2005年1月26日水曜日

「動脈硬化症と糖尿病」について

ゲスト/青木内科クリニック 青木伸 医師

動脈硬化症について教えてください

 動脈は本来弾力性があるものですが、動脈壁に脂肪などが沈着したり、動脈壁の筋肉に弾力の無い繊維が増えたりすると硬くなります。血管の内側に粥(じゅく)状の塊(かたまり)ができ、血管が狭くなり本来の働きが悪くなります。また、塊を覆う繊維性皮膜が破れると、中の粥状のものが血管に流れ出て、血栓となって血液の流れを止めてしまいます。心臓の血管が詰まると心筋梗塞(こうそく)、脳では脳梗塞、足では壊疽(えそ)になります。動脈硬化症は生命にかかわる重大な病気ですから、早期に診断、治療を行う必要があります。動脈硬化症による重篤(じゅうとく)な症状を避けるには、粥状の内容物を減らすことと、内容物を覆っている繊維性皮膜を丈夫にすることが大切です。

予防方法を教えてください。

 動脈硬化症は、主に生活習慣病の合併症として現れます。危険因子である糖尿病、高脂血症、高血圧症をきちんと治療し、管理していくことが大切です。日本には非常に多くの糖尿病患者、そして予備軍がいます。軽度のうちは自覚症状が無いため、「血糖値が高い」といわれても放置している人が多いのですが、糖尿病が基本にあると2~3倍も動脈硬化になりやすいといわれています。動脈硬化症から、脳梗塞、心筋梗塞に至ることがあり、高血糖が原因で十数年後に腎(じん)不全(透析)、失明など重篤な症状に発展する場合もあります。治療は主に投薬と日常生活の中での数値管理です。過去1~2カ月間の平均血糖値を表すHbA1cの正常値は5.8%以下ですが、糖尿病患者の場合、この値を6.5%以下にしておくと血管の余病は出ません。また、糖尿病患者の約半数は高脂血症や高血圧症を合併しています。コレステロール値や中性脂肪値などにも注意を払うことが必要です。定期的な通院を続け、適切な投薬と数値管理を行えば、日常生活には支障ありません。生活習慣病は遺伝的要素も強く、家族に糖尿病や高脂血症の人がいる場合は、若者でも注意が必要です。また、食事を野菜中心の和食にするなど、日常生活を見直してみてください。

2005年1月19日水曜日

「増加する10代の人工妊娠中絶」について

ゲスト/札幌東豊病院 前田信彦 医師

若い年代の人工妊娠中絶が増えているそうですが。

 厚生労働省の2003年度の統計によると、19歳女性の50人に1人、18歳女性の64人に1人の割合で人工妊娠中絶が行われています。人工妊娠中絶全体の数字が減っている中で、10代から20代前半の中絶の割合が目立って増加しており、10代の中絶率は、10年前の約2倍になっています。また、北海道は中絶件数が全国で3番目と多く、特に10代の中絶件数では全国一という不名誉な数字になっています。実際に診療の現場にも、10代の患者さんが親御さんと一緒に受診するということが度々あります。性に関する情報があふれている現実の中で、性行動に関して歯止めがきかず、一方で生殖、避妊に関する正しい知識が欠如していることが背景にあります。
 妊娠中絶が増加するということは、すなわち性感染症の予防に関しても無防備だということを意味します。実際に性器クラミジアをはじめ、淋菌(りんきん)やHIV感染者が、若者の間で増加しています。

私たち大人が正しい知識を教えていかなくてはいけませんね。

 若者たちの無軌道な性行動は、大人社会の反映でもあります。とはいえ、社会全体の変化を待っている時間的ゆとりはありません。若者の性行動の抑止自体は困難であるという現実を踏まえ、現状の中で実態に即した性教育の必要があります。個々人によって、性への意識に格段の違いがある思春期の男女に対し、画一的な性教育は、確かに難しいことですが、家庭での性教育が一般的ではない日本においては、教育現場からのアプローチがもっとも容易です。
 教育現場における性教育は今までも実践されてきましたが、中絶や性感染症の数字を見る限り、十分な効果が得られているとはいえません。短期間での検証とより効果的な啓蒙(けいもう)に、早急に取り組まなければなりません。実際に人工妊娠中絶をする年代が高校生の年代から増加するということは、小学生から性に対する正しい知識とモラルを教え、中学生では現実的および実践的な性と避妊の知識を教育する必要があります。妊娠や中絶は心身に多大な影響を与えます。陰の部分も含めた性に関する教育、社会的啓蒙が急務です。

2005年1月12日水曜日

「外傷による歯の障害」について

ゲスト/庄内歯科医院 庄内 淳能 歯科医師

外傷による歯への影響について教えてください。

 転倒やスポーツ中の事故、交通事故など、外部から強い衝撃を受けることによって、歯が折れたり、抜けてしまうことがあります。これらは、歯牙(しが)破折と歯牙脱臼に分けられます。さらに、歯牙破折は歯冠破折と歯根破折に分類されます。歯冠破折は、歯の見えている部分が折れたり、欠けたりすることで、接着剤で元通りにできることもあるので、かけらを持参してすぐ受診しましょう。歯根破折は、歯の根の部分が破損している状態で、ぶつけた歯がカクカクと動く場合はこの可能性があります。無理に歯を取ったりせず、そのまますぐに受診してください。状態にもよりますが、一度歯を抜いて戻すという再植治療が可能な場合もあります。歯根破折の場合、2、3日でいったん痛みが治まるので、そのままにしてしまう人がいますが、やがて悪化し抜歯する事態になってしまいます。
 歯牙脱臼は、外傷によって歯が抜けてしまう状態です。歯がポロッと取れてしまったら、大至急受診してください。取れたばかりの歯はまだ歯根膜部分が生きているので、乾燥させずに持参すると再生します。生理的食塩水につけておくのが理想ですが、なければ、清潔にして口の中に入れたり、牛乳の中に入れて運びます。

治療や予防策について教えてください。

 状態によって治療法はさまざまですが、迅速に診察を受けることが肝心です。口元をぶつけると唇や口の中が切れて出血したり、顎(あご)を骨折したりするので、外科を受診する場合が多いのですが、必ず歯科も受診してください。表面上異常がなくても、レントゲンで破折や脱臼が見つかることもあります。また、転倒や交通事故などは予測できませんが、ボクシング、ラグビー、サッカー、ホッケー、ラクロス、アメリカンフットボール、野球、レスリング、柔道、空手など、頭部への衝撃が予想されるスポーツをする場合は、マウスガードを装着してください。歯科医のカスタムメイドのマウスガードであれば、違和感が少なく、歯や顎の保護はもちろん、スポーツパフォーマンスの向上にも役立ちます。

2005年1月5日水曜日

「ピロリ菌と胃・十二指腸潰瘍」について

ゲスト/やまうち内科クリニック 山内雅夫 医師

ピロリ菌について教えてください。

 正式にはヘリコバクター・ピロリといい、胃粘膜に住む細菌です。胃の中は、胃酸のため強い酸性を呈し、細菌が生き延びる環境ではないという先入観から発見が遅れ、存在が認められたのは20年ほど前です。ピロリ菌にはアンモニアを産生する能力があるので、胃酸を中和して胃の中でも生存できるのです。経口的に感染し、衛生状態の悪い地域や国で感染率が高いことが明らかにされています。日本では若い人の感染率は低いのですが、40歳以上では約80%の人が感染しています。これまでの研究で、ピロリ菌が胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の原因になっていることが解明されてきました。ピロリ菌感染=胃・十二指腸潰瘍になるというわけではありませんが、ストレス、喫煙、アルコールの過剰摂取などさまざまな要因が重なると胃・十二指腸潰瘍が発症します。また、ピロリ菌によって引き起こされた慢性胃炎から胃がんが発生することも推測されます。

胃・十二指腸潰瘍の治療方法をご紹介ください。

 以前の胃・十二指腸潰瘍の治療は、胃酸の分泌を抑制するH2ブロッカー投与が一般的でしたが、いったん治癒しても再発しやすく、再治療が必要でした。しかし潰瘍の主要な原因がピロリ菌であることが判明してからは除菌療法に変わりました。これは、胃の中のピロリ菌を駆除するために2種類の抗生剤を1週間内服し、さらにH2ブロッカーよりも強力に胃酸の分泌を抑制するプロトンポンプ・インヒビターを併用する方法です。ただし胃・十二指腸潰瘍の中にはピロリ菌が関与していないものもあり、除菌療法の対象外となります。ピロリ菌感染の有無を検索するには、内視鏡検査で胃粘膜を採取して顕微鏡的に調べる方法のほか、尿素呼気試験、糞(ふん)便検査法、採血による抗体の検査などの方法があり、比較的簡単に分かります。なお、胃・十二指腸潰瘍を有しないピロリ菌感染者(高度の慢性胃炎患者など)に対しても胃がん予防の見地から除菌療法をした方が良いとする意見もありますが、まだ明確な結論は出ていません。

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