2022年6月22日水曜日

加齢黄斑変性に対する抗VEGF療法

 ゲスト/ふじた眼科クリニック 藤田 南都也 院長


加齢黄斑変性とはどのような病気ですか。治療についても教えてください。

 年齢を重ねれば誰でも起こりうる目の病気に「加齢黄斑変性」があります。ものがゆがんで見えたり、中心がぼやけたり黒く見えたりしたら要注意です。そのままにしておくと失明という深刻な事態を招きかねないため、おかしいなと思ったら早めの受診が大切です。加齢黄斑変性の診断には、眼球の断面図を鮮明に見られるOCT(光干渉断層計)を使った検査が有用です。

 加齢黄斑変性では網膜の外側にある脈絡膜に異常な新生血管が生じます。そこから血液成分が漏出し網膜がむくんだり、網膜下に液体がたまったりして網膜が正しく働かなくなります。治療はこの新生血管を抑えることが目標となります。加齢黄斑変性に対する治療の進歩は目覚ましく、現在は新生血管の発生を促す物質VEGF(血管内皮増殖因子)を阻害する薬を、目に直接注射する「抗VEGF療法」が主流となっています。継続的な治療が必要ですが、視力の維持のみならず、視力回復の可能性も見込める安全性、有効性の高い治療法といえます。

抗VEGF療法について詳しく教えてください。

 抗VEGF療法は加齢黄斑変性に対する代表的な治療法ですが、高齢者に起きやすい病気で眼底出血を起こす代表的な病気である「糖尿病網膜症」や「網膜静脈閉塞症」による黄斑浮腫(むくみ)にも適用が拡大されています。

 外来で目に直接する治療で、麻酔をするので痛みはほとんどありません。治療による合併症が少なく、安全で効果が高いのが特徴です。一般的には月1回の注射を連続3カ月行い、その後症状を見ながら必要に応じて注射します。

 難点は薬剤料が高価であることに加え、継続的な投与が必要となるケースが多く、治療費が高額になることでした。しかし、昨年11月にVEGF阻害薬のバイオシミラー(バイオ医薬品のジェネリック医薬品)が発売となり、薬剤料が対先行バイオ医薬品の約5割強であるため使いやすくなりつつあります。先行バイオ医薬品と効果や安全性が同等かを比較するため、実際の患者さんに使用する臨床試験を行い、安全で有効な医薬品と確認された上で製造販売が承認された薬です。診療の現場でも、先発薬と同様の治療効果を上げています。


2022年6月15日水曜日

AI(人工知能)技術を用いた内視鏡検査

 ゲスト/福住内科クリニック 佐藤 康裕 院長


内視鏡検査へのAI導入について教えてください。

 暮らしを便利で快適にするAI技術は、私たちの生活に浸透し役割を広げつつあります。医療現場においてもAI技術を導入することでより正確な診断や判断が可能になり、医療の業務負担の軽減に役立つことが期待されています。なかでも顔認証などにも使われる<画像認識>はAIの得意分野であり、内視鏡やレントゲンなどの画像診断にAIは特に有効活用できると考えられています。

 すでに実用化されているのが、大腸内視鏡検査中にリアルタイムで病変を検出・診断するシステムで、2019年に「AI医療機器」として初めて国の承認を受け、日常診療にも導入されつつあります。大腸がんは近年、増加しているがんの一つで、がんの中で罹患者数第1位、死亡者数第2位となっていますが、早期に発見し、適切な治療を受ければ治癒させられる可能性が高いがんです。それだけに早期の発見が重要であり、AI内視鏡によって検査精度がさらに高まることが期待されます。


AIを用いた内視鏡検査の実際について教えてください。

 当院でも21年からAI内視鏡を導入し、大腸内視鏡検査全例に使用しています。カメラの操作は従来と同じですべて医師が行い、検査時間など患者さんの負担は何も変わりません。AIの1つ目の機能は、病変が疑われる箇所を見つけると画面上に枠で囲んで表示し、検出音を鳴らして医師に知らせるものです。大腸の病変は見つけにくいものもあり、専門医であっても100%検出できるとはいえないので、AIとのダブルチェックで精度を高めます。

 AIの2つ目の機能は、ポリープなどの病変について「がんにならない/治療の必要がない病変」か、「治療が必要な腫瘍性の病変」かを鑑別し画面に表示することです。大腸ポリープはすべてを切除する必要があるわけではなく、病変ごとに正確に判断し過不足なく治療することが重要です。ほとんどのケースで医師とAIの診断は一致しますが、こちらもダブルチェックで精度を高めます。

 最終的な診断・判断は医師が行うので、現状ではAIは医師の業務が円滑に進むよう支える「アシスタント」だと考えています。しかし、AIには疲労や老化がなく、アップデートを繰り返し進歩していきますので、街中が完全自動運転車ばかりになるような未来にはAIと医師の関係性も変化しているかもしれません。

2022年6月8日水曜日

人工膝関節単顆置換術

 ゲスト/医療法人知仁会 八木整形外科病院 小野寺 純 医師


膝の痛みの原因と治療について教えてください。 

 中高年以降に多い膝の病気の一つに「変形性膝関節症」があります。膝関節の中で表面を覆っている軟骨が、老化やけがなどですり減ることで発症します。痛みだけでなく、膝の形が変わってしまい、進行すると日常生活にも支障が出てきます。

 薬(消炎鎮痛剤、ヒアルロン酸の関節内注射など)や装具(サポーター、足底板など)による保存治療を続けても痛みが改善しない場合、日常生活に支障が出たり、趣味やスポーツなどやりたいことができなくなったりした時、手術療法が考慮されます。

 代表的な手術として「骨切り術」と「人工膝関節置換術」があり、年齢や症状、生活状況に応じて使い分けます。一般的には、症状が初期から中期であれば骨切り術、末期であれば人工膝関節置換術を、また、若い人には骨切り術、高齢者には人工膝関節置換術を勧めるケースが多いです。

 人工膝関節置換術は、傷んだ関節の骨と軟骨を取り除き、人工関節に置き換える手術で、術後はほぼすべてのケースで痛みが消え去ります。膝関節の表面すべてを人工関節に換える「全置換術」と、悪くなった一部分だけを換える「単顆置換術」があります。


人工膝関節単顆置換術とは、どのような手術ですか。

 膝関節の軟骨のすり減りはほとんどの場合、内・外側の片方から生じます(日本人はO脚が多いので主に内側)。軟骨の損傷が内側もしくは外側だけに限定されている膝に対して、部分入れ歯のように傷んだ箇所だけを人工関節に置き換える手術が単顆置換術です。全置換術に比べ、手術による傷が小さく、出血量も骨を削る量も少なく、リハビリによる回復速度も早いです。早期退院・社会復帰が見込めるだけでなく、術後の関節の動きもより自然に近いです。ただし、靭帯の損傷がないことや、反対側の軟骨が正常であることなどの条件があり、すべての症例に単顆置換術が行えるわけではありません。

 長寿社会を迎え、これまで以上に人工関節を必要とする患者さんが増えると予想されます。メリットの多い単顆置換術ですが、軟骨のすり減りが内側を超えて膝全体に広がると全置換術しかできなくなります。保存治療や骨切り術なども含めた上で、適切な時期に最適な治療を受けることが大切です。膝に痛みや違和感を感じている方、我慢・放置せずに早めに整形外科を受診してください。


2022年6月1日水曜日

関節リウマチ診療における「患者報告アウトカム(PRO)」の重要性

 ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 理事長


関節リウマチ診療において「患者報告アウトカム(PRO)」が果たす役割について教えてください。

 近年、骨破壊を抑える効果が期待できる生物学的製剤の登場など、診断技術や治療方法の大幅な進歩によって、強い痛みや関節の変形などの症状が消失した状態である「寛解」を目指し、長期にわたって寛解状態を維持できる“新しい時代”を迎えています。

 一方で、治療の進展にかかわらず、残存する目に見えない痛みや倦怠感、朝のこわばりといった症状は、周囲の理解を得ることが難しく、また伝えることも容易でないため、日常生活において悩みを抱える患者さんがおられます。

 患者さんのこうした現状をもっと深く理解し、患者さんが医療者に伝えたい望みや困っていることを指標化した評価法を診療の現場に取り入れ、患者さんがより高い満足度を得られる治療につなげていこうとする動きが活発になってきました。

 その評価法が「患者報告アウトカム(PRO=Patient-reported outcome)」で、例えば「今の痛みの程度は0点から10点のうち何点ですか?」と質問するなど、痛みや不安など身体・心理的な症状や健康状態を患者さんに直接尋ね、患者さんの主観的な評価を測定する指標・考え方のことです。

 更に具体的にいうと、医療者は「症状のコントロールと長期障害の予防」を最大の目標に治療を行いますが、患者さんは「今日のこの痛みを何とかしたい」「日常の活動がもっとできるようになりたい」と考えています。医療者と患者さんでは治療目標に違いが生じますが、リウマチの改善に対する評価・考え方が異なるためです。患者さんにとっては、客観的なデータである血液検査の数値や画像検査の所見が良くなっていたとしても、他人にわかりづらい痛みや倦怠感、こわばりといった症状が残っていればリウマチが改善したとはいえないのです。

 患者さん自身が語る症状や健康状態をもとに、疾患がもたらす負担などを評価する患者報告アウトカムの種類はいくつも登場しています。患者報告アウトカムは、患者さんが待合室で規定の用紙に記入するか、タブレットなどを使用した電子フォームに入力するのが一般的です。患者さんは患者報告アウトカムを通じて、自身の疾患管理に関与していることを実感でき、治療満足度の向上に有効であると考えられます。

 医療者が持っている専門的な所見を押し付けるのではなく、あくまで患者さんの体感に基づく説明を尊重しながら、対等に医療者の見方とすり合わせて主観的な納得を築こうという患者報告アウトカムのようなアプローチは、今後ますます重要になっていくことが予想がされます。


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