2021年5月26日水曜日

うつ病の養生

 ゲスト/医療法人社団 正心会  岡本病院  鈴木 志麻子 医師


うつ病の治療中・休養中は自宅でどのように過ごしたらいいでしょうか。

 うつ病の治療では、専門治療のほかにもご自身で取り組む「養生(生活に留意して健康の増進を図ること、病気の回復につとめること)」がとても大切です。

 ●生活リズムを整える…基本中の基本です。具体的には、起床と就寝の時刻、可能ならば食事や入浴の時刻をなるべく一定に保ちましょう。不規則な生活はうつ病を治りにくくします。午前中に日光に当たることで、体内時計をリセットして寝付きが良くなる効果があります。

 ●十分な睡眠をとる…遅くても23時ごろには床に就き、少なくとも7時間以上の睡眠をとるよう心掛けてください。夕方以降にコーヒーを飲んだり、寝る前にベッドの中でスマホを操作したりする習慣はやめましょう。また、お酒を睡眠薬代わりに飲むことは、実は逆効果です。酔ったまま眠るので睡眠が浅くなり、利尿作用で夜中にトイレに行く回数も増えます。

 ●お酒をやめる…少なくとも薬物療法中はお酒を控えましょう。お酒と一緒に飲むことによって薬の作用が強くなってしまったり、体に有害な作用が出たりする恐れがあるからです。また、憂さを晴らすために飲むお酒は、酔いから覚めた時に反動で強い憂うつや不安を起こしやすく、酒量が増えるとアルコール依存症を合併する危険もあります。

 ●バランスの良い食生活…現代人の食生活は「カロリーは過剰」で「栄養は不足」しがちです。貧血の方だと鉄分を補充するとうつ病の症状が改善するケースもあります。栄養バランスのよい健康的な食事をとることで、抑うつ症状が軽減したとの研究結果が報告されています。まずは「スナック菓子を減らす」「3食に野菜ジュースやヨーグルトを一品プラスする」等から始めましょう。

 ●適度な運動…週3〜5回程度の有酸素運動(ウォーキングやジョギングなら1回40分程度)で、うつ病の症状改善に薬物療法と同等の効果があると報告されています。最初は5分程度の散歩から始めてみましょう。

 ●気分に左右されずに活動する…うつ病は気分(調子)が良くなったり、悪くなったりを繰り返しながら、徐々に回復していく病気です。ですが、気分が良い時は活動し、悪い時は活動しないという「症状中心」の生活を続けていると中々自信がつきません。気分が悪い時でも、何かをやってみたら「意外と大丈夫だった」という経験は重要です。最初は小さなことから取り組んでみましょう。

 ●患者の役割を果たす…うつ病の急性期には過度の活動は病状を悪化させます。主治医とよく相談し、休むべき時は休みましょう。回復期に入った方や、軽度のうつ状態が慢性化している方は、気分に左右されずにいろいろな活動に取り組みましょう。休むべき時は休む、やるべき時はやる。それが「患者の役割」を果たすことです。

 医者任せ、薬任せにせず、ぜひ、ここに紹介した養生に取り組んでいただきたいと思います。

2021年5月19日水曜日

かくれ脳梗塞(無症候性脳梗塞)

 ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長


かくれ脳梗塞とはどのような病気ですか。

 脳ドックを受けたり、けがで脳の検査をしたりしたときに医師から、脳梗塞があると言われてドキっとした、という経験をされた方も多いのではないでしょうか。俗に「かくれ脳梗塞」というように、自分には思い当たるような症状がないのにもかかわらず、検査時に偶然見つかる脳梗塞をそう呼びます。正しくは「無症候性脳梗塞」といいます。

 脳梗塞と聞かされると驚かれると思いますが、すぐに大きな発作につながるケースは少ないので、必要以上に不安になる必要はありません。検査結果を伝える際に、医師の説明が十分でないために患者さんの不安が増している場合も多く、われわれ医療従事者も気を付けなくてはならないところです。「隠れ脳梗塞がありますよ」と言われた場合には、ご自身の持病や生活習慣などを見直すきっかけにしていただくのが得策ではないでしょうか。こういった機会に禁煙を決断される方もいらっしゃいます。


かくれ脳梗塞が見つかった場合、どう対応すればいいのですか。

 無症候性脳梗塞と診断された場合、差し迫った危険はないとはいえ、何も手を打たずに放っておいていいわけではありません。無症候性脳梗塞の方は、健常者に比べると脳梗塞や脳出血、あるいは認知症になる危険がやや高いことが分かっています。また、非常にわずかながら脳にダメージを与え続けている可能性があるという説も報告されています。つまり、自分が他の人より脳梗塞など脳の病気を発症するリスクが高いことを自覚して、その予防に積極的に取り組むことが大切です。

 だからといって、慌ててすぐに脳梗塞再発予防の薬を飲む必要性はありません。まずやるべきことは、脳梗塞の危険因子のチェックです。脳梗塞の発症に一番関係が深いのが「高血圧」の存在です。高血圧の方であれば、その後しっかり血圧を管理していくことがとても重要です。そのほかの危険因子には喫煙や糖尿病、脂質異常症などがあります。それぞれ医師の指導のもと適切に管理していく必要があります。

 脳神経外科の専門医では、さらに頸(けい)動脈の動脈硬化や脳血管のチェックなどを行って、リスクの高い方には内服薬を処方する場合もありますし、再発予防のための手術を勧める場合もあります。

2021年5月12日水曜日

花粉が原因となる皮膚炎(花粉症皮膚炎)

 ゲスト/宮の森スキンケア診療室 上林 淑人 院長  


花粉が原因となる皮膚炎について教えてください。

 本州の花粉症はスギ花粉が主な原因ですが、北海道の花粉症はシラカバ、ハンノキの花粉が主な原因で、ゴールデンウィーク前後からシラカバ花粉症が本格化します(札幌市内・北海道神宮境内に茂る木々にはスギの樹林もあり、円山や宮の森など周囲の地区ではスギ花粉にも注意が必要です)。さらに、ブナやマツ、クルミなどの樹木や、ヨモギやカモガヤなどイネ科の牧草による花粉症が9月ごろまで続きます。

 鼻水やくしゃみ、鼻づまりが花粉症の主な症状ですが、実は花粉が皮膚に付着することで、まぶたがむくんだり、目の周りや頬、鼻、口の周り、首周りなどがかゆくなったり、赤くなってガサガサに荒れたりといった症状を引き起こすこともあります。これがアレルギー性皮膚炎の一種である「花粉症皮膚炎」です。これは正式な病名ではなく、花粉が皮膚に影響を及ぼす症状の総称です。

 今年はコロナ禍でマスクを着用している時間が長いためか、鼻や口の周りは症状が軽く、まぶたや目の周りに症状が集中している印象があります。目の周りは皮膚が薄く、バリア機能が弱い部位なので、症状が強く現れやすいです。


花粉症皮膚炎の治療や予防について教えてください。

 毎年決まった時期になると顔や首がかゆくなったり、赤みやむくみ、ブツブツ、湿疹ができたりするようであれば花粉症皮膚炎が疑われます。希望があれば病院で調べられますので、相談してください。治療は、炎症を抑える外用薬と抗アレルギー薬(内服薬)を使います。アレルギー反応によって肌にかゆみが起こると、つい触ったりかいたりして炎症を悪化させてしまい、症状が慢性化するという悪循環に陥りやすいです。症状が出たら、早めに皮膚科を受診し、かゆみや炎症を抑えることが大切です。

 予防は、できるだけ花粉が肌に付着しないように心がけることです。新聞などの花粉飛散情報を常に注意し、特に風の強い日は外出を控え花粉を避けるようにしましょう。やむを得ず外出する際には必ず帽子や眼鏡、マスクを使って可能な限り花粉から身を守ること。普段コンタクトレンズを使っている人もこの時期は眼鏡の方がいいでしょう。また、外出先から帰ったら、まずは顔を洗って付着した花粉を水で流す習慣をつけてください。洗顔料を使わずに、水でやさしく洗い流すだけでも予防効果があります。

2021年5月6日木曜日

コロナ禍にあって〜女性のうつ病について〜

 ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 宮本 佐和 診療部長  

新型コロナウイルス流行に伴う外出自粛や休業要請によって、うつ症状など精神面での不調を訴える人が増えていると聞きますが、どうしてなのでしょうか。

 長引くコロナ禍もあって、多くの人の心は疲弊しています。コロナ禍で行動変容を求められた結果、憂鬱(ゆううつ)な気分が続いたり、不安、焦りといったうつ病の症状を訴えたりする人が増えています。いわゆる「コロナうつ」です。

 全国の自殺者も増加の兆しをみせています。警察庁の速報値では、2020年8月の自殺者は1849人で、前年同月より246人も増えています。特に女性への影響は深刻で、前年8月よりも45%も増え、男性の10%増と比べて顕著です。9月以降も女性の自殺は急増しています。なぜ、このようなことが起きているのでしょうか。コロナによる外出自粛で、夫や子どもの在宅が増え、これまで以上に家事や育児に負担がかかっていると指摘されています。実際に、私が診察する女性のうつ病患者さんも、家事や子育て、介護など家庭のケアワークの重圧をストレスに感じているケースが非常に多いです。また、雇用状況も大きく影響しているものと指摘されています。女性はパートや派遣社員など非正規雇用で働く人が多いため、コロナ禍による景気の悪化で、解雇や雇い止めなどの影響を受けやすいからです。先が見通せない不安や生活困窮も自殺の背景となる要因と考えられます。相次いだ有名人の自殺やその報道が与えた影響も少なくないと思います。

 男女にかかわらず、日本では公の場で孤独や苦悩を打ち明けることを不名誉ととらえる風潮があるように思います。うつ病など心の病と指摘されることを恥ずかしく思い、悩みや辛さを我慢してあまり口にしたがらない傾向があります。かえって孤独感や寂しさが増し、精神状態が悪化する要因となります。ツールの変容などによるコミュニケーションの変化は、人が慣れていくのに本来時間がかかるものです。新しい生活様式などあまりにも変化が早く、半年〜1年ぐらいでは人はついていけません。人間にとってコミュニケーションやつながりが生理的に深い意味を持っていることを、あらためて見つめ直す機会だと思います。

 気持ちの沈みや不眠、イライラ感、食欲低下、体のだるさは、だれにでも起こりますが、その強さと期間が長く続くなと思ったらそれがサインです。これまで心の問題を抱えながらも耐えていた人が、“新型コロナ”で最後の一線を越えてしまったケースも少なくないでしょう。頑張りようのない不安に気付いたら、病院に相談してほしいです。