔ったまま眠るので睡眠が浅くなり、利尿作用で夜中にトイレに行く回数も増えます。

 ●お酒をやめる…少なくとも薬物療法中はお酒を控えましょう。お酒と一緒に飲むことによって薬の作用が強くなってしまったり、体に有害な作用が出たりする恐れがあるからです。また、憂さを晴らすために飲むお酒は、酔いから覚めた時に反動で強い憂うつや不安を起こしやすく、酒量が増えるとアルコール依存症を合併する危険もあります。

 ●バランスの良い食生活…現代人の食生活は「カロリーは過剰」で「栄養は不足」しがちです。貧血の方だと鉄分を補充するとうつ病の症状が改善するケースもあります。栄養バランスのよい健康的な食事をとることで、抑うつ症状が軽減したとの研究結果が報告されています。まずは「スナック菓子を減らす」「3食に野菜ジュースやヨーグルトを一品プラスする」等から始めましょう。

 ●適度な運動…週3〜5回程度の有酸素運動(ウォーキングやジョギングなら1回40分程度)で、うつ病の症状改善に薬物療法と同等の効果があると報告されています。最初は5分程度の散歩から始めてみましょう。

 ●気分に左右されずに活動する…うつ病は気分(調子)が良くなったり、悪くなったりを繰り返しながら、徐々に回復していく病気です。ですが、気分が良い時は活動し、悪い時は活動しないという「症状中心」の生活を続けていると中々自信がつきません。気分が悪い時でも、何かをやってみたら「意外と大丈夫だった」という経験は重要です。最初は小さなことから取り組んでみましょう。

 ●患者の役割を果たす…うつ病の急性期には過度の活動は病状を悪化させます。主治医とよく相談し、休むべき時は休みましょう。回復期に入った方や、軽度のうつ状態が慢性化している方は、気分に左右されずにいろいろな活動に取り組みましょう。休むべき時は休む、やるべき時はやる。それが「患者の役割」を果たすことです。

 医者任せ、薬任せにせず、ぜひ、ここに紹介した養生に取り組んでいただきたいと思います。

2021年2月10日水曜日

コロナ禍にあって〜女性のうつ病について〜

 ゲスト/福住内科クリニック 佐藤 康裕 院長


新型コロナウイルス流行に伴う外出自粛や休業要請によって、うつ症状など精神面での不調を訴える人が増えていると聞きますが、どうしてなのでしょうか。

 長引くコロナ禍もあって、多くの人の心は疲弊しています。コロナ禍で行動変容を求められた結果、憂鬱(ゆううつ)な気分が続いたり、不安、焦りといったうつ病の症状を訴えたりする人が増えています。いわゆる「コロナうつ」です。

 全国の自殺者も増加の兆しをみせています。警察庁の速報値では、2020年8月の自殺者は1849人で、前年同月より246人も増えています。特に女性への影響は深刻で、前年8月よりも45%も増え、男性の10%増と比べて顕著です。9月以降も女性の自殺は急増しています。なぜ、このようなことが起きているのでしょうか。コロナによる外出自粛で、夫や子どもの在宅が増え、これまで以上に家事や育児に負担がかかっていると指摘されています。実際に、私が診察する女性のうつ病患者さんも、家事や子育て、介護など家庭のケアワークの重圧をストレスに感じているケースが非常に多いです。また、雇用状況も大きく影響しているものと指摘されています。女性はパートや派遣社員など非正規雇用で働く人が多いため、コロナ禍による景気の悪化で、解雇や雇い止めなどの影響を受けやすいからです。先が見通せない不安や生活困窮も自殺の背景となる要因と考えられます。相次いだ有名人の自殺やその報道が与えた影響も少なくないと思います。

 男女にかかわらず、日本では公の場で孤独や苦悩を打ち明けることを不名誉ととらえる風潮があるように思います。うつ病など心の病と指摘されることを恥ずかしく思い、悩みや辛さを我慢してあまり口にしたがらない傾向があります。かえって孤独感や寂しさが増し、精神状態が悪化する要因となります。ツールの変容などによるコミュニケーションの変化は、人が慣れていくのに本来時間がかかるものです。新しい生活様式などあまりにも変化が早く、半年〜1年ぐらいでは人はついていけません。人間にとってコミュニケーションやつながりが生理的に深い意味を持っていることを、あらためて見つめ直す機会だと思います。

 気持ちの沈みや不眠、イライラ感、食欲低下、体のだるさは、だれにでも起こりますが、その強さと期間が長く続くなと思ったらそれがサインです。これまで心の問題を抱えながらも耐えていた人が、“新型コロナ”で最後の一線を越えてしまったケースも少なくないでしょう。頑張りようのない不安に気付いたら、病院に相談してほしいです。


2021年2月3日水曜日

健康診断で『肝障害』を指摘されたら…

 ゲスト/福住内科クリニック 佐藤 康裕 院長


健康診断で見つかる「肝障害」について教えてください。

 肝臓の数値であるAST、ALT、γGTPなどが高くなることを肝障害といいます。健康診断で見つかる肝障害の原因として最も多いのは、肥満による脂肪肝です。軽く見られがちですが、悪化すると脂肪の蓄積だけでなく、肝細胞に障害を起こすようになり、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)という病態に進展します。NASHの状態が長く続くと肝硬変に至ることもあり、また肝臓がんを生じることもあります。日本では他の原因による肝炎が減少傾向である一方でNASHは増加しており、近年関心が高まっている疾患です。治療は、生活習慣改善による体重減量が最も重要です。

 お酒や薬による肝障害もしばしばみられます。アルコール性肝障害は軽症のうちは禁酒・節酒により改善しますが、長年放置して飲酒を続けると肝硬変に至ります。薬物性肝障害はかぜ薬などにより一時的に起きるケースのほか、常用している薬で慢性的に起きていることもあり、この場合は薬の中止や変更が必要になります。サプリメントや漢方薬で生じることもあります。

病院を受診せずに、ダイエットや節酒をして様子を見ていても大丈夫ですか。

 専門医による治療が必要な疾患が見つかることもあります。「脂肪肝だろう」「お酒のせいだろう」と自己判断せず医療機関を受診してください。

 ウイルス性肝炎がその一つです。B型やC型の肝炎ウイルスは血液を介して感染します。以前は出生時の母子感染、汚染された血液製剤、注射の回し打ちなどが原因となりましたが、現在は十分な感染対策がなされています。不衛生な入れ墨やピアスの穴あけ、性行為などが原因となりますが、感染機会が明確でなく、本人が気付いていないケースもあります。B型肝炎ウイルスは乳幼児期に感染すると持続感染となり、C型肝炎ウイルスは感染時期によらず70%ほどが持続感染し、慢性肝炎を引き起こします。慢性肝炎は症状が乏しく、気が付かないまま長年放置していると肝硬変に至り、さらには肝臓がんを発症する恐れもあります。

 ウイルス性肝炎の他にも肝臓の腫瘍や肝臓の中を流れる胆管の腫瘍がエコーなどの検査によって発見されることもあります。また免疫の異常による自己免疫性肝疾患や甲状腺機能の異常による肝障害などが見つかることもあります。肝臓は「沈黙の臓器」といわれ自覚症状が出にくいため、健診が肝疾患発見の重要な機会になります。

2021年1月27日水曜日

ランナーの股関節周辺の痛み(グロインペイン症候群とぬけぬけ病)

 ゲスト/医療法人社団 二樹会 足立外科・整形外科クリニック 加谷 光規 副院長


ランナーによくみられる股関節周辺の痛みについて教えてください。

 ランニングブームが続いています。ランナー人口が増えている一方で、ランニングによるスポーツ障害が原因で走ることをやめる人も少なくありません。ひざやかかとの痛みもそうですが、股関節周辺の痛み・違和感に悩まされるランナーは多いです。一定の距離を走ると、脚の付け根や腹筋が痛くなってくる場合は「グロインペイン症候群」が疑われます。

 サッカー界でよく知られる症例ですが、ランナーにも多発します。股関節周囲の筋肉に負担のかかる走り方をしているため、それらの筋肉に疲労がたまって攣縮(れんしゅく)するのが主な原因かも知れません。

 もう一つ、走っているとおしりや太ももの裏側が痛くなったり、足に力が入らず真っ直ぐ走れなくなったりする症状がみられると、「ぬけぬけ病」の可能性があります。箱根駅伝で途中で走れなくなった選手がぬけぬけ病と指摘されるなど、病気の認知も進んできましたが、まだはっきりとした原因は明らかになっていません。これもグロインペイン症候群の一種で、梨状筋というおしりの筋肉が攣縮して神経の働きが障害されて起こるのではないかと考える向きもあります。

股関節周辺の痛みに対する治療について教えてください。

 病態がさまざまで、診断が難しいケースが多いですが、痛みがある箇所だけを治療するのではなく、全身を診て、正しい姿勢を身に付けたり、股関節付近への負担を減らしたりするなど、痛みの原因となっている根本の部分を治していく必要があります。

 注射療法とリハビリを組み合わせることで、完全に痛みが取れるケースも少なくありません。リハビリでは、筋のマッサージや筋力訓練、上肢から体幹、下肢を効果的に連動させる運動などを行います。

 早期に発見・治療できれば、それだけ早く、簡単な治療で症状を治すことができます。また、スポーツを続けながらの治療も、早期であればあるほど可能なケースが多くなります。画像診断をしても原因のはっきりしない股関節の痛みや、何らかの治療を受けているのに慢性的な痛みが取れず、悩んでいる方は一度診療することをおすすめ致します。


2021年1月20日水曜日

矯正歯科治療のメリットとリスク

 ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 院長


矯正歯科治療のメリットとリスクについて教えてください。

 矯正歯科治療の目的は、歯並び、かみ合わせの改善にあります。歯並びが悪いと、歯磨きが隅々までできず、虫歯や歯周病の原因になります。しっかりとかんで食べられないので、胃腸など消化気管にも大きな負担がかかります。また、審美面で劣等感を抱くことも考えられます。実際に正しい歯並び、かみ合わせになると、口元を隠さずに笑顔を見せるようになり、表情が驚くほど明るくなります。さらに、正しいかみ合わせでよくかむということは、脳の発達や認知症の予防にも良い影響を及ぼすという研究結果もあります。かみ合わせを直し、歯並びをきれいに整える矯正歯科治療が、機能面、健康面、審美面で、いかに重要であるかが、日本でも広く認知されてきたように思います。矯正歯科治療に恥ずかしさや後ろめたさを感じることなく、堂々と矯正器具を装着する人が増えているのはうれしい限りです。

 一方で、ほかの疾患の治療と同様に、矯正歯科治療にもリスクが生じる可能性もあります。より良い結果を導くための一時的なリスクです。例えば、矯正装置によって歯を動かす際の痛みや不快感です。これらは数日から1週間でなくなることがほとんどです。治療のどの段階で、どのような痛みや不快感があるのか、そして、どのように対処すればいいのかを事前に理解しておけば、過度に怖がる必要はありません。矯正装置があることで歯磨きがしにくくなるため、むし歯や歯周病になりやすいというのもリスクの一つですが、これも徹底したブラッシング指導などで患者さんのセルフケア意識を高めながら、プロによる定期的なチェックやクリーニングなどを組み合わせることで回避できるケースが多いです。

 歯科矯正治療は命にかかわる、緊急性の高い治療ではありませんが、時間もお金もそれなりにかかりますし、治療するご本人の強い意志、努力と根気が求められることも多いです。通院日を守る、歯みがきをきちんと行うなど、患者さんと主治医が二人三脚で進むことで、初めてゴールにたどり着けるのだということを、ぜひ覚えておいてほしいと思います。

 大変な治療を乗り切った後、その分得られる価値は大きく、歯並びやかみ合わせが良くなって人生観が変わり、元気になっていく方を私は何人も見ています。苦労や努力した時間が、残りの多くの人生の時間を輝かせるのが矯正歯科治療です。

2021年1月6日水曜日

飲酒で顔が赤くなる人は、食道がんに要注意!

 ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長


お酒を飲むと顔が赤くなりやすいのですが、気を付けた方がいいことはありますか。

 コップ一杯のビールしか飲んでいないのに顔が急激に紅潮したり、心臓がバクバクしたり、場合によっては頭痛がしたり、また極端な場合は吐き気をもよおしたりする現象を「アルコールフラッシュ反応」といい、その反応を示す人を「フラッシャー」と呼びます。

 アルコールの代謝ですが、私たちの体は摂取したアルコールを消化管で吸収した後、その大部分を肝臓で代謝し、最終的には水と二酸化炭素にして体外に排出しています。これには主に二段階の酵素反応がかかわっています。第一段階はアルコール脱水素酵素(ADH)によりアルコールをアセトアルデヒドに分解する反応です。第二段階は2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)によりアセトアルデヒドを酢酸に変換する反応です。フラッシャーは第二段階で働くALDH2の活性が遺伝的に低いため、悪酔いの原因物質とされるアセトアルデヒドが急激に体内に蓄積されることが原因でフラッシュ反応が引き起こされます。

 近年、フラッシャーはそうでない人(ALDH2の活性が強い人/いわゆる酒豪タイプの人)に比べて食道がんになるリスクが高いという研究結果が示されました。1日の飲酒量が1.5合以下で6倍、1.5~3合だと61倍、3合以上だと93倍に跳ね上がるとされます。 

 重要なのは、フラッシャーの発がんリスクはアルコールそのものにあるのではなく、ALDH2の活性が低いことで蓄積しやすいアセトアルデヒドが原因であることです。フラッシャーは、まったくアルコールを飲めない人(ALDH2の活性がまったくない人/いわゆる下戸の人)に比べれば、少なからずお酒を飲むことができます。 不快感を伴うフラッシング反応があるため飲酒を控える傾向にありますが、長年飲んでいると別の代謝経路が鍛えられて不快にならずに飲酒ができるようになっていきます。その結果、フラッシャーでも飲酒の習慣を持つ人が多く、アセトアルデヒドの長期的な蓄積により食道がんや咽頭がんのリスクが高まっていくものと考えられます。

 フラッシャーの方は、できるだけ飲酒を避けることをお勧めします。万一、食道がんになっても早期で発見するために、内視鏡検査をはじめとする定期的な検診を受けることも大切です。

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