2012年12月19日水曜日

健康寿命


ゲスト/みどり内科クリニック 小田 朗 副院長

健康寿命とはどのようなものですか。
 誰にでもやがて訪れる老年。“ぴんぴん”と元気に老いて、最後は寝付かずに“ころり”と死にたいと思う人は多いでしょう。医療や福祉の分野で「ぴんぴんころり」というキャッチフレーズは、理想の老い方の代名詞のように使われています。
 日本は先進国の中で最も平均寿命が長い国です。しかし、自立して健康に生活できる期間を示す「健康寿命」はそれほど延びていません。晩年、介護が必要になったり、病気を患ったりで日常生活が制約を受ける期間は、男性が約9年、女性が約13年といわれています。生存期間の“年月”を測定した平均寿命と、“生活の質”に焦点を当てた健康寿命との差は意外に大きいのです。「ぴんぴんころり」の考え方は、健康寿命を延ばし、平均寿命との乖離(かいり)をいかに縮めていくかということです。

健康寿命を延ばすためのアドバイスをいただけますか。
 健康寿命を延ばすためには、「メタボリックシンドローム(メタボ)」と「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」の予防、対策が重要です。
 メタボは、内臓脂肪型肥満をベースに高血糖、高血圧、脂質異常が複数重なることによって動脈硬化を引き起こします。その結果、心疾患や脳卒中といった重篤な病気の危険性が急激に高まるので、大変危険です。特定健診などで早期に発見し、生活習慣の改善など対策を立てるとともに、血管の老化の程度を把握するための検査を受けることが有効です。血管内の狭まり具合を調べる頸(けい)動脈エコー検査や、手と足の脈のリズムの差から、動脈血管の硬さなどを数値化できるABI/PWI検査(血圧脈波検査)などがあります。
 ロコモは、骨や筋肉、関節など運動器の働きが加齢などにより衰え、要介護になるリスクの高い状態になることをいいます。脳卒中のように直接、生命を脅かすことは少ないですが、骨折により寝たきりになってしまうケースなど、放置すると重症化する恐れがあります。ロコモを防ぐには、筋力が低下する40代後半から準備しておくことが大切です。骨密度を測定する検査で自分の骨密度を把握し、骨粗しょう症の予防に役立てるなど、早期診断・治療を心掛けましょう。
 悪くなってから治療のために病院に通うのではなく、強い体をつくり、病気を予防するために病院を上手に利用することも重要です。

2012年12月12日水曜日

マイコプラズマ肺炎


ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長

マイコプラズマ肺炎とはどのような病気ですか。
 マイコプラズマ肺炎は、かつては4年ごとのオリンピックの年に流行するといわれていましたが、最近では毎年のように流行しています。1999年に発生動向の調査を開始して以来、今年は過去最高の患者数が報告されています。
 原因となるマイコプラズマは、正式には「肺炎マイコプラズマ」という名前の微生物で、細菌より小さく、ウイルスより大きく、細菌にもウイルスにもない性質を持っています。ウイルスはヒトの細胞の中でしか増えませんが、マイコプラズマは栄養があればヒトの細胞外でも増えていきます。
 初期の症状は、倦怠(けんたい)感、のどの痛み、発熱などがあり、インフルエンザの症状と似ています。3〜5日たつと頑固なせきが始まります。乾いたせきが徐々にひどくなり、解熱後も長期にわたって(3〜4週間)持続します。時期によっては痰(たん)が出ることもあります。肺炎にしては元気で、一般状態も悪くないことが多いのですが、一部に重症肺炎となる場合や、胸水がたまったり、髄膜炎や多発神経炎を発症したりする場合もあります。また、肺炎にならなくても、マイコプラズマによる気管支炎のためひどいせきが1カ月以上続くことがあり、気管支ぜんそくや咳ぜんそくなどと鑑別が困難なケースもあります。

マイコプラズマ肺炎の治療と予防について教えてください。
 一般的な細菌感染症に使われるペニシリンやセフェム系などの抗生物質は、細菌の外側にある細胞壁を壊して、細菌を殺す作用を持つため、細胞壁のないことが特徴のマイコプラズマに対しては効果がありません。このため、マクロライド系抗菌薬やテトラサイクリン系抗菌薬、ニューキノロン系抗菌剤が有効となります。
 近年、マクロライド系抗菌薬に耐性を持つマイコプラズマの割合が増加しつつあります。しかし、耐性菌で発症した場合でも、マクロライド系抗菌剤を続けて飲めば、熱などの症状が数日長引きはしますが、効果はあります。テトラサイクリン系抗菌薬、ニューキノロン系抗菌剤は耐性菌に効きますが、小児の場合は副作用があり、子どもには使いにくい薬です。
 予防策は、かぜやインフルエンザと同じで手洗い、うがいを励行し、せきの症状がある場合には、マスクを着用するようにしてください。

2012年12月5日水曜日

「こころの安全地帯」とストレス社会


ゲスト/医療法人社団五稜会病院 千丈 雅徳 院長

 日本ハムファイターズは惜しかったですね。でも、ダルビッシュが大リーグに行ったり、若い人が監督になったりして、大丈夫かなあと思っていたので、こんなに頑張るとは驚きでもあります。想定外のうれしい誤算です。ですから、よくやった、頑張った、という気持ちでいっぱいです。 日本ハムファイターズが札幌ドームを本拠地としてから、私たちはたくさんの夢をもらってきました。本当に感謝ですね。
 ところで私たちが、このストレスあふれる社会の中で生き抜いて行くために大切なのは、札幌ドームならぬ、「こころの安全地帯」です。 傷ついた心を癒やし、今日の出来事をみんなで一緒に喜び、あるいは泣いて、そして、スッキリして、明日からまた一歩踏み出す、そんな「こころの安全地帯」が必要です。
 先行き不透明な社会情勢の中、厳しい現代を生きている私たちは、何げない毎日を送っていくだけでも緊張と不安、恐怖の連続です。「こころの安全地帯」とは、そうした不安感や強い緊張感に支配されても、いつでも逃げ込める場です。ホッと安心して休んで、優しい言葉掛けをしてくれる気心の知れた人が居て、痛みそうなこころを癒やしてくれる場。混乱した考えを整理して、なあんだ、何とかなりそうだ、という気持ちにしてくれる場。そして、世の荒波に立ち向かって行こうという勇気を与えてくれる場です。そんな場があってこそ、先の見えないこの社会の中に不安感を持ちながらも立っていることができます。
 イギリスの精神分析医のジョン・ボウルビィが、愛着理論の中で、セキュア・ベース(こころの安全基地)という概念を出しました。「安全基地」は単なる場だけではなく、2歳前後の子どもに対する母親などの養育者との安心感に満ちた人間関係をも意味します。1歳を過ぎた子どもは母親から離れ、自分の力で歩いて周りの世界に好奇心をもって探検し始めますが、不安や恐怖もあります。そこで、子どもは母親を「安全基地」にしながら、外の世界に出て行き、不安になったら母親の所に戻る、ということを繰り返し、やがて母親から離れて自立していきます。「安全基地」は幼い時期に特徴的な言葉として用いられますが、現代社会では、大人も同じように「安全基地」ならぬ、「こころの安全地帯」が必要なのです。
 あなたは「こころの安全地帯」を持っていますか?「こころの安全地帯」は結婚相手や家族や昔からの友達以外でも、今日から、ここから広げていくことは可能です。ネットでの関係もリスクを伴うでしょうが、時には賢く利用してもよいでしょう。しかし、あまり多くの人と知り合ってかえって煩わしくなるのも考えものです。また、「こころの安全地帯」は特定の一つに限定しないことも大事です。いつも離れずにベッタリくっついている関係は、やがて、息苦しいものになったり、予期せぬ嫌な感情が生じる危険性があります。
 なかなか安全な「こころの安全地帯」を持てない場合は、お近くの心療内科や精神科でカウンセリングという形で行われている安全な治療手段を利用されるのも一案かもしれませんね。

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