2019年5月29日水曜日

抗VEGF療法

ゲスト/ふじた眼科クリニック 藤田 南都也 院長

抗VEGF療法とはどのような治療法ですか。 
 眼科の治療は年々進化しています。近年始まった新しい治療法の一つが抗VEGF療法です。健康な状態では存在しない「新生血管」という異常な血管の増殖を抑える治療法です。
 治療は、眼球に直接抗VEGF薬を投与します。注射の前に点眼麻酔をしますので、痛みはほとんどありません。投与の回数は病気の状態によりさまざまですが、毎月1回〜数カ月ごとに1回の治療を継続的に行い、効果をみながら間隔を延ばしていくのが一般的です。
 現在、保険適用のある抗VEGF薬は数種類ありますが、治療効果や副作用などを考慮しながら薬剤を選択します。これまで目の中にレーザーを当てて治療する必要があった状態や、治療法のなかった疾患に対し、より長く視力を保てるケースや、病状の進行を食い止められるケースが増えています。

主にどんな疾患に、どのような治療効果が期待できますか。 
 これまで「加齢黄斑変性」に対する治療法として知られてきました。早期なら視力の回復も期待でき、現在、第一選択の治療法となっています。近年、治療抵抗性のある(これまで有効であると科学的に証明されている治療法を行なっても、効果がみられなかったり、段々と効果が減弱し再発・再燃してしまう状態)がある「糖尿病網膜症」や「網膜静脈閉塞症」による黄斑浮腫にも有効であることが分かり、保険適用範囲が大幅に拡大されました。
 長期にわたる高血糖により、黄斑部に浮腫などを起こす糖尿病網膜症。従来、糖尿病網膜症は、網膜にレーザーを照射する光凝固術が標準的治療でしたが、正常な網膜の一部にもダメージを与えてしまうデメリットもありました。抗VEGF療法の適用で、患者さんの体への負担が少なく、黄斑浮腫を軽減できるようになりました。また、高血圧や動脈硬化に伴って起こる網膜静脈閉塞症にも、新生血管の発生の予防や浮腫の軽減に効果を望めます。
 複数回の治療が必要になることと、保険適用であっても自己負担がある程度必要なことには留意する必要がありますが、治療をあきらめていた患者さんにとって抗VEGF療法は新たな選択肢の一つとなっています。まずは十分医師と相談してほしいと思います。

2019年5月22日水曜日

E型肝炎

ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

E型肝炎について教えてください。
 E型肝炎ウイルスに感染し、肝臓に炎症が生じた状態です。急性肝炎を起こすことがあり、劇症肝炎という重篤な肝炎を発症することもあります。また、血液疾患の患者さんなど免疫機能が低下している方が感染すると、慢性化することが明らかになっています。2017年の急性ウイルス性肝炎の届け出件数では、ウイルス性肝炎の中で最も多く、近年注目されている疾患の一つです。
 E型肝炎は、ふん便に存在するE型肝炎ウイルスに感染することで発症します。水や氷、野菜、甲殻類などに混入しており、これらを不衛生な状態で摂取することで感染します。そのため、衛生状況がE型肝炎の流行に深く関連し、衛生環境の整備されていない途上国を中心に確認される傾向があります。従来、日本における発症例は、輸入感染症と考えられていましたが、渡航歴のない方でも感染することがあり、以前推定されていたより日本にも広く分布していると考えらます。日本での主な感染原因は、ブタ・イノシシ・シカの肉や二枚貝を生あるいは加熱不十分な状態で食べることによるものです。そのほか、E型肝炎ウイルスが混入した血液製剤、母子感染などの感染経路も知られています。
 E型肝炎の潜伏期間は約6週間であり、似たような臨床経過を示すA型肝炎よりもやや長い傾向にあります。初期症状としては食欲不振、吐き気、嘔吐、腹痛、肝臓の腫大に伴う腹痛などです。その後、黄疸の症状が急激に出現し、2週間程度の経過で治ります。劇症肝炎にかかると黄疸や倦怠感に加えて、意識障害や腹水・胸水、全身のむくみなど、肝不全に伴う症状が出るようになります。
 E型肝炎ウイルスによる劇症肝炎は、妊婦さんに発症リスクが高く、妊娠後期に感染すると死亡率は約20%にものぼるとの報告もあります。

治療について教えてください。
 治療は、A型肝炎と同様に、急性期には入院、安静加療が必要です。劇症肝炎に対して血漿(けっしょう)交換、場合によっては肝移植による治療が考慮されます。E型肝炎ウイルスに特化した治療がないため、①動物の肉や内臓を食べる際の十分な加熱処理、②調理時や喫食時の交差感染(直接または器物を介して間接的に伝播すること)の防止、を徹底することが重要です。

2019年5月15日水曜日

かくれ脳梗塞(無症候性脳梗塞)

ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長

かくれ脳梗塞とはどのような病気ですか。
 脳ドックを受けたり、けがで脳の検査をしたときに医師から、脳梗塞があると言われてドキっとした、というような経験をされた方も多いのではないでしょうか。俗に「かくれ脳梗塞」というように、自分には思い当たるような症状がないのにもかかわらず、検査時に偶然見つかる脳梗塞をそう呼びます(正しくは無症候性脳梗塞といいます)。
 脳梗塞と聞かされると、驚いてしまいますが、即、大きな発作につながることは少ないと考えられますので、必要以上に不安になる必要はありません。検査結果を伝える際に、医師の説明が十分でないために不安が増している場合も多く、われわれ医療従事者も気を付けなくてはならないところです。「隠れ脳梗塞がありますよ」と言われた場合には、ご自身の持病や生活習慣などを見直すきっかけにしていただくのが得策ではないでしょうか。こういった機会に禁煙を決断される方もいらっしゃいます。

かくれ脳梗塞が見つかった場合、どう対応すればいいのですか。
 無症候性脳梗塞と診断された場合、差し迫った危険はないとはいえ、何も手を打たずに放っておいていいわけではありません。無症候性脳梗塞の方は、健常者に比べると脳梗塞や脳出血、あるいは認知症になる危険がやや高いことが分かっています。また、非常にわずかながら脳にダメージを与えているのではないかとする説もあります。つまり、自分が他の人より脳梗塞など脳の病気を発症するリスクが高いことを自覚して、その予防に積極的に取り組むことが大切です。
 だからといって、慌ててすぐに脳梗塞再発予防の薬を飲む必要性はありません。まずやるべきことは、脳梗塞の危険因子のチェックです。脳梗塞の発症に一番関係が深いのが「高血圧」の存在です。高血圧があれば、その後しっかり血圧を管理していくことがとても大切です。そのほかの危険因子では喫煙や糖尿病、脂質異常症などがあります。それぞれ医師の指導のもと適切に管理していく必要があります。
 脳神経外科の専門医では、さらに頸(けい)動脈の動脈硬化や脳血管のチェックなどを行って、リスクの高い方には内服薬を処方する場合もありますし、再発予防のための手術を勧める場合もあります。

2019年5月8日水曜日

双極性障害(そううつ病

ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院  太田 健介 院長

双極性障害とはどのような病気ですか。
 双極性障害は、気分が落ち込んで、気力が湧かず憂うつな「抑うつ状態」と、うつ状態とは逆に気分が高揚し、発言や行動が活発で抑制がきかなくなりがちな「そう状態」を繰り返す病気です。およそ100人に1〜1.5人の割合でかかる可能性があります。
 そう状態では、症状が軽い場合、睡眠時間が短く多弁となり、意欲が増し、アイデアが次々浮かんできたりすることから、本人は「調子が良い」と感じ、周囲も「やけに元気そうだな」と思う程度で見過ごされがちです。しかし、症状が重くなると、過大な消費を続けたり、攻撃的な言動で周囲の人とトラブルになったり誇大妄想に影響されて無謀な行動をしたり、興奮状態を呈する場合もあります。
 また、そう状態からうつ状態に転じます。うつ状態では、重症化すると自殺の危険性が高まり、一般の方と比べ、約15倍も自殺のリスクが高くなると指摘されています。
 お酒や薬物に依存する「物質使用障害」、パニック障害などの「不安障害」など、ほかの精神障害を併発するケースが多いのも特徴の一つです。

診断と治療について教えてください。
 双極性障害は、初めにうつ状態を呈することが多いです。双極性障害のうつ状態とうつ病は症状が似ているため、見分けがつきにくく、診断が難しいです。なかなか治らないうつ病と思っていたら、実は双極性障害だったというケースも少なくありません。双極性障害とうつ病は治療方針も治療に用いる薬も異なるため、この2つの病気をしっかりと鑑別することが重要です。
 治療は薬物療法が有効です。うつ病では主に抗うつ薬が処方されますが、双極性障害では気分安定薬を使い、うつ状態とそう状態の波を小さくすることが治療の目標となります。近年、双極性障害に効果の高い新しい薬も登場しており、治療の選択肢は広がっています。
 治療せず放置していると、重症化したり、再発を繰り返したりします。本人が気づきにくい病気なので、周囲が「今までと様子が違う」ことに気づいたら、いち早く医療機関につなげることが大切です。継続的な治療が必要な病気ですが、元気に回復した人や症状をコントロールしながら普通に日常生活を送っている人もたくさんいます。

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