2019年10月23日水曜日

くも膜下出血

ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長

くも膜下出血とはどのような病気ですか。
 くも膜下出血は、発症するとおよそ3分の1の方が亡くなり、3分の1の方が障害を残すといわれる重篤な病気です。しかし、残る3分の1の方は順調に経過して、元気に社会復帰しています。
 くも膜下出血は、脳動脈瘤(りゅう)と呼ばれる「血管のこぶ」の破裂により起こることがほとんどです。脳動脈瘤は、脳の表面を走る太い血管にできることが多いです。症状は頭痛が特徴的です。よく「激しい頭痛」と表現されますが、ごく軽い頭痛で発症するケースもみられます。痛みの強さよりも、「突然に発症した頭痛」であることが診断のポイントになります。出血した際に、頭の中の圧が高くなり、脳に血液が流れなくなることで意識障害を伴う場合もあります。
 初回の出血を切り抜けても、2回目の破裂による再出血で重篤な状態になる方も多く、治療の第一の目的は「再出血の防止」です。一般的な治療は、脳動脈瘤のくびれた部分をクリップではさむ「ネッククリッピング術」です。最近では、頭を切らずに、血管の中から治療する「コイル塞栓術」という方法も登場しています。再出血の予防がうまくいったら、その後は脳血管れん縮や全身の合併症の治療を行います。最初の手術と合併症の治療、この二つを乗り切ることが重要です。

くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤について教えてください。
 脳動脈瘤は破裂する前にその兆候が分かる場合もあります。「動眼神経麻痺(まひ)」という片方のまぶたが下がってくる症状や、物が二重に見えるなどの症状です。これらは大きくなった動脈瘤が動眼神経を圧迫していることから生じる症状です。短期間で大きくなる動脈瘤は破裂の危険性が高いので、なるべく早く脳神経外科での検査・治療が必要になります。
 破裂していない脳動脈瘤は、脳ドックでの脳の血管を調べる検査(MRA検査)で見つかることがあります。また、脳梗塞などほかの病気の検査で偶然見つかる場合もあります。見つかった動脈瘤の大きさや形、患者さんの年齢や身体的な状況を考慮して、破裂する前に治療することをお勧めするケースもあります。通常、動脈瘤があるというだけでは、破裂の危険性が高いわけではないので、その判断は慎重に行う必要があります。複数の医師に相談し、ご自身でよく考えて十分に納得した上で治療に臨むことが大切です。

2019年10月16日水曜日

感染性腸炎

ゲスト/佐野内科医院 佐野 公昭 院長

感染性腸炎とはどのような病気ですか。
 感染性腸炎とは細菌やウイルス、寄生虫などの病原体が腸に感染してさまざまな消化器症状を引き起こす病気です。多くは食品や飲料水を通して経口的に病原体が体内に入ります。そのほか、病原体が付着した手で口に触れることによる感染、感染者の吐しゃ物や便の処理時の感染などがあります。
 病原体として、細菌ではカンピロバクター、サルモネラ、腸炎ビブリオなどがあり、ウイルスではノロウイルスやロタウイルス、そのほか寄生虫では赤痢アメーバやランブル鞭毛(べんもう)虫などがあります。病原体によって食物や潜伏期間(感染してから発症するまでの時間)に一定の関係性があり、たとえばカンピロバクターでは鶏肉、サルモネラでは鶏卵、腸炎ビブリオでは魚介類、ノロウイルスは牡蠣などの二枚貝が主な感染の原因となります。
 一般的な症状としては、発熱を伴った下痢、腹痛、吐き気・嘔吐などです。ウイルス性では吐き気や嘔吐症状が強いのが特徴で、発熱はあっても38℃以下の場合が多いです。感染性腸炎は数日で治ることが多いのですが、病原体の種類によっては下痢が長引いたり、下血・血便を伴うなど重症化する場合もあります。病状や患者さんの様子により、必要な対応が変わってくるので、注意が必要です。

診断と治療について教えてください。
 診断には問診が大切です。症状とその発現時期、いつ頃、どのようなものを食べたか、同じような症状の人はいないか、最近の旅行歴などを聞くこともあります。比較的潜伏期間の長いカンピロバクター(2〜10日)、腸管出血大腸菌(4〜8日)などでは患者さんが何を食べたのか覚えていない場合があり、診断が難しくなることもあります。
 治療法は症状に応じた対症療法が中心です。腸内環境を回復させるために整腸剤、乳酸菌製剤を用いながら、病原体の種類や患者さんの状態によって、制吐薬(吐き気止め)、抗菌薬の投与を考えます。下痢や嘔吐、発熱などのために脱水症状にならないよう、経口補水液やスポーツドリンクなどでの水分補給が大切です。ペットボトルから直接飲むのではなく、常温にして少しずつコップに注いで飲むのがポイントです。嘔吐などのため自分で摂取できない場合には補液(点滴)を行うこともあります。うつらない・うつさないための対策も重要です。お手洗いや食事の前には手洗いを徹底してください。また、下痢や嘔吐が続く間は、集団生活をできるだけ避け、調理などの食品を取り扱う作業は控えること。そのほか、トイレはふたを閉めてから流す、タオルの共有を避ける、といった配慮も望まれます。

2019年10月9日水曜日

社交不安症

ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院  太田 健介 院長

社交不安症とはどのような病気ですか。
 人前で話をしたり、初対面の人と接したりするなど、他人から注目される場面や緊張を強いられる状況に対する不安を「社交不安」と呼びます。誰でも多かれ少なかれ経験があるものですが、この不安の程度が強く、日常生活にも深刻な影響が生じる状態が「社交不安症」です。
 苦手な状況や場面は人それぞれで異なりますが、人前で電話をかける、人前での食事、他人と視線を合わせることなども代表的なものです。「恥ずかしい思いをするのではないか」「失敗してしまうのではないか」という強い不安や恐怖を感じることで、手足や声の震えや動悸(どうき)、発汗、赤面、下痢などのさまざまな身体症状が表れます。このような堪え難い精神的・肉体的苦痛を味わうため、そうした状況を避けようとして登校・出社拒否など、毎日の生活や仕事に支障が生じるのです。
 発症年齢は10代半ばが多くみられます。はっきりとした原因は明らかになっていませんが、脳内の扁桃(へんとう)体やセロトニンの働きが関与しているのではと考えられています。
 社交不安症は、うつ病など他の精神疾患を併発するケースも多いです。パニック症や強迫症、全般不安症、アルコール依存症などが合併しやすいといわれています。

治療について教えてください。
 治療には大きく分けて、薬物療法と精神療法があります。症例によって、それぞれ単独、あるいは併用して治療を進めます。
 薬物療法では、抗うつ薬である「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」の有効性が認められています。精神療法では、認知行動療法の一種である「暴露反応妨害法」を用います。これは、まず社交不安症がどういう病気なのかを理解してもらう心理教育から始めます。次に、不安や恐怖を招くような場面で患者さんに避けないようにしていただき、段階的な目標に沿って徐々に身を慣らしてもらいます。最初のうち患者さんは強い不安を覚えますが、段階を踏んで行っていけば、不安や恐怖がなくなっていくことを実感できるようになります。
 この病気を持つ人は、不安や恐怖、心配を「内気」「あがり症」など自分の性格のせいだと考えて、医療機関を受診することが少ないようです。社交不安症は、きちんと治療すれば改善する可能性の高い病気です。早期受診・治療が改善への近道です。

2019年10月2日水曜日

最新の糖尿病治療

ゲスト/医療法人社団 青木内科クリニック 青木 伸 院長

最新の糖尿病治療薬について教えてください。
 糖尿病治療薬の最近の進歩は目覚ましいものがあります。飲み薬では、高血糖の時にだけすい臓からインスリンを分泌させ、正常血糖値へ下げる「DPP-4阻害薬」があります。この薬は、理論的には低血糖を起こさず治療できる新薬で、糖尿病の平均血糖の指標であるHbA1c値を1.0%前後下げます。この薬と同じ系統の注射薬も登場し、「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれています。この注射薬はHbA1c値を1.6%前後下げます。1日1回の注射が必要ですが、現在は1週間に1回で済む注射薬も出ました。この系統の注射薬は、すい臓のインスリンを出す細胞を保護し、インスリンの分泌を弱らせない作用も持ち合わせているといわれています。従来まで体重を減少させる糖尿病薬がありませんでしたが、「SGLT-2阻害薬」が登場し、この薬剤は血糖値を下げると同時に体重も減らします。最近の研究データ結果によると、この種の薬剤は、心血管系の心不全の出現を抑える働きと糖尿病性腎臓病を良くする働きを持ち合わせていることが判明してきています。
 一方、インスリン注射に目を向けると、「持効型インスリン(1回の注射で24時間効果を持続する長時間作用型インスリン)」があります。飲み薬の治療が効かなくなる症例でも、飲み薬をそのまま服用しながら、1日1回の持効型インスリンの注射を加えると血糖値が改善する症例もあります。「混合型インスリン」は従来まで濁った製剤でしたが、透明な製剤が登場し、10回以上振って混合しなくても済むようになりました。

糖尿病の治療について教えてください。
 糖尿病の治療状況が良好といえる目安は、HbA1cが7.0%以下になっている場合です。糖尿病の患者さんの約半数が、高血圧と脂質異常症(高脂血症)を合併しているといわれています。糖尿病を合併した高血圧の治療はとても重要で、血圧の治療目標値は125/75mmHg以下です。自宅で測定できる血圧計を治療に役立てる方法もあります。この場合使用する測定器は、指先や手首に巻くタイプのものではなく、上腕に巻くタイプのものをお勧めします。脂質異常症の治療目標値は、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が120mg/dl以下です。糖尿病に重症の虚血性心疾患を合併している場合には、LDL-コレステロールは70mg/dl以下と治療の基準値が厳しくなりました。
 以上のようなさまざまな基準値を長期間保てると、眼底出血による失明、腎臓の悪化による透析、足の潰瘍・壊疽(えそ)による足の切断など、糖尿病に由来する重症の合併症にならなくて済みます。それ以外にも脳梗塞、心筋梗塞などの予防にもつながります。

人気の投稿

このブログを検索