2018年2月28日水曜日

慢性頭痛

ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長

頭痛の原因について教えてください。
 頭痛に悩み、「頭の痛みの原因は何なのか?」「何か悪い病気が隠れているのではないか?」と心配され、病院を訪れる方が増えています。不安は痛みを増強させますので、頭痛に対する正しい理解を得ることが重要です。
 頭痛にはさまざまな種類がありますが、大まかに「怖い頭痛」と「怖くない頭痛」に分けることができます。怖いのは、例えば「くも膜下出血」や「脳腫瘍」といった命にかかわる病気の症状としての頭痛です。われわれ医師は、頭痛の患者さんを診るときは、まず他の重篤な病気が隠れていないかを調べるのに時間をかけます。
 頭痛持ちと呼ばれる方の多くは、怖くない頭痛のケースが大半で、脳に病気がないのに繰り返し症状が起こる「慢性頭痛」と考えられます。先ほどの「怖い頭痛」とは違い、コンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)などの画像検査でも異常は出ません。国内では4人に1人が慢性頭痛を患っているとされます。痛みの程度は人それぞれですが、寝込んでしまうほどの痛みなど、日常生活に支障を来す場合もあります。日本では、慢性頭痛が病気であるという認識が薄いため、周囲の理解が得られず、患者さんの苦しみがより大きくなることもあります。

慢性頭痛について教えてください。
 慢性頭痛もまたいくつかに分類されますが、その7〜8割を占め、男女差なく最も多く認められるのが「緊張型頭痛」です。人間の頭は大きく重く、それを支える骨や筋肉には大きな負担がかかります。長時間同じ姿勢でいることや運動不足に加えて、精神的なストレスが引き起こす、背中から肩、首にかけての筋肉のこわばりによる頭痛です。ストレッチ体操やヨガなどで筋肉を和らげることが治療にも予防にも効果的です。
 「片頭痛」も慢性頭痛の一つです。目の奥や側頭部、後頭部などがズキンズキンと痛みます。頭がギューっと締め付けられるように感じたり、吐き気を伴ったりするなど、辛い頭痛の代表といえます。視界にキラキラ光るものが見えるなど、特徴的な前兆を伴うケースもあります。鎮痛剤が効かないほどの痛みに悩まされることも多く厄介ではありますが、それが「いつもの痛み方」であれば、怖くはない(命には別状がない)頭痛です。片頭痛専用の良い薬があり、適切なタイミングで使うと非常に有効です。

2018年2月23日金曜日

風邪(かぜ症候群

ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長

風邪について詳しく教えてください。
 冬将軍が到来し、空気が乾燥するこの時期は、「風邪の季節」でもあります。風邪(かぜ)とは、実は単一の病名ではなく、いろいろな症状が重なった症候群(しょうこうぐん)なのです。だから一口に風邪といっても、くしゃみや鼻水、せき、のどの痛みなどを主な症状とする風邪から、せきのひどい気管支炎や、高熱、頭痛、からだのだるさ、ふしぶしの痛みなどの強い全身症状を伴うインフルエンザまで、さまざまなタイプがあります。ただ最近ではインフルエンザをすみやかに診断する検査法があるので、検査で陽性の場合、風邪とはいわずにインフルエンザと言います。
 風邪の症状を起こす微生物(病原菌)の80〜90%がウイルスによるものです。主なものは10種類ほどといわれ、冬はインフルエンザ(A、B)、RS、夏はコクサッキー、エコー、エンテロ、通年型としてはパラインフルエンザ、アデノ、季節とはあまり関係ないものとしてはライノ、コロナウイルスなどがあります。ただ、現在のところインフルエンザウイルスを除き、ウイルス感染症に有効な薬剤はありません。ですから「風邪薬」というのは、くしゃみや鼻水、せきなどの症状をやわらげる薬であり、ウイルスを殺す薬ではないのです。いわんや風邪の予防薬でもありません。インフルエンザワクチンは、インフルエンザウイルスの予防注射であって、風邪の予防注射ではありません。

病院を受診する際、気をつけたいポイントを教えてください。
 病院では、患者さんの症状にあわせて、鼻水止め、せき止め、痛み止め、解熱剤などの効果を有する薬を処方します。ですから、ただ「風邪をひいたので風邪薬をください」というのではなく、自分の症状をきちんと医師に伝えることが大切です。
 詳しい症状がわからなければ、薬の出しようがありません。それどころか、本当に風邪なのかさえわからないこともあります。せきやたんを症状とする病気には、肺炎や結核、肺がん、気管支ぜんそく、間質性肺炎などがあり、また発熱を症状とする病気には、膠原病や悪性リンパ腫、悪性腫瘍などがあります。命にかかわる病気が隠れているケースも多く、きちんと症状を伝えないと、手遅れになってしまうこともあるのです。
 病院を受診する際は、面倒でも、いつからどんな症状が出てきたのかをできるだけ詳しく伝えましょう。前もって、症状を記したメモなどを用意し、医師に見せるとより的確に診断、治療してもらえるはずです。

2018年2月14日水曜日

白板症


ゲスト/医療法人社団アスクトース 石丸歯科診療所 近藤 誉一郎院長

白板症とはどのような病気ですか。
 白板症とは、口腔内の粘膜によくみられる白っぽい病変の総称です。平滑なものやいぼ状に隆起しているもの、赤い部分が混在しているものなどがあり、ガーゼなどでこすっても取れません。患者は50〜70歳代に多く、歯茎や舌の側面の舌縁(ぜつえん)、頬の内側の粘膜によくみられます。通常は痛んだりしみたりせず無症状が多いですが、赤い部分が混在するものでは、痛みを伴います。
 原因は、長期の喫煙や飲酒、ビタミンAやBの不足、合わない義歯や詰め物、過度なブラッシングによる擦過刺激、虫歯による粘膜への刺激などが指摘されていますが、はっきり分かっていません。
 白板症の4〜8%が将来がんになるため、前がん病変ともいわれます。がんになるまで数年〜十数年かかるとされますので、用心は必要ですが、早期に受診すればそれほど心配はいりません。

診断と治療について教えてください。
 口腔内は狭いようで広く、鏡で見ても舌の裏など陰になって見えないところが多いです。加えて、白板症は痛みがないケースが多いので、自分では気付きにくいです。また、自分で白っぽい病変に気付いても口内炎などと区別をつけることは難しいので、病気の発見にはかかりつけの歯科を定期的に受診することが重要です。歯科医は患者さんの口腔内の変化にとても敏感です。
 白板症と同じように口腔内で白くみえる病気には、粘膜に白い部分がレース状に連なる「扁平苔癬(へんぺいたいせん)」や、真菌(カビ)の感染症である「カンジタ症」、良性腫瘍である「乳頭腫」などがあります。組織の一部をとる生検(顕微鏡検査)によって正確な診断が可能で、ほかの病気との区別や、悪性化しやすいか、初期のがんはないかなども調べられます。
 治療法は、ビタミンの服用や禁煙で治癒する場合もありますが、病変を切除するのが最良とされます。ただし、白板症は必ずしもがんになるわけではなく、また、広範囲の病変では切除すると口腔内に機能障害をもたらすリスクもあるので、経過観察を優先し、病変に変化があれば直ちに切除など対処するのも一つの方法です。
 また虫歯の治療や不適合な義歯を直すなどの口腔ケアを徹底し、白板症を予防することも大切です。

2018年2月7日水曜日

認知症予防と治療の未来


ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 鈴木 啓史 医師

アルツハイマー型認知症について教えてください。
 認知症は、脳の神経細胞が壊れていくことで記憶障害や判断力の低下が現れ、日常生活に支障が生じる病気で、原因や症状によってさまざまな種類に分けられます。中でも全体の3分の2を占めるとされるのがアルツハイマー型認知症で、治療や新薬の開発などで最も重要視されています。
 現在、アルツハイマー型認知症になる原因ははっきりとは分かっていません。国内で承認・使用されている治療薬は4種類ありますが、いずれの薬も残った正常な脳の力を引き出すことで、症状を緩和させたり、進行を遅らせたりするもので、残念ながら根本的に治す薬はありません。
 近年、さまざまな研究・調査から脳内に「アミロイドβ(ベータ)」という特殊なタンパク質がたまることが、発症の有力な原因と考えられています。アミロイドβは本来、消えていくものですが、何らかの要因により脳に蓄積され、「老人斑」という黒いシミをつくります。これが脳の神経細胞を壊し、結果、認知症を引き起こすのです。また、「タウ」と呼ばれるタンパク質の関連も指摘されています。

開発中の薬など最新の情報を教えてください。
 認知症の脳内の変化は、物忘れなど症状が表面化する前に始まっています。アミロイドβなど異常なタンパク質の蓄積は、長い時間をかけて少しずつ進んでいきます。現在、臨床試験が行われている薬剤やワクチンの多くは、アミロイドβやタウの蓄積を食い止めることを目的に開発されています。
 具体的には、脳内にたまるアミロイドβを取り除く薬、脳におけるアミロイドβの産生を抑える薬、神経細胞にできるタウを抑える薬などが臨床試験に入っています。また、認知症が引き起こす神経細胞の死滅を防ぐ薬も、日本とアメリカで開発が進んでいます。これら認知症の病因に基づいた疾患修飾薬(DMT)が近い将来に実用化されるかもしれません。
 治療だけでなく、アルツハイマー型認知症の早期診断に向けた取り組みも進んでいます。検査技術の進歩で、発症前に脳内のアミロイドβの蓄積状況を診断することは可能です(アミロイドPET)。ただし、現時点では保険の適用がなく(自己負担で)高額な検査となります。

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