2009年12月24日木曜日

「前立腺肥大症の手術」について

ゲスト/ベテル泌尿器科クリニック 三熊 直人 医師

前立腺肥大症の手術について教えてください。
 今日はクリスマス・イブですね。イエス・キリストの生誕の時に、ベツレヘムの郊外で羊飼いたちに御使いたちが現れ、「見よ、すべての民に与えられる大きな喜びをあなた方に伝える」と前置きした後に救い主の生誕を告げました(出典ルカの福音書2章10節)。
 ところで、救い主の生誕と比較できるものではありませんが、新しい前立腺肥大症手術ホルミウム・レーザーを用いたHoLEP(ホーレップ:経尿道的前立腺核出術)の手術は、手術が必要な患者さんにとって、まさに福音(良い知らせ)です。
 HoLEP(ホーレップ)は、尿道内から前立腺の肥大した部分のみをくりぬくように切除するので、従来の前立腺肥大症手術に比べ、1)出血が極めて少ない、2)TURP症候群などの重篤な合併症は起こりにくい、3)術後の痛みが非常に軽い、4)入院期間が短くて済む、などといった特徴があります。

HoLEPは従来の手術よりリスクが低いのですか。
 例として当院での実績を挙げると、2005年1月から2009年11月までにHoLEPの手術件数が1100件で、そのうち輸血を必要としたのがわずか一例のみでした。術後の痛み止めも基本的に必要ありません。手術当日の夜には普通に夕食を食べることができ、翌朝には尿道留置カテーテルこそ入っていますが、通常どおり歩行できる場合がほとんどです。尿道カテーテルの留置期間はだいたい1~3日で、入院期間は患者さんの年齢、前立腺肥大の重症度によって異なりますが、だいたい5~10日間です。
 日進月歩の医学の発展によって、前立腺肥大症の治療薬も長足の進歩を遂げ、多くの患者さんが手術を回避できる時代になりました。しかし、その一方で10~20年前にはほとんど見ることのなかった、前立腺の推定重量が100~200gにも及ぶケースが増えてきています。また、軽い前立腺肥大でも、前立腺の形状によっては手術以外に治療の手立てがない場合も多く見受けられます。
 HoLEPは1990年代後半から欧米を中心に広がり、現在日本でも確実に広まりつつあります。身体への負担、再発のリスクが少なく、入院期間の短縮で実生活への影響も最小限で済みます。患者さんにとっては、まさに福音と言える手術です。

2009年12月16日水曜日

「顎(がく)関節症」について

ゲスト/つちだ矯正歯科クリニック 土田 康人 歯科医師

顎関節症について教えてください。
 顎関節やこめかみなどが口の開け閉め、食べ物を噛(か)む時に痛む。あごを動かした時に「カクカク」「シャリシャリ」「ミシミシ」といった音がする。開閉時に下顎が左右にズレてガクガクする、口がスムーズに開かない。このような症状を顎関節症といいます。20〜30代の女性に多く、小・中学生ではほとんど見られません。原因は一つではなく、いくつかの要因が重なって発症するものと考えられます。食い縛りや歯ぎしり、偏った咀嚼(そしゃく)などが原因として挙げられます。ストレスによって発症することもあり、受験期に発症し、受験が終わると治ることもあります。 原因として一番多いのは、やはりかみ合わせです。治療した歯が、1本高い低いという程度でもかみ合わせに異常が生じ顎関節症を誘発することがあります。反対咬(こう)合、上顎前突、開咬、顎偏位症(下顎が左右どちらかに曲がっている)など、顎関節に負担がかかる人は、注意が必要です。

治療、予防について教えてください。
 治療は症状によりますが、スプリントと呼ばれるマウスピース状のものを使うのが一般的です。歯の一部または全体を覆うもの、上顎用、下顎用などがあります。スプリントによって、顎関節や筋肉への負担を軽くして、歯ぎしりや食い縛りを緩和します。痛みのないかみ合わせを見つけ、その位置で安定させ、きれいなかみ合わせを作ります。 このような処置で改善できないほど重症のあごの異常の場合は、外科矯正が必要になることもあります。いずれにしても症状が軽い方が治療も早くできますので、顎関節に異常を感じたら、矯正歯科や口腔(こうくう)外科など専門医を受診してください。 
 日常生活の中では、片側でかむ癖や、ほおづえも顎関節症を誘発します。うつぶせ寝や、寝る向きの左右の偏りも、顎関節に悪影響を与えます。また、子どものかみ合わせや歯並びの異常は、将来顎関節症の原因となる可能性があります。早めの矯正治療で正しいかみ合わせ、歯列にすることによって、潜在的な要因を取り除くことができます。

2009年12月9日水曜日

「三叉(さんさ)神経痛」について

ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 医師

三叉神経痛について教えてください。
 顔の感覚を自分の脳に伝える神経が三叉神経です。この神経に異常が起こり、顔が急に痛くなる病気を三叉神経痛といいます。顔の神経痛なので、顔面神経痛と呼ばれることもありますが、顔面神経という顔を動かす別な神経があるので、正しくは三叉神経痛と呼びます。
特徴は、突発的に起こる非常に激しい痛みです。これは神経が刺激され、興奮して痛みが生じているためです。痛みは一瞬から数秒で治まります。顔を洗う、ヒゲをそる、化粧をする、物を食べるなど顔を刺激することで誘発されることも多いです。このような日常の動作で突然痛みに襲われ、ひどくなると痛みのために食事も十分に取れない状態になります。
 原因は、三叉神経の脳に近い場所が主に血管により圧迫されるために起こります。まれに脳腫瘍(しゅよう)が原因であることもあります。問診を行うことで診断は可能で、さらに原因を調べるために磁気共鳴画像装置(MRI)の検査を行います。MRIの撮り方を工夫することで、圧迫している血管まで詳細に見ることができます。

治療について教えてください。
 カルバマゼピンという薬がよく効きます。しかし、飲み続けていると、徐々に効きが悪くなって、眠気やふらつきなどの副作用が出やすいという欠点があります。薬で症状が治まりきらず、再び強い痛みに襲われるようなら別の治療手段を考える必要があります。神経血管減圧術という脳外科手術により、原因となっている血管を移動させて、圧迫を解除することで治るケースがほとんどです。有効性はもっとも高いのですが、全身麻酔による手術が必要なので慎重な判断を求められます。
 高齢者の場合は、飲み薬も使いにくく、また全身麻酔の手術にも耐えられないなど治療が困難なことも多かったのですが、ガンマナイフという放射線治療も有効な手段です。
 顔を動かす顔面神経にも同じように血管の圧迫が加わる場合があり、顔の筋肉が発作的にピクピクと痙攣(けいれん)する顔面痙攣という疾患になります。これもカルバマゼピンが有効で、圧迫を解除する外科手術が有効です。

2009年12月2日水曜日

「日本人における前立腺の病気」について

ゲスト/芸術の森泌尿器科 斉藤 誠一 医師

日本人の前立腺の病気について教えてください。
 日本人男性の平均寿命は79.1歳で、加齢に伴う前立腺肥大症と前立腺がんは増加の一途をたどっています。また、年齢に関係なく発症する前立腺炎は、高熱を伴う急性前立腺炎から、必ずしも細菌感染を伴わない慢性前立腺炎まであり、後者は排尿障害、陰嚢(いんのう)から肛門にかけての不快感、鼠径(そけい)部の痛み、下腹部の張りなどの症状が持続し、難治性の場合があります。
 前立腺肥大症は夜間の頻尿や排尿困難といった症状によって、患者の活動性と生活の質を著しく低下させるため、積極的な治療をお勧めします。早期であれば投薬で改善しますが、内視鏡的手術が必要な場合もあります。
 前立腺がんは、患者数が急上昇しており、2003年には天皇陛下が手術を受けられ、それをきっかけに一般の人々においても非常に関心の高いがんとなりました。

前立腺がんはどのようながんですか。
 米国では、男性のがん罹患率第1位で、日本でも患者数が増加、現在65歳以上でもっとも多いがんであり、総患者数が2020年には肺がんに次いで第2位まで上昇することが予想されています。診断が早期であれば、手術や放射線療法でほぼ100%の5年生存率が得られますが、進行するとホルモン療法という治療法はあるものの、根治は難しく、転移がある場合の5年生存率は30%程度です。このように壮年期男性の代表的ながんであり、早期診断・治療可能にすることが急務です。
 診断には直腸診、超音波検査、PSA検査が行われますが、中でも血液検査のPSA検査が有用です。米国では65歳以上の75%以上が検査を受けています。50歳を過ぎたら年に1回はPSA検査を受けることをお勧めします。特に身内に前立腺がんになったことがある人は、ぜひ受けてくだい。
 このがんは脂肪の多い食事など食生活を中心とした生活習慣、人種差が現時点で危険因子として挙げられています。中年以降の男性は大豆製品やトマト、ブロッコリーなどの緑黄色野菜、緑茶をたくさん摂取し、日光浴や散歩などの有酸素運動を充分に行いましょう。

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