2018年5月31日木曜日

逆流性食道炎と長引く咳

ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

逆流性食道炎について教えてください。
 逆流性食道炎は、胃酸が食道へ逆流することで食道の粘膜に炎症が起こる病気です。通常食べた物は、食道と胃のつなぎ目にある下部食道括約筋という筋肉によって食道に逆流しないようになっていますが、これが機能しなくなると、胃の内容物が逆流してしまいます。これによって胸やけ、げっぷ、呑酸(どんさん・酸っぱいものがこみ上げてくる)、嚥下(えんげ)障害といった症状が生じますが、長引く咳(せき)も非常に多くみられる症状の一つです。
 逆流性食道炎で咳が出る理由は、逆流した胃酸が気管の入り口まで達し、気管に吸い込まれて粘膜を刺激するという説と、食道内に逆流した胃酸が食道の知覚神経を刺激し、それが気管や気管支の神経にも伝わり、気管が反射的にけいれん性収縮を起こすという説があります。
 食道に入ってきた胃酸の刺激は、心臓の拍動にも影響をもたらすことがあります。特に赤ちゃんの場合、生後2カ月頃までは下部食道括約筋の働きが未熟なため胃酸の逆流を起こしやすく、チアノーゼや無呼吸発作などの呼吸障害を招いたり、ひどい場合には心拍が停止したりするリスクもあります。子どもも大人も胃酸の逆流が原因の咳は、気管支炎や肺炎を引き起こすこともあるため、早めの対処が必要です。

かぜなどの他の原因による咳との違いはありますか。
 逆流性食道炎が原因の咳は、胃酸が上がり嘔吐しそうになる咳、えずくような咳、夜間眠れないほどの激しい咳といった特徴があります。また、胃酸の逆流の自覚症状があることが多いです。診断は、内視鏡検査によって逆流性食道炎の有無を確認します。
 治療は、咳止めやぜんそくの薬で症状が改善される場合もありますが、胃酸の逆流が続けば再発を繰り返しますので、プロトンポンプ阻害薬という胃酸の逆流を防ぐ薬を内服します。加えて、食後や飲酒後、2時間程度は横にならない、前かがみの姿勢や排便時の力み、重いものを持つなどで腹圧を上げない、ベルトや衣服で腹部を締め付けないなど、日常生活で胃酸の逆流の予防に注意することが重要です。
 咳が出る病気はたくさんありますが、「2〜3週間以上の長引く咳」「胸やけやげっぷ、呑酸などの症状がある」場合、逆流性食道炎が疑われることを知っておき、早めに適切な治療を受けましょう。

2018年5月23日水曜日

呼気一酸化窒素濃度の測定

ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 院長

呼気中の一酸化窒素濃度からどのようなことが分かりますか。
 1990年代以降の研究により、ぜんそくなどの患者さんは呼気中の一酸化窒素(NO)濃度が高くなることが明らかになりました。一般に呼気NOは喀痰(かくたん)中の好酸球数と相関することから、好酸球性の気道炎症の程度を測定できるバイオマーカーとなっています。実際の測定方法は、機械に一定のスピードで息を吹き込むとNO値が表示されます。値が高いほどアレルギー性の炎症が強いことを表します。
 長引く咳(せき)での受診時、単にかぜに伴う咳なのか、咳ぜんそくの可能性が高いかどうかの診断に役立ちます。咳ぜんそくはぜんそくの前段階の状態であり、アレルギー性の気道炎症が起きています。咳ぜんそくが疑われれば、吸入ステロイド薬による治療が開始されます。肺気腫や慢性気管支炎といった慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)ではNO値は上昇しない傾向があるので、咳ぜんそくやぜんそくとの鑑別にも役立ちます。また、ぜんそくで治療中の患者さんにおいては、現在の治療薬でコントロールできているかどうかの目安になります。

呼気一酸化窒素濃度の測定検査について教えてください。
 測定は一度だけではなく、時々行って値の経過を見ていくことが大切です。例えば、吸入ステロイド薬を続けて、ぜんそくのコントロールがついてくると、NO値は下がってきます。一般的には、正常値は25ppb(1ppbは10億分の1)以下となっています。
 咳ぜんそくでは25~50ppbのことが多く、50 ppb以上ではぜんそくが強く疑われます。しかし、この検査も万能ではなく、咳ぜんそくやぜんそくでも高値にならないことがあります。反対に、ぜんそくでなくても高値になることもあります。例えば、アレルギー性鼻炎やアトピーを合併していると高値になります。また、レタスやホウレンソウなどアルギニンを多く含む食事を取ると高くなります。一方で、習慣的な喫煙や運動後では低めになります。カフェイン、アルコールの摂取により低下することもあります。このように測定時には影響を及ぼす因子を考慮する必要がありますが、息を吹き込むだけの苦痛のない検査で、咳ぜんそくなどのアレルギー性の炎症の程度を簡単に把握できるので、非常に有用な検査といえます。

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