2011年12月14日水曜日

くも膜下出血

ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 医師

くも膜下出血とはどのような病気ですか。
 くも膜下出血は発症するとおよそ3分の1の方が亡くなり、3分の1の方が障害を残すといわれる重篤な病気ですが、残り3分の1の方は順調に経過して、元気に社会復帰することができます。
 くも膜下出血の原因は、脳動脈瘤(りゅう)と呼ばれる血管のこぶが破裂することによって起こるものがほとんど(約8〜9割)です。症状は頭痛が特徴的です。激しい頭痛と表現されることがありますが、ごく軽い頭痛で発症するケースもみられます。痛みの強さよりも、「突然」に発症した頭痛であることが診断のポイントとなります。出血した際に、頭の中の圧が高くなり、脳に血液が流れなくなることで意識障害を伴う場合もあります。
 脳動脈瘤は一度破裂すると、いったん出血は止まりますが、2回目、3回目の破裂による再出血で重篤な状態になる方も多く、治療の第一の目的は再出血の防止となります。一般的な治療は、脳動脈瘤のくびれた部分をクリップではさみ、出血しないようにする「ネッククリッピング」という手術です。最近では、「コイル塞栓(そくせん)術」というそのまま血管の中から治療する方法もあります。再出血の予防がうまくいったら、その後は脳血管れん縮や全身の合併症の治療を行います。

くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤について教えてください。
 脳動脈瘤は破裂する前にその兆候が分かる場合もあります。「動眼神経麻痺(まひ)」という片方のまぶたが下がってきたり、物が二重に見えたりするなどの症状です。眼科を受診されるケースが多いのですが、これは大きくなった脳動脈瘤が動眼神経を圧迫していることから生じる症状なので、なるべく早く脳神経外科での検査・治療が必要になります。
 破裂していない脳動脈瘤は、脳ドックでの脳の血管を調べる検査で見つかることがあります。また、脳梗塞などほかの病気の検査で偶然に見つかることもあります。見つかった動脈瘤の大きさや形、患者さんの年齢や身体的な状況を考慮して、破裂する前に治療することをお勧めするケースもあります。通常、動脈瘤があるということだけでは、破裂の危険性が高いわけではないので、その判断は慎重に行う必要があります。複数の医師に相談し、ご自身でよく考えて十分に納得したうえで治療に臨むことが大切です。

2011年12月9日金曜日

医療記録の管理について

ゲスト/佐野内科医院 佐野 公昭 院長

お薬手帳の活用など医療記録の管理について教えてください。
 旅先や外出先で体調を崩して、いつもと違う医療機関にかかった場合など、お薬手帳を持っていれば、普段服用している薬の情報が分かるので、適切な治療が受けやすくなります。
 一般的な風邪薬にも、前立腺肥大や緑内障など持病がある場合、副作用が生じる可能性から服用できないものがあります。また、薬の飲み合わせによっては、薬の効果が予想以上に強く現れたり、逆に期待した効果が得られなくなったりする場合があります。病院や調剤薬局は、お薬手帳に書かれた情報から、以前に飲んだ薬で副作用が出たものはないか、他の医療機関で処方された薬との飲み合わせは大丈夫かを判断して、それらの危険を未然に防いでいます。服用している薬の情報に漏れがあると正しい処方ができないので、お薬手帳は病院や調剤薬局ごとに使い分けるのではなく、1冊にまとめておくことが大切です。
 また、病院を受診する際は、診察時間を有効に活用するため聞きたいことを整理しておきましょう。症状や経過、これまでかかった病気などについてメモにまとめておけば、医師もすぐに症状を確認できますし、質問も要点を抑えたものとなるでしょう。

災害時の備えについて教えてください。
 先日、新潟中越地震で被災した医療機関の先生からお話を伺う機会がありましたが、お薬手帳や自身の医療記録を持っていることが災害時に非常に有用であることを痛感しました。もしも自分が毎日飲んでいる薬の名前や量を知らないと、災害時に避難先で医師からいろいろな質問をされても、あいまいにしか答えられないでしょう。そうすると、医師は迅速に適切な対応を取るのが難しくなります。かかりつけの病院も被災して対応できないこともあり得るのです。人まかせにせず自分の身は自分で守るよう考えておくことが大切です。
 いつどこで災害に遭遇するのか、誰にも分かりません。いろいろな災害ケースを想定して、自分のとるべき対策を考えておくことが、災害に対する心構えになります。例えば、数日から1週間分の薬は手元に常備しておくよう、ふだんから少し余裕を持って医療機関を受診するなどもその一つです。
 最近では携帯電話のメモ機能などに医療記録を残している人も多いようですが、いざという時に電源が切れて使えないこともありますので、大事なことは「紙」に記録しておくことをお勧めします。

2011年11月23日水曜日

うつ病と似た症状の病気

ゲスト/医療法人五風会 福住メンタルクリニック 木津 明彦 院長

うつ病と間違われやすい病気について教えてください。
 「疲れやすい」「元気が出ない」「イライラする」など、うつ病と症状が似ているため、うつ病と間違われやすい病気があります。その一つが「非貧血性鉄欠乏症(潜在性鉄欠乏症)」です。
 鉄分不足と聞くと、貧血(鉄欠乏性貧血)を思い浮かべる人も多いでしょう。「非貧血性鉄欠乏症」は、その一歩手前と考えてください。鉄は、赤血球の材料になるだけでなく、全身の細胞のエネルギー代謝に重要な働きをします。主に肝臓で蓄えられています。いわば鉄の貯金ですが、この貯金が枯渇すると貧血が起こります。そこまで至らなくてもほとんど底を尽きかけた状態、これを「非貧血性鉄欠乏症」というのです。月経のある女性に多く、のどの違和感、冷え性、肩こり、頭痛、爪のでこぼこを伴うこともあります。貯蔵鉄の量は「フェリチン」というタンパク質の血中濃度を測ることで推定できます。
 食欲不振、味覚障害などの要因として注目されている「亜鉛欠乏症」も、うつ病と似た症状を現すことがあります。

ほかにはどんな病気がありますか。また、どのようなことに気を付ければいいですか
 「食後低血糖」も、うつ病のような症状を呈する病気です。糖尿病の初期に、血糖値が大きく変動し、低血糖症状がみられることがあります。体質的に糖質(炭水化物)を過剰に摂取すると、低血糖を起こしやすいケース(機能性食後低血糖症)もあります。脳へのブドウ糖供給不足による機能低下(注意力低下、眠気、倦怠(けんたい)感、目まい、頭痛など)と、これに対抗する自立神経反応(発汗、ふるえ、動悸(どうき)、不安、イライラ感など)が生じます。
 これらの病気から身を守るためには、鉄分や亜鉛などのミネラル、ビタミン、タンパク質をしっかり取ること、糖質の取り過ぎに注意することが大切です。また、内科、婦人科、心療内科などで、必要に応じた検査・治療を受けることも重要です。今まで改善できなかった症状でも、詳細な検査などによって隠れた異常を発見し、栄養バランスを改善していくことで、さまざまな疾患が治癒したケースもあります。うつ病とうつ病に似た症状を現す病気は、本人や家族が見分けるのは困難です。自己判断せずに、専門医の診察を受け、経過を見ていくことをお勧めします。

2011年11月16日水曜日

下肢のむくみ

ゲスト/北海道大野病院附属駅前クリニック 古口 健一 院長

下肢のむくみについて教えてください。
 私たちの体内では、血管の内外で水分の移動が行われ、正常な状態ではその水分量は一定に保たれるような仕組みになっています。しかし何らかの原因により、水分移動がうまくいかなくなり血管外の皮下組織に水分がたまってしまうことがあります。この状態が「むくみ」で、医学的には「浮腫」と言われます。向こうずねや足首周りを指で押した時にへこんだまま戻らないようなら、むくみと考えられます。
 立ち仕事の後などは、靴下の跡がなかなか消えないなど、下肢を中心にむくみを感じる場合が多いものです。足は筋肉の動きで、血液やリンパ液を心臓に送り返しています。静脈で吸収できなかった老廃物は、リンパ液を通すリンパ管に流れます。このリンパ管がスムーズに動かなくなり、水や老廃物が細胞の間にたまることで足にむくみが起こります。足は心臓から遠く、疲れなどで足の筋力が衰えると、血液やリンパ液をうまく循環させられなくなります。さらに、重力の力で水分は下肢へと下がります。このために、ふくらはぎや足首がむくみやすくなるのです。

下肢がむくむ際にはどのような病気が考えられますか。
 下肢だけにむくみが現れる病気としては、下肢の静脈血の逆流による下肢静脈瘤(りゅう)や、リンパ管の閉塞(へいそく)によってリンパ液が停滞するリンパ浮腫などが考えられます。
 足のむくみのほかに、顔や手などにむくみが認められる場合は、全身的な病気を考える必要があります。具体的には心臓病、腎臓病、肝臓病、悪性腫瘍などによる血液中タンパク質の低下、内分泌ホルモン異常などが挙げられます。また、薬物によるアレルギーにも下肢のむくみを伴うものがあります。さらに、心臓や腎臓、肝臓に明らかな病変がなく、また低タンパク血症も存在しないのにむくみをきたすケースもあり、これを特発性浮腫といいます。
 一時的なむくみであれば、軽いストレッチやお風呂などで血行をよくする、就寝時に足を頭より高く上げるなどの方法で解消することができますが、問題は病気が原因の場合です。翌朝になってもむくみが消えない、これといった心当たりがないのに何日もむくみがとれない場合は要注意。重大な病気が隠れていることもあるので、放置せずに専門医に相談することをお勧めします。

2011年11月15日火曜日

関節リウマチ治療の現在

ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 院長

関節リウマチの新しい診断基準が提唱されたと聞きましたが、その内容について教えてください。
 関節リウマチは、免疫の異常による関節の炎症で、腫れや痛みが起こり、進行すると骨が破壊され、関節が変形してしまう病気です。治りにくい病気でしたが、治療の進歩で寛解(症状が落ち着き進行しない状態)も目指せるようになってきました。より効果的な早期治療を可能とする新しい診断基準も年内の導入に向けて日本リウマチ学会などで検討が進められています。
 これまでの診断基準では、ある程度症状が進行した患者さんのデータを基にしており、症状が目立たない早期の患者さんは診断しにくい状況でした。新基準の最大の特徴は、より早期の段階で診断が下せる点です。研究の進展で関節リウマチは発病から3〜4年以内に急速に骨の破壊が進むことが判明し、早期の治療開始が重要と分かってきました。また、新しい検査方法やより効果的な治療薬が登場し、一層、早期の診断と治療開始が求められるようになったのです。

関節リウマチの治療について教えてください。
 薬物療法が中心で、標準的な治療薬は免疫を抑えるメトトレキサートです。日本では使用量が低く抑えられてきましたが、今年2月から十分な量の処方が可能となりました。メトトレキサートで治まらない場合、遺伝子工学の技術で作られた生物学的製剤という新しい薬も併用されるようになりました。炎症を引き起こす「サイトカイン」というタンパク質の働きを抑えるタイプの4種類に加え、免疫をつかさどるT細胞の働きを抑えるタイプも登場し、選択肢が広がりました。効果が高く、寛解に導くことも夢ではなくなりました。これも早期の使用開始が効果的なため、早期診断が重要になります。
 生物学的製剤にはデメリットもあります。それぞれの薬の効果は患者さんによって異なります。効かなければ、違う薬を使うことになります。また、副作用の心配もあります。さらに、3割負担でも月額3〜4万円かかるなど費用が高額です。そのため、関節リウマチの最先端治療として、各患者さんの遺伝子解析(自由診療)により、生物学的製剤の有効性と副作用の出現を事前に判定できるシステムが開発されました。すでに一部では実用化が始まり、患者さん一人一人に最適な薬が使われるようになるなど、治療面での大きな前進となっています。

2011年11月2日水曜日

好酸球(こうさんきゅう)性食道炎

ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

好酸球性食道炎とはどのような病気ですか。

 好酸球性食道炎は、アレルギーと関係の深い白血球の一種「好酸球」が食道の粘膜に浸潤して炎症を起こし、食道の機能障害や狭窄(きょうさく)などを引き起こす病気です。欧米を中心にここ10年くらいで知られるようになった疾患であり、日本では比較的まれですが、近年男性を中心として患者数が増加しています。原因は明らかではありませんが、一部の例では食物などに含まれる抗原に対するアレルギー反応が原因と考えられています。ぜん息やアトピー性皮膚炎などアレルギー性疾患を合併する頻度も高いです。
 症状は年齢により異なりますが、幼児期では哺乳障害、学童期では吐き気、学童期以降では腰痛、嚥下(えんげ)障害が主にみられます。胸焼けや胸痛を訴えるケースもあります。
 診断は、上記の症状に加えて、血液検査でアレルギー性疾患によくみられる好酸球やIgE(アレルギー反応に関係する抗体)の増加を調べます。また、内視鏡検査で食道の壁が厚くなり、縦方向のしまや白い斑点がみられるかどうか、環状に狭くなる部分があるかどうかを確認します。さらに食道粘膜などの組織検査を経て、確定診断が下されます。

好酸球性食道炎の治療について教えてください。

 治療は、原因と考えられる抗原の除去が基本となります。食事療法として、抗原と疑われる食品を検査して特定し、その食品を除いた食事を指導する方法、検査は行わず一般的に抗原となりやすい食品(乳製品、卵など)を除いた食事を指導する方法、アミノ酸成分栄養食を用いる方法の3種類があります。
 薬物療法として、好酸球による炎症を抑えることを目的に、副作用の少ない局所作用ステロイドが主に用いられます。また、食道の運動機能が低下して胃酸の逆流症状を併発する場合、酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬を補助的に使用することもあります。食事療法、薬物療法で症状が改善しない場合や、食べ物のつかえや嚥下障害が強い場合は、狭くなった食道を拡げる手術が行われることもあります。
 好酸球性食道炎は、逆流性食道炎などの胃食道逆流症(GERD)と診断されやすく、その鑑別が非常に重要です。治療が奏功しないGERDでは、好酸球性食道炎の可能性も考えられますので、早めに専門医を受診することをお勧めします。

2011年10月31日月曜日

顎(がく)関節症の矯正治療

ゲスト/つちだ矯正歯科クリニック 土田 康人 院長

顎関節症とはどのような病気ですか。

 顎関節症とは、口を十分に大きく開閉できなくなったり、口を開閉する時にカクカク(またはシャリシャリ)と音がしたり、下顎が左右にずれてガクガクしたりする状態をいいます。顎の関節は、耳の穴の前方1㌢くらいのところにあり、顎を開けたり閉めたりする役割を持っています。この関節がずれると、顎を開閉した時に関節が炎症を起こして痛んだり、関節が引っ掛かる感じになったり、口の開閉に不自由を来すようになります。
 顎関節症の原因は、まだはっきりとしない部分もあります。精神的ストレスや歯ぎしり、歯をかみしめる癖などさまざまで、それらが積み重なって許容限度を超えたときに起こると考えられています。反対咬(こう)合(受け口)、上顎前突(出っ歯)、開咬(奥歯はかんでいるが前歯は開いている状態)など、かみ合わせの悪さ(不正咬合)も顎関節症になりやすい要因の一つです。当然ながらそれがすべての原因ではありませんが、顎関節症になる人はかみ合わせが悪いことが多いのは事実として挙げられています。

顎関節症の矯正治療について教えてください。

 症状の程度によって異なりますが、スプリントと呼ばれるマウスピースのようなものを歯にかぶせる治療が一般的です。スプリントを使い、下顎を適切な位置(やや下顎を前方に出した位置)で安定させ、その位置できれいなかみ合わせをつくります。続いて、矯正治療をスタートさせます。歯並びを矯正したり、かみ合わせや顎のずれを修復したり、場合によっては、口腔内の金属冠を作り替えたりし、かみ合わせが安定するようにします。矯正治療によりかみ合わせを安定させておかないと、スプリントをはずした時に、下顎が元の悪い位置に戻ってしまう可能性があるからです。
 顎関節症は中・高校生〜成人にみられることが多く、小学生以下の子どもに発症するケースは少ないです。しかし、子どものうちの悪い歯並びやかみ合わせを放置してしまうと、大人になってから顎関節への悪影響が出る危険性があります。小児期に歯並び、かみ合わせの治療を行うことでこれらの心配を予防することができますので、少しでも不安を感じたら、早めに専門医にご相談ください。

ストレスの対処法

ゲスト/五稜会病院 千丈 雅徳 院長

ストレスについて教えてください。

 外部からのさまざまな刺激(ストレッサー)によって心や体に負担がかかり、心身にゆがみが生じることをストレスといいます。ストレスは、不眠やうつ、胃痛や頭痛、さらには胃・十二指腸潰瘍など、心と体に不調を引き起こします。仕事が忙し過ぎたり、合わなかったりするとストレスが生じますが、逆に暇すぎてもストレスが生じることもあります。職場やプライベートな場でも、人間関係によるストレスは大きなダメージを与えます。職場で感じるストレスの原因の第一位に人間関係が挙げられているほどです。また、本当は強いストレスが掛かっているにもかかわらず、本人は「ストレスがない」と感じていることがあります。心のストレスといえば、いやな出来事や哀しいことによって起こると思いがちですが、結婚、昇進など本人にとってはうれしい出来事でもストレスが生じることも少なくありません。こうしたストレスは、気づくのが遅れがちです。「何となく調子が悪い」といった心身の不調のシグナルを見逃さないようにしましょう。
 しかし、ストレスがまったく無く、平穏で退屈な生活では、挑戦する意欲や困難を乗り切る充実感を感じることはできません。人間は適度なストレスと向き合うことによって刺激や緊張が生じ、張り合いや生きがいを持って毎日を過ごすことができるのです。大切なのはストレスといかに上手に付き合うかということです。

どう対処すればいいですか。

 ストレス発散に効果的なのはRest(休養)、Recreation(気分転換)、Relax(くつろぎ)の3つのRと言われます。睡眠によって心身を休め、ストレスを癒やすことができます。しかし、何かのきっかけで睡眠不足が続くと、それ自体が大きなストレスになり、今度は不眠を引き起こすという悪循環に陥ることがあります。スポーツや趣味に没頭するなど、実生活とかけ離れた行為に集中したり、普段の生活圏を離れ自然の中で森林浴をするなど、心身のリフレッシュを図りストレスを改善することで、普段の状態を取り戻すことができます。しかし、思い通りにいかないとがっかりしてかえって大きなストレスを抱えることにもなります。
 一人で悩んでいると不安の種は大きくなります。誰かにストレスの原因を話すことでストレスを軽減させることができます。自分を理解し精神的に支えてくれる人を持っておくことが大切です。また、目の前のことだけに集中する、気掛かりなことは紙に書いて頭に残さない、休日は仕事を忘れて過ごす、悩みがあったら親しい人に早めに相談するなど、自分なりの対処法を身に付けて、ストレスがたまらないうちに解決するようにしましょう。
 ストレスに負けない心をつくるには、自分と向き合うことが大切です。ストレスの原因がどこにあるかなど現状の問題点を冷静に洗い出してみましょう。一つのことに集中して全力を注ぐ、プラス思考を心掛けてネガティブなことを言わない、成功した自分を繰り返しイメージするといった方法も効果的です。急に考え方を変えるのは難しいものなので、無理をせず、少しずつ始めると良いでしょう。
 身近に相談する相手がいなかったり、ストレスによる気分の大きな落ち込みを経験された場合は、心療内科や精神科を受診しましょう。しっかり話を聞いてくれる医師や臨床心理士を選ぶと良いでしょう。

2011年10月14日金曜日

帯状疱疹(ほうしん)

ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 医師

帯状疱疹とはどのような病気ですか。

 帯状疱疹は、子どものころにかかった水痘(水ぼうそう)のウイルスが体内に潜伏していて、何かのきっかけに再び活動することによって起こる皮膚の病気です。水痘にかかって治った後も、このウイルスは痛みや感覚などを伝える知覚神経節の中に隠れて何年も潜伏します。そして、免疫力が低下したときにウイルスが再活性化します。免疫力が低下する原因には、加齢、病気、疲労、ストレスなどがあります。免疫力の低下によって再活性化したウイルスは、神経に沿って増殖し、その先の皮膚に帯状の水ぶくれをつくります。
 日本では6人に1人がかかるといわれる身近な病気です。最近では若い年代にも増加しています。一度発症すると再発することはまれです。
 症状は、体の左右どちらか片側の皮膚にピリピリとした痛みが出現します。次に、痛みを感じた場所に赤い発疹ができ、神経の通り道に沿って線状、帯状に広がっていきます。発疹は水ぶくれとなって多くの場合激しい痛みを伴いますが、約2週間でかさぶたとなり、3週間ほどで治ります。
 痛みは水ぶくれが治るころに消えますが、長期間痛みが続く場合もあります。これは帯状疱疹後神経痛と呼ばれ、高齢者によく見られます。痛みは1〜3カ月ぐらいでなくなりますが、中には数年間にわたって続くこともあります。

帯状疱疹の治療について教えてください。

 帯状疱疹にかかったら、できるだけ安静を保ち、早期に治療を開始することが大切です。発疹が出て3日以内に治療を受ければ後遺症が残る確率は低くなり、皮膚の症状も軽くて済みます。発疹は全身どこにでも出る可能性がありますが、多いのは肋間(ろっかん)神経のある胸から背中にかけてです。顔や首、耳周辺に出た場合は、顔面神経麻痺(まひ)や難聴、味覚障害、失明に至るケースもあるので注意が必要です。
 治療薬には、抗ウイルス薬の軟こう、内服、点滴があります。補助的に非ステロイド系消炎鎮痛剤や抗うつ薬などが処方されることもあります。また、痛みが強い場合は、神経ブロックを行って痛みを止める方法があります。
 帯状疱疹にかからないようにするには、日ごろから栄養、睡眠などを十分に取り、適度に運動を行うなど、体力と免疫力を低下させないことが重要です。

加齢黄斑(おうはん)変性

ゲスト/大橋眼科 大橋 勉 院長

加齢黄斑変性とはどのような病気ですか。

 加齢黄斑変性は、加齢が原因で起こる眼疾患です。欧米では主要な失明原因の一つとして以前から知られていましたが、急激な高齢者人口の増加に伴い、日本でも患者数が増加しています。
 黄斑は、網膜の中でも視力をつかさどる重要な細胞が集中している部分で、物の形や大きさ、色、奥行き、距離などの情報の大半を識別しています。黄斑部が傷むと、見たい部分がゆがんで見える、ぼやけて見える、不鮮明になる、中心が暗く見えるなどの症状が現れます。
 加齢黄斑変性は、網膜に栄養や酸素を供給している脈絡膜から発生する新生血管の有無によって「滲出(しんしゅつ)型」と「萎縮型」とに分けられます。滲出型は、新生血管が発生し、出血など網膜の障害により起こるタイプで、進行が早く、急激に視力が低下していきます。萎縮型は、網膜の細胞が加齢により変性し、徐々に萎縮していきます。進行が緩やかなため、気付かない人もいます。しかし、時間の経過とともに滲出型に移行することもありますので、定期的に眼科医で検査を受ける必要があります。

加齢黄斑変性の治療について教えてください。

 病気の進行度や重症度、病型によって治療法は幾つかあります。
 滲出型の治療の中心的役割を果たしてきたのが「光線力学療法」です。眼の新生血管に集まる特殊な薬剤を注射し、そこに専用のレーザー光線を当てることにより、新生血管を閉塞させる方法です。1回の治療では効果が弱く、治療を複数回反復する必要があります。
 近年、滲出型の治療の主流になりつつあるのが「抗VEGF療法」という、新生血管の増殖や成長を抑える薬を、眼球の硝子体内に注射する方法です。導入期では、月1回の注射を3カ月間繰り返します。その後の維持期は、定期的に検査を行い、必要に応じて注射をします。視力維持のみならず視力改善の効果が期待できる治療法として注目されています。
 加齢黄斑変性から視力を守るには、早期発見が何よりも重要です。進行の早い滲出型でも早期に発見すれば、視力を維持・改善できる可能性が高くなります。物の見え方に異常を感じたら、すぐに眼科を受診してください。自覚症状がない人でも50歳を過ぎたら一度、眼底検査を受けられることをお勧めします。

2011年9月28日水曜日

生理痛の原因と子宮内膜症

札幌駅前アップルレディースクリニック 工藤 正史 院長

生理痛の原因について教えてください。

 生理痛の症状を訴える女性のうち、約5パーセントが日常生活を制限されるほどの生理痛を経験し、治療を必要とするといわれています。生理痛は、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症や、クラミジアや淋菌(りんきん)感染などの後遺症による骨盤腹膜の癒着性病変など器質的疾患が認められる(病気が隠れている)場合と、原因となる病気のない機能的月経困難症とに分類されます。
 
最近、若い女性に増えている子宮内膜症とはどのような病気ですか。

 子宮内膜症は、子宮という名は付いていますが、子宮以外の部位に起こる病気です。卵巣、卵管、膀胱(ぼうこう)、腹膜、膣(ちつ)壁、直腸のほか、まれに肺に発症することもあります。
 子宮内膜とは、子宮の内側を覆っている粘膜です。妊娠が成立しないときは増殖した子宮内膜は不要となってはがれ落ち、血液などと一緒に体外へ排出されます。これが月経です。子宮内膜症は、本来であれば子宮の内側だけに存在するはずの子宮内膜組織が、子宮の内側以外のところで発生して増殖する病気です。子宮以外の場所には、不要となった子宮内膜が排出されるところがないため、出血した血液はその部分にたまってしまい、痛みを主に血尿などさまざまな症状を引き起こします。周囲の臓器と癒着して不妊症や子宮外妊娠の原因となるのも特徴です。
 治療は、対症療法と内分泌療法、外科療法になります。生理痛の痛みが強い女性は、子宮内膜からプロスタグランジンという物質が多く産生されており、これが痛みの原因となっています。プロスタグランジンの産生を阻害する薬を飲むことが対症療法で、出血が始まったらすぐに服用するのがコツです。鎮痛剤が効きにくい場合、低用量のピルを用いた内分泌療法を行います。ピルは経口避妊薬ですが、生理痛だけでなく、生理前の症状(イライラ・気分の落ち込みなど)や月経不順などの症状も改善します。また、鎮痛剤と異なり、子宮内膜症に対して治療的に働くなどのメリットもあります。薬やピルでは治療困難の場合には、外科療法が効果的で、現在は体にかかる負担の少ない腹腔(ふくくう)鏡で行う手術が主流です。
 痛みを我慢して過ごす時間は人生の大きな損失です。いたずらに怖がることなく、まずは専門医を受診することをお薦めします。

2011年9月26日月曜日

大腸がん

みどり内科クリニック 中里 友彦 院長

大腸がんについて教えてください。

 日本では今、大腸がんが増えてきています。その原因の一つとして、食生活の欧米化が挙げられます。また、大腸がんの一部は遺伝により発生するといわれています。身内に大腸がんの方がいる場合には、検査をお勧めします。
 年齢別にみた大腸がんの罹患(りかん)率は、40歳代から増加し始め、高齢になるほど高くなります。2005年の国立がん研究センターの統計では、日本人の男性で8〜9%、女性で6〜7%の方が大腸がんを発症しています。
 がんの治療では、早期発見・早期治療が何よりも重要です。特に大腸がんは初期に発見し、手術を受けることで完治も可能ながんといわれています。また、内視鏡治療のみで治癒することも多い病気です。
 早期の大腸がんでは、自覚症状がないのが大部分です。このため、がんの表面から微量の血液が便に混ざることから、これを検出することでがんを発見しようとするのが便潜血検査です。簡易な検査ですが、大腸がんでも検査異常が出てこないケースもあります。大腸がんの早期発見に比較的精度が高い検査は、現在のところ大腸内視鏡検査といえるでしょう。

大腸内視鏡検査について教えてください。

 大腸内視鏡検査は肛門から内視鏡を挿入し、大腸内部を直接観察する検査です。検査前に約2リットルの下剤を服用し、大腸内の便をなくすための処置が必要です。検査時間は10分程度ですが、大腸が長い方、過去の手術で腸に癒着のある方、大腸憩室症(大腸の壁が弱く、大腸に小さなへこみができた状態)で大腸が硬くなっている方などは、30分〜1時間かかるケースもあります。
 大腸内視鏡というと、どうしてもつらく苦しい検査を想像してしまう方が多いと思いますが、技術の進歩により、従来に比べて検査は楽になっています。また、施設によっては鎮痛・鎮静剤を用いた、より苦痛の少ない検査を実施しているところもあります。
 これまで“つらそう”“痛そう”とためらっていた皆さんも、ぜひ大腸内視鏡検査で自分の腸の状態をしっかり調べてみてください。検査の間隔はポリープの有無などによって異なりますが、基本的には40歳代では「まずは一度」、50歳代以降では1年〜数年ごとに検査されることをお勧めします。

インプラント治療

ゲスト/医療法人社団アスクトース 石丸歯科診療所 近藤 誉一郎院長

インプラント治療とはどういうものですか。

 虫歯や歯周病で歯を失ってしまった場合、ブリッジや入れ歯のどちらかの方法で義歯を装着するのが一般的ですが、失った歯の両隣の歯を削ったり、残った歯にバネを架けたりするなど、健康な歯に負担を掛けることもある治療といえます。また、審美性に問題が出る場合もあります。
 インプラント治療は、失ってしまった歯の根が本来あった場所にチタン製の土台を埋め込み、その上に人工的な歯を固定させる方法です。天然の歯に近い審美性と、自分の歯のように噛(か)めるという機能性が回復します。
 インプラントの治療は顎の骨に穴を開け、人口歯根を埋め込むため、顎の骨の量がとても重要です。骨の量が少ないとインプラントを固定できません。近年は、骨造成(骨を増加させる手術)などの治療を併せて行うことで、あごの骨の量が少ない人でもインプラント治療が行えるようになってきました。
 専門医の正確な診断のもと、きちんとした治療とメンテナンスを行えば、インプラントは20年以上良好に機能するといわれています。

インプラント治療を受けるに当たっての注意点を教えてください。

 インプラント治療は保険が適用されない自由診療のため、費用が高額になる場合もあります。また、インプラントを埋め込んだ後は、なかなかやり直しが利かない治療法ですので、治療を希望される人は、事前に専門医の詳細な説明を受けて、インプラントについて正しく理解し、十分に納得した上で治療に臨むことが何よりも大切です。
 インプラント治療を行う前には、必ず術前検査を行います。まず血液検査でインプラント治療が可能な健康状態であるかを調べます。糖尿病や心臓疾患の既往症がある場合、内科医との連携が必要になるケースもあります。続いて、口腔(こうくう)内検査、レントゲン検査、CT検査などで、顎の骨や歯茎の状態を確認します。すべての検査の結果を踏まえて、インプラントが良好に長く機能する治療計画を立てていきます。
 インプラントを長期にわたって快適に使うためには、メンテナンスが欠かせません。メンテナンスを怠ってしまうと、歯周病に似た「インプラント周囲炎」になってしまうことがあります。丁寧な自宅でのケアに加えて、専門医での定期的な検診の受診が必要となります。

アルコール依存症

ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 長岡 徹 医師

アルコール依存症とはどのような病気ですか。

 アルコール依存症は、アルコールの持つ依存性によって発病する病気で、薬物依存の一つです。簡単に言えば、飲酒によっていろいろな悪い結果が起こっているにもかかわらず、なお飲み続けている状態です。近年、うつ病による自殺の増加が社会問題になっていますが、その背景にアルコール依存が隠れていることも多く、うつ病、アルコール依存症の両方向からの治療が必要となる場合もあります。また定年後の生きがい喪失から、飲酒量が増えてアルコール依存症と診断される高齢者も増加しています。
 自らの意志で飲酒をコントロールできなくなり、飲酒をしていない時に手の震え、頻脈、発汗、不眠、幻覚などの離脱症状が出ることもあります。毎日の生活がアルコールに支配され、家庭や職場において有害な結果が起きているにもかかわらず、飲酒欲求を抑えることができません。
 アルコールを長期間、多量に摂取すると身体にいろいろな悪影響が出てきます。脳の神経細胞が破壊され、認知機能が低下し物覚えが悪くなったり、アルコール性肝障害として脂肪肝、アルコール性肝炎、肝硬変と段階的に肝障害を起こすことがあります。また、うつ病や不安障害などの心の病気を合併しやすいという問題もあります。アルコール自体に抗不安効果があるため、心の病気の人が不安や不眠を理由にアルコールにのめりこんでしまうことも多いです。しかし、アルコール依存症になるほどの多量な飲酒は、不安や不眠を助長し気がつくと心の病気が重症化、慢性化してしまっていることがあります。またうつ病の方がアルコールを多量に摂取することで、衝動的に自殺に及ぶこともあり、アルコール依存症が自殺に関係しています。

アルコール依存症の治療について教えてください。

 アルコール依存症の治療で最も大切なのは、患者自身が「自分はアルコール依存症である」と認めることであり、それが治療の第一歩となります。それと同時にアルコール依存症がどういった病気であるのかという教育が欠かせません。
 治療の目標は「断酒」です。飲酒量のコントロールができない状態ですから、一滴でも口に入れてしまえば抑制がきかなくなりますので、「節酒」は目標にはなりえません。飲酒量を減らすのではなく、アルコールを完全に断ち切らなくてはなりません。飲みさえしなければよいのだと簡単に考えがちですが、一人でこれを実行し続けるのは困難を極めます。専門医での通院・入院治療等を受けるのはもちろん、断酒のモチベーションを維持する上で励ましとなる、家族や友人などの周囲からのサポートも大切です。また同じ目標に向かっている仲間の存在を知り、知識を共有するためにも「AA(アルコホーリクス・アノニマス)」などの自助グループへ参加することが望ましいです。

2011年8月24日水曜日

ストレス性の腸の病気

ゲスト/つちだ消化器循環器内科 土田 敏之 院長

ストレス性の腸の病気について教えてください。

 大腸のぜん動運動は自律神経によってコントロールされていますが、強いストレスによって自律神経がバランスを崩すと、腸がけいれんのような強い動きをするようになります。その結果起こるのが、下痢や便秘などの便通異常です。腸の器官そのものの病気と違う点は、体重の減少といった症状が出ず、またレントゲンや内視鏡などの検査をしても身体的な異常は見られないことです。そのため、適切な治療が施されず、知らないうちに悪化するケースもあります。
 ストレス性の腸の病気の典型的なものが「過敏性腸症候群」です。大腸に原因となる病気がないにもかかわらず、腹痛を伴う下痢や便秘を繰り返すのが特徴です。便通異常以外に食欲不振や腹部膨満感、ガス(おなら)などを伴う場合があり、ガスがたまるとおなかがパンパンに張り、普段着ている服が入らなくなることもあります。休みの日にはあまり症状が出ず、午前中やストレスの多い時期になると症状が強くなる傾向にあります。
 過敏性腸症候群になるのは繊細できちょうめんな人に多く、おなかの調子が気になって外出できなくなるなど生活に支障をきたしているケースも少なくありません。

過敏性腸症候群の治療について教えてください。

 心の問題が身体の症状に出る病気だけに、医師との間に信頼関係を確立して治療を進め、心の持ち方や生活を改善することが大切です。
 治療の主軸となるのは、生活習慣と食事の改善です。十分な睡眠と適度な運動、暴飲暴食を避け、アルコールを摂取し過ぎないことを心掛けましょう。暑い季節に、水分の取り過ぎは要注意です。病気について心配し過ぎないようにし、規則正しい生活を送ることが治癒への近道です。
 病院では、内視鏡などで腸の機能面に問題がないことをまず確定し、その後は推定される原因に応じて、投薬を中心とした治療を進めていきます。下痢止めや腸のけいれんを抑える薬など対症療法的な薬だけではなく、必要に応じて抗不安薬、抗うつ薬を処方します。
 腹痛や便通障害などの症状がみられる場合は、過敏性腸症候群のほかに、大腸がんや大腸ポリープ、潰瘍性腸炎など深刻な病気が潜んでいる可能性がありますから、決して自己判断せずに、一度専門医を受診することをお勧めします。

2011年8月22日月曜日

内視鏡検査のすすめ

ゲスト/医療法人社団 いし胃腸科内科 石忠明副院長

胃の内視鏡検査について教えてください。

 胃の内視鏡検査は、胃がん、胃潰瘍、胃炎、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎など上部消化管の病気の早期発見に有効な検査です。日本の胃がん死亡率は年々減少傾向にあり、早期発見・治療により治るがんといわれています。しかし、胃がんは初期段階ではほとんど自覚症状がありませんので、内視鏡検査による早期発見が重要です。
 以前から、胃の内視鏡検査はつらい検査の一つといわれてきました。しかし、機械の進歩は目覚ましく、細く飲みやすいカメラが開発され、検査の苦痛は少なくなっています。また、より苦しくない内視鏡検査として、鼻から挿入するカメラ(経鼻内視鏡)を使用している施設が増えています。従来の口から入れるカメラは挿入時、舌の付け根部分に触れるため、吐き気や痛みなど患者側の負担が大きかったのですが、鼻から入れると吐き気を催すこともなく、痛みもほとんど感じません。また、検査しながら会話ができますので、気になったことを互いにその場で確認することができます。
 胃がんの発生率は年齢とともに高まりますので、30歳以上の方は、積極的に胃の内視鏡検査を受けることをお勧めします。

大腸の内視鏡検査について教えてください。

 食生活の欧米化とともに急速に増加している大腸がんも、早期に発見できれば治癒する可能性が高いがんです。大腸がん検診では、まず便の潜血反応を調べます。陽性の場合は、便の中の血液が混じっており精密検査が必要です。精密検査では、通常大腸内視鏡検査を行います。大腸がんはもちろん、ポリープや腸炎など大腸の病気は分かります。
 大腸がんもつらい検査の一つといわれています。腸の長さには個人差があり、腸の長い方は検査時間もかかり苦しいことがあります。また、おなかの手術を受けたことのある方は、腸の癒着のため痛みを感じることもあります。しかし、器具や技術の進歩により、従来に比べて検査は楽になってきています。多少の圧迫感はあっても、まったく痛みを感じずに検査を終える方もいます。
 便秘気味、よくおなかが痛くなるなどの症状のある方、また、過去にポリープがあった方は、定期的な大腸内視鏡検査で、今の自分の腸の具合をしっかりと調べることをお勧めします。

女性の痔(じ)と直腸ポケット

ゲスト/札幌いしやま病院 川村 麻衣子 医師

女性の痔について教えてください。

 痔は男性に多い病気と思われがちですが、実は女性こそ痔を招く原因を抱えています。例えば、便秘症。便が硬くなり、無理に排便しようと肛門を傷付けることがあります。妊娠や出産も痔の原因の一つ。妊娠すると便秘を起こしやすく、また肛門周辺がうっ血しやすくなります。出産時の息みも、肛門に大きな負担をかけます。このように女性の場合、痔の原因は女性特有の身体機能が関連していることが多いのです。痔は「痔核(いぼ痔)」「裂肛(切れ痔)」「痔ろう(あな痔)」の3種類に分けられますが、女性に最も多くみられるのは裂肛です。排便時の痛みや出血、排便後にじんとした痛みが続くなどの症状があります。
 痔は女性にとっては医師にも相談しにくい病気です。しかし「恥ずかしい」と思って受診をためらっていると、症状は進行してつらくなるばかりです。また、お尻からの出血は大腸がんなどの病気が隠れている場合もあります。お尻に出血や痛みなどの症状があらわれたら、自己判断せずに専門医を受診することをお勧めします。

直腸ポケットとはどのような病気ですか。

 直腸に起因する女性特有の排便障害で、直腸膣壁弛緩(しかん)症とも呼ばれます。排便時に息むと、直腸と膣の間の壁(膣壁)が、膣方向へポケット状に膨らみ、便が引っ掛かって通りが悪くなります。症状は、肛門の直前で便が止まってしまう、肛門の周りを指で圧迫しないと便がでない、残便感があるなどで、ひどい便秘の人は直腸ポケットの疑いがあります。生まれつき膣壁が薄い、出産による膣壁の広がりや加齢による筋肉の衰えなど、先天的、後天的、両方の原因が考えられます。治療は、まず食生活や生活習慣の改善によって便秘を解消することです。便が柔らかくなれば排便がしやすくなります。それでも改善しなければ、下剤を服用する方法もあります。
 ポケットが大きいと、通常の便秘治療では排便障害が改善されません。その場合は、手術によってポケットを縫い縮める方法も有効です。ポケットそのものは良性疾患ですが、習慣的に下剤に頼っていると、大腸がんなどの病気を見落とす危険もあります。便秘で悩んでいる人は、原因を知るためにも、一度専門医に相談することをお勧めします。

2011年8月3日水曜日

骨粗しょう症

ゲスト/医療法人社団 中野整形外科医院 中野 達 院長

骨粗しょう症とはどのような病気ですか。
 骨粗しょう症とは、骨の量が減り、質も劣化して骨の強度が低下し、骨折を起こしやすくなった状態です。骨の中では、古くなった骨が吸収され新しい骨が形成されますが、その繰り返しの中で、骨の吸収が骨の形成よりも活発になると、骨がすき間だらけの麩(ふ)菓子のようになる場合があります。
 骨粗しょう症は、女性に多くみられる疾患です。その理由として最も大きなものは、閉経後にホルモンバランスが崩れることと考えられています。そのほか、加齢や体質、極端なダイエットや偏食、喫煙、過度の飲酒などが原因として挙げられます。また、甲状腺機能亢進(こうしん)症や関節リウマチなどの病気、ステロイド剤の長期服用など、特定の病気や薬剤によって起こる骨粗しょう症もあります。
 骨粗しょう症は、一般的に痛みがありません。しかし、ちょっとした衝撃や転倒のはずみで、手首や太ももの付け根の骨を折るなどの危険が生じます。また、高齢の方にみられる「円背(えんぱい)」という背中がまるくなる症状は、背骨がつぶれた際に起こるもので、悪くなると足がしびれたり、歩くのが困難になったりすることがあります。

骨粗しょう症の予防について教えてください。
 骨粗しょう症の予防には、食生活の見直しと適度な運動が重要です。カルシウム、ビタミンD、ビタミンK、タンパク質など、丈夫な骨を作るために必要不可欠な栄養素を十分に取るようにしましょう。また、食べ物から摂取した栄養素を骨に蓄え、骨量を増やすには、体を動かすことも大切です。散歩などを習慣にすることをお勧めします。予防していたにもかかわらず、残念ながら骨粗しょう症と診断された場合は、骨吸収抑制剤や骨形成促進剤、ホルモン剤、各種ビタミン剤などそれぞれの病状に合わせた薬剤を選択し、治療を始めます。
 骨粗しょう症では予防がなにより大切です。そして、早期の治療で骨折などのリスクを回避しなければなりません。当院では「FRAX(フラックス)」という今後10年間の骨折リスクを予測する検査が無料で受診でき、また、骨の人間ドックのような、より詳しい検査も保険適応で受けることができます。もしかしたらと思う前に一度検査を受けて、早い段階から行動を起こすことが、本当の「転ばぬ先の杖」といえるのではないでしょうか。

2011年7月25日月曜日

「予防歯科」

ゲスト/庄内歯科医院 庄内 淳能 院長

歯科医の正しい利用の仕方を教えて下さい。

 歯が痛い、歯茎が腫れる、詰めものが外れたなどのトラブルが生じてから歯科医を受診する人が多いと思いますが、本来であれば、それらの症状が現れる前に歯科医を訪れることがベストです。どんな病気でも最良の治療法は、病状が発生する前に防ぐことです。歯も例外ではありません。例えば、歯を失う最大の原因となる歯周病は自覚症状が乏しい病気です。歯茎の腫れや出血などの症状が現れてからでは、長期の治療や痛みを伴う治療が必要になる場合があります。
 そのような事態にならないためにも、まずは口腔(こうくう)内の環境をリセットすることから始めましょう。小さな虫歯から初期段階の歯周病、噛(か)み合わせまで、口の中の状態を診察してから、プランを立てて治療を進めます。患者さんの通院間隔にもよりますが、治療期間は大体半年から1年くらいが目安となります。
 口腔内をリセットするために重要なことは「痛くないから」「生活に支障がないから」といって、治療を途中でやめずに、完全に治癒するまで通い続けることです。歯に対する意識を痛くなってから治療するという従来の考えから、「予防のために歯科医院へ行く」という考えに変えていきましょう。

どのようなアフターケアが効果的ですが?

 口腔内のリセットが完了し、治した歯を守るためにはメンテナンスが大切です。
 自己メンテナンスで一番効果的なのはブラッシング。歯を一本一本丁寧に磨き、歯や歯茎を傷つけないように、10~15分程度かけて磨きます。食後と寝る前の1日4回行うことで、虫歯や歯周病、口臭などを防ぐことができます。歯科医院では必ず医師や衛生士が患者さんの歯の状態に合わせたブラッシング方法を指導してくれるので、覚えていくようにしましょう。
 また、口腔内を清潔に保つため、半年に一度、あるいは誕生日など決められた日をメンテナンスの日と定め、歯科医院でプロによるブラッシングを受けることをお勧めします。自分では落としきれない歯と歯の間、歯と歯茎の間の汚れを除去すると同時に、プロのブラッシング技術を知ることでご自身のブラッシング方法の改善にも役立つでしょう。現在では、ブラッシングだけを行ってくれる歯科医院も増えているので、利用してみてはいかがでしょうか。

「目の屈折矯正手術(レーシック)」

ゲスト/ 広域医療法人社団メディカルドラフト会 錦糸眼科 矢作 徹 医師

目の屈折矯正手術について教えてください。

 目の悪い方が視力矯正する方法としては、メガネやコンタクトレンズが一般的ですが、それらの着用にわずらわしさを感じ、裸眼で過ごしたいとの理由から、近年レーシックというエキシマレーザー装置を用いた矯正治療を選択する方が増えています。レーザー治療は角膜をレーザーで削り、角膜の屈折率を変え、網膜にピントを合わせて視力を矯正する手術です。手術といっても麻酔は点眼で行い、両眼15〜20分程度で終了するのが一般的です。ほとんどの場合、治療は日帰りで行い、当日は裸眼で帰宅することができます。
 現在にいたるまで数多くの症例が報告されている屈折矯正手術は、視力に悩む方にとって生活をより快適に変えてくれる新しい選択肢の一つですが、メリットだけではなくリスクも伴います。治療を希望される方は、カウンセリングや診察で十分に説明を受けて、治療の良い面だけでなく、起こり得る合併症や副作用についてもよく理解し、納得した上で治療に臨むことが大切です。
 手術は万人に共通して可能ということではなく、目の状態によっては治療が不適応となることもありますが、レーザー装置の進歩により、数年前では手術が難しかった方でも治療できるケースが増えています。まずは一度詳しい検査を受け、ご自身の目の状態を十分に知った上で手術を検討することをお勧めします。

術式など治療を受ける前に知っておきたいことを教えてください。

 屈折矯正手術にはいくつかの種類があります。レーザーの種類と照射のパターンにより料金は異なりますが、料金が高いほど見え方が良いというわけではありません。例えば、軽度の近視の方の場合、レーザーの性能の差が術後視力に影響を与えることはそれほど多くはありません。また、同じエキシマレーザーを用いても通常の照射方法に比べ、患者さん個々の目の状態に応じたカスタム照射で微細なゆがみを補正した方が見え方の質は上がることが一般的です。ただし、カスタム照射は角膜の切除量が増えるため、角膜の薄い方や強度の近視の方に対してはお勧めできません。近視の度数だけでなく角膜の厚さや形状などにより、個々の目に適した方法がありますので、初診検査時に医師に詳しくお尋ねください。
 治療費は自由診療となり、当院では両眼で15万〜33万円です。なお、費用は医療機関により異なります。

「関節リウマチの診断と治療」

ゲスト/北海道内科リウマチ科病院 谷村 一秀 院長

関節リウマチとはどのような病気ですか。

 関節リウマチは原因不明の自己免疫性疾患です。自分自身を攻撃するリンパ球が、全身の関節や臓器に流れ、炎症を引き起こします。全身のいろいろな関節に腫れ、痛み、こわばりが生じ、進行すると軟骨や骨が破壊され、関節が変形し、日常生活に支障を来すようになります。また、微熱や倦怠(けんたい)感などの全身症状や肺、腎臓などの関節外臓器の症状を伴うこともあります。つまり、関節リウマチは単なる関節の病気ではなく、全身性の疾患なのです。
 関節リウマチは病態の解明とともに、診断と治療法が進歩し、発症早期の患者さんでは適切な治療によって、関節破壊をほぼ完全に防ぐことが可能となってきています。なかには治療を中止しても病気が再燃しない状態になる方もいます。また、病気が進んだ患者さんでも、日常生活レベルの大幅な改善がみられています。

関節リウマチの診断と治療について教えてください。

 関節を侵す病気はたくさんあり、関節リウマチの診断は慎重に行うべきですが、同時に、可能な限り発症の早期に診断することも重要です。専門医による十分な問診と診察、検査から総合的に判断しますが、これまで実施されてきた血液検査、レントゲン検査のほか、最近では関節エコー検査やMRI(磁気共鳴画像装置)検査が有用と考えられています。通常の検査では検出できない炎症を発見できる関節エコーや、関節エコーでも検出できない病変を見つけられるMRIは、早期診断に利用するだけでなく、より正確に病状を評価し、それに基づいて治療を強化することで、患者さんの予後を改善することも期待できます。
 関節リウマチの治療は、長期的に計画された治療が必要です。治療の中心は薬物療法で、関節の炎症を抑え、関節破壊の進行を防ぐことが目標です。抗リウマチ薬の投与を開始し、改善に乏しければ、痛みだけでなく関節破壊の進行も抑制できる生物学的製剤の導入を検討します。関節リウマチは全身の病気なので、薬物治療のみでなく、一般内科や整形外科、リハビリ科など診療科を超えた医療連携、チーム医療による診断、検査、治療が何よりも重要となります。
 手首、足首、特に手指の関節に原因不明の腫れ、こわばりなどのある方は、関節リウマチの疑いがありますので、一度専門医を受診されることをお勧めします。

「最新の糖尿病治療薬」

ゲスト/医療法人社団 青木内科クリニック 青木 伸 院長

最新の糖尿病治療薬について教えてください。

 糖尿病治療薬の最近の進歩は目覚ましいものがあります。飲み薬では、高血糖の時にだけすい臓からインスリンを分泌させ、正常血糖へ下げる「DPP-4阻害薬」があります。この薬は理論的には低血糖を起こさず治療できる新薬です。糖尿病の平均血糖の指標であるHbA1cを下げる効力は1.0%前後。この薬と同じ系統の注射薬も登場し、「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれています。この注射薬のHbA1cを下げる効力は1.6%前後。現在は1日1回の注射が必要ですが、将来的には1週間に1回で済む注射薬も出る予定です。この系統の注射薬は、すい臓のインスリンを出す細胞を保護し、インスリンの分泌を弱らせない作用も持ち合わせているといわれています。
 一方、インスリン注射薬に眼を向けると、「持効型インスリン(1回の注射で24時間効果を持続する長時間作用型インスリン)」があります。飲み薬の治療が効かなくなる症例でも、飲み薬をそのまま服用しながら、1日1回の持効型インスリンの注射を加えると血糖が改善する症例もあります。「混合型インスリン」は、持続型インスリンと超速効型インスリンの合剤ですが、超速効型インスリンの含有率が50%〜70%の製剤が最近使用できるようになりました。食後血糖の高い症例を治療するのに便利なインスリンです。

糖尿病の治療について教えてください。

 糖尿病の治療が良好といえる目安はHbA1cが6.5%以下になっている場合です。糖尿病の患者さんの約半数が高血圧と脂質異常症(高脂血症)を合併しているといわれています。糖尿病を合併した高血圧の治療はとても重要で、血圧の治療目標値は130/80mmHg以下です。自宅で簡易血圧測定器を使用して治療に役立てる方法もあります。この場合使用する測定器は、指先や手首に巻くタイプのものではなく、上腕に巻くタイプのものをお勧めします。脂質異常症の治療目標値は、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が120mg/dl以下です。以上のようなさまざまな基準値を長期間保てば、眼底出血(失明)、腎臓の悪化(透析)、足の潰瘍・壊疽(えそ)による足の切断など糖尿病に由来する重症の合併症にならなくて済みます。それ以外にも脳梗塞(こうそく)、心筋梗塞などの予防にもつながります。

2011年6月27日月曜日

緑内障への備え

ゲスト 札幌エルプラザ 阿部眼科 阿部 法夫 院長

緑内障とはどのような病気ですか。
 厚労省の調査によると、緑内障はわが国の失明原因の第1位を占めています。40歳以上では17人に1人、70歳以上では10人に1人の割合で緑内障の患者さんがいるというデータもあります。緑内障有病率は、年齢とともに増加していくことが知られており、日本の少子高齢化に伴って、今後ますます患者さんの数は増えていくことが予想されます。
 緑内障の自覚症状としては、見えない場所が出現する、あるいは見える範囲が狭くなるのが一般的です。しかし、病気の進行は緩やかなので、初期は視野障害があってもまったく自覚しないことがほとんどです。また、急激に眼圧が著しく上昇した場合(急性緑内障発作)は、眼痛、充血、目のかすみのほか、頭痛や吐き気を自覚することもあります。こういう場合は、急速に視野の欠損が悪化し、失明の恐れもありますので、すぐに治療を受ける必要があります。
 最近、緑内障の日本全国で過去に行われた大規模疫学調査から、日本人はどの地区でも、眼圧が正常範囲であるにもかかわらず緑内障になっている「正常眼圧緑内障」の患者さんの数が世界でトップクラスに多いことや、北海道地区と沖縄地区では急性緑内障発作を引き起こすタイプの緑内障およびその危険性のある予備軍が、他の地区と比べ有病率が2倍以上であることが示されました。

緑内障の診断、治療について教えてください。
 最近の緑内障の診断と治療の進歩は目覚ましく、「緑内障=失明」という概念は古くなりつつあります。急性緑内障まで進行するものは有病率0.4%とまれで、一般には早期発見・治療によって病状をコントロールできるということを理解してください。
 緑内障診断は眼圧だけでなく、眼底検査による視神経繊維の欠損の読影なども必要となります。治療方法としては、点眼薬などの薬物療法、レーザー治療、手術などがあり、緑内障のタイプやそれぞれの人に適した治療方針を決定していきます。
 成人の眼科受診率は意外に少なく、中には眼科だけは一度も受診したことがないという人も多数いるようです。長寿社会の今日、目の健康は人生の内容の質、社会的な生活の質を維持する意味からも非常に重要です。気になることがある人もない人も、一度専門医を受診しての総合的な検査をお薦めします。

乳がん検診

ゲスト 南郷にじの橋メディカルクリニック 工平 美和子 院長

乳がんについて教えてください。
 年間約4万人の方がかかり、1万人以上の方が亡くなっている乳がんは、現在日本の女性のがんの中で患者数の最も多いがんです。約20人に1人の女性が生涯いつか乳がんにかかるといわれ、今後も増加が予想されています。さらに、乳がんにかかるピークは40〜50代。仕事や子育てに多忙を極める時期であり、ご本人だけでなく周囲も巻き込み、大変な影響を及ぼしてしまうケースも多いようです。
 その一方で、乳がんは早期に発見できれば、約90%の人が治癒する「治すことができる」数少ないがんです。初期の段階で見つけさえすれば、ほとんど命を脅かすことはありません。また、早期発見なら乳房を温存するなど、自分の希望する手術法や治療法を医師と相談して選択できる可能性も高くなります。乳がんは見つかることが恐いのではなく、知らないままでいるのが恐い病気なのです。


乳がん検診について教えてください。
 乳がんの早期発見には、定期的な検診の受診と自己検診が何よりも重要です。医療機関での乳がん検診では、「視触診」「マンモグラフィー」「超音波検査」などが行われます。視触診は、乳房を観察し、乳房やリンパ節の状態を触っての検査です。マンモグラフィーは、乳房専用のX線装置で、小さなしこりだけでなく、乳がんの初期状態である微細石灰化を発見し、触っても分からない早期乳がんを見つけることができます。現在、厚労省は40歳以上の方を対象に、2年に1度、視触診とマンモグラフィーによる乳がん検診を推奨していますが、受診率は「2割台」に推移している状況です。受診率が低い理由の一つに、マンモグラフィー検査への恐怖心があるようです。確かに、撮影の準備のため乳房を圧迫する際に多少の痛みを伴いますが、わずか数秒で終わる撮影ですから、そこから得られる安心に勝るものはないと思います。
 超音波検査は、超音波を乳房にあててエコーを画像として診断する方法です。この検査では、マンモグラフィーでは映し出せないしこりを見つけることができます。しかし、逆に超音波検査では、マンモグラフィーで検出できる微細な石灰化は、見つかりにくい傾向があります。このように二つの画像診断は、それぞれ得意な分野が異なるため、両者を併用することが大切といえます。

2011年6月8日水曜日

矯正治療

ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 院長

なぜ、矯正治療が必要なのですか。

 夏休みの前までに多くの学校、幼稚園などで歯科検診の結果のお知らせをいただくと思います。それまで本人、ご家庭の方が気にしていなくても「歯並び」に関しての指摘を受けることがあります。ショックかもしれませんが、多くの場合は何らかの歯並びの不調和があるはずです。
 歯並びが悪いと、歯磨きが隅々までできず、虫歯や歯周病の原因になります。しっかりとかんで食べられないので、胃腸など消化器官にも大きな負担がかかります。前歯がかみ合わない開咬(かいこう)や、下の顎(あご)が出ている反対咬合(こうごう)などのケースでは、発音に影響する場合があります。審美面で劣等感を抱くことも考えられます。実際に正しい歯並び、かみ合わせになると、口元を隠さずに笑顔を見せるようになり、表情が驚くほど明るくなります。また、正しいかみ合わせでよくかむということは、脳の発達に良い影響を及ぼすという研究結果もあります。
 きれいな歯並びを持つことは、口の中の健康、そして全身の健康を維持することにつながります。気になる点があってもなくても、また検診で指摘を受けたのであれば必ず、一度は専門医を受診することをお薦めします。

矯正治療への関心が高まっていますが。

 正しい歯並びが、機能面、健康面、審美面でいかに重要であるかが、日本でも広く認知されてきました。矯正治療に恥ずかしさや後ろめたさを感じることなく、堂々と矯正器具を装着する人が増えています。最近では、芸能人でも歯の表側に矯正器具を装着したまま、テレビや雑誌に登場している姿をよく見かけます。
 矯正治療が多くの人々に受け入れられ始めた要因として、矯正器具の著しい進歩があげられます。かつては歯の前面に光るメタルの矯正器具が主流でしたが、現在では目立たないワイヤーや透明な素材のブラケット(矯正装置)によって、スマートに矯正することができます。それでも抵抗がある場合には、ブラケットを歯の裏側に付ける見えない治療方法もあります。
 どのような方法、装置を選択するかは、個々人の歯の状態や年齢、環境などが関わってきます。矯正治療は長期にわたるので、理想の治療を受けられるよう、納得いくまで話し合える専門医を見つけることが大切です。

2011年6月7日火曜日

脂漏(しろう)性皮膚炎

ゲスト/宮の森スキンケア診療室 上林 淑人 院長

脂漏性皮膚炎とはどのような病気ですか。 

 体の中で脂の多い部分(頭、鼻の周り、耳など)に起こる皮膚炎です。頭皮では、脂っぽいフケや皮膚の赤み、顔では鼻の周囲や髪の生え際、耳などに脂っぽい赤みが見られ、ボロボロと皮がむけるようになります。個人差はありますが、かゆみを伴うこともあります。
 原因は、体質や睡眠不足、ストレスなどによる皮脂の過剰分泌、化粧品の刺激による肌への負担、洗顔不足などのスキンケア不足、不規則な食生活や野菜不足によるビタミンB不足などさまざまですが、原因がはっきり分からないことも多く、診断では似たような症状を伴うアトピーやしゅさ、ニキビとの鑑別が重要です。治療は炎症を抑える塗り薬が中心となります。必要に応じてビタミン剤や、かゆみを抑える内服薬を処方することもあります。また漢方薬の内服の併用が有効である場合もあります。脂漏性皮膚炎は症状が治まったり、再発したりするのが特徴ですので、根気よく治療を続けることが大切です。

脂漏性皮膚炎の予防について教えてください。

 脂漏性皮膚炎の予防法としては、日常生活の改善が挙げられます。脂肪分の多い食事に偏らないように、野菜や果物を十分に摂取してバランスの良い食生活を心掛けることが重要なポイントです。特に、脂漏性皮膚炎に有効とされているビタミンBを含む緑黄色野菜を十分に取るようにしましょう。また、ストレスや疲労を少しでも軽減するように注意し、規則正しい生活、十分な睡眠をとることも大切です。そのほか、小まめな入浴、洗髪、洗顔で全身を清潔に保つこと、日光(紫外線)を長時間浴びるのを避けることなどに気を付けるといいでしょう。
 この季節は、入学や就職、引っ越しなど新生活をスタートさせる人の多い時期です。自分を取り巻く環境の変化によって緊張を強いられたり、不安を感じたりすることがストレスとなって、脂漏性皮膚炎を引き起こしているケースもよく見受けられます。しぶとく再発しやすい皮膚炎ではありますが、医師の正確な診断と適切な治療を受ければ、気にならない程度にうまくコントロールできる疾患です。フケや頭のかゆみ、顔の赤みでお悩みの人は、自己判断せずに、医師の診断を受けてください。

2011年5月25日水曜日

血尿

ゲスト/北海道大野病院附属駅前クリニック 古口 健一 院長

血尿とはどのようなことですか。
 血尿とは、尿の中に血液(赤血球)が含まれている状態です。血尿には、大きく分けて、目で見て明らかに血尿と分かる「肉眼的血尿」と、尿の色は正常に見えますが、顕微鏡で検査すると尿の中に血が混じっている「顕微鏡的血尿」があります。健診や人間ドックで「尿潜血が出ています」といわれるのはほとんどが顕微鏡的血尿です。健診や人間ドックでは、およそ5〜12%の人に顕微鏡的血尿が見つかります。
 尿は腎臓で作られ、尿管という細い管を通って、膀胱(ぼうこう)にいったんたまってから、尿道を通って体外に排出されます。この経路のどこかから出血していると血尿になります。そのため血尿のあるときは、経路全体(場合によっては経路以外)のどこかに異常があることを疑って検査を始めます。検査は、まず試験紙による簡易検査で血尿の有無のみならず、白血球やタンパク質、尿糖の有無を調べます。続いて、顕微鏡を使い、実際に赤血球が尿中に存在するのか、一視野中にいくつ赤血球が存在するかなどを確認します。さらに、原因を特定するため、血液検査や腎臓の超音波検査、膀胱鏡を使っての内視鏡検査、CTやMRIによる検査などが行われるケースもあります。

血尿の場合、どのような疾患が疑われますか
 血尿が出るのは、腎臓より上方(腎前性)、腎臓(腎性)、腎臓より下方(腎後性)のいずれかに原因がある場合です。腎前性の血尿では、溶血性尿毒症症候群などの疾患により、赤血球が壊れていることが考えられます。腎性の血尿では、糸球体腎炎のほか、腎のう胞、腎結石、腎盂(じんう)腎炎などの可能性があります。腎後性の血尿では、尿路結石や膀胱炎などの感染症、悪性腫瘍(がん)などが疑われます。そのほか、男性では前立腺肥大症や前立腺がんでも血尿が出ます。
 血尿だけでなく痛みが出る病気であれば、多くの方はすぐに病院に行き検査・治療を受けると思いますが、問題は痛みなどの症状の出ない血尿です。不安に思いながらも、そのまま放置している方もいらっしゃるでしょう。血尿には上記に挙げたように、悪性腫瘍などすぐに治療が必要な重大な疾患が潜んでいる可能性があります。血尿があれば、自己判断せずに早期に腎臓内科、泌尿器科など専門医の受診をお勧めします。

気管支ぜんそく

ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長

気管支ぜんそくとはどのような病気ですか。
 気管支ぜんそくは、以前は小児ぜんそくが有名で、ぜいぜいする喘鳴(ぜんめい)や呼吸困難、せき込みなどを主な症状とする病気でした。はたから見るといかにも苦しそうで、大変そうな病気というイメージがありました。ところが最近ではその症状が大きく変わってきており、せきばかりで呼吸困難や喘鳴が少ないぜんそくが増えています。特に大人のぜんそくは増加しており、呼吸困難や喘鳴はまったくなく、せきだけ続く「せきぜんそく」も増えています。症状は夜間や早朝に多く、日中には改善するので病院に受診した時にはただの風邪と診断される事も多いです。そのため症状からだけでは診断は難しく、肺機能検査をしないと分からない場合が多いです。肺機能検査といっても健康診断で行う肺機能検査とは違って、息を胸いっぱいに吸って一気に吐き出し、1秒間にどれだけ吐けるか(これを1秒量と言います)を調べ、1秒量が肺活量の何%かを調べます。それが70%以下ですと気管支が細いということになります。その後、気管支拡張剤を吸入して、1秒量がどれだけ改善するかをみます。
 気管支ぜんそくは、気道が慢性的に炎症(粘膜の荒れ)を起こす病気です。何らかの遺伝的素因(体質)が関係していることは分かっていますが、根本原因はよく分かっていません。発作を引き起こすものを「誘因」といいますが、よくある誘因は風邪、アレルゲン(ペット、カビ、ダニ、花粉など)やたばこの煙、排気ガスなどです。よく風邪の後にぜんそくになったという人がいますが、これは間違いで、もともとぜんそく体質を持っている人が風邪をきっかけにぜんそくがあらわになったのです。

気管支ぜんそくの治療について教えてください。
 治療は吸入ステロイド薬を主体に使用してコントロールします。重要なことは発作が起きてから治療をするのではなく、普段から吸入ステロイド薬を中心とした治療を行い、気管支の炎症を改善して発作を起こさないようにすることです。ステロイドと聞くと恐い薬という印象があるかもしれませんが、吸入ステロイド薬は副作用が少なく、ぜんそくのコントロールに効果的です。ひどい発作の場合は、点滴や内服でステロイド薬を使用しますが、こちらは長く使用すると副作用があるので好ましくありません。
 現状ではぜんそくという病気は根治が難しいですが、吸入ステロイド薬を使うことで症状をコントロールすることはできますし、スポーツも普通にできます。吸入ステロイド薬を使っていなかったころはぜんそくで亡くなる患者さんが年間1万人くらいいましたが、吸入ステロイド薬を使うことで最近では2000人くらいまでに減っており、その多くは吸入ステロイドを使っていなかった患者さんです。ぜんそくの症状を放置しておくと気管支が細くなり、肺の機能が落ちて回復しづらくなります。こうなると症状が改善しづらくなり、日々の生活に支障がでてきます。日々のコントロールが大切です。

2011年5月11日水曜日

緑内障診断の大きな進歩

ゲスト/ふじた眼科クリニック 藤田 南都也 院長

緑内障とはどのような病気ですか?

 緑内障とは、眼圧の上昇などにより網膜が圧迫され、視野が狭くなる病気です。40歳以上の日本人の20人に1人が緑内障だとわかっています。原因は遺伝的な要因が大きく、加齢と共に症状が出てきます。血縁関係者に緑内障患者がいる人は特に注意が必要です。
 現在の医療技術では緑内障によって一度失われた視界を戻すことはできません。そのため、治療は視野の減少を抑えることが目的となります。点眼薬で眼圧をコントロールし、進行を抑えていきます。以前は内服薬や手術が必要になる場合もありましたが、効果の高い点眼薬の出現により、最近は少なくなっています。
 緑内障は目の痛みや充血、瞳の色の変化などの自覚症状がなく進行するため、末期の状態になるまで、視野が狭くなるなどの症状が現れません。そのため、患者さん自身が病気であることに気付かず、最悪の場合、失明に至る恐れがあります。そうならないためにも、定期的に検査を行い、早期発見・治療を開始することが何よりも大切です。

緑内障の新しい診断方法について教えて下さい。

 従来の緑内障の診断は、視野検査のほか、眼底の視神経乳頭のへこみや網膜の微妙な色調の変化を診察して進行の程度を判断していました。瞳を広げて眼底を観察する散瞳検査を伴うことが多く、検査後数時間は光がまぶしく感じられたり、細かいものが見えなくなるため、患者さんに不便を強いることが多くありました。
 近年完成されたOCT(光干渉断層計)では、瞳を広げずに網膜の厚さを測定し、緑内障の有無やその進行を調べられます。網膜の厚さが色分けで表わされるため、浮腫(むくみ)や神経線維の減少などを客観的に把握でき、患者さん自身も自分の目の状況を知ることができます。視野検査では判定できなかった初期段階での発見が可能になり、また、すでに緑内障を発症している人は進行具合を細部にわたり診断できるため、通院の間隔を広げたり、手術を避けられるようになりました。検査費用も初・再診料を除いて、医療費3割負担は600円、1割負担で200円と負担も少ないので、40歳を過ぎたら一度はOCTの検査を受けることをお勧めします。

2011年5月6日金曜日

目立たない矯正器具

ゲスト/宇治矯正歯科クリニック 宇治 正光 院長

矯正に対する最近の傾向について教えてください。

 全身の健康やQOL(生活の質)にとって、咬(か)み合わせが重要な役割を果たしていることが一般の方々にも認知されるようになりました。
 それによって歯列の凸凹や、上顎(がく)前突、下顎前突、さらに顎(あご)の左右のズレを気にする方が増えてきました。先日、30代の女性から「上顎前歯が出て、下顎の凸凹しているのがコンプレックス。現在矯正治療を考えていますが、装置を裏からにするか、表からにするか迷っています」と相談されました。矯正治療は決して恥ずかしいものではありません。むしろ、「大人になってからよく決断したな」と思われるのではないでしょうか。
 咬合(こうごう)の大切さを認識し、矯正治療を受けようとする前向きな姿勢を隠す必要はありませんが、人知れずに治療したいという気持ちも分かります。特に社会人で、接客業など日常的に多くの人に接する職業の人はそう考えるでしょう。また、思春期のお子さんが矯正装置を気にする心情も理解できます。そういう場合は、舌側矯正をお勧めしています。

舌側矯正について教えてください。

 歯の裏側、つまり舌側に矯正装置を入れます。表からは装置が目に付かないので、見た目にはまったく違和感がありません。ただし、内側にあることから、表側からの矯正(唇側矯正)と比較すると、発音が不明瞭、歯磨きや食事がしづらいという問題がありました。しかし、最近これらの問題点を改善した舌側矯正装置が開発されました。従来のものと比べて、非常に薄く、小さくなっています。話しづらい、食事がしにくい、舌が痛いといった、舌側矯正ならではの不快な点が、飛躍的に改善されました。人と話すことが多い職業の人や、違和感に対する不安などが理由で、今まで舌側矯正へ踏み切れなかった人にもお勧めできます。矯正治療の期間は、裏側でも表側でもそんなに違いはありません。
 歯並びをコンプレックスに感じている人は、成人でも意外に多いのではないでしょうか。心と体の健康のためにも、自身の歯並びに気になることがあったら、ぜひ一度矯正歯科医に相談してください。なお、歯科矯正は自由診療となり、費用についても個人によって異なりますので、その際に問い合わせてみるとよいでしょう。

「目立たない矯正器具」

身体を守る免疫のしくみ

ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

免疫とはどのようなものですか。

 免疫とは、細菌やウイルス、がん細胞などが体内へ侵入してきたときに、それらに立ち向かい、退治してくれる仕組みをいいます。免疫には、「自然免疫」と「獲得免疫」があります。自然免疫とは、生まれたときから自然に備えている免疫のことで、その中心的役割を担うのがNK細胞、マクロファージ、顆粒(かりゅう)球や補体などです。獲得免疫に先立って発動される初期の生体防御システムで、次のような働きを受け持っています。
 まず【第一の砦(とりで)】として、①細菌やウイルスなどの侵入を皮膚や鼻、口などの粘膜が防ぐ。②切り傷や火傷の場合、傷口から細菌による二次感染を防ぐ。③NK細胞ががん細胞などの監視のため、常に体内をパトロールしている。
 次に【第二の砦】として、①細菌やウイルスなどが侵入、感染すると抗体や補体、NK細胞などが攻撃する。②パトロール中のNK細胞が、がん細胞を発見した場合、攻撃を開始する。
 そして【第三の砦】として、①顆粒球が動員され、マクロファージとともに細菌などを殺傷する。②マクロファージがT細胞のヘルパーT細胞に細菌侵入、異物の発見の信号を送る。③活性化したNK細胞が単独でがん細胞を攻撃する。

獲得免疫について教えてください。

 自然免疫は、すべての侵入者に対して同じように働き、同じ敵が繰り返し侵入しても、その効果に変化はありません。獲得免疫は、自然免疫をくぐり抜けて侵入してきた外敵に対して集中攻撃を仕掛ける免疫で、後天的に獲得されていく免疫です。いろいろな細菌やウイルスなどに感染することで身に付く免疫で、T細胞、B細胞、サイトカイン(免疫系の指揮命令を伝達するメッセンジャーであり、戦いをコントロール・教育する機能を持つ重要な働きをする)や抗体などからなります。これらが【第四の砦】として、①マクロファージとヘルパーT細胞が共同でサイトカインを放出する。②サイトカインで活性化したキラーT細胞、B細胞などが細菌や異物(がん細胞など)を攻撃、殺傷する。③細胞が抗体を大量生産するとともに、一部のB細胞などに攻撃対象の記憶が残り、免疫を獲得する、といった働きを担います。
 以上のように免疫システムは、侵入者を攻撃して私たちの体を守る防衛戦隊のようなものであり、自然免疫と獲得免疫の両免疫が状況に応じて、適切に働くことで、日々の健康を維持しているのです。

パニック障害

ゲスト/医療法人社団 正心会 岡本病院 山中 啓義 副院長

パニック障害とはどのような病気ですか。

 パニック障害はありふれた病気であり、約100人に1人が罹患(りかん)するとも報告されています。日本では、男女ほぼ同じくらいの割合で発症し、青年期(18〜34歳くらい)に発病することが多いとされています。パニック障害は、突然、何のきっかけもなく、動悸(どうき)や息切れ、呼吸困難、目まい、吐き気、「このまま死んでしまうのではないか」という恐怖感、不安感などのパニック発作が起こり、これが何回も繰り返される病気です。これらは10分以内に症状のピークに達するといわれています。その後は、おおむね30分以内、長くとも1時間以内に症状が消え去ることが多いようです。不整脈や狭心症など心臓の病気、気管支ぜんそくや過換気症候群など呼吸器の病気の症状と類似していますが、検査をしても体の異常を認められないことも、この病気の特徴です。
 パニック発作が何回も起こると、「また、あの発作が起こるのではないか」「外出先で発作が起きたらどうしよう」という不安感が常につきまとうようになります。これを「予期不安」と呼びます。さらに繰り返しパニック発作を起こした患者さんが、以前に発作を起こした場所や、発作が起きたときにすぐに助けを得られないような場所、例えば電車や地下鉄の中などを避けたり、恐れたりするようになります。これを「広場恐怖」と呼びます。このように、パニック障害には、「パニック発作」「予期不安」「広場恐怖」という三つの症状があるのです。

パニック障害の治療法について教えてください。

 パニック障害の原因については、さまざまな研究報告がありますが、脳のある部分(大脳、大脳辺縁系、青斑核、視床下部)に通常とは違った変化が起こっているのではないかと指摘されています。特に神経化学伝達物質であるセロトニンの分泌異常が関与されていると考えられています。
 パニック障害の治療には薬物療法が有効とされており、国内でも海外でも主流となってきています。特に、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)というタイプの抗うつ薬が、第一選択薬となっています。通常、飲み始めから数週間で効果を認めることが多いようです。薬剤の効果はゆっくり現れますので、医師の指示通り、内服を継続することが大切です。
 パニック発作はつらいものですが、決して死ぬことはありません。また、発作は通常は、数分で治まります。必要以上に恐れないようにしましょう。パニック障害を放置しておくと、うつ病を合併することも多いので、思い当たる症状があれば、まず精神科・心療内科を受診して相談してみましょう。

大腸憩室(けいしつ)

ゲスト/佐野内科医院 佐野 公昭 院長

大腸憩室とはどのようなものですか。

 大腸憩室は、大腸の壁の一部が外へ袋状に飛び出しているものです。分かりやすくいうと大腸にできたくぼみです。憩室には先天的なものと後天的なものがありますが、ほとんどは後天性です。便秘や、下痢と便秘を繰り返す便通異常などで腸管内の圧力が上がり、腸管の弱い部分から粘膜が外側に膨らんだ状態が大腸憩室で、加齢により腸の壁が弱くなっていたり食生活の欧米化が原因と考えられています。
 大腸憩室があっても、多くは症状がありませんが、時に便秘、下痢などの便通異常や腹痛など、過敏性腸症候群と似た症状を起こすことがあります。原因不明の腹痛で検査をして、憩室が原因だったというケースも見受けられます。
 憩室に炎症を起こすことを憩室炎、憩室が沢山あることを憩室症と言います。
 憩室の中に便がつまるなどして憩室炎を発症すると腹痛の他に発熱や出血して下血などの症状が出現します。ひどい場合には穿孔と言って腸に穴が開いてしまい腹膜炎を起こすこともあります。高血圧や動脈硬化のある方、非ステロイド性抗炎症薬(痛み止め)やアスピリンなどの薬を服用している方は危険性が高いと言われています。

大腸憩室の治療について教えてください。

 特別な合併症がなく、無症状なら放置しておいてよいのですが、合併症を予防する意味で、できるだけ食物繊維成分の多い食事を摂取し、便通を整えることを心掛けるとよいでしょう。豆類やポップコーンなどは控えた方がよいです。憩室炎を発症した場合は、軽症の場合は食事を制限して腸の安静に努め、発熱などの症状を伴う場合は抗生物質を服用したりします。重症の場合は入院し、絶食して抗生物質を含めた点滴による治療を行います。大量の下血が持続する場合は内視鏡を用いて出血している憩室にクリップをかけて止血することもあります。腸に穴が開いてしまった場合には緊急に手術が必要になります。
 大腸憩室は、大腸がんとともに年々増加の傾向にあります。憩室の有無を確認するには、大腸の内視鏡やバリウム検査が有効です。検査を受けた時には憩室がないか確認しておくよいでしょう。将来的に憩室炎などのトラブルを引き起こすかもしれないと心にとどめておくことで、いざという時に慌てずにすみます。また、憩室が見つかった人は、腹痛や下血で病院を受診した際、憩室があると申し出ることで、診断や治療をスムーズに進めることができます。

眼瞼痙攣(がんけんけいれん)

ゲスト/大橋眼科 大橋 勉 院長

眼瞼痙攣とはどのような病気ですか

 眼瞼痙攣は、目の周りの筋肉が自分の意志とは関係なく痙攣する病気です。症状はまばたきが増えたり、まぶしさを感じたりすることから始まり、症状が重くなるとまぶたが開かなくなり、目がうまく使えない状態にまで進んでしまうこともあります。パソコンなどで目をよく使う人だけでなく、普通に生活している人にも多い病気です。はっきりとした原因は不明ですが、単純なドライアイと診断されて放置されている場合も少なくありません。
 診断は、屋内外でまぶしさを感じるか、まばたきが多いかといった点を尋ね、その結果、眼瞼痙攣の疑いが強ければ、速さや強さを変化させながらまばたきをしてもらい観察します。ドライアイなど、症状の似たほかの病気と間違わないように注意します。
 眼瞼痙攣は、50〜70歳代の、特に女性に多くみられる病気です。女性のかかる割合は、男性の約2倍といわれています。若い人の場合は薬の影響で症状が出る「薬剤性眼瞼痙攣」も考えられます。ベンゾジアゼピン系という種類の睡眠薬や抗不安薬との関係が代表的です。この場合は処方している医師と相談しながら、薬を減らしたり、止めたりできないかを検討します。

眼瞼痙攣の治療について教えてください。

 眼瞼痙攣の治療は、軽度の場合内服、改善が認められない場合は、ボツリヌス毒素を用いたボトックス治療が基本です。ボトックス治療は、ボツリヌス菌という細菌の毒素を、左右の目の周りに4〜6カ所ずつ注射する治療です。ボツリヌス菌を注射するわけではないので、ボツリヌス菌に感染するといった危険性はありません。投与した部位に作用して、神経の働きを抑え、筋肉のけいれんや緊張を抑えることができます。注射後2〜3日で効果が表れ、3〜4カ月持続します。
 疲れていたりすると、まぶたや目の周りがピクピクすることはよくあることです。しかし、その症状がいつまでも治らなかったり、症状の範囲が広がったりしたら、治療が必要です。眼瞼痙攣は放っておいて自然に治る病気ではありません。「ドライアイの治療を受けても治らない」「目が開けにくく外出を控えている」「まぶしくて帽子やメガネが手放せない」など目に違和感を感じたら、一度専門医に相談されることをお勧めします。

鼻から入れる内視鏡

ゲスト/やまうち内科クリニック 山内 雅夫 院長

鼻から入れる内視鏡について教えてください。

 これまで、胃内視鏡検査は口から入れる経口内視鏡を用いるのが一般的でした。しかし、最近は「経鼻内視鏡検査」という鼻から挿入する方法で検査が行われることも増えてきました。経鼻内視鏡はかなり以前からあったのですが、近年は性能が良くなり、導入する医療機関が急増しています。
 弾力性のあるしなやかなチューブで、直径は5㎜台と、一般的な経口内視鏡の9㎜に比べて細く、スムーズに挿入することができます。画像もクリアな高画質で、視野が広く、ごく小さな病変も発見することが可能です。
 経口内視鏡は挿入時、舌の付け根の舌根という部分に内視鏡が触れることで、検査の最中に「オエッ」という吐き気を催すことがあるなど、患者さんの負担が大きかったのですが、経鼻内視鏡では鼻から挿入した内視鏡は鼻腔(びくう)を通って食道に入るため、嘔吐(おうと)感や痛みもほとんどありません。また、検査中に医師と会話できることも、医師と患者さん双方にとって大きなメリットになっています。さらに、鎮静剤の使用が不必要なので、検査後ただちに車の運転なども可能です。

実際にはどのように行いますか。

 最初に鼻づまりがあるか、鼻血が出やすいかなど鼻の状態を確かめます。鼻の疾患がある場合などは、経鼻内視鏡が使用できないこともあります。前処置として、鼻腔に局所血管収縮剤をスプレーし、鼻の通りを良くして出血をしにくくします。鼻腔に麻酔薬を注入してから、麻酔薬を塗った内視鏡と同じ太さの柔らかなチューブを挿入し、鼻腔の局所麻酔を行います。これによって、内視鏡が通過するときの痛みが抑えられます。局所麻酔なので、眠くなったりすることはありません。この後、内視鏡が鼻から挿入され、鼻腔、のど、食道、胃、十二指腸と順次観察がなされ、通常数分以内に終了します。
 がんや潰瘍など、食道や胃、十二指腸などの疾患は、早期発見、早期治療が完治への近道です。「検査が怖い」「以前すごくきつかった」など経口内視鏡を嫌うあまりに受診が遅れて症状が進行していることもあります。経鼻内視鏡は患者さんの体への負担が少ないので、内視鏡が苦手でちゅうちょしている人は、一日も早く医師に相談してほしいと思います。

2011年3月16日水曜日

「RSウイルス」

ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 医師

RSウイルスについて教えてください。
 風邪を引き起こす微生物の80〜90%はウイルスです。さまざまなウイルスがありますが、中でもRSウイルスは、小さな子どもの風邪の原因となり、乳幼児における気管支炎や肺炎を引き起こすことで知られています。RSウイルスは、麻疹(はしか)ウイルス、ムンプス(おたふくかぜ)ウイルスなどと同じ仲間で、非常に感染力の強いウイルスです。おもちゃなどに付着した場合、4〜7時間くらい感染力があるといわれています。日本では主に乳幼児に感染します。通常は10〜12月にかけて流行が始まり、3〜5月まで続きます。接触や飛沫(ひまつ)を介して気道に感染し、2〜5日の潜伏期間の後、38〜39℃の発熱、鼻水、せきなどを発症します(発熱がないこともあります)。一般的には普通の風邪として感じられ、1〜2週間で症状が軽くなります。しかし、2歳以下の乳幼児ではしばしば細気管支炎、喘息(ぜんそく)様気管支炎、肺炎を発症します。特に6カ月以下の乳児では、呼吸困難のために入院となることもあります。麻疹、ムンプスと異なり一度の感染では十分な免疫は得られないため、何度も発症しますが、通常は再感染のたびに免疫がついて症状は軽くなっていきます。

治療、予防について教えてください
 治療は基本的には、呼吸器症状や脱水症状などに対する保存的な対症療法になります。ワクチンや抗RSウイルス薬はありません。肺炎などを起こした場合は酸素投与、痰(たん)の吸引、人工呼吸管理なども行われます。RSウイルスは接触と飛沫によって感染するため、小まめな手洗い、マスクの着用、十分な睡眠などが、風邪の場合と同様に重要です。また、消毒に弱く、石けん、消毒用アルコール、塩素系消毒薬などで感染力を失います。
 RSウイルスと同様に小児の呼吸器感染症の原因の一つになっているウイルスにヒトメタニューモウイルスがあります。RSウイルスと遺伝子が似ており、症状も似ています。RSウイルス感染症は1歳以下に多いですが、ヒトメタニューモウイルス感染症は1〜2歳に多く、RSウイルスより少し遅れて初感染を受けます。冬から春にかけて流行しますが、日本での流行のピークは春です。RSウイルスやインフルエンザウイルスと重なって感染すると重症化する確率が高いと報告されています。

「関節リウマチ治療の現在」

ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 院長

関節リウマチ治療の新しい展開について教えてください。
 近年、関節リウマチをめぐる新しい動きが活発になっています。その大きな理由は、治療法の急速な進歩にあります。生物学的製剤と呼ばれる強力な薬が登場し、臨床の場で数々の成果を上げています。早期に治療することで、関節の破壊など不可逆的な進行が抑えられ、寛解(病気が治まった状態)の維持も可能なことが多くの研究で証明されています。また、早期に治療を開始した患者さんの中には寛解に至った後、治療を中止してもリウマチが再燃しない状態になる方もいます。このような治療の進歩に伴って、早期発見・早期治療の重要性が叫ばれるようになってきました。
 2009年欧米で、関節リウマチの新たな分類/診断基準が発表されました。その最大の特徴は、早期診断を可能にしていることです。従来の基準は、経過の長い典型的なリウマチ患者さんを対象として作成されたもので、早期のリウマチを診断するという点ではあまり適していませんでした。新基準は、早期に抗リウマチ薬による治療開始が必要な患者さんを識別することを意図したもので、早期診断には極めて有効だと考えられます。
 
早期診断のための画像検査について教えてください。
 関節リウマチにおける画像診断の中心はX線とMRIによるものでしたが、近年はこれらの手法で判断できない炎症や血流の状態などをリアルタイムに、そして時系列的に診断可能な「関節超音波(エコー)検査」が必要不可欠な検査となりつつあります。怪しいと思われる関節に、聴診器のように関節エコーのプローブ(超音波を放出する部分)を当てると、炎症を起こしている箇所が、まるでメラメラと燃えているかのように画面に赤く映し出されます。関節エコー検査は、必要な時に必要な関節を気軽に診療室で検査できるという利点のほかに、この燃えているかのような炎症の画像を患者さんに見てもらうことで、本人に事の重大性を理解してもらい、リウマチを鎮めていこうという強い気持ちに導くことができるというメリットもあります。
 繰り返しになりますが、医療の急速な進歩により、関節リウマチは早期に診断して早期に治療を開始すれば、治癒可能な疾患となってきています。関節がおかしい、いつまでも治らないと思ったら、まずは一度専門医にご相談ください。

「尖圭コンジローマ(低リスク型HPV感染について)」

ゲスト/札幌駅前アップルレディースクリニック 工藤 正史 院長

尖圭(せんけい)コンジローマとはどのような病気ですか。
 HPV(ヒトパピローマウイルス)には、100種類以上のタイプがあり、そのうち約15種類が発がん性HPV(高リスク型)と呼ばれています。最近、子宮頸(けい)がんワクチンを接種することによって、HPVの高リスク型である16型と18型の2種類からの感染を予防できることが話題となっていますが、今回は、低リスク型HPVの感染が引き起こす「尖圭コンジローマ」という病気について説明します。
 近年、非常に増加している尖圭コンジローマ。これは特有なイボを形成する疾患で、HPVの低リスク型である6型と11型によって発症します。このHPV(6型と11型)は、主に性行為により、皮膚や粘膜にある小さな傷から侵入して感染します。コンドームの使用だけでは完全な予防はできません。潜伏期間は約3週間〜8カ月といわれています。
 尖圭コンジローマの症状は、性器や肛門の周囲にイボができます。女性の場合は、膣や子宮頸部など性器の内側にもイボが発生することがあります。イボの色は白、ピンク、褐色、黒色などで、イボの大きさも直径1〜3ミリ前後から数センチ大までさまざまです。イボは乳頭状のほか、ニワトリのとさかやカリフラワーのような状態になることもあります。
 
尖圭コンジローマの治療について教えてください。
 尖圭コンジローマは自覚症状がほとんどないため、気付かずに放置していると、大切なパートナーに感染させてしまう恐れがあります。さらに妊娠時に発症すると、出産時に産道で赤ちゃんにウイルスが感染してしまう可能性があるため、帝王切開による出産を選択することが多くなります。「もしかして?」と思ったら、くよくよ思い悩むよりまず、一日も早く専門医に相談してください。
 尖圭コンジローマの治療は、「薬を塗る治療法」と「外科的な治療法」の二つに大きく分かれます。ただし、外科的に切除しても再発するリスクが高いため、薬によってウイルス量を減らした後に切除するケースもあります。診断も治療も困難を伴うことが多く、再発率も高い厄介な病気ですが、根気よく病院に通い、治療を続けることが大切です。また、病院により、保険が適用されない場合もありますので、事前に確認するとよいでしょう。

「緊張型頭痛」

ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 医師

頭痛の原因について教えてください。
 頭痛に悩み、「なぜ頭が痛くなるのか」「何か悪い病気ではないのか」と心配され、病院を訪れる方が増えています。不安は痛みを増強させますので、頭痛に対する正しい理解を得ることが重要です。
 頭痛の中には「症候性頭痛」といって、脳や体の異常を知らせるサインとしての痛みがあります。症候性頭痛には、くも膜下出血や脳腫瘍など命に関わる病気が潜んでいる場合もあるので、専門医による詳細な検査が必要です。
 “頭痛持ち”と呼ばれる方の多くは、脳に病気がないのに繰り返し症状が起こります。これが日本人の約4人に1人(約3000万人)が悩まされている「慢性頭痛」で、コンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)などの画像検査でも異常は出ません。痛みの程度は人それぞれですが、寝込んでしまうなど日常生活に支障を来たすような痛みを感じるケースもあります。日本では、慢性頭痛が病気であるという認識がそもそも薄いため、周囲の理解が得られず、患者さんの苦しみが大きくなります。慢性頭痛はいくつかに分類されますが、慢性頭痛の7〜8割を占め、男女差なく最も多く認められるのが「緊張型頭痛」です。

緊張型頭痛とはどのような頭痛ですか。
 緊張型頭痛の痛みの特徴は、首や肩の凝りを伴うことが多く、よく“鉢巻きで締められているような”痛みと表現されます。後頭部に圧迫感や頭重感が生じ、鈍い痛みが続きます。原因は、長時間同じ姿勢でいることや運動不足に加えて、精神的なストレスが引き起こす背中から肩、首にかけての筋肉の緊張によるものです。例えば、1日中コンピューターに向かう職業の人に多くみられ、まさに現代病の一つといえます。
 治療は、痛みの程度に応じて、各種鎮静剤や筋肉を和らげる薬を使います。緊張型頭痛に伴う頑固な筋肉のこわばりは、過度のストレスが関わっていることが多く、リラックスを心掛けることが治療の重要なポイントになります。薬の治療に加えて、ストレッチ体操やヨガ、ゆっくりと入浴して筋肉を温めるなどの方法も有効です。
 緊張性頭痛は、患者さんのライフスタイルとの関わりが大きいため、長時間同じ姿勢でいることを避け、仕事の合間に適度にストレスを発散させる工夫をするなど、心と体のリフレッシュが治療効果を高めます。

「歯の矯正器具」

ゲスト/つちだ矯正歯科クリニック 土田 康人 院長

歯の矯正器具にはどんな種類がありますか。
 歯の矯正器具は種類が豊富で、それぞれ使い方や効果も違います。通常、歯科矯正と聞いてイメージされるのは、銀色をしたメタルの装置ではないでしょうか。これはマルチブラケットという器具で、歯の表面に装置を取り付け、ワイヤーでつなぐことで、歯を意図する位置まで少しずつ動かしていくためのものです。最近ではこの器具のメタルの部分を、透明なプラスチックやセラミックに置き換え、見た目が目立ち過ぎないような配慮がなされたものが登場しています。より目立たせないという意味で歯の裏側に取り付ける方法もあります。そのほか、取り外しのできるマウスピース型の装置や、歯茎にチタン製のネジ状のものを入れて固定源にするミニインプラントといった、従来に比べて目立たず、また治療期間を短縮できるような器具や治療法が登場しています。
 矯正器具にはそれぞれメリットとデメリットがあります。例えば、歯の裏側に装着する方法では、表側に装着する場合と比べて目立たないというメリットがありますが、一方で費用が高く、治療期間が長くなるというデメリットもあります。患者さんの症状や治療の内容に加えて、患者さんのライフスタイルや要望、予算を十分に考慮した上で選択する必要があります。

近年、成人の歯科矯正に対する意識はどのように変化していますか。
 以前は、社会生活の中で矯正器具を装着することに抵抗を感じる人が多かったのですが、近年は、患者さんの多様な要望に応えられるような、矯正器具や治療法の選択の幅が広がったため、成人で歯科矯正を行う人が増えています。また、治療器具をできるだけ目立たせなくするという考えではなく、あえてパステルカラーやビビッドカラーの矯正器具を装着し、歯科矯正自体をファッションの一部として楽しむ人も増えてきているようです。矯正器具の装着が決して〝恥ずかしいもの〟ではなく、むしろ、健康な歯への意識の高さを表すものだと、堂々と歯の表側に矯正器具を装着する人が増えるのはとても素晴らしいことだと思います。
 歯や歯茎さえしっかりしていれば、歯科矯正は何歳からでも始めることができます。心身ともに健全な生活を送るためにも、自身の口元に悩みやコンプレックスがあったら、ぜひ一度専門医にご相談ください。

「痔の基礎知識」

ゲスト/札幌いしやまクリニック 樽見 研 院長

痔(じ)とはどのような病気ですか。
 痔とは肛門と肛門周辺の病気の総称です。痔は大きく分けて3種類があります。最も多いのが「痔核(いぼ痔)」です。肛門周辺の粘膜の下には、血管が集まって肛門を閉じる働きをするクッションのような部分があります。肛門への負担が重なると、クッション部分がいぼ状に腫れ、出血を起こしたり、肛門の外に出てきたりします。これが痔核です。痔核にはできる場所により、直腸側にできる内痔核と、肛門側にできる外痔核があります。固くなった便の排せつによって、肛門の出口付近が切れて起こるのが「裂肛(切れ痔)」です。裂肛が慢性化してしまうと傷口が潰瘍状になり、強い痛みが排便後も続く場合があります。直腸と肛門の境目のくぼみに細菌が入り込み、膿(うみ)のトンネルのようなものをつくるのが「痔ろう(あな痔)」です。進行すると肛門の周りが腫れて激痛が続き、高熱を伴う場合があります。
 痔は決して特別な病気ではなく、年齢、性別に関係なく誰にでも起こり得ます。また、最近、増加している大腸がんや肛門がんは、痔と似ている症状があらわれるため、痔だと思い込んでしまったばかりに、がんの早期発見が遅れることがあります。痔の症状が現れた場合は、自己判断をしないで、できるだけ早めに医師に相談することが重要です。

痔の診断、治療について教えてください。
 診断は、問診で痛みの状況や出血などを確認した後、視診や触診、指診で痔の状態を診ていきます。加えて、肛門鏡を使った検査を行い、それらの結果を基に総合的な診断をします。痔の治療方法は症状に応じてさまざまです。比較的症状が軽い場合は、ライフスタイルの改善や、外用薬・内服薬の投与などによる治療が可能ですが、症状が重い場合は外科的治療を必要とすることがあります。
 痔は生活習慣と大きな関係があります。痔の発症や再発を防ぐには、お尻の負担となる便秘や下痢に気を付けることが大切です。また、仕事で一日中立ちっぱなしだったり、椅子に座りっぱなしだったりなど、長時間同じ姿勢でいることもよくありません。そのほか、バランスの良い食生活を心掛ける、正しい排便習慣を身に付ける、辛いものやお酒はほどほどにするなど、お尻の健康を保ち、痔を予防するための生活を心掛けましょう。

「脳梗塞(こうそく)」について

ゲスト/コスモ脳神経外科 小林 康雄 院長

脳梗塞について教えてください。
 脳梗塞は虚血性の脳卒中で、脳の血管が血栓などによって詰まったり、動脈硬化によって血管が狭くなるなどして起こる疾患です。その背景となるのは基本的には、メタボリック症候群です。内臓脂肪が過剰になると、糖尿病や高血圧症、高脂血症といった生活習慣病を併発しやすく、動脈硬化が急速に進行します。
 脳梗塞の症状としては、半身不随、半身麻痺、しびれ、感覚の低下、手足の運動障害、意識障害、言語障害、昏睡などが挙げられます。突然起こる場合が多いのですが、場合によっては予兆となる症状があります。半身のしびれ、口のもつれなどで、このような症状が表れた場合は、迅速にかかりつけ医の指示をあおぐか、脳神経外科へ直行することをお薦めします。発症後3時間以内であれば、血栓や塞栓(そくせん)を溶かす薬を使って治療します。効果があれば、比較的後遺症が軽くすみます。投薬治療ができない場合は手術となりますが、この場合も治療までに要する時間が短いほど、後遺症を軽くすることができます。いかに迅速に治療を始めるかが、予後に大いに関係してきます。
 
脳梗塞を予防するにはどうすればいいですか。
 30代、40代で動脈硬化が始まりますから、会社などの健康診断でメタボリックシンドロームの兆候があれば、普段の生活習慣を見直しましょう。食事は塩分を控え日本食中心にし、適度な運動、禁煙、節酒を心掛ける。ストレスや寝不足などで疲労が蓄積しないように規則正しい生活を目指しましょう。
 また、健康診断で不安要素があったり、動脈硬化症の近親者がいる場合は、一度「脳ドック」を受けることをお薦めします。レントゲン検査で頭と首の健康状態を調べ、MRI(磁気共鳴画像装置)で脳の断層写真を撮り、MRA(磁気共鳴血管造影)で血管の狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)部分・脳動脈瘤(りゅう)の発見、動脈硬化の程度などを調べます。健康保険の適用外になりますが、1~2時間程度で受けられます。脳梗塞は一度発症すると命にかかわり、後遺症の影響も大きい疾患です。自分の健康・生活を守るためにも、予防を心掛けましょう。

2011年2月3日木曜日

心の健康と認知行動療法

ゲスト/五稜会病院 千丈 雅徳 院長

今、認知行動療法に注目が集まっていますが、その要因は何でしょうか。
 近年、マスメディアでは抑うつや引きこもり、ニート、PTSD(心的外傷後ストレス障害)といった精神的問題が毎日のように報道されるようになりました。また、職場における抑うつの増加が社会問題となり、抑うつの低年齢化も指摘されています。抑うつと関連が深いとされる自殺についても、1998年以降、自殺者数は毎年3万人を超えています。健康問題や景気の悪化による中高年の自殺、過重労働によると見られる働き盛り世代の自殺も増えています。
 さまざまなストレスが私たちの心の健康を脅かしている現代社会。その中で健やかに生きていくためには、誰かに依存するのではなく、自分で自分の心を守っていく必要があります。そこで大きな期待を寄せられているのが「認知行動療法」と呼ばれる心理療法の考え方です。認知行動療法は、さまざまな心理療法の中でも幅広くその活用が見られ、かつ一定の治療効果が報告されている心理療法です。悩みを抱えやすい人が物事の見方やとらえ方、それに伴う行動を変えることで症状を改善していく療法で、その考え方は、日常生活の悩みやストレス対処に生かすヒントにもなります。

認知行動療法とはどのような治療法なのでしょうか。
 認知行動療法は、人の持つ物事に関するとらえ方、考え方とそれに伴う行動が、どのような形でその人の心の状態に影響を与えているかということに注目し、物事のとらえ方、考え方や行動の変化から、不快な感情の改善を図ろうという心理療法です。例えば、すべてを悲観的にとらえるマイナス思考や、完璧にしないと気が済まない完全主義思考など、自分の考え方のクセ(認知のゆがみ)を見つめ直すことで、柔軟な思考を身に付け、不安や落ち込みなど心理的ストレスを軽くしていきます。ここで重要なのは、否定的思考を肯定的・積極的思考に転換することではなく、ある状況を見る視点はいくつも存在するということを自覚し、現実的な考え方のバランスを取って、問題に上手に対応できる心の状態をつくるコツを身に付けることです。自分の今までの考え方を変えるというだけでなく、時にはそれを大切にしながらもさらに自分にとって楽な考え方を見つけていくのです。
 認知行動療法に関する入門書や専門書は数多く出版されていますので、一度手に取っていただければと思います。個々人のメンタルヘルスの治療の主役は、なんといっても当事者自身。自分で自分の心の健康を守ることが何よりも大切です。しかし、それがなかなかうまくできないと感じたときや、自分で自分の心をコントロールできそうにないと自覚した場合には、気軽に専門医を訪れて、早めに対応してもらうのが有効です。

子どもの予防接種

ゲスト/医療法人社団 いし胃腸科内科 松原 央 副院長

子どもの予防接種について教えてください。
 子どもは病気に対する抵抗力が未熟なため、予防接種が必要不可欠です。しかし、ワクチンはたくさんの種類があり、それぞれ接種しなければならない年齢や時期、回数などが異なります。また、ワクチン同士に厳密な接種間隔の順守法則があります。例えば、ポリオやBCG、おたふくかぜなどは最低4週間、三種混合(DPT)や日本脳炎は最低1週間の間隔を空けないと他のワクチンを接種することができません。そのため、予防接種のスケジュールを組むことが難しいと感じているご両親も多いようです。
 予防接種をベストタイミングで受けるためには、専門医とよく相談することが大切。ワクチンの中にはヒブワクチンと三種混合(DPT)のように同時接種が可能なものがあり、一度の来院で何種類かを同時に接種できるものもあります。保護者の予定や保育園の日程などを考慮しながら、無理のないスケジュールを組んでください。ワクチンの打ち忘れをなくすため、スケジュール表はいつも目にする場所に貼っておくとよいでしょう。

最近注目されているヒブ、肺炎球菌について教えてください。
 幼い子どもが発症しやすい中耳炎や菌血症、細菌性髄膜炎などの細菌感染症の多くは、ヒブ(ヘモフィルスインフルエンザ菌b型)と肺炎球菌という細菌が原因といわれています。なかでも脳や脊髄を覆っている髄膜の中に細菌が入り込むことで発症する細菌性髄膜炎は、1歳未満の子どもに多くみられ、毎年全国で約800人の子どもが発症し、その中の約10~20%は難聴やまひなどの重い後遺症を残しています。
 3歳までの幼い子どもには、ヒブや肺炎球菌に対する抗体がないため、保育園や幼稚園などでの集団生活の中で感染する可能性があります。しかし、それぞれのワクチンを接種することで感染症の発症、または重症化をほぼ100%防げるため、1歳未満でのワクチン接種がとても重要となります。現在、ヒブワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンの公費化が全国的に進められ、札幌市でもこの1月以降、生後2ヵ月~4歳までの子どもを対象として全額公費助成されます。これらのワクチンは生後2ヵ月から接種することができ、同時接種も可能ですので、専門医に相談し、積極的に受けるようにしましょう。

歯並びを悪くする習癖

ゲスト/医療法人社団アスクトース 石丸歯科診療所 石丸 俊春 歯科院長

悪習癖とはなんですか?
 近年、ブラッシングなどの予防対策が定着し、虫歯や歯肉炎のある子どもが減ってきている一方で、歯並びや噛(か)み合わせに異常がある子どもは増えています。
 歯並びや噛み合わせの異常は、哺乳期~永久歯列完成期(12~13歳)の何げない癖や日常生活での行動、姿勢が原因となって起こることが多いのです。例えば、指しゃぶりをする癖があると、上下の歯が噛みあわない「開咬(かいこう)」が現れる確率が高くなり、また、頬づえやうつぶせ寝、口呼吸などをしている子どもは、顎の成長を妨げられ、下より上の前歯が飛び出している「上顎前突」、俗にいう「出っ歯」などになる恐れがあります。
 食習慣においては、左右のどちらかだけで噛む癖や、口を開けたまま、音をたてて食べる癖があると、噛み合わせに異常があらわれ、顔の左右のバランスが崩れてしまう可能性が高まります。ほんのささいなことでも、毎日の積み重ねが思わぬ悪影響を歯並び、噛み合わせに及ぼすことがあるのです。

悪習癖の改善について教えてください。
 子どもの時期から悪習癖を改善することによって、本来の正常な歯並びや噛み合わせへ導くことができます。そのため、子どもの悪習癖に気が付いたら、すぐにやめさせることが重要です。ただし、指しゃぶりなどの癖には心理的背景が関わっているケースも多いため、決して頭ごなしに叱ったりせずに、子どもの年齢、発育、周囲の環境に応じながら、やさしく指導していきましょう。
 口呼吸の改善には口唇閉鎖(口まわりの筋肉を鍛える)トレーニングが有効ですが、鼻疾患が原因の場合もあり、専門医による治療が必要なケースもあります。また、食習慣の改善には、まず親が正しい食事の見本を示すようにしましょう。
 子どもの悪習癖に気付いてあげるのは、一番身近にいる親の役割。心身ともに成長する時期なので、生活全体の中で「姿勢は悪くないか」「よく噛んで食事をしているか」「正しく鼻呼吸できているか」など、つぶさに見守っていく必要があります。また、歯が生えそろう2~3歳ころから、信頼できる“かかりつけ”の歯医者を見つけ、虫歯や歯肉炎などの異常がなくても、定期的に歯の生え方、生え替わりをチェックしてもらうことも大切です。

目の屈折矯正手術(レーシック)

ゲスト/広域医療法人社団メディカルドラフト会 錦糸眼科 矢作 徹 医師

目の矯正手術は誰でも受けることができますか。また、費用について教えてください。

 一般的に、18歳から60歳までの方でしたら、治療を受けることができます。ただし、競馬の騎手、自衛隊生徒など受験年齢に制限がある場合、18歳未満でも目に問題がなければ手術を行うことがあります。
 現在、眼疾患がある方、過去に重い目の病気にかかった方は治療を受けられません。例えば、円すい角膜、緑内障、角膜潰瘍、あるいは事故で角膜を傷付けたことのある方などは手術を受けられません。また、糖尿病や内科的な病気が原因で手術を受けられない場合もあります。
 費用についてですが、当院では両眼で25〜33万円です。レーザーの種類と照射のパターンにより料金は異なりますが、料金が高いほど見え方が良いというわけではありません。近視の度数だけでなく角膜の厚さや形状などにより、患者さん個々の目に適した方法がありますので、初診検査時に医師に詳しくお尋ねください。なお、料金は医療機関により異なります。

初診、検査から治療への流れを教えてください。

 一日で初診検査から治療までを行う医療機関もありますが、当院では、初診で検査、ガイダンス、診察を行い、通常は初診から1週間以後に手術日を設定しています。目の屈折治療は必ずしも緊急性、必要性がある治療ではありません。またレーシックにはメリットだけでなくリスクも伴います。治療の良い面だけでなく、起こり得る合併症や副作用についてもよく理解して、納得した上で治療に臨むことが大切なので、初診から手術までの時間を十分に設けるようにしています。
 また、検査に患者さんの日々の体調変化を反映させることで、よりその精度を高める目的もあります。検査の測定のわずかな誤差が、角膜切除量に数ミクロンの違いを生み、結果的に過矯正や低矯正が発生してしまうケースを避けるために、検査には細心の注意をはらう必要があります。遠方から受診される場合には、初診の翌日に手術を行うことがありますが、初診日と手術当日に検査を行いますので、より正しい測定の下で手術を受けることができます。

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