2011年3月16日水曜日

「RSウイルス」

ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 医師

RSウイルスについて教えてください。
 風邪を引き起こす微生物の80〜90%はウイルスです。さまざまなウイルスがありますが、中でもRSウイルスは、小さな子どもの風邪の原因となり、乳幼児における気管支炎や肺炎を引き起こすことで知られています。RSウイルスは、麻疹(はしか)ウイルス、ムンプス(おたふくかぜ)ウイルスなどと同じ仲間で、非常に感染力の強いウイルスです。おもちゃなどに付着した場合、4〜7時間くらい感染力があるといわれています。日本では主に乳幼児に感染します。通常は10〜12月にかけて流行が始まり、3〜5月まで続きます。接触や飛沫(ひまつ)を介して気道に感染し、2〜5日の潜伏期間の後、38〜39℃の発熱、鼻水、せきなどを発症します(発熱がないこともあります)。一般的には普通の風邪として感じられ、1〜2週間で症状が軽くなります。しかし、2歳以下の乳幼児ではしばしば細気管支炎、喘息(ぜんそく)様気管支炎、肺炎を発症します。特に6カ月以下の乳児では、呼吸困難のために入院となることもあります。麻疹、ムンプスと異なり一度の感染では十分な免疫は得られないため、何度も発症しますが、通常は再感染のたびに免疫がついて症状は軽くなっていきます。

治療、予防について教えてください
 治療は基本的には、呼吸器症状や脱水症状などに対する保存的な対症療法になります。ワクチンや抗RSウイルス薬はありません。肺炎などを起こした場合は酸素投与、痰(たん)の吸引、人工呼吸管理なども行われます。RSウイルスは接触と飛沫によって感染するため、小まめな手洗い、マスクの着用、十分な睡眠などが、風邪の場合と同様に重要です。また、消毒に弱く、石けん、消毒用アルコール、塩素系消毒薬などで感染力を失います。
 RSウイルスと同様に小児の呼吸器感染症の原因の一つになっているウイルスにヒトメタニューモウイルスがあります。RSウイルスと遺伝子が似ており、症状も似ています。RSウイルス感染症は1歳以下に多いですが、ヒトメタニューモウイルス感染症は1〜2歳に多く、RSウイルスより少し遅れて初感染を受けます。冬から春にかけて流行しますが、日本での流行のピークは春です。RSウイルスやインフルエンザウイルスと重なって感染すると重症化する確率が高いと報告されています。

「関節リウマチ治療の現在」

ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 院長

関節リウマチ治療の新しい展開について教えてください。
 近年、関節リウマチをめぐる新しい動きが活発になっています。その大きな理由は、治療法の急速な進歩にあります。生物学的製剤と呼ばれる強力な薬が登場し、臨床の場で数々の成果を上げています。早期に治療することで、関節の破壊など不可逆的な進行が抑えられ、寛解(病気が治まった状態)の維持も可能なことが多くの研究で証明されています。また、早期に治療を開始した患者さんの中には寛解に至った後、治療を中止してもリウマチが再燃しない状態になる方もいます。このような治療の進歩に伴って、早期発見・早期治療の重要性が叫ばれるようになってきました。
 2009年欧米で、関節リウマチの新たな分類/診断基準が発表されました。その最大の特徴は、早期診断を可能にしていることです。従来の基準は、経過の長い典型的なリウマチ患者さんを対象として作成されたもので、早期のリウマチを診断するという点ではあまり適していませんでした。新基準は、早期に抗リウマチ薬による治療開始が必要な患者さんを識別することを意図したもので、早期診断には極めて有効だと考えられます。
 
早期診断のための画像検査について教えてください。
 関節リウマチにおける画像診断の中心はX線とMRIによるものでしたが、近年はこれらの手法で判断できない炎症や血流の状態などをリアルタイムに、そして時系列的に診断可能な「関節超音波(エコー)検査」が必要不可欠な検査となりつつあります。怪しいと思われる関節に、聴診器のように関節エコーのプローブ(超音波を放出する部分)を当てると、炎症を起こしている箇所が、まるでメラメラと燃えているかのように画面に赤く映し出されます。関節エコー検査は、必要な時に必要な関節を気軽に診療室で検査できるという利点のほかに、この燃えているかのような炎症の画像を患者さんに見てもらうことで、本人に事の重大性を理解してもらい、リウマチを鎮めていこうという強い気持ちに導くことができるというメリットもあります。
 繰り返しになりますが、医療の急速な進歩により、関節リウマチは早期に診断して早期に治療を開始すれば、治癒可能な疾患となってきています。関節がおかしい、いつまでも治らないと思ったら、まずは一度専門医にご相談ください。

「尖圭コンジローマ(低リスク型HPV感染について)」

ゲスト/札幌駅前アップルレディースクリニック 工藤 正史 院長

尖圭(せんけい)コンジローマとはどのような病気ですか。
 HPV(ヒトパピローマウイルス)には、100種類以上のタイプがあり、そのうち約15種類が発がん性HPV(高リスク型)と呼ばれています。最近、子宮頸(けい)がんワクチンを接種することによって、HPVの高リスク型である16型と18型の2種類からの感染を予防できることが話題となっていますが、今回は、低リスク型HPVの感染が引き起こす「尖圭コンジローマ」という病気について説明します。
 近年、非常に増加している尖圭コンジローマ。これは特有なイボを形成する疾患で、HPVの低リスク型である6型と11型によって発症します。このHPV(6型と11型)は、主に性行為により、皮膚や粘膜にある小さな傷から侵入して感染します。コンドームの使用だけでは完全な予防はできません。潜伏期間は約3週間〜8カ月といわれています。
 尖圭コンジローマの症状は、性器や肛門の周囲にイボができます。女性の場合は、膣や子宮頸部など性器の内側にもイボが発生することがあります。イボの色は白、ピンク、褐色、黒色などで、イボの大きさも直径1〜3ミリ前後から数センチ大までさまざまです。イボは乳頭状のほか、ニワトリのとさかやカリフラワーのような状態になることもあります。
 
尖圭コンジローマの治療について教えてください。
 尖圭コンジローマは自覚症状がほとんどないため、気付かずに放置していると、大切なパートナーに感染させてしまう恐れがあります。さらに妊娠時に発症すると、出産時に産道で赤ちゃんにウイルスが感染してしまう可能性があるため、帝王切開による出産を選択することが多くなります。「もしかして?」と思ったら、くよくよ思い悩むよりまず、一日も早く専門医に相談してください。
 尖圭コンジローマの治療は、「薬を塗る治療法」と「外科的な治療法」の二つに大きく分かれます。ただし、外科的に切除しても再発するリスクが高いため、薬によってウイルス量を減らした後に切除するケースもあります。診断も治療も困難を伴うことが多く、再発率も高い厄介な病気ですが、根気よく病院に通い、治療を続けることが大切です。また、病院により、保険が適用されない場合もありますので、事前に確認するとよいでしょう。

「緊張型頭痛」

ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 医師

頭痛の原因について教えてください。
 頭痛に悩み、「なぜ頭が痛くなるのか」「何か悪い病気ではないのか」と心配され、病院を訪れる方が増えています。不安は痛みを増強させますので、頭痛に対する正しい理解を得ることが重要です。
 頭痛の中には「症候性頭痛」といって、脳や体の異常を知らせるサインとしての痛みがあります。症候性頭痛には、くも膜下出血や脳腫瘍など命に関わる病気が潜んでいる場合もあるので、専門医による詳細な検査が必要です。
 “頭痛持ち”と呼ばれる方の多くは、脳に病気がないのに繰り返し症状が起こります。これが日本人の約4人に1人(約3000万人)が悩まされている「慢性頭痛」で、コンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)などの画像検査でも異常は出ません。痛みの程度は人それぞれですが、寝込んでしまうなど日常生活に支障を来たすような痛みを感じるケースもあります。日本では、慢性頭痛が病気であるという認識がそもそも薄いため、周囲の理解が得られず、患者さんの苦しみが大きくなります。慢性頭痛はいくつかに分類されますが、慢性頭痛の7〜8割を占め、男女差なく最も多く認められるのが「緊張型頭痛」です。

緊張型頭痛とはどのような頭痛ですか。
 緊張型頭痛の痛みの特徴は、首や肩の凝りを伴うことが多く、よく“鉢巻きで締められているような”痛みと表現されます。後頭部に圧迫感や頭重感が生じ、鈍い痛みが続きます。原因は、長時間同じ姿勢でいることや運動不足に加えて、精神的なストレスが引き起こす背中から肩、首にかけての筋肉の緊張によるものです。例えば、1日中コンピューターに向かう職業の人に多くみられ、まさに現代病の一つといえます。
 治療は、痛みの程度に応じて、各種鎮静剤や筋肉を和らげる薬を使います。緊張型頭痛に伴う頑固な筋肉のこわばりは、過度のストレスが関わっていることが多く、リラックスを心掛けることが治療の重要なポイントになります。薬の治療に加えて、ストレッチ体操やヨガ、ゆっくりと入浴して筋肉を温めるなどの方法も有効です。
 緊張性頭痛は、患者さんのライフスタイルとの関わりが大きいため、長時間同じ姿勢でいることを避け、仕事の合間に適度にストレスを発散させる工夫をするなど、心と体のリフレッシュが治療効果を高めます。

「歯の矯正器具」

ゲスト/つちだ矯正歯科クリニック 土田 康人 院長

歯の矯正器具にはどんな種類がありますか。
 歯の矯正器具は種類が豊富で、それぞれ使い方や効果も違います。通常、歯科矯正と聞いてイメージされるのは、銀色をしたメタルの装置ではないでしょうか。これはマルチブラケットという器具で、歯の表面に装置を取り付け、ワイヤーでつなぐことで、歯を意図する位置まで少しずつ動かしていくためのものです。最近ではこの器具のメタルの部分を、透明なプラスチックやセラミックに置き換え、見た目が目立ち過ぎないような配慮がなされたものが登場しています。より目立たせないという意味で歯の裏側に取り付ける方法もあります。そのほか、取り外しのできるマウスピース型の装置や、歯茎にチタン製のネジ状のものを入れて固定源にするミニインプラントといった、従来に比べて目立たず、また治療期間を短縮できるような器具や治療法が登場しています。
 矯正器具にはそれぞれメリットとデメリットがあります。例えば、歯の裏側に装着する方法では、表側に装着する場合と比べて目立たないというメリットがありますが、一方で費用が高く、治療期間が長くなるというデメリットもあります。患者さんの症状や治療の内容に加えて、患者さんのライフスタイルや要望、予算を十分に考慮した上で選択する必要があります。

近年、成人の歯科矯正に対する意識はどのように変化していますか。
 以前は、社会生活の中で矯正器具を装着することに抵抗を感じる人が多かったのですが、近年は、患者さんの多様な要望に応えられるような、矯正器具や治療法の選択の幅が広がったため、成人で歯科矯正を行う人が増えています。また、治療器具をできるだけ目立たせなくするという考えではなく、あえてパステルカラーやビビッドカラーの矯正器具を装着し、歯科矯正自体をファッションの一部として楽しむ人も増えてきているようです。矯正器具の装着が決して〝恥ずかしいもの〟ではなく、むしろ、健康な歯への意識の高さを表すものだと、堂々と歯の表側に矯正器具を装着する人が増えるのはとても素晴らしいことだと思います。
 歯や歯茎さえしっかりしていれば、歯科矯正は何歳からでも始めることができます。心身ともに健全な生活を送るためにも、自身の口元に悩みやコンプレックスがあったら、ぜひ一度専門医にご相談ください。

「痔の基礎知識」

ゲスト/札幌いしやまクリニック 樽見 研 院長

痔(じ)とはどのような病気ですか。
 痔とは肛門と肛門周辺の病気の総称です。痔は大きく分けて3種類があります。最も多いのが「痔核(いぼ痔)」です。肛門周辺の粘膜の下には、血管が集まって肛門を閉じる働きをするクッションのような部分があります。肛門への負担が重なると、クッション部分がいぼ状に腫れ、出血を起こしたり、肛門の外に出てきたりします。これが痔核です。痔核にはできる場所により、直腸側にできる内痔核と、肛門側にできる外痔核があります。固くなった便の排せつによって、肛門の出口付近が切れて起こるのが「裂肛(切れ痔)」です。裂肛が慢性化してしまうと傷口が潰瘍状になり、強い痛みが排便後も続く場合があります。直腸と肛門の境目のくぼみに細菌が入り込み、膿(うみ)のトンネルのようなものをつくるのが「痔ろう(あな痔)」です。進行すると肛門の周りが腫れて激痛が続き、高熱を伴う場合があります。
 痔は決して特別な病気ではなく、年齢、性別に関係なく誰にでも起こり得ます。また、最近、増加している大腸がんや肛門がんは、痔と似ている症状があらわれるため、痔だと思い込んでしまったばかりに、がんの早期発見が遅れることがあります。痔の症状が現れた場合は、自己判断をしないで、できるだけ早めに医師に相談することが重要です。

痔の診断、治療について教えてください。
 診断は、問診で痛みの状況や出血などを確認した後、視診や触診、指診で痔の状態を診ていきます。加えて、肛門鏡を使った検査を行い、それらの結果を基に総合的な診断をします。痔の治療方法は症状に応じてさまざまです。比較的症状が軽い場合は、ライフスタイルの改善や、外用薬・内服薬の投与などによる治療が可能ですが、症状が重い場合は外科的治療を必要とすることがあります。
 痔は生活習慣と大きな関係があります。痔の発症や再発を防ぐには、お尻の負担となる便秘や下痢に気を付けることが大切です。また、仕事で一日中立ちっぱなしだったり、椅子に座りっぱなしだったりなど、長時間同じ姿勢でいることもよくありません。そのほか、バランスの良い食生活を心掛ける、正しい排便習慣を身に付ける、辛いものやお酒はほどほどにするなど、お尻の健康を保ち、痔を予防するための生活を心掛けましょう。

「脳梗塞(こうそく)」について

ゲスト/コスモ脳神経外科 小林 康雄 院長

脳梗塞について教えてください。
 脳梗塞は虚血性の脳卒中で、脳の血管が血栓などによって詰まったり、動脈硬化によって血管が狭くなるなどして起こる疾患です。その背景となるのは基本的には、メタボリック症候群です。内臓脂肪が過剰になると、糖尿病や高血圧症、高脂血症といった生活習慣病を併発しやすく、動脈硬化が急速に進行します。
 脳梗塞の症状としては、半身不随、半身麻痺、しびれ、感覚の低下、手足の運動障害、意識障害、言語障害、昏睡などが挙げられます。突然起こる場合が多いのですが、場合によっては予兆となる症状があります。半身のしびれ、口のもつれなどで、このような症状が表れた場合は、迅速にかかりつけ医の指示をあおぐか、脳神経外科へ直行することをお薦めします。発症後3時間以内であれば、血栓や塞栓(そくせん)を溶かす薬を使って治療します。効果があれば、比較的後遺症が軽くすみます。投薬治療ができない場合は手術となりますが、この場合も治療までに要する時間が短いほど、後遺症を軽くすることができます。いかに迅速に治療を始めるかが、予後に大いに関係してきます。
 
脳梗塞を予防するにはどうすればいいですか。
 30代、40代で動脈硬化が始まりますから、会社などの健康診断でメタボリックシンドロームの兆候があれば、普段の生活習慣を見直しましょう。食事は塩分を控え日本食中心にし、適度な運動、禁煙、節酒を心掛ける。ストレスや寝不足などで疲労が蓄積しないように規則正しい生活を目指しましょう。
 また、健康診断で不安要素があったり、動脈硬化症の近親者がいる場合は、一度「脳ドック」を受けることをお薦めします。レントゲン検査で頭と首の健康状態を調べ、MRI(磁気共鳴画像装置)で脳の断層写真を撮り、MRA(磁気共鳴血管造影)で血管の狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)部分・脳動脈瘤(りゅう)の発見、動脈硬化の程度などを調べます。健康保険の適用外になりますが、1~2時間程度で受けられます。脳梗塞は一度発症すると命にかかわり、後遺症の影響も大きい疾患です。自分の健康・生活を守るためにも、予防を心掛けましょう。

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