2013年11月25日月曜日

慢性膵炎


ゲスト/佐野内科医院 佐野 公昭 院長

膵臓とはどのような器官なのですか。
 膵臓はみぞおちの奥、胃のちょうど裏側にあるおよそ100グラムの臓器です。体の中の最も奥深くに位置し、肝臓や胃、十二指腸など多くの臓器に囲まれているため、検査でも病気を見つけにくく、また症状も出にくいために“沈黙の臓器”とも呼ばれています。
 膵臓の主な働きは2つあります。炭水化物を分解するアミラーゼなどの消化酵素が含まれる膵液をつくり、膵管を通して十二指腸に分泌する機能(外分泌機能)と、インスリンなどのホルモンをつくって血液中に分泌する機能(内分泌機能)です。外分泌機能は、食物の消化や栄養の吸収を助ける役割を担い、内分泌機能は、血糖値をコントロールする役割を果たしています。

慢性膵炎について教えてください。
 膵液は強力な消化作用を持っていますが、通常は膵臓自体には影響を及ぼしません。ところが何らかの理由で膵液の分泌に異常が生じると、膵臓そのものを消化してしまい(自己消化)、炎症を引き起こします。これが膵炎です。
 膵炎にはいくつかの種類がありますが、慢性膵炎は、炎症が繰り返し起こり、正常な細胞が線維組織に変化したり、石灰化したりすることで、膵臓の機能が低下していく病気です。男性に多く、長期間にわたるアルコールの過剰摂取を原因とするものが、約半数を占めます。ストレスが関係することも分かっています。
 主な症状は腹痛です。上腹部や背中に放散する痛みが多いです。嘔気(おうけ)や嘔吐(おうと)、腹部膨満感、重圧感、全身倦怠(けんたい)感などがみられることもあります。病気が進行すると消化酵素の分泌が低下するため、消化不良に伴う下痢や脂肪便、体重減少などの症状が出現します。インスリンなどホルモンの分泌も低下して糖尿病が出現することもあります。
 治療は、腹痛の軽減、膵臓の機能を保つようにして膵炎の進行悪化を遅らせ、糖尿病の出現を阻止することを目指します。禁酒、禁煙を守り、脂肪を控えた食事にすることなどの生活習慣が大切です。腹痛を和らげたり、消化吸収を助けるために薬物治療を行います。膵液の流れを良くするために、内視鏡を用いた治療や手術を行う場合もあります。
 慢性膵炎は完全に治すことは難しい病気ですが、早期に適切な治療を受ければ病気の進行を遅らせることができます。気になる症状があれば、一度専門医に相談されることをお勧めします。

2013年11月20日水曜日

ヨーロッパリウマチ学会と関節エコーの重要性


ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 院長

関節リウマチをめぐる最近の話題について教えてください
 今年6月スペインのマドリードで、ヨーロッパリウマチ学会が開催されました。この学会では何年かおきにリウマチの治療法についてリコメンデーション(勧告)が発表され、われわれリウマチ医に対して治療指針を示してくれます。今年はその年に当たり、診断から治療までの流れや治療薬の分類など、リウマチ患者さんをどのように診ていくべきかについての新たな提言が相次ぎました。
 その中で、関節リウマチ診療における画像診断の重要性、特に関節エコーの有用性についての勧告が出され、信びょう性の高いデータと共に発表されました。それはイギリスの研究によるもので、関節エコーを使った診療と使わなかった診療では、確定診断がつくまでの期間に約1カ月、また、治療開始までの期間にも約1カ月の差が生じたとされています。関節リウマチ診療では、より早期の診断・治療によって関節の破壊と機能低下のない寛解状態へと導くことが求められます。関節エコーによる画像診断は、理学的所見などによる従来の診断や評価に比べ、早期に、正確に関節の炎症を検出し、治療開始の必要性を判断できるということが証明されたのです。
 別の勧告では、治療法の選択についてリウマチ医は患者さんと一緒になり考えていくように指導しています。患者さんにも一定の知識が必要であり、患者さん自身が積極的に治療に参加していくことが必要な時代になってきました。

早期診断・治療のための画像検査について教えてください。
 関節リウマチにおける画像診断の中心はX線とMRIによるものでしたが、これらの手法で判断できない炎症や血流の状態をリアルタイムに、そして時系列的に診断可能な検査が関節エコーです。怪しいと思われる関節に、聴診器のように関節エコーを当てると、炎症を起こしている箇所が、まるでメラメラと燃えているかのように画面に赤く映し出されます。診断だけでなく、薬の効果が出ているかなど治療経過を見るのにも生かせます。
 必要な時に必要な関節を気軽に検査できるという利点のほかに、患者さん自身にも炎症の状態が一目で分かるので、病状の理解に役立ち、リウマチを鎮めていこうという強い気持ちである“治療心”を高めることができるというメリットもあります。

2013年11月13日水曜日

心房細動


ゲスト/大野病院附属 はまや循環器クリニック 浜谷 秀宏 院長

心房細動とはどのような病気ですか。 
 心臓は心房と心室と呼ばれる部分から成り立ちます。正常な心拍は、まず心房が収縮し、それに引き続いて心室が収縮するということを繰り返しています。心房細動は心房が規則正しい収縮をせず、不規則に細かく震えるような状態になり、それに続く心室の収縮も早くなったり、遅くなったり不規則になる病気です。
 もともと心臓の働きが低下している人以外、心房細動自体では急に心臓が停止するなど生死に関わるということはめったにありません。ただし、やっかいなのは、心房の中に血の塊ができて、まれにそれが血流に乗って血管を流れ、体のどこかの血管に詰まってしまうケース(血栓塞栓症)があることです。もし脳の血管に詰まれば脳梗塞になってしまいます。心房細動の発症率は年齢とともに増加し、現在、日本での患者数は80万人以上いると推定されています。

心房細動の治療について教えてください。
 抗不整脈薬(不整脈を抑える薬)が有効なケースもありますが、多くの場合は再発する可能性が高いため、現在のところ心房細動自体を抑える治療よりも、血栓塞栓症を予防する治療を優先するのが、より重要で現実的と考えられています。
 血栓塞栓症の予防を目的として処方されるのが、抗凝固剤という血液が固まる(凝固)のを抑える薬です。昔から広く使われ、その有効性が実証されています。常に心房細動のある人、また時々心房細動になるという人にも有効です。
 抗凝固剤は効果の高い薬ですが、服用の際は注意すべき点がいくつかあります。定期的に血液検査を行って効き目を測り、服用量を適宜調整しなければなりません。また、服用中は納豆や青汁などビタミンKを含む食品の摂取を避ける必要があります。抗凝固剤と併用してはいけない薬も多く存在します。最近は、食品やほかの薬の影響を受けない新しい抗凝固薬も登場し、比較的年齢の若い、腎臓の働きが悪くない人を中心に使われるようになってきました。また、カテーテルという細い管を脚の付け根などの血管から挿入し、心房内の特定の部位を焼くことによって心房細動の発生を抑えるカテーテルアブレーションという治療方法もあり、近年は治療成績も向上しています。

2013年11月6日水曜日

うつ病からの職場復帰


ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 響 徹  診療部長

うつ病が増え続ける現在、休職中の人の職場復帰が大きな課題となっていますね。
 厚生労働省の調査によると、うつ病の患者数は2008年に約100万人を超え、いまだ減少の兆しが見えません。うつ病が原因の休職者も多くの職場で増加し、社会全体・組織全体としてのメンタルヘルス対策が必要となってきました。
 うつ病の治療のため休職をした人にとって気にかかるのが職場復帰です。多くの患者さんは早期の復職を希望しますが、いったん復職しても、遅れを取り戻さなくてはという焦りや、周囲に対する申し訳なさから無理をしてしまい、再発や休職を繰り返してしまうケースも目立ちます。
 うつ病は再発しやすい病気で、治るプロセスも一進一退で波があります。復帰した職場が、うつ病になる前と同じような状況で、同じようなストレスがある場合、再発の可能性が高くなります。一時的に症状が改善しても、主治医の指示に従って焦らずに適切な治療を続けること。その上で、本人と主治医、職場の上司や人事担当者を交えた面談(診察)の中でじっくり話し合い、復職の時期や復職後の働き方、職場環境の調整などについて考えていくことが大切です。

職場復帰へのポイントを教えてください。
 うつ病になりやすい人は、責任感が強く、無理をして頑張りがちです。前の自分に戻ろうとするのではなく、「無理をしない」「頑張りすぎない」という心の管理の仕方を覚えるのが大事です。
 職場の上司、同僚の協力と理解も不可欠です。休職者が無事に復職してきたときは、病気に配慮しつつも、特別視することなく、これまでと変わらない態度で温かく迎えてあげてください。また、一定期間は短時間勤務やフレックス勤務といった“慣らし出社”の時期を設けて、段階的にフルタイム勤務に近づけていくのがいいでしょう。うつ病と診断された部下、同僚とどのように接するか、職場としてどのように迎え入れるか、それは今や誰もが考えておくべき問題といえます。
 うつ病の治療、うつ病からの回復において、家族やパートナーなど身近な人たちのサポートは、患者さんにとって何よりも大きな支えになります。つらい気持ちを共感してあげること、そしてよく話を聞いてあげること。「決して一人じゃないんだよ」という気持ちが伝われば、必ず光明が見えてくるはずです。

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