2018年7月25日水曜日

関節周囲多剤注射(カクテル注射療法)

ゲスト/医療法人知仁会 八木整形外科病院 上田 大輔 医師

─カクテル注射療法とはどのようなものですか。
 人工膝関節置換術など整形外科領域の手術で、患者さんの満足度に著しく影響を与えるのが「手術後の痛み」です。術中は全身麻酔などによって痛みはありませんが、術後に麻酔がさめると痛みが出てきます。手術の傷跡の痛み、手術した部位の腫れによる痛みなど原因はさまざまですが、特に術後1、2日間が最も痛みの強い時期といわれています。
 手術後の痛みはある程度我慢するのが当たり前というのは古い考え方で、近年の臨床研究の結果から、術後の痛みをできるだけ緩和して、スムーズにリハビリを始めることが日常生活に早く戻る近道であることが分かってきました。術後に痛みが取れないと、機能の回復や改善に悪影響があることも分かっています。また、痛みからくる不安や心配は精神的な負担にもなります。
 そのため、整形外科医は手術後の痛みを抑えるためにさまざまな対策をしています。従来、背中から神経の近くにチューブを挿入する麻酔(硬膜外麻酔)や、患部に関連する神経に麻酔薬を注射するブロック注射が一般的でした。近年、「カクテル注射療法」と呼ばれる、関節の周囲に麻酔薬や炎症止めなどを混合した薬液を注射する処置が普及しつつあり、効果をあげています。

─カクテル注射療法について詳しく教えてください。
 術中、手術の傷を閉じる前に、患部の関節周辺の組織に局所麻酔薬やステロイド剤、抗生剤などの混合剤を直接注射するものです。カクテルとは、複数の薬剤を患者さんの症状や体質などに応じて組み合わせて使うという意味で、医療機関によって使用する薬剤や組み合わせの種類は異なります。術後の痛みが強いとされる人工膝関節置換術のほか、人工股関節置換術や骨切り術、前十字靭帯再建術などの手術にも用いられる、保険適用内の治療です。
 痛みが特に強いとされる2日間にしっかり効くというのが、カクテル注射療法の最大のメリットです。また、硬膜外麻酔のように体からチューブが出た状態にならないこと、ブロック注射のように運動神経まで抑制しないことから、術後のリハビリが円滑になるという利点もあります。
 これまで明らかな副作用は報告されていませんが、人工関節の周辺に注射をする場合は、糖尿病を合併している患者さんでは感染に注意する必要があります。

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