2016年11月16日水曜日

腸内細菌叢(そう)


ゲスト/佐野内科医院 佐野 公昭 院長

最近よく聞く「腸内細菌叢」とは何ですか。
 私たちの体は37兆個とか60兆個の細胞からなるといわれていますが、腸内にはそれよりはるかに多くの細菌がすんでいます。その数は、100兆〜1000兆個にもなり、500〜1000種類の多種多様な腸内細菌が群れを成しているのです。その様子を、腸内細菌叢といいます。その構成は一人一人違い、宿主であるヒトの健康に大きな影響を与えていることがわかってきました。
 腸内細菌は大きく「善玉菌」「悪玉菌」に分けられます。善玉菌は消化吸収を助けるなど腸に良い働きをし、代表的なものとしてビフィズス菌や乳酸菌が挙げられます。一方、毒素を出す、腐敗物質をつくるなど腸に悪い働きをするものが悪玉菌です。すべての腸内細菌は単純に善・悪に分けられるわけではありませんが、悪玉菌が悪さをしないよう、善玉菌が常に優位になるような腸内環境に整えることが健康維持にはとても大切です。
 近年、腸内細菌の遺伝子解析などの研究が急速に進み、腸内細菌叢のバランスの乱れが、下痢や便秘などの便通異常だけでなく、大腸炎や大腸がんなどの腸の病気、肥満や糖尿病、動脈硬化症などの生活習慣病、多発性硬化症や自閉症、認知症などの精神神経疾患などにつながることが分かってきました。病気の人に健康な人の腸内細菌を移植する治療法・糞便移植(正常細菌叢回復治療法)も試みられるようになり、劇的な効果を上げている疾患もあります。

日常生活の中で、腸内細菌叢を良い状態にするにはどうすればいいですか。
 まず腸内環境の良し悪しを把握するには、便の状態を観察することです。定期的に排便があり、色は黄色~黄褐色で、形がバナナ状(半練り状)であることが、腸内環境が良い状態であることの一つの目安となります。ある程度の量が出ることも大切です。石ころ状で硬い上に量が少なく、黒褐色の便のときなどは、悪玉菌が優位な腸内環境になっている可能性が高いです。
 腸内環境を整える方法として、まずは食生活を見直してみましょう。善玉菌を優位にするためには、野菜や果物、ドライフルーツ、海藻、豆類など食物繊維の多い食品、納豆や味噌、ヨーグルトなどの発酵食品がお勧めです。適度な運動も有効で、特に軽いウォーキングなどで腸の動きを刺激したり、お腹周りの筋肉を鍛えるような運動がよいでしょう。

2016年11月9日水曜日

最新の糖尿病治療


ゲスト/医療法人社団 青木内科クリニック 青木 伸 院長

最新の糖尿病治療薬について教えてください。
 糖尿病治療薬の最近の進歩は目覚ましいものがあります。飲み薬では、高血糖の時にだけ、すい臓からインスリンを分泌させ、正常血糖へ下げる「DPP-4阻害薬」があります。この薬は、理論的には低血糖を起こさず治療できる新薬で、糖尿病の平均血糖の指標であるHbA1c値を1.0%前後下げます。この薬と同じ系統の注射薬も登場し、「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれています。この注射薬はHbA1c値を1.6%前後下げます。1日1回の注射が必要ですが、現在は1週間に1回で済む注射薬も出ました。この系統の注射薬は、すい臓のインスリンを出す細胞を保護し、インスリンの分泌を弱らせない作用も持ち合わせているといわれています。従来まで体重を減少させる糖尿病薬がありませんでしたが、「SGLT-2阻害薬」が登場し、この薬剤は血糖を下げると同時に体重を減らします。最近の研究データによる結果では、この種の薬剤は、心血管系の動脈硬化症の出現を抑える働きも持ち合わせていることが判明してきています。
 一方、インスリン注射に目を向けると、「持効型インスリン(1回の注射で24時間効果を持続する長時間作用型インスリン)」があります。飲み薬の治療が効かなくなる症例でも、飲み薬をそのまま服用しながら、1日1回の持効型インスリンの注射を加えると血糖が改善する症例もあります。「混合型インスリン」は従来まで濁った製剤でしたが、透明な製剤が登場し、10回以上振って混合しなくても済むようになりました。

糖尿病の治療について教えてください。
 糖尿病の治療状況が良好といえる目安は、HbA1cが7.0%以下になっている場合です。糖尿病の患者さんの約半数が、高血圧と脂質異常症(高脂血症)を合併しているといわれています。糖尿病を合併した高血圧の治療はとても重要で、血圧の治療目標値は125/75mmHg以下です。自宅で測定できる血圧針を治療に役立てる方法もあります。この場合使用する測定器は、指先や手首に巻くタイプのものではなく、上腕に巻くタイプのものをお勧めします。脂質異常症の治療目標値は、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が120mg/dl以下です。以上のようなさまざまな基準値を長期間保てば、眼底出血(失明)、腎臓の悪化(透析)、足の潰瘍・壊疽(えそ)による足の切断など、糖尿病に由来する重症の合併症にならなくて済みます。それ以外にも脳梗塞、心筋梗塞などの予防にもつながります。

2016年11月2日水曜日

多焦点眼内レンズによる白内障治療(眼科領域の先進医療)


ゲスト/大橋眼科 大橋 勉 院長

多焦点眼内レンズによる白内障治療について教えてください。
 白内障の治療は、最終的には手術が必要で、濁った水晶体を摘出して人工眼内レンズに入れ替えます。
 日本で使われている眼内レンズの多くは単焦点眼内レンズですが、近く、あるいは遠くの1カ所にしかピントが合わず、メガネを手放せませんでした。それを解消しようと生まれたのが多焦点眼内レンズです。
 多焦点眼内レンズは、1枚のレンズに遠距離、近距離の両方に焦点が合うように設計されています。自由にピントは変えられませんが、近くにも遠くにもメガネなしで焦点が合いやすくなります。ただ、夜間の光をまぶしく感じたり、暗い場所ではくっきり感が落ちたりするなどの弱点もあり、全ての人に適しているわけではありません。
 多焦点眼内レンズは2007年に厚労省に認可され、08年に先進医療として承認されました。先進医療とは、厚生労働大臣が保険適用外の先端的な医療技術と保険診療との併用を、一定の条件を満たした施設のみに認める医療制度です。先進医療施設に認定された医療機関で、多焦点眼内レンズによる白内障治療を受ける場合、術前術後の診察などに保険が適用となります。また、民間の生命保険の先進医療特約の対象ともなり、先進医療に係る費用が全額給付されるケースもあります。
 眼内レンズの度数は、角膜屈折や眼軸長により計算して慎重に選びますが、目の状態によっては誤差が生じることがあり、術後に視力が思うように出ないケースもあります。そのような場合、適切な度数が得られる眼内レンズへの入れ替え手術を行うこともできます。単焦点から多焦点へと、また、多焦点の見え方になじめない時は、単焦点へと入れ替えることも可能です。

眼内レンズで乱視を矯正することはできますか。
 14年5月から、厚労省の認可を受け、乱視矯正機能を持たせた眼内レンズが発売されています。従来の眼内レンズでは矯正不可能であった乱視も、白内障手術と同時に治すことができるようになりました。
 保険外診療となりますが、遠近に加えて中間距離にも焦点の合う三焦点眼内レンズも登場しています。眼内レンズが進化し、白内障手術は患者さんのライフスタイルに合わせた治療の選択ができるようになり、視力の質をより一層重視する新しい時代に入ってきました。

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