2021年1月27日水曜日

ランナーの股関節周辺の痛み(グロインペイン症候群とぬけぬけ病)

 ゲスト/医療法人社団 二樹会 足立外科・整形外科クリニック 加谷 光規 副院長


ランナーによくみられる股関節周辺の痛みについて教えてください。

 ランニングブームが続いています。ランナー人口が増えている一方で、ランニングによるスポーツ障害が原因で走ることをやめる人も少なくありません。ひざやかかとの痛みもそうですが、股関節周辺の痛み・違和感に悩まされるランナーは多いです。一定の距離を走ると、脚の付け根や腹筋が痛くなってくる場合は「グロインペイン症候群」が疑われます。

 サッカー界でよく知られる症例ですが、ランナーにも多発します。股関節周囲の筋肉に負担のかかる走り方をしているため、それらの筋肉に疲労がたまって攣縮(れんしゅく)するのが主な原因かも知れません。

 もう一つ、走っているとおしりや太ももの裏側が痛くなったり、足に力が入らず真っ直ぐ走れなくなったりする症状がみられると、「ぬけぬけ病」の可能性があります。箱根駅伝で途中で走れなくなった選手がぬけぬけ病と指摘されるなど、病気の認知も進んできましたが、まだはっきりとした原因は明らかになっていません。これもグロインペイン症候群の一種で、梨状筋というおしりの筋肉が攣縮して神経の働きが障害されて起こるのではないかと考える向きもあります。

股関節周辺の痛みに対する治療について教えてください。

 病態がさまざまで、診断が難しいケースが多いですが、痛みがある箇所だけを治療するのではなく、全身を診て、正しい姿勢を身に付けたり、股関節付近への負担を減らしたりするなど、痛みの原因となっている根本の部分を治していく必要があります。

 注射療法とリハビリを組み合わせることで、完全に痛みが取れるケースも少なくありません。リハビリでは、筋のマッサージや筋力訓練、上肢から体幹、下肢を効果的に連動させる運動などを行います。

 早期に発見・治療できれば、それだけ早く、簡単な治療で症状を治すことができます。また、スポーツを続けながらの治療も、早期であればあるほど可能なケースが多くなります。画像診断をしても原因のはっきりしない股関節の痛みや、何らかの治療を受けているのに慢性的な痛みが取れず、悩んでいる方は一度診療することをおすすめ致します。


2021年1月20日水曜日

矯正歯科治療のメリットとリスク

 ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 院長


矯正歯科治療のメリットとリスクについて教えてください。

 矯正歯科治療の目的は、歯並び、かみ合わせの改善にあります。歯並びが悪いと、歯磨きが隅々までできず、虫歯や歯周病の原因になります。しっかりとかんで食べられないので、胃腸など消化気管にも大きな負担がかかります。また、審美面で劣等感を抱くことも考えられます。実際に正しい歯並び、かみ合わせになると、口元を隠さずに笑顔を見せるようになり、表情が驚くほど明るくなります。さらに、正しいかみ合わせでよくかむということは、脳の発達や認知症の予防にも良い影響を及ぼすという研究結果もあります。かみ合わせを直し、歯並びをきれいに整える矯正歯科治療が、機能面、健康面、審美面で、いかに重要であるかが、日本でも広く認知されてきたように思います。矯正歯科治療に恥ずかしさや後ろめたさを感じることなく、堂々と矯正器具を装着する人が増えているのはうれしい限りです。

 一方で、ほかの疾患の治療と同様に、矯正歯科治療にもリスクが生じる可能性もあります。より良い結果を導くための一時的なリスクです。例えば、矯正装置によって歯を動かす際の痛みや不快感です。これらは数日から1週間でなくなることがほとんどです。治療のどの段階で、どのような痛みや不快感があるのか、そして、どのように対処すればいいのかを事前に理解しておけば、過度に怖がる必要はありません。矯正装置があることで歯磨きがしにくくなるため、むし歯や歯周病になりやすいというのもリスクの一つですが、これも徹底したブラッシング指導などで患者さんのセルフケア意識を高めながら、プロによる定期的なチェックやクリーニングなどを組み合わせることで回避できるケースが多いです。

 歯科矯正治療は命にかかわる、緊急性の高い治療ではありませんが、時間もお金もそれなりにかかりますし、治療するご本人の強い意志、努力と根気が求められることも多いです。通院日を守る、歯みがきをきちんと行うなど、患者さんと主治医が二人三脚で進むことで、初めてゴールにたどり着けるのだということを、ぜひ覚えておいてほしいと思います。

 大変な治療を乗り切った後、その分得られる価値は大きく、歯並びやかみ合わせが良くなって人生観が変わり、元気になっていく方を私は何人も見ています。苦労や努力した時間が、残りの多くの人生の時間を輝かせるのが矯正歯科治療です。

2021年1月6日水曜日

飲酒で顔が赤くなる人は、食道がんに要注意!

 ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長


お酒を飲むと顔が赤くなりやすいのですが、気を付けた方がいいことはありますか。

 コップ一杯のビールしか飲んでいないのに顔が急激に紅潮したり、心臓がバクバクしたり、場合によっては頭痛がしたり、また極端な場合は吐き気をもよおしたりする現象を「アルコールフラッシュ反応」といい、その反応を示す人を「フラッシャー」と呼びます。

 アルコールの代謝ですが、私たちの体は摂取したアルコールを消化管で吸収した後、その大部分を肝臓で代謝し、最終的には水と二酸化炭素にして体外に排出しています。これには主に二段階の酵素反応がかかわっています。第一段階はアルコール脱水素酵素(ADH)によりアルコールをアセトアルデヒドに分解する反応です。第二段階は2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)によりアセトアルデヒドを酢酸に変換する反応です。フラッシャーは第二段階で働くALDH2の活性が遺伝的に低いため、悪酔いの原因物質とされるアセトアルデヒドが急激に体内に蓄積されることが原因でフラッシュ反応が引き起こされます。

 近年、フラッシャーはそうでない人(ALDH2の活性が強い人/いわゆる酒豪タイプの人)に比べて食道がんになるリスクが高いという研究結果が示されました。1日の飲酒量が1.5合以下で6倍、1.5~3合だと61倍、3合以上だと93倍に跳ね上がるとされます。 

 重要なのは、フラッシャーの発がんリスクはアルコールそのものにあるのではなく、ALDH2の活性が低いことで蓄積しやすいアセトアルデヒドが原因であることです。フラッシャーは、まったくアルコールを飲めない人(ALDH2の活性がまったくない人/いわゆる下戸の人)に比べれば、少なからずお酒を飲むことができます。 不快感を伴うフラッシング反応があるため飲酒を控える傾向にありますが、長年飲んでいると別の代謝経路が鍛えられて不快にならずに飲酒ができるようになっていきます。その結果、フラッシャーでも飲酒の習慣を持つ人が多く、アセトアルデヒドの長期的な蓄積により食道がんや咽頭がんのリスクが高まっていくものと考えられます。

 フラッシャーの方は、できるだけ飲酒を避けることをお勧めします。万一、食道がんになっても早期で発見するために、内視鏡検査をはじめとする定期的な検診を受けることも大切です。

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