2013年6月26日水曜日

ぜんそく・COPD(慢性閉塞性肺疾患)のオーバーラップ症候群


ゲスト/医大前南4条内科  田中 裕士 院長

ぜんそく・COPDのオーバーラップ症候群とはどのような病気ですか。
 気管や気管支に慢性的な炎症が起きて狭くなり、呼吸が苦しくなるぜんそく。たばこなどが原因で発症し、ひどい息切れやせきが続くCOPD(慢性閉塞性肺疾患)。オーバーラップ症候群とは、ぜんそくとCOPDが同時に同じ患者で起こっている状態を表します。今年、4年ぶりに改訂された日本呼吸器学会の「COPD診断と治療のためのガイドライン」にもオーバーラップ症候群に関しての内容が盛り込まれるなど、その特徴や治療法への関心が高まっています。
 オーバーラップ症候群では、ぜんそくを合併しないCOPDに比べて重症で、呼吸機能の低下が早まるほか、急速に悪化して呼吸困難に陥る「増悪」と呼ばれる現象が起こりやすく、死の危険も高まります。また予後やQOL(生活の質)にも悪影響を及ぼします。
 COPD、ぜんそくいずれも日本での罹患(りかん)数は500万人とも推定される疾患で、COPDの死亡数は年々増加の一途をたどり、ぜんそくによる死亡者の多くは高齢者です。厚労省の調査では、高齢のぜんそく患者の約25%はCOPDを合併していると報告され、また米国と英国の大規模な疫学研究からは50歳以上のCOPD患者は約半数がオーバーラップ症候群に当てはまると示されています。
 ぜんそく、またはCOPDと診断されていても、二つの疾患が重なり合っていることが見落とされているケースも考えられます。同じ治療のままで症状が改善しない場合や、悪化する場合は、オーバーラップ症候群の可能性を疑ってみることも必要です。

オーバーラップ症候群の検査、治療について教えてください。
 オーバーラップ症候群の診断には、ぜんそくとCOPD両方の検査を受ける必要があります。喘鳴(ぜんめい、呼吸時に「ゼイゼイ」「ヒューヒュー」すること)や呼吸困難があるかどうかといった問診に加えて、アレルギーの検査、気管の炎症状態を調べる検査、気道の過敏さを測定する検査、呼気中の一酸化炭素濃度を調べる検査、肺に吸い込まれる空気の量(肺活量)と1秒間に吐き出される量を調べる検査などが行われます。
 治療の基本はまず禁煙。次にぜんそくへの対応を優先し、気道の炎症を抑えて発作を起こさないようにする薬物療法が中心となります。炎症を抑えるステロイドと、発作で狭くなった気管支を広げる気管支拡張薬の配合剤などが使われます。COPDに対しては抗コリン剤と気管支拡張薬を用います。患者の改善度が横ばいになるまでは、複数の薬剤で積極的に治療するということです。そして、安定期に入るとそれぞれの薬剤を減量します。
 きちんと診断して、的確な治療をすれば、確実に症状を抑えられます。特に注意したいのは、喫煙歴のある高齢者やぜんそくの喫煙者。高齢者は呼吸機能が弱っており、ぜんそくやCOPDが重症化しやすいので、「気のせい」「年のせい」と見過ごさないで、肺の機能診断などを定期的に受けるようにしましょう。

2013年6月18日火曜日

虫歯の予防法


ゲスト/内山デンタルクリニック 内山 孝英  院長

どうして虫歯になるのですか。
 「何度治しても虫歯になってしまう」「私は歯が弱いから…」と嘆く人は多いと思います。誰でも虫歯の治療は嫌なものでしょうが、治療を受けるだけでは、なりやすい人はまた虫歯になってしまいます。
 その理由は、虫歯という病気の特殊性にあります。虫歯は「虫歯菌(ミュータンス連鎖球菌)」が起こす細菌感染症なのです。口の中には400種類以上の細菌がすみついており、歯の表面にできる「歯垢(プラーク)」1㌘には、数億個の細菌が存在しています。虫歯になりやすい人の口の中には、そうでない人に比べて虫歯菌の数が桁違いに多く存在するのです。
 虫歯菌は、砂糖という餌から「グルカン」というネバネバした物質を作り出し、歯の表面にへばりつきます。これは水には溶けないので、うがいでは除去できません。次第に歯の表面に分厚い膜(バイオフィルム)が作られていきます。
 バイオフィルム中の虫歯菌は、私たちが飲食する砂糖の糖分を吸収してエネルギーを獲得し、乳酸などの強い「酸」を放出します。バイオフィルムが育ってくると、酸はバイオフィルムの中に残り、歯の表層のエナメル質を溶かし始めます(脱灰)。これが虫歯の始まりです。つまり砂糖を多く摂取すると、虫歯菌数が増えて、歯が溶けやすくなるのです。ブラッシングなどによって早期にバイオフィルムを除去できれば、唾液の力などでエナメル質を修復(再石灰化)できますが、酸性状態が続くと再石灰化が間に合わず、虫歯へと向かっていきます。また、内服薬の副作用などで唾液の分泌が少ない人は、極めて虫歯になりやすくなります。

虫歯を予防する方法はありますか。
 虫歯を予防するには、砂糖の摂取を控えること、ブラッシングなどで歯の表面のバイオフィルムを除去することが2大原則です。加えて、フッ素などにより歯質を強化し、糖分摂取の時間をコントロールすることで、ほぼ確実に予防することができます。虫歯は私たちの普段の生活習慣に深く関係がある病気なのです。
 また、「キシリトール」は優れた代用甘味料で、甘さは砂糖に匹敵しますが、摂取しても虫歯菌に酸を作らせません。キシリトールを習慣的に摂取することで、口の中の虫歯菌数を減少させることが知られています。

2013年6月12日水曜日

最新の糖尿病治療薬


ゲスト/医療法人社団 青木内科クリニック 青木 伸 院長

最新の糖尿病治療薬について教えてください。
 糖尿病治療薬の最近の進歩は目覚ましいものがあります。飲み薬では、高血糖の時にだけすい臓からインスリンを分泌させ、正常血糖へ下げる「DPP-4阻害薬」があります。この薬は理論的には低血糖を起こさず治療できる新薬で、糖尿病の平均血糖の指標であるHbA1c値を1.0%前後下げます。この薬と同じ系統の注射薬も登場し、「GLP−1受容体作動薬」と呼ばれています。この注射薬はHbA1c値を1.6%前後下げます。現在は1日1回の注射が必要ですが、将来的には1週間に1回で済む注射薬も出る予定です。この系統の注射薬は、すい臓のインスリンを出す細胞を保護し、インスリンの分泌を弱らせない作用も持ち合わせているといわれています。
 一方、インスリン注射薬に目を向けると、「持効型インスリン(1回の注射で24時間効果を持続する長時間作用型インスリン)」があります。飲み薬の治療が効かなくなる症例でも、飲み薬をそのまま服用しながら、1日1回の持効型インスリンの注射を加えると血糖が改善する症例もあります。「混合型インスリン」は、持続型インスリンと超速攻型インスリンの合剤ですが、超速攻型インスリンの含有率が50〜70%の製剤が最近使用できるようになりました。食後血糖の高い症例を治療するのに便利なインスリンです。

糖尿病の治療について教えてください。
 糖尿病の治療が良好といえる目安はHbA1cが6.9%以下になっている場合です。糖尿病の患者さんの約半数が高血圧と脂質異常症(高脂血症)を合併しているといわれています。糖尿病を合併した高血圧の治療はとても重要で、血圧の治療目標値は130/80mmHg以下です。自宅で簡易血圧測定器を使用して治療に役立てる方法もあります。この場合使用する測定器は、指先や手首に巻くタイプのものではなく、上腕に巻くタイプのものをお勧めします。脂質異常症の治療目標値は、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が120mg/dl以下です。以上のようなさまざまな基準値を長期間保てば、眼底出血(失明)、腎臓の悪化(透析)、足の潰瘍・壊疽(えそ)による足の切断など糖尿病に由来する重症の合併症にならなくて済みます。それ以外にも脳梗塞(こうそく)、心筋梗塞などの予防にもつながります。

2013年6月5日水曜日

手のしびれ


ゲスト/札幌宮の沢脳神経外科病院 村上 友宏 医師

―手のしびれの原因にはどのようなものがありますか。
 しびれは、血液の流れが滞っていたり、神経がどこかで圧迫されていたり、神経自体が傷ついたりするときなどに起こります。その原因は大きく分けて二種類あります。
 一つは脊髄や神経根の障害です。代表的な病気として頸椎(けいつい)症や頸椎椎間板ヘルニアがあります。頸椎症は首の骨(頸椎)の一部に骨棘(こつきょく)と呼ばれる突起が生じ、頸椎椎間板ヘルニアは骨と骨の間にあるクッションのような柔らかい組織が飛び出し、それが脊髄や、手に分布する神経を圧迫するために手のしびれ、脱力が生じてきます。頭を前や後ろに反らすとしびれが強くなることがあります。
 もう一つは末梢(まっしょう)神経の異常で、その神経の支配している範囲がしびれます。代表的なのは、中年以降の女性に多い手根管症候群です。これは、正中(せいちゅう)神経が手首の関節の使い過ぎによる靭帯(じんたい)の肥厚や炎症により圧迫されておこります。
 このほか、脳梗塞などの脳の病変(特に、視床)や血流障害、糖尿病のような全身性の病気など、さまざまな原因で手がしびれます。

―頸椎症について詳しく教えてください。
 首は重い頭を支えており、動きもダイナミックです。そのため負担も大きく、これが骨棘(こつきょく)のできる原因であると考えられています。従って、高齢者に多いのが特徴で、ひどくなるとピリピリしたしびれからビリビリした痛みに変わったりします。進行すると、腕や指の動きも悪くなり、足がしびれたり歩きにくくなったりします。
 頸椎症は、頸部のエックス線で診断可能です。他にもコンピューター断層撮影(CT)、磁気共鳴画像装置(MRI)検査を行って脊髄や神経の圧迫の程度などを知ることができます。
 初期の治療は、神経やその周囲の炎症や痛みを抑える薬、筋肉を柔らかくする薬を服用して、症状を緩和します。首を固定するネックカラー(腰でいう、コルセット)をする場合もあります。腕の力がない、細かい指の動きができない、歩きにくい、排尿しにくいといった場合では、手術が必要になることがあります。
 頸椎症は、治療を行わなくても症状が軽減することもあり、「軽いしびれだから」と我慢している人も多いようですが、日常生活に不便を感じるようになったときはすぐに病院に相談してください。早期に治療すれば回復も早くなります。

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