2017年3月22日水曜日

便秘


ゲスト/札幌いしやま病院 石山 元太郎 理事長

便秘について教えてください。
 食生活の欧米化と、高齢化で悩む人が多いのが便秘です。日本人の約15〜20%が罹患(りかん)していると考えられ、近年、増加傾向にあります。性別では女性に多いですが、年齢とともに男性の割合が増え、80歳以上では男性の方が多くなります。
 便秘の定義はあいまいですが、基本的には3日以上排便のない状態で、排便回数の減少、排便困難感、残便感などの不快な症状が出現し、日常生活に支障をきたしている状態を指すのが一般的です。
 便秘は、大きく二つに分けられます。原因がはっきりしている「続発性便秘」と、原因の分からない「原発性便秘」です。続発性便秘には、抗うつ薬や抗不安薬など、腸管のぜん動運動を妨げるような薬剤を長期間服用することによる「薬剤性便秘」や、糖尿病や神経疾患などの内科的疾患による「症候性便秘」があります。特に注意が必要なのは、「器質性便秘」と呼ばれているもので、その代表例は大腸がんです。
 大腸がんは、血便や便が細くなるといった症状が出ることで知られていますが、当院で大腸がんが見つかったケースでは、約15%の方に「急に便秘になった」という訴えがありました。最近、便の出方が変わったという時は、単なる便秘と自己判断せずに、一度、大腸内視鏡検査を受けることをお勧めします。

便秘薬などについて教えてください。
 市販薬に多い刺激性下剤は、大腸を刺激して排便を促しますが、習慣性があるため、以前効果のあった量を飲んでも効きづらくなることがあります。また、市販薬を漫然と使い続けると、大腸の粘膜が黒く変色し、大腸の筋力が低下した「大腸黒皮症」という状態になることもあります。これが大腸がんの発生に関与しているという報告もあるので、服薬の管理が必要です。
 近年、注目されているのが「便排出障害型便秘」です。これは、肛門の近くまで便がきているのにそこから排出できないというタイプの便秘です。加齢による排便反射の低下や、女性では直腸ポケットと呼ばれる直腸と膣の間の壁が弱くなってできる“便だまり”が邪魔をして便秘となっている場合が多いです。その他にも便秘にはさまざまなタイプがあるので、まず専門医に相談し、正確な診断を受けることです。適切な方法で、便秘の解消に努めてください。

2017年3月15日水曜日

甲状腺の病気


ゲスト/やまうち内科クリニック 山内 雅夫 院長

甲状腺の病気について教えてください。
 甲状腺は、首の前面、喉仏の下にあるチョウのような形の臓器です。甲状腺の最も重要な働きは、海藻などの食べ物に含まれるヨードを原料に、甲状腺ホルモンをつくることです。甲状腺ホルモンは、人間の身体の基礎代謝の維持に必要なだけでなく、体の発育にも関係する大切なホルモンの一つで、子どもの成長促進にも欠かせません。
 甲状腺の病気は、大きく三つのタイプに分けられます。一つは甲状腺の機能が異常に高くなり、ホルモンの分泌が過剰になる甲状腺機能亢進(こうしん)症で、よく知られたバセドー病が大半です。これとは逆に、炎症が起きて機能が低下する病気もあり、代表的なものが橋本病(慢性甲状腺炎)です。三つめは甲状腺の腫瘍で、良性と悪性(がん)のものがあります。
 甲状腺の病気の多くは自己免疫疾患で、本来はウイルスなどの異物を撃退するための免疫系に何らかの異常が生じ、自分の体の組織の一部を抗原として認識してしまうために起きます。基本的には誰にでも起こりえる病気ですが、女性に多く、また、遺伝的な要因が大きく関係するとされています。

甲状腺の病気の検査、治療について教えてください。
 甲状腺ホルモンの分泌が多ければバセドー病の疑いが強まり、逆に少なければ、橋本病による甲状腺機能低下の可能性が高まります。甲状腺ホルモンやある種の抗体などを調べる血液検査、超音波検査やエックス線検査などを組み合わせて、正確な診断が可能になります。一方、腫瘍の診断は、触診、超音波検査、細胞診が三本柱です。
 バセドー病の治療は、抗甲状腺薬の服用が中心となりますが、手術や放射性ヨードの投与による方法もあります。橋本病には、甲状腺ホルモンの補充療法を行います。甲状腺腫瘍は、悪性の場合は進行度に応じた手術を選択します。良性の場合、基本的には経過観察を行いますが、腫瘍が大きい、圧迫などの症状がある、がんが否定しきれないなどのケースでは手術を行うこともあります。
 自覚症状がないことも多く、また症状が出てもほかの病気と間違われやすい甲状腺の病気ですが、早期に診断を確定して適切な治療を受ければ、健康な人と変わらない生活が送れます。家族に甲状腺の病気の方がいる場合は、症状がなくても定期検診をお勧めします。

2017年3月8日水曜日

非結核性抗酸菌症


ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長

非結核性抗酸菌症とはどのような病気ですか。
 非結核性抗酸菌症とは、近年日本で中高年を中心に患者数が増えている肺の病気です。非結核性抗酸菌症は1975年には年間10万人に1人だったのが2007年には年間10万人に約6人にまで達しています。
 非結核性抗酸菌症は感染の初期は自覚症状のない場合がほとんどです。症状の進行も5年から10年と遅く、病気が進行してから、せきや痰(たん)・血痰、微熱、倦怠(けんたい)感などが現れます。
 原因となる菌=非結核性抗酸菌は、代表的なものが「アビウムコンプレックス菌」と「カンサシ菌」で、合わせて全体の90%を占めます。土中やほこり、水回りなど身近な環境に生息し、菌を含んだ粉じんや水しぶきを吸い込むなどで体内に侵入しますが、誰もが発病するわけではありません。発症には遺伝的な要因が関与していると考えられていますが、詳しくはまだわかっていません。アビウムコンプレックス菌による発症は中高年女性に多く、カンサシ菌による発症は若い男性に多い傾向があります。
 非結核性抗酸菌は、毒性が比較的弱いことから、結核やかぜ、インフルエンザなどと異なり、人から人へは感染しません。

検査・診断、治療について教えてください。
 まず、胸のレントゲン検査を行い、肺に影があればCT検査により詳しく診断します。最近では健康診断で胸部写真で異常な陰影を指摘され、病院で精密検査をして初めて非結核性抗酸菌症を疑われる患者さんが多く見られます。診断には痰を採取して調べることで、非結核性抗酸菌症の診断と、非結核性抗酸菌の種類を特定します。
 治療の基本は薬物療法となります。「クラリスロマイシン」という抗菌薬と、結核の治療でも使われる「リファンピシン」「エタンブトール」という2種類の薬の併用が中心となります。ただ、薬の効きが弱いのに加え、菌が検出されなくなっても、1年は薬を飲み続けなくてはならず、治療は長期に及ぶケースが多いようです。体力がある若い人などで、菌に侵されている部分(病巣)が一部にまとまっている場合には、病巣を取り除く外科的手術を行うこともあります。一方で、病気が進行せずに数年経過することもまれではありません。自覚症状があればすぐに治療を始めますが、なければ定期的に経過を観察する場合もあります。
 非結核性抗酸菌症では、日常生活を改善することによって、身体の抵抗力や自然治癒力を高めることが重要になります。治療中は、規則正しい生活、栄養バランスのとれた食事、ストレスや疲労をためないことを心掛けましょう。

2017年3月1日水曜日

うつ病


ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院  太田 健介 院長

うつ病について詳しく教えてください。
 うつ病とは、ある程度強い「うつ状態」が長く続き、日常生活に支障をきたす病気です。うつ病がなぜ起こるのかという、原因や発症メカニズムについては、まだ解明されていません。そのため、患者さんの症状をうかがい診断します。
 うつ病の診断基準として現在よく用いられているものに、米国精神医学会が作成した「精神障害の診断と統計のマニュアル第5版(DSM-5)」があります。うつ病はDSM-5の診断では「大うつ病性障害」と呼ばれ、その診断基準を短くまとめると、まず「抑うつ気分(悲しみや空虚感、絶望など)」「興味または喜びの喪失」のうち、少なくとも一つを認めること。そして、「食欲や体重変化」「睡眠障害」「精神運動焦燥(イライラや焦りなど)または制止(意欲や自発性を失うなど)」「疲労感や気力の減退」「無価値観や罪責感」「思考力や集中力の減退」「自殺念慮(死にたいという強い気持ち)や自殺企図(自殺未遂行動)」など全9項目の症状のうち、5つ以上が2週間以上、ほとんど1日中、毎日みられることです。
 うつ病は、さらに「メランコリー型」「非定型」「季節性」「精神病性」など幾つかのタイプに分けられ、症状や経過が異なります。

うつ病の診察について教えてください。
 うつ状態は、うつ病以外にも多くの病気で現れます。うつ状態を示す他の精神障害として「気分変調症」「躁うつ病」「統合失調症」「適応障害」などがあります。問診で症状を詳しく聞き、場合によっては別の病気が隠れていないか調べる検査をします。
 また、うつ状態は、心疾患や脳血管疾患、甲状腺機能低下症のような身体的な病気が原因で現れることもあります。アルコール、ステロイドやインターフェロン製剤など、薬物の副作用によるうつ状態も考えられます。一見、認知症かと思われる言動がうつ病の症状であったり、うつ状態が認知症の前駆症状であることもあります。患者さんの症状の原因をはっきりさせるために、身体的な検査が行われることもあります。
 うつ病かどうか、うつ病であればどのようなタイプなのか。正しい診断と治療を受けるには、精神科や心療内科で専門的な診察を受けることが大切です。

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