2022年8月25日木曜日

社交不安症

 医療法人北仁会 いしばし病院 内田 啓仁 医師

―社交不安症とはどのような病気ですか。

 社交不安症(SAD)は、多くの人から注目される行動に不安を感じ、顔が赤くほてる、脈が速くなる、息苦しくなる、おなかが痛くなるなどの症状が現れる病気です。例えば、公式な席であいさつをする、会議で指名され意見を言う、よく知らない人に電話をかける、外で他人と食事をするといった状況で症状が出ることが多いです。

 人から注目を集める場合に不安を感じることは誰にでもありますが、SADの人は常に悪い評価をされたり、笑い者にされたりするのではないかという不安感を覚え、そうした場面に遭遇することへの恐怖心を抱えています。SADのため、他人との関わりが辛くなり、不登校や出社拒否など社会生活に支障を来すケースも少なくありません。

 SADは10〜20歳代の発症が多く、症状が慢性化すると、うつ病やアルコール依存症など別の精神疾患の合併が問題となります。心の病気か、性格の特性か、見分けがつきにくいのもSADの特徴的な一面で、「内気」「人見知り」「引っ込み思案」などと思い込み、診療の機会を失ったまま過ごしている人も多いです。

―治療について教えてください。

 SADの治療法は大きく2つ、薬物療法と精神療法があります。治療の柱となる薬物療法では、不安や恐怖を感じる原因とされる脳内物質のバランスを保つ薬「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」を用います。「抗不安薬」や「β遮断薬」などを併用し、不安時の身体症状の緩和を図る場合もあります。

 精神療法では、物事の受け止め方のゆがみや偏りを修正していく「認知行動療法」や、不安が生まれる状況にあえて飛び込んで段階的に身を慣らしていく「暴露療法」などが有効です。同時に、適度な有酸素運動などの生活指導、リラックス法や呼吸法など不安状況への対処法の指導も行われます。

 SADは次第に認知されてきましたが、まだ十分に知られていない病気です。何より大切なのは、SADは単なる性格の問題ではなく、治療可能な心の病気だと理解することです。治療によって長年の苦痛から解放され、人生が大きく変わる患者さんもたくさんいます。不安の程度が強かったり、頻度が高かったりする場合は、思い切って専門医を受診し、適切な治療を受けることをお勧めします。

2022年8月18日木曜日

月経前の精神的不調について

医療法人社団 正心会 岡本病院 瀬川 隆之 医師

―月経前になるとイライラや気分の落ち込みが激しくなるのですが、これは病気でしょうか? 

 月経前の時期に精神的、身体的に不調となる女性は多く、このような不調を月経前症候群(PMS)といいます。その中で特に精神症状が重いものを月経前不快気分障害(PMDD)と呼び、月経のある女性の5%程度が当てはまります。PMDDはアメリカではうつ病の一種として扱われています。PMSやPMDDの精神症状は、排卵後から月経開始日前後の間にみられる憂うつな気分やイライラなどで、情緒不安定となり周囲の人とトラブルになることもあります。月経が始まるとこれらの症状は消失します。

 月経前の不調は、元からある精神疾患の症状悪化としてみられることもあり月経前増悪(PME)とも呼びます。うつ病の患者さんではさらにうつ状態が悪化し、統合失調症の患者さんでは自分を責める幻聴が増えたりします。PMSは婦人科での対応となりますが、PMDDやPMEとなると精神科がかかわる必要があるでしょう。

―治療について教えてください。

 PMS、PMDD、PMEは女性ホルモンの変動が主な原因と考えられています。そのため婦人科的治療では低用量ピルなどを利用し、排卵を抑制してホルモンの変動を抑えます。また、女性ホルモンにより脳内のセロトニン神経系に変化が生じていることが推測されているため、精神科的治療としては抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を使用します。うつ病の治療時とは異なり、少量のSSRIで数日以内に効果が現れるケースが多いです。即効性があるため月経前の時期だけSSRIを内服する間欠療法が可能ですが、月経周期がはっきりしない場合や間欠療法では十分に効果が出ない時には継続的な服用が必要となります。

 副作用などでSSRIが使えない場合は「加味逍遙散」「抑肝散」などの漢方薬で、ある程度症状が改善することがあります。またストレスで症状が出現、悪化する病気であるため、月経前の時期には特にストレスを避けるよう気を付けてもらいます。

 精神科などで指摘されて初めて、精神症状が月経周期と関連していることに気付く方もいます。自身の精神的不調が月経周期と関連していないか、特に月経前の時期に症状が出現している方は一度受診して確認してみてはいかがでしょうか。

2022年8月11日木曜日

苦痛の少ない内視鏡検査

やまうち内科クリニック 山内 雅夫 院長

―胃内視鏡検査、大腸内視鏡検査について教えてください。

 これまで、胃内視鏡検査は口から入れる経口内視鏡を用いるのが一般的でした。しかし、最近は「経鼻内視鏡検査」という鼻から挿入する方法で検査が行われることも増えてきました。経鼻内視鏡は以前からありましたが、近年は著しく性能が良くなり、導入する医療機関が急増しています。

 経鼻内視鏡は弾力性のあるしなやかなチューブで、直径は5mm台と一般的な経口内視鏡に比べて細く、スムーズに挿入することができます。画像もクリアな高画質で、視野が広く、ごく小さな病変も発見することが可能です。

 経口内視鏡は挿入時、舌の付け根の舌根という部分に内視鏡が触れることで、検査の最中に「オエッ」という吐き気をもよおすことがあるなど、患者さん の負担が大きかったのですが、経鼻内視鏡では鼻から挿入した内視鏡は鼻腔(びくう)を通って食道に入るため、嘔吐(おうと)感や痛みがほとんどありません。また、検査中に医師と会話できることも、患者さんと医師双方にとって大きなメリットになっています。

 大腸内視鏡というと、どうしても辛く苦しい検査を想像してしまう方が多いと思いますが、こちらも器具や技術の進歩により、従来に比べて検査は楽になってきています。多少の圧迫感はあっても、痛みを抑えて検査を終えることができます。また、鎮痛剤を用いることで、眠っている間に治療が終わるケースもあるようです。

―内視鏡検査を受けるべき年齢や頻度について教えてください。

 大腸がんのリスクが高くなる40代以上は、胃がんのリスクが高くなる年代でもあります。「検査が怖い」「以前すごくきつかった」など、大腸や胃の内視鏡検査を苦手とするために、がんなど重篤な病気の発見が遅れてしまう例も少なくありません。がんや潰瘍など、食道や胃、十二指腸、大腸、小腸などの疾患は、早期発見・早期治療が完治への近道です。そのためには、定期的な検査が重要です。

 それぞれの内視鏡検査を受けるのに適切な時期や間隔は、病歴・経過や家族や近親者の病歴などにより個人差はありますが、基本的には40歳になったら「まずは一度」、50歳代以降では1年〜数年ごとに検査されることをお勧めします。

2022年8月4日木曜日

新型コロナ感染・療養後の長引く咳(せき)について

 ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 院長


新型コロナウイルス感染症の療養後も咳(せき)症状が残っている場合、どのような病気が疑われますか。

 新型コロナウイルス感染症の症状は、咳のほか、発熱や倦怠感、咽頭(いんとう)痛などさまざまなものがあります。熱が下がり、のどの痛みなどもおさまり、体調が回復したと思っても、咳だけが残る場合があります。「コロナ後遺症」の可能性も考えられますが、コロナ感染・療養後に長引いている咳は、肺に通じる気道に炎症が起こる「ぜんそく」やその前段階とされる「咳ぜんそく」が疑われます。

 ぜんそくや咳ぜんそくの咳は、●季節の変わり目に咳が出る ●痰(たん)が少なく、乾いた咳が出る ●夜寝る前や早朝に咳が出る ●のどがイガイガしたりムズムズしたりする、といった特徴があります。ハウスダストや花粉、カビなどのアレルギー物質が原因となることが多く、小児ぜんそくの既往がある方やアレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎を持っている方がかかりやすいです。初期段階では、昼間は落ち着いていても、寝ている夜間や明け方に激しくせき込み、呼吸時に「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった音がする喘鳴(ぜんめい)が起こることが多いです。

 タバコを吸う方であれば、主に喫煙が原因で、気道が閉塞して呼吸機能が低下する「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」も疑われます。


検査や治療について教えてください。

 咳が1週間以上続く場合、まず胸部レントゲン検査を行います。異常が認められると、精密検査として胸部CT検査を行うのが一般的です。ぜんそくやCOPDの診断には、息を思いっきり吸ったところから勢いよく吐き出し、その1秒間に吐いた量を評価する肺機能検査が有用ですが、息を吐き出す時に飛沫が飛ぶ可能性があるため、コロナ禍ではなかなか行いづらくなっています。そこで、肺機能検査に準ずるものとして、患者さんからの症状の聞き取りや患者さんに回答してもらう質問票が重要になります。

 ぜんそく、咳ぜんそくの治療は、一般的な咳止めの薬では症状の改善がなかなか難しく、吸入ステロイドや気管支拡張剤などを使います。何よりも重要なのは、治療していく中で咳症状が落ち着いてきても、自己判断で治療を中断しないことです。気管支内の炎症は長く残ることが多いので、一定期間、決められた吸入回数で継続した治療を行うことが大切です。

 COPDと診断された場合も、狭くなった気管支を拡げて呼吸を楽にする吸入薬を使います。ぜんそく同様、継続的な治療が必要です。また、症状を悪化させないためにも禁煙が治療の前提となります。

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