2021年3月3日水曜日

肩こり

 ゲスト/医療法人社団 二樹会 足立外科・整形外科クリニック 加谷 光規 副院長


肩こりについて教えてください。

 肩こりに悩む人は多く、厚労省の国民生活基礎調査によれば、女性の不調の第1位、男性の第2位を占めています。肩こりの症状は肩や首筋の凝りや張り、痛みだけではありません。頭痛やめまい、吐き気、目の疲れ、手や腕のしびれなどの多様な症状も起こります。

  肩こりを起こす最大の原因は、悪い姿勢や体を動かさないこと、また、不自然な体の動かし方や使い方などによる筋肉の緊張です。首から肩、背中にかけての筋肉が強く緊張して血流が悪くなり、疲労物質がたまって攣縮(れんしゅく=ひきつり縮まること)した状態と考えられます。例えば、仕事や家事をしているときの姿勢がよくないなど、日々の暮らしの中で無意識のうちに肩こりの原因をつくり出しているのかもしれません。

 肩こりには、頸椎ヘルニアや心筋梗塞、がんなどの病気が潜むこともあります。運動時や労作時に痛くなる、徐々に症状がひどくなる、手足がしびれるなどがあれば、整形外科できちんと診察を受けることが大切です。


肩こりの治療について教えてください。

 診察では、まずは整形外科的な原因なのか、内科など他科の原因の可能性が高いのかを慎重に見極め、それぞれに応じた治療を選択します。

 治療は、消炎鎮痛剤などの投薬治療、牽引機器や温熱機器などを使う物理療法、姿勢矯正用のベルトなどを用いる装具療法があります。症状が強い場合や即効性を期待する場合、各種の「神経ブロック」や、超音波検査機器を用いて肩甲骨周囲の筋肉の間の筋膜部分に、生理食塩水などを注射し、筋膜間の滑りをよくして症状を改善する「筋膜リリース」という注射療法を行うこともあります。また、理学療法士が、患者さん一人ひとりの肩の状態に合わせて、肩周囲に対する筋トレ、リラックス・ストレッチ法などを指導する運動療法も重要です。

 肩こりの原因は多岐にわたります。肩周囲だけではなく、全身を診て、正しい姿勢を身に付けたり、首や肩の筋肉への負担を減らしたりするなど、凝りや痛みの原因となっている(予想される)根本の部分を治していく必要があります。

 筋肉の緊張による疲労、攣縮は、肩こりだけでなく、背中や腰、肘、臀部の痛みや違和感の原因となっているケースも少なくないので、慢性的な痛みが取れず悩んでいる方は一度、専門医にご相談ください。

2021年2月17日水曜日

うつ病の養生

 ゲスト/医療法人社団 正心会  岡本病院  鈴木 志麻子 医師


うつ病の治療中・休養中は自宅でどのように過ごしたらいいでしょうか。

 うつ病の治療では、専門治療のほかにもご自身で取り組む「養生(生活に留意して健康の増進を図ること、病気の回復につとめること)」がとても大切です。

 ●生活リズムを整える…基本中の基本です。具体的には、起床と就寝の時刻、可能ならば食事や入浴の時刻をなるべく一定に保ちましょう。不規則な生活はうつ病を治りにくくします。午前中に日光に当たることで、体内時計をリセットして寝付きが良くなる効果があります。

 ●十分な睡眠をとる…遅くても23時ごろには床に就き、少なくとも7時間以上の睡眠をとるよう心掛けてください。夕方以降にコーヒーを飲んだり、寝る前にベッドの中でスマホを操作したりする習慣はやめましょう。また、お酒を睡眠薬代わりに飲むことは、実は逆効果です。酔ったまま眠るので睡眠が浅くなり、利尿作用で夜中にトイレに行く回数も増えます。

 ●お酒をやめる…少なくとも薬物療法中はお酒を控えましょう。お酒と一緒に飲むことによって薬の作用が強くなってしまったり、体に有害な作用が出たりする恐れがあるからです。また、憂さを晴らすために飲むお酒は、酔いから覚めた時に反動で強い憂うつや不安を起こしやすく、酒量が増えるとアルコール依存症を合併する危険もあります。

 ●バランスの良い食生活…現代人の食生活は「カロリーは過剰」で「栄養は不足」しがちです。貧血の方だと鉄分を補充するとうつ病の症状が改善するケースもあります。栄養バランスのよい健康的な食事をとることで、抑うつ症状が軽減したとの研究結果が報告されています。まずは「スナック菓子を減らす」「3食に野菜ジュースやヨーグルトを一品プラスする」等から始めましょう。

 ●適度な運動…週3〜5回程度の有酸素運動(ウォーキングやジョギングなら1回40分程度)で、うつ病の症状改善に薬物療法と同等の効果があると報告されています。最初は5分程度の散歩から始めてみましょう。

 ●気分に左右されずに活動する…うつ病は気分(調子)が良くなったり、悪くなったりを繰り返しながら、徐々に回復していく病気です。ですが、気分が良い時は活動し、悪い時は活動しないという「症状中心」の生活を続けていると中々自信がつきません。気分が悪い時でも、何かをやってみたら「意外と大丈夫だった」という経験は重要です。最初は小さなことから取り組んでみましょう。

 ●患者の役割を果たす…うつ病の急性期には過度の活動は病状を悪化させます。主治医とよく相談し、休むべき時は休みましょう。回復期に入った方や、軽度のうつ状態が慢性化している方は、気分に左右されずにいろいろな活動に取り組みましょう。休むべき時は休む、やるべき時はやる。それが「患者の役割」を果たすことです。

 医者任せ、薬任せにせず、ぜひ、ここに紹介した養生に取り組んでいただきたいと思います。

2021年2月10日水曜日

コロナ禍にあって〜女性のうつ病について〜

 ゲスト/福住内科クリニック 佐藤 康裕 院長


新型コロナウイルス流行に伴う外出自粛や休業要請によって、うつ症状など精神面での不調を訴える人が増えていると聞きますが、どうしてなのでしょうか。

 長引くコロナ禍もあって、多くの人の心は疲弊しています。コロナ禍で行動変容を求められた結果、憂鬱(ゆううつ)な気分が続いたり、不安、焦りといったうつ病の症状を訴えたりする人が増えています。いわゆる「コロナうつ」です。

 全国の自殺者も増加の兆しをみせています。警察庁の速報値では、2020年8月の自殺者は1849人で、前年同月より246人も増えています。特に女性への影響は深刻で、前年8月よりも45%も増え、男性の10%増と比べて顕著です。9月以降も女性の自殺は急増しています。なぜ、このようなことが起きているのでしょうか。コロナによる外出自粛で、夫や子どもの在宅が増え、これまで以上に家事や育児に負担がかかっていると指摘されています。実際に、私が診察する女性のうつ病患者さんも、家事や子育て、介護など家庭のケアワークの重圧をストレスに感じているケースが非常に多いです。また、雇用状況も大きく影響しているものと指摘されています。女性はパートや派遣社員など非正規雇用で働く人が多いため、コロナ禍による景気の悪化で、解雇や雇い止めなどの影響を受けやすいからです。先が見通せない不安や生活困窮も自殺の背景となる要因と考えられます。相次いだ有名人の自殺やその報道が与えた影響も少なくないと思います。

 男女にかかわらず、日本では公の場で孤独や苦悩を打ち明けることを不名誉ととらえる風潮があるように思います。うつ病など心の病と指摘されることを恥ずかしく思い、悩みや辛さを我慢してあまり口にしたがらない傾向があります。かえって孤独感や寂しさが増し、精神状態が悪化する要因となります。ツールの変容などによるコミュニケーションの変化は、人が慣れていくのに本来時間がかかるものです。新しい生活様式などあまりにも変化が早く、半年〜1年ぐらいでは人はついていけません。人間にとってコミュニケーションやつながりが生理的に深い意味を持っていることを、あらためて見つめ直す機会だと思います。

 気持ちの沈みや不眠、イライラ感、食欲低下、体のだるさは、だれにでも起こりますが、その強さと期間が長く続くなと思ったらそれがサインです。これまで心の問題を抱えながらも耐えていた人が、“新型コロナ”で最後の一線を越えてしまったケースも少なくないでしょう。頑張りようのない不安に気付いたら、病院に相談してほしいです。


2021年2月3日水曜日

健康診断で『肝障害』を指摘されたら…

 ゲスト/福住内科クリニック 佐藤 康裕 院長


健康診断で見つかる「肝障害」について教えてください。

 肝臓の数値であるAST、ALT、γGTPなどが高くなることを肝障害といいます。健康診断で見つかる肝障害の原因として最も多いのは、肥満による脂肪肝です。軽く見られがちですが、悪化すると脂肪の蓄積だけでなく、肝細胞に障害を起こすようになり、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)という病態に進展します。NASHの状態が長く続くと肝硬変に至ることもあり、また肝臓がんを生じることもあります。日本では他の原因による肝炎が減少傾向である一方でNASHは増加しており、近年関心が高まっている疾患です。治療は、生活習慣改善による体重減量が最も重要です。

 お酒や薬による肝障害もしばしばみられます。アルコール性肝障害は軽症のうちは禁酒・節酒により改善しますが、長年放置して飲酒を続けると肝硬変に至ります。薬物性肝障害はかぜ薬などにより一時的に起きるケースのほか、常用している薬で慢性的に起きていることもあり、この場合は薬の中止や変更が必要になります。サプリメントや漢方薬で生じることもあります。

病院を受診せずに、ダイエットや節酒をして様子を見ていても大丈夫ですか。

 専門医による治療が必要な疾患が見つかることもあります。「脂肪肝だろう」「お酒のせいだろう」と自己判断せず医療機関を受診してください。

 ウイルス性肝炎がその一つです。B型やC型の肝炎ウイルスは血液を介して感染します。以前は出生時の母子感染、汚染された血液製剤、注射の回し打ちなどが原因となりましたが、現在は十分な感染対策がなされています。不衛生な入れ墨やピアスの穴あけ、性行為などが原因となりますが、感染機会が明確でなく、本人が気付いていないケースもあります。B型肝炎ウイルスは乳幼児期に感染すると持続感染となり、C型肝炎ウイルスは感染時期によらず70%ほどが持続感染し、慢性肝炎を引き起こします。慢性肝炎は症状が乏しく、気が付かないまま長年放置していると肝硬変に至り、さらには肝臓がんを発症する恐れもあります。

 ウイルス性肝炎の他にも肝臓の腫瘍や肝臓の中を流れる胆管の腫瘍がエコーなどの検査によって発見されることもあります。また免疫の異常による自己免疫性肝疾患や甲状腺機能の異常による肝障害などが見つかることもあります。肝臓は「沈黙の臓器」といわれ自覚症状が出にくいため、健診が肝疾患発見の重要な機会になります。

2021年1月27日水曜日

ランナーの股関節周辺の痛み(グロインペイン症候群とぬけぬけ病)

 ゲスト/医療法人社団 二樹会 足立外科・整形外科クリニック 加谷 光規 副院長


ランナーによくみられる股関節周辺の痛みについて教えてください。

 ランニングブームが続いています。ランナー人口が増えている一方で、ランニングによるスポーツ障害が原因で走ることをやめる人も少なくありません。ひざやかかとの痛みもそうですが、股関節周辺の痛み・違和感に悩まされるランナーは多いです。一定の距離を走ると、脚の付け根や腹筋が痛くなってくる場合は「グロインペイン症候群」が疑われます。

 サッカー界でよく知られる症例ですが、ランナーにも多発します。股関節周囲の筋肉に負担のかかる走り方をしているため、それらの筋肉に疲労がたまって攣縮(れんしゅく)するのが主な原因かも知れません。

 もう一つ、走っているとおしりや太ももの裏側が痛くなったり、足に力が入らず真っ直ぐ走れなくなったりする症状がみられると、「ぬけぬけ病」の可能性があります。箱根駅伝で途中で走れなくなった選手がぬけぬけ病と指摘されるなど、病気の認知も進んできましたが、まだはっきりとした原因は明らかになっていません。これもグロインペイン症候群の一種で、梨状筋というおしりの筋肉が攣縮して神経の働きが障害されて起こるのではないかと考える向きもあります。

股関節周辺の痛みに対する治療について教えてください。

 病態がさまざまで、診断が難しいケースが多いですが、痛みがある箇所だけを治療するのではなく、全身を診て、正しい姿勢を身に付けたり、股関節付近への負担を減らしたりするなど、痛みの原因となっている根本の部分を治していく必要があります。

 注射療法とリハビリを組み合わせることで、完全に痛みが取れるケースも少なくありません。リハビリでは、筋のマッサージや筋力訓練、上肢から体幹、下肢を効果的に連動させる運動などを行います。

 早期に発見・治療できれば、それだけ早く、簡単な治療で症状を治すことができます。また、スポーツを続けながらの治療も、早期であればあるほど可能なケースが多くなります。画像診断をしても原因のはっきりしない股関節の痛みや、何らかの治療を受けているのに慢性的な痛みが取れず、悩んでいる方は一度診療することをおすすめ致します。