2004年9月22日水曜日

「子ども、若者に急増する異常な咀嚼(そしゃく)・嚥下(えんげ)」について

ゲスト/石丸歯科 石丸 俊春 歯科医師

咀嚼、嚥下について、教えてください。

 物を噛(か)んだり、飲み込んだりがスムーズにできない状態を咀嚼・嚥下障害といい、高齢者に多いことは知られています。最近は年代を問わず「きちんと噛んで飲み込む」ことのできない人が急増しています。特に目につくのは子どもや若者です。自覚症状はなく、虫歯治療などで訪れ、一見問題なく健康に見えますが、診察すると異常咀嚼、異常嚥下の症状がみられます。咀嚼と嚥下は、食事時に咀嚼筋と舌筋を中心とした口腔(こうく)周囲筋の一連の総合作業によって成り立ち、その筋肉は生活習慣の中で鍛錬されます。子どもや若者が咀嚼、嚥下の異常をきたすのは、生活習慣に大きな問題があるからです。ファーストフードや、めん類など「きちんと噛まないで飲み込める」食事が中心になり、さらに姿勢の悪さやゲーム、パソコンなどの習慣が口腔周囲筋の衰えを招きます。また、子どものころから食事時に水や炭酸飲料などを用意し、流し込むような食事をしていると口腔周囲筋が発達しません。

咀嚼、嚥下異常でどのようなことが起こりますか。

 歯列不正、顎(がく)関節症、発音障害、口呼吸、虚弱体質の原因となります。そのまま高齢者になると、咀嚼、嚥下障害に陥り健康を害しやすくなります。テレビなどを見ているときに口をポカンと開けている、舌足らずの発音で特に「タ行・サ行」の発音が不明瞭(りょう)、むせやすい、飲み物がないと食事ができないなどは、注意信号です。
正しい嚥下の過程は、
  1. よく噛んで唾液(だえき)と交ざった食塊を形成する、
  2. 食塊を舌の上に移しこぼさないように保持する、
  3. 食塊を口腔から咽頭(いんとう)へ送る、
  4. 食道へという順になります。
また、食事のたびに、正しい姿勢、食事に十分な時間を掛け、左右均等に使って良く噛む、バランスのとれた食物の選択、飲み物無しで飲み込む、舌だけの力で飲み込むという点に注意を払いましょう。日ごろから、意識的に正しい咀嚼と嚥下、食事習慣を心掛けることによって、口腔周囲筋の機能が発達します。自分自身や子どもの咀嚼、嚥下に不安があったら、一度専門医を受診することをお勧めします。 

2004年9月15日水曜日

「胃食道逆流症(GERD=ガード)」について

ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳典弘 医師

胃食道逆流症について教えてください。

 胃の内容物が食道内へ逆流し、胸焼けやげっぷなどの症状を呈する疾病で、GERD(ガード)ともいいます。内視鏡で、食道粘膜に炎症所見が認められる「逆流性食道炎」と、胸焼けなどの酸逆流症状がみられながらも粘膜障害のない「内視鏡陰性GERD」の2タイプがあります。GERDの要因としては、胃から食道への逆流を防止する下部食道括約筋という筋肉の緩み、腹圧の上昇により胃の内圧が食道の内圧より高くなったとき、あるいは胃食道の運動機能や分泌機能の低下などがあげられます。かつては日本人に少ない疾病でしたが、食生活やライフスタイルの欧米化によって、近年増加の傾向にあります。特にアルコール、喫煙、肥満は大きな要因として報告されています。胸焼けは逆流性食道炎の特異的な症状とされてきましたが、最近は胸焼けがあるのに食道に炎症のない「内視鏡陰性GERD」が注目されています。GERDの患者の半数がこれにあたるともいわれ、胸焼け以外にも胸痛、喘息(ぜんそく)様発作、せき、のどの違和感などを訴えることもあります。また、肩こり、背部痛、口の苦み、夜間の発汗などがGERDによる症状の場合もあります。

診断、治療方法について教えてください。

 まず、問診を行い胸焼けの有無やどのようなときに症状が出現するのかなどを確認します。さらに、食道をはじめとする上部消化管に、他の病変の合併がないかも含めて、内視鏡検査で確認します。治療は一般に内科治療で行います。予防の上で肝心なのは生活指導です。脂肪分の多いもの、甘いもの、アルコール、喫煙を控え、肥満にならないように指導します。腹圧を増加させるような前屈みの姿勢や、ベルト、帯、下着など締め付けるような服装もできるだけ避け、食後3時間は横にならないようにします。薬物治療としては、消化管運動機能改善剤、胃酸の分泌を抑制する制酸剤などを用います。逆流性食道炎の場合、内科治療で思わしい改善が認められない場合は、逆流防止手術による外科治療が考慮されます。手術は、最近では体への負担が少ない腹腔鏡でも行われるようになり、入院期間の短縮が図られています。 

2004年9月8日水曜日

「傷は乾かしてはいけない」について

ゲスト/宮の森スキンケア診療室  上林 淑人 医師

すり傷の治し方を教えてください。

 けがで生じた傷、特にすり傷(挫傷や擦過症)は、乾燥させれば早く治ると考えている人が多いのですが、まったく逆です。すり傷を乾かすとかさぶたができますが、治りきっていない状態ではがすと、出血しやすいジクジクしたなま傷が姿を現します。かさぶたの下には湿潤な傷があり、それをかさぶたが覆い乾燥を防いで傷を治すための環境を作っているのです。それならば、最初から傷を乾かさずに、かさぶたを作る手間を省けば、早く傷が治るということになります。早く治れば、それだけ瘢痕(はんこん)が少なく、きれいに治癒します。また、すり傷などの表面には、傷の再生に必要な表皮細胞や線維芽細胞が多数存在しています。細胞が生きていくには水分が不可欠です。さらに、これら表皮細胞や線維芽細胞は、サイトカインという傷を治すのに必要な成分を分泌します。乾燥した環境では、表皮細胞や線維芽細胞は生きていけず、それらから出るサイトカインの効果は発揮されません。

どのような治療法が正しいのでしょうか。

 外用剤をたっぷり塗って、すり傷が乾くのを防ぎます。主に抗生物質軟膏(こう)が用いられますが、深い傷の場合は潰瘍(かいよう)治療剤を使うこともあります。これらの第一の目的は創面を湿潤に保つこと、そして本来の役割である感染防止と治癒促進効果が加わり、傷は早く治ります。外用剤を塗った上から、傷に密着しない被覆材(ガーゼ付き絆創膏など)を用います。被覆材が傷に密着すると、くっついてはがす際に再び傷を作ることになり治癒が遅れます。一般的にガーゼは乾燥させやすく、傷とくっつきやすい特徴がありますから、すり傷を覆うものとしては不適ですが、外用剤を多めに塗れば、傷にくっつくことなく使用できます。また、最近は傷にくっつかない被覆材も開発されていますから、それらを選ぶといいでしょう。
 最近、「ラップ療法」という治療法が話題に上っています。傷を消毒せず水洗いしてラップで覆うという方法です。一部には有効ですが、深い傷や感染を伴う場合は逆効果になることもあります。傷が深い場合は、専門医を受診してください。

2004年9月1日水曜日

「月経困難症と子宮内膜症」について

ゲスト/アップルレディースクリニック 工藤 正史 医師

月経困難症の原因について教えてください。

 日常生活を制限されるほどの月経困難症は、女性の約5%といわれています。その原因は、子宮筋腫(きんしゅ)、子宮腺筋症、子宮内膜症、クラミジア感染などの後遺症による骨盤腹膜の癒(ゆ)着性病変によるものといった器質的疾患が認められる場合と、器質的疾患が認められない機能的月経困難症とに分類されます。

最近増えている、子宮内膜症について教えてください。

 子宮筋腫は子宮に、卵巣腫瘍(しゅよう)は卵巣にできるものですが、やっかいなのは子宮内膜症。これは、子宮という名が付いているのに、子宮はもちろんのこと、卵巣、卵管、膀胱(ぼうこう)、腹膜、膣壁、直腸、まれに肺など、子宮以外の場所にもできます。子宮内膜は女性ホルモン(エストロゲン)で厚くなり、妊娠しない場合は、はがれて外に出る、これが月経の出血です。これが膀胱の中だと、そこでも月経と同じことが起こり、月経時に血尿になります。卵巣の中でも月経と同じことが起こりますが、子宮や膀胱と違い排出される出口がないため、月経の回数を重ねるたびに卵巣は腫(は)れて嚢腫(のうしゅ)となり、痛みは強くなります。たまっているのは、本来月経時に排出されるはずの血液で、血は古くなると固まりチョコレートに似た状態になるため、チョコレート嚢腫と呼ばれています。歌手の宇多田ヒカルさんもなったことで有名です。甘い名前ですが、現実は少しも甘くありません。非常に月経痛がひどく、周辺と癒着しやすく、不妊症や子宮外妊娠の原因になる厄介な疾病です。治療法としては、極度の月経痛を避けるために、投薬によって妊娠や閉経の状態を人工的に作り出し、月経を止めます。症状が進んでいれば、手術を行う場合もありますが、癒着が強くなければ、腹腔鏡手術という小さな切開創ですむ手術も可能で、入院期間も少なくてすみます。
 最近、ますます女性の妊娠、分娩(ぶんべん)回数が減り、高齢出産が進んでいます。薬で作り出すのではない本当の妊娠状態の期間が減っているため、子宮内膜症の増加の原因になっていると考えられています。

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