2016年3月23日水曜日

アルコール依存症


ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院  太田 健介 院長

アルコール依存症について教えてください。
 飲酒のコントロールが効かなくなる病気です。健康を損ね、家庭生活や仕事に支障を来しても、お酒をやめることができません。国内にはアルコール依存症の疑いのある人が約440万人いると推計されています。
 アルコール依存症は薬物依存症の一種です。個人の人格や意志の弱さが原因ではありません。繰り返し飲酒することで、お酒に含まれるエチルアルコールという依存性の薬物に対して、脳の神経細胞に耐性が生じ、飲酒量をコントロールできなくなるのです。つまり、お酒を飲む人であれば誰でもかかる可能性のある病気です。
 依存症になると、飲酒を原因とする多種の合併症が生じます。例えば、高血圧、高脂血症、アルコール性肝障害、肝硬変、認知症などが挙げられます。アルコール依存症とうつ病の合併も頻度が高く、お酒に頼る生活が自殺のリスクを高めることも明らかになっています。
 依存症は中高年の男性に多い印象がありますが、若年層や女性の患者も増加しています。特に、未成年の飲酒は発達途上の脳への障害が大きく、ほんの数年で依存症になってしまう危険性があります。飲酒に対し規制が緩やかな日本社会では、中高生からの酒害教育を行っていく必要があるでしょう。

依存症の診断と治療、予防について教えてください
 依存症の判断基準はいろいろありますが、代表的なものとして「価値観の逆転」があります。大切にしていた家族や仕事、自分の健康より飲酒を優先させる状態のことです。依存症になってしまったら、自分一人の力で抜け出すのは非常に困難で、適切な治療を受けない限り、徐々に悪化していくケースがほとんどです。
 治療には、断酒が必要です。節酒では駄目で、きっぱりやめるしかありません。薬物療法や認知行動療法、断酒会への参加により、断酒につなげていきます。ほかの病気と同じように、軽いうちに治療を始めれば、早期の回復が可能です。重要なのは、病気だと自覚し、正しい知識を得て、有効なやめ方を知ることです。
 依存症の一番の予防は、お酒と病気について正しく知ること。依存症は人生が破綻し、周囲を傷つける進行性の深刻な病気であると理解することが大切です。また、お酒の持つ負の側面を十分に認識し、お酒と安全に付き合っていくことが大切です。

2016年3月16日水曜日

うつ病からの職場復帰


ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 響 徹 診療部長

うつ病が増え続ける現在、休職中の人の職場復帰が大きな課題となっていますね
 厚労省の調査によると、2011年全国のうつ病患者数は95万8千人、1996年の43万3千人から倍増しています。うつ病が原因の休職者も多くの職場で増加し、社会全体・組織全体としてのメンタルヘルス対策が必要となってきました。
 うつ病の治療のため休職をした人にとって気にかかるのが職場復帰です。多くの患者さんは早期の復職を希望しますが、いったん復職しても、遅れを取り戻さなくてはという焦りや、周囲に対する申し訳なさから無理をしてしまい、再発や休職を繰り返してしまうケースも目立ちます。
 うつ病は再発しやすい病気で、治るプロセスも一進一退で波があります。復帰した職場が、うつ病になる前と同じような状況で、同じようなストレスがある場合、再発の可能性が高くなります。一時的に症状が改善しても、主治医の指示に従って焦らずに適切な治療を続けることが必要です。その上で、本人と主治医、職場の上司や人事担当者を交えた面談(診察)の中でじっくり話し合い、復職の時期や復職後の働き方、職場環境の調整などについて考えていくことが大切です。

職場復帰のポイントについて教えてください。
 うつ病になりやすい人は、責任感が強く、無理をして頑張りがちです。前の自分に戻ろうとするのではなく、「無理をしない」「頑張りすぎない」という心の管理の仕方を覚えるのが大事です。
 職場の上司、同僚の協力と理解も不可欠です。休職者が無事に復職してきたときは、病気に配慮しつつも、特別視することなく、これまでと変わらない態度で温かく迎えてあげてください。また、一定期間は短時間勤務やフレックス勤務といった“慣らし出社”の時期を設けて、段階的にフルタイム勤務に近づけていくのがいいでしょう。うつ病と診断された部下、同僚とどのように接するか、職場としてどのように迎え入れるか、それは今や誰もが考えておくべき問題といえます。
 うつ病の治療、うつ病からの回復において、家族やパートナーなど身近な人たちのサポートは、患者さんにとって何より大きな支えになります。つらい気持ちに共感してあげること、そしてよく話を聞いてあげることが重要です。「決して一人じゃないんだよ」という気持ちが伝われば、必ず光明が見えてくるはずです。

2016年3月9日水曜日

気管支ぜんそくとCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の合併


ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 医師

気管支ぜんそくとCOPD、両者の合併について教えてください。
 アレルギーなどにより気道に慢性的な炎症が生じる気管支ぜんそくは、気道が過敏になり狭窄(きょうさく)を起こしますが、治療により回復しやすいのが特徴です。一方、COPDは慢性閉塞性肺疾患といわれ、慢性気管支炎や肺気腫を指します。主にタバコが原因で、気管支の炎症や肺の弾力性の低下によって気道が閉塞し、呼吸機能が低下します。症状としては体を動かした時に息切れが生じやすくなります。人口の高齢化に伴い増加している病気で、気管支ぜんそくと比べると回復しにくいです。
 近年、この両者の特徴を併せ持ち、診断上どちらか一方に明確に分けられない病態として「気管支ぜんそく・COPDオーバーラップ症候群(ACOS)」が注目されています。ACOSは、それぞれの単独例よりも増悪の頻度が高く、予後が悪いという点が問題になります。気管支ぜんそくの患者さんでは、年齢とともにCOPDの合併率が上がり、65歳以上では約半数が合併しているという報告があります。一方、COPDの患者さんでも、約3割が気管支ぜんそくを合併しているといわれています。ACOSの診断基準はまだ確立されていませんが、両者の所見が同程度みられる場合はこれを疑います。

治療について教えてください。
 気管支ぜんそくの治療には、吸入ステロイドや短時間及び長時間作用性β2刺激薬などが、COPDの治療には短時間及び長時間作用性β2刺激薬や短時間及び長時間作用性抗コリン薬などが用いられます。ACOSの薬物療法の基本は、吸入ステロイドと長時間作用性気管支拡張薬の併用です。長時間作用性気管支拡張薬にはβ2刺激薬、抗コリン薬、経口テオフィリン薬などがあり、自覚症状や副作用に注意しながら、単剤もしくは多剤併用で使われます。吸入ステロイドは、COPDでは中等症以上で使用されますが、ACOSの場合は早期から必要になります。最近は重症のぜんそくに長時間作用性抗コリン薬が保険適用になり、症状のコントロールが不十分な場合は追加投与が可能になっています。
 気管支ぜんそく、またはCOPDの治療を行っているにもかかわらず、症状が持続したり、増悪を繰り返したりしている場合には、ACOSを疑ってみることも大切です。

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