2016年2月26日金曜日

妊娠・出産とおしりの病気


ゲスト/札幌いしやま病院 川村 麻衣子 医局長

妊娠中や出産後に痔(じ)になりやすいのはなぜですか。
 妊娠、出産を経験すると、痔になったり、痔を悪化させたり、おしりの病気に悩まされる女性は少なくありません。
 妊娠で悪化する痔で最も多いのは痔核(いぼ痔)です。妊娠による子宮の増大で、肛門周辺の血管が圧迫されて、うっ血するのが主な原因です。また、同じく子宮の増大による腸管の圧迫や、女性ホルモンのバランスの変化などにより、これまで便秘体質ではなかった人でも便秘がちになることが多く、結果、硬くなった便を出そうと強くいきんで、肛門の出口付近が切れる裂肛(切れ痔)も発症しやすくなります。
 出産に伴うものでは、分娩時のいきみで痔が悪化するケースが多いです。妊娠中に腫れぼったくなっていた痔核が、分娩時にさらに腫れて、脱肛気味になることもよくあります。また、出産後は赤ちゃんの世話による睡眠不足やストレスで便秘がちになることに加え、母乳育児では体内の水分が母乳に吸収されるため、便が硬くなりやすくなり、痔を発症しやすい傾向にあります。

予防法や対処法について教えてください
 妊娠中の便秘対策は、こまめな水分補給を意識したり、食事内容を見直して、豆類・きのこ類・野菜類など食物繊維が豊富な食材を取るように心掛けましょう。また、排便時にはトイレットペーパーで強く拭くのではなく、勢いを弱めたトイレシャワーなどを使い、少ない刺激で洗い流しましょう。肛門周辺を清潔に保ち、長い時間力むような動作をしないこと、血行を良くするために、入浴や半身浴をして体を温めたり、体調が良い時は、ウォーキングなど適度な運動をすることも便秘の予防に有効です。
 妊娠中は、痔の手術治療は原則としてできませんので、主に座薬などによる保存治療と便秘改善などの生活指導が中心となります。痔の市販薬を自己判断で使うのは控え、医師に相談して妊娠中、出産後でも使える薬を処方してもらうと安心です。産後、痔の症状は少しずつ改善していくことが多いですが、ある程度以上悪い状態のものは、今後のために通院による治療や手術・入院による治療をお勧めするケースもあります。この次の妊娠、出産の時、さらに悪化することが十分に予想されるからです。手術の方法も年々改良されてきて楽に、短期間で完治するようになっています。

2016年2月24日水曜日

ストレスチェック制度


ゲスト/医療法人社団五稜会病院  中島 公博 理事長

働く人の心を守るための「ストレスチェック」を事業者に義務付ける制度が、昨年12月1日から始まりました。これはどのような制度ですか。
 昨年改正された労働安全衛生法に基づく制度で、背景には過労やパワハラによる精神疾患での労災認定の増加などがあります。労働者が50人以上の事業者に義務付けられ、道内は約5千の事業者が対象となります。
 制度では、「時間内に仕事が処理しきれない」「ひどく疲れた」など仕事や最近1カ月の状態などについての質問票に従業員が回答。ストレスの状態が数値化され、長時間労働やストレスが多いと「医師による面接指導が必要」と判定され、従業員に伝えられます。本人の了解なしに結果が会社側に知らされることはなく、本人の希望がなければ面接も行われません。関わった職員や医師らは、罰則付きの守秘義務を負います。面接後に医師が必要だと判断すれば、会社は労働時間の短縮や配置転換などの措置を取ることが求められます。

制度の意義と課題について教えてください。
 この制度は、精神的不調を抱える労働者を探し出すことではなく、労働者が自分のストレス状態を知り、うつ病など心のトラブルを未然に防ぐという目的があります。悪化しないうちに十分に休養を取るなど適切に対処すれば、多くの場合で状態は改善します。
 また、事業者は検査を踏まえて、従業員が働きやすい環境を整えることが求められています。心の不調を訴える従業員の多い会社は、他の従業員にしわ寄せが及び、新たな不調者が発生する悪循環に陥りがちです。例えば、部署全体のストレスチェックの結果をまとめて分析、比較すれば、高ストレス者が多い部署が分かり、仕事の進め方を見直すなどの環境改善につなげられます。心の健康を損ない休職、離職する問題が深刻化している現在、制度は職場全体にとっても有意義と考えられます。事業者は、単に検査をするだけでなく、フォローをきちんと行うことが重要です。
 面談などを行う産業医の不足や個人情報の管理の問題、効果的なチェックができるか、従業員が不利益な扱いを受けないかなど課題もありますが、従業員の心の健康を守り、会社の力を十分に引き出すためにも、本制度によるメンタルヘルス対策は非常に有効であると思います。制度の実施を契機に職場全体で対策を進めるとともに、労働者も意義を理解し積極的に検査を受けてほしいです。

2016年2月17日水曜日

MCI(軽度認知障害)と認知症


ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長

MCIと認知症について教えてください。
 80歳以上の人口が1000万人を超え、4人に1人が65歳以上という高齢化社会を迎えました。「物忘れなどが増え、自分は認知症ではないか?」との心配から脳神経外科を受診される方が増えています。脳ドックでも、以前は脳卒中の予防が主な受診動機でしたが、近年は認知症の早期発見や予防を目的とされる方も多いです。
 MCI(軽度認知障害)は、認知症の前段階で、正常と認知症の間くらいに相当する状態を指します。MCIをそのまま放置していると、5年間で約半数の方が認知症へと進行するともいわれています。しかし、MCIの段階で進行を食い止めるための対策を行えば、認知症の発症を防ぐことも可能です。現在、認知症を治す薬は残念ながらありませんが、認知症の進行を遅らせる効果のある薬は登場しています。そういった意味でも早期での受診・診断・治療が非常に重要です。

MCIの診断と認知症への進行を予防する対策について教えてください。
 診察では、まず問診を行います。次に、記憶力や判断力のテスト、画像診断などを行います。重要なのは問診で、特にご家族からの情報が診断の鍵となることが多いです。物忘れの回数などに正常値があるわけではありませんが、以前に比べて著しく回数が増えている場合や、物忘れの質的な変化がある場合は、本人よりご家族の方がその異常を敏感に感じ取っているケースが多いからです。画像診断は、認知症と似た症状を引き起こす別の病気との鑑別において重要です。また、アルツハイマー型認知症などでは、脳の一部に萎縮が起こるなど特徴的な所見を呈するので、画像診断が、軽い症状のうちに治療を開始するための決め手となります。
 MCIと診断されたからといって、全ての方が認知症になるわけではありません。適切な対策をすることによって認知症の発症を防げる可能性もあります。食事や運動などの生活習慣を見直すこと、具体的には①野菜や果物をよく食べること ②肉類より魚類を多く食べること ③定期的な有酸素運動を行うことが推奨されています。多くは生活習慣病の予防と重なります。加えて、体をよく動かすこと、人とのつながりを大切にすること、心に適度な刺激を与えることなどが、アメリカのアルツハイマー協会からも推奨されています。

2016年2月10日水曜日

「兎眼(とがん)」


ゲスト/札幌エルプラザ 阿部眼科 阿部 法夫 院長

兎眼(とがん)とはどのような病気ですか。
 兎眼とは、瞼(まぶた)を完全に閉じることができなくなった状態です。ウサギが目を開けて眠ると信じられていたことから名付けられたようです。原因の一つとして挙げられるのは、顔面神経麻痺(まひ)です。顔の左右どちらかの麻痺は、おでこの皺(しわ)がなくなったり、口が開けっ放しになったりする症状のほか、目を閉じられなくなることもあります。瞼が常に開いている状態になると、眼表面が乾燥しドライアイになり、同時に目の下方に涙がたまる涙目となります。目の乾燥が進行すると、角膜潰瘍や角膜混濁が生じ、視力の低下を引き起こすこともあります。
 顔面神経麻痺以外の原因で軽い兎眼になっているケースも多くみられます。まばたきの浅い人(瞬目不全)や、夜寝ている間、特に朝方、瞼が開いて白目や黒目の下方がみえている人(夜間兎眼)などです。近年は、瞼を人工的に二重にするため皮膚に塗ったり貼ったりするノリやテープが出回っており、これらにより瞼が引きつってしまい兎眼状態を作り出しているケースもあります。そのほか、瞼の外傷・瘢痕(はんこん)、眼瞼(がんけん)下垂手術・重瞼手術後の後遺症や、甲状腺機能亢進(こうしん)症に伴う眼球突出、眼窩(がんか)腫瘍などの病気が原因となり、目を閉じられなくなっていることもあります。

兎眼の治療について教えてください。
 兎眼が軽度の場合(涙が眼表面に比較的正しく分布するような場合)、通常のドライアイの治療で経過をみます。ジクアホソルナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、人工涙液の点眼を組み合わせて使用し、乾燥を防ぎます。睡眠中に症状がみられる場合は、就寝時に眼軟こうを塗布することで対応します。顔面神経麻痺の場合、その原因治療を行うとともに、目を閉じた状態で上から専用保護膜を貼ったり、場合によっては一時的に上下の瞼を縫合したりするなどして、症状の進行を防ぐこともあります。兎眼が重度の場合、または保存的治療が功を奏しない場合は、形成外科などでの手術療法が必要となります。
 一般に、眼科診療所でみられる兎眼は軽度なものが大半で、単にドライアイと診断されていたり、見過ごされていたりするケースも多いです。目の表面の強い乾き、ごろつき感、痛みなどがある時は、専門医にご相談ください。

2016年2月3日水曜日

発達障害


ゲスト/医療法人社団 正心会 岡本病院 瀬川 隆之 医師

発達障害とはどのような病気ですか。
 発達障害は、行動や認知の特性によって、いくつかの個別の障害に分類されます。主に、忘れ物や落ち着きのなさなどの症状が目立つADHD(注意欠如多動症)、他人の気持ちの理解やコミュニケーション能力に難のある自閉症やアスペルガー症候群を含むASD(自閉スペクトラム症)などがあり、発達障害はそれらの総称として使われています。症状には個人差があり、複数の障害を併せ持つ人もいます。
 発達障害は、生まれながらにして脳の発達に凸凹がある障害と考えられています。脳の発達の凸凹は誰にでもあり、その人の個性とも捉えることができますが、その凸凹が極端で、生活に支障が出るほどになれば治療を行います。
 従来、子どもに特有の障害と考えられがちでしたが、近年は大人になるまで障害と気付かずに見過ごされ、社会へ出てから仕事や対人関係に対応し切れなくなって初めて認識されるケースが増えています。その結果、職場で孤立したり、「どうしてうまくやれないのか」と過度に自分を責めたりして、うつ病など二次障害に至るケースもあります。背景には、障害の「見えにくさ」や周囲の理解不足が指摘されています。

発達障害の治療について教えてください。
 現在のところ、発達障害を根本的に治す方法はありませんが、ADHDの症状を緩和する治療薬はあります。また、非薬物療法としてカウンセリングなどを通し、社会に適応するための生活術を身につけてもらう、本人の特性をあらかじめ周囲に伝え、どうしても難しいことについては何らかの配慮を得るなど、家族や職場との協力体制を築き、発達障害の人が生活しやすい環境づくりを行ったりします。必要であれば、症状を緩和させるための薬物療法を組み合わせるケースもあります。
 障害の特性により、周りの人との間に誤解を生むことも少なくありません。しかし、特性は時に強みにもなり、他人との違いを生かしたスペシャリストとして社会の中で活躍している人も数多く存在します。できないことよりもできることに焦点を当て、これまでの生活で叱られたり注意されたりして失った自己肯定感を取り戻す手助けをしてあげてください。発達障害の人が個々の特性を生かし、能力を発揮するには、周囲の十分な理解と温かなサポートが不可欠です。

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