2022年11月23日水曜日

これからの矯正歯科治療

 ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 院長


銀色の矯正装置が目立たないように治療する方法はあるのでしょうか。

 近年、日本でも正しいかみ合わせや歯並びが機能面や健康面、審美面でいかに重要であるかということが一般的にも知られるようになってきました。

 歯科矯正が広く受け入れられ始めた要因として、矯正器具の著しい進歩が挙げられます。かつては、歯の前面にギラッと光っていたメタルの矯正器具。確かに目立ちますので、特に成人の方には抵抗感があるものでした。しかし、現在では歯に近い白色のワイヤーや、透明なプラスチックやセラミックなどのブラケットによって、口元を目立たせないで治療することができます。また、歯の裏側(舌側)から治療する「見えない矯正治療」も普及しています。女性や接客業、営業職など、見た目の印象が気になる人にとっても、抵抗なく治療が始められるようになりました。スポーツをする人の口のけがの危険性や、部活動などで管楽器を演奏する人の吹きにくさが少ないことも、歯の裏側から治療するメリットです。


最新の矯正治療について教えてください。

 矯正治療の進歩は目覚ましいです。まず裏側から治療するブラケットのサイズが従来の半分以下の大きさになり、装着時の違和感が軽減されました。小型化によって清掃性が良くなり衛生的で、話しにくさを訴える患者さんも少なくなりました。表側のブラケットでは、ワイヤーとの摩擦の少ないものが開発され、締め付け感が少なく、治療期間も短縮できるようになりました。

 「アンカースクリュー」と呼ばれるねじを歯茎の骨の部分に入れ、歯を動かす時の固定源とする方法も登場しています。効率よく歯を動かすことができ、治療期間の短縮が期待できるほか、従来では手術が必要とされていた症例でも手術を回避できるケースが増えています。また、透明で着脱可能なマウスピース型の矯正装置を使う「アライナー矯正」も注目されています。着脱可能な手軽さと目立ちにくいのがメリットですが、ブラケットほど大きく歯を動かすことができないため、歯並びがひどい重症例には向きません。

 万能な治療法はなく、どのような方法、装置を選択するかは、患者さん一人一人の歯の状態や年齢、環境などが関わってきます。矯正治療を専門とする歯科医とじっくり相談し、納得の上で治療を始めることが何よりも大切です。


2022年11月17日木曜日

ピロリ菌除菌後胃がん

 福住内科クリニック 佐藤 康裕 院長


ピロリ菌の除菌治療をした後も、胃内視鏡(胃カメラ)検査を受ける必要はありますか?


 除菌後も定期的な胃カメラ検査が必要です。ピロリ菌は胃がんの原因であり、胃がん予防のための除菌治療はとても重要です。しかし、予防といっても胃がんを完全に防げるわけではありません。除菌に成功すると、胃がん発症の危険性が全体としては3分の1程度に低下しますが、ピロリ菌に感染したことがない人と比較すると発症リスクはかなり高いことが分かっています。日本ではこれまでに1000万人以上が除菌治療を受けていますが、除菌後は胃がんにならないと思い込んで胃がん検診などを受けないケースがあり問題となっています。実際に、除菌後に胃がんが進行した状態で見つかる例も少なくないです。

 ピロリ菌は主に乳幼児期に口から入り込み、胃の中に持続感染し粘膜に炎症を引き起こします。成人後に感染することはほとんどありません。多くの場合、無症状のまま慢性炎症が続き、次第に「萎縮性胃炎」という状態になります。数十年を経て、萎縮性胃炎が進行し胃がん発症のリスクが高まっていきます。

 30歳くらいまでに除菌すると、胃がんの発症予防効果が高いです。年齢が高くなると萎縮性胃炎が進み、ピロリ菌がいなくなっても胃の状態は元には戻らないため、除菌による発症予防効果は小さくなります。ピロリ菌に感染しても多くの人は自覚症状が出ないので、検査の機会を積極的につくり、なるべく若いうちに除菌治療を行うことをお勧めします。

 ピロリ菌に感染している人の割合は徐々に減少してきていますが、現在、日本人のピロリ菌感染者数は約3000万人と推計されています。まずは感染者の拾い上げが重要です。検査でピロリ菌に感染したことがないと判定されれば、生涯を通じて胃がん発症のリスクは低いです。一方、感染が判明した場合は胃がんの発症リスクを減らすため除菌治療を推奨しています。繰り返しになりますが、たとえ除菌をしても、もともと感染がない人に比べれば胃がんのリスクは高いので、除菌後こそ定期的な検査が必要です。除菌後に発症する胃がんは、周囲粘膜との境界が不明瞭で発見しにくいという特徴があるので、バリウム検査よりも精度の高い胃カメラ検査を受けることをお勧めします。年に1回程度の頻度で受ければ、早期発見が可能で、おなかを切らずに内視鏡で治療できる場合もあります。

2022年11月10日木曜日

ひきこもり

  ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 新井博達 公認心理師


ひきこもりについて教えてください。

 厚生労働省の研究事業で示された「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」(主任研究者・齊藤万比古ほか 国立国際医療研究センター国府台病院 2010)のなかでは、ひきこもりは「さまざまな要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6カ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)」と定義されています。

 ひきこもりという用語は病名ではなく、社会との関係の中で生じる現象を表すものです。すべてのひきこもり状態の人が、社会的支援や治療を必要としているわけではありません。一方で、生活上で何らかの困難や精神疾患を有する方も多くいます。近年はひきこもりの長期化に伴い、本人とその親が高齢化する「8050問題」が深刻化し、80代の親が50代の子を支えるような状況で社会的孤立や生活困窮に陥る懸念が生じています。


ひきこもりへの向き合い方や支援について教えてください。

 ひきこもり状態に本人が罪悪感を抱くことは少なくありません。しかし、ひきこもりは何らかの事情により誰にでも起こりうる状態で、責められることではありません。強い自責の念でかえって回復が遅れることもあります。また、生き方は多様であり、必ずしも就労を人生のゴールにする必要はありません。まずは、ささいなことでも良いので、本人が生活の中で楽しめることを探すことが大切です。対応に戸惑いを持つ家族もいらっしゃると思いますが、“家族自身”の生活が充実することで気持ちにゆとりができ、本人の回復にもつながります。家族向けの支援では、①家族自身の負担軽減、②家族が本人への関わり方を学び良好な関係を築くこと、③本人が相談機関の利用や社会参加につながることを目指した「CRAFT(クラフト:コミュニティ強化と家族訓練)」というプログラムが有効な場合があります。

 ひきこもりの支援機関には、ひきこもり地域支援センター、精神保健福祉センター、保健所などの市町村の担当部門、精神科・心療内科・小児科などの医療機関、児童相談所、当事者団体や家族会、NPOなどの民間の支援団体があります。支援の内容は、生活相談、精神的治療、居場所支援、教育活動、就労支援などです。本人の来談が難しい時は、家族向けの相談やオンライン相談、家庭への訪問支援を行っている場合もあります。

 本人や家族だけで問題を抱える必要はありません。気になることは行政の窓口や各機関に問い合わせてみましょう。本人も家族もより安心して、自分らしい生活を送るために地域の関係機関を利用していただきたいと思います。

2022年11月3日木曜日

長引くせきの治療と新しい治療薬

医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 北田 順也 副院長


長引くせきは、どんな病気の可能性があるのでしょうか。


 秋から冬へと季節が移り変わっています。この時季には、長引くせきに苦しむ方が病院を訪れますが、その多くはアレルギー性の「せきぜんそく」や「気管支ぜんそく」です。北海道の秋は、イネ科の植物やヨモギなどによる花粉症が知られていますが、ダニやほこりなどハウスダストが原因で発症するケースもよく見られます。夏場に繁殖したダニの死骸やふんが、空気の乾燥したこの季節に風で舞ったり、室内で暖房を使い始め、温風によって空中に浮遊したものを吸引してしまうのが原因です。

 医学的には8週間以上続くせきのことを「慢性咳嗽(がいそう)」と呼んでいます。例えば、持続期間が1ヶ月以内のせきの原因の多くは感冒を含む気道の炎症ですが、持続期間が長くなるにつれて感染症の頻度は低下します。慢性咳嗽の原因疾患としては、アレルギー性のぜんそく、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)や胃食道逆流症、肺がんや肺結核、肺炎、肺気腫などがあります。血液検査や喀痰(かくたん)検査、胸部写真(X線、CTなど)、呼吸機能検査などで詳しく調べて原因を特定し、その病気に対する適切な治療を行うことが必要ですが、適切なせき止め薬や吸入薬を使っても症状がなかなか改善しない難治性の慢性咳嗽や、中にはいくら検査しても原因がはっきりとしないという慢性咳嗽も存在します。


難治性の慢性咳嗽の治療について教えてください。


 なかなか打つ手がありませんでしたが、2022年4月に新たな作用機序を持つせき止めの新薬が登場し、治療の選択肢が増えました。従来のせき止めのような脳への直接作用ではなく、気道で刺激を感知して、せき中枢へと伝えるセンサー「P2X3受容体」をブロックすることで、せきの発生を抑える薬です。臨床試験では難治性の慢性咳嗽に対して一定の効果が確認されています。

 難治性の慢性咳嗽により日常生活に支障を来している患者さんが新薬の対象となります。新薬により、せきが減って生活の質が改善することが期待されています。注意点としては、程度の差はありますが服用した患者さんの約6割に、味覚不全など味覚に関連した副作用が現れることです。新薬の服用を検討する場合は、専門医に効果と副作用の両面からよく相談してみてください。

 長引くせきは「気管支からの危険信号」です。放置しないで、呼吸器の専門医を受診してください。

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