2016年10月26日水曜日

摂食障害


ゲスト/特定医療法人北仁会  いしばし病院畠上 大樹 医師

摂食障害とはどのような病気ですか。
 摂食障害は、若い女性を中心に増加している病気で、「拒食症」と「過食症」の2つのタイプに分けられます。拒食症は、食べることを拒否してしまう病気です。体重増加への強い不安や恐怖心があり、食べ物を受け付けなくなっていきます。一時的に食べても、その後に嘔吐(おうと)して体重の増加を防ぐこともあります。やせている状態を正常と考え、病気であることを認めないケースが多いです。一方、過食症は、食べたいという欲求を自分で抑えることができず、衝動的に大量の食べ物を食べてしまう病気です。過食での体重増加を防ぐために、嘔吐を繰り返したり、下剤を乱用したりすることもあります。
 患者さんの多くは、生まれつき繊細な性格・体質であり、自信が持てない、傷つきやすい、過度に周囲の評価を気にするといった自己愛の強い人格が形成されている傾向があります。そこに、ダイエット、失恋、学業不振、人間関係でのトラブルなどの心理的・社会的ストレスが加わることによって異常な食行動が現れることになります。

摂食障害の治療について教えてください。
 摂食障害の治療では、まず自分を苦しめているのは自分自身ではなく、摂食障害という病気であると認識してもらうことから始まります。そして、自分一人でこの病気と闘うのではなく、回復のためには周りの助けが必要だと思えるようになるのも大切なことです。
 摂食障害になる人は、小さい頃から自分の思いを抑え、周囲の願望の達成を第一に考えていることが多いです。それだけストレスを心の内にため込んでいます。病気の発症は「これまでの生き方はもう無理で、一人では頑張れない」という意味にもとらえられます。カウンセリングや、物事の受け止め方の偏りを気付かせ、修正していく認知行動療法などを通し、この自分自身へのメッセージを素直に受け取れるようにし、拒食・過食・嘔吐している自分を責めず、そのままの自分を認められるように、自信を持てるように「自分らしさ」をつくっていきます。
 摂食障害は、治る病気です。一般的に治療は時間を要することが多いですが、症状は一進一退を繰り返しながら徐々に良くなっていきます。回復への道は決して平坦ではありませんが、あせらず、あきらめず、ゆっくりと進みましょう。

2016年10月19日水曜日

もの忘れ外来


ゲスト/札幌宮の沢脳神経外科病院  松村 茂樹 院長

もの忘れが気になるときは、どの診療科を受診すればいいのですか。
 「最近どうも忘れっぽい。でも何科を受診すればいいのか分からない。ただの老化現象かもしれないし…」。そう悩んだときに受診してほしいのが「もの忘れ外来」です。脳神経外科、精神科・心療内科、神経内科、老年内科で開設している病院やクリニックが増えてきています。
 皆さんがもの忘れを気にするのは、認知症への不安があるからです。「もの忘れ外来」では、問診と簡単な検査を行うことで、もの忘れの原因を判別し、認知症かどうかを診断します。
 まずは問診票などを使い、日ごろの症状を詳しく聞いたうえで、質問形式の認知機能検査(高次脳機能検査)を行います。これらの結果から認知症の疑いの有無を診ますが、これだけで判断するわけではありません。家庭や社会での生活に支障が出ていないかということも、重要な判断基準になります。さらに、脳のMRIやCTによる画像検査、血流や脳波の検査などを行い、ほかの病気にかかっていないかどうかも調べます。認知症のほかに、うつ病や特発性正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫といった脳の病気が、もの忘れの原因になっているケースもあるからです。
 前日の夕飯に何を食べたのか思い出せなかったり、人の名前が出てこなかったりなど、誰にでも、もの忘れはあるものです。ただ、自分自身についてもそうですが、家族の様子で「認知症では?」と心配になる場合は、老化による年相応のもの忘れなのか、認知症なのか、または別の病気なのかを明らかにするためにも早期の「もの忘れ外来」の受診をお勧めします。

認知症について教えてください。
 認知症は、脳の神経の働きが悪くなることで記憶力や判断力が低下し、生活に支障が出る病気です。認知症には、海馬という記憶を司る脳の部位が萎縮する「アルツハイマー病」、脳卒中が原因の「血管性認知症」、幻視や寝言、パーキンソン病のような症状を伴う「レビー小体型認知症」など、いくつかの種類があります。今のところ認知症は根本的に治すことはできませんが、薬などで症状の進行を抑え、生活機能の維持を目指すことが可能です。
 認知症は早い段階で治療を開始する方が、治療効果を期待できることが分かっています。早期の段階で認知症を発見するために「もの忘れ外来」があるといっていいでしょう。

2016年10月12日水曜日

痔核の治療と手術の適応


ゲスト/札幌いしやま病院 碓井 麻美先生

痔核の治療について教えてください。
 痔は、肛門付近で起きる病気の総称です。このうち外来で最も多いのが「痔核」で、いわゆる「いぼ痔」のことです。いぼができる場所によって、「外痔核」と「内痔核」に分類されます。
 肛門の皮膚部分にできる外痔核は、便秘で力んだり、重い物を持ったりして急に腹圧をかけることによって起こることが多く、痛みがあります。入浴で肛門部を温めて血行を良くし、排便の調整や座薬、軟膏などの投薬で、数日で軽快するのが一般的です。特に痛みが強い場合は、簡単な手術で痛みが軽快することもあります。
 一方、肛門の内側の粘膜にできる内痔核は、排便時のいきみなどによって肛門の出口から数センチのところにある柔らかい部分(クッション)が腫れにより本来あるべき位置からずれ落ちた状態です。出血を伴うことが多く、さらに、このクッションが肛門の外まで出てきた状態を「脱肛」といいます。患部に薬を塗るなどの方法で治療しますが、脱肛を繰り返すなど重症化したケースでは、切らずに治す注射療法(ALTA注射療法)や外科手術(当院では肛門形成術)を行うこともあります。

手術の適応について教えてください。
 「病院に行くと、すぐに手術される」などの恐怖心、不安感から受診をためらっている人も多いのではないでしょうか。そんなことはありませんので、安心して診察を受けてもらいたいと思います。痔核は、がんなどと違って悪性の病気ではないので、必ず手術が必要なものではありません。当然ですが、来院される痔核の患者さんすべてに手術を勧めるわけではありません。
 症状が軽い場合は、手術をせずに生活習慣の改善指導と投薬(座薬、軟膏、内服薬)で治療を行い、経過を観察します。初診の方の半数以上は、これらの治療で病状が改善します。薬を数週間使用しても症状の改善が見込めない場合や、痛みや出血などで排便や日常生活に支障をきたしている場合に、初めて注射や手術による治療を検討することになります。
 重要なのは、早期に受診して現在の病状を正確に把握することです。その上で、数ある治療の選択肢の中から、医師とじっくり相談して、患者さん一人ひとりの悩みやライフスタイルにあった最適最善な治療法を見つけることです。

2016年10月5日水曜日

「心療内科」と「精神科」の違い


ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 心療内科 梶 巌

心療内科と精神科の違いは何ですか。
  何か辛いことがあると、お腹が痛んだり、潰瘍ができたりします。頭痛、めまい、立ちくらみも生じます。血圧が上がりもするし、下がりもします。動悸(どうき)や狭心症が悪くなったりもします。このように、身体疾患の中で、病気の発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、そうした面からの治療が必要な病態を「心身症」と呼びます。心身症としての身体疾患を、患者さんの心の痛みや悩みに耳を傾けながら治療を進めていく専門診療科、すなわち、心と身体を同時に、同じ比重で診るのが「心療内科」です。
 一方、「精神科」は、ストレスなどが原因で生じる心の症状、病気を扱う専門診療科です。例えば、強い不安、イライラ、といった神経症や、抑うつ、幻覚、幻聴、妄想などの精神障害の治療を行います。
 ともに心理療法などを駆使しながらも、心療内科は心理社会的因子が絡む身体の病を、精神科は心の病を扱います。もちろん、心身症になったが故に、神経症的に悩むことになるなど、重なる部分も少なくないため、心療内科、精神科のどちらが診るのか迷うケースもあります。

心療内科、精神科の上手なかかり方について教えてください。
 心療内科と精神科の違いは、患者さんはもとより医療関係者でも知らないことが多く、それが今受けている治療に満足できない患者さんを生み出したり、さらなる治療を求めて渡り歩く患者さんを生み出したりする一因になっています。
 現実には心療内科と精神科は、的確に使い分けられてはいません。古くから精神疾患の身体症状を研究してきた精神科医が「精神科・心療内科」を標榜していることが多く、心療内科医が少ないからです。例えば、何らかの身体症状で一般科を受診し、医師から「心療内科へ行きなさい」といわれた患者さんが、それが心身症によるものであっても、心療内科ではなくその殆どが精神科を受診せざるを得ないのが現実です。いくらストレス絡みとはいえ、身体症状すべてを精神科医が診るのは容易ではありません。思ったような医療を受けられないこともあるでしょう。
 心身症は、精神科で扱うことも多いため、心の病気だと思われがちですが、身体の病気です。心身症を扱うのは精神科ではなく、本来は心療内科です。この違いをしっかりと理解した上で、自分が受診するべき医療機関はどちらなのかを区別することが大切です。

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