2017年8月30日水曜日
手足のしびれ
ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長
手足のしびれについて教えてください。
手足のしびれが気になり、脳神経外科を受診する患者さんが増えています。「脳梗塞などの脳血管疾患の症状ではないか?」「どこかの血流が悪くなっているのではないか?」と心配される方が多いようです。
しびれが長く続く場合や、症状がだんだん悪くなるようであれば、すぐに専門医を受診した方がいいでしょう。また、急にしびれが起こって持続する場合も、脳や脊髄の病気が考えられるので、早めに受診してください。
脳の病気によるしびれには、脳梗塞などの脳血管疾患があります。急にしびれが起こって、その後しびれが持続するのが特徴です。片側の手と口周囲のしびれが同時に起こる場合もあります。これは手口感覚症候群といい、脳の中の視床という部位の病気で起こります。脳梗塞の好発部位でもあるので、手口感覚症候群がみられたら、手足のまひやろれつが回らないなどの症状がなくても、すぐに専門医を受診しましょう。
手足のしびれは、ほかにどんな原因が考えられますか。
頸椎症や椎間板ヘルニアなどによる頸髄性のしびれが考えられます。この場合には、しびれの部位が脊髄神経の分布に重なることが多いため、診察により障害部位を推定することができます。しびれだけにとどまらず、筋力の低下などがみられるようになると、手術による治療が必要なケースもあります。頸椎病変に対しては、従来のレントゲン撮影に加えてコンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)などによる画像検査で、椎間板の変形や神経の圧迫などが、より正確に診断できるようになってきました。
下肢のしびれには、腰椎疾患や下肢の閉塞性動脈硬化症があります。閉塞性動脈硬化症では、歩行時にしびれや痛みが起こり、しばらく休むと軽快します。これを間欠性跛行(はこう)といいます。血管の動脈硬化による病気なので、症状が悪化すると血管外科での治療が必要になります。腰部脊柱管狭窄症も間欠性跛行を症状とする病気ですが、立っている姿勢が辛く、前かがみになったりしゃがんだりすると症状が楽になるという特徴があります。
頸椎や腰椎などが原因で起こる慢性的なしびれや疼痛に対しては、安静、薬物療法、マッサージなどの保存的治療を行うのが一般的ですが、手術が必要なケースもあります。治療に関しては、かかりつけの先生と相談されることをお勧めします。
2017年8月23日水曜日
夏バテ
ゲスト/つちだ消化器循環器内科 土田 敏之 院長
夏バテについて教えてください。
記録破りの暑さが続く今年の夏。こうなると深刻なのが夏バテです。仕事や家事が辛くなり、体がだるく、頭はボーッ。疲れも取れず、無気力になったり、逆にイライラしたり。めまいや立ちくらみを伴うこともあります。また、夏バテで食欲不振や脱水症状が続くと、下痢やむくみ、微熱、吐き気などの体調不良を引き起こします。さらに体力、免疫力が落ちることでカゼをひきやすくなったり、脱水による熱中症につながったりする危険もあります。
最近はエアコンが整備され、外気と室内との温度差が激しいことも熱中症の一因となっています。気温差に体がついていけず、自律神経のバランスが崩れ、体の不調が出てくるのです。
暑さがピークを迎える時期に夏バテしなかった人も油断はできません。夏休みで親戚が遊びにきたり、孫の世話をしたり、お墓参りなどで外出が多くなったり、夏の疲れがどっと噴き出すのは、お盆過ぎというケースも多いです。
夏バテを防ぐためのポイントを教えてください。
夏バテを予防・改善するポイントは、栄養バランスの良い食事をとること、不足しがちな水分をしっかり補給すること、適度な運動で発汗能力を上げること、ぐっすり眠って体を休めること、外気温との差が大きくならないように室内温度を調整することです。
水を早めに、こまめに飲むことが第一です。喉が渇いたと思った時にはすでに脱水が始まっているので、少ない量でもこまめに水分をとるようにしてください。喉の渇きを感じるまでに時間がかかる高齢者や、体温の調整機能が未熟な子どもは特に注意が必要です。大量の汗をかいて塩分も多く失う時は、真水ではなく、ひとつまみの塩を入れた食塩水やレモンの絞り汁で味付けした水、アイスキューブを入れた氷水の方が水分補給に適しています。スポーツドリンクを活用するのもいいでしょう。
ただ、夏バテと思っていたら別の病気ということもあります。例えば、全身の倦怠感を症状とする病気には、甲状腺疾患、肝臓疾患、低タンパク血症、がんなどが挙げられます。夏バテと思って見過ごさないよう注意が必要です。夏バテと思っていたものが改善しない場合には、これらを疑ってみます。
2017年8月9日水曜日
関節鏡下の膝の靭帯再建術と半月板手術
ゲスト/医療法人知仁会 八木整形外科病院 安田 和則 名誉院長
日常特によくみられるスポーツ外傷について教えてください。
さまざまなスポーツ外傷がありますが、その中でも最も頻度が高く、競技者にとって重大な外傷は、前十字靭帯をはじめとする膝関節の靭帯損傷と半月板損傷です。
膝の中央にある前十字靭帯は、ジャンプをして着地する際などに痛めやすく、バレーやバスケット、スキーなど膝に負担の大きいスポーツ競技者に多いケガです。症状は膝がガクッとなったり、外れた感じがします。これらは一般的に「膝崩れ現象」と呼ばれます。靭帯は一度伸びると元には戻らないので、競技を続けると膝崩れ現象が頻繁に起き、今度は関節のクッション役を担う半月板にダメージを与えます。これが重なり半月板損傷に発展すると、膝をひねると痛い、引っかかる、まっすぐ伸びないなどの症状が生じます。前十字靭帯損傷と半月板損傷を併発しているケースも多く、放置すると関節軟骨の破壊や変形性関節症を引き起こす原因となります。
前十字靭帯損傷、半月板損傷の治療について教えてください。
前十字靭帯損傷は、ギプス固定や手術的な縫合では治癒しないので、競技者として復帰を望む場合は靭帯再建術が必要です。当院では、「解剖学的二束前十字靭帯再建術」という関節鏡手術を行います。前十字靭帯は2つの繊維束から構成されています。この手術は、2本の移植腱(けん)を用いて前十字靭帯を本来の形状通りに再建する方法です。1本の移植腱を使う従来の術式に比べ、身体への負担が少なく、膝の安定性を高められることが科学的な研究により証明されており、ほとんどのケースで靭帯機能が正常に再建できます。
半月板は損傷した部位が血行の良い場所にある場合は、関節鏡手術で縫合して治すことができます。また、縫合では治癒が見込めない部位の損傷でも、傷ついた箇所のみを切除し、健常な部分は温存する低侵襲な関節鏡手術を行っています。
靭帯再建術の術後は、関節の負担を軽減するために用いる器具(ブレース)を装着し、すぐに段階的な歩行訓練(部分荷重歩行)が可能です。1週間後から膝可動域の訓練を行い、2〜4週間で退院できるのが一般的です。また、半月板縫合術の術後はブレースを装着し、1週間後から部分荷重歩行を、2週間後から膝可動域の訓練を始めます。半月板切除術は、術後すぐに部分荷重歩行が可能で、入院期間は約1週間です。
2017年8月2日水曜日
ADHD(注意欠如・多動症)
ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 鈴木 悠史 医師
ADHDとはどのような病気ですか。
ADHDは、日本語で「注意欠如・多動症」と呼ばれる発達障害の一つです。自分をコントロールする力が弱く、それが行動面の問題となって現れてきます。ADHDでは「不注意」「多動性」「衝動性」という3つの症状が特徴的です。
集中力が続かない、気が散りやすい、忘れっぽい、時間管理が苦手、片付けが苦手などの「不注意」。じっとしていることが苦手、落ち着きがない、貧乏ゆすりなど目的のない動きがみられる「多動性」。衝動買いなど、思いついたことを即座に行動に移してしまう「衝動性」が主な症状です。
現在、広く用いられている診断基準(DSM-5/アメリカ精神医学会)では、12歳になる前から上記のような症状がみられるものとされています。有病率は、子どものADHDは、中学生以下の子どもの人口の約5%(DSM-5報告)とされ、わが国の文科省の調査では3.1%と報告されています。また、大人のADHDは、成人の人口の約2.5%(DSM-5報告)とされ、世界保健機関(WHO)が行った多国間共同調査では国によってばらつきはみられますが、全体では3.4%と報告されています。
ADHDの治療について教えてくだい。
治療は、対人関係能力や社会性を身につける心理社会的治療(環境調整、ペアレントトレーニング、ソーシャル・スキル・トレーニング)と薬物療法を組み合わせて行います。
薬物療法では、現在それぞれ特徴が異なる3つの薬があり、患者さんによって選択できます。薬物療法により症状の改善が期待できる場合もありますが、治療の目標は、本人が自分の行動特性を理解し、受け入れ、その行動特性を是正するために立ち向かう勇気を持たせることにあります。
ADHDはしつけや道徳心の問題だと誤解され、他の発達障害と比べて周囲からなかなか理解されにくい傾向があります。そのため、しかられたり批判され続けることで自尊心が傷つき、いじけたり投げやりになる悪循環に陥りやすいです。心理社会的治療などでうまく生活する知恵やコツを身につけ、自信を持って自分の特性と折り合うこと、それによって家庭や学校、職場での悪循環を断ち切り、充実した社会生活を送れるようになることが最大の目標となります。
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