2017年9月27日水曜日

甲状腺の病気


ゲスト/やまうち内科クリニック 山内 雅夫 院長

甲状腺の病気について教えてください。
 動悸、汗かき、食べるのにやせる…。或いは無気力、むくみ、冷え症…。これらは「体質だから」とすませがちな症状ですが、もしかしたら甲状腺が原因かもしれません。
 甲状腺は、喉仏の下にあり、すぐ後ろの器官を取り囲んでいるような形の小さな臓器です。甲状腺の最も重要な働きは、海藻などの食べ物に含まれるヨードを原料に、甲状腺ホルモンを作ることです。甲状腺ホルモンは、人間の基礎代謝の維持に必要であり、さらに体の発育や成長にも関与しています。
 甲状腺の病気は女性に多いことが特徴ですが、大きく三つのタイプに分けられます。一つは甲状腺ホルモンの分泌が過剰になる甲状腺機能亢進(こうしん)症で、よく知られた「バセドー病」が主なものです。二つ目はこれとは逆に甲状腺ホルモンが低下する病気であり、代表的なものが「橋本病」です。そして三つ目は甲状腺の腫瘍で、良性と悪性(がん)のものがあります。

バセドー病と橋本病について教えてください。
 バセドー病は眼球が飛び出る病気だと思っている方も多いようですが、眼の症状が現れる人は3割ほどで、むしろ甲状腺の腫れや多汗、動悸、手のふるえ、やせの大食いなどの症状をきっかけに受診される方がほとんどです。バセドー病の治療の主流は、内服薬によって過剰な甲状腺のホルモンの量を正常にコントロールするもので、症状がなくなり、健康な方と変わらない日常生活を送ることができます。ただし甲状腺機能亢進症の中には急性甲状腺炎や無痛性甲状腺炎などバセドー病と区別しなければならない疾患があり、治療法が異なり注意が必要です。
 橋本病では、甲状腺ホルモンの低下のため無気力、むくみ、皮膚乾燥などの症状が現れ甲状腺の腫大が認められます。橋本病であっても甲状腺ホルモンが正常なケースもあり、特に治療はせず経過観察となります。甲状腺の機能が低下しているケースでは、甲状腺ホルモンを補うための薬物治療が行われます。橋本病と診断されても、適切な治療をすれば日常生活に支障はありません。
 ひと言でバセドー病、橋本病といっても病態や症状は非常に多様です。原因不明の長引く不調や、治療を受けても症状がよくならない場合などは、甲状腺の病気を疑ってみる必要があります。

2017年9月20日水曜日

子どものおしりの病気


ゲスト/札幌いしやま病院 河野 由紀子 医師

肛門科を受診する子どもの比較的よくみられる病気について教えてください。
 新生児から乳児期によくみられるのが、おしり(肛門)の周囲の皮膚炎です。オムツの部位に一致して赤みや湿疹、ただれが生じます(オムツかぶれ)。尿や便に含まれるアンモニアや酵素などが原因となって起こる炎症です。対策としては、オムツを長時間つけたままにせず、頻繁(ひんぱん)に交換して清潔を保つことが基本です。炎症部位はこすったりしないよう、ぬるま湯に浸したコットンなどで汚れを取り除きます。それでも症状が治らない時は専門医に診てもらうのがいいでしょう。
 痔(じ)は大人の病気と思われがちですが、実は子どもの痔も珍しくありません。0歳から幼稚園・小学校低学年の時期までによく見られるのが裂肛(切れ痔)で、特に女児に多い傾向があります。排便習慣が確立していない子どもの場合、入園や入学で環境が変化すると自宅以外でトイレを我慢してしまい、便秘がちとなって硬い便がおしりを傷つけます。また、この年代は食事の好き嫌いが顕著になるので、食物繊維の摂取不足からも便秘になりやすいです。裂肛になり排便時に痛むと、さらに排便を我慢するようになり、便が硬くなって、よりおしりを傷つけやすくなる悪循環に陥ってしまいます。
 裂肛の治療は、座薬や軟こうで痛みを和らげながら、根本の原因である便秘の解消を図るのがポイントになります。野菜や海藻、寒天など繊維質の多い食材を取ること、朝起きて、朝食を取り、トイレに行くという生活のリズムを作ることなど、生活習慣の見直しをアドバイスしていきます。便秘の改善のために下剤を処方する場合もありますが、おなか(腸)に刺激を与えずに便性を整える薬から用います。
 生後1カ月から1歳までの乳児、特に男児に多いのが乳児痔瘻(じろう)です。肛門の内側から入った細菌が感染を起こし、肛門周囲の皮膚の下にうみがたまります。症状は肛門周辺の左右どちらかの側方が、赤く腫れて痛むなどです。大人の痔瘻は手術が必要ですが、乳児は成長とともに自然に治るケースが多く、うみを抜く処置をすれば痛みはなくなります。
 肛門科と聞くと、手術されるのか不安で、子どもを受診させるのをためらう人もいますが、子どもの痔の検査・治療は「手術をしない」「痛くない」ものがほとんどです(成人の検査・治療もほぼ同様です)。子どものおしりのことで悩んだら、気軽に相談してください。

2017年9月13日水曜日

COPD(慢性閉塞性肺疾患)


ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長

COPDの世界的な治療ガイドライン(GOLD)が改定されたと聞きましたが。
 COPDは、タバコや有毒なガスの吸入によって引き起こされる気管支・肺の病気で、せき、たん、息切れなどの症状を呈します。2010年において、世界に3億8千4百万人の患者がいるとされ、年間約300万人がこの病気で亡くなっています。今後、さらに増え続けると予測されます。
 症状は、感冒の後もせきやたんがなかなか治らない、かぜの症状が長引いている、階段を上る時や冬季の除雪作業の際に息切れするなどから始まります。進行すると、常にせきやたんが出て、息切れが続くようになります。高齢者の場合、これらの症状のために外出を控えがちなり、それにより全身の筋力が衰え、さらに動きたくなくなり、寝たきりにつながる可能性のある病気です。
 かぜなどの感染症をきっかけに症状が重症化(急性増悪)することもあり注意が必要です。急激に肺機能が低下し、呼吸困難まで引き起こすケースもあります。

COPDの診断と治療について教えてください。
 COPDによって壊れた肺の組織は元に戻りませんが、進行を食い止めることはできます。年を取っても元気な生活を送れるよう、早期に発見し、すぐに治療に入ることが重要です。まずはたばこをやめることです。
 COPDの診断の基準として、肺機能検査の測定結果が用いられます。大きく息を吸って,一気に吐き出した時の最初の1秒間の息の量(1秒量と言います)が、努力して最後まで吐いた時の「肺活量」の70%以下だとCOPDと診断されます。
 主な治療法は、狭くなった気管支を広げ、呼吸を楽にする気管支拡張薬を使うことです。霧状または粉末状の薬を息と一緒に吸い込み、肺や気管支に直接、薬を届けられる吸入薬が主流です。気管支拡張薬には、長時間作用性抗コリン剤(LAMA)、長時間作用性β2刺激薬(LABA)などいくつかの種類があります。近年は、強力に気管支を広げる新薬が増え、選択肢が広がっています。また、効果の異なるLAMAとLABAを一つにまとめた合剤も登場し、その有効性が確認されています。
 今年改定された治療ガイドラインでは症状が強い場合、合剤を積極的に使うことも提案されています。薬物療法を積極的に行い、急性増悪を防ぐこと。そして、適度に体を動かすなど、引きこもりがちにならないよう、活動の範囲を広げ、寝たきりを予防することが推奨されています。

2017年9月6日水曜日

高齢者のうつ病


ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院  太田 健介 院長

高齢者のうつ病について教えてください。
 うつ病は、環境の大きな変化が発病の引き金になるケースが多く、初老期以降は定年退職や配偶者の死亡といったさまざまな喪失体験、一人暮らしの寂しさ、体力の衰えや健康への不安などうつ病にかかりやすい条件が重なります。高齢者人口の増加に伴い、患者数は増加傾向にあります。
 高齢者のうつ病には特徴的な症状があります。まず、気分の落ち込みなど心の不調よりも、頭痛や腹痛、めまい、排尿困難など身体症状を多く訴えます。内科などで検査を受けても原因が見当たらず、精神科や心療内科を受診してみたらうつ病と診断されたというケースもあります。
 また、皮膚を針やナイフで刺されるといった、身体にあるはずのない異常を感じる「体感幻覚」や、現実ではないことを現実だと思ってしまう「妄想」も、この年齢層に多い精神病性うつ病の特徴の一つです。妄想には、自分は不治の病にかかってしまったと思い込む「心気妄想」、周りに迷惑をかけていると強く思う「罪業妄想」、お金がなくて生きていけないと思い込む「貧困妄想」などがあります。

診断と治療について教えてください。
 うつ病は、心疾患や脳血管疾患、甲状腺機能低下症のような身体的な病気が原因で現れることもあります。アルコールやステロイドなど、薬物の副作用によるうつ状態も考えられます。一見、認知症かと思われる言動がうつ病の症状であったり(仮性認知症)、うつ状態が認知症の前駆症状であることもあります。このように、うつ状態は、うつ病以外にも多くの病気で現れるので、問診で症状を詳しく聞き、場合によっては別の病気が隠れていないか調べる検査(MRIやCTなどの画像検査、認知症検査など)を行います。
 治療の柱になるのは薬物療法です。高齢者の治療では副作用の観点から、薬は少量から始め、必要に応じて増やしていきます。これに併せて、休養が必要な方では、ゆっくり休めるような環境をつくること、居場所や相談相手をつくることなど環境調整や、認知行動療法などの心理療法、運動を行います。精神病性うつ病など薬物療法の効果が少ないケースでは、修正型電気けいれん療法が有効な場合も多いです。
 高齢者のうつ病は、本人も周囲の人も年齢のせいだろうと見過ごしてしまい、受診が遅れがちです。異変に気付いたら、すぐに専門的な診察を受けることが大切です。

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