2023年2月9日木曜日

マインドフルネス〜関節リウマチの痛みやストレスを軽減するために〜

 佐川昭リウマチクリニック 古崎 章 院長


テレビや雑誌などで目にすることが多くなった「マインドフルネス」という言葉。
関節リウマチの医療現場でもマインドフルネスが注目されていると聞きましたが。

 

 関節リウマチなどのリウマチ性疾患は、関節を構成する滑膜という組織で炎症が起き、全身の関節に腫れやこわばり、痛みが生じる病気です。炎症が慢性化し、痛みがなかなか取れないと訴える患者さんも多いようです。痛みの経路は、記憶などに関連する脳のさまざまな部位から影響を受けることが分かってきており、ストレスなどの心理的問題で慢性痛が起きたり、慢性痛が増悪することがあるのは、このためだと考えられています。リウマチ性疾患には、痛みだけでなく全身倦怠感(けんたいかん)や睡眠障害、気分の落ち込みなどの症状もあり、普通の生活ができないことにストレスを感じることが多いようです。また、病気や将来への不安や悩みがストレスとなって痛みなど病気の症状を増悪させているケースも少なくありません。

 ストレッチやヨガ、ピラティスなどでストレスを解消・軽減することが、心の不安や気分の落ち込みを改善したり、関節リウマチの慢性痛などの症状を緩和する場合があることが多数報告されています。ストレス解消・軽減法の一つとして最近注目されているのがマインドフルネスです。

 マインドフルネスとは、瞑想(めいそう)などにより「今、この瞬間」だけに意識を向けた心の状態をつくる訓練や、その状態のことをいいます。いくつかのプログラムが開発されていますが、一般的なのが呼吸に集中しながらの瞑想です。座禅を組むなどして、呼吸に意識を集中させます。そのほかに、風や波の音に耳を澄ます瞑想や、全身から手や足先へ細かい感覚を意識するボディースキャン瞑想などがあり、いずれも自分の思考や状況を客観的に捉え「今、この瞬間」に集中する癖をつけるのが目的です。

 マインドフルネスによる瞑想を実践している時の脳の状態は、脳神経科学者などによって研究が進められており、ストレス解消のほか医療現場でうつ病などの治療プログラムに取り入れられつつあります。また、リウマチ性疾患の痛み、睡眠障害、気分の落ち込みなどの症状が緩和・改善されたという海外の報告も増えてきています。

 リウマチ性疾患に対しては炎症を取り除くための治療が第一ですが、炎症が落ち着いても痛みなどの症状が残っている場合に、ストレス解消法の一つとして日常生活にマインドフルネスを取り入れてみるのもよいかもしれません。

2023年2月2日木曜日

慢性硬膜下血腫

 西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長


慢性硬膜下血腫とはどのような病気ですか


 転んで頭を打ったり、強くぶつけたりした時、頭の中に出血する場合があります。けがをしてすぐに出血が起きた場合は、「急性の出血」あるいは「血腫」などといいます。一方、けがをしてすぐの検査では異常がなかったのに、受傷してから1~2カ月ほどたってから徐々に頭の中に血がたまってくる病気があり、これを「慢性硬膜下血腫」といいます。

 慢性硬膜下血腫は、50歳以上の中高年に多い病気で、お酒をよく飲む方、肝臓の悪い方、病気治療でいわゆる「血液をサラサラにする薬」を服用している方がかかりやすいとされ、軽いけがの後でも発症することがあるので注意が必要です。冬季の北海道では、特に雪道の転倒事故に気を付けてください。

 慢性硬膜下血腫は、出血が少ない場合はほぼ無症状です。ある程度、血がたまってくると脳を圧迫し、さまざまな症状が出てきます。頭痛や頭の重だるい感じが代表的な症状です。治療前には自覚症状を訴えていなかった患者さんでも、治療後には「頭が軽くなった」という方が多いようです。

 圧迫が進むと、足元がおぼつかなくなるなど歩行障害が出ることも多いようです。物忘れや記憶障害、言語障害が出てくることもあり、高齢者の場合、認知症と間違われるケースもよくみられます。また。高齢者は圧迫による頭痛などの症状を自覚していない例もあり、そのまま寝込んでしまっていることもあるので、家族など周りの人が注意する必要があります。


治療について教えてください


 無症状であれば、よほど圧迫が強くない限りは経過観察をします。内服薬を使用して様子をみる場合もあります。ここ最近では、血腫の治癒を促進する効果のある漢方薬を使うケースも増えています。

 圧迫が強い時や症状が出ている時は、手術を行います。脳外科の手術というと大変怖いイメージを持っている方も多いと思いますが、硬膜下血腫の手術は局所麻酔で行うもので、心身への負担も少なく、高齢者でも受けることができます。過度に恐れる必要はありません。

 頭を打っても軽いけがであれば、慌てて病院に行かなくても問題のないケースがほとんどですが、1カ月以上経ってから頭痛や、先に挙げたような症状が出てきた時は、我慢しないで脳外科医を受診するようにしてください。

2023年1月26日木曜日

不安症・不安障害

 医療法人五風会 福住メンタルクリニック 菊地 真由美 院長


不安症・不安障害とはどのような病気ですか


 不安や恐怖は本来、危険やストレスが迫っていることをいち早く察知して対処するための、生きていく上で欠かせない情動です。ところが、何らかの原因で不安や恐怖が持続的に過剰になってしまい、日常生活に支障を来す程度になってくると「不安症・不安障害」の可能性が出てきます。

 ある患者さんは、人前で話したり注目を浴びたりする状況で過度に緊張してしまうので、職場での会議がひどく苦痛になり、欠勤するなどして緊張する場面を避けるようになってしまいました。また別の患者さんは、夜間にテレビを見てくつろいでいる時に突然、動悸(どうき)と発汗、胸痛、窒息感に襲われ、「このまま死んでしまうのではないか」という強い恐怖から救急車を呼び、病院に搬送されましたが、検査や診察の結果、身体的にはまったく異常が見つかりませんでした。その後も同様の発作に何度も襲われ、いつ発作が起こるか不安で仕方がなくなり、発作が起こった時に助けを求められない状況を避けるようになってしまいました。

 DSM-5という精神疾患の診断基準によると、不安症・不安障害には分離不安症、社会不安症、パニック症、広場恐怖症、全般性不安症などが含まれています。日本における不安症・不安障害の生涯有病率は約4%といわれており、決してまれな病気ではありません。


治療について教えてください


 治療法は、薬物療法と認知行動療法などの精神療法を併用するのが一般的です。薬物療法では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)がよく使われます。不安症・不安障害では、脳の扁桃体(へんとうたい)という部位の働きが過剰になっていると考えられ、SSRIにはこの過剰な働きを抑える作用があります。その他、ベンゾジアゼピン系抗不安薬なども使われています。

 不安症・不安障害には、「不安」症状そのものと、不安により日常生活における「行動」が障害されるという2つの側面があります。不安を“ゼロ”にしようともがけばもがくほど、かえって不安は増強しやすいものです。加えて、完全主義的な傾向からいろいろな行動を、症状が消失してから着手しようと先送りにしがちです。一般に、不安症・不安障害の人は、成功したい、より良い成績を収めたい、より健康でありたいという気持ちが強いことが多いのですが、その希求とは裏腹に、実際には回避行動により「こうありたいと思う姿」から遠ざかってしまいます。不安を持ちながらも、今できる“ほどほど”のことから少しずつ普段の行動を取り戻していくことが、回復への足掛かりとなります。

2023年1月19日木曜日

冬も気を付けたいあせも

 宮の森スキンケア診療室 上林 淑人 院長


あせもについて教えてください

 汗は汗腺という組織で分泌され、汗管という通路を通って皮膚の表面に出てきます。汗管を通ることのできる汗の量はある程度決まっており、通りきらない量の汗をかくと汗が詰まって皮膚内に取り残されます。皮膚のやや深い所(表皮内)で汗が詰まると、汗の刺激で炎症が起こり、強いかゆみを伴う赤い発疹が生じます。これを「紅色汗疹(こうしょくかんしん)」と言って、あせもの一種です。額や首の周り、胸、背中など汗をかきやすく、蒸れやすい部位に現れます。

 汗の詰まりが皮膚の表面近く(角層)で起きると、直径数ミリの透明な水膨れがポツポツと現れます。これがいわゆるあせもで、正式には「水晶性汗疹」といいます。水晶性汗疹は、かゆみの症状がなく、数日で自然に消えてしまうことがほとんどで、特に治療の必要はありません。

 あせもと聞くと、汗をかく機会が増える夏の病気だと思われがちですが、実は冬にも多い肌トラブルです。厳しい寒さやウォームビズの実施などで、冬場は厚着になりますが、暖房の効いた学校や職場、電車など意外と暖かくて汗をかいてしまうことが多いからです。


冬場のあせも対策と、治療について教えてください

 汗を小まめに拭き取り、皮膚を清潔に保つことが大切です。汗を吸収・蒸発させやすい綿素材の肌着を着るのも効果的です。一方、熱を発生させる効果のある機能性肌着(ヒートインナー)は、場合によっては余計に汗をかき、また汗の吸収が悪く、肌と衣類との間が蒸れやすいので、汗をかきやすい人は避けた方がいいでしょう。

 特に注意が必要なのは乳幼児です。乳幼児の肌は、乾燥しやすく、刺激に敏感で、汗をかきやすいという特徴があります。風邪をひかせないようにと暖房を強めに設定し、暖かい服をしっかりと着込ませることが、結果として、乾燥して敏感になっている赤ちゃんの肌に汗の刺激が加わりあせもが発症するケースが目立ちます。暑すぎない程度に暖房を抑え、必要以上に厚着・重ね着させないことが大切です。

 あせもの治療は、ステロイド外用薬など炎症を抑える塗り薬が主体となります。かゆみを我慢できず、思わずかきむしってしまい重症化するなど、症状が長引くケースも多く見られます。たかがあせもと侮らず、症状の軽いうちに、しっかりと治療を行うことが重要です。

2023年1月12日木曜日

帯状疱疹ワクチン

 白石内科クリニック 干野 英明 院長


帯状疱疹(ほうしん)とはどのような病気ですか。


 近年、「帯状疱疹」になる方が増えています。帯状疱疹は、体や顔の左右どちらかに痛みを感じ、水膨れのある発疹が出ます。半月ほどでかさぶたになって治りますが、「帯状疱疹後神経痛」と呼ばれる痛みが続くこともあります。帯状疱疹は過去に水ぼうそうにかかった時、神経の中に水痘(すいとう)・帯状疱疹ウイルスが潜伏し、加齢や疲労などで体の抵抗力が下がった時に再び活性化することで発症します。水ぼうそうの経験がある方なら、誰でも罹患(りかん)リスクがあります。80歳までに約3人に1人が帯状疱疹を発症するといわれています。

 増加傾向にある理由は、高齢化や2014年に水痘ワクチンが小児対象に定期接種化されたことで、ウイルスに暴露する機会が減り、それに伴って帯状疱疹への抵抗力が弱まったことなどが考えられます。


帯状疱疹ワクチンについて教えてください。


 予防のための帯状疱疹ワクチンには生ワクチンと成分ワクチン(サブユニットワクチン)の2種類があります。どちらも適用は50歳以上となっています。

 生ワクチンは1回の接種で済み、副反応は発熱や局所の発赤程度で済むことが多いようです。ただし、抗がん剤やステロイドを使っている方、リウマチなどで免疫を抑制する薬を使っている方などは再感染のリスクがあるため接種できません。

 成分ワクチンは、遺伝子組み換え技術を用いて作られたものです。ウイルスそのものではなく、感染時にウイルスの表面に発現するたんぱく質の一つを人工的に合成したものと、「アジュバント」と呼ばれる物質・成分を組み合わせた最新のワクチンです。アジュバントとは、ワクチンと一緒に投与して、その効果を高めるために使用される物質です。人工的に合成したたんぱく質に対して効率よく抗体が産生され、ウイルス感染を抑制できます。8週間以上の間隔を置いて合計2回接種します。生ワクチンと比べ、発熱や倦怠感(けんたいかん)などの副反応が強い傾向があります。

 帯状疱疹の発症予防効果は、生ワクチンでは約50%、成分ワクチンでは(50歳以上で)97%という結果が出ています。また、成分ワクチンの予防効果は約9年間持続することが確認されていて、成分ワクチンは副反応が強く起こる可能性はあるものの、効果は非常に高いといえます。

 自治体によってはワクチンの接種費用の補助が出るようです。かかりつけの医療機関にお問い合わせください。