2021年6月23日水曜日

子どもの矯正治療

 ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 院長


子どもの矯正治療について教えてください。

 「矯正はいつ始めればいいですか」と聞かれることがよくあります。矯正治療に年齢制限はありませんが、あごの骨が成長途中にある子どものうちに行うのがベストでしょう。成長する力を利用することで、正しくかめるように骨格を誘導し、スムーズに歯並びやかみ合わせを改善できるからです。将来の抜歯や手術を回避できる可能性も高くなります。また、この時期の矯正治療は使用できる装置の選択肢が豊富で、一人ひとりに合った治療法を選べるというメリットもあります。ただし、矯正治療を始めるのに適切な時期は、歯並びの現状、歯やあごの骨の発育状況などによって変わってきます。まずは矯正治療を専門とする歯科医に診てもらうことが第一歩です。

 小学校の入学時(上下前歯が乳歯から永久歯に生え変わる時期)に一度受診し、歯並びやかみ合わせを点検することをお勧めします。この時期にかみ合わせを見ると、お子さんの将来の歯並びが予測できます。はっきりと外観から分かる症例だけでなく、一般の方の目にはほとんど分からない不正咬合の兆候もみることができます。治療が必要かどうか、治療を始めるのに最適な時期はいつ頃かなど、お子さんの歯並びの現状と将来の見通しの説明を受けるチャンスと考え、気軽に相談してみてください。

 矯正治療は専門性が高く、また治療期間は長期にわたるので、理想の治療を受けられるよう、納得のいくまで話し合える矯正歯科医を見つけることが大切です。治療の相談時に診療システムや実績、費用などクリニック自身の説明を十分にしてくれること。お子さんに必要な検査や分析、診断をしたうえで治療の方針や計画を示してくれることなどがポイントになると思います。

 新型コロナウイルスの影響による受診控えが歯科領域でも目立ちます。歯科クリニックでは新型コロナ流行以前から口の中に入る器具をその都度滅菌したり使い捨てを採用したり、飛沫防止のため吸引装置を使ったりするといった標準予防策を徹底しています。加えて、患者さんごとに座席を消毒する、フェイスガードを着用しての治療、予約を制限して接触機会を減らす─など可能な限りの感染対策を講じ、患者さんたちが安心して受診・治療してもらえるよう不断の努力を続けています。感染リスクよりも、口腔内の治療を中断・放置する不利益の方がずっと大きいことを理解してもらいたいです。自己判断で受診を控えず、必要な時に適切な受診をしてください。


2021年6月16日水曜日

認知症

 ゲスト/医療法人北仁会 いしばし病院 藤本 純 副院長


認知症について教えてください。

 記憶や判断など脳の知的な能力を「認知機能」といいます。認知症とは、何らかの原因で脳細胞が障害を受け、生活に支障をきたしている状態のことを指します。認知症は人口の高齢化に伴って増え続け、現在国内で500万人以上、65歳以上の4人に1人は認知症か、認知症の一歩手前の状態とされる軽度認知障害(MCI)といわれています。

 認知症にはさまざまな種類があります。最も多い認知症は「アルツハイマー型認知症」で、全体の6〜7割程度を占めています。病初期に目立つ症状は記憶力の低下で、特に新しい記憶が障害されます。そのほか、脳梗塞などが原因の「脳血管性認知症」、実際にはそこにないものが見える幻視や、手足のふるえなどパーキンソン病のような症状がみられる「レビー小体型認知症」、性格や人格の変化が特徴的な「前頭葉側頭葉変性型認知症」が代表的な認知症です。

 また“治せる認知症”として知られるのが、認知症のような症状が出る「正常圧水頭症」です。脳内の脳室と呼ばれる場所に髄液が過剰にたまる病気で、適切な治療をすれば症状が改善する人が多く、ほかの認知症との違いについて啓発を進める必要があります。


診断や治療について教えてください。

 認知症の診断で重要なのは、認知機能の低下が認知症によるものかどうかを判断すること、そして、認知症であることが明らかであれば、その原因疾患をきちんと鑑別することです。通常、医師の問診やスクリーニング検査、描画テスト、CTやMRI、放射線を含んだ薬剤を注射し、脳の血流量の変化を調べるSPECTといった脳画像検査の結果などを総合的にみて見当をつけていきます。

 認知症の原因となる脳病変の進行を止めたり遅くしたりする根本的な治療薬は、先日アデュカヌマブというアルツハイマーの原因とされているアミロイドβを減少させる新薬が米国で承認されました。しかし本邦での承認はまだされておらず、今後の動向に注目です。しかしこれも初期段階での使用を想定しており、早期の発見がより重要になってきます。

 早期発見には、家族や周囲の方の直感に勝るものはありません。「おや?」と思ったら、すぐに受診につなげることが大切です。

2021年6月9日水曜日

最新の糖尿病治療

 ゲスト/医療法人社団 青木内科クリニック 青木 伸 院長


最新の糖尿病治療薬について教えてください。

 糖尿病治療薬の最近の進歩は目覚ましいものがあります。飲み薬では、高血糖の時にだけすい臓からインスリンを分泌させ、正常血糖値へ下げる「DPP-4阻害薬」があります。この薬は、理論的には低血糖を起こさず治療できる薬剤で、糖尿病の平均血糖の指標であるHbA1c値を1.0%前後下げます。この薬と同じ系統の注射薬も登場し、「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれています。この注射薬はHbA1c値を1.6%前後下げます。1日1回の注射が必要ですが、現在は1週間に1回で済む注射薬も出ました。この系統の注射薬は、すい臓のインスリンを出す細胞を保護し、インスリンの分泌を弱らせない作用も持ち合わせているといわれています。従来まで体重を減少させる糖尿病薬がありませんでしたが、「SGLT-2阻害薬」が登場し、この薬剤は血糖値を下げると同時に体重も減らします。最近の研究データ結果によると、この種の薬剤は、心血管系の心不全の出現を抑える働きと糖尿病性腎臓病を良くする働きを持ち合わせていることが判明してきています。

 一方、インスリン注射に目を向けると、「持効型インスリン(1回の注射で24時間効果を持続する長時間作用型インスリン)」があります。飲み薬の治療が効かなくなる症例でも、飲み薬をそのまま服用しながら、1日1回の持効型インスリンの注射を加えると血糖値が改善する症例もあります。「混合型インスリン」は従来まで濁った製剤でしたが、透明な製剤が登場し、10回以上振って混合しなくても済むようになりました。

 さらに、持効型インスリンと前述したGLP-1受容体作動薬の配合剤が登場し、1回の注射で空腹時血糖と食後血糖を下げる効果があります。


糖尿病の治療について教えてください。

 糖尿病の治療状況が良好といえる目安は、HbA1cが7.0%以下になっている場合です。糖尿病の患者さんの約半数が、高血圧と脂質異常症(高脂血症)を合併しているといわれています。糖尿病を合併した高血圧の治療はとても重要で、血圧の治療目標値は125/75mmHg以下です。自宅で測定できる血圧計を治療に役立てる方法もあります。この場合使用する測定器は、指先や手首に巻くタイプのものではなく、上腕に巻くタイプのものをお勧めします。脂質異常症の治療目標値は、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が120mg/dl以下です。糖尿病に重症の虚血性心疾患、腎疾患、脳梗塞、下肢動脈閉塞、メタボを合併している場合には、LDL-コレステロールは70mg/dl以下と治療の基準値が厳しくなりました。

 以上のようなさまざまな基準値を長期間保てると、眼底出血による失明、腎臓の悪化による透析、足の潰瘍・壊疽(えそ)による足の切断など、糖尿病に由来する重症の合併症にならなくて済みます。それ以外にも脳梗塞、心筋梗塞などの予防にもつながります。

2021年6月2日水曜日

ギャンブル依存症

 ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院 中村 俊介 医局長


ギャンブル依存症とはどのような病気ですか。

 パチンコや競馬、カジノなどのギャンブルにのめり込む精神疾患です。ギャンブルに常に心を奪われている状態になり、一度始めると自らの意思ではやめられません。ギャンブルのことでうそをついたり借金をしたり、家族や周囲を巻き込み、金銭トラブルや人間関係の破綻を引き起こします。単に意思が弱い人、だらしない性格の人が陥る嗜癖(しへき)と誤解されがちですが、アルコール依存症や薬物依存症などと同じく、治療が必要な病気です。依存症はとても身近で、誰でもかかる可能性があります。

 どの依存症にも関係が深いとされるのはドーパミンという脳内の快楽物質です。ギャンブル依存症の場合、ギャンブルに勝つことでドーパミンが放出され、強烈な快感が脳に記憶されます。何度か繰り返すうちに脳が刺激に慣れてしまい、より強い刺激・快感を求めるうちにのめり込んでしまうのです。

 また、ギャンブル依存症はアルコール依存症やうつ病などの気分障害を合併する頻度が高いことが分かっています。


ギャンブル依存症の治療について教えてください。

 強い依存の状態であれば、自分の力だけで克服・回復するのは難しく、医療機関や専門機関による治療や支援が必要です。

 治療はカウンセリングなどの精神療法が柱となります。物事の受け止め方のゆがみや偏りを修正していく「認知行動療法」、過去の自分の行動や生活態度を親など自分の身近な人との対人関係を通して振り返り、内省を深めることによって気付きや洞察を得る「内観療法」、普段の行動を変える必要性について動機付けを行い、自ら〈変わりたい〉という気持ちや発言を引き出す「動機付け面接」などがあります。

 同じ病気を抱えた人たちが集い、支え合いながら回復を目指す自助グループへの参加も非常に有効です。生き方そのものを変えない限り、ギャンブル依存症は再発してしまいます。仲間の苦労に共感すること、仲間の「ギャンブルをやめ続けている」成功例を身近に感じることが助けになります。また、孤立の防止が再発を防ぎます。


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