2022年10月27日木曜日

災害は突然に〜今すぐできる家庭の備え〜

 ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 古崎 章 院長


関節リウマチなど慢性疾患を抱える患者さんが、災害時に困らないよう家庭で取り組むべき対策について教えてください。

 地震や火災などの災害や新型コロナウイルス感染症の再拡大は、正確に予測して未然に防止することは非常に困難です。万一、被災してしまった場合や外出自粛などで身動きが取れない日が続く場合、関節リウマチなどのリウマチ性疾患を抱える患者さんは、手足に症状が現れていて移動が困難であったり、薬による治療の中断を余儀なくされることによって症状が悪化したりすることがあります。リウマチ性疾患に限らず、糖尿病や高血圧症など薬や治療が欠かせない慢性の病気がある患者さんは、日頃からの備えがとても大切です。

 関節リウマチの治療中の場合、服薬を中止してしまうと関節痛が悪化するだけでなく、動けなくなったりすることもあります。普段から服用している持病の薬は、非常用に1〜2週間分を準備しておくと安心です。先にもらった薬から飲んで、新しい薬を非常用に備え、次に薬をもらったら新しい薬と取り換えて、常に薬が古くならないようにします。また、外出先での被災に備えて、いつも持ち歩くバッグに数日分の薬を入れておくこともお勧めします。

 災害時には、かかりつけの医療機関を受診できなくなる可能性もあります。主治医以外の医師の診察も受けられるよう、ご自身の病状を把握しておくことが必要です。そのために重要なのが「お薬手帳」です。「いつ、どこで、どんなお薬を処方してもらったか」という情報は、すなわちご自身の健康の記録であり、大切な情報です。処方された薬を見れば何の治療をしているのか、すぐ分かるからです。保険証番号や緊急時連絡先(ご家族、主治医、かかりつけ薬局、訪問看護ステーション、ケアマネジャーなど)、副作用歴、アレルギー歴なども記載しておけば、災害時だけでなく、外出先で体調が急変したり事故に遭ったりした時、会話ができない状態であっても手帳が状況を物語ってくれます。バッグに入れて常に持ち歩いてほしいと思います。スマートフォンがあれば、電子お薬手帳を活用したり、服用している薬のメモなどをカメラで撮影し保存したりする方法もあります。ご自身の体の情報は複数の方法で管理しておくとより安心です。

 被災時には、健康な方でも感染症をはじめとした病気にかかりやすくなります。特に関節リウマチの患者さんはマスクの着用や手洗い、うがいの励行を徹底し、普段の生活以上に予防を徹底しましょう。

2022年10月20日木曜日

失明の恐れのある緑内障、糖尿病網膜症

ゲスト/ふじた眼科クリニック 藤田 南都也 院長


失明につながる目の病気について教えてください。


 日本人の中途失明の原因として最も多いのが「緑内障」で、2番目は「糖尿病網膜症」です。

 緑内障は眼圧に対して網膜の神経細胞が弱く、損傷を受けて視野が欠けていく病気です。日本では40歳以上の20人に1人が緑内障であることが分かっています。

 緑内障は視野の一部が欠けていきますが、脳の働きで見えないはずの部分を補ってしまうため、症状になかなか気付きにくいです。異常に気付くのは相当に進行してからで、手遅れになりやすいのが厄介な点です。

 一度失ってしまった視力や視野は戻りません。できるだけ早く発見し、早期に治療を開始することが何よりも重要です。主な治療は眼圧を下げる点眼薬で、きちんと継続すれば進行を止めたり遅らせたりして失明を免れることも十分可能です。

 糖尿病網膜症は、糖尿病にかかったことにより起こる合併症の一つ。血糖の高い状態が続き、網膜の血管が障害されて起こります。段階的に進行しますが、多くの場合、自覚症状はほとんどないまま進行していきます。

 進行した段階では、網膜から新生血管というもろい血管が硝子体に伸び、それが破れて硝子体出血を起こして、飛蚊症や眼のかすみ、視力低下を自覚することがあります。また、硝子体中に増殖膜という線維性の膜ができ、その膜が網膜を引っ張ることで網膜剥離が起きます。そしてそれを放置すると、失明に至ることもあります。

 治療は血糖コントロールを基本に、レーザー治療や抗VEGF硝子体注射、硝子体手術などを病期に応じて選択します。進行しているほど治療をしても良好な視力への改善が難しい場合も少なくないです。糖尿病網膜症が原因の失明を防ぐとともに、可能な限り視力回復・改善を目指すには、早期発見・治療が原則。そのためにも、糖尿病と診断された時から定期的な眼底検査などのチェックが非常に大切です。

 緑内障や糖尿病網膜症のように、「見える」を脅かす病気は気付かないうちに進行することが多いです。そのほとんどは眼科検診を定期的に受ければ早く発見でき、治療を始められるものです。これらの診断や治療効果の判定には、眼球の断面図を鮮明に見ることができるOCT(光干渉断層計)を使った検査が有用です。特に40歳を過ぎたら、ぜひ1年に1回、眼科検診を受けてほしいと思います。


2022年10月13日木曜日

認知症

ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院  正木慎也 診療副部長


認知症について教えてください。

 認知症とは、一つの病気の病名ではなく、何らかの原因で脳の細胞が死んだり、働きが悪くなったりして、物事を記憶したり認識したりする能力である認知機能が十分でなくなり、従来の生活が送れなくなった状態を指します。認知症は年を重ねると誰もがなりうる病気です。人口の高齢化に伴って増え続け、2025年には高齢者の5人に1人の約700万人が認知症になるとの予測もあります。

 認知症にはさまざまな種類があります。最も多いのは「アルツハイマー型」で、早期症状の代表的なものは「新しく体験したこと、学んだことをきちんと記憶しておけない」という記憶障害です。予定や約束、日程なども忘れがちで何回も周囲に確認し、言付けも不確かになります。そのほか、脳梗塞や脳出血などが原因の「脳血管性」、実際にはそこにないものが見える幻視や、手足の震え、筋肉が固まるなどパーキンソン病のような症状がみられる「レビー小体型」、感情の抑制がきかなくなり、人格が変わったような変化が起きる「前頭側頭型」などがよく知られています。

 認知症の症状には「中核症状」と「周辺症状」があります。中核症状は、記憶障害や理解・判断力の低下などで、ほとんどの患者さんにみられます。一方、周辺症状は、中核症状が原因となり、それに元々の性格や環境、周囲の人とのかかわりの中で起こってくる症状(不安、うつ症状、もの盗られ妄想など)で、人によって出たり出なかったりします。


治療について教えてください。

 多くの認知症はいまだ根本的な治療法が存在しません。しかしながら、症状が軽い段階のうちに認知症であることに気付き、適切な治療が受けられれば、薬で症状の進行を遅らせたり、認知症の種類によっては症状を改善したりすることもできます。早期診断・治療によって、高い治療効果が期待できるのです。

 年相応のもの忘れと認知症の中間には、もの忘れは目立つものの認知症のように日常生活に支障を来さない「軽度認知障害(MCI)」という状態があります。進行すると認知症に移行する恐れがあるため、そういった意味でも早期に対応が求められます。

 ちょっとした症状でも、気になることがあればすぐ専門医を受診することが大切です。

2022年10月6日木曜日

リウマチ性多発筋痛症

 ゲスト/医療法人 知仁会 八木整形外科病院 安田 泉 副院長(内科)


リウマチ性多発筋痛症とはどのような病気ですか。


 運動も何もしていないのに、急に首から肩、腰から足の筋肉に激しい痛みを感じる。ある朝突然、筋肉痛のような強い痛みやこわばりで布団から起き上がれない。そんな症状が出ている人は、もしかしたら「リウマチ性多発筋痛症」かもしれません。

 リウマチ性多発筋痛症は、膠原病と呼ばれる病気の一つで、原因不明の慢性炎症性疾患です。高齢者、特に女性に多く発症します。首や肩、腰、太ももの筋肉痛が代表的な症状で、「急に」「ある日突然」起こるのが特徴です。痛みの程度は個人差があり、我慢できる範囲の痛みという人もいれば、激痛で自分では動くこともできないというケースもあります。筋肉痛のほか、発熱や全身倦怠感などかぜに似た症状を伴うこともあります。

 リウマチという名前は付いていますが、関節リウマチとは別の病気です。朝のこわばりや発熱など症状は似ているところもあるのですが、痛い場所の中心が筋肉と関節で違っており、また、血液検査でも〈リウマチ因子〉という項目は通常陰性となります。


診断と治療について教えてください。


 この病気は、関節リウマチやほかの膠原病、炎症性疾患などと共通する症状が多く、また、診断を確定する特有の検査がないため、過去に一度も症例を経験していない医師にとっては区別がつけにくいかもしれません。症状の聞き取り(問診)や血液検査などを合わせ、総合的に診断していくことになりますが、血液検査で炎症反応をみる〈CRP〉や〈赤沈〉という項目の高いことが診断の有力な決め手となります。

 治療はステロイド剤の内服が中心で、非常によく効きます。多くの場合、1〜3日以内に効果がみられます。症状が安定したらステロイドを減量していきますが、早期の減量や中止は再発を起こしやすいので慎重な判断が必要です。また、ステロイドは長期間内服すると、糖尿病や高血圧症、骨粗しょう症といった副作用のリスクがあります。薬の副作用をマネジメントしながら、リスクを許容できる範囲で安全に使っていきます。

 突然の筋肉の痛みは、我慢せずに膠原病に詳しい内科や整形外科を受診し、痛みの原因となる病気を特定して、できるだけ早く適切な治療を始めてほしいと思います。

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