<身体的な疾患が原因となって精神症状が出るケースを教えてください>
精神科で扱う精神症状は、気分の落ち込み(抑うつ)や高ぶり(躁)、不安、幻覚、妄想など多岐にわたります。「うつ病」や「統合失調症」といった精神科病名の診断で治療を行うことが多いですが、中には身体疾患が精神症状の原因となることがあります。
例えば、脳は内分泌機能や栄養状態、酸素供給、体温などの影響を受けやすいデリケートな組織です。そのために、これらの要因に変化をきたすような病気(脳炎、脳症、脳腫瘍、脳血管障害、水頭症など)があると、急激な精神症状の悪化や認知機能の低下を引き起こす場合もあり、丁寧な診察とスクリーニング検査が必要です。また、内科疾患では、甲状腺ホルモンや副腎ホルモンの亢進症や低下症など内分泌系の疾患や、全身性エリテマトーデスなどの自己免疫性疾患も、抑うつや躁、不安、焦燥などの精神症状が悪化する原因となります。
そのほか、糖尿病による血糖の乱高下も情動や認知機能に影響します。また、軽めの貧血や、ビタミン欠乏(B1、B6、B12など)でも、抑うつ悪化の原因となることも見逃せません。さらに、夜間不眠や日中の眠気の原因として近年注目されている睡眠時無呼吸症候群も、抑うつなどの精神症状を引き起こします。
薬剤の影響も少なくありません。例えば、ステロイド薬はいろいろな病気で使用されますが、高用量で使用した場合、精神症状が出やすいことが知られています。他科で処方された薬剤──例えば、睡眠薬や抗不安薬、抗アレルギー剤、鎮痛剤などが精神症状に影響を与えることもあります。また、喫煙やアルコールによる精神疾患への悪影響も数多く報告されています。特にアルコール性の認知症や精神病は、難治性の経過をたどることが多いです。
一方、精神的な不調と考えられていた動悸や倦怠感といった症状が、不整脈や心不全の兆候であったという例もしばしば経験します。このように、心と体の病気は、いずれの面からも関連することがあるのです。
私自身、循環器を専門とする内科医でもある精神科医として、心と体の両面から患者さんの不調に対応できるよう日々取り組んでいますが、精神科病院・クリニックにおいては、身体疾患の可能性も常に念頭に置き、適切に内科など身体科の医師や病院と連携し、患者さんの情報を共有し診療にあたることが大切です。
医療法人五風会
さっぽろ香雪病院
萱沼 圭悟 医師