2004年12月22日水曜日

「透析」について

ゲスト/元町泌尿器科 西村 昌宏 医師

透析について教えてください。

 腎臓は、体の中のいらなくなったものや水分を体外に排出し、血液の塩分調整などを行うのが主な機能です。ホルモンの分泌やビタミンDの活性化にも関係しています。この腎臓の働きが何らかの原因によって落ちてくると、徐々に体の中に毒素がたまり尿も減少します。このような状態を慢性腎不全といい、全身倦怠(けんたい)感、食欲不振、嘔吐(おうと)などの症状が出ます。さらに体内水分の増加から、うっ血性心不全、肺水腫、浮腫など、尿毒症と呼ばれる症状があらわれます。慢性腎不全になると、人工透析を導入しなければ、いずれ生命の維持が難しくなります。透析は、血管に二本の針を刺し、血液を体外に導き人工腎臓を通して、きれいな血液にして体に戻す治療です。腎臓自体の機能を高めるわけではなく、腎臓の代わりに体内の毒素や不必要な水分を排出することが目的です。透析は、症状にもよりますが、週に2、3回程度、約3~4時間かけて行います。透析治療が導入された患者さんの場合、腎臓移植を行う以外は、生涯治療を続けることになります。

人工透析というと、大変な治療に思いますが。

 たしかに患者さんには負担の大きい治療法です。しかし、透析治療を受けている患者数は、日本で20万人以上に上り、年々増加しています。治療法としては確立しており、感染症などのリスクも低く、治療成績も安定しています。透析治療を受ける人が増えている背景には、腎不全の原疾患である糖尿病患者の増加が挙げられます。かつては、慢性糸球体腎炎から腎不全となり透析導入していた人が多かったのですが、1998年に糖尿病性腎炎が逆転しました。透析人口の増加によって、透析を行う施設も増え、夜間透析や旅行先での透析治療の連携など、生活の質を維持する環境も整ってきました。かつては、難しいと思われていた高齢者への透析導入も最近では一般的になりました。透析導入後の生存年数も、年々アップしています。透析導入を決心するのは大変な覚悟が必要ですが、早い段階に開始した方が、結果的には体への負担は軽くてすみます。

2004年12月15日水曜日

「皮膚・皮下腫瘍(しゅよう)」について

ゲスト/土田病院 日下 貴文 医師

皮膚・皮下の腫瘍について教えてください。

 皮膚は表皮、真皮、皮膚附属器から構成されます。皮下には脂肪組織、結合繊、血管、リンパ管などがあり、これらを発生母体として、さまざまな腫瘍が発生します。腫瘍とは自律性を持った過剰な発育をする病変で、良性と悪性があります。良性、悪性の違いは、腫瘍細胞の浸潤度、増殖速度、転移や再発の有無、宿主に対する悪影響の程度などの総合判定によって決まります。粉瘤(ふんりゅう)は、最も頻度の高い良性腫瘍で、皮下に皮膚成分を含んだ袋があり、中にはアカが入っています。治療は局所麻酔をして袋を残さず完全摘出します。菌が付きやすく化膿(かのう)してから受診する人が多いのですが、この場合は一度切開して炎症が治まってから根治手術します。ソフトボール大まで成長することもありますが、なるべく小さなうちに手術をしたほうが患者の負担も少なくてすみます。ほかに比較的多く見られる腫瘍としては、脂肪腫があります。脂肪組織から発生した良性の腫瘍で皮下の深い部分にあり、大きくなると筋肉や神経周囲に入り込んでくるため、場合によっては全身麻酔が必要になります。

そのほかにはどんな腫瘍がありますか。

 脂漏(しろう)性角化症は、別名老人性疣贅(ゆうぜい)といい、皮膚の老化現象の一つといえます。黒や褐色の扁平(へんぺい)または半球状の腫瘍で、多発するのが普通です。大きなものは単純に縫い詰めることができないので、周囲の皮膚をスライドさせてカバーします。一般にアザと呼ばれる母斑(ぼはん)は、レーザー治療の対象となります。目から頬(ほお)にかけての紫色の母斑は、太田母斑といい、かつては治療が困難でした。現代ではレーザーでかなりきれいに治療できます。一方でレーザーが効果の無い母斑もあり、これらは外科的に切除します。皮膚悪性腫瘍は、たちの良い基底細胞がん、悪性度が中程度の扁平上皮がん、最も悪性度の高い悪性黒色腫(しゅ)の三種があります。悪性ですから、治療は徹底する必要があります。気になる皮膚の変化があれば、早めに受診して下さい。

2004年12月8日水曜日

「矯正器具の選択肢」について

ゲスト/宇治矯正歯科クリニック 宇治 正光 医師

歯科矯正の矯正器具が気になるという人は多いと思いますが。

 歯列矯正をするための主な器具としては、部分的に歯を動かしたり、顎(あご)を広げたりするのに使うプレート装置、上顎骨(がっこつ)が前に出てくるのを抑えたり、第一大臼(きゅう)歯が前に出るのを防ぐヘッドギア、そして、すべての歯にブラケット(装置)をつけてワイヤーをはめ、永久歯を移動させるマルチブラケットがあります。マルチブラケットは矯正治療においては不可欠な装置ですが、長期に渡り装着するため目に付きやすく、審美面で気にする人もいます。かつては金属製のブラケットしかありませんでしたが、最近ではクリアタイプや歯の色に合わせた、プラスチックやセラミックのブラケットが開発されています。しかし、プラスチック製は金属製に比べ強度で劣り、逆にセラミック製は硬すぎて歯を傷つける可能性があります。また、リンガルブラケットという、歯の裏側から矯正する装置もあります。他人には見えないので、審美的な面でこだわりのある人には好評ですが、話しづらい、食べづらいという欠点があります。いずれにしても、当初は違和感があったり、口内炎ができたりすることもありますが、微調整や慣れとともに、気にならなくなることがほとんどです。

違和感の少ないブラケットとしてどんなものがありますか。

 最近、開発されたもので「フリクションフリー(摩擦ゼロ)」のブラケットがあります。ブラケットとワイヤーの間に生じる摩擦を、ワイヤーが自由に動くシステムを採用することによって、ごくわずかな摩擦に軽減したものです。痛みや違和感が少なく、さらに矯正治療期間も短縮できる優れたブラケットです。しかし、金属製しかなかったために、目立たないものを望む人には不評でした。ごく最近、金属部分が従来の3分の1に縮小されたものが開発され、注目を集めています。
 矯正器具にはさまざまな種類があり、一長一短があります。価格も違いますから、矯正専門医とよく相談して、自分に合った器具を選びましょう。

2004年12月1日水曜日

「COPD(慢性閉塞=へいそく=性肺疾患)」について

ゲスト/大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 医師

COPDとはどんな病気ですか。

 「慢性気管支炎」と「肺気腫(しゅ)」を合わせてCOPD(慢性閉塞性肺疾患)と呼んでいます。いずれにしても、気管支内の空気の流れが悪くなる病気で、現在の日本では肺気腫の場合が圧倒的に多いです。呼吸によって取り入れた酸素は、肺を構成する肺胞を経て血液中に酸素として送られますが、肺気腫は、肺胞と肺胞を仕切っている壁が壊れる病気です。肺胞壁が壊れると隣り合う肺胞が一つの気腔になり、それを繰り返して徐々に気腔が広がります。肺胞を取り巻く壁にはガス交換をする血管が走っていますが、肺胞壁が壊れると血管も壊れてしまうため、ガス交換効率が悪くなります。さらに、肺胞が壊れると気管支を広げる力が弱くなり、気管支が閉塞します。結果として、体を動かすと息切れしたり、息苦しくなったりという症状が現れます。進行すると、安静にしていても呼吸困難を生じるようになります。

診断や治療法について教えてください。

 ゆっくりと進行する病気なので、息苦しさなどの自覚症状が出るころには、相当病状が進行しています。風邪やインフルエンザなどの感染症が発端で症状が現れることがあります。感染症治癒後も身体の異常が続くときは、呼吸器の専門医を受診することをおすすめします。肺気腫の診断は、肺機能検査が重要です。吸った空気を全力で吐いて、1秒間にどれくらい吐き出せるかの検査をして、70%以上を1秒間に吐き出せないと閉塞性障害があると診断します。また肺機能検査で分からないような微細な変化は、CT検査により分かる場合もあります。肺気腫の場合、壊れた肺胞は二度と元に戻りませんから、進行を止めることが主な治療となります。肺気腫の原因はほぼタバコと考えられます。喫煙者はもちろん、喫煙者の近くにいる非喫煙者が副流煙によって発病することもあります。治療のスタートは禁煙ですが、すぐに進行が止まるわけではありません。気管支拡張剤を使って呼吸を楽にしたり、病状が進んでいる場合は酸素を吸入する在宅酸素療法を行います。COPDを疑われたり、診断された人は、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを接種し、予防に努め、発症や進行を防ぎましょう。

2004年11月24日水曜日

「白内障」について

ゲスト/大橋眼科 大橋 勉 医師

白内障の症状、治療について教えてください。

 白内障は瞳の後ろにあるレンズ(水晶体)が濁るために起きる視力障害です。若い人に見られることもありますが、40歳以上の方に多く、もっとも多いのが加齢に伴う老人性白内障です。症状としては、眼(め)のかすみ、ガスのかかったような視力低下、明るい場所で見えにくいなどの自覚症状があります。治療には主に点眼薬が投与されますが、老化現象の一つなので、最終的には手術が必要になります。

白内障の手術はどのようなものですか。

 日本で行われている白内障の手術は年間80万件、すべての眼科手術の約8割に及ぶといわれております。現在もっとも行われている手術法は、水晶体を包んでいる袋を残し、袋の中の濁りを超音波で細かくして取り除き、その袋の中に人工レンズを挿入するものです。安全性の高い手術ですが、それぞれの眼によって症状、程度、状況が違うため、同じ白内障の手術でも、手術の難易度に差があります。手術のしにくい眼としては、小さい眼や奥眼(おくめ)、角膜の濁りがある眼、袋を支えている毛様体筋が弱い眼などが挙げられます。もっとも合併症が起きやすいのは、進行して真っ白になった白内障です。進行した白内障の濁りは非常に固く、超音波で細かくすることが難しかったり、袋を支える毛様体筋が弱くなっていることが多く、このため、袋が破れて、濁りが眼の中に落下するというような合併症が起こる可能性が高くなります。
 片方の視力が良いため、もう片方の進行した白内障を放置されている方が、最近多くいらっしゃいます。進行は左右バラバラということも多いので、「片方見えるから、まだまだ大丈夫」と放っておかず、早めに検査を受け、治療することをお勧めします。白内障手術の重度の合併症としては、眼内でばい菌が繁殖し、網膜自体が機能しなくなり、失明に至るケースがあります。これは数千人に1人というごく珍しい症状です。しかし、リスクを最小限に抑えるためにも、白内障があまり進行していないうちに手術を受けることをお勧めします。

2004年11月17日水曜日

「肥満の予防」について

ゲスト/大通り内科クリニック 小森克俊 医師

日本では肥満の人が増えているそうですが。

 日本の肥満人口は確実に増加しています。男性の場合はすべての年代で、女性の場合は40代以上になると肥満率が加速度的に増えます。肥満は、高脂血症、高血圧、動脈硬化、糖尿病など、多くの疾病の原因となります。肥満に至る要因の第一は、食生活の欧米化による、栄養内容の変化です。繊維質や糖質が減り、脂肪の摂取が増えています。特に動物性の脂肪を取り過ぎる傾向にあります。日本人は、元々肥満に陥りやすい人種です。かつては、日本古来の米や野菜を中心とした食生活が肥満を防いでいましたが、食生活の変化に運動不足が加わり、肥満人口が急増しています。
 ひと口に肥満といっても、お尻や太股(もも)などを中心に脂肪がつく「皮下脂肪型肥満」と、お腹回りがでっぷり太くなる「内臓脂肪型肥満」の2種類があります。内臓脂肪型肥満は、皮下脂肪型にくらべて糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化、脂肪肝など多くの疾病を伴いやすく、より危険なタイプの肥満といえます。

肥満の有効な予防法を教えて下さい。

肥満の人の多くは、元々肥満になりやすい体質である可能性が高いのです。
  1. 両親か、どちらかが太っている
  2. 幼少期に太っていた
  3. 血縁者に糖尿病、高血圧、心臓病(狭心症含む)の人がいる
  4. 脂っぽいもの、甘いものが好き
  5. 間食、夜食、どか食いが多い
  6. 飲酒量が多い
  7. 車が足がわり(運動嫌い)

以上のことにあてはまる項目が多いほど肥満体質といえます。
肥満を予防するには、食生活に関して以下のことを心掛けます。
  1. 食事の目的を考える
  2. 食べる時間や場所を決める
  3. 今食べて良いかどうかを考える
  4. 食事の間隔を空け過ぎない
  5. 外食を減らす
  6. 寝る前2時間は食べない
  7. 砂糖・油を用いた料理を避ける
  8. 低エネルギー食品の活用
  9. 食べた物は必ず記録する
  10. ゆっくりと良く噛(か)んで食べ、量を減らす
  11. 「あと一口、もう一口」「今日は特別、これぐらいは」はやめる。
加えて、適度な運動をして、ストレスを減らします。過激なダイエットより、毎日の習慣づくりが肥満防止に有効です。

2004年11月10日水曜日

「しわの治療」について

ゲスト/緑の森皮膚科クリニック 森 尚隆 医師

眉間(みけん)や口元など、加齢とともに深くなるしわの治療は可能ですか。

 最近、しわの治療法として一般に認識され始めたのが、ヒアルロン酸、コラーゲンなどの注入です。ヒアルロン酸やコラーゲンは、もともと人体のタンパク質と結合し、細胞のすき間を埋め、肌組織の保湿に役立つ働きをします。化粧品の保湿成分としても、よく知られています。肌のハリや弾性を保つには不可欠なもので、皮膚内に注入すると体内にもとから存在する自身のヒアルロン酸やコラーゲンと融合し、皮膚に膨らみを持たせ、しわを隆起させます。体内組織への適合性も高く、注入後は自然に皮膚組織に融合します。ヒアルロン酸注入の特徴としては、しわが浅いか、中程度か、深いかによって、使用するヒアルロン酸の分子量が違うことです。注入後は少しずつ水分に変化し、体内には残留せずに消滅しますので、効果の持続のためには定期的な注入が必要になります。持続は個人差があり、6カ月~1年程度といわれています。
 コラーゲン注入に関して最近注目されているのが、ヒューマンコラーゲンです。人の皮膚から摂取した線維芽細胞を培養させたもので、従来の牛由来のものより刺激が少なく、アレルギー反応がほとんど見られないのが特徴です。

そのほか、どのような治療法がありますか。

 日本の厚生労働省にあたる、アメリカのFDA(食品医薬品局)で、ボトックスがしわを回復させる正式な治療方法として認可されました。ボツリヌス菌という人体に無害なタンパク質の一種を注入する治療法です。ボツリヌス菌は神経細胞から筋肉への情報を伝達する物質・アセチルコリンの放出を抑える作用があり、筋肉の動きを麻痺(まひ)させるため、額や眉間、目尻のしわができにくくなります。ボツリヌス菌の毒素を注射しますが、治療で使用するのは菌からできた毒素なので、人体に害はありません。この治療法は、片側顔面けいれんや眼瞼(がんけん)けいれんの対症療法にも採用されています。いずれも健康保険の適用外となるので、専門医で十分に説明を聞き、納得してから治療を受けてください。

2004年11月4日木曜日

「顎(がく)関節症」について

ゲスト/北大前矯正歯科クリニック 工藤 章修 歯科医師

顎関節症について教えてください。

 顎関節症とは、総括的な病名であって、タイプ、重症度によって、症状や治療法はさまざまです。共通する3つの兆候としては、咀嚼(そしゃく)時の顎関節や周辺の筋肉の痛み、顎(あご)を動かしたときの雑音、痛みや機能の障害によって口を大きく開けることができない、開閉が困難になる、という症状が挙げられます。この中の1つ以上が当てはまれば、顎関節症である可能性が強いのです。ただし、症状に当てはまっても、関節リウマチなど原因がはっきりしているものは、顎関節症と診断されません。日本人のおよそ10%が顎関節症であるといわれており、年代は若者からお年寄りまでさまざまです。

原因と治療方法について教えてください。

 発症のきっかけはさまざまですが、10代~30代など若い患者さんの場合、子ども時代の習慣が原因であることがあります。人工哺(ほ)乳や柔らかい食べ物を好むことによって顎の正常な生育が阻まれ、強い関節を育てることができなかったり、頬杖(ほおづえ)や指しゃぶり、うつぶせ寝、不良姿勢によって、顎関節に異常が生じることもあります。中高年に多いのは精神的なストレスによるものです。気が付かないうちに歯を食いしばってしまい、顎関節に負担がかかります。さらに不安感や多忙による疲労、不規則な食事時間や睡眠時間、短時間の食事なども大きく関係しています。また、あくびやカラオケの歌い過ぎ、硬いものを食べたことによって、突発的な顎関節症になる場合もあります。咬(か)み合わせの異常から発症する場合もありますが、咬合(こうごう)異常の人が必ずしもなるわけではありません。一般的な治療法としては、軽い症状であれば、薄いプラスチックのプレートを歯にかぶせます。投薬や湿布などの治療も有効です。重症の場合は外科的処置が必要になる場合もあります。顎関節の診断・治療は専門医の受診が必要です。かかりつけの歯科医、矯正医に相談し、顎関節外来や顎関節治療に詳しい口腔(こうくう)外科医を紹介してもらいましょう。

2004年10月28日木曜日

「上手な病院のかかり方」について

ゲスト/北海道大野病院付属駅前クリニック 古口健一 医師

上手な病院との付き合い方について教えてください

 患者と医師は、気軽に質問や相談ができ、互いに信頼できる関係が理想です。患者と医師が「良い関係」であれば、専門外の症状で診察が必要な場合に他科の医師や病院を紹介してもらったり、診療時間外の変調時に電話で相談したり、指示してもらうこともできます。めまいや頭痛など「何科を受診すれば良いのか分からない」という場合も、取りあえず普段かかっている主治医を訪ねれば、適切な受診先を紹介してくれます。
 また、治療が長期にわたったり、進行する病気である場合、将来を見据えた治療計画が必要です。入院、通院、施設入所、自宅療養など、それぞれの事情、時期で選択することになります。主治医やかかりつけの病院の相談窓口で、じっくり話し合い、患者にとってベストとなる選択をしましょう。このような信頼関係を築くためには、日ごろのコミュニケーションが肝心です。

患者側が気を付けるべき点はありますか。

 初めての受診では、これまでの状況を正確に伝え、今までかかった病気や病院を伝えます。「おくすり手帳」などの薬歴簿を用意しておくことも重要です。複数の病院にかかっている場合は、必ず医師に伝えてください。投薬の重複や副作用に対処する必要があります。
 重大な治療方針の決定が必要な場合、他の病院の医師に意見を聞く「セカンド・オピニオン」を申し出ることがあります。主治医に遠慮する必要はありません。インフォームド・コンセントを実践している医師であれば、快く賛成してくれるでしょう。もし、不快感を示す医師であれば、時期を見て病院を替えても良いでしょう。しかし、これは次々と病院を替える「ドクターショッピング」とは違います。ドクターショッピングに陥る患者は、治療に時間のかかる疾病の場合が多く、すぐに結果が出ないことで不信感を募らせるのですが、いくつもの病院を渡り歩くことは、決して患者側の利益になりません。よく話し合って、医師との信頼関係を結べば、このような事態は避けられます。

2004年10月20日水曜日

「若年に急増する子宮頚(けい)がん」について

ゲスト/はしもとクリニック 橋本 昌樹 医師

子宮頚がんが若い人に増えていると聞いたのですが。

 子宮がんは、子宮入り口の頚部(けいぶ)のがんと、子宮奥の体部の子宮体がんに大別されます。さらに、子宮頚がんは扁平(へんぺい)上皮がんと腺がんに分類されます。およそ9割の子宮頚がんが扁平上皮がんですが、その原因の多くにパピローマウイルスが関与しているといわれています。
 パピローマウイルスは100種類以上の亜種に分類されますが、そのうちの数種が特に発がんに関与しているとされています。このウイルスは性行為によって感染しますので、子宮頚がんの多くは性感染症が関係しているといえるでしょう。最近は性感染症患者の低年齢化・蔓延が指摘されていますが、同じ経路で感染するパピローマウイルスも感染が低年齢化し、感染機会が増加していると推測されます。
 実際、子宮頚がん罹患(りかん)者の総数が減少している中で、若年罹患者は増加しているという報告もあります。

パピローマウイルスに感染した場合や、子宮頚がんの症状を教えてください。

 ウイルスに感染したのみでは自覚症状はありません。子宮頚がんになった場合でも、ごく初期の上皮内がんの状態では自覚症状はありません。がんが上皮を超えて浸潤を始めると、不正出血が現れます。しかし、不正出血が起こるようになってからでは病状が進行している場合が多く、進行がんの治療には後遺症の残る大きな手術や放射線治療などが必要になります。比較的小さな処置・手術で完治が期待できる早期がんのうちに発見するためには、無症状であっても検査することが大切です。検査は子宮頚部細胞診で、一般的には子宮(頚)がん検診と呼ばれており、がんの前駆病変から見つけることが可能です。子宮頚がん検診費用の公的補助は30歳以上となっていますが、これは、以前は30歳未満の人が子宮頚がんになる可能性が低かったためです。性交渉の経験のある方は、年齢にかかわらずパピローマウイルスに感染している可能性があります。大事に至る前の予防策として、補助は受けられなくても1~2年に1回は専門医を訪れ、子宮がん検診を受けることをお勧めします。

2004年10月6日水曜日

「治療が難しい筋肉の痛み」について

ゲスト/札幌一条クリニック 後藤 康之 医師

難治性の筋肉痛の疾患について教えてください。

 代表的なものとして、筋筋膜性疼痛(とうつう)症候群があります。肩から首にかけて、また腰から背中にかけて、いわゆる「凝った」状態で慢性的な痛みを伴います。なかなか原因が見つからず、湿布などの治療でも快癒しません。また、マッサージや鍼灸(しんきゅう)によって、一時的に楽になることがありますが、すぐに痛みが再発してしまいます。働き盛りの年代に多く、一日中パソコンに向かっているなど、姿勢や生活環境が原因のこともありますが、そのような原因が見当たらないこともあります。むしろ、心理的な要因が深くかかわっており、悩みや不安が痛みの引き金になっている場合が多いのです。心因性である場合は痛みの治療だけでなく、心理療法や投薬などを併せて行うことが必要です。痛みの治療としては、星状神経節ブロックやトリガーポイント注射(局所注入)などを行います。すぐに効く人、何度か行ううちに痛みがなくなる人、なかなか改善しない人など、人によって効果はさまざまです。

線維筋痛症について教えてください。

 慢性の全身疼痛症で、日本国内で認識されはじめたのはここ10年ほどです。さまざまな検査を行っても、これといった原因がなく、しかし患者は眠れないほどの痛みに悩まされるという難病です。医療機関での認知度も低く、診断名がつかずに苦しんでいる人が多くいると推測されます。主な症状としては、3カ月以上継続する全身の慢性的な疼痛、不眠、頭痛、疲労感、こわばり、口や目の乾燥、しびれ、便通異常などです。年代、性別はさまざまですが、特に40代、50代の女性に多く見られます。身体的所見が見つからないため周囲の理解が得られず、痛みで仕事や家庭生活に支障を来し、痛みと不安感から抑うつ状態に陥る人も多いのが実情です。リウマチや慢性疲労症候群を併発している症例も報告されています。現時点では治療法が確立されておらず、痛みを和らげ、不安を取り除く治療が試みられている状態です。原因不明の痛みに悩まされている人は、ぜひ一度、相談してください。

2004年9月22日水曜日

「子ども、若者に急増する異常な咀嚼(そしゃく)・嚥下(えんげ)」について

ゲスト/石丸歯科 石丸 俊春 歯科医師

咀嚼、嚥下について、教えてください。

 物を噛(か)んだり、飲み込んだりがスムーズにできない状態を咀嚼・嚥下障害といい、高齢者に多いことは知られています。最近は年代を問わず「きちんと噛んで飲み込む」ことのできない人が急増しています。特に目につくのは子どもや若者です。自覚症状はなく、虫歯治療などで訪れ、一見問題なく健康に見えますが、診察すると異常咀嚼、異常嚥下の症状がみられます。咀嚼と嚥下は、食事時に咀嚼筋と舌筋を中心とした口腔(こうく)周囲筋の一連の総合作業によって成り立ち、その筋肉は生活習慣の中で鍛錬されます。子どもや若者が咀嚼、嚥下の異常をきたすのは、生活習慣に大きな問題があるからです。ファーストフードや、めん類など「きちんと噛まないで飲み込める」食事が中心になり、さらに姿勢の悪さやゲーム、パソコンなどの習慣が口腔周囲筋の衰えを招きます。また、子どものころから食事時に水や炭酸飲料などを用意し、流し込むような食事をしていると口腔周囲筋が発達しません。

咀嚼、嚥下異常でどのようなことが起こりますか。

 歯列不正、顎(がく)関節症、発音障害、口呼吸、虚弱体質の原因となります。そのまま高齢者になると、咀嚼、嚥下障害に陥り健康を害しやすくなります。テレビなどを見ているときに口をポカンと開けている、舌足らずの発音で特に「タ行・サ行」の発音が不明瞭(りょう)、むせやすい、飲み物がないと食事ができないなどは、注意信号です。
正しい嚥下の過程は、
  1. よく噛んで唾液(だえき)と交ざった食塊を形成する、
  2. 食塊を舌の上に移しこぼさないように保持する、
  3. 食塊を口腔から咽頭(いんとう)へ送る、
  4. 食道へという順になります。
また、食事のたびに、正しい姿勢、食事に十分な時間を掛け、左右均等に使って良く噛む、バランスのとれた食物の選択、飲み物無しで飲み込む、舌だけの力で飲み込むという点に注意を払いましょう。日ごろから、意識的に正しい咀嚼と嚥下、食事習慣を心掛けることによって、口腔周囲筋の機能が発達します。自分自身や子どもの咀嚼、嚥下に不安があったら、一度専門医を受診することをお勧めします。 

2004年9月15日水曜日

「胃食道逆流症(GERD=ガード)」について

ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳典弘 医師

胃食道逆流症について教えてください。

 胃の内容物が食道内へ逆流し、胸焼けやげっぷなどの症状を呈する疾病で、GERD(ガード)ともいいます。内視鏡で、食道粘膜に炎症所見が認められる「逆流性食道炎」と、胸焼けなどの酸逆流症状がみられながらも粘膜障害のない「内視鏡陰性GERD」の2タイプがあります。GERDの要因としては、胃から食道への逆流を防止する下部食道括約筋という筋肉の緩み、腹圧の上昇により胃の内圧が食道の内圧より高くなったとき、あるいは胃食道の運動機能や分泌機能の低下などがあげられます。かつては日本人に少ない疾病でしたが、食生活やライフスタイルの欧米化によって、近年増加の傾向にあります。特にアルコール、喫煙、肥満は大きな要因として報告されています。胸焼けは逆流性食道炎の特異的な症状とされてきましたが、最近は胸焼けがあるのに食道に炎症のない「内視鏡陰性GERD」が注目されています。GERDの患者の半数がこれにあたるともいわれ、胸焼け以外にも胸痛、喘息(ぜんそく)様発作、せき、のどの違和感などを訴えることもあります。また、肩こり、背部痛、口の苦み、夜間の発汗などがGERDによる症状の場合もあります。

診断、治療方法について教えてください。

 まず、問診を行い胸焼けの有無やどのようなときに症状が出現するのかなどを確認します。さらに、食道をはじめとする上部消化管に、他の病変の合併がないかも含めて、内視鏡検査で確認します。治療は一般に内科治療で行います。予防の上で肝心なのは生活指導です。脂肪分の多いもの、甘いもの、アルコール、喫煙を控え、肥満にならないように指導します。腹圧を増加させるような前屈みの姿勢や、ベルト、帯、下着など締め付けるような服装もできるだけ避け、食後3時間は横にならないようにします。薬物治療としては、消化管運動機能改善剤、胃酸の分泌を抑制する制酸剤などを用います。逆流性食道炎の場合、内科治療で思わしい改善が認められない場合は、逆流防止手術による外科治療が考慮されます。手術は、最近では体への負担が少ない腹腔鏡でも行われるようになり、入院期間の短縮が図られています。 

2004年9月8日水曜日

「傷は乾かしてはいけない」について

ゲスト/宮の森スキンケア診療室  上林 淑人 医師

すり傷の治し方を教えてください。

 けがで生じた傷、特にすり傷(挫傷や擦過症)は、乾燥させれば早く治ると考えている人が多いのですが、まったく逆です。すり傷を乾かすとかさぶたができますが、治りきっていない状態ではがすと、出血しやすいジクジクしたなま傷が姿を現します。かさぶたの下には湿潤な傷があり、それをかさぶたが覆い乾燥を防いで傷を治すための環境を作っているのです。それならば、最初から傷を乾かさずに、かさぶたを作る手間を省けば、早く傷が治るということになります。早く治れば、それだけ瘢痕(はんこん)が少なく、きれいに治癒します。また、すり傷などの表面には、傷の再生に必要な表皮細胞や線維芽細胞が多数存在しています。細胞が生きていくには水分が不可欠です。さらに、これら表皮細胞や線維芽細胞は、サイトカインという傷を治すのに必要な成分を分泌します。乾燥した環境では、表皮細胞や線維芽細胞は生きていけず、それらから出るサイトカインの効果は発揮されません。

どのような治療法が正しいのでしょうか。

 外用剤をたっぷり塗って、すり傷が乾くのを防ぎます。主に抗生物質軟膏(こう)が用いられますが、深い傷の場合は潰瘍(かいよう)治療剤を使うこともあります。これらの第一の目的は創面を湿潤に保つこと、そして本来の役割である感染防止と治癒促進効果が加わり、傷は早く治ります。外用剤を塗った上から、傷に密着しない被覆材(ガーゼ付き絆創膏など)を用います。被覆材が傷に密着すると、くっついてはがす際に再び傷を作ることになり治癒が遅れます。一般的にガーゼは乾燥させやすく、傷とくっつきやすい特徴がありますから、すり傷を覆うものとしては不適ですが、外用剤を多めに塗れば、傷にくっつくことなく使用できます。また、最近は傷にくっつかない被覆材も開発されていますから、それらを選ぶといいでしょう。
 最近、「ラップ療法」という治療法が話題に上っています。傷を消毒せず水洗いしてラップで覆うという方法です。一部には有効ですが、深い傷や感染を伴う場合は逆効果になることもあります。傷が深い場合は、専門医を受診してください。

2004年9月1日水曜日

「月経困難症と子宮内膜症」について

ゲスト/アップルレディースクリニック 工藤 正史 医師

月経困難症の原因について教えてください。

 日常生活を制限されるほどの月経困難症は、女性の約5%といわれています。その原因は、子宮筋腫(きんしゅ)、子宮腺筋症、子宮内膜症、クラミジア感染などの後遺症による骨盤腹膜の癒(ゆ)着性病変によるものといった器質的疾患が認められる場合と、器質的疾患が認められない機能的月経困難症とに分類されます。

最近増えている、子宮内膜症について教えてください。

 子宮筋腫は子宮に、卵巣腫瘍(しゅよう)は卵巣にできるものですが、やっかいなのは子宮内膜症。これは、子宮という名が付いているのに、子宮はもちろんのこと、卵巣、卵管、膀胱(ぼうこう)、腹膜、膣壁、直腸、まれに肺など、子宮以外の場所にもできます。子宮内膜は女性ホルモン(エストロゲン)で厚くなり、妊娠しない場合は、はがれて外に出る、これが月経の出血です。これが膀胱の中だと、そこでも月経と同じことが起こり、月経時に血尿になります。卵巣の中でも月経と同じことが起こりますが、子宮や膀胱と違い排出される出口がないため、月経の回数を重ねるたびに卵巣は腫(は)れて嚢腫(のうしゅ)となり、痛みは強くなります。たまっているのは、本来月経時に排出されるはずの血液で、血は古くなると固まりチョコレートに似た状態になるため、チョコレート嚢腫と呼ばれています。歌手の宇多田ヒカルさんもなったことで有名です。甘い名前ですが、現実は少しも甘くありません。非常に月経痛がひどく、周辺と癒着しやすく、不妊症や子宮外妊娠の原因になる厄介な疾病です。治療法としては、極度の月経痛を避けるために、投薬によって妊娠や閉経の状態を人工的に作り出し、月経を止めます。症状が進んでいれば、手術を行う場合もありますが、癒着が強くなければ、腹腔鏡手術という小さな切開創ですむ手術も可能で、入院期間も少なくてすみます。
 最近、ますます女性の妊娠、分娩(ぶんべん)回数が減り、高齢出産が進んでいます。薬で作り出すのではない本当の妊娠状態の期間が減っているため、子宮内膜症の増加の原因になっていると考えられています。

2004年8月25日水曜日

「義歯とインプラント」について

ゲスト/さとうのりゆき歯科クリニック 佐藤 範幸 歯科医師

義歯について教えてください

 失った歯の替わりを果たすのが義歯で、ブリッジや部分入れ歯、総入れ歯があります。たいていの場合、作ってしばらくは正常に機能しますが、時間がたつにつれ、痛い、しっかり噛(か)むことができない、すぐに外れる、ぴったりフィットしない、見た目が悪いなどの問題が生じることがあります。主な原因の一つは、歯が無くなったことによって歯根が徐々に吸収され、顎骨(がっこつ)が萎縮(いしゅく)するため、顎骨と義歯が合わなくなることによるものです。また、義歯の場合、粘膜上に載っている状態のため、元々噛む力自体は弱いのです。義歯を入れた後も半年に一度程度の検診を受け、調整をする必要があります。

インプラントについて教えてください。

 インプラントとは、人工歯根のことです。顎(あご)の骨に人工歯根となる金属(チタン)を埋め込み、それを土台にして、人工の歯を取り付けます。インプラントと顎の骨がしっかりと結合しているため、安定感があり、咀嚼(そしゃく)や会話がスムーズにできます。また、見た目も自然で、顎骨が萎縮することもあまりありません。インプラント治療をするには手術が必要です。2本の装着に40~50分程度の時間がかかり、局所麻酔で行います。インプラントが骨にしっかりと結合するまで、6~24週間程度かかり、その後歯となるヘッド部分を装着します。歯が無くなって時間がたっている場合、顎骨が吸収されインプラントの装着が難しいこともあるので、専門医と相談してください。また、インプラント治療は健康保険適用外なので、治療費を含む詳細については納得のいくまで説明を受けることをお勧めします。喪失した歯をすべてインプラントにする必要はありません。総入れ歯や数本の歯が無い場合、一部をインプラントにするだけで、義歯を安定した状態で使用することができます。インプラントも、長期のメンテナンスは必要になるので、定期的な検診は受けてください。

2004年8月11日水曜日

「不安や緊張を感じやすい人の治療法」について

ゲスト/さっぽろ心療内科クリニック 加藤 亮 医師

不安や緊張を感じやすい人について、教えてください。

 「人前で緊張して話せない」「視線が気になって顔を合わせられない」「不安で電車に乗れない」「不潔な気がして、つり革に触れない」。このようなことは、多かれ少なかれ、だれにでもあるものです。しかし人によっては、非常に強く感じ、これを苦にして悩み、改めようとして、さらに深く悩むという悪循環に陥ります。こうなると神経症と診断されます。
 神経症にはいくつかのタイプがあります。一つは、身体的な訴えが、頭痛、めまい、腹部不快感などで、わずかな身体の不快感を病的と思い込み、これに注意を集中し、どんどん症状を増強するタイプです。
 二つ目は、あることを恐怖しながらも、反面、恐怖を打ち消そうとして、心理的葛藤(かっとう)に陥るタイプです。対人恐怖、赤面恐怖、閉所恐怖、不完全恐怖などがあります。
 三つ目は、急激に強い不安に襲われ、動悸(どうき)、呼吸困難、めまい、ふるえなどの症状が起こるタイプです。

治療法について教えてください。

 不安や緊張を和らげる薬物療法は、とても有効で、薬だけで良くなる人もいます。しかし心理療法を併用することも多く、このような方々には森田療法が効果的と思われます。森田療法とは、森田正馬博士が大正時代に創始し、日本で発展し、国際的にも評価の高い治療法です。治療の基本は、症状や悩みを無理に打ち消そうとせず、自分がやるべき行動に気持ちの中心を移していくようにして、その過程で症状が改善されるというものです。
 また、このような森田療法の考えに基づき、神経症の症状や悩みを共に克服しようとする「生活の発見会」という自助グループがあり、全国各地で自分らしい健康な生活を目指して活動しています。不安や緊張を強く感じたら、一人で悩んでいないで、一度専門医に相談してください。

「つめ・かかとの水虫」について

ゲスト/つちだ消化器循環器内科 土田敏之 医師

水虫について教えてください。

 この夏は久しぶりに気温の高い北海道ですが、気温とともに湿度も高く、水虫が増殖しやすい環境です。日本人の5人に1人がかかとや足指の間の水虫で、10人に1人がつめの水虫になっています。また、水虫患者の、3人に1人は家族に感染者がいます。患者の皮膚からはがれ落ちた角質層には水虫菌が生きたまま残っており、2週間も生き続けるため、玄関マット、床、ソファ、カーペット、バスマット、寝具などを介して水虫がまん延するのです。特に付着部分に傷があると感染しやすくなります。水虫は白癬(はくせん)菌というカビの仲間で、皮膚やつめ、毛に含まれているケラチンというタンパク質を栄養源に寄生します。生暖かくじめじめした場所を好み、そこで増殖します。

治療・予防法を教えてください。

 一般的には水虫用の塗り薬を使用します。また、日常生活では次の点に気を付けます。1.足を石鹸(けん)で洗い、指の間もよく洗う。2.靴下や履物は通気が良いものにする。3.掃除や洗濯はこまめに行う。4.家族の水虫も一緒に治療する。これらのことを実行した上で根気強く治療することが大切です。しかし、治ったと思った水虫が繰り返し発症することも多いのです。この場合疑わしいのはかかととつめの水虫です。角化型といって足の裏、特にかかと部分の角質がザラザラと厚く、乾いたようになるタイプの水虫があります。また、つめ水虫型はつめの中に水虫菌が入り、つめが厚くなったり、白っぽく濁ったり、ボロボロになったりします。両方ともかゆみはなく、塗り薬が浸透しません。これらの型には、水虫専用の飲み薬を使います。軟膏を塗っても毎年再発する人はかかとやつめに白癬菌が残り、再発を助けている可能性があります。2000年の足の疫学調査では、つめに水虫のある人が48%にも及びました。指の間を軟膏できれいにしても、菌を供給し続けるつめ・かかとの水虫を退治しない限り、夏がくる度に足がかゆくなるということを繰り返します。患部にかゆみが無くても放置せず、つめ、かかとの水虫もしっかり治療しましょう。

2004年8月4日水曜日

「乾癬(かんせん)」について

ゲスト/緑の森皮フ科クリニック 森 尚隆 医師

乾癬について教えてください。

 難病の一つといわれる乾癬とは、皮膚の入れ替わりが早くなる疾患で、結果として赤く盛り上がった皮疹(ひしん)ができます。皮疹は表面がカサカサで、主にひじやひざ、髪の毛の生え際、腰など、外部からの刺激が当たる部分にできやすく、つめが侵されることもあります。日本では、1000人中2~3人の割合で発病しているといわれ、決して珍しい病気ではありません。残念ながら原因はわかっていませんが、遺伝子的因子と環境因子の両方が発症に関係しているのではと考えられています。日焼け、薬剤、感染、精神的なストレスなどで症状が悪化することがあります。

具体的な治療法を教えてください。

 外用療法として、軽症の場合はステロイド軟こうやビタミンD3軟こうで治療します。重症の場合は、ビタミンA誘導体や、免疫抑制剤などを投薬します。紫外線療法としては、PUVA療法とUVB療法があります。PUVA療法はソラレンという薬剤を外用または内服し、それから長波紫外線(UVA)を照射して、皮膚に反応をおこさせ治療する方法です。週に1~3度定期的に繰り返す必要があります。UVB療法は中波紫外線(UVB)を照射する方法で、PUVA療法のような前処置はありません。しかしUVBには日焼けを起こす紫外線が含まれているため、大量には照射できず、効果はPUVA療法に劣ります。最近は、日焼けを起こす部分をカットし、効果のある波長だけを照射するナローバンドUVB療法が注目されています。ソラレンなどの紫外線吸収剤の内服が必要なく、遮光など生活上の制限も必要ありません。また、副作用も少なく短時間で終了します。皮膚深部への到達性の高いUVAで構成されたPUVAと短い波長で構成されたナローバンドUVBの2種類を、症状に合わせて治療する方法も効果的です。紫外線療法は乾癬のほかに、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)、尋常性白斑(はくはん)、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症などにも有効といわれています。乾癬の特徴は、良くなったり悪くなったりを繰り返すことです。治療によって良い状態にして、悪化しないようにコントロールすることが大切です。

2004年7月28日水曜日

「歯の治療による金属アレルギー」について

ゲスト/庄内歯科医院 庄内淳能 歯科医師

歯の治療と金属アレルギーについて教えてください。

 時計やアクセサリーなどの金属を身に着けると、接触部分に炎症や湿疹(しっしん)(接触性皮膚炎)が起きたり、ただれてしまったりという人が、最近は特に増えています。汗などによりイオン化した金属がアレルゲンとなって、皮膚炎を引き起こすのです。これと同様の症状が歯の治療に使用する金属でも起こります。口の中は唾(だ)液で常に水分のある状態なので、金属の成分は多かれ少なかれ溶出する環境にあります。溶け出した金属は体内に蓄積され、一定量を超えると皮膚に何らかの異常が生じます。口腔(こうくう)内の粘膜に炎症や湿疹がある場合は、金属冠が原因と推察しやすいのですが、唇のまわりや顎(あご)、首など、あらゆる場所に出る可能性があります。その場合、原因が特定されづらく、長年原因不明の湿疹として悩んでいるという人も多いのです。特に手のひらや足の裏に水泡(すいほう)状の湿疹が繰り返し生じる場合(掌蹠膿疱症=しょうせきのうほうしょう)は、水虫と勘違いして、皮膚科を訪れる人がほとんどです。また、審美的にも悩む人が多い金属冠(クラウン)などの辺縁歯肉が黒ずんでしまうのも、金属イオンの蓄積によるものです。

どのように対処すれば良いのでしょうか。

 アレルギー体質の人、原因不明の湿疹などに悩んでいる人で、歯の治療に金属を使用している人は、特に気を付けるべきです。歯科医によっては、どの金属によってアレルギーが生じるのか調べるためのパッチテストを実施しているところがあります。自分の体質を知るためにも、一度検査しておくといいでしょう。歯の治療に使用している金属にアレルギー反応があると分かった場合は、セラミックやハイブリッドセラミックなど、非金属材料を使用すると、多くの場合症状が改善します。しかし、これらは保険適用外となってしまいます。保険が適用されるプラスチックを用いることも可能ですが、強度に欠けるのが難点です。いずれにしても、自分自身の健康を取り戻すためなので、主治医と十分に話し合って、納得のいく治療方法を見つけてください。また、まれに口腔内の金属に電流が生じ、舌痛を起こす人がいます。原因不明の舌のピリピリした痛みに悩んでいる人は、一度歯科医に相談することをお勧めします。

2004年7月21日水曜日

「糖尿病による合併症を予防する数値管理」について

ゲスト/青木内科クリニック 青木 伸 医師

糖尿病について教えてください。

 糖尿病は、細胞内に糖を取り込み、血糖値を下げる働きのあるホルモン・インスリンが作用不足で、継続的に血糖値の高い状態になる疾患(しっかん)です。初期には自覚症状がなく、かなり進行してからのどが渇く、倦怠(けんたい)感などの症状が現れます。検診などで糖尿病の診断を受けても、よほど進行していない限り無症状の人がほとんどです。しかし、症状が無くても血糖値が高い状態を放置すると、やがて血管や神経などに合併症が起こります。合併症は腎臓や目、神経に現れ、人工透析が必要になったり、失明、足の切断など、重症化することもまれではありません。また、動脈硬化が進み、心筋梗塞(こうそく)や脳卒中の原因になることもあります。糖尿病による合併症は一度発症してしまうと完治が難しく、命にかかわることも多い疾患です。

合併症を予防するための注意点を教えてください。

 糖尿病の治療は、合併症の発症・進行を予防するために血糖をコントロールすることが基本となります。具体的には、食事療法、運動療法、薬物療法の3つで行います。初期のうちに、主治医の下で適切な治療を受け、生活習慣を見直せば、合併症は予防できます。治療と自己管理が適切かは、数値で判断できます。HbA1c(過去1~2カ月の平均的血糖値)は重要で、糖尿病の場合は6.5%以下に維持します(正常値は5.8%以下)。実際には難しいと思うかもしれませんが、医師の下できちんと管理を行っていれば、保てる数値です。数値を維持できれば、長期に支障なく生活できます。また、糖尿病患者の約半数は高脂血症や高血圧症を合併しています。高脂血症予防には、糖尿病の場合総コレステロール値200mg/dl以下を目標に(健康な場合は220mg/dl)、また狭心症のある人は180mg/dl以下に保ち、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞を防ぎます。中性脂肪値は糖尿病の場合、120mg/dl以下の維持を目指します。血圧については、糖尿病による腎臓病のある人は、125/75mmHg以下に維持します。糖尿病の合併症を予防するには、これら血糖値以外の検査値にも注意を払う必要があります。

2004年7月14日水曜日

「正常眼圧緑内障」について

ゲスト/札幌エルプラザ阿部眼科 阿部 法夫 医師

正常眼圧緑内障についておしえてください。

 最近は、人間ドックや各種健診で眼底写真を撮る病院や検査機関が増えてきました。検診の結果、「緑内障疑い」とあって、驚かれる方も多いのではないかと思います。昔から、緑内障は「眼圧が高く失明する」眼病として恐れられていますから、無理もありません。しかし、最近は病気に対する概念の変化から、眼圧が高い低いに関係なく「視神経の束が眼球に向かう所(視神経乳頭部)の病気」を緑内障としてとらえるようになりました。したがって緑内障の診断は、眼圧、視神経乳頭、隅角(角膜や水晶体を透明に保つ房水の排出口)、視野検査の結果から、総合して診断することになります。眼圧が正常範囲でも視神経乳頭の陥凹(かんおう)が進み視野欠損(部分的に見えない場所がある状態)を生じたものを正常眼圧緑内障と呼んでいます。
 日本緑内障学会によると、40歳以上の全緑内障患者の有病率は5.78%で、そのうち正常眼圧緑内障は3.60%で半数以上を占めることが判明しました(多治見市疫学調査の報告)。最近道内の3地区で、検診時の眼底写真を見る機会がありましたが、地区・年齢によって多少異なりますが、400名中約3~6%に緑内障疑いの症状がみられ、明らかに眼圧の高い人は数名でした。その他は正常範囲以内で、日本緑内障学会の報告と同様の結果でした。日本人の緑内障の約6割が正常眼圧緑内障であることは、多治見市の調査によっても明らかにされています。

原因や治療について教えてください。

 原因は視神経乳頭部の循環障害や構造の弱さなどが考えられています。早期の視野欠損は、患者本人には無自覚なことが多く、いったんできた視野欠損は容易には回復しません。したがって、早期発見、早期治療が重要となります。さまざまな眼圧下降薬や、乳頭部の循環改善薬がありますから、早期発見すれば大事には至りません。最近は緑内障に精通した眼科専門医も多いので、検診時だけではなく、老眼鏡やコンタクトレンズ作成時などを機会に、検査を受けて、早期発見、早期治療のきっかけとすることをお勧めします。

2004年7月7日水曜日

「子どもたちの顎(あご)と歯並び」について

ゲスト/E-line矯正歯科 上野拓郎 歯科医師

子どもたちの顎と歯並びについて教えて下さい。

 子どもたちの虫歯については、ここ数年食後の歯磨き、仕上げ磨きなどが浸透し、数は確実に減っています。しかし、逆に増えているのが、不正咬合(こうごう)など歯並びの異常です。原因は顎の大きさと、歯の大きさの釣り合いがとれていないことにあります。最近の子どもは顔自体が小さな場合が多く、小さな顎に大きな歯が生えてくるために、歯並びが悪くなるのです。
 親不知(おやしらず)以外の、大人の歯がすべて生えそろうのは12歳ころですが、最後に生える歯を、第二大臼歯(きゅうし)と言います。第二大臼歯のさらに奥に親不知があり、これはだいたい高校生以上になってから生え、状況によっては表面に現れず埋没したままだったり、曲がって生え、隣の歯を圧迫してしまったりというトラブルを招きかねない歯です。ところが、最近の子どもたちに多く見られるのが、親不知の手前の第二大臼歯が、正常に生えないという現象です。頭部の骨格に奥行きのない日本人の場合、顎が小さいと歯が生える土台が十分に確保されず、第二大臼歯が親不知のように不完全な状態になってしまうのです。狭いスペースに第二大臼歯が加わることによって、歯並びは前歯も含めガタガタになります。
 以前は、「歯並びが悪い」といえば、ほとんどが前歯だけの問題でしたが、近ごろの子どもたちの状態を見ると、全体の歯並びに問題が生じているのが実情です。

どうしたら、予防や治療ができますか。

 口腔(こうくう)内に奥行きがあれば、顎を装置によって広げるという方法があります。スペースが無い状態であれば、抜歯も選択肢の1つになります。
 効果的な予防や治療を実現するためには、7歳前後に第一大臼歯(6歳臼歯)が生えた時点で、一度矯正の専門医を受診することをお勧めします。将来、第二大臼歯がどういう状態で生えてくるか、経験と知識のある専門医にはおおよその予想がつきます。
 特に、顎が小さい、乳歯間にすき間がない、乳歯からすでに歯並びの異常がある場合は、早めに受診してください。

2004年6月23日水曜日

「花粉症と果物アレルギー」について

ゲスト/大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 医師

北海道の花粉症について教えてください。

 本州の花粉症はスギ花粉が主な原因ですが、北海道の花粉症はシラカバ、ハンノキの花粉が主な原因で、ゴールデンウイーク前後からがシーズンです。道内でシラカバ花粉症に罹患(りかん)する人はここ数年急増しており、特に都市部で顕著です。主な症状は、鼻水、鼻づまり、くしゃみ、目のかゆみなどです。シラカバ花粉が飛散するのは6月半ばころまでですが、注意が必要なのが、シラカバ花粉症に伴う果物などの口腔(こうくう)咽頭(いんとう)過敏症です。リンゴ、サクランボ、モモなどバラ科の植物のほか、キウイやナッツ類などを食べると、口の中やのどがかゆくなったり、唇が腫れたりするほか、重症になると呼吸困難を起こすこともあります。シラカバの花粉飛散シーズンが終わっても、果物による口腔咽頭過敏症は残っている場合も多いので、シラカバ花粉症の人は、果物を食べるときに注意が必要です。原因となる果物を避けることが一番ですが、不明の場合は、病院へ駆け込める状況の時に少しずつ食べてみましょう。

予防や治療の方法はありますか。

 道内の花粉症としては、シラカバ、ハンノキに続き、カモガヤなどの牧草やヨモギによる花粉症が9月ごろまで続きます。血縁者に花粉症の人がいたり、アレルギー体質の人は、いつ発症してもおかしくありません。それらしい症状があったら、検査を受けてアレルギー物質を特定し、可能な限り避けるのが一番の予防です。また、花粉症体質の人は、感冒をきっかけにせきやぜんそくを起こすことがあります。「ただの風邪」と軽く考えず、長引くせき、特に夜間から朝方のせきは、一度呼吸器の専門医を受診し、原因を特定することをお勧めします。花粉症を根本的に治療するには、時間をかけて体質を改善していくしかありません。症状の緩和には、抗アレルギー剤の服用や点鼻薬の使用などがあります。毎年発症する人は、原因の花粉が飛び始める2週間ほど前に予防的に抗アレルギー剤を内服すると、シーズン中の症状が軽減されます。シーズン前に受診すると良いでしょう。

2004年6月16日水曜日

「健康保険が適用される歯科矯正」について

ゲスト/つちだ矯正歯科クリニック 土田  康人 歯科医師

健康保険が適用される矯正治療について教えてください。

 歯科矯正は一般に保険適用外となりますが、外科手術が必要な矯正治療の場合は保険が適用になります。対象は主に、顎(あご)が大きく突き出していたり、左右にずれている顎(がく)変形症、口唇裂口蓋(がい)裂などの先天性疾患を伴う咬合(こうごう)異常の場合です。顎変形症の中では、下顎が突き出し下の歯が上の歯の前に位置するいわゆる「受け口」と呼ばれている下顎前突症がもっとも多く、ほかに「出歯」と呼ばれる上顎前突症、指しゃぶりなどが原因で上の前歯と下の前歯が咬(か)み合わず、すき間が空いている開咬(こう)も多く見られます。このような症状の人は、顎関節が痛む、食べ物をうまく咀嚼(そしゃく)できない、発音が不明瞭など、機能面での問題も多いのですが、審美的な面でも悩みが深いのが現状です。
 外科手術を伴う矯正治療は、口腔(こうくう)外科と矯正治療の専門医が共同で対応します。手術前に半年から1年程度の歯列矯正を行った後、外科手術をします。その後、1〜2年の矯正治療を行います。全体として2〜3年の治療になりますので、期間としては、一般の矯正治療と大差ありません。

実際の手術はどのように行いますか。

 現在、注目されているのは、骨延長法です。外科手術で顎の骨を切断し、骨延長装置の装着を行います。その後、装置によって徐々に顎を広げ、骨の再生力によって新たな骨を形成していくという治療法です。当初からの予定の長さに骨が形成されたら、装置を外します。口の中にメスを入れるので、顔に傷がつくということはありません。手術、入院に2週間程度の時間が必要ですが、今まで治療の難しかった重症の顎変形症の治療が可能になり、後戻りが少ないことが大きな利点です。ただ、骨延長術自体がまだ新しい治療法であり、施術している病院は多くはありません。矯正専門医や口腔外科医に相談してください。
 対象年齢は骨格が完成する高校生以上ですが、顎や歯並びが心配になったら、年齢にこだわらず一度、矯正専門医に相談するといいでしょう。
  

2004年6月9日水曜日

「性感染症、最近の傾向」について

ゲスト/札幌東豊病院 前田信彦 医師

性感染症の最近の傾向について教えてください。

 性感染症とは、性的接触が主な原因となって、人から人に感染し、発症する疾病を指します。淋(りん)病、ヘルペスウイルス、パピローマウイルス、HIV(エイズウイルス)感染など、20種類を超える疾患があります。最近は、性の自由化、活発化、多様化に伴い、若年層を中心に急増する傾向が見られます。
 特に、最近増加しているのが、クラミジアです。妊娠を契機に感染の有無を検査すると、若い妊婦の約2割が感染しているというデータもあります。クラミジアは感染してもほとんどの女性に症状が出ないため、まん延しているようです。しかし、女性がクラミジアに感染し、気付かずに放置していると、卵管の炎症を招き、不妊や子宮外妊娠の原因となるほか、妊婦が感染している場合、新生児に結膜炎や肺炎などのクラミジア感染が発症するケースもあります。また、淋病も女性ではなかなか症状が現れないため、症状が進行するまで気付かないケースが見られます。
 尖圭(せんけい)コンジローマは、ヒト乳頭腫ウイルス(ヒトパピローマウイルス)の感染によるもので、男性の包皮、亀頭部、女性の陰唇、尿道口などにイボができます。ヒトパピローマウイルスには約80もの種類があり、その中に子宮頚(けい)がんの原因となるものがあります。ヒトパピローマウイルスに感染し、体質や生活習慣などと併せ子宮頚がんを発症する場合があります。若年層の子宮頚がん患者が増えている背景には、性感染症をはびこらせる温床に目を向けなければなりません。

性感染症を予防の注意点を教えてください。

 妊娠を避けるためであれば、ピルは有効ですが、性感染症を予防するためには、必ずコンドームを使用することが大切です。10代の若者に性感染症が増加しているという事実を考えると、高校生になってからの性教育では遅すぎます。中学生から、性の問題をタブー視することなく、学校、家庭で真剣に話し合う場を設けてください。1人ひとりの危機管理意識を高め、性感染症を防ぐことが重要です。また、子宮頚がんやエイズなど重大な病気を予防するためにも、積極的な検診が必要です。

2004年6月2日水曜日

「有酸素運動で生活習慣病予防」について

ゲスト/土田病院 土田茂 医師

生活習慣病と運動について教えてください。

 移動は車、エスカレーターやエレベーターを使い、仕事はデスクに向かったまま…。今日はいったいどの程度体を動かしただろうかと、思わず考えてしまうことがあります。便利なものに依存する現代人のライフスタイルは、運動不足から肥満を招き、結果として高血圧や糖尿病など生活習慣病を引き起こしてしまいます。健康を維持するためには、「運動する」という心掛けが大切です。とはいえ、忙しい毎日の生活の中で、まとまったスポーツの時間を取るのは困難なことでしょう。最も手軽にできる運動は「歩く」ことです。通勤・通学や短距離の移動に、乗り物を使わず歩いてみる、いつも使うエレベーターを階段にしてみるなど、日常生活の中で少しずつ無理なく取り入れることができます。

どの程度を目安に運動すればいいのですか。

 できれば万歩計を着けて1日1万歩を目標にするといいでしょう。これで約300Kcalを消費し、1日の運動量としては十分です。加えて、これからの季節は気候も良いので、休日などに積極的に運動を行うことをお勧めします。体脂肪を燃やすには、有酸素運動が効果的です。運動中に、息が弾みつつも人と会話できる程度の運動を有酸素運動といい、1分間の心拍数は100から130くらいになります。この運動を1日30分以上行うと、非常に効果的です。かつては、30分以上継続して運動しないと脂肪は燃焼しないといわれていましたが、最近では10分程度の短い運動でも、1日の運動量のトータルが30分以上であれば、脂肪燃焼効果は同じであることがわかっています。家事や仕事の合間にも、小まめに運動するといいでしょう。ウオーキングのほか、膝(ひざ)などに痛みのある人は、関節に負担の掛からない、水泳や水中ウオーキングなどがお勧めです。
 若い女性を中心に、食事を減らすだけのダイエットを行っている人が多いのですが、将来骨粗しょう症など重大な疾患を招きかねません。健康で実りある生涯を送るためには、日ごろの運動で基礎代謝率をアップし、食事をバランス良く取ることが大切です。

2004年5月26日水曜日

「尿管結石」について

ゲスト/元町泌尿器科 西村昌宏 医師

尿管結石について教えてください。

 尿の中のカルシウムとシュウ酸やリン酸などが何らかの原因で結晶となり、有機物質を取り込んで石のように固まってしまったものが結石です。腎臓で生成された結石が、尿管に詰まって、痛みを引き起こすのが、尿管結石です。疝痛(せんつう)と呼ばれる激しい痛みに加え、血尿や吐き気を伴う場合もあります。さらに、結石で尿管がふさがれることによって、上部の尿管や腎臓が腫(は)れた状態になると、水腎症と呼ばれ腎臓の働きが悪くなります。日本人の20~25人に1人程度が経験し、男女比では男性の方が多く、1度経験した人は高い頻度で繰り返すのが特徴です。原因は多くの場合不明ですが、体質や偏った食生活、運動不足などが影響していると考えられます。また、体内の水分が不足し、尿中のミネラルの濃度が高くなると結石ができやすくなります。
 これから気温が高くなると、結石の痛みで病院に駆け込んでくる人が増えます。汗をかいたら水分をマメに補給しましょう。

どのような治療を行いますか。

 疝痛を抑えた上で、石が10mm以下であれば、水分を多く取ることによって自然に排出される可能性があります。なかなか排石されなかったり、痛みが頻発する場合は、手術が必要になります。手術は、体の外から衝撃波を当てて砕石するESWL(体外衝撃波結石砕石術)と、細い内視鏡を尿道、ぼうこうを経由して尿管内に入れ、結石をモニターで確認しながらレーザー照射で砕くTUL(経尿道的尿管結石砕石術)という方法が一般的です。
 ESWLは、位置によっては砕くことが難しい場合があります。TULはほぼ確実に砕石できますが、石の位置によっては内視鏡が届かない場合があります。どちらの方法にするかは、結石の大きさや位置、形状などを考慮して決定します。ごくまれですが、結石が極端に大きかったり位置が悪い場合は開腹手術をすることもあります。ESWLは日帰りから1泊2日の入院、TULは2泊3日程度の入院で治療できます。痛みが自然に治まる場合もありますが、腎臓にダメージを与えていることもあるので、疝痛に襲われたらすぐに泌尿器科を受診してください。

2004年5月19日水曜日

「不眠」について

ゲスト/岡本病院 岡本 呉賦 医師

不眠について教えてください。

 寝付きが悪い、就寝中に何度も目が覚め熟睡した実感がない、早朝に目が覚めてしまう。こういった症状を不眠=睡眠障害と呼びます。「眠れないくらい大したことはない」と、病気としてとらえていない人が多いのですが、睡眠は体と脳の休息として、必要不可欠のものです。そのままにしておくと、体や脳に疲労がたまり、日中の活動や健康状態にも影響が出ます。夜、まとまった睡眠を最低6時間程度とることが健康維持のためには大切です。不眠の原因はさまざまで、加齢によるもの、何らかの疾病によるもの、強いストレスによる不眠などが挙げられます。特に、一定の年齢を過ぎると、若いころのように熟睡することができなくなります。うつ病や統合失調症など、病気が隠されている場合もあります。早めに、精神科、神経科などの専門医を受診することをお勧めします。

不眠をどのように治療するのですか。

 例えば、多くの人が行っている、自己流の対処方法が飲酒です。いわゆる寝酒によって、無理やり眠ろうとするのです。確かにアルコールの作用で入眠しやすくなり、ぐっすりと眠ったような気がします。しかし、実際は深い睡眠が少なく、短時間で目が覚めたりするなど、飲酒による睡眠には問題があります。また、アルコールが習慣化することによって耐性ができてしまい、徐々に飲酒量が増えたり、度数の高いアルコールを飲むようになります。あくまでも、お酒は楽しむ程度にとどめることをお勧めします。
 不眠治療として一般的なのは、睡眠薬による薬物療法です。「睡眠薬はクセになる」「体に悪い」「ボケてしまう」など、いまだに誤解をしている人も多いのですが、最近は薬の種類も増え、自分に合ったものを適量飲めば、問題ありません。そのためには、専門医を受診し医師の指示に従うことが大切です。自分勝手に量を増減させたり、「効かない」「効き過ぎた」と自分で判断して通院を中断したりしないでください。必ず医師と相談し、調整してもらってください。医師とともに常に自分に合った薬で睡眠を管理できるようになることを目指しましょう。

2004年5月12日水曜日

「顔曲がり、受け口の新しい改善治療法」について

ゲスト/幸健美歯科クリニック 佐藤 嘉則 歯科医師

顔曲がり、受け口について教えてください。

 顔曲がり、受け口というのは、顎(あご)ずれ(顎=がく=偏位症)のことが多く、顎が本来の位置からずれていることをいいます。顎ずれは、顔や体のゆがみを起こし、顔や体のバランスを崩します。顎ずれのある方たちは、審美的な側面で悩みを持つとともに、頭痛、首筋の凝り、肩凝りなどの不快症状を持っていることが多いのです。
 実は、下の顎(あご)というのは、重い頭の重心バランスを取るという重要な役目を担っています。頭は、米袋と同じ5kg近くあり、私たちはその頭のバランスを取りながら歩いたり、仕事したりしているのです。つまり顎の位置がずれていると、体のバランスが崩れ、全身に影響を及ぼすことがあるということです。原因がはっきりしない症状に悩んでいる方は、専門医で顎の位置が関連していないか診断してもらうことをお勧めします。

顎がずれる原因と新しい治療法を教えてください。

 顎がずれる原因の中には、長年のいろいろな生活習慣の偏りが挙げられます。寝る姿勢、片方だけでものを噛(か)むくせ、頬(ほお)づえ、うつぶせ読書、悪い咬(か)み合わせ、楽器の演奏、舌習慣などが考えられます。それらにより、顎ずれが固定されてしまうと、顔や体に影響を及ぼします。
 普段歯を強く噛みしめたり、緊張することは、より顎をずらす原因になります。顎にとって悪い習慣をやめるように気を付けるとともに、リラックスした顎の状態で生活することが大切です。
 最近の顎の矯正法では、取り外しのできる特別な装置を使った新しい治療法があります。MGAと呼ばれる装置を各自の状態を考慮し、一定期間、口の中に装着します。生活上支障のある場合は、そのつど外して構いません。装置を装着することにより1人ひとりの顎を、より健康的でバランスの良い位置へ誘導していくのです。これにより顎切り手術をしなくてはならないといわれた方でも手術なしに改善する可能性が広がりました。
 顔曲がり、受け口でお悩みの方や、顎や咬み合わせに違和感がある方は1度専門医を受診してください。

2004年5月6日木曜日

「QOL(クオリティー・オブ・ライフ)」について

ゲスト/北海道大野病院付属駅前クリニック 古口 健一 医師

QOLについて教えてください。

 ただ長生きするのではなく、生活の質を高めて幸せに生きるという意味で、QOLというテーマが注目されています。病気を患った際、まず本人が「どのような人生を送るか」を選択することが、QOLのスタートラインです。それぞれの人生観によって、QOLの意味合いは変わります。例えば、健康を害する恐れがあると知りながら、タバコや酒を「生きがい」と楽しむのは、当人の権利であり、人生観の問題です。がんや脳血管障害など、その後ハンディキャップを背負う危険性の高い病気には、医師による指導が重要ですが、慢性疾患など、自分でコントロールしながら生活する病気の場合は、患者自身がどう生きたいかを医師にはっきりと伝え、医師が医療面からそれをサポートすることが、希望に叶(かな)ったQOLの実現といえるでしょう。そしてそれには、両者の信頼関係が不可欠です。

ほかに、QOL実現のために必要なことはありますか。

 最近、定年退職後の経済的不安から通院数を減らしたり、仕事や趣味がないなど、精神的ストレスから体調を崩す人が増えています。医師と患者は、病状だけでなく、患者の社会的、経済的背景、家庭の事情などについてもよく話し合うことが大切です。治療の上で問題がなければ、経済的負担を医療面で緩和することも可能です。病気だけでなく「人」を診る心構えが、医師にも求められています。
 また、健康の基準も人それぞれ。近ごろ、健康をテーマにしたテレビ番組が人気を呼んでいます。健康管理に興味を持つ人が増えたのは大変良いことですが、「正常値と違うから病気」と神経質になり過ぎるのは禁物。すべて型通りの人はいません。老化を例に挙げると、子どもの成長と同様に老化の進み具合にも個人差があります。「周りはまだなのに自分だけ老眼は異常では」と憂うつになったり、「まだまだ若い」と無理したりせず、どのような治療をしていくか、前向きに医師に相談しましょう。医療も出会いが大切です。お互いに良い患者さんに出会った、良い主治医で良かったという信頼関係が築けるといいですね。

2004年4月28日水曜日

「糖尿病と生活習慣病」について

ゲスト/大通り内科クリニック 小森 克俊 医師

糖尿病と生活習慣病について教えてください。

 日本人の3大死因のうち、がんを除く、脳血管障害と心疾患は動脈硬化を基盤としている場合が多く、その原因となるのは、糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病です。さらに喫煙やストレスなどの危険因子が加わると、生活習慣病の程度は軽くても、複合的に動脈硬化の危険性が高まります。中でも糖尿病患者はここ数年で急増し、1997年(平成9年)の調査では、糖尿病の疑いがある人は全国で690万人、糖尿病の可能性が否定できない人は680万人。2002年(平成14年)には、疑いがある人は740万人、可能性が否定できない人は880万人。予備軍を含めて患者数は5年間で250万人増えています。これは成人の6.3人に1人が糖尿病の危険を抱えている計算です。

予防法を紹介してください。

 糖尿病の主な原因は、食生活の欧米化による動物性脂肪の取り過ぎや運動不足です。健康維持には、糖質が60%程度、脂肪分とタンパク質がそれぞれ20~25%程度の食事が理想的ですが、これは米や野菜、魚を中心とした一般的な和食の数値です。昔からこのような食事を続けてきた日本人は、欧米人に比べてすい臓から分泌されるインスリンの量が少なく、元来糖尿病になりやすい体質を受け継いでいるといえます。肥満、高血圧、甘いもの、アルコール、高脂肪の食事を好む人は予備軍です。ただし、同じ生活をしても体質的に病気になる人とならない人がいるので、近親者に糖尿病患者がいる場合は要注意です。糖尿病を患うと、動脈硬化のほかに腎不全、網膜症、神経障害など合併症の危険もあります。アメリカでは、3千人の糖尿病予備軍に対するテストで、繊維質の多い食事と週に2.5時間の運動をした千人が、何もしなかった千人に比べて、糖尿病の発症率が50%以下だったという報告がなされています。薬を飲んだそのほかの千人の発症率はその中間の数値でした。健康で長生きするためには、まず自分が予備軍かどうかを知り、生活習慣を改善することが大切。40歳を過ぎたら、年に1度は専門医の検査を受けることをお勧めします。

2004年4月21日水曜日

「ドライアイ」について

ゲスト/大橋眼科 大橋勉 医師

ドライアイとは、どのような症状をいうのですか。

 文字通り「乾いた目」という意味で、目が乾くために生じるさまざまな症状の総称です。目が疲れやすい、乾いてしょぼしょぼする、日常的な目の痛みやかゆみなどがドライアイを原因とする場合もあります。また、症状が進行すると、乾いた目は刺激を受けやすくなり、風に吹かれただけでも痛くて涙が止まらないというケースもあります。重度になると、角膜の表面が傷ついて視力の低下を引き起こす危険もあります。はっきりとした原因はわかっていませんが、長時間にわたるコンピューターの利用でまばたきの回数が減ったこと、大気汚染や光化学スモッグが原因という説もあります。また、涙は副交感神経が優位の状態、つまりリラックスしている時に多く分泌されますが、ストレスで日常的に緊張状態を強いられ、リラックスできないことも、原因の1つと考えられています。さらに、現代人の涙の質が変化している、涙の量が少なくなったという報告もあります。涙の量を調べる「シルマーテスト」という検査では、100年前の正常値が15mmだったのに対し、現在は正常値が5mmまで減少しています。正常値を下回るとドライアイと診断されますが、現在、国内の推定患者は800万人ともいわれています。

予防法や治療法はありますか。

 まず、コンピューターの使用中は特に意識してまばたきの回数を増やすことが大切です。目が上向きにならないよう、コンピューターやテレビの画面を目線より少し下げたり、加湿器を常備するなど保湿を心掛けてください。また、目薬は防腐剤の入っているものと、入っていないものがあります。市販でも手に入りますので、薬局で相談してみるといいでしょう。症状が重く角膜障害を伴う場合は、涙の出口(涙点)にシリコン製のプラグを差し込んで、涙を目の表面にためる「涙点プラグ」という方法もあります。プラグ挿入に痛みは伴いません。また、涙の成分の大半が血液中に存在することを利用し、自分の血液から上澄み液を採取して点眼する「血清点眼」も、重度のドライアイに有効です。

2004年4月14日水曜日

「帯状疱疹(ほうしん)による痛み」について

ゲスト/札幌一条クリニック 後藤 康之 医師

帯状疱疹による痛みについて教えてください

 帯状疱疹とは、以前かかった水ぼうそうのウイルスが体内に残り、体力や免疫力が低下したときに活動を始めて発症するものです。本体は神経痛で、それに伴って胸からわき腹、背中、顔などに赤い発疹(ほっしん)が現れ、ピリピリとした痛みを感じます。化膿(かのう)させるなど、よほどの重症でなければ、発疹そのものは2~3週間程度で治りますが、痛みだけが残る場合も多く、服が触れても痛いという状態にまで慢性化することもあります。発疹の出方はさまざまで、自己判断は難しく、痛みだけを感じて「運動による筋肉痛か」などと放っておくうちに悪化することもあります。背中など自分では見えにくい場所に出ることも多いので、注意が必要です。発疹が消えてから「いくら検査をしても悪い所が見つからない」「どんな病院を受診したらよいかわからない」と困惑している人も少なくありません。痛いと思ったら我慢せず、すぐに痛みの専門医を訪ねてください。発症から3カ月を過ぎると、治療にも時間が掛かります。

痛みをとるために、どのような治療をするのでしょう。

 まず、抗ウイルス剤を点滴あるいは薬で投与します。これは皮膚科や内科でも行われます。痛みが治まらない場合は、注射で局所麻酔薬などを神経周辺に入れて、神経の働きを止める神経ブロック療法を行います。血流を促進し、痛みを発する物質を押し流すレーザー治療や、鎮痛剤などを併用することもあります。ペインクリニックでは、痛みを緩和しながら、痛みの原因を探ることを重要視しています。帯状疱疹の場合は、体力や免疫力がなぜ低下したかを知ることが大切です。もともと糖尿病やがんなどで通院中という方もいますし、帯状疱疹をきっかけに検査をして、ほかの病気が見つかることもあります。また、精神的なストレスが原因ということも少なくありません。痛みは本人にとって大変つらいものです。痛くて食べられない、眠れないというストレスがいっそう体力を低下させます。ペインクリニックは、痛みを緩和し、患者の生活の質を上げるのが役割です。

2004年4月7日水曜日

「ピロリ菌」について

ゲスト/やまうち内科クリニック 山内雅夫 医師

ピロリ菌について教えてください。

 正式にはヘリコバクター・ピロリという胃粘膜に住む細菌です。胃酸により強い酸性となっている胃の中では、細菌が生存できないと考えられていたために発見が遅れ、1983年に初めて報告されました。ピロリ菌はアンモニアを産生し、胃酸を中和して胃の中で生存することができます。予防方法は明らかにされていませんが、感染経路は経口感染とされ、衛生状態の悪い国や地域で感染率が高いことがわかっています。日本では中高年層の感染率が高く、40歳以上の約80%が感染しています。ピロリ菌は胃・十二指腸潰瘍(かいよう)、慢性胃炎および胃がんの主な原因であることがわかっています。感染イコール胃潰瘍というわけではありませんが、ストレスや喫煙、アルコールやカフェインの過剰摂取、鎮痛剤の服用などさまざまな要因が重なると、胃・十二指腸潰瘍が発症する危険が高くなります。また、ほとんどの胃がんが、ピロリ菌によって引き起こされた高度の慢性胃炎を発生母地とすることも明らかになってきています。

ピロリ菌を除菌する方法はありますか。

 数年前まで胃・十二指腸潰瘍の治療は、胃酸の分泌を抑えるH2ブロッカーの投与が一般的でしたが、再発率が高く、そのたびに再治療が必要でした。しかし潰瘍の主な原因がピロリ菌と判明してからは、2種類の抗生剤を1週間内服し、さらにH2ブロッカーより強力に胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ・インヒビターを併用する除菌療法が行われるようになり、大部分の再発を防ぐことができるようになりました。もっともピロリ菌が関与していない胃・十二指腸潰瘍の場合は、除菌療法は対象外です。ピロリ菌感染の有無は、内視鏡検査で胃粘膜を採取して調べる方法のほか、尿素呼気試験、血清抗体測定、便中の抗原測定などがあり、比較的簡単にわかります。なお近年、胃・十二指腸潰瘍を有しない高度の慢性胃炎に対しても、胃がん予防の見地から除菌療法が必要という意見が有力になってきていますが、日本ではまだ保険診療が認められていません。

2004年3月24日水曜日

「子どもの歯科矯正治療」について

ゲスト/宇治矯正歯科クリニック 宇治 正光 歯科医師

矯正治療が必要かどうかを判断する方法はありますか。

 まず矯正が必要かどうかのチェック項目の1つとして、1度お子さんの口元を顔の正面からよく観察することを、親御さんにお勧めします。上の前歯と下の前歯の真ん中が一致していればひと安心ですが、ずれている場合は、矯正の必要が考えられます。出歯や受け口といった前後的に上下の顎(あご)が大きすぎたり小さすぎたりという骨格的な問題は一般の人にとって気が付きやすいのに対して、左右のずれは発見しづらいものです。自然な矯正治療なら、顎骨(がっこつ)の成長コントロールが可能な9~10歳までが理想的です。この時期なら就寝時に、バイオネーターやFKO(エフカーオー)と呼ばれる機能的顎(がく)矯正装置を装着し、ずれた顎の骨を中央に移動します。子どもの成長能力を利用したものですので、痛みはほとんど感じられず、日中は装着する必要がありません。ずれの程度にもよりますが、装着期間は平均すると半年から1年間。経過観察のための通院は、1カ月から3カ月に1度が目安です。ずれの原因には、歯そのものがずれている場合もあり、歯の矯正は永久歯が揃ってからでも矯正治療は可能です。その場合は、抜歯をしたりする可能性が高くなりますが、十分きれいに治療できます。その判断は非常に難しいので、是非、専門医にご相談ください。

ほかに、家庭でできるチェック項目はありますか。

 頬杖や噛(か)み癖、就寝時の体位に左右に大きな差があると、上記のような左右のずれを引き起こすことがあるといわれています。上の前歯と下の前歯の中央が一致しているのを確認したら、次は鼻の先端を規準に、顔の中央に沿っているかを確認してください。ずれの原因は一見してわかるものではなく、万が一、骨格のずれを歯のずれと勘違いして放っておくと、矯正に最適な成長期を逃してしまう危険性もあります。少しでもおかしいなと思ったら、早めに専門医へ相談することをお勧めします。

2004年3月17日水曜日

「過剰な運動による症状」について

ゲスト/山口整形外科クリニック 山口 秀夫 医学博士

運動をやり過ぎても良くないことがあるのですか。

 健康増進を目的としての運動でも、やり過ぎるとトラブルを起こすことがあります。代表的なのは、「テニス肘(ひじ)」「ランナー膝(ひざ)」「ジャンパー膝」です。テニス肘は、テニス、バドミントンなどラケットを使うスポーツをやっている人の肘の外側が痛む症状です。重い物を持ったり、タオルを絞ったりすると肘に痛みが走り、ひどい時にはコップを持ったり、ドアノブを回すことさえできなくなります。手首を外側に回したり、そらせる筋肉は肘の外側に付いており、この筋肉を使い過ぎると、付け根に炎症を起こして痛みとなります。ランナー膝は、ランニングをする人に多く、膝の内側や外側が痛みます。膝を曲げる筋肉の腱(けん)は、膝の内側と外側に付いています。ランニングによって腱と骨が摩擦を起こし、炎症が生じます。ほかに軟骨や半月板の障害、疲労骨折などもランナー膝の原因として考えられます。ジャンパー膝は、バレーボール、バスケットボールなど、ジャンプを繰り返す運動をしている人に多く、膝の前方に痛みを覚えます。ジャンプ後着地をする時に、膝前方の腱には700~1000kgの力がかかります。このような大きな負担が繰り返しかかるため、腱に炎症を起こすのです。またこの症状は、特に運動をしていない成長期の子どもに起こることもあります。オスグット病と呼ばれ、10~14歳ころに多く見られます。

治療と予防方法について教えてください。

 患部を温めたり、低周波を当てる理学療法は効果があります。鎮痛剤のクリーム塗布も有効です。痛みが強い場合は患部に注射する場合もあります。何より肝心なのは、痛みがとれるまでスポーツを休むことです。予防方法としては、負担の少ないラケットやシューズを選ぶこと、運動前に十分にストレッチを行うことが大切です。ランニングでは腿(もも)を高く上げる、テニスでは手首を使わず腰と肩でラケットを振るなど、正しいフォームをマスターすることも必要です。スポーツを休んでも痛みがある場合は、重大な疾病が隠れている可能性もあるので、専門医を受診してください。

2004年3月10日水曜日

「歯科矯正に伴う痛み」について

ゲスト/北大前矯正歯科クリニック 工藤 章修 歯科医師

矯正治療は痛いのではないかと心配なのですが。

 初めて口の中に装置を入れた後、歯が移動し始めることに伴って痛みが生じる場合があります。痛みの程度には個人差があり、「むずがゆい」「歯が浮くような痛み」「何か挟まっているような違和感」など、感じ方もさまざまです。大抵の場合は特に処置をしなくても、3~5日程度で収まります。しかし、中には気になって仕方がないという人もいますので、この場合は、微振動するマウスピースを30分程度はめる、開口訓練器を噛(か)む、ソフトレーザーを照射するなど、理学的な治療によって痛みを除去する方法もあります。まれですが、痛みの強い場合、鎮痛剤を処方することもあります。ほかに矯正治療中の痛みとしては、口の中に異物が入るわけですから、ワイヤーなどが歯茎などと摩擦し炎症を起こしたり、傷や口内炎になることもあります。このような場合は、なるべく早くにかかりつけの歯科医師の診察を受け、器具の調整をしてもらいましょう。軟こうを処方したり、シリコンのカバーを装着することもあります。いずれにしても、正しい矯正方法であれば、我慢できないほどの痛みを感じることはまずありません。

矯正期間中に食べてはいけないものなどはありますか。

 基本的に食べてはいけないものはありません。ただ、できるだけ控えたり、食べ方に注意した方が良いものはあります。堅焼きせんべいやピーナッツ、フランスパンなどの硬く、勢いよく噛まなければ食べられないものは、矯正装置が外れたり破損したりする可能性があるので、細かくしてから口に入れてください。リンゴの丸かじりのような大きく口を開ける食べ方も避けた方が良いでしょう。歯にくっつきやすいガムやキャラメルなども、トラブルの元です。ナッツ類、ポテトチップスなどは、食べかすが残りやすいので念入りに磨いてください。カレーやキムチは色素が強く、器具のゴム部分が変色することがあります。矯正治療は期間が長いので、ほかにも気になる点が多いと思います。事前に納得のいくまで質問をし、心配事を解消してから治療に臨むことをお勧めします。

2004年3月3日水曜日

「血尿と膀胱(ぼうこう)がん」について

ゲスト/芸術の森泌尿器科 斎藤 誠一 医師

血尿が出たら、膀胱がんの可能性がありますか。

 ほかに症状がなく血尿が出た場合、泌尿器科臓器のがんの可能性があります。膀胱(ぼうこう)、前立腺、腎臓といった泌尿器科臓器はがんになりやすく、日本人が罹患(りかん)するがんの上位10位以内に3臓器とも入っています。特に、日本を含めたアジア圏では、膀胱がんが多く、喫煙が原因の1つとして挙げられます。現在は男性に多いがんですが、近年、若い女性の喫煙率が増加していることから、将来日本における女性の膀胱がんが増加するものと考えられます。膀胱がんの典型的な症状は、痛みなどはほとんどなく、血尿だけです。膀胱炎でもないのに、頻尿になることもあります。血尿が出たり、検診で血尿といわれたら、早めに泌尿器の専門医を受診してください。喫煙する人は特に注意が必要です。血尿は赤色とは限らず、オレンジ色やワイン色、チョコレート色になるこ
ともあります。

膀胱がんの治療について教えてください。

 腫瘍(しゅよう)が小さい場合、内視鏡による簡単な切除を行います。組織診断を正確に行うことと、再発予防のためひと塊として切除することが理想です。内視鏡で完全に切除しても、約50%の人が再発します。再発する可能性の高い人には、再発を防ぐために膀胱内に抗がん剤を注入します。一般的な抗がん剤を使用しても約40%の確率で再発しますが、弱毒結核菌であるBCGを注入した場合、再発率を15%まで下げることができます。副作用が強いという問題はありますが、非常に有効です。内視鏡で取りきれない場合、膀胱をすべて摘出する手術を行いますが、同時に尿の出口を作る手術も必要になります。尿道も摘除した場合、人工肛(こう)門と同様の集尿袋が必要になります。尿道に再発の心配がなければ温存でき、この場合は腸を用いた新膀胱を作製し、自然排尿が可能になります。しかし、実際には尿道も摘出し集尿袋を使うことがほとんどです。再発を防ぐためには、喫煙せず、乳酸菌を多めに取ることが有効ですが、もっとも大切なことは、定期的に検査を受け、できるだけ早期に発見し、治療することです。

2004年2月25日水曜日

「抗酸化」について

ゲスト/つちだ消化器循環器内科 土田 敏之 医師

抗酸化について教えてください。

 厚生労働省の調査では、1981年から日本人の死因トップの座はがんが占め続けています。それどころか、年々2位、3位の脳血管疾患、心疾患との差を確実に広げています。わたしたちの生活環境には、発がん性のある化学物質が2000種類あるといわれていますが、一方、人間の体内にも発がん性物質と同じ働きをする活性酸素があります。人は食物からエネルギーをつくるときに酸素を必要としますが、準備された酸素のすべてを使い切るわけではありません。使い切れずに中途半端に形が変化した酸素が体内に残ります。これが活性酸素です。活性酸素は遺伝子を傷つけ、がん発病の原因となるだけではなく、老化の根本原因になります。

活性酸素に対する注意点、予防法を教えてください。

 活性酸素は日常生活の些細(ささい)なことでも生じます。ストレスを強く感じたときや、喫煙、アルコール摂取、血糖値が高い、運動をした、携帯電話やパソコンなどの電磁波を浴びた、紫外線を浴びた、医薬品、食品添加物などの化学物質が体内に入った、病原菌が体内に入った、自動車の排気ガスを吸ったときなどに、活性酸素が発生します。活性酸素はがん以外にも、動脈硬化、狭心症心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞、肝臓疾患、糖尿病、慢性関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、白内障などを引き起こしたり、肌のツヤや張りを失わせ、シワを増やして老化を促進します。体にさまざまな悪影響を及ぼす活性酸素に対抗できる物質が、抗酸化物質であるといわれています。ミカン、ブロッコリー、ピーマンなどに多く含まれるビタミンC、ベニバナ、サンフラワーなどの植物油、背の青い魚などに多く含まれるビタミンE、ニンジン、ホウレンソウなどに多く含まれるβカロチン、緑茶などに含まれるカテキン、フラボノイドなどがあります。これらの食品を毎日欠かさず取ることが、1番の予防法です。しかし、ライフスタイルが多様化している現代、バランスの良い食事を毎日というのは難しいという人もいるでしょう。市販の各種サプリメントを生活に取り入れるのも、有効な活性酸素対策の1つです。

2004年2月18日水曜日

「不妊症」について

ゲスト/アップルレディースクリニック 工藤正史 医師

不妊症について教えてください。

 不妊症とは、子どもを望みながら避妊せず夫婦生活を一定期間経ても生児を得られない状態をいいます。一定の期間とは、避妊期間を除いて2年とするのが一般的で、これは子どものいる夫婦の90%以上は2年以内に妊娠しているという事実によります。約10組の夫婦のうち1組が不妊症といわれています。そのうち3分の1は、女性に原因があるとされ、卵巣の働きが弱かったり、卵管の通過性が悪かったり、子宮に問題がある場合などです。また、精子の数が少なかったり運動性が弱かったりする、男性に原因がある場合も3分の1ほどあります。残りの3分の1は夫婦の両方に原因がある場合や、原因がわからない場合です。不妊症を疑った場合は、夫婦揃って検査や治療を受ける必要があります。現在、出生児の100人に1人(年間12,000人以上)が高度不妊治療の結果、誕生しています。わが国における潜在不妊人口は120万人前後と推定され、実際不妊治療を受けているのはその約4分の1の28万人程度といわれています。また、35歳を過ぎると妊娠率は格段に低下します。不妊に悩んでいる人は、専門医の受診をお勧めします。

治療の注意点・心構えについて教えてください。

 不妊治療において、医師が提供するのは、医療技術のみではなく心理療法と哲学をも含むと考えます。治療を受ける側の精神的負担は計り知れないほど大きく、それを取り除くことが大切です。患者が悩みから解放されることで、ホルモンリズムもスムーズになり質の良い卵子ができ、卵管の緊張も取れ、自然妊娠に至るケースもあります。不妊治療は、努力をしても報われないかもしれない、ゴールの見えないマラソンによく例えられます。でもこのマラソンは、けっして競争ではありません。自身のコントロール感覚が失われると感じたら、時には途中でコースを変更したり、リフレッシュのため休むことも必要です。大切なのは、あなたとパートナーがどう生きていくかというお互いの気持ちなのです。

2004年2月12日木曜日

「赤あざ」について

ゲスト/緑の森皮フ科クリニック 森尚隆 医師

赤あざにはどのようなものがあるのでしょうか

 代表的なものとして、ほぼ平らな単純性血管腫(しゅ)とイチゴのように盛り上がった苺(いちご)状血管腫があります。単純性血管腫の場合は、一部の例を除いて自然に軽快することはありませんので、早めに治療することをお勧めします。苺状血管腫は生後まもなく発症し、ほとんどが学童期までに自然に消失する赤あざです。自然消退することが多いため、今までは特別な場合を除いて特に治療せず、経過を観察するだけというのが一般的でした。しかし、消失後に皮膚のたるみや瘢痕(はんこん)などを残すことがあり、最近では治療した方が良い、との考えになっています。いずれの血管腫でも早期の治療が有効といわれています。

赤あざの治療についてお聞かせください。

 赤あざの治療は主にレーザーで行います。近年レーザーによる治療は、目覚ましく進歩しています。パルス色素レーザーに代表されるように、改善が難しかった症例に効果を上げ始めています。さらに治療後の紫斑などの反応がごくわずかになりました。頬(ほお)の赤みや血管拡張などの治療も、個々の肌の状態や症状に合わせた治療が可能となり、レーザーから表皮を守るなど、肌へのダメージを最小限に抑えて行えるようになっています。また、弱めにレーザーを照射することによって、線維芽細胞を刺激し、真皮層のコラーゲンを増加させるため、肌の内側に働き掛けて、張りを取り戻したり、目元の小じわの改善、肌の引き締め、ニキビあとの赤みや毛穴を目立たなくすることも進歩したレーザーでは可能になりました。このように、弱めに照射することで、治療後すぐに洗顔や化粧をすることができます。さらには帝王切開などのケロイド様の傷あとの治療などにも効果的といえます。そのほか、これまでは液体窒素などによる凍結療法が行われていたイボの治療にも有効です。赤あざでレーザーによる治療を考えている方は、まずは専門医によく相談してください。

2004年2月4日水曜日

「成人のMFT」について

ゲスト/石丸歯科 石丸 俊春 歯科医師

成人のMFTとはどのようなことでしょうか。

 歯の治療のために訪れた人が、それ以外の症状にも悩まされていることがあります。舌が痛む、顎(がく)関節が痛い、歯ぎしり、口が開けづらい、うまくのみ込むことができないなどです。原因と症状はさまざまですが、主なものとしては、外傷性咬合(こうごう)による歯周疾患、顎関節の位置異常に由来する開口障害、頭痛、肩こり、舌の機能不全に関係する歯列不正、舌痛症、義歯の不安定、発音障害、クチャクチャ噛(か)み、術後障害(口が閉まらない、よだれが出る…)などです。このような症状を訴える人の多くに、表情筋、咀嚼(そしゃく)筋、前頚(けい)筋を含めた口腔周囲筋の過緊張や、弛緩(しかん)による機能不全が認められます。口腔周囲筋の機能を改善し、バランスを良くする方法として、MFTが有効です。

具体的な方法について教えてください。

 MFTは従来、舌癖を治すため、子どもに対して行われている口腔筋機能訓練法です。舌先の正しい位置を意識する、口を閉じ上顎(あご)に舌を付けタンッと音を出す、口元を「イー」「ウー」の発音の形にする、左・右・両方の目を、それぞれグッとつぶって大きく見開く、上を向いてガラガラとうがいをして、水を含んだまま10秒間止めるなどの訓練があり、症状によってトレーニングのプログラムを作成します。症状の改善は比較的短期間に現れ、終了まで3カ月程度が目安となりますが、症状によっては1年以上かかる場合もあります。成人、特に高齢者においては、症状の改善とともに、生き生きとした表情になり、生活意欲も向上するという症例が多く見られます。しゃべること、おいしく食べることが苦痛なくできるようになると、日常のストレスが大幅に軽減されます。足腰については「使わないとどんどん衰える」という認識が広く浸透していますが、実は顔の筋肉、口腔の筋肉についても同様なのです。咬(か)み合わせの不正や義歯の不安定などで、軟らかいものばかりを食べたりしていると、筋肉はたちまち衰えてしまいます。口腔機能に不満のある人は、MFTについて専門医に相談することをお勧めします。

2004年1月28日水曜日

「過敏性腸症候群」について

ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳典弘 医師

過敏性腸症候群について教えてください。

 主に大腸の運動および分泌機能の異常で起きる病気の総称で、幅広い年齢層にみられますが、特に多いのは20~30歳代のストレスを受けやすい世代です。男性よりも若干女性に多い傾向にあります。腹痛や便秘、下痢などの症状があり、便通異常の現れ方で3つのタイプに分けられます。不安定型は腹痛、腹部の不快感があり、下痢と便秘を数日ごとに繰り返します。交代性便通異常とも呼ばれ、この型の便秘はおなかが張って苦しく、トイレに行きたいが出ない。出るときはコロコロした小さな便です。慢性下痢型は、神経を使うとすぐ下痢をするタイプです。軟便や水様便で神経性下痢とも呼ばれます。重症になると、出勤途中に何度も途中下車してトイレに行くという人もいます。休日などリラックスしているときは排便も正常に戻っていることが多く、また、下痢を繰り返しているにもかかわらず、やせないことが特徴です。分泌型は強い腹痛に続いて大量の粘液を出すもので、粘液疝(せん)痛とも呼ばれます。粘液は膜状、ひも状で出現し、寄生虫と間違う人もいます。日本人では比較的少ないタイプです。

原因と治療方法について教えてください。

 ストレスによって、自律神経機能が不安定になることから起こるとされています。比較的神経質で、内向的、精神的に不安定という人に多くみられます。就職や進学など環境の変化、受験や仕事など将来に対する不安、夫婦、嫁姑(しゅうとめ)など人間関係の不和、地域や職場での人間関係など心のストレスが原因のことが少なくありません。また、風邪、過労など体のストレス、不規則な食事、暴飲暴食など食生活が起因することもあります。診断は、他の疾患がないかを検査した上で、性格テストや問診によって、過敏性腸症候群にかかりやすい性格か、原因は何かなどを診察します。治療としては、下痢、便秘、精神的因子の症状を緩和する投薬を行います。さらに重要なのは精神的、肉体的過労を避け、特に精神面での安静を図ること、スムーズにコミュニケーションをとれる医師との関係も大切です。

2004年1月21日水曜日

「飛蚊(ひぶん)症」について

ゲスト/阿部眼科 阿部 法夫 医師

飛蚊症について教えてください。

 視界の中で、黒や白っぽい糸くず状のものや、点などが漂って見えた経験は、誰にでもあると思います。例えば白い壁や青空を見たときに顕著に現れますが、この症状を飛蚊症といいます。飛蚊症はたいていの場合、加齢による生理現象なので、心配する必要はありません。しかし、視界の妨げになるほど現れたり、数が増えるようなら、速やかに眼科を受診してください。網膜裂孔(れっこう)である可能性があります。眼球の内側にある薄い膜のことを網膜といい、ここに映った画像が視神経を経由して脳へ伝わります。この網膜を内側から支えているのが、硝子体(しょうしたい)です。硝子体は透明なゼリー状のコラーゲン繊維でできており、老化や強度の近視などでゆがんでしまうことがあります。硝子体のゆがみに網膜が引っ張られ、かぎ裂き状の孔(あな)が開いてしまうのが網膜裂孔です。網膜裂孔を放置しておくと、網膜剥離(はくり)に進行してしまうことがあります。網膜剥離は、裂孔から水分が入り込み、網膜がはがれ落ちてしまう病気です。視力が落ちたり、視野が欠けたりし、最悪失明する可能性もあります。

治療方法、注意すべきことについて教えてください。

 網膜裂孔の時点なら、レーザーによる治療で孔を簡単にふさぐことができます。網膜剥離まで進行した場合は手術が必要になりますが、視力や視野の機能回復については、剥離の程度によりますから、とにかく早期に発見し、治療をスタートすることが大切です。裂孔や剥離になりやすい人として、40歳以上の人、強度の近視の人、眼球をぶつけるなどの外傷があった人、白内障の手術を受けた人、アトピー性皮膚炎の人、家族が網膜剥離を経験した人などが挙げられます。網膜は1度機能を失うと治療をしても再生しません。裂孔や剥離は一般の健康診断では発見されず、痛みなどもないので、サインである飛蚊症の時点で受診することが望ましいのです。「たかが飛蚊症」と考えず、複数になったり、急に増えるようなことがあったら、1度、眼科で検査を受けることをお勧めします。

2004年1月14日水曜日

「MFT(口腔筋機能訓練法)子ども編」について

ゲスト/石丸歯科 石丸 俊春 歯科医師

子どもたちの舌癖について教えてください。

 歯磨きへの理解が深まったお陰で、最近は子どもたちの虫歯や歯肉炎が減りました。一方で、歯並びが悪かったり、うまく噛(か)めないなどといった問題がクローズアップされています。ポカンと口を開けている、発音がはっきりしない、クチャクチャと音を立ててものを食べているようなことはありませんか。これは舌癖や口呼吸によるものです。舌癖は、舌が正しい位置になく、口の下や前方にあるため、常に歯を押し、口呼吸で口を開けているため、唇とその周辺からの圧力が無く、出歯になったり、歯間に隙間ができたり、咬(か)み合わせが悪くなったりします。また、唇や頬(ほお)の筋力が弱いため、しまりのない表情になります。舌足らずな発音になることもあります。なぜ、このような症状が現れるかというと、咀嚼(そしゃく)やえん下がうまくできない、鼻の病気などによる口呼吸、片側だけで噛むなどといった日常生活の中での悪癖が原因です。

どのように治せばいいのでしょうか。

 舌癖を治し、正しい咀嚼、えん下を身に付けるのが、MFTといわれる口腔筋機能訓練法です。表情筋や舌筋、咀嚼に係わる筋肉群の訓練を行い改善していきます。ベーシックなコースとしては、スポットポジション(舌先を正しい位置に置き、奥歯は噛まず、唇は軽く閉じる)を意識する、ポッピング(口を閉じ上顎に舌を付けタンッと音を出す)、口元を「イー」「ウー」の発音の形にする、左・右・両方の目を、それぞれグッとつぶって大きく見開く、上を向いてガラガラとうがいをして、水を含んだまま10秒間止めるなどの訓練があります。これによって顔の血行が良くなり、バランスのとれた筋肉が付きます。生活の中では、良く噛んでのみ込む(白米なら40回噛む、水で流し込まない)、左右均等に噛む、正しい姿勢で足を床につけて食事する、唇を噛んだり、指しゃぶりをしないなどを心掛けると良いでしょう。MFTは子どもだけではなく、成人や高齢者のえん下障害や舌の機能不全などにも効果があります。

2004年1月8日木曜日

「鬱(うつ)病」について

ゲスト/さっぽろ心療内科クリニック 加藤 亮 医師

鬱病について教えてください。

 鬱病は体の病気です。脳内の化学物質の活動のバランスが崩れることによって、さまざまな症状が現れます。精神面では、憂鬱である、今までできたことができにくい、何かをする意欲が起きないなどです。身体面では、お腹が痛い、頭が痛い、動悸(どうき)がする、眠れない、発汗するなどさまざまな症状があります。発病する年代も若い人から中高年まで幅広く、中には小学生の患者もいます。鬱病になりやすい、なりづらいという体質的なものはありますが、発症のきっかけには大抵の場合ストレスがからんでいます。ストレスの原因は人それぞれですが、多く見られるのは、勤めている人であれば昇進や職場環境の変化、女性なら結婚や出産などです。環境や生活のパターンが大きく変化したことで、神経の疲れがたまり、鬱病を発症します。ほかにも離別、死別、病気などが契機となる場合もあります。特別な病気ではなく、あらゆる人に発症の可能性がある疾患です。

鬱病かなと感じたら、どうすればいいのでしょうか。

 かつては鬱病ということに気付かないまま、症状が進んでしまうことが多かったのですが、最近はマスコミなどでも多く取り上げられ社会的認知が高まったため、自ら、あるいは周囲の人が気付き、専門医を受診する人も増えてきました。治療は抗鬱剤などの薬物療法がとても有効で、近年優れた薬が利用可能となっています。また、カウンセリングなどの心理療法も効果的といえます。鬱病の場合、現実よりも物事を悪く悪く考えてしまう認知障害を起こしている場合が多いので、次第に現実的な方向へ目を向けられるような治療を行います。自分の辛い気持ちを話すだけでも、随分症状が楽になるという人もいます。また、発症にからんだ環境調整も大切です。職場や学校のストレスが大きければ、休養をとることが必要なこともあります。鬱病が悪化すると自殺や未遂行為に至ることもあります。ほかの病気と同じように、治療が早いほど治りも早いので、「もしかしたら」と思ったら、迷わず専門医を受診することをお勧めします。

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