2022年12月29日木曜日

フレイルを予防しよう!<後編>

ライターコラム

  2020年度から75歳以上の後期高齢者を対象に、全国の自治体で「フレイル健診」が導入されるなど、心身の衰えを早期に見つけるため、要介護になる前の状態の「フレイル」が注目されています。高齢者のフレイル状態と簡単なチェック方法、フレイルの予防・改善法などをまとめました。


フレイルは要介護の一歩手前の段階簡単なテストでチェック可能


 フレイルは、日本語で「虚弱」の意味。年を取って体が弱った状態のことで、健康な時より心身は弱っているものの、介護が必要なほどではない、という中間の段階をフレイルと呼びます。

 高齢者の身体は個人差が大きいですが、弱ってくると筋肉の量も質も低下し、筋力が衰えます。そして、「外出しなくなる→エネルギーの消費量が減る→食欲が落ちる→栄養不足になる」という悪循環が起き、生活全般が衰えるフレイルに進みます。また、フレイルは身体だけでなく、心の影響も大きいです。外出の機会が減る、一人で食事を取るなど、孤立するとうつ状態になりやすくなります。それが活力の低下を招き、身体の衰えを加速させます。

 どうすればフレイルに気付くことができるのでしょうか。北海道医師会地域保健部が2019年に作成した「フレイル予防手帳」では、5項目のフレイルチェック=表=を試してみることを勧めています。


予防法や改善法は?

ポイントは「栄養」「運動」「社会参加」継続的に実践していくことが重要


 フレイルを予防するカギを握るのが「栄養」「運動」「社会参加」の3つです。

 食事は活力の源です。肉や魚は、筋肉の基になるたんぱく質を豊富に含みます。野菜や果物を合わせて食べると、筋肉量や体力の低下を抑えることが期待できます。東京都健康医療長寿センター研究所は、魚、油、肉、牛乳、緑黄色野菜、海藻、芋、卵、大豆製品、果物の10種類のうち、7種類以上を毎日食べるよう呼びかけています。バランスの良い食事で栄養をしっかり取りましょう。

 運動は筋肉の発達だけでなく食欲や心の健康にも影響します。少し息が弾むくらいの大股でウオーキングをしたり、坂道や階段を上ったりするのを習慣にして、今より毎日10分多く歩くことを目標にしましょう。椅子につかまって太ももをゆっくり上げ下げしたり、かかとを上げ下げしたりするのも、筋力やバランス感覚を鍛えるのに効果があります。無理をせず、できる範囲で毎日続けることが重要です。

 趣味やボランティアなど社会活動に積極的な人は、運動だけをしている人よりフレイルになるリスクが低いという研究もあります。友人らと外出や旅行を楽しんだり、地域の何らかのグループ活動に参加したりする中で、無理なく運動したり、会食したりする習慣ができるのが理想です。


■フレイルの簡易チェック表


□6カ月で2〜3kg以上の体重減少

□ペットボトルのふたが開けにくい(筋力低下)

□(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする

□青信号のうち横断歩道を渡りきれない(歩行速度低下)

□軽い運動・体操、定期的な運動・スポーツをどちらも週に1回もしていない


【判定】○1〜2つ該当=予備軍(プレフレイル) ○3つ以上該当=フレイル


 今、フレイルに注目が集まっているのは、この時期に生活に気を付ければ、改善の余地が残されていることが分かってきたからです。年齢を重ねてフレイルになってしまっても、またコロナがきっかけでフレイルになったとしても、適切な対策を取れば健康な状態に戻れる可能性があるということです。

2022年12月22日木曜日

フレイルを予防しよう!<前編>

 ライターコラム


 2020年度から75歳以上の後期高齢者を対象に、全国の自治体で「フレイル健診」が導入されるなど、心身の衰えを早期に見つけるため、要介護になる前の状態の「フレイル」が注目されています。フレイル状態になるとどのようなことが起きるのか、また、フレイルの簡単なチェック方法などをまとめました。


フレイルは要介護の一歩手前の段階

早めの対策で、健康な状態に戻れる可能性があります。


 フレイルは、日本語で「虚弱」の意味。年を取って体が弱った状態のことで、健康な時より心身は弱っているものの、介護が必要なほどではない、という中間の段階をフレイルと呼びます。

 高齢者の身体は個人差が大きいですが、弱ってくると筋肉の量も質も低下し、筋力が衰えます。そして、「外出しなくなる→エネルギーの消費量が減る→食欲が落ちる→栄養不足になる」という悪循環が起き、生活全般が衰えるフレイルに進みます。また、フレイルは身体だけでなく、心の影響も大きいです。外出の機会が減る、一人で食事を取るなど、孤立するとうつ状態になりやすくなります。それが活力の低下を招き、身体の衰えを加速させます。

 65歳以上の高齢者のうち、フレイルになっているのは1割、約350〜400万人という推計があります。フレイルの高齢者のその後を調べた調査では、3割以上が2年後に要介護認定を受けていました。また、認知症になる可能性が高いとの研究報告もあります。

 今、フレイルに注目が集まっているのは、この時期に生活に気を付ければ、改善の余地が残されていることが分かってきたからです。年齢を重ねてフレイルになってしまっても、またコロナがきっかけでフレイルになったとしても、適切な対策を取れば健康な状態に戻れる可能性があるということです。


フレイルは簡単なテストでチェック可能


フレイル健診も上手に活用し、予防や早期ケアをどうすればフレイルに気付くことができるのでしょうか。北海道医師会地域保健部が2019年に作成した「フレイル予防手帳」では、5項目のフレイルチェック=表=を試してみることを勧めています。


■フレイルの簡易チェック表


□6カ月で2〜3kg以上の体重減少

□ペットボトルのふたが開けにくい(筋力低下)

□(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする

□青信号のうち横断歩道を渡りきれない(歩行速度低下)

□軽い運動・体操、定期的な運動・スポーツをどちらも週に1回もしていない


【判定】○1〜2つ該当=予備軍(プレフレイル) ○3つ以上該当=フレイル


 2020年度から導入されている、フレイルの早期発見を重視したフレイル健診の質問票は、後期高齢者の特性を踏まえ、「1日3食きちんと食べていますか」「この1年間に転んだことがありますか」「普段から家族や友人と付き合いがありますか」といった生活習慣や身体機能、社会活動など、健康状態を把握する15項目で構成されています。質問票には、本人がフレイル予防の意識を高め、生活をより充実させるためにできることを考えてもらう目的もあります。フレイル健診を上手に活用して、フレイルの兆候がないかチェックし、予防や早期のケアにつなげてください。


※12月28日掲載予定(WEBは29日)の後編では、フレイルの予防・改善法についてご紹介します。

2022年12月15日木曜日

腸内細菌叢とアレルギー

琴似駅前内科クリニック 髙柳 典弘 院長


腸内細菌とアレルギーの関係について教えてください。


 腸は消化吸収を行うだけでなく、全身の機能に関与していて、そこには腸内細菌が大きく関係しています。腸内細菌にはさまざまな種類があり、腸の粘膜に隙間なくびっしりと張り付いていて「腸内細菌叢(そう)」と呼ばれます。最新の研究では、気管支ぜんそくや食物アレルギーなどの各種アレルギー疾患が、この腸内細菌叢の乱れに関係していることが分かってきています。

 腸は病原体にとっても体への入り口になります。これを防ぐために、腸管には免疫細胞や抗体が集中しています。この腸管免疫の働きを維持するのにも腸内細菌が欠かせないのですが、アレルギーのある患者さんは、腸内で「酪酸」という物質を作り出す「酪酸性生菌」の割合が少ないことが報告されています。

 酪酸は腸の粘膜を通過し、腸管内のリンパ組織に働き、「Foxp3」という遺伝子の発現を増加させます。その結果、過剰な免疫を抑える役割を持つ「Tレグ(制御性T細胞)」を増やすことが分かっています。言い換えれば、腸内の酪酸菌を増やし、Tレグを増加させることがアレルギー疾患・症状の抑制につながると推察されています。


腸内細菌叢に酪酸菌を増やすためにはどうすればいいですか?


 酪酸菌を含む食品は少なく、ぬか漬け、ナチュラルチーズ、納豆などに限定されてしまいますが、酪酸菌を腸内で育てることは食事内容を工夫すれば十分に可能です。酪酸菌の餌となる食物繊維を多く含む食品を積極的に摂取することで、腸内の酪酸菌の働きを活発にできます。食物繊維には水溶性と不溶性があります。腸内細菌の餌になりやすいのは水溶性の食物繊維で、わかめ、ひじき、ラッキョウ、キウイ、アボカドなどに多く含まれています。食物繊維は1日あたり成人男性でおよそ20g以上、成人女性で18g以上摂取することが目安とされています。また、酪酸菌入りのサプリメントで補うのも一手です。

 適度な運動習慣も腸の活動を活発にし、酪酸菌を増やします。週3~4回のペースで、1日30〜60分程度、息が少し上がる程度のウオーキングやランニング、サイクリングなどの有酸素運動がお勧めです。運動習慣が途絶えると逆に酪酸菌が減ってしまうという調査報告もありますので、酪酸菌を増やすためには、運動を継続して行うことが大切です。

2022年12月8日木曜日

認知症と軽度認知障害(MCI)

医療法人社団 正心会 岡本病院 山中啓義 副院長


認知症について教えてください。


 2030年には65歳以上人口が全体の31%に達すると推定されています 。21年の日本の平均寿命は新型コロナ感染症の影響で低下しましたが (男性81.4歳/女性87.5歳) 、医学水準の発達により今後も平均寿命は延びていくことが予想されます。このような状況の中で加齢をリスクとする認知疾患者の増加は必然です。

 認知症とは「物事を記憶すること」「物事を判断すること」「物事を予定や計画を立てて実行すること」の機能が低下し日常生活や社会生活に支障を来した状態です。認知症タイプは70種類以上ありますが、「アルツハイマー病」「脳血管性認知症」「レビー小体病」の3タイプで全体の 90%以上を占めます。 

 アルツハイマー病は「アミロイドβ(ベータ)」や「タウ」といった異常なタンパク質が脳内に貯まることで神経細胞が死滅し、記憶を司る海馬を中心に脳が萎縮して認知機能低下を引き起こします。脳血管性認知症は、生活習慣病が原因で脳血管がつまったり破けたりすることで脳細胞の壊死が起こり認知機能が低下します。レビー小体病は、脳内にタンパク質が集まってレビー小体という小さな塊ができ、それにより神経ネットワークに異常が生じて認知機能が低下するものです。

 世界中の研究者が認知症治療薬開発に尽力していますが、決定的な著効薬は未だに開発されていません。 


軽度認知障害(MCI)について教えてください。


 近年非常に注目されている概念が「軽度認知障害(MCI)」です。その理由は「認知症の前段階で認知症の始まりを捉えることが、認知症治療で重要」と考えられるからです。例えば、アルツハイマー病に向かう変化は、脳の側頭葉の「嗅内野(きゅうないや)」から始まりますが、その変化は40 〜50 歳代の半数にみられます。 

 MCIは「同年齢の人と比べて認知機能低下を認め、正常とはいえないが認知症の診断基準を満たさないレべル」といえます。疫学研究ではMCIから1年後に10%、5年後に40%が認知症に移行するとも報告されています。

  専門的には、脳内の神経原線維変化が嗅内野にとどまっている状態や、「臨床的認知尺度(CDR)」による認知機能や生活状況などに関する6項目評 価(記憶/見当識/判断力・問題 解決/社会適応/家庭状況及び興味・関心/介護状況)で認知障害の疑いとされるものがMCIとなります。 

 MCIを進行させないためには「脳血流量を減らさないこと」が重要です。具体的には暴飲暴食を避け、適度な運動やダイエットなどで生活習慣病を予防し改善すること。また、本人が楽しいと思える運動や趣味を定期的に行うことは、脳の活性化につながり、MCIの進行の遅延効果を期待できる可能性があります。

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