2003年9月24日水曜日

「ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)」について

ゲスト/土田病院 日下 貴文 医師

ヘリコバクター・ピロリについて教えてください。

 ヘリコバクター・ピロリは、1980年代にオーストラリアの医師によって発見され、その後の研究によって胃や十二指腸の潰瘍(かいよう)の原因ということが明らかになりました。ピロリ菌に感染すると細菌自身が産出するサイトトキシンなどによる直接傷害と白血球や免疫細胞などによる間接傷害によって胃粘膜に傷が付き、慢性活動性胃炎が生じて胃粘膜がもろくなり、胃潰瘍が発生しやすくなります。発展途上国に多く、先進国に少ないといわれていますが、日本の感染者は約6000万人以上と推定されます。中でも、40歳以上で高率となります。感染するのは胃粘膜のみで、消化性潰瘍患者の7~8割が陽性です。従来は、薬剤を用いて潰瘍を治癒させても、内服を中断すると高い確率で再発していました。そのため、消化性潰瘍疾患には薬剤服用を維持することが不可欠でした。しかし、ヘリコバクター・ピロリの研究が進むにつれ、除菌に成功すると維持療法なしで再発がほぼ抑制されることが明らかになりました。日本では2000年11月からヘリコバクター・ピロリの診断と治療が、健康保険適用になり、難治性潰瘍や再発性潰瘍に悩んでいた人にとって大きな福音となりました。また、胃がんとの因果関係も解明されつつあり、除菌による胃がんの減少が期待されています。

具体的な診断、治療方法を教えてください。

 ヘリコバクター・ピロリ感染の診断にはいくつかの方法があります。胃の内視鏡検査時に採取された生検材料を用いて行う検査法と、尿素呼気試験など内視鏡を用いない検査法に大別されます。症状に合わせて検査を行い、感染が確定した場合は、除菌治療を行います。現在保険が適用されている除菌方法は、強力な酸分泌抑制剤と抗菌剤による治療で、1週間の服用を行います。治療薬剤の服用後4週間以降に尿素呼気試験などを行って、菌が消失したかどうかを調べます。この治療法による除菌率は8~9割です。胃・十二指腸潰瘍に悩んでいる人は、ぜひ一度専門医の診断を受け、治療されることをお勧めします。

2003年9月17日水曜日

「骨を延ばす(骨延長)矯正」について

ゲスト/つちだ矯正歯科クリニック 土田 康人 歯科医師

骨延長による矯正治療について教えてください。

 文字通り骨を延ばす治療法のことをいいます。顎(あご)を広げる場合に、外科手術で顎の骨を切断し、骨延長装置の装着を行います。その後、装置によって徐々に顎を広げ、骨の再生力によって新たな骨を形成していくという治療法です。予定の長さまで骨が形成されたら、装置を外します。手術は口の中にメスを入れるので、顔にキズが付くということはありません。また、装置自体も口の中にちょっとした突起がある程度なので、極端な違和感などはありません。手術、入院に2週間程度の時間が必要ですが、今まで改善が困難と思われていた重症の顎(がく)変形症でも治療が可能になり、また後戻りが少ないことが魅力です。もちろん手術前、手術後にも歯列を治し、咬(か)み合わせを調整する矯正治療が必要です。治療後は、咀嚼(そしゃく)、発音が不明瞭、顎の筋肉がだるいなどの症状が改善されます。このような機能面のみならず、審美面でも改善が期待されます。

どのような症状に適した治療法でしょうか。

 受け口と呼ばれる反対咬(こう)合、出歯と呼ばれる上顎(がく)前突、指しゃぶりなどが原因で上の前歯と下の前歯が咬み合わず、すき間が開いている開咬、顎が曲がった状態の顎(がく)偏位など、歯を移動させ、歯並びを整えるだけの矯正治療では治りきらない症状の場合、外科手術を行います。骨延長術によって、今までの外科手術では難しかった重度の症状でも治療が可能になりました。ただし、骨延長術を施術している病院はまだ少ないので、矯正専門医や口腔(こうくう)外科医などに相談してみてください。また、一般の矯正治療は保険外診療になりますが、前述のような症状で行う外科矯正は健康保険の適用になります。対象年齢は骨格が完成する高校生以上となります。このような反対咬合や開咬など顎の骨に異常があっても外科的矯正を行わずに治療したいという場合は、小学校1、2年生からの矯正治療が必要です。歯並びに気になる点があれば、気軽に矯正専門医に相談してください。

2003年9月10日水曜日

「白内障」について

ゲスト/青木眼科 大橋 勉 医師

白内障の症状、治療について教えてください。

 白内障は瞳の後ろにあるレンズ(水晶体)が濁るために起きる視力障害です。若い人にも見られることもありますが、40歳以上の方に多く、もっとも多いのが加齢に伴う老人性白内障です。症状としては、眼(め)のかすみ、ガスのかかったような視力低下、明るい場所で見えにくいなどを自覚します。治療には点眼薬が主に投与されますが、老化現象の1つなので、最終的には手術が必要になります。

白内障の手術はどのようなものですか。

 日本で行われている白内障の手術は年間80万件、眼科手術の約8割に及ぶといわれています。現在もっとも行われている手術は水晶体を包んでいる袋を残し、袋の中の濁りを超音波を利用して、細かくして取り除き、その袋の中に人工レンズを挿入するものです。手術に当たり患者さんに理解して頂きたいことは、安全性は高い手術になっていますが、患者さんそれぞれの眼がまったく同じではないため、同じ白内障の手術でも、手術の難易度に差があるということです。手術のしにくい眼とは、小さい眼や奥眼(おくめ)、角膜の濁りがある眼、袋を支えている糸が弱い眼などです。もっとも合併症が起きやすいのが、進行して真っ白になった白内障です。進行した白内障の濁りは非常に固く、超音波で細かくすることが出来にくかったり、袋を支える糸が弱いことが多く、このため、袋が破れて、濁りが眼の中に落下するような合併症が起こる可能性が高くなります。最近よく見かけるのは、片方の視力が良いため、進行した白内障を放置されている方が多いことです。進行は左右バラバラなので、「片目が見えるから大丈夫」と放っておかず、早めに検査を受けることをお勧めします。重度の合併症になると、眼内でばい菌が繁殖し、網膜自体が死んで失明に至ることもあります。これは数千人に1人という珍しい症例ですが、白内障手術はあまり進行しないうちに手術を受けた方が合併症が少ないことも知っていただけると幸いです。

2003年9月3日水曜日

「PETによるがんドック」について

ゲスト/札幌新世紀病院 阿部 信彦 理事長

国内のがんの状況をご紹介いただけますでしょうか。

 1981年以降、がんは日本人の死因のトップで、国民の約半数が生涯においてがんを発症し、3人に1人はがんが原因で亡くなっています。がんは決して珍しい病気ではなく、誰がかかっても不思議はないのです。ところが治療法はというと、ほとんどのがんについて、確実に治す方法や劇的な特効薬は残念ながら見つかっていません。何らかの自覚症状が出てから検査を受け、がんが見つかった場合、半数以上が進行・手遅れといわれています。がんを克服するには早期発見、治療こそが最良の方法なのです。早期に発見できれば、大きな手術を必要としないので肉体的にも精神的にもダメージが少なく、当然ながら短期の治療、入院で完治すれば経済面や時間の負担も軽く済みます。医療は日々進化し、初期段階のがんなら部位にかかわらず大半が生存率9割以上となってます。がんは「見つかる前に、見つける」ことが大切なのです。

PETによるがんドックについて教えてください。

 「がん診断の切り札」といわれるPET(ペット・陽電子放射断層撮影装置)に、最新鋭のMR、CT、超音波、乳房撮影などを組み合わせた総合画像診断です。ほぼ全身にわたり、数ミリのがんを、まず見逃さない高い診断レベルを実現しています。がんの発見率は通常の人間ドックの約10倍以上ともいわれています。所要時間は苦痛を伴わない検査を約3時間半、結果の仮説明も含めて約5時間です。セカンドオピニオンとしても有効で、転移があるとされていたがん患者さんが実は転移していなかったり、転移の無い早期がんと説明を受けていた多くの人に転移が見つかったりすることもあります。特に早い段階から転移が珍しくない肺がんや乳がんの治療方針決定時にPET検査は有効といえます。最近では、著明な方もPET検査を受けられたりして、道内外に広くPETが認知されるようになってきました。一部条件はありますが、現在健康保険適用となったので、主治医や対応できる医療機関に詳細を尋ねてみてください。

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