2022年7月27日水曜日

噛(か)むことについて

 ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 院長


近年、子どもたちの噛む力が弱くなっているといわれています。「よく噛むこと」はなぜ大事なのですか。

 噛まなければ飲み込めないような食べ物が多かった昔と違い、やわらかい食べ物があふれる現代。カレーライスやハンバーグ、麺類など、よく噛まなくてもすぐに咀嚼(そしゃく)でき、飲み込めるようなメニューが食生活の中心になり、子どもたちの噛む回数は減っています。

 診療で長年子どもの歯をみてきた実感として、乳歯の時期から「よく噛んで食べる」習慣が身に付けられていないため、歯や歯を支える歯肉、歯槽骨、歯根膜などの成長が滞ったり、また、顎(あご)の骨や口周りの筋肉が十分に発達せず、歯並びに悪影響を及ぼしてしまうケースが増えています。口腔の健全な発育には、幼少期から噛む力を鍛えることが非常に重要なのです。

 よく噛むことのメリットは驚くほど多いです。顎の骨や口周りの筋肉の正しい成長を促すことのほか、食べ物をよく噛むことで出るだ液は、消化を助けることはもちろん、口の中をきれいにする作用もあり、むし歯や歯周病、口臭の予防にもひと役買います。噛むことで脳の満腹中枢が刺激され、早食いや食べ過ぎを抑えて肥満予防にもつながります。ほかにも、近年さまざまな研究からよく噛むことで脳のいろいろな部分が刺激され、脳を活性化させることが分かってきています。


噛む力を鍛えるには、どうしたらいいですか。

 まず、きちんと噛めるかみ合わせであることが重要です。常に上下の前歯が開いている開咬(かいこう)では前歯で噛み切ることができませんし、極端な上顎(がく)前突(出っ歯)や下顎前突(受け口)でもスムーズに噛めません。

 日常生活の中では、食物繊維が豊富な歯ごたえのある食材を選ぶなど、かみごたえのある食べ物を意識してメニューを考えてください。食材を大きく切ったり、薄味にしたりするなど調理法を工夫することで、噛む回数を増やすことができます。また、食べ物が口の中に入っている時に水やお茶で流し込んでしまうと、噛む回数が極端に減ってしまうので注意が必要です。遊びながらやテレビを観ながらの「ながら食べ」は、噛まずに飲み込む要因にもなるのでお勧めできません。

 楽しく食事できる雰囲気づくりも大切です。家族で、ゆっくり味わいながら食事をし、楽しみながらよく噛む習慣を身に付けさせてあげてください。

2022年7月20日水曜日

スーパーセンチナリアン

 ゲスト/琴似駅前内科クリニック 髙柳 典弘 院長


「スーパーセンチナリアン」とは、どのような人たちを指す言葉ですか?

 100歳以上の長寿者を「百寿者(センチナリアン)」、110歳以上を「スーパーセンチナリアン」と呼び、その人たちの特徴を知ることが、老いにくく元気に生きる健康長寿のモデルやヒントになると注目されています。

 近年、世界的な長寿化を背景に、100歳以上の高齢者の人口は急速に増加しています。老人福祉法が制定された1963年当時、日本の百寿者は153人でしたが、2021年の統計では8万人を超え、51年連続で過去最多を更新しています。ただ、世界的な長寿国である日本においても、20年の国勢調査で日本のスーパーセンチナリアンは141人で、いまだ希少な存在です。19年の世界のスーパーセンチナリアンのランキングデータでは、上位34人がすべて女性で、驚くことにそのうち14人が日本人でした。


スーパーセンチナリアンは、どうして元気で長生きできるのでしょうか?

 スーパーセンチナリアンの最大の特徴は、100歳時点でも日常生活の自立が保たれており、百寿者の中でも特に健康寿命が長いことにあります。一般的に、老化に伴って免疫力が低下してくると、がんや感染症などのリスクが高まりますが、スーパーセンチナリアンは免疫システムの司令塔役「T細胞」の構成が50~80歳と比べて大きく変化しており、がん細胞などを殺す「CD8陽性キラーT細胞」が多く含まれ、また、通常は血液中に数%しか存在しない「CD4陽性キラーT細胞」が高い割合で含まれていることが明らかになっています。なぜ多いのかや、どのような働きをしているか詳細はまだ不明ですが、免疫と老化、長寿の関係が分かれば、健康寿命を延ばすことに貢献できると研究が進められています。

 また、血液バイオマーカーを調べた結果、「NT-proBNP(神経内分泌因子)」の血中濃度が低いほどスーパーセンチナリアンに到達する可能性が高いことも分かっています。NT-proBNPは心不全の診断にも使われるもので、心臓の働きが悪くなると数値が上がってきます。つまり、スーパーセンチナリアンは心臓や血管の老化が遅いのも特徴です。ランニングや水泳などの運動を継続することがNT-proBNPを低く抑え、心機能の維持につながることが分かっています。意識して適度な運動を日常生活に取り入れることで健康長寿を期待できることは確実です。

2022年7月13日水曜日

胸部健診・肺がん検診の精密検査について

 ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 北田 順也 副院長


胸部レントゲン検査で異常を指摘されましたが、どうしたらいいですか。

 健康診断や肺がん検診の胸部レントゲン検査で「要精密検査」の判定を受け、いったい何が起こっているのか、自分はどうなってしまうのかと不安な気持ちになった方もいらっしゃると思います。

 レントゲン検査は立体的な人間の体を1枚の平面画像として写します。正常であれば左右の肺の部分が黒く写り、背骨や鎖骨、肋骨、血管や皮膚が白く写ります。このような黒と白のコントラストから病気の有無を判定していきますが(専門的には読影(どくえい)と言います)、肺の中の白い影が病気によるものか、正常の骨や皮膚による影なのか判断が難しいケースも出てきます。

 健診やがん検診で最も避けなければならないのは、病気があるのに見逃すということです。そのため、レントゲン写真で少しでも異常と思われる所見があれば、基本的には「要精密検査」と判定します。したがって、実際に精密検査を受けて詳しく調べた結果、最終的に「異常なし」と診断されるケースも多くあります。また、実際に病気が見つかることもありますが、健診やがん検診の段階で発見される場合、たとえ肺がんであっても治癒が見込める“早期”の可能性も十分にあります。

 精密検査が必要とされた方の中には、多忙を理由にしたり、恐怖心から受診をしない方もいらっしゃいますが、絶対に放置しないでください。過度な心配は必要ありませんが、ためらわず、できるだけ早く受診してほしいと思います。


精密検査では、どのような検査が行われますか。

 精密検査では病変や異常の有無の確度を高めるため、多くは胸部レントゲン写真の再検査のほか、「胸部CT検査」を行います。

 胸部CT検査は、体を細かく輪切りにして撮影する検査で、肺の断面図を見ることができます。断面図なので、レントゲン写真で見えた肺の中の白い影が、骨や血管などによる影なのか、病気による異常な影なのかを、ほぼ確実に見分けることができます。胸部レントゲン検査に比べ、病気を発見する精度は胸部CT検査の方が高いです。一方、CT検査はレントゲン検査に比べると用いる放射線の量は多くなります。被ばく量を考慮し、CT検査を躊躇する方も少なくないと思いますが、最近は被ばく量を抑えた「低線量CT」で検査を行っているところも増えているので、心配な方は医療機関に直接問い合わせてください。

2022年7月6日水曜日

双極性感情障害

 ゲスト/医療法人五風会 福住メンタルクリニック 宇佐見 誠 院長


双極性感情障害とはどのような病気ですか。

 双極性感情障害とは、かつて「そううつ病」と呼ばれた病態とほぼ同じです。うつ病のように、気分が落ち込んで、気力が湧かず憂うつな「うつ状態」が続くだけでなく、うつ状態とは逆に、気分が高揚し、発言や行動が活発で抑制がきかなくなりがちな「そう状態」にもなります。多くの場合、うつ状態とそう状態が交互に出現し、これらが数週間、数カ月続きます。

 うつ状態のときは、何をするのも億劫(おっくう)で集中力がなく、悲観的になりやすいです。睡眠が十分に取れなかったり、食欲もなく疲れやすくなったりもします。また、そう状態のときは、いわば空元気で、気が大きくなり浪費したり、普段にない高飛車な物言いで周囲の人とのトラブルになったりする場合もあります。ちょっとしたことでイライラして怒りっぽくなる人もいます。

 病気の原因はまだ十分に解明されていませんが、双極性感情障害と診断される人は、近親者の中にも同じ病気になっている人が多く、遺伝が強く関係するとされています。


診断や治療について教えてください。

 双極性感情障害は初めに症状が出現するときはうつ状態を呈することが多く、発症時はうつ病なのか双極性感情障害なのかわからない場合も多々あります。経過中に明らかなそう状態が出現して初めて双極性感情障害という診断になりますが、そう状態の症状が軽いときは、自分では本来の調子の良さと誤解してしまいがちですし、周囲も気付きにくいです。なかなか治らないうつ病と思っていたら、実は双極性感情障害だったというケースも多いです。

 うつ病と双極性感情障害では治療がまったく異なるので、専門医による鑑別診断は非常に重要です。双極性感情障害の治療の柱となるのは薬物療法です。気分の変動を改善・予防する気分安定剤を用いて、うつ状態とそう状態の波をうまくコントロールすることが目標となります。

 継続的な治療が重要な病気ですが、元気に回復した人や、症状や気分をコントロールしながら普通の人と変わらない日常生活を送っている人もたくさんいます。「どこか調子がおかしいな」「今までと様子が違う」など、気になる症状がある人や、周囲が患者さんの不調に気付いた場合は、ためらわず近くの精神科・心療内科を受診してみてください。

人気の投稿

このブログを検索