2022年5月25日水曜日

開咬(かいこう)

 ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 院長


開咬について教えてください。

 開咬は、奥歯で噛(か)んでも前歯は噛んでおらず、常に前歯が開いた状態になることをいいます。前歯は外側からは唇(くちびる)の力、内側からは舌の力によって押され、力のバランスのとれたところに並びます。このバランスが崩れたとき、開咬になることがあります。幼少のころからの「指しゃぶり」や食べ物を飲み込むときに舌が出るなどの「舌癖」、蓄膿(ちくのう)症などの呼吸器系の慢性疾患による「口呼吸」などが、バランスを崩す要因となります。

 開咬は口が閉じづらいため、無意識のうちに口元に力が入り、緊張して見えがちです。審美面だけでなく、きちんと発音できない、前歯で食べ物を噛み切ることができない、奥歯や舌を使って食べ物を噛み切る悪い癖がつきやすいなど、機能面での問題も大きいです。また、前歯が噛み合わないので奥歯に過剰な負担がかかり、破損や歯周病が進むなど奥歯の寿命に影響する場合もあります。


どのように治療しますか。

 開咬は治療が難しい噛み合わせの一つです。その理由は、舌の悪癖が関与しているケースが多いからです。矯正治療で一度は前歯がしっかり噛んだとしても、悪癖が残っていると後戻りしやすいです。治療とともに悪癖を取り除く訓練をすることが重要です。

 開咬の原因が悪癖にある場合、早い段階での治療が何よりも大切です。軽い開咬であれば、矯正装置を装着せずにMFT(口腔筋機能療法)という口元の筋肉トレーニングだけで矯正できるケースもあります。一方、大人になってからでは、顎の骨を切る外科的手術が必要になることもあり、治療に時間がかかり負担も増します。

 歯科矯正技術は日々驚くほど進歩しています。近年、「歯科矯正用アンカースクリュー」と呼ばれるネジを歯茎の骨の部分に入れ、歯を動かす時の固定源とする方法が登場し、開咬の治療も大きく変わりました。効率よく歯を動かすことができ、治療期間の短縮が期待できるほか、従来では手術が必要とされていた症例でも手術を回避できるケースが増えています。

 受診の目安は、前歯が4本永久歯に生え替わった時期です。乳歯から永久歯への移行を、より自然に、正しく美しい歯並びに誘導することが可能です。歯並びの検診を受けるつもりで、矯正歯科医を訪ねてみてください。

2022年5月18日水曜日

最新の糖尿病治療

 ゲスト/医療法人社団 青木内科クリニック 青木 伸 院長


最新の糖尿病治療薬について教えてください。

 糖尿病治療薬の最近の進歩は目覚ましいものがあります。飲み薬では、高血糖の時にだけすい臓からインスリンを分泌させ、正常血糖値へ下げる「DPP-4阻害薬」があります。この薬は、理論的には低血糖を起こさず治療できる薬剤で、糖尿病の平均血糖の指標であるHbA1c値を1.0%前後下げます。この薬と同じ系統の注射薬も登場し、「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれています。この注射薬はHbA1c値を1.6%前後下げます。1日1回の注射が必要ですが、現在は1週間に1回で済む注射薬も出ました。この系統の注射薬は、すい臓のインスリンを出す細胞を保護し、インスリンの分泌を弱らせない作用も持ち合わせているといわれています。最近では、GLP-1受容体作動薬の飲み薬が登場し、治療方法が容易になってきました。従来まで体重を減少させる糖尿病薬がありませんでしたが、「SGLT-2阻害薬」が登場し、この薬剤は血糖値を下げると同時に体重も減らします。最近の研究データ結果によると、この種の薬剤は、心血管系の心不全の出現を抑える働きと糖尿病性腎臓病を良くする働きを持ち合わせていることが判明してきています。

 一方、インスリン注射に目を向けると、「持効型インスリン(1回の注射で24時間効果を持続する長時間作用型インスリン)」があります。飲み薬の治療が効かなくなる症例でも、飲み薬をそのまま服用しながら、1日1回の持効型インスリンの注射を加えると血糖値が改善する症例もあります。「混合型インスリン」は従来まで濁った製剤でしたが、透明な製剤が登場し、10回以上振って混合しなくても済むようになりました。

 さらに、持効型インスリンと前述したGLP-1受容体作動薬の配合剤が登場し、1回の注射で空腹時血糖と食後血糖を下げる効果があります。


糖尿病の治療について教えてください。

 糖尿病の治療状況が良好といえる目安は、HbA1cが7.0%以下になっている場合です。糖尿病の患者さんの約半数が、高血圧と脂質異常症(高脂血症)を合併しているといわれています。糖尿病を合併した高血圧の治療はとても重要で、血圧の治療目標値は125/75mmHg以下です。自宅で測定できる血圧計を治療に役立てる方法もあります。この場合使用する測定器は、指先や手首に巻くタイプのものではなく、上腕に巻くタイプのものをお勧めします。脂質異常症の治療目標値は、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が120mg/dl以下です。糖尿病に重症の虚血性心疾患、腎疾患、脳梗塞、下肢動脈閉塞、メタボを合併している場合には、LDL-コレステロールは70mg/dl以下と治療の基準値が厳しくなりました。

 以上のようなさまざまな基準値を長期間保てると、眼底出血による失明、腎臓の悪化による透析、足の潰瘍・壊疽(えそ)による足の切断など、糖尿病に由来する重症の合併症にならなくて済みます。それ以外にも脳梗塞、心筋梗塞などの予防にもつながります。

2022年5月11日水曜日

大人のADHD(注意欠陥多動性障害)

 ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院 太田 健介 院長


大人のADHDについて教えてください。

 ADHDは「注意欠如多動症」という発達障害です。具体的な症状は、忘れ物やなくし物が多い、遅刻が多い、部屋を片付けられないなどの「不注意」、落ち着きがない、じっとしていられない、一方的にしゃべりすぎるなどの「多動性」、後先考えずに発言・行動する、怒りや欲求を抑えられない、物事にのめり込みやすいなどの「衝動性」が特徴です。

 ADHDは子どもの障害と思われがちですが、大人のADHDは増加傾向にあり、成人の国内有病率は約5%と、報告があります。受診のきっかけは、職場など周囲から勧められた場合や、うつ病や社交不安障害などの他の疾患で受診する場合が多いです。子どもの頃には問題がなく、あるいは程度が軽く、大人になってから初めてADHDの診断がつくケースも多く、職場などの複雑化した社会生活や対人関係の中で問題が顕在化し、離職や失業、離婚などに至ることもあります。

 大人のADHDは「二次障害」としてうつ病や社交不安障害、摂食障害、依存症などの精神疾患を合併している割合が高いです。また、社会的なコミュニケーションや対人関係の困難さ、こだわりの強さといった特徴がある発達障害「自閉スペクトラム症(ASD)」を併発しているケースが約半数に認められます。


診断と治療について教えてください。

  診断は、本人への診察だけでなく家族など身近な人からも生育歴を聞き取り、母子手帳や通知表などの資料も参照しながら、知能検査や心理検査を行って総合的に判断します。

 治療方法は、大きく分けて心理教育や環境調整などの心理社会的な介入と薬物療法の2つがあります。前者は、本人がADHDの症状について詳しく知り、自分の困りごとをADHDという観点から整理して理解したり、日常生活をうまく運んでいくための対処法を学んだりする治療のことです。薬物療法はメチルフェニデート、アトモキセチン、グアンファシン塩酸塩などのADHD治療薬が有効なケースも多いです。二次障害には症状に応じた治療を実施します。

 日常的に生きづらさを感じているなら、まずは適切な診断を受けることが重要です。何が日常生活で困難になっているかを知れば、その対応策はいくつもあり、周囲のサポートを得られる可能性も高いです。

2022年5月2日月曜日

摂食障害

 ゲスト/医療法人北仁会 いしばし病院 畠上 大樹 医師


摂食障害とはどのような病気ですか。

 摂食障害はさまざまな心理的・社会的な要因から、体重や体型の変化に過度にこだわり、食行動に異常を起こす病気です。10〜20代の若い女性を中心に増加傾向にあり、“やせ願望”からダイエットを繰り返すことが発症のきっかけとなる例が目立ちます。大きく分けて、極端に食事を制限する「拒食症」と、過剰に食べる「過食症」があります。いずれも太ることへの恐怖感を持っており、拒食の反動から過食に変わるケース、拒食と過食を繰り返すケースなどさまざまです。

 健康上、明らかに問題をきたしているのに、自分が病気だという認識を持てなかったり、病気に気づいても隠したり、適切な治療を受けないまま重症化するケースが多いです。極端な低体重や肥満を招くため、栄養失調による生理不順や骨粗しょう症、感染症、肝機能障害などさまざまな身体的症状がみられるようになり、日常生活にも影響が出てきます。

 摂食障害の死亡率は約5%と精神疾患の中で特に高い数値となっています。症状が出てから受診するまでの期間が、その後の経過を大きく左右するため、早期の診断・治療開始がとても重要です。


治療について教えてください。

 摂食障害の治療は、まず自分を苦しめているのは自分自身ではなく、「病気」であることを認識し、「気の持ちよう」や「本人の努力」だけでどうにもならないと知ることから始まります。

 そのために、病気を「別れなければいけない恋人」に例えるなどし、擬人化することで、患者さんの内面に問題があるのではなく、その恋人=病気こそが問題の元凶なのだというふうに発想の転換を図ってもらう(外在化の技法)など、患者さん自身が治療に積極的に取り組み、医療者と力を合わせて治していこうという気持ちを持ってもらえるよう、さまざまな手を尽くします。

 治療に特効薬はありませんが、カウンセリングによる認知行動療法や自助グループでの対話などに効果が認められています。一般的に摂食障害の治療は時間を要することが多いです。一進一退を繰り返しながら徐々に良くなっていきます。回復への道は決して平坦ではありませんが、必ず治る病気です。あせらず、あきらめず、ゆっくりと治療を続けることが第一です。

人気の投稿

このブログを検索