2022年4月27日水曜日

口腔機能発達不全症

 ゲスト/医療法人社団アスクトース 石丸歯科診療所 内山 喬博 副院長


口腔機能発達不全症とはどのような病気ですか?

 お子さんが生まれつき骨や筋肉の成長に影響を与える病気がないのに、「食べる」「話す」「呼吸をする」といった口の機能の発達が遅れている状態をいいます。具体的には、食べるのが遅い、発音や滑舌が悪い、いつも口を開けているなどの症状が当てはまります。

 こうした口腔機能の発達不全は、離乳期に発育に応じた硬さや形状の食べ物が与えられなかった、永久歯が生えるまでの時期に丸飲みの習慣がついた、幼児期にさまざまな大きさや硬さのものを適切に食べてこなかった、など離乳期や幼児期の食習慣などが関係していると考えられています。また、猫背やテレビやゲームをしている時の姿勢が悪いと、体の成長のバランスが崩れ、お口の周りの成長も遅れ口を閉じる力が弱くなることもあります。

 お子さんにこのような症状があっても、成長の個人差として見逃されるケースが少なくないのが現状です。成長発育の遅れや問題は、放置していると生涯にわたって健康に悪影響が出る可能性もあるので、速やかに見つけて対処することが重要です。


口腔機能発達不全症の診断と治療について教えてください。

 診断は、離乳完了前後に分けて、「食べる」「話す」機能が十分に発達するかを調べます。離乳完了前では哺乳の仕方や回数、時間、歯の状態や歯ぐきの形、唇や下の動きの状態などをみます。離乳完了後では食べもののかみ方、飲み込み方、食べこぼしなど食事の様子を観察するほか、発音の状態もみます。

 お口の成長の遅れや発育の問題が見つかった場合、まず虫歯の治療や予防に取り組み、口呼吸の改善や舌の悪い癖を直すための指導を受けます。虫歯で痛みがあると食事をしっかりとれなくなり栄養が不十分となって、口や舌を動かす筋肉の成長が遅くなってしまうからです。また、虫歯の放置は歯並び、かみ合わせに悪影響を及ぼし、口周りの骨や筋肉のバランスが崩れる原因にもなります。口呼吸は乾燥しやすく虫歯の原因に、舌の悪い癖は放置していると悪い歯並び・かみ合わせの原因になります。

 そのほか、「口腔筋機能療法(MFT)」と呼ばれるトレーニングで口周りの筋肉を鍛えたり、食習慣を見直したりし、原因を見極めながら必要な治療や訓練を行っていきます。お子さんに心配な症状があれば、早めにかかりつけ歯科医にご相談ください。

2022年4月20日水曜日

春先に増えるニキビの治療と予防

 ゲスト/宮の森スキンケア診療室 上林 淑人 院長


ニキビについて教えてください。

 進学や就職、出会いや別れ…と、新生活がスタートする春は何かと心身にストレスを受けやすい季節でもあり、肌荒れ、特にニキビに悩む方が多く来院されます。また、コロナ禍のマスク生活が長引き、「マスクのところにニキビができて困っている」という相談も多いです。

 ニキビは毛穴に皮脂が詰まり、そこにアクネ菌という細菌が感染して起こります。皮脂の分泌が盛んな部分に発症しますが、その原因は体質や肌質、学校や職場、家庭でのストレス、偏った食生活、睡眠不足などいろいろです。男性に比べ、化粧をする女性の方が悪化したり長引いたりしやすい傾向にあります。


ニキビの治療法と予防法を教えてください。

 ニキビには「こうすれば必ず良くなる」と単純に行かないことが多く、その人に合った治療法を見つけ、それを継続することが大切です。思春期のニキビは、比較的治療効果が出やすく、塗り薬だけで改善されることが多いです。20〜30代に出る“大人のニキビ”は、塗り薬だけでは改善せず長引くケースも多く、ビタミン剤や抗生物質の服用が必要になることもあります。最近は保険適用の塗り薬が複数発売され、治療の選択肢が増えています。

 また、一般的なニキビ治療では改善がみられない場合、漢方薬による治療が効果的なことがあります。ニキビの性状と患者さんの体質や体力、ホルモンバランスなどを総合的にみて、一人ひとりに合った漢方薬を処方します。

 できるだけストレスをためず、栄養バランスのとれた規則正しい食生活を送り、過労や寝不足、お酒の飲み過ぎを避けるなど生活習慣を改善していけば、ニキビの予防につながります。また、洗顔は大事ですが、洗いすぎは良くありません。洗顔料を十分に泡立て、やさしく洗い、しっかりとすすぐようにしましょう。間違ったスキンケアがニキビを悪化させているケースも多く見受けられます。ニキビ対策にはなるべく油分の少ない化粧品を選び、乳液や栄養クリームなどの使用は最小限にとどめましょう。

 “マスクニキビ”の主な原因は、マスクによるこすれとマスクの着脱による蒸れや乾燥です。対策には、マスクを外したときには適宜、余分な皮脂や汗を拭き取って清潔を保ち、保湿剤を塗るようにしましょう。マスクを付ける前に保湿剤を使うのも有効です。


2022年4月13日水曜日

手足のしびれ

 ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長


手足のしびれについて教えてください。

 手足のしびれが気になり、脳神経外科の外来を受診する患者さんが増えています。「脳梗塞などの脳血管疾患の症状ではないか?」「どこか血流が悪くなっているのではないか?」と心配される方が多いようです。

 しびれが長く続く場合や、症状がだんだん悪くなるようであれば、すぐに医療機関、専門医を受診した方がいいでしょう。また、急にしびれが起こって持続する場合も、脳や脊髄の病気が考えられるので、早めに受診してください。

 脳の病気によるしびれには、脳梗塞などの脳血管疾患があります。急にしびれが起こって、その後しびれが持続するのが特徴です。片側の手と口周囲のしびれが同時に起こる場合もあります。これは「手口感覚症候群」といい、脳の中の視床という部位の病気で起こります。脳梗塞の好発部位でもあるので、手口感覚症候群がみられたら、手足のまひやろれつが回らないなどの症状がなくても、すぐに脳神経外科を受診してください。


手足のしびれは、ほかにどんな原因が考えられますか。

 頸椎症や椎間板ヘルニアなどによる頸髄性のしびれが考えられます。この場合には、しびれの部位が脊髄神経の分布に重なることが多いため、診察により障害部位を推定することができます。しびれだけにとどまらず、筋力の低下などがみられるようになると、手術による治療が必要なケースもあります。頸椎病変に対しては、従来のレントゲン撮影に加えて、CTやMRIなどによる画像検査で、椎間板の変形や神経の圧迫などが、より正確に診断できるようになってきました。

 下肢のしびれには、腰椎疾患や下肢の閉塞性動脈硬化症があります。閉塞性動脈硬化症では、歩行時にしびれや痛みが起こり、しばらく休むと軽快します。これを「間欠性跛行(はこう)」といいます。血管の動脈硬化による病気なので、症状が進行すると血管外科での治療が必要になります。同じように間欠性跛行がみられる病気に腰部脊柱管狭窄症があります。腰部脊柱管狭窄症には立っている姿勢が辛く、前かがみになったりしゃがんだりすると症状が楽になるという特徴があります。

 頸椎や腰椎などが原因で起こる慢性的なしびれや疼痛に対しては、安静、薬物療法、マッサージなどの保存的治療も行われます。治療については、まずかかりつけの先生に相談されることをお勧めします。症状が悪化してくるようであれば、手術治療が必要になる場合もあるので脳神経外科専門医を受診してください。


2022年4月6日水曜日

うつ病と食生活の関係

 ゲスト/医療法人社団正心会 岡本病院 鈴木志麻子 医師


うつ病と食生活の関係について教えてください。

 平成29年の厚生労働省の患者調査(3年毎に調査)によると、気分障害(うつ病、躁うつ病など)で治療中の患者さんは約127万人と推計されるなどここ20年で3倍に増加しました。近年の新型コロナ感染症の影響でも、メンタルヘルスの問題が増加しているのはご存じのとおりです。

 うつ病治療の基本は、主に①脳(心)の休息(睡眠の確保他) ②環境調整(ストレス負荷の軽減)③心理療法(物事の捉え方の転換、ストレス対処など) ④抗うつ薬、の4つが重視されてきましたが、近年、運動や睡眠、食生活など生活習慣の改善が治療効果に大きな影響を与えるということが、さまざまな研究からわかってきました。うつ病と言えばストレス、と考えられがちですが、「生活習慣病」としてのうつ病という新たな視点があります。

 国立精神・神経医療研究センターが行った大規模なインターネット調査(2018年)によると、うつ病経験者は、そうでない人と比較して、糖尿病や肥満、脂質異常症が多い、間食や夜食の頻度が高い、朝食を抜くことが多い、運動の頻度が少ないという結果でした。インターネット調査の限界はありますが、この結果からは、うつ病患者では朝食や適度な運動が重要であり、余分な食事やそれに伴う肥満は有害となる可能性が示されています。つまり、体重管理やメタボ対策、生活習慣の改善がうつ病の改善につながる可能性があるということです。

 肥満がうつ病を引き起こすメカニズムについては、肥満になると脂肪細胞で慢性炎症が起こって脂肪細胞からサイトカインが分泌され、これらが脳神経に炎症を起こし脳機能に影響を及ぼすことからと考えられています。肥満を防ぐためには1日3食のバランスの良い食事、つまり、野菜、果物、豆類、魚介類、穀類などを中心に摂取する食事を心がけたいものです。ちなみに、緑茶を多く飲む人はうつ病が少ないという調査報告も複数あります。他にうつ病の予防につながると考えられる栄養素として、「EPA、DHA」「ビタミンB」「ビタミンD」「葉酸」「鉄」「亜鉛」「アミノ酸」などが報告されています。さらに、「腸脳相関」といって、腸と脳が相互に作用していることが分かりつつある今、うつ病と腸内細菌との関連を調べる研究も進められていて、乳酸菌や食物繊維で腸内環境を整えることがうつ対策になるのではないかと期待されています。

 このように、うつ病と食生活や栄養には様々な関係があります。うつ病治療の土台として「食生活など生活習慣の改善」が重要であることを多くの方に知っていただきたいですし、ぜひ明日から取り入れて頂ければと思います。

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