2022年2月23日水曜日

遺伝性大腸がん〜リンチ症候群について

 ゲスト/琴似駅前内科クリニック 髙柳 典弘 院長


遺伝性大腸がんについて教えてください。

 大腸がんの患者さんの中に、血縁者にも大腸がんを罹患した方が複数名みられる場合、家族性大腸がんの可能性が考えられます。その原因として、①生まれ持った遺伝子が関与している遺伝的要因 ②生活環境などが関与している環境的要因 ③偶発的、などが推測されます。これらの中で遺伝的要因が強くかかわっているとされるケースを遺伝性大腸がんと呼び、大腸がん全体の約5%を占めるといわれています。遺伝性大腸がんの中で一番頻度が高いものが「リンチ症候群」です。


リンチ症候群について教えてください。

 リンチ症候群は、若い年代からがんが発生しやすくなる遺伝性疾患で、がんは大腸、子宮内膜、卵巣、腎盂・尿管、胃、小腸などさまざまな臓器に発生しますが、大腸が最も多いです。リンチ症候群の患者さんにおける大腸がんの平均発症年齢は約45歳であり、一般大腸がんにおける好発年齢の65歳前後よりも若い年齢で発症します。

 診断は、リンチ症候群の診断基準に当てはまるかどうかが目安になり、疑いのある患者さんには、手術で切除したがんの組織を使ったスクリーニング検査「マイクロサテライト不安定性(MSI)検査」を行います。MSI検査は公的医療保険が適用されています。MSI検査で陽性だった場合は、専門医療機関で確定診断を目的とする遺伝学的検査を受けることが考慮されます。遺伝学的検査の結果、原因遺伝子である〈MLH1〉〈MSH2〉〈MSH6〉〈PMS2〉の4つのうち1つに変化があるとリンチ症候群と診断されます。この遺伝子の変化は、親から子どもへ約50%の確率で伝わります。

 リンチ症候群と診断されても、全員ががんになるわけではありません。生涯、大腸がんを発症する確率は男性は28~75%、女性は24~52%とされています。また、一般にリンチ症候群による大腸がんの予後(手術などの治療成績)は良好であることを示す臨床データが複数報告されています。


―リンチ症候群と分かった場合には、どうしたらよいのでしょうか。

万一、罹患した際に早期発見・治療につなげるため、男女ともに各種がん検診や大腸内視鏡検査、胃内視鏡検査、女性は子宮内膜組織検査などを定期的に受けることが重要です。


2022年2月16日水曜日

開咬(かいこう)

 ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 院長


開咬について教えてください。

 開咬は、奥歯で噛(か)んでも前歯は噛んでおらず、常に前歯が開いた状態になることをいいます。前歯は外側からは唇(くちびる)の力、内側からは舌の力によって押され、力のバランスのとれたところに並びます。このバランスが崩れたとき、開咬になることがあります。幼少のころからの「指しゃぶり」や食べ物を飲み込むときに舌が出るなどの「舌癖」、蓄膿(ちくのう)症などの呼吸器系の慢性疾患による「口呼吸」などが、バランスを崩す要因となります。

 開咬は口が閉じづらいため、無意識のうちに口元に力が入り、緊張して見えがちです。審美面だけでなく、きちんと発音できない、前歯で食べ物を噛み切ることができない、奥歯や舌を使って食べ物を噛み切る悪い癖がつきやすいなど、機能面での問題も大きいです。また、前歯が噛み合わないので奥歯に過剰な負担がかかり、破損や歯周病が進むなど奥歯の寿命に影響する場合もあります。


どのように治療しますか。

 開咬は治療が難しい噛み合わせの一つです。その理由は、舌の悪癖が関与しているケースが多いからです。矯正治療で一度は前歯がしっかり噛んだとしても、悪癖が残っていると後戻りしやすいです。治療とともに悪癖を取り除く訓練をすることが重要です。

 開咬の原因が悪癖にある場合、早い段階での治療が何よりも大切です。軽い開咬であれば、矯正装置を装着せずにMFT(口腔筋機能療法)という口元の筋肉トレーニングだけで矯正できるケースもあります。一方、大人になってからでは、顎の骨を切る外科的手術が必要になることもあり、治療に時間がかかり負担も増します。

 歯科矯正技術は日々驚くほど進歩しています。近年、「歯科矯正用アンカースクリュー」と呼ばれるネジを歯茎の骨の部分に入れ、歯を動かす時の固定源とする方法が登場し、開咬の治療も大きく変わりました。効率よく歯を動かすことができ、治療期間の短縮が期待できるほか、従来では手術が必要とされていた症例でも手術を回避できるケースが増えています。

 受診の目安は、前歯が4本永久歯に生え替わった時期です。乳歯から永久歯への移行を、より自然に、正しく美しい歯並びに誘導することが可能です。歯並びの検診を受けるつもりで、矯正歯科医を訪ねてみてください。

2022年2月9日水曜日

両足同時の人工膝(ひざ)関節置換術

 ゲスト/医療法人知仁会 八木整形外科病院  上田 大輔 医師


人工膝関節置換術について教えてください。

 中高年の膝の痛み、その原因は主に「変形性膝関節症」です。加齢によって関節軟骨がすり減り、膝が炎症を起こして痛みます。進行すると徐々に膝が変形し、痛みも増していきます。一度すり減った軟骨は元に戻すことができません。悪化して日常生活に支障が出たり、趣味やスポーツなどやりたいことができなくなったりした時、手術が治療の選択肢に入ります。

 症状が進行期や末期に達している場合の代表的な手術の一つが「人工膝関節置換術」です。傷んだ関節の骨と軟骨を取り除き、人工関節に置き換える手術で、術後はほぼすべてのケースで痛みが消え去ります。膝関節の表面すべてを人工関節に換える「全置換術」と、悪くなった一部分だけを換える「部分置換術」があります。部分置換術は、靭帯の損傷がなく、内側もしくは外側だけに軟骨の損傷が限定される場合などに適応となりますが、全置換術と比べると骨を削る量も出血量も少なく、リハビリによる回復速度も早いです。また、術後の関節の動きもより自然に近いです。


両足同時に人工膝関節置換術を受けることはできますか。

 変形性膝関節症は、両膝ともに悪化するケースが少なくありません。両足に手術する必要がある時、従来は期間をあけて片方ずつ行うのが一般的でしたが、手術していない側の膝の変形や動きの制限が強い場合など、全体のバランスが悪くなることで歩きにくくなったり、手術した膝の動きの改善がわるくなるリスクもありました。近年は患者さんが希望すれば、年齢や持病など全身状態を考慮した上で、両膝同時に手術する例も増えています。前述したリスクを回避できるほか、麻酔・手術・入院が一度で済むので精神的にも経済的にも負担は減ります。

 変形性膝関節症の進行度合いや、患者さんが術後に望む生活やスポーツの活動性などによっていろいろな治療法や術式があります。保存治療がいいのか、手術がいいのか。手術なら、人工膝関節置換術がいいのか、骨切り術がいいのか。人工膝関節置換術なら、全置換術がいいのか、部分置換術がいいのか。また、片方ずつ手術するのがいいのか、両膝同時に手術するのがいいのか。できるだけ多くの治療の選択肢を用意している医療機関を受診し、医師と十分に相談してから納得のいく治療を選ぶことが重要です。

2022年2月2日水曜日

レイノー現象

 ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 古崎 章 院長


レイノー現象という言葉を耳にすることがありますが、どのようなものですか。

 レイノー現象とは寒さやストレスなどにより指の表皮内にある皮膚血管が異常に細くなり、色が真っ白になる現象をいいます。手以外では足や鼻、耳たぶにも起こります。色の変化は真っ白→紫色→赤色の三相性の形をとることが特徴です(時に真っ白→赤色の二相性)。白色や紫色の時は血が通っておらず、血流の再開により皮膚血管が拡張して赤色に見えます。経過は数分から30分で、痛みやしびれを伴うことも多いです。

 レイノー現象は膠原病などの病気に伴う続発性と病気を伴わない(原因が特定できない)特発性に分けられます。膠原病の中でも強皮症の9割、全身性エリテマトーデスの4割、シェーグレン症候群2~3割にレイノー現象がみられます。レイノー現象があり、どの診療科に行けばいいのかお悩みの方は、まずはリウマチ科や膠原病科で診てもらうことをお勧めします。

 通常、指の皮膚には通常の毛細血管とは異なる、動脈と静脈が繋がる構造(動静脈吻合)があり、体温が下がると動静脈吻合を収縮させて身体の熱を逃がさないようにします。ところが、レイノー現象では、温度変化に過敏に反応し、過剰に動静脈吻合が収縮してしまいます。現時点ではレイノー現象を完全に消失させることは困難であり、寒冷を避けた生活習慣の改善と補助的な薬物療法が中心となります。

 冷たいものに触れないようにする(炊事や洗濯に湯を使用したり、冷蔵庫内の物の出し入れの際にも手袋を着用したりする)、寒いところや冷房などの急激な温度変化を避ける(室内の保温に努めて、寒冷時の不要な外出は避ける)、血管収縮させてしまう喫煙や薬剤(片頭痛薬の一部、一部の鼻水止め薬など)を避ける、指先だけでなく全身を温める(外出する場合は手袋だけでなく、厚手の靴下を着用したり、使い捨てカイロを使ったりし、全身を冷やさない)ことが重要です。

 レイノー現象は寒冷刺激などで突然起こるため、受診時には症状が消えていることもあります。手指の変色が起こった時は、スマートフォンなどで画像として記録しておき、受診時に医師にみてもらうといいでしょう。治療についてですが、日本ではレイノー現象に適応がある薬剤がないため、体を温めるような漢方薬や一部の血管拡張作用のある薬剤を患者さんと相談しながら使用します。そのほか手袋などで保湿したり、手をよくマッサージしたりするなど予防法がありますので、担当の医師と相談してみて下さい。

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