2007年12月26日水曜日

「リンゴ型肥満と動脈硬化」について

ゲスト/青木内科クリニック 青木 伸 医師

リンゴ型肥満について教えてください。

日本人は欧米人に比べ極端な肥満の人は少ないですが、いわゆる小太り程度の人が多いようです。肥満には2種類あり、一つは女性に多く見られる、皮下脂肪が増える下半身肥満で「洋ナシ型」肥満と呼ばれます。このタイプの肥満は、病気とあまり関係ありません。もう一つが男性に多くみられる、内臓に脂肪が増える「リンゴ型」肥満です。リンゴ型肥満は病気の発症と深い関係があります。このタイプの肥満かどうかは、おへその高さでウエスト周囲を測れば分かります。男性は85cm以上、女性は90cm以上あれば、リンゴ型肥満の疑いがあります。リンゴ型肥満の人が、高血糖、高血圧、高脂血症を重複して伴っていると、健康な人に比べて動脈硬化性疾患(しっかん)の発症リスクが約30倍になるという報告もあります。この病状はメタボリック・シンドロームとして、医学界をはじめ各方面から注目されています。

動脈硬化症の予防方法について教えてください。

がんを除く日本人の死因の多くを占めているのが、脳血管疾患と心疾患です。その大きな原因となるのが動脈硬化症です。動脈硬化症になるハイリスク因子として、肥満が挙げられます。  動脈硬化症の予防として、まず心掛けるのが肥満の解消です。特にリンゴ型肥満の場合はやせることが重要です。リンゴ型肥満は、洋ナシ型肥満に比べ、食事と運動によって、やせる効果が出やすいのが特徴です。食事は野菜、魚を中心に、薄味にします。一駅分歩くなど、日常的に体を動かすように努めることも大切です。肥満に合併しやすい高血糖、高血圧、高脂血症も、減量によって改善しやすくなります。これらの病気には薬物治療が必要なこともありますので、まずは専門医に相談しましょう。  コントロールがうまくいっているかどうかは、基準値があるので参考にするとよいでしょう。過去1~2カ月間の平均血糖値を表すHbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー)の正常値は5.8%以下ですが、糖尿病がある場合は、HbA1cが6.5%以下、血圧は130/80mmHg以下、総コレステロールは200mg/dl以下、中性脂肪は150mg/dl以下にしておくと動脈硬化の予防になります。

2007年12月19日水曜日

「原発閉塞隅角(へいそくぐうかく)緑内障」について

ゲスト/札幌エルプラザ阿部眼科 阿部 法夫 医師

原発閉塞隅角緑内障について教えてください。

眼内で、角膜と水晶体の間を循環する房水は虹彩(茶目の部分)の前後で前房、後房に分かれます。加齢によって水晶体の硬化、肥厚が起こり、後房から前房への房水の流れが悪くなり、後房の圧が高まります。この圧力差が周辺部虹彩を房水の排出口のある隅角へ押し付け閉塞し、閉塞隅角を起こさせます。さらに高い眼圧が視神経の乳頭部を圧迫して視神経が委縮したり血流障害を起こし視野障害に至ります。隅角が不完全にふさがれると原発閉塞隅角緑内障の慢性型、隅角が完全にふさがると急性型となります。
緑内障は、視覚系の身体障害者手帳発行者数の第1位になっています。その中でも有病率0.6%、緑内障全体で10%を占めるのが原発閉塞隅角緑内障(以前は狭隅角緑内障とも呼ばれた)です。発症頻度は低いのですが、女性に比較的多い急性の失明眼疾患として昔から恐れられてきました。

症状、診断、治療方法について教えてください。

原発閉塞隅角緑内障は無症状の場合が多いのですが、眼のかすみ、充血や痛み、頭重感などを繰り返している人もいます。急性型発作時の自覚症状としては、視力低下、霧視、虹視症、眼痛、頭痛、悪心、嘔吐(おうと)などです。患者さんが、脳神経や胃腸の病変を疑い内科や脳神経外科を受診することがあり、これが眼科受診を遅らせることもあります。できる限り早期に治療を開始することが肝心です。
 発症は女性に多く、比較的視力のよい遠視の人が罹患(りかん)しやすいようです。また、暗所に長く居て急に瞳が開くと発作が起こりやすくなります。読書やうつ向きの作業、多量の飲水、透析後、睡眠や手術など長時間のうつぶせ姿勢後も、発作に注意が必要です。眼科検査薬である散瞳薬の点眼や、鎮痛剤、睡眠薬の中の狭隅角緑内障禁忌薬の記載があるものの使用後も、注意を払いましょう。ただし、薬だけで発作を起こした例はごくまれです。薬剤師や医師のアドバイスを受けてください。
 治療としては発作を予防するような点眼薬、レーザー、手術があります。隅角が閉塞か開放かは、一般の眼底カメラや、眼圧検査ではまったく検出できず、眼科専門医での精密検査が必要となります。

2007年12月12日水曜日

「夜間の高血圧」について

ゲスト/北海道大野病院附属駅前クリニック 古口 健一 医師

夜間の高血圧について教えてください。

 通常、血圧は早朝が一番低く、日中に上がり、夜下がるというのが一般的なパターンですが、夜間に持続的に血圧が高くなる人がいます。以前は、受診の折に血圧を計ることしかできなかったので、その時点で正常であれば、高血圧と診断されることはありませんでしたが、最近は、家庭用血圧計の普及や、24時間血圧計による計測が広まったことによって、一日の血圧の変化に人による特徴があることも分かってきました。
 病院で血圧を測ると、医師を前にして緊張状態になるため、血圧が高めになることを「白衣高血圧」、ストレスにより職場で血圧が高くなることを「職場高血圧」、昼間の血圧には問題がないのに、早朝に高くなる場合は「早朝高血圧」と呼びます。同様に、夜間のみ血圧が高い「夜間高血圧」も、検診や病院では見つけづらい「仮面高血圧」の一種です。

夜間の高血圧の場合の対処方法を教えてください。

 夜間高血圧を発見するには、24時間の血圧測定が一番確実です。毎日の血圧測定は、通常朝食前にのみ計るところを、朝晩の2回、薬を処方されている場合は投薬後の3回計るようにします。夕食後から就寝前の間に血圧を測定して、上(収縮期)が130以上、または下(拡張期)が85以上であれば夜間の高血圧が疑われます。肩こり、頭痛、頭重、動悸(どうき)、息切れ、耳鳴り、めまいなど高血圧に伴う症状があれば、すぐに計ってください。脈拍数も記録しておくと役立ちます。数値をメモして、翌日受診してほしいと思います。
 投薬が必要になった場合は、夜間の高血圧に対応した薬を処方し、飲み方を指導します。夜間高血圧は、夜間にずっと心臓や血管に負担がかかるため危険度も高く、脳梗塞(こうそく)、心筋梗塞など命にかかわる重病の原因となる可能性も高いです。早期に発見し、注意深く観察し、必要であれば治療を開始することが肝心です。
 高血圧であると診断されたら、生活習慣を見直しましょう。適度な運動と規則正しい生活、塩分を控え、食べすぎ、飲みすぎを避けます。リラックスすることも大切で、寝る前にぬるめのお風呂にゆっくり浸ると血圧が安定します。

2007年12月5日水曜日

「不正性器出血」について

ゲスト/アップルレディースクリニック 敦賀 律子 医師

不正性器出血について教えてください。

 不正性器出血と言っても原因はさまざまです。腫瘍(しゅよう)などが原因の器質性のもの、ホルモンバランスなどが原因の機能性のもの、そして妊娠性のものがあります。器質性のものとしては、子宮頸(けい)管ポリープ、子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮頸がん、子宮体がんなどがあります。  子宮頸管ポリープは子宮の入り口にあたる子宮頸部にできる良性腫瘍で、まれに悪性の細胞を含むことがあるので摘出して確認する必要があります。子宮筋腫、子宮内膜ポリープは超音波検査で診断します。子宮筋腫の場合、子宮の内側にできる粘膜下筋腫は小さくても出血の原因となり、貧血、大出血につながることもあるので手術を勧めます。子宮頸がんは子宮頸部にできる悪性腫瘍です。近年若い女性の子宮頸がんが増えており、市町村の検診対象年齢が2004年から20歳以上に引き下げられました。不正性器出血がある場合最も重要な検査です。子宮体がんは特に閉経後の出血があったときには検査の必要があります。一般に「子宮がん検診」といった場合、子宮頸部細胞診のみのことが多いので注意が必要です。

機能性の出血について教えてください。

 機能性のものとしては、生理と生理の中間にあたる排卵期に起こる排卵期出血、黄体期(生理前の約10日間)の黄体機能不全による出血、更年期に起こる月経前後の長く続く出血などがあり、出血の時期に特徴があります。基礎体温表をつけていると診断の参考になるので受診の際には持参してください。自然経過観察することが多いですが、出血の程度によってはホルモン剤や止血剤を投与します。また、機能性出血と考えられる場合でも悪性の器質性疾患(しっかん)がないことを確認することが大切です。  妊娠のごく初期に出血が見られることがあります。この場合、正常妊娠の着床時出血のこともありますが、流産、胞状奇胎、子宮外妊娠などの異常妊娠の可能性もありますので注意が必要です。どの疾患かは婦人科を受診して検査してみないと分かりませんから、自己判断せずに早めに受診することをお勧めします。

2007年11月28日水曜日

「肛門痛」について

ゲスト/札幌いしやま病院 樽見 研 医師

肛門痛とは、どのような病気ですか。

 直腸肛門部や周辺に明らかな病変がないにもかかわらず、肛門周辺に痛みを感じることがあります。肛門周辺に痛みを感じる病気としては、裂肛(切れ痔)、痔ろう、肛門周囲膿瘍(のうよう)、直腸がんなどがありますが、これらの病気に共通しているのは、排便時に痛みを伴う、腫れ、出血、便秘や下痢などほかの症状があるということです。それらがなく単に「肛門周辺だけが痛い」という症状で受診する人が増えていますが、このようなケースを肛門痛と呼んでいます。特に50代以上の女性に多く、たいていの場合痔ではないかと疑って病院を訪れます。問診や触診、エコーなどを行い、ほかの病気の可能性を否定します。女性の場合は婦人科系、男性の場合は泌尿器科系の病気が隠れている場合もあるので、慎重に診断します。

肛門痛の症状と治療法を教えてください。

 肛門痛の痛みの感じ方は人それぞれで、ズキンズキンとする、ピリピリする、重苦しい、肛門に違和感があるなどです。原因としては、肛門周辺の神経痛であると考えられます。肛門痛は、消炎鎮痛剤やぬり薬の効果があまり望めません。いつまでも痛みがなくならず、慢性化することも珍しくありません。
 ストレスが原因であることも多いので、比較的効果があるのは、抗うつ剤、安定剤などの服用です。心療内科によるアプローチで症状が改善することもあります。神経ブロック注射や理学療法が有効なケースもあります。また、受診したことで、がんなどの重大な病変がないと分かり、安心した途端に痛みが消失することもあります。
 日常生活の中では、同じ姿勢で座り続けたり、患部を冷やしたりすると痛みが出やすくなります。神経痛ですから、入浴などで患部を温めると痛みが緩和されることが多いです。運動不足の改善や、ストレス解消のために趣味を持つなど、生活環境を変えただけで、うそのように治まることもあります。ただし、大きな病気が隠れている可能性もあるので、自己診断は禁物です。肛門に痛みを感じたら、早めに専門医を受診してください。

2007年11月21日水曜日

「大腸がんとメタボリックシンドローム」について

ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 医師

大腸がんの原因について教えてください。

 大腸がん罹患(りかん)者は、ここ数年急激に日本で増加しており、2005年度の統計ではがん死亡数の男性4位、女性1位になっています。食生活などの環境因子の影響が大きな病気で、日本人における大腸がん増加の原因は、生活習慣の欧米化が関与していると考えられています。  最近の多くの研究により、大腸がんの危険因子として肥満が関与していることが分かってきました。肥満には、皮下脂肪型の肥満と内臓脂肪型の肥満がありますが、大腸がんの危険因子となる影響が大きいのは、内臓脂肪型肥満です。肥満に加え、高血糖、高血圧、高脂血症を重複して発症するメタボリックシンドロームが大腸がんの発症に関係していると考えられるようになってきました。発がんのメカニズムとして、メタボリックシンドロームの病態の基盤にもなっている「インスリン抵抗性」という状態が主な要因としてあげられます。

インスリン抵抗性について教えてください。

 インスリンの作用は血糖値を下げるだけではなく、脂質やタンパク質の代謝、細胞の増殖など全身の臓器でさまざまな作用を発揮しています。このインスリンの作用が弱まった状態が「インスリン抵抗性」です。運動不足や肥満によりインスリン抵抗性が引き起こされ、その分過剰なインスリンが血液中に増えます。過剰なインスリンはインスリン以外の細胞増殖因子も増やし、これによって細胞が死なないで増え続ける状態を引き起こし、腫瘍(しゅよう)の発生につながるといわれています。  大腸がん予防法として「身体活動」が一番予防効果が高いということが分かりました。「身体活動」とは、生活の中で体を動かすことの総称で、スポーツだけでなく、家事や労働といった日常生活のなかでの活動すべてが含まれています。身体活動によって肥満を予防・改善し、さらにインスリン抵抗性も改善していくことが、大腸がんにおける予防効果をもたらします。 40歳以上で肥満をはじめ、メタボリックシンドロームが気になる人は、積極的に大腸がん検診を受けることを お勧めします。

2007年11月14日水曜日

「乳歯列の反対咬合(こうごう)矯正治療」について

ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 歯科医師

反対咬合の矯正時期について教えてください。

 反対咬合(受け口)の治療は、矯正治療の中でも長くかかるものです。反対咬合はもともとの骨格が影響している場合が多く、成長とともに症状も変化するため、一般的には永久歯が生え始める7歳前後から、長い場合は成長が止まる18歳頃までの継続的な矯正治療が必要となります。
 きちんと最後まで治療することが大切ですが、小学校高学年や中学生になると、面倒くさがって治療を中断してしまう場合があります。反対咬合の場合は、骨の成長とともに症状が顕著になることも珍しくありませんので、中学生や高校生の成長期の検診・治療はことのほか重要です。反対咬合をそのままにしておくと、発音やそしゃくに影響する場合も多く、また審美面で劣等感を抱くことも考えられます。成人してからの治療では、外科手術が必要となるケースも多いのが実情です。

乳歯列のころからの治療法もあるそうですね。

 反対咬合は、3歳児の歯科検診で指摘されて受診する人が多いです。また、親族に反対咬合の人がいる場合が多く、保護者が早いうちから注意を払うため、早めに専門医を受診するケースが多くなっています。これまでは、永久歯に生え替わるまでは、「様子をみる」ということが多かったのですが、樹脂製のマウスピース状の器具が開発され、早めに矯正治療が開始できるようになりました。寝ている間に器具を歯にかぶせ、口の周囲の筋肉、舌の機能を利用して改善します。ごく単純な形状のため幼児でも比較的抵抗なく受け入れることができます。 
 治療の開始時期が早いほど効果が期待できますが、これだけで治るか、さらに永久歯になってからの治療が必要かは、ケースバイケースです。ここ2、3年で急速に広まっている治療法なので、気になる人は矯正専門医にぜひ相談してください。従来の矯正治療に比べ、本人の負担が少ないのも魅力ですが、上手に使えなかったり、期待したほどの効果が得られない可能性もあります。また、この治療法が合わない症状という場合もあります。医師と十分に話し合って納得をしてから治療することをお勧めします。

2007年11月7日水曜日

「皮膚の血管病変」について

ゲスト/緑の森皮フ科クリニック 森 尚隆 医師

皮膚の血管病変について教えてください。

 寒い地方の人に多く見られる『赤ら顔』や『毛細血管拡張症』。原因として、室内と屋外の温度差による皮膚表面の急激な温度変化が挙げられます。顔はほかの体の部位に比べ毛細血管が多く、肌の真皮層には縦横に毛細血管が走っており、ほおは火照りやすく表皮を通して流れる血管が見えるのが赤みです。『赤ら顔』は、精神の動揺によっても反応し、何かを意識した瞬間に顔全体が真っ赤になるなど体の中からの影響によるものもあります。また、『酒さ(しゅさ)』といって中年層の顔面、特に鼻を中心として生じる毛細血管拡張症を伴う赤みもあり、症状が進むとニキビ状の丘疹や膿疱(のうほう)が見られるようになります。誘因としてストレス、アルコール、刺激性食品、紫外線などがあり、血管拡張とともに毛包脂腺系が刺激され形成されます。  また、先天性に小さな動脈、静脈、毛細血管の拡張が見られるのが『赤アザ』です。代表的なものは、ほぼ平らな「単純性血管腫」と、いちごのように盛り上った「いちご状血管腫」があります。単純性血管腫は自然消失することがあまりないのですが、いちご状血管腫は生後まもなく発症し、ほとんどが学童期までに自然消失します。しかし、消失後ぶよぶよとしたシワを残すことがありますので、早めの治療をお勧めします。また、首や胸などに点在する小さな赤い点は「老人性血管腫」といい、中年以降に多くできるものです。

治療方法について教えてください。

 皮膚の血管病変は、レーザー治療の対象となります。赤みの色や性質によって治療に使われるレーザーは異なりますが、最新の色素レーザーは皮下出血や二次性色素沈着、カサブタなどの副作用があまり気にならなくなりました。また、毛細血管拡張症や赤ら顔にはフラッシュ光という新しい光の技術を用いる「フォトセラピー」もあります。マイルドに治療を進めることができ、同時にしみや毛穴、小ジワのケアにもなる複合的な肌の治療法です。レーザーやフォトセラピーのどちらの治療も、ノーダウンタイムといって、カサブタを作らずテープやガーゼなど保護する必要もなく、すぐに化粧が可能です。このような治療のほとんどは、保険適用外の自費治療です。

2007年10月24日水曜日

「糖尿病」について

ゲスト/やまうち内科クリニック 山内 雅夫 医師

糖尿病には2つのタイプがあるそうですね。

 飽食の時代といえる現在、日本では糖尿病患者が急増し、国民の1割以上が糖尿病もしくはその予備軍といわれています。  糖尿病は高血糖が続く代謝疾患で、1型糖尿病と2型糖尿病に分類されます。すい臓のβ細胞から血糖を下げるインスリンというホルモンが分泌されていますが、1型糖尿病はこのすい臓β細胞が破壊されてインスリンの絶対的欠乏が生じる重篤なもので、急激な体重の減少が見られます。インスリンを補う必要がありますが、インスリンには飲み薬がなく、注射で投与しなければなりません。  2型糖尿病は、インスリン分泌低下とインスリン抵抗性の増大によるもので、過食、肥満、運動不足などの不適切な生活習慣と遺伝的要因が関係しています。糖尿病の90%以上がこのタイプで、食事、運動療法が基本の治療法となりますが、それだけで不十分な場合には、経口の血糖降下薬も使われます。経口血糖降下剤(内服薬)には、最近多くの新しい薬剤が登場し、治療薬の選択肢が広がりました。作用のしくみが異なる、複数の薬を使用することも行われています。

糖尿病の症状について教えてください。

 尿量の増加とのどの乾き、多飲がまず挙げられます。また抵抗力が低下し、感染症にかかりやすくなることもあります。さらに糖尿病が進行すると体重は減少し、最終的には糖尿病性昏睡(こんすい)という意識障害が出現し、死に至ることもあります。 
 しかし、より注意すべきことは、動脈硬化性疾患(狭心症、心筋梗塞=こうそく=、脳血管障害など)や糖尿病性細小血管合併症(網膜症、腎症、神経障害)などの合併症です。動脈硬化性疾患は、糖尿病に高血圧、高脂血症、喫煙、肥満などが加わると、きわめて高率で発症します。糖尿病性網膜症は、中途失明の原因の第1位、糖尿病性腎症も人工透析が必要となる原因のなかで最も多い疾患です。糖尿病性神経障害は、手足のしびれ感、神経痛、性機能低下などさまざまな症状があり、頻度の高い合併症です。動脈硬化性疾患や糖尿病性細小血管合併症は、死に結びつくことも少なくなく、これらの予防が糖尿病治療の最大の目的とされています。

2007年10月17日水曜日

「男女の排尿障害」について

ゲスト/元町泌尿器科 西村昌宏 先生

女性の排尿障害について教えてください。

 女性の排尿障害を伴う疾患としては、まず急性膀胱(ぼうこう)炎が挙げられます。突然、排尿痛を伴う頻尿、残尿感に襲われ、排尿後の不快感があったり、尿に血液が混じることもあります。原因は菌による感染で、性活動が活発な20歳代の女性、閉経後に女性ホルモンによる自浄作用が後退した50歳代以降の女性に多くみられます。下半身の冷えや長時間トイレを我慢することによって発症することもあります。抗生物質を服用すると3、4日で症状が改善しますので、最初にきちんと治療することが重要です。
 ほかに女性の排尿障害としては、尿失禁が挙げられます。50歳代以上の女性に多く、くしゃみや重い物を持ち上げたときなど腹圧がかかった状態で漏らしてしまいます。加齢や多産、肥満などが原因で、軽症の場合は尿失禁体操で骨盤低筋群を鍛えると効果があり、また内服治療でも軽快します。重症の場合は手術を行うこともあります。

男性の排尿障害について教えてください。

 男性に多くみられるのは尿道炎、前立腺炎です。尿道内に細菌が入り、尿道や前立腺が炎症を起こす疾患で、排尿痛、頻尿、残尿感、発熱などの症状があります。大腸菌、クラミジア、マイコプラズマなどによる感染が原因で、抗生物質投与などの治療を行います。慢性化すると治りづらくなるので適切な治療を受けてください。
 中高年男性では、夜間の頻尿、尿に勢いが無い、残尿感があるなどの排尿に悩む人が多くなります。これは、加齢によって前立腺が肥大し、尿道を圧迫するため尿の出が悪くなる前立腺肥大による症状です。肥大症は通常50歳代になって現れる病気で、60歳以上ではかなりの確率で肥大症になります。投薬や手術による前立腺の切除など、症状の進行具合に適した治療を早期にすることが大切です。前立腺ガンは肥大症の症状に酷似しているので、見逃さないためにも50歳を過ぎたら年に1回は定期検診を受けましょう。簡単な血液検査でかなりの確率で診断できますから、積極的に検査を受けてください。早期に発見・治療することが大切です。

2007年10月10日水曜日

「百日咳(せき)」について

ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 医師

百日咳について教えてください。

 百日咳は、百日咳菌という細菌に感染することによって、主に気管支が侵される急性の呼吸器感染症です。子どもの病気といった印象がありますが、最近は大人にも発症しています。
 罹患(りかん)すると、のどや鼻からの分泌物が咳によって飛び散り、それを吸い込むなどして感染が広がります。感染後は7~10日間の潜伏期を経て発症します。第1期(カタル期)は、咳、鼻水、微熱など風邪と同様の症状が出ます。この時期に受診しても百日咳と診断するのは難しいでしょう。咳が次第に強くなり、1~2週間で第2期(痙咳期)に入り、百日咳特有の発作が出ます。短い咳が断続的に起こり、息を吸う時にヒューという高い音が出ます。この咳は菌による毒素によって引き起こされるもので、3週間前後続きます。第3期(回復期)は、咳は出ても発作がなくなり、2~3週間で落ち着きますが、咳の発作がしばらく残ることもあります。全経過は2~3カ月に及びます。成人の場合は典型的な咳の発作が起きず、咳の持続だけで回復することが多いので、診断が難しくなります。ワクチン未接種の新生児・乳児に対する感染源として注意が必要です。

診断、治療について教えてください。

 百日咳の診断は血液中の抗体価を測定したり、綿棒で咽頭(いんとう)をぬぐって培養をして菌を調べる方法などがありますが、結果が出るまで数日かかります。実際の診断では、特徴のある症状を見極めるか、同居している家族や学校、職場で百日咳にかかった人がいないかを確認します。
 治療としては、エリスロマイシンやクラリスロマイシンといったマクロライド系の抗生物質が使われます。早期に投与すると特に効果的で、10~14日間服用します。
 百日咳の予防としてはワクチンがあり、破傷風、ジフテリアと一緒に三種混合ワクチンとして、生後3カ月から接種できます。しかし、ワクチンの効果には個人差があり、大人になると低下することもあります。周囲の人への感染を防ぎ、咳を早く治すためにも、咳がしつこく続く場合は、早めに医療機関を受診されることをお勧めします。

2007年10月3日水曜日

「子どもの中耳炎」について

ゲスト/かしわむら耳鼻咽喉科 柏村 正明 医師

子どもの中耳炎について教えてください。

 中耳炎には、急性中耳炎と滲出(しんしゅつ)性中耳炎の2種類があります。乳幼児から小学校低学年くらいまでの子どもが、風邪をひいたときにかかりやすいのが急性中耳炎で、細菌が鼻から耳管を通って、中耳に入ることによって発症します。膿(うみ)が中耳にたまった状態になり、痛みや発熱の原因になります。鼓膜が破れて膿が自然に出てくることもあります。治療は基本的に鎮痛剤、必要に応じて抗生物質の内服、あるいは点耳薬を使用します。発熱や痛みが強い場合は、鼓膜切開で膿を出すこともあります。
 多くは1週間程度の治療で治りますが、お子さんによっては一度治った後に何度も繰り返し発症することもあります。また、最近では抗生物質の効かない耐性菌による、治りにくい中耳炎も増えてきました。抗生物質の使用は、適切な処方で必要かつ最小限にとどめておくのが良いでしょう。ただし、自己判断で抗生物質を途中でやめてしまうと細菌が死滅せず、さらに強くなって耐性化してしまうので、処方された用法・用量はきちんと守るようにしてください。

滲出性中耳炎について教えてください。

 滲出性中耳炎は、中耳に水がたまった状態の中耳炎です。この水はプールやお風呂など外部から入ったものではありません。急性中耳炎後に、炎症でたまった水が残っている、中耳の気圧が低くなり中耳の壁から水がにじみ出ている、という2つの原因が考えられます。通常、中耳は鼻を経由して入った空気で満たされ鼓膜がピンと張ることによって音を伝えます。中耳に水がたまると鼓膜に振動が伝わりにくくなり、聞こえづらくなります。子どもが風邪をひいた後に聞き返すことが多くなったり、テレビの音量を上げたりするようなら、滲出性中耳炎を発症している可能性があります。治療としては、内服薬と鼻の管理が重要で、治りが悪いときには鼓膜切開を行うことがあります。何度も水がたまるようなら、鼓膜に小さなチューブを留置して治療するお子さんもいらっしゃいます。
 いずれの中耳炎も、最後まで治療しないと成人になっても難聴など、さまざまな症状に悩まされる可能性があります。なるべく風邪をひかない、鼻づまりがあったらすぐ耳鼻咽喉科へ行くことが中耳炎予防には大切です。

2007年9月26日水曜日

「人間の性格」について

ゲスト/メンタルケアさっぽろ西口クリニック 鈴木 将覚 医師

性格について教えてください。

 「性格だからしょうがない」というセリフを言ったり、聞いたりすることが多いですが、本当にそうでしょうか?人間の性格は、生まれつきのものと思われがちですが、実際には先天的なものと後天的なものの2つの要素からつくられます。たとえば、一卵性双生児であっても、育った環境が異なればまったく違う性格に成長する可能性があります。たいていの場合は、思春期から成人する頃までに性格が確定し、一度確立した性格はなかなか変えることができません。
 しかし、成人後も絶対に性格が変わらないということではありません。明るく朗らかな人が、小言の多いパートナーと結婚してすっかり暗い性格になってしまうこともあります。逆に、悲観的な性格の人が楽観的な人と暮らすようになって、明るくなることもあります。
 性格はさまざまで、どれが良い悪いというものではありませんが、「性格のこと」で悩むことが大きなストレスになります。

性格のことを専門医に相談してもいいのですか。

 「性格は治らないから」とあきらめている人が多いのですが、ぜひ専門医を受診してほしいと思います。
 性格は確かに簡単に変えられません。しかし、専門医と話し合う中で、考え方の幅を広げることができます。基本的な性格が変わらなくても、自分自身の心の引き出しを増やすことができれば、ストレスが格段に軽くなります。
 「性格」のことで悩んで受診する方でも、意外に短時間で「楽になる」という場合があります。投薬が必要であれば、安定剤などを処方することもありますが、基本的には医師との面接の中で驚くほど意識が変わる方も多くいらっしゃいます。「落ち込んでしまう、それに対してマイナス思考になる、さらに落ち込む…」といった悪循環を断ち切り、「良い面もたくさんある」「周りの評価に振り回されることはない」と前向きに物事をとらえれば、自身を肯定的に考えることができます。
 一人で悩んでも解決には結びつきません。構えずに、気軽に受診して考え方を変えるきっかけをつかんで欲しいと思います。

2007年9月19日水曜日

「リウマチの診断と治療の流れ」について

ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 医師

リウマチの診断について教えてください。

 関節リウマチは、自己免疫疾患である膠原(こうげん)病の一つです。全身性エリテマトーデスなどほかの膠原病に比べ患者数が多く、40歳以上の女性に特に多く発症する疾患です。
リウマチの初期症状として代表的なものは、手のこわばり、関節痛です。起床時の痛み、こわばりが何日も続くようなら、関節リウマチの可能性があります。リウマチの専門医を受診した場合は、まず問診で症状の経過と今の状態を確認します。続いて、関節の痛みや腫れ、熱感、屈曲など患部診察を行い、さらに採血やレントゲン写真などで総合的に診断します。場合によってはレントゲン写真では診断が難しいこともあり、この場合は超音波診断(関節エコー)やMRIで詳細に検査します。リウマチもほかの疾病と同様に、早期に発見し、早期に治療を開始することが、スムーズな症状改善に役立ちます。

治療について教えてください。

 関節リウマチであった場合は、患者さん本人によく理解していただけるよう、病状を説明します。治療の中心は薬物投与ですが、日常生活での注意点を勉強し、リハビリの重要性を実感することもリウマチ治療では重要です。初期治療としては、関節破壊を予防するために、抗リウマチ薬の処方をスタートします。さらに、消炎鎮痛剤、局所または少量のステロイドを考慮します。同時に理学療法、作業療法を用いたリハビリテーションを勧めます。このような治療を3カ月以上行っても、痛みや腫れが持続し、炎症反応が見られる場合は、初期治療の効果が不十分であったと考えられます。
 次の段階として、抗リウマチ薬のメトトレキサート製剤による治療を行います。それでも十分に効果が得られないようであれば、点滴薬や皮下注射薬などの生物学的製剤による治療を行います。生物学的製剤は、近年導入された新薬で、リウマチ治療に画期的な効果をあげています。ただし、感染症にかかりやすくなる、高価であるなどの問題点もあります。リウマチは完治の難しい病気ですが、最近はさまざまな治療薬がありますから、あきらめずに上手に付き合っていくという心構えを持つことが肝心です。

2007年9月12日水曜日

「アルコール依存症の予防」について

ゲスト/札幌太田病院 太田 健介 医師

アルコール依存症について教えてください。

 日本のアルコール依存症人口は250万人ともいわれています。 中高年の男性に多い印象がありますが、若年者や女性の患者も増加しており、飲酒する人の一割程度が依存症になるといわれています。ビール、ワイン、日本酒などさまざまな種類のお酒がありますが、すべて「エチルアルコール」という依存性の強い薬物が入っており、誰でも気づかないうちに依存症になってしまう可能性があります。
アルコール依存症になると、飲酒を原因とする多種の合併症が生じます。
 合併症として高血圧、胃潰瘍(かいよう)、アルコール性肝障害、肝硬変、アルコール性慢性すい炎、食道がん、大腸がん、末梢(まっしょう)神経炎、アルコール性大脳萎縮(いしゅく)、認知症などが多く、健康に大きな影響を及ぼします。さらにアルコール依存症の死因として一番多いのは急性心不全という調査結果があり、「急死(大酒家突然死症候群)」がよく見られます。健康面だけでなく、社会的信用を失ったり、生活が乱れる原因ともなり、適切な治療をして断酒しない限り回復は難しく、徐々に悪化するのがアルコール依存症です。飲酒のコントロールが出来ない病気ですので、「1日1杯だけ」、「土日だけ飲む」ことは不可能で、きっぱり止めるしかありません。

依存症の診断と予防法について教えてください。

 アルコールに依存するのと、依存症は違います。晩酌をする、会食は必ずお酒のある場所で、というだけでは依存はしていますが、依存症とはいえません。依存症の診断基準として、病的飲酒欲求、離脱症状、飲酒のコントロール障害、価値観の逆転があります。インターネットなどでも公開されているので、お酒を飲む習慣のある人は一度ご覧になることをお勧めします。習慣的な飲酒は依存症ではありませんが、進行する可能性があります。最近多いのは、もともとお酒好きな方が定年後に飲酒パターンがくずれて依存症に移行する場合です。
 依存症の一番の予防は病気について正しく知ることです。また、依存症の危険がありそうであればお酒を止めるのが安全です。早期に専門医を受診、または相談してください。依存症もほかの病と同じように、軽いうちに治療を始めれば、治りやすいのです。治療で大切なのは、病気だと認識し、正しい知識を得て、有効な止め方を知ることです。

2007年9月5日水曜日

「季節の変わり目の体調不良とその原因」について

ゲスト/円山リラクリニック 森田 裕子 医師

季節の変わり目に体調を崩す人が多いと聞きますが。

 季節の変わり目、とくに夏から秋へと移る今の時季は、日中の残暑に比べて朝晩が冷え込み、一雨ごとに寒くなるなど不安定な天候になりがちです。そんな天候に体がついていかず、体調を崩す人が増えます。不眠、頭痛、腰痛、肩こり、うつ状態、胃腸の不調など、症状は人それぞれ。ヘルニアや変形性関節症など慢性の痛みを抱える方は、痛みが悪化することもあります。
 また、気候の変化に加えて、体調に大きな影響を与えると思われるのはストレスです。環境の変わる事が多い春の時季から夏にかけて我慢して乗り越えてきたものが、秋口の冷え込みや不安定な天候と重なり、体の症状となって現れてくる時季でもあるのでしょう。
 女医であるせいか、私の元へは20~30代の働く女性や家庭の主婦などが多く訪れますが、全体としては働き盛りの男性、中高年の方など、世代や性別に関わらずストレスを抱えている人が多いのが現状です。 季節の変わり目に体調不良を感じる場合は、このように複合的な要因があるケースが多いようです。したがって「数軒の病院を受診して異常なしと診断されたが、やはりつらい」、あるいは「どの病院へ行ったらよいか分からない」という声が多く聞かれます。

具体的な治療法について教えてください。

 みの治療については、神経ブロック治療、中国鍼(はり)を使用した鍼治療、体の内部まで温めて血行を促進することで痛みを和らげる光線治療などがあり、個々の症状や痛みの原因に合わせて行います。いずれも保険診療が可能です。安定剤や眠剤などによって痛みが緩和され、短期間で精神的に楽になる人も多く、心の痛みと体の痛みには密接な関係があることがわかります。最近体調がおかしいと感じたり、原因がはっきりしない痛みがある場合は、「痛みの治療」をするペインクリニックか、かかりつけの医師に相談することをお勧めします。一人で我慢せず、早めに治療することで、悪化を抑えることが重要です。

2007年8月22日水曜日

「健康と笑顔」について

ゲスト/石丸歯科 石丸 俊春 歯科医師

「笑顔」は健康と深いつながりがあるといいますが。

笑顔には人と親しくなる「親和作用」があります。他人とのコミュニケーションにおいて、言葉による表現と同様に笑顔などの表情や、身振りなどの表現は、非常に重要です。また、アンチエイジング、自己免疫の促進など、笑顔には健康に関連する具体的な効果もあります。
  しかし、残念なことに日本人は笑顔が苦手です。「笑う時は、手で口元を隠す」、「男はむやみに笑うものではない」など、日本の伝統的な文化、奥ゆかしさを美徳とする国民性が、笑顔を不得手にしています。1995年にある歯科医師によって実施された「スマイルアンケート調査」では、スマイルに自信のある人が、日本人=33.6%、韓国人=42.9%、アメリカ人=76.7%という結果になりました。  自信のない理由として「歯が白くない」「歯並びが悪い」「口元のゆがみ」「歯ぐきが目立つ」などが挙げられています。笑顔に自信がないと、結果として人とのコミュニケーションがうまく取れない、引きこもりがちになるなど、日常生活での問題が生じます。

国際化の進む社会で、笑顔の重要性が増していますね。

好感度の高い笑顔と口元の条件としては、 
(1)きれいな歯と歯並び
(2)バランスのとれた上下の唇
(3)後上方に引きあがった口角 
(4)目の表情 が重要です。

具体的には左右の口角が適度に上がり、上の前歯の4本と犬歯の一部が見えるが歯肉は見えない、ほおには適度の張りがあり、目は輝いている状態です。
  理想的な笑顔をイメージし、訓練することによって、好感度の高い笑顔を作ることができます。

(1)常に舌の先は上の前歯のやや後方約5mmの位置に接触しているように心掛ける。
(2)イー、ウーと、声を出して4つ数える、それぞれ5回を朝夕行い、口輪筋、頬筋(きょうきん)を鍛える。 
(3)両目、片目を4秒ずつつむり、しっかり目を開く、それぞれ5回を朝夕行い、眼輪筋を鍛錬する。
(4)快活な感情表現のできる生活環境作りに努める。

  鏡を見ながら自分の理想とする笑顔をイメージし、日常の中で笑顔を心掛けることが大切です。笑顔は健康な心の表現であると同時に、健康な心を作ります。

2007年8月15日水曜日

「高脂血症」について

ゲスト/秀愛会内科消化器科クリニック 高梨 良秀 医師

高脂血症について教えてください。

 高脂血症とは、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞などを引き起こす生活習慣病の一つで、コレステロールや中性脂肪など、血液中の脂質が多い状態を指します。多すぎる脂質は血管壁にたまり血液の通り道を狭め、動脈硬化の原因になります。
 特別な自覚症状がないため、健康診断などで血液検査をしない限り発見されず、見過ごされがちですが、何もしないと動脈硬化が進行し、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの重大な合併症を招き、命に関わることもあるため、「サイレントキラー(静かな殺人者)」といわれます。
 主な原因は、脂肪分の多い食事、運動不足、過度の飲酒、ストレスなど、生活習慣に起因するものがほとんどです。特に働き盛りの男性に多くみられますが、閉経後の女性は善玉コレステロールを合成するなど高脂血症の抑制にプラスに働いていたエストロゲン(女性ホルモン)の分泌が減少するため、注意が必要です。また、体質も関係があるので、家族に高脂血症による合併症になった人がいないかも、気に掛けたほうがいいでしょう。

治療法、予防法について教えてください。

 高脂血症は血液中のコレステロール値、中性脂肪値で判断します。総コレステロール220mg/dl以上、中性脂肪150mg/dl以上の場合は、 医師に相談し、治療を始めましょう。
 まず、肝心なのは生活習慣の改善です。動物性脂肪や揚げ物などカロリーが高く脂肪分の多いものを避け、和食中心の食生活を心掛けます。並行して、運動をすると効果的です。散歩やラジオ体操、サイクリングなど、ライフスタイルに合った運動を見つけるといいでしょう。さらに、禁煙、アルコールを控える、ストレスをため込まないなど、健康的な生活を実践します。
 また、数値によっては投薬療法を行う場合もあります。きちんと薬を飲むことによって、コレステロール値はコントロールできますが、根本的な解決にはならないので、同時に生活習慣の改善を行うことが大切です。症状がないからといって、勝手な判断で薬をやめたり、受診をやめたりせず、しっかりと治療しましょう。

2007年8月8日水曜日

「ロタウイルス感染症」について

ゲスト/はしもとクリニック 橋本 昌樹 医師

ロタウイルスについて教えてください。

 ロタウイルスに感染すると医学的には「胃腸炎」と呼ばれる疾病になり、下痢、嘔吐(おうと)などの症状が現れます。通常、大人が感染しても症状が出ないか、ごく軽くすむ場合が多いのですが、闘病中など免疫力の低い状態の人や、高齢者などでは症状が重くなる場合があります。
最も問題となるのは子どもが感染した場合です。冬場に流行することが多いので、「冬期乳幼児下痢症」と言われたり、真っ白い便になるので、「白色便下痢症」と呼ばれたりします。
 症状が軽い場合は、水分を十分に取らせることで、病院へ行かずに回復することもありますが、下痢と嘔吐によって重度の脱水症状が起きることもあります。その場合は、医師の診察や入院が必要となります。ロタウイルスの大きな特徴として、感染力の強さが挙げられます。ウイルスが付いたものに触れることで、口から感染します。日本を含め、先進国では、ロタウイルス感染によって死に至ることはほとんどありませんが、途上国では毎年60万人もの子どもの命が奪われています。日本では小学校に上がるまでに二人に一人がロタウイルスで受診し、15~40人に一人が入院しているという報告もあります。

子どもが感染した場合は、どのような治療法がありますか。

 今のところ、ロタウイルスに有効な抗ウイルス薬はありませんので、治療は対症療法になります。吐き気止めの座薬や整腸剤を使いますが、下痢止めは使用しません。無理に下痢を止めるとウイルスが排せつされず、かえって病気が長引く可能性があるからです。脱水症状が強い場合は、点滴によって水分や塩分を補給します。手洗いをよく行い、赤ちゃんの場合は早めにおむつを交換した方が良いでしょう。
 ほかに、ワクチンによる予防治療があります。現在2種類の新しいワクチンが世界の多くの国で使われており、一部の国では定期予防接種に組み込まれています。日本でもワクチンの接種ができるように開発が進んでいる状況です。近い将来、ワクチンによる予防の実現が期待されています。

2007年8月1日水曜日

「COPD(慢性閉塞(へいそく)性肺疾患)」について

ゲスト/大道内科呼吸器科クリニック 大道光秀 医師

COPDについて教えてください。

 COPD(シー・オー・ピー・ディー)は、日本語で「慢性閉塞性肺疾患」と訳されます。その特徴は気道の空気の流れが慢性的に悪くなり、咳(せき)や痰(たん)、労作時の息切れが出てきて、最後は呼吸困難になる病気です。以前は肺気腫(しゅ)や慢性気管支炎として診断されていましたが、そのような病気になってしまう過程や終末像として、COPDという病名が普及してきました。また、COPDは全身病であり、動脈硬化や糖尿病などのように、肺の生活習慣病とも言えます。初期には咳(せき)や痰(たん)、坂道や急いだ時の息切れといったありふれた症状で、気付かないうちにゆっくりと病状が進行し、病院で受診した時にはかなり悪化しているというケースが多いのです。
 病変は肺胞と気道に起こります。肺胞を仕切る壁・肺胞壁が壊れ、肺胞壁の破壊とともに血管も壊れてしまい、ガス交換の効率が悪くなります。肺の弾性力が減るので、呼気の時に気管支を広げる力が減り、空気の流れが悪くなります。一方、気道では炎症を繰り返すことで過剰に粘液が分泌され、気管支の粘膜も厚くなり、気道を狭くし空気の流れを悪化させます。

COPDの患者が増えてきたのはなぜですか。

 主な原因は喫煙や大気汚染ですが、日本では石炭の燃焼などによる大気汚染が減っていますので、喫煙によるものがほとんどです。特に北海道は喫煙率が高く、中でも女性の喫煙者が多いため、女性患者が増加しています。男性よりも女性の方がタバコの害を受けやすいという側面も影響しています。
 COPD患者は中高年に多いため、階段の昇降などで息苦しさを感じても、「年齢のせい」と思い込み、受診が遅れがちになります。初期であれば禁煙や投薬での治療が可能ですが、症状が進めば在宅酸素療法が必要になり、入退院を繰り返すなど、日常生活にも影響が大きくなります。また、肺炎や心不全などの合併症で命にかかわることもあります。
 咳や痰、労作時の息苦しさなどを感じたら、肺の機能検査を受けてください。早期に発見し治療することが重要です。予防法は、何といっても禁煙です。最近では病院でも積極的にサポートしていますから、禁煙に失敗した人は、一度相談してみることをお勧めします。

2007年7月25日水曜日

「麻疹(ましん)」について

ゲスト/つちだ消化器循環器内科 土田 敏之

麻疹について教えてください。

 「麻疹」は、一般的に「はしか」と呼ばれる、麻疹ウィルスの飛沫(ひまつ)感染によって発症する疾患です。感染力が非常に強く、抗体を持たない人がウィルスに接すると、90%以上の確率で感染します。流行する時期は春から夏にかけてで、感染すると、まず発熱、咳、鼻汁といった風邪症状が起こり、3~4日おいて全身に赤い発疹(はっしん)が出ます。風邪症状から発疹が消えるまでの期間は、感染力があります。
 麻疹から肺炎や脳炎といった合併症が起きることもあります。頭痛を訴えたり、激しい嘔吐(おうと)などの症状があるときは、脳炎の可能性、呼吸が苦しい時は肺炎の可能性が疑われます。いずれの場合も早急に病院へ行ってください。脳炎は麻疹が治癒して、外出許可がおりてからも、1000人中1人程度の割合で発症します。
 麻疹の予防法としては、ワクチンが唯一です。また、友達や家族など身近に麻疹患者が発生した場合は、72時間以内にワクチンを打てば発症の確率を下げることが出来ます。
 本州では昨年末から流行しており、5月から道内でも流行の兆しがみられます。一昨年まで麻疹ワクチンは一回接種でしたが、打ち忘れ防止、また一回では免疫が弱かった場合も考慮し、免疫を上げるために昨年から二回接種になりました。二回目は幼稚園年長のお子さん対象で、無料で打てるのですが、接種に来るお子さんは二割程度です。近年麻疹発症者が少なく、接触する機会が減ったため追加免疫を得にくく、一歳で得た免疫が10年で消えてしまう人もいます。その場合、ワクチン効果は10年と考えることになります。アメリカでは二回接種で、発症者は年間100人以下に抑えられています。二回目のワクチンを早めに受けることをお勧めします。
 ただし、ステロイドや免疫を抑制する薬を服用中の場合はワクチンを打てません。詳しくは担当医にご相談下さい。D3型とD5型が今まで日本で流行していた麻疹のタイプでしたが、韓国や中国で流行するH1型が日本に入ってきました。寒い時期にも発生し、大人もかかりやすい特徴があります。このH1型にも現在の予防接種は効果があります。

2007年7月18日水曜日

「行楽シーズンの皮膚トラブル」について

ゲスト/宮の森スキンケア診療室 上林 淑人 医師

夏の行楽シーズンに増える皮膚トラブルについて教えてください

 山や海へ出掛けたり、汗をかいて肌の清潔を保てなかったりで、皮膚トラブルはほかの季節よりも増加する傾向にあります。
特に「ダニ」にかまれて来院する人が増えます。原因となるマダニは、山林に生息し、人や動物の皮膚に食いつき吸血します。登山やハイキング、キャンプなどでかまれる場合が多く、首や頭など露出している部分、露出していない部分でも洋服の中に入っていろいろな部分に取り付きます。自分の目で見えない部分をかまれた場合は、気が付かないこともあります。体長は2㎜から7㎜程度で、吸血することによって体が大きく膨らみます。少し引っ張った程度では離れず、無理矢理取ろうとすると、虫体の一部(アゴの部分)が皮膚の中に残ってしまうことがあります。放置すると、場合によってはライム病という感染症を発症することがあるので注意が必要です。野山から帰ったら、全身をチェックするのが大切です。子どもの体は大人がよく調べてあげてください。もしマダニを発見したら無理に取ろうとせず、出来るだけ早く専門医を受診してください。かまれている部分の皮膚ごと除去し、虫体を外科的に取り除く必要があります。さらに感染症予防に抗生物質の内服が必要になることがあります。

ダニのほかに気を付けることはありますか。

 アレルギー体質の人は、蚊やブヨなどに刺されるとひどく腫れることがあります。場合によっては、蜂窩織炎(ほうかしきえん)という重度の皮膚感染症を合併し治療が長引くことがあります。また、ウルシなど植物によるかぶれもかなり長引く傾向にあります。これらに対する治療はステロイド剤の外用が中心です。程度によっては抗アレルギー剤の内服を併用することもあります。
 日差しの強い日に出掛ける場合は、日焼けや日光アレルギーを防ぐために、日傘や帽子を、さらに日焼け止めクリームを活用して下さい。
 夏は、なるべく小まめにシャワーを浴びたり、ぬれたタオルで汗によるべとつきをぬぐい取ったりして、肌を清潔に保ちましょう。暑い季節は皮膚炎が悪化しやすいので、まずは予防、そして早めの治療を心掛けましょう。

2007年7月11日水曜日

「矯正治療の理想的な開始時期」について

ゲスト/宇治矯正歯科クリニック 宇治 正光 歯科医師

矯正治療を始めるのに年齢は関係ありますか。

 矯正治療の技術は躍進的に進歩しており、歯やその周りの歯周組織が健康であれば、年齢にかかわりなく、多くの症例に対して治療可能であるといえます。骨格的偏位(ずれ)が前後左右に大きい場合には、外科矯正やインプラント(人工歯根)矯正を併用することによって、きれいなかみ合わせにすることが可能です。大人になってから矯正治療を始め、コンプレックスがチャームポイントに変わったという人も少なくありません。

より理想的な矯正開始時期はありますか。

 上顎(がく)前突(出っ歯)を例にすると、一般的に上あごが出ているように思われがちですが、下あごの小ささが原因であることが多いです。このまま放置して成人(あごの成長の望めない年齢)になると、抜歯や外科矯正になる可能性が高くなります。9~11歳で矯正を始めれば、バイオネーターなどの機能的顎矯正装置と呼ばれるものを夜間に寝るときだけ使用し、下顎骨の前方成長を促し、バランスの取れた横顔にすることができます。横にも拡大することができるので、抜歯をする確率も下がることになります。
 すなわち、矯正治療はいくつでも始められますが、適正な時期に開始することで、骨格のコントロールを行い、上下顎をバランスの良い状態にして、抜歯率や外科矯正率を下げることができるのです。決して歯を抜く治療がいけない治療といっているのではなく、適正な時期に始めることによって選択肢が広がるということです。
また、下顎前突(受け口)の場合、一般的に下あごがより前方に成長するのを抑制したり、小さめの上あごが前方に成長するのを促進したりします。この場合、最適正時期は6~9歳です。乳歯列の時期に、就寝時の装置で治療することもできます。
 お子さんの歯並びが気になる、親御さんの歯並びが悪く、将来が心配という場合は、いずれも、前歯だけを見ていたのでは判断が難しいので、左右のずれも含めて、小学校低学年のうちに一度、専門医に相談することをお薦めします。

2007年7月4日水曜日

「白内障の日帰り手術」について

ゲスト/さかた眼科ファミリークリニック 坂田 信義 医師

白内障について教えてください。

人間の目には水晶体と網膜があります。カメラに例えると、水晶体がレンズ、網膜がフィルムの役割を果たしますが、水晶体が濁って光が通過しづらくなったり、光が乱反射して網膜に鮮明な像が結べなくなり、視力が低下するのが白内障です。アトピー性皮膚炎や糖尿病といった全身疾患に合併するもの、外傷性など原因はさまざまですが、大半が加齢による老人性白内障。60歳前後から増加し、70歳代後半でピークに達します。焦点が合わない、かすむなど症状は人それぞれで、日常生活に支障がなければ、点眼薬などで進行を遅らせることは可能ですが、濁った水晶体を元に戻すことはできません。

症状が進行した場合、どのような治療法がありますか?

事に支障をきたす、外出すると極端に見えにくい、免許の更新ができないなど、日常生活で不自由を感じるようであれば、手術を行います。視力、眼圧、網膜の状態を調べる眼底検査、水晶体の濁りの状態を調べる細隙(さいげき)灯顕微鏡検査など、事前に1時間程度の検査を行った上で、術後に通院が可能か、家族の協力が得られるか、重篤な合併症がないかなどの問診も行い、手術の実施を決定します。

手術はどのような方法で行いますか?

顕微鏡を使った細かい手術で、時間は10~15分程度。点眼による局部麻酔の後、濁った水晶体を超音波で砕いて吸い出し、人工の眼内レンズを挿入します(超音波水晶体乳化吸引術)。折りたたみ可能なシリコンまたはアクリルレンズです。手術後は20~30分ほど安静にしていただき、眼帯をして、帰宅が可能です。眼帯は翌日からはずすことができます。手術後は目が充血したり、ゴロゴロしたりしますが、1週間程度で和らぎます。眼内レンズはピントを合わせる調整力がなく、薄い眼鏡が必要になる場合もありますので、手術後1カ月ほどして、視力が安定してから作るとよいでしょう。症状が進行すると、水晶体の核を丸ごと取り出す手術が必要になる場合もあるので、見えづらいなと感じたら、早めに専門医を受診することをお勧めします。

2007年6月27日水曜日

「かくれ脳梗塞(こうそく)と一過性脳虚血発作」について

ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 医師

かくれ脳梗塞について教えてください。

 脳梗塞は脳の血管が詰まって起こります。この結果、運動まひや言語障害などの症状が起こります。
 かくれ脳梗塞とは、症状のない脳梗塞のことで、正しくは無症候性脳梗塞といいます。頭痛や外傷など別の原因で受けたMRI、CTなどの検査で偶然発見される場合がほとんどです。症状が全くない場合もありますが、症状があっても、すぐに良くなっている場合などは本人が忘れている事もあります。かくれ脳梗塞に対して治療するか、そのまま様子を見るかは、脳梗塞の数や起こった場所、本人の健康状態、危険因子の有無などを考え、総合的に判断します。薬物による治療を考慮する場合もありますし、危険因子である高血圧などの治療をより積極的に行うことも必要です。現状では治療が必要ないと判断された場合でも、定期的な検査を受け、経過を観察する必要があります。

一過性脳虚血発作について教えてください。

 数分間から数時間で症状が回復する発作の一種です。原因は脳の血管が高血圧や糖尿病の影響などで動脈硬化が進んだ状態のときに、血流障害が起きてしまう場合や、心臓や頸部(けいぶ)などの血管から血栓が運ばれてきて血管をふさいでしまうために起きる場合もあります。
 はしや筆記具を落とす、手や足に力が入りにくい、片側の目が見えづらくなったり二重に見える、手や足、顔や唇にしびれが出てくる、ろれつが回らない、物事の理解ができない、めまい症状などが起こる場合もあります。
症状が治まってしまうため、軽く考えてしまう方が多いのですが、いずれ本格的な脳梗塞の発作が起こる可能性があります。前述のような症状があったら、ぜひ専門医で検査を受けてください。特に40代以上の人、高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病の危険因子がある人、タバコを吸う方は、要注意ですので、脳ドックなど積極的に検診を受けてください。生活習慣を改め血圧などの数値管理を徹底する、ストレスや脱水に注意を払うなど、脳梗塞を予防する努力も大切です。

2007年6月20日水曜日

「ストレスと対処方法」について

ゲスト/五稜会病院 千丈 雅徳 医師

ストレスについて教えてください。

 精神的に負荷がかかることを「ストレス」といいます。精神を安定させたいと思う本能に反し、「ゆがみ」で心身にさまざまな反応が生じます。ストレスの原因は環境や人間関係、経済的、物理的なものまでいろいろあります。ストレスが蓄積すると、イライラや無気力、食欲不振、不眠、うつなどの精神的な症状、高血圧、胃潰瘍(かいよう)など身体的な症状が現れます。
 しかし、ストレスが無ければいいというものではありません。多くの人は日常的にストレスにさらされて生きています。ストレスがまったく無く、平穏で退屈な生活は、挑戦する意欲や困難を乗り越える喜びを感じることができません。人間は適度なストレスと向き合うことによって、刺激や緊張が生じ、張り合いや生きがいをもって毎日を過ごすことができるのです。大切なのはストレスといかに上手に付き合うかということです。

ストレスの対処方法を教えてください。

 ストレスによる心身の不調で受診した場合、安定剤などの投薬治療のほかに、悩みを分かち合うカウンセリング、対人交流のスキルアップを目指しての認知行動療法などを行います。認知行動療法では、どういうときにどういった心理状態になるかを自身で認識するため、日記をつけるなどして、感情のコントロールを身につけます。
 また、全国的な傾向として40~50代の男性患者が多くなっています。その背景には失業、リストラなど仕事や経済的な不安、将来への不安があります。失職あるいは休職している場合は、パソコン操作などスキルアップをサポートしつつ、同じ悩みを抱える者同士で話し合うなどの復職プログラムを行っています。エアロビクスやウオーキングなどの運動療法も心身の健康を取り戻すのに効果的です。このようなプログラムを実践している病院は、全国的に増加傾向にあります。回復のためには、医師や専門スタッフなどのアドバイスやサポートを上手に利用し、ストレスに対処する能力を身につけることが大切です。

2007年6月13日水曜日

「睡眠時無呼吸症候群と顎(がく)変形症」について

ゲスト/つちだ矯正歯科クリニック 土田 康人 歯科医師

睡眠時無呼吸症候群(SAS)について教えてください。

 SASとは、眠っている間に、10秒以上の呼吸停止を繰り返し、深い睡眠がとれない病態をいいます。気道の閉鎖によっておこり、原因はへんとう肥大、アデノイド、気道に舌が落ち込む、舌が大きい(巨舌症)、下顎(あご)が小さいまたは後退している(小顎症、下顎後退症)などが考えられます。
 症状としては、いびきがうるさい、寝ているときに呼吸が止まり熟睡できない、そのため昼間に睡魔に襲われるなどです。昼に眠いと居眠り運転につながり、2003年にはSASが原因で山陽新幹線の事故がありました。また生活習慣病と合併する場合が多く、肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症の「死の四重奏」にSASが加わると「死の五重奏」といわれることがあります。重症の場合、合併症のために約4割の人が9年以内に亡くなってしまうというデータもあります。このように、放置しておくと命にかかわる怖い病気です。

治療方法について教えてください。

 気道が閉鎖しないように、鼻にマスクを着けて空気を送り気道を広げる方法、へんとう肥大、アデノイドの場合はとってしまうなどの方法がありますが、根本的な治療法ではありません。
 矯正歯科の立場から、主に下顎後退症(小顎症)について説明します。下顎後退症は文字の通り、下顎が後ろにある状態で、気道が狭くなり、SASの原因となります。根本的な治療法としては、引っ込んでいる下顎を前に出す外科手術を行います。顎を手術しただけでは、きちんと歯がかみ合わないので、手術前後に歯をかみ合わせる矯正治療が必要になります。手術自体は比較的簡単なもので、口の中から行うので顔に傷がつくこともありません。
 下顎後退症は、反対咬合(こうごう)、上顎前突、開咬、顎偏位などの顎変形症と同様に、外科治療、矯正治療ともに健康保険が適用されます。ただし、道・市町村から指定を受けている医療機関でのみ保険適用になるので、受診の際は確認すると良いでしょう。

2007年6月6日水曜日

「肌のアンチエイジング」について

ゲスト/緑の森皮フ科クリニック 森 尚隆 医師

「アンチエイジング」について教えてください。

 日本語では「抗老化」という意味です。加齢や老化による衰えをできる限りコントロールし若々しい人生を送ろうという「予防医学」の見地からも注目が集まっています。
  肌に関するアンチエイジングは、さまざまなレーザー治療や光治療などが中心となります。近年のレーザー治療は、周囲の正常な組織に影響を与えることが少なく、出血や傷あとを最小限に抑えて異常な細胞だけを破壊し、選択的に除去していくことが可能になってきています。しかし、すぐにシミやあざが薄くなったり消えたりするわけではなく、繰り返し治療が必要になる場合もあり、治療後の適切なケアも重要です。

それぞれの治療について教えてください。

 シミやあざには、ルビーやアレキサンドライト、ヤグといったQスイッチ型レーザーが使われます。これらはそれぞれ特徴があり、単独よりも組み合わせで行うことでより治療効果が高まります。老人性色素斑や扁平(へんぺい)母斑などの茶あざ、太田(おおた)母斑や異所性蒙古斑などの青あざ、いれずみの除去などがその適用となります。単純性血管腫(しゅ)やイチゴ状血管腫などの赤あざには、血色素に吸収される特徴を持った色素レーザーが使われます。ただし、すべてのシミやあざについてレーザー治療ができるわけではありません。たとえば主に女性ホルモンの影響でできる肝斑(かんぱん)と呼ばれるシミは、レーザー治療によって濃くなる可能性が高いため、レーザーよりマイルドなフォトセラピーという光治療が効果的です。フォトセラピーは赤ら顔、小じわ、毛穴の開きなども同時に改善される総合的な治療で、絆創膏(ばんそうこう)などの保護も必要なく治療後、すぐにメイクや洗顔も可能です。
  ホクロやイボには、主として炭酸ガス(CO2)レーザーが使われます。水に吸収されるレーザー光で、周辺組織へのダメージは少なく、ホクロやイボの組織を蒸散させます。また、皮下の線維芽細胞を刺激することで皮膚の弾力に必要な真皮層のコラーゲンを増生させ、小じわや毛穴の開きを改善するレーザー治療もあります。ほかにも、黒い色素だけに反応する特殊な特性を利用して毛に多く含まれるメラニン色素に反応させ、毛根や毛包にダメージを与え発毛しづらくさせるのが医療レーザー脱毛です。
  これらは、設備の整った病院で専門的な知識を持つ医師のもと、症状に合った正しい治療を受けることをお勧めします。

2007年5月23日水曜日

「直腸膣壁弛緩(ちつへきしかん)症と便秘」について

ゲスト/札幌いしやまクリニック  樽見 研 医師

直腸膣壁弛緩症とはどのような症状ですか?

 直腸に起因する、女性特有の排便障害です。排便時に息むと、直腸と膣の間の壁(膣壁)が、膣方向へポケット状に膨らみ、便が引っ掛かって通りが悪くなります。このポケットを直腸瘤(りゅう)といい、息めば息むほど膨らんでしまいます。症状は肛門の直前で便が止まってしまう、肛門の周りを指で圧迫(補助排便)しないと便がでない、残便感がある、習慣的に下剤を使用しているなどで、ひどい便秘の人は直腸膣壁弛緩症の疑いがあります。原因としては、生まれつき膣壁が薄い、出産による膣壁の広がりや加齢による筋肉の衰えなど、先天的、後天的、両方の原因が考えられます。排便時に息む習慣がある人も注意が必要です。症状を訴える人の多くは中高年ですが、まれに若い女性にも起こりえます。

検査法、治療法にはどのようなものがありますか。

 まずは触診で、ポケットの有無は確認できます。ポケットの大きさを測定し、排便機能の異常を客観的に診断するには、バリウムを注入し、排便動作をレントゲンで撮影する排便造影検査を行います。治療法としては、まず食事や生活習慣の改善により、便秘を解消することです。便が柔らかくなれば排便がしやすくなります。食物繊維を多く含んだ食事を規則正しく摂取し、とくに朝食後は、数分~数十分で便意が訪れることが多いので、決まった時間にトイレに入る習慣を身に付けましょう。便意を感じた時に排便をしないと、やがて便が直腸にきても便意を感じなくなる習慣性便秘につながります。毎日歩くなど日ごろから運動することも心掛けましょう。それでも改善しなければ、下剤を使用する方法もあります。
  しかし、ポケットが大きいと、通常の便秘治療では排便障害は改善されません。症状が改善されなければ、約10日間の入院で、手術によってポケットを縫い縮める方法も有効です。ポケットそのものは良性疾患ですが、習慣的に下剤に頼っていると、大腸がんなどの病気を見落とす危険もあります。便秘で悩んでいる人は、原因を知るためにも、一度専門医に相談することをお勧めします。

2007年5月16日水曜日

「歯科金属アレルギー」について

ゲスト/庄内歯科 庄内 淳能 歯科医師

歯科金属アレルギーについて教えてください。

 アレルギーを持っている人にとって、春は症状が出やすく、憂うつに感じている人も多いのではないでしょうか。特に最近増えている金属アレルギーは、汗や体液によってアクセサリーなどの金属が溶け出し、肌に炎症を起こすため、暖かくなる今ごろから症状が出やすくなります。
 一般にはあまり認識されていませんが、歯科治療で用いた金属の冠や支台が原因となって起こる歯科金属アレルギーもあります。手のひらや足の裏に小水疱(しょうすいほう)や膿疱(のうほう)が繰り返し生じる「掌蹠(しょうせき)膿疱症」は、水虫と間違われやすいのですが細菌は発見されず、実は虫歯などの治療に用いた金属によってひき起こされている場合があります。歯科金属アレルギーは、長年の間に口腔(こうくう)内で金属が溶け出し、イオン化した金属が体内に蓄積され、一定量を超えた時にアレルギー反応となって現れるため、原因としてすぐに思い至らないこともあります。また、アトピーに似ているが食べ物に反応が出ない偽アトピー性皮膚炎、肩こりなどの不調がある不定愁訴などの原因が歯科金属アレルギーであることもあります。

診断方法や治療法を教えてください。

 金属アレルギーの有無はパッチテストで判定できます。パッチテストは保険が適用できます。金属アレルギーがあった場合、とりあえず歯の金属冠をはずして様子をみます。本来は症状がなくても、金属を口腔内に入れず、代替のオールセラミックやハイブリッドセラミックを歯冠修復に使用するのが理想的です。しかし、保険が適用にならないため費用が高騰し、すべての歯科金属を排除するのは現実的には困難です。小臼歯と前歯については、プラスチックの一種である硬質レジンを保険適用で使用することができます。
 いずれにしても、金属アレルギーの傾向があり、原因不明の皮膚炎や症状に悩まされている人は、一度歯科金属アレルギーに詳しい歯科医を受診し、原因を特定することをお勧めします。

2007年5月9日水曜日

「メタボリック・シンドローム」について

ゲスト/大通り内科クリニック 小森 克俊 医師

メタボリック・シンドロームについて教えてください。

 メタボリック・シンドロームとは、肥満、特に内臓に脂肪が蓄積し、さまざまな生活習慣病を引き起こしやすくなっている状態をいいます。2005年春に日本内科学会など8つの学会が合同で定義と診断基準を発表しました。
 肥満には、下腹部や腰のまわりなどに脂肪が蓄積する「皮下脂肪型肥満」と、内臓に脂肪が蓄積する「内臓脂肪型肥満」の2タイプがあります。そのうち「内臓脂肪型肥満」は外見からの判断が難しい場合がありますが、ウエストまわり(一番細いところではなく、おヘソの部分)が男性で85cm以上、女性で90cm以上、これに加えて、高脂血症、高血圧、糖尿病(予備軍を含む)のどれか2つ以上が当てはまれば、メタボリック・シンドロームと診断されます。高血圧や糖尿病などの生活習慣病は、それぞれの程度が軽くても、複数の症状が重なると動脈硬化が早く進行します。動脈硬化は日本人の3大死因のうち、脳血管障害と心疾患をもたらす病因の一つ。メタボリック・シンドロームと診断されたら、動脈硬化となりうる危険が高いということです。

日常生活でどのようなことに気をつければよいですか?

 糖尿病の主な原因は、食生活の欧米化による動物性脂肪の取り過ぎや運動不足。健康維持には、糖質が60%程度、脂肪とタンパク質がそれぞれ20~25%程度の食事が理想的ですが、これは米や野菜、魚を中心とした一般的な和食の数値と同じです。昔からこのような食事を続けてきた日本人は、欧米人に比べて膵臓(すいぞう)から分泌されるインスリンの量が少なく、元来糖尿病になりやすい体質を受け継いでいるといえます。体質にもよりますが、肥満、高血圧の人や、甘いもの、アルコール、高脂肪の食事を好む人は糖尿病予備軍の可能性があります。食事の内容をすぐに切り替えるのが難しければ、食べる量を減らし、適度な運動をするだけでも症状の改善が見込めます。
 健康で長生きするには、まず自分が予備軍かどうかを知ることが大切。40歳になったら年に1度は専門医の検診を受けましょう。

2007年5月2日水曜日

「ニキビの原因と治療法」について

ゲスト/たけだ皮膚科スキンケアクリニック 武田 修 医師

ニキビの原因について教えてください。

 就職して長時間お化粧をするようになった、疲れて洗顔せずに寝ることが多くなったなどの理由で、この時期急にニキビが増えたという方がいます。ニキビとは基本的に、皮脂による毛穴の詰まり。分泌される皮脂の量は一定ではなく、疲れやストレス、女性の場合は生理前などで、体内のバランスが崩れると増加します。便秘症があると、体外に排出すべき老廃物が皮脂腺から出て、毛穴が詰まりやすくなります。油分の多い食事、甘みの強い物、お酒、体を活性化させる辛いものなども皮脂の分泌を高めます。
 また、疲れやストレスで体内のビタミン消費量が増えると、ビタミン不足になり、皮脂の分泌が増えるので、牛乳やレバーなどビタミンB2、B6を多く含む食品を摂取するとよいでしょう。
 次に毛穴の外からの状態です。顔にかかる髪の毛や洗顔時の摩擦、オイルを含んだ化粧品などは、毛穴詰まりの原因となります。また、「自分は乾燥肌」と思い込んで油分の多いクリームをつけ過ぎると、肌は余計ガサガサになります。健康な肌は、たっぷりの水分と適度な油分で成り立っています。油分が必要なのは目元や口元。それ以外の場所には、まず化粧水で水分を十分に補給してください。

どのような治療法がありますか。

 毛穴に詰まった皮脂にばい菌がつき、なおかつ抵抗力が弱っている場合、腫れた赤ニキビや、「膿 (のうほう)」と呼ばれる中心にうみを持ったニキビができます。
 ばい菌の量を減らす飲み薬、表面の詰まりを溶かす塗り薬などがありますが、毛穴の詰まりぐせが解消されるわけではなく、薬をやめるとニキビを繰り返す場合もあります。まずは生活習慣や化粧方法を改め、それでもニキビができたら医療機関で保険診療を受けてください。
 改善しない場合は、ニキビができにくい肌にするための自費診療もあります。肌質に合わせたピーリング(不要な皮膚を薄くはがして新しい皮膚を導き出す)を行い、皮脂の分泌を抑制するビタミンC誘導体を含んだ美容液を浸透させ、肌を「再教育」する方法などです。医師からよく説明を受けたうえで行うことが大切です。

2007年4月25日水曜日

「早朝高血圧」について

ゲスト/北海道大野病院附属駅前クリニック 古口 健一 医師

早朝高血圧とは、どういった症状ですか。

 血圧は従来、病院へ行って医師の手によって測定されるものでしたが、最近は家庭用血圧計の普及によって、日常的に血圧を測定することができるようになりました。
 ご存じのように血圧は常に一定というわけではありません。病院で測定する血圧と、自分で測定した家庭での血圧、また日中職場で測った血圧が違うという現象が少なからず生じます。医師を前にすると血圧が高めになる症状は「白衣高血圧」、職場で血圧が高めになる症状は「職場高血圧」と呼びます。同様に、昼間の血圧には問題がないのに、早朝に高くなる場合は「早朝高血圧」と呼びます。検診などでは見つけづらい「仮面高血圧」の一種です。
 早朝高血圧の厳密な定義はありませんが、起床後早朝の家庭血圧が135/85mmHg以上で、日中~夜間の血圧よりも高い場合は早朝高血圧といえるでしょう。早朝は、心筋梗塞(こうそく)や脳卒中が発生しやすい時間帯でもあります。この時間帯の血圧コントロールが、脳心血管疾患の予防に重要な意味合いを持ちます。

早朝高血圧の見つけ方について教えてください。

 病院では発見されづらい高血圧なので、家庭での血圧測定が重要になります。家庭用血圧計で、起床時、昼間、就寝前の測定を続けて血圧の高い時間帯があれば、原因を考えます。
 職場での高血圧は、ストレスや喫煙に起因することが多いです。早朝の高血圧の原因としては、前夜の飲酒や就寝中の無呼吸症候群などが考えられます。しかし、一番注意が必要なのは、もともと高血圧で降圧剤の投薬を受けており、日中は薬で正常に保たれていても、就寝中に薬の効果が弱まり早朝に血圧が高い状態になる場合です。
 家庭用血圧計で朝の血圧が高いと分かったら、かかりつけの医師に数値を記録したメモを見せてください。24時間血圧計(ABPM)で測定すると、一日の血圧の動きをより正確に知ることができ、血圧管理に大いに役立ちます。早朝高血圧は、持続時間の長い降圧薬を用いればコントロールは容易ですので、早期に発見することが重要です。

2007年4月18日水曜日

「肩こり」について

ゲスト/札幌一条クリニック 後藤 康之 医師

日本人には肩こりに悩む人が多いそうですね。

 約7000万人の日本人が、現在あるいは過去に肩こりに悩まされた経験があるという調査結果があります。男性よりも女性に若干多く、いわゆる働き盛りの年代に多いのですが、最近は塾通いやテレビゲームの影響で小・中学生が肩こりを訴えるケースも増えています。
 肩こりは、人類が直立二足歩行を始めたときからの宿命といわれています。特に、欧米人や日本人と同じアジア人である中国人より、日本人に肩こり症の人が多いのは、歴史や伝統が関係しているのではないかといわれています。「肩の荷を下ろす」「肩書き」など、日本語には肩のつく言葉が多くあり、日本人にとって「肩」は体の部位以上の意味を持つ存在です。明治の女流作家・樋口一葉が肩こりと頭痛に悩んでいたのは有名です。一葉は若くして家計を支え、文筆業を志して勉強もしていました。経済的、心理的にストレスの多い毎日の中で、当時の髪型や住環境、やせ型の体型なども影響して、しつこい肩こりに悩まされていたのではないでしょうか。

肩こりの予防や治療法はありますか。

 肩こりの症状は、頚部(けいぶ)・肩・上背部の不定の痛みで、疲労感やしびれを伴うこともあります。頚部の血流への影響が強く頭痛の原因ともなります。持続した動作、不自然な動作をしたとき、ストレスを強く受けたとき、精神的緊張が続くときに起こりやすく、几帳面(きちょうめん)な人や物事にこだわる人に発症しやすい傾向があります。
 肩こりは、筋肉の緊張によって血液の流れが悪くなり、疲労物質が蓄積することで起こります。軽い体操やマッサージ、入浴、ハリ治療など、自分にあった肩こり解消法を見つけるとよいでしょう。夜更かしや過労を避けたり、枕を変えるだけでも改善することがあります。それでもしつこく痛みがとれないときは、痛みの専門医である麻酔科を受診してみてください。人によって効果はさまざまですが、神経ブロックのほか、理学療法、安定剤などの処方によって、痛みを緩和できることが多くあります。

2007年4月11日水曜日

「前立腺肥大症」について

ゲスト/芸術の森泌尿器科 斉藤 誠一 医師

前立腺肥大症について教えてください。

 前立腺はクルミ大の男性特有の器官で、膀胱(ぼうこう)の出口付近で尿道を取り巻いて精液の液体成分を分泌しています。前立腺は加齢とともに肥大する傾向があり、50歳以上の男性の多くに前立腺肥大が見られます。原因ははっきりしていませんが、加齢や男性ホルモンの影響と考えられています。前立腺が肥大すると、前立腺の内側にある尿道を圧迫し、さらに前立腺が自律神経の作用で緊張し、尿道を圧迫するため、排尿障害が起こります。
  前立腺肥大症の主な症状としては、夜間に何度もトイレに起きる、排尿に勢いがなくなる、尿がなかなか出なくなり出終わるまで時間がかかる、排尿が終わってもすっきりせず残尿感がある、そしてトイレまで間に合わないで失禁するなどがあげられます。特にアルコールを飲んだり、長く同じ姿勢で座っていたり、冷えたりすると症状が顕著になります。歓送迎会や花見などで宴席の多いこの季節、排尿に異常を感じて受診する方も多くなります。

注意点や検査、治療方法について教えてください。

前立腺肥大症の症状がある人は、日常生活の中で、アルコールはほどほどに、体を冷やさない、便秘を避ける、尿が出づらくなる可能性のある市販の風邪薬を飲むときは慎重に、排尿を我慢しないなどの点に注意してください。
  就寝後に2度以上トイレに起きたり、尿の勢いが弱くなったら、泌尿器科の受診をお勧めします。検査は、尿の勢いや残尿の有無、直腸診などで診断します。初期症状が前立腺肥大症に似ている、前立腺ガンの検査も同時に受けるといいでしょう。
  治療としては、最近ではさまざまなタイプの薬が出ています。医師の指導のもと、自分に合った薬を飲み続ければ、症状はある程度コントロールが可能です。ただし、根本的な治療にはならないので、ころ合いを見計らって手術を受けるのもいいでしょう。内視鏡やレーザーによる手術が可能です。手術法や症状によって、1日から1週間程度の入院ですみます。手術後に再発する率も非常に小さいです。

2007年4月4日水曜日

「経鼻内視鏡検査」について

ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 医師

経鼻内視鏡検査について教えてください。

 内視鏡検査は胃がんの早期発見に有効な検査です。胃がんは日本人が最もかかりやすいがんですが、早期発見、早期治療により完治もしやすいため、定期健診が重要となります。早期の胃がんを発見するには、バリウム検査より、直接胃の中を見る内視鏡検査が有効ですが、内視鏡検査は「苦しい」などと敬遠する人が多いのが実情です。そうした中で最近、「苦しくない内視鏡検査」と注目されているのが、鼻から入れる経鼻内視鏡検査です。  鼻から内視鏡を入れることで、「痛そう」と感じる方もいるかもしれませんが、検査の前に、痛みを感じないよう前処置を行います。鼻腔(びくう)に局所血管収縮剤をスプレーして出血を減らし、鼻の通りを良くした後、通りの良いほうの鼻腔にゼリー状の麻酔薬を注入。麻酔薬を塗布した細くやわらかいチューブを鼻腔に挿入して局部麻酔を行います。この麻酔は注射と違い、痛みはほとんどありません。これらの処置を経て、痛みがなく、内視鏡が通りやすくなったことを確認してから、検査を始めます。 

経鼻内視鏡検査にはどのような特徴がありますか。

 まず第一に、検査中の「オエッ」という吐き気がありません。内視鏡を口から入れると、舌根(舌のつけ根)に触れて咽頭(いんとう)反射を誘発し、吐き気をもよおしますが、鼻からの場合は舌根に触れず、咽頭反射もほとんど起こりません。
  第二の特徴は、口が自由に使えるため、会話が可能で、医師と患者さんのコミュニケーションが取りやすい点です。  第三の特徴は、麻酔薬の量です。口からの検査では、咽頭麻酔を行うため、検査後少なくとも1時間以上は食事ができませんが、経鼻内視鏡検査では、鼻腔への麻酔になるため、量も少なく、終了後遅くとも1時間以内には水を飲んだり、食事ができるようになります。
  経鼻内視鏡検査は、安全で確実な検査方法と考えられます。胃がんの早期発見のために、これまで内視鏡検査を敬遠されてきた方にも、ぜひ経鼻内視鏡検査をお勧めします。
  なお、鼻腔の状態によっては経鼻内視鏡検査ができない場合もありますので、専門医に相談をしてください。

2007年3月28日水曜日

「月経前症候群」について

ゲスト/アップルレディースクリニック 敦賀 律子 医師(非常勤)

月経前症候群について教えてください。

 月経が始まる前に、気分が落ち込む、イライラするなどの精神的症状や、頭痛やむくみ、腰痛などの体調不良を感じたことはありませんか。これは、月経前症候群(PMS)と呼ばれるもので、通常、月経の2週間から1週間ほど前から起こり、月経が開始すると、症状も消失します。排卵後に卵巣から分泌される黄体ホルモンという女性ホルモンによるのではないか、脳で分泌されるβーエンドルフィンという物質が月経前に急激に低下するためではないか、神経情報を伝達するセロトニンが低下するためではないかなど、いくつかの原因が考えられていますが、いずれも、確定はしていません。
 症状とその程度は人それぞれで、何となくだるい、胸が張る、肩が凝る、イライラするという程度の人から、朝、寝床から抜け出すことができない、ふさぎ込んで仕事へ行けない、落ち込んで泣き出してしまうという、日常生活に支障が出る人までさまざまです。

予防法や治療法はありますか。

 月経痛は、体のリズムからくる一時的なものとして受け入れている女性がほとんどです。しかし、月経前症候群は、当事者が原因に思い至らず、さまざまな症状に悩まされている場合が多いのが実情です。定期的に体調や精神面での変化を感じたら、手帳でもいいので、その時期を書き留めておくといいでしょう。「月経前のこの時期に現れる症状」と認識するだけで、体調的、精神的な不安から解放されます。症状がひどい場合は、専門医を受診してください。治療としては、頭痛、腰痛など痛みには鎮痛剤、イライラやうつ状態には安定剤や抑うつ剤など、対症療法が中心になります。あまり症状がひどい場合には低容量ピルによるホルモン療法を行う場合もあります。
 日常生活の中では、ストレスなく、ゆったりとした気持ちで過ごせる環境が大切です。カフェインは症状を悪化させる恐れがあるので、取り過ぎないようにしましょう。あまり神経質にならず、体のリズムとして受け入れ、やり過ごすことが肝心です。

2007年3月22日木曜日

「眼底カメラで分かることと、分からないこと」について

ゲスト/阿部眼科 阿部 法夫 医師

眼底カメラで分かることは何でしょう。

 最近は、人間ドックや会社の健康診断で内科の検査以外に、眼底写真を撮影する機会が多くなっています。最新の眼底カメラはフラッシュも弱く、全自動化されてファイリングが簡単になり、撮影が容易になっています。
 眼底カメラでは、眼球の後部約45度の範囲を円形に撮影します。この範囲は眼底の後極部といい、眼底全体の中では狭い範囲ですが大事な3つの部分が含まれます。1つは視細胞を含む薄い膜(網膜)を貫く網膜血管、2つ目は脳からくる視神経の頭部(視神経乳頭)、3つ目は眼底の中心にあり視力にとって重要な黄斑部の3カ所です。
 網膜血管は人体で唯一肉眼で観察できる血管です。以前から網膜血管の異常や出血、白斑などから網膜血管動脈硬化症、高血圧網膜症、糖尿病網膜症の診断に利用されています。視神経乳頭部は、そのくぼみや周りの網膜の厚さなどが観察の対象となり、最近では緑内障の診断にも利用されるようになりました。黄斑部の病変については、最近増加中の加齢黄斑変性の診断が可能です。これらの3カ所を見れば、40歳以上の成人に発症しやすい大部分の眼疾患を発見することができます。また、そのほかにも眼底写真が全体に薄くぼやけているときは白内障の可能性があります。

眼底カメラで検査を受ければ安心ですか。

 残念ながら、網膜に亀裂があったり、網膜のはく離などの多くは、45度より外側に病変があるため、眼底カメラでは写りません。黒い点、糸くずのようなものが出現する飛蚊(ひぶん)症の症状や、視界の中でピカピカ光るものが見えるような症状が出現したときは、眼科を受診して精密眼底検査を受けることが必要です。精密眼底検査は点眼をして、瞳を大きくして診察しますので、1時間ほどかかります。その後も3~5時間は見えづらい状態になるので車の運転は避けたほうがよいでしょう。眼底検査で異常が疑われたときばかりではなく、目に不調を感じたときは眼科で精密眼底検査を受け、病変を確認しその程度や進行状況に合わせた治療や経過観察が大切です。

2007年3月14日水曜日

「合併症予防のための糖尿病数値管理」について

ゲスト/青木内科クリニック 青木 伸 医師

糖尿病について教えてください。

 細胞内に糖を取り込み、血糖値を下げる働きのあるホルモン・インスリンが作用不足で、継続的に血糖値の高い状態になる病気が糖尿病です。初期には自覚症状がなく、のどが渇く、倦怠(けんたい)感などの症状が現れた時にはかなり進行しています。検診で糖尿病の診断を受けても、まだ初期で無症状の場合がほとんどです。
 しかし、血糖値が高い状態を放置すると、やがて血管や神経などに合併症が起こります。腎臓や目、神経に現れた合併症はいずれも完治が難しく、人工透析が必要になったり、失明、足の切断など、重症化することもまれではありません。また、動脈硬化が進み、心筋梗塞(こうそく)や脳卒中の原因になることもあります。糖尿病と診断されたら、合併症予防のためにも、進行させないことが大切です。

合併症を予防するための注意点を教えてください。

 糖尿病の治療は、血糖をコントロールすることが基本です。具体的には、食事療法、運動療法、薬物療法を行います。初期のうちに、主治医の下で適切な治療を受け、生活習慣を見直せば、合併症は予防できます。治療と自己管理が適切かは、数値で判断できます。HbA1c(過去1~2カ月の平均的血糖値)は重要で、糖尿病の場合は6.5%以下に維持します(正常値は5.8%以下)。実際には難しいと思うかもしれませんが、医師の下できちんと管理を行っていれば、保てる数値です。数値を維持できれば、長期に支障なく生活できます。
 また、糖尿病患者の約半数は高脂血症や高血圧症を合併しています。高脂血症予防には、糖尿病の場合総コレステロール値200mg/dl以下を目標に(健康な場合は220mg/dl)、狭心症のある人は180mg/dl以下に保ち、心筋梗塞や脳梗塞を防ぎます。中性脂肪値は糖尿病の場合、150mg/dl以下の維持を目指します。血圧については、糖尿病のある人は、130/80mmHg以下に維持します。糖尿病の合併症を予防するには、これら血糖値以外の検査値にも注意を払う必要があります。

2007年3月7日水曜日

「ホワイトニング」について

ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 歯科医師

歯を白くする方法を教えてください。

 矯正治療で歯並びがきれいになると、「歯の色が気になる」という人が多くなります。歯の色は肌の色と同じで、個人差があります。また歯の色に影響をあたえるものにお茶やコーヒー、コーラ、タバコなどの外的要因もあります。気になる歯の色は、歯科医でクリーニングやホワイトニングすることによって、程度の差はあっても白くきれいにすることが可能です。難しいのは、歯の神経がダメージを受けていたり、抗生物質など今までに飲んだ薬の影響で変色していたりする、内部からの変色の場合です。この場合に、ホワイトニングでは十分な効果が得られないことが多いです。一時的な方法として、歯のマニュキアもありますがあまりお勧めできません。ホワイトニングでも白くならない性質のものでは、セラミックなどを用いて白くする方法がありますが、健康な歯を削らなければならないという欠点があります。

ホワイトニングについて教えてください。

 歯のホワイトニングには、大きく分けて2つの方法があります。歯科医で行う「オフィスホワイトニング」と、歯科医の指導のもと、自宅で行う「ホームホワイトニング」です。オフィスホワイトニングは、歯に薬品を塗り、特殊な光線を当てて、歯を白くする方法です。処置時間は1時間程度で、2週間から1カ月間隔で3回ホワイトニングを行います。歯の汚れや黄ばみが消えてきれいになりますが、管理が良くても1年程度で再着色が起こります。できれば、オフィスホワイトニング後に定期的なケアとしてホームホワイトニングを行うと、きれいな白い歯が維持できます。
 ホームホワイトニングは専用の薬剤を使って自宅で行います。歯の形に合わせて作ったマウストレーにジェルを入れ、歯にかぶせて2時間程度装着します。これを繰り返すことによって、自然な白い歯になります。都合の良い時間に行えるのが魅力です。回数や期間は薬剤の濃度や効き方によるので、歯科医と相談しながら進めるといいでしょう。すぐに着色することはありませんが、コーヒーやタバコによる再着色があった場合は、定期的に行うといいでしょう。
 ホワイトニングは、すべて健康保険の適用外になります。料金や自身の着色の原因、効果などについて、納得のいくまで担当医に相談してから行うことをお勧めします。

2007年2月28日水曜日

「前立腺の病気」について

ゲスト/元町泌尿器科 西村 昌宏 医師

前立腺の病気について教えてください。

 前立腺はクルミ大の大きさで膀胱(ぼうこう)の出口にあり、尿道を取り巻いている男性特有の臓器で、精のう腺とともに分泌液を出す働きをします。代表的な病気のひとつが前立腺肥大で、50歳過ぎから肥大が進み、やがて尿道を締め付け、尿が出づらくなります。60代で約6割、70代で約7割の人が肥大症といわれています。症状としては、夜間トイレに行く回数が多くなる、尿に勢いが無い、尿がすぐ出ない、少ししか出ない、時間がかかる、残尿感があるなどです。「年だから仕方がない」と放っておくと膀胱の働きが弱くなり、尿管や腎臓に悪影響を及ぼすこともあります。就寝中に3回以上トイレに起きるようになったら赤信号です。  診断は、問診、触診のほか、尿の波形や尿流量を測定したり、画像診断を行います。尿をためた状態で受診すると、検査が1度で済み、効率的です。治療としては、初期であれば薬物療法、症状が進んでいる場合は前立腺部分の尿道を広げる手術をします。根本的な治療ではありませんが、尿道から前立腺に熱を加える高温度治療法は半年から2年程度効果が持続します。

前立腺がんについて教えてください。

 近年、日本で患者数が急増し、死亡数も増えているのが前立腺がんです。原因は高齢人口の増加と、日本人の食生活が欧米型に移行していることが挙げられます。初期症状はほとんどなく、自覚症状が出たときには進行していたり、転移していたりというケースがあります。
 一方で進行が遅く、薬物治療の効果が高いという側面もあります。早期に発見すれば、いたずらに恐れる病気ではありません。
 初期症状は前立腺肥大症と似通っており、受診が遅れてしまう場合があります。50歳を過ぎて排尿に勢いが無いなど変化が出てきたら、前立腺がんの検査を受けることをお勧めします。検査は直腸からの触診、超音波、MRIなどの画像診断が有効ですが、それ以前に血液検査でスクリーニングが可能です。治療は進行状態や年齢などによって、薬物、放射線、手術のいずれか、あるいは組み合わせて行います。

2007年2月21日水曜日

「肌のアンチエイジング」について

ゲスト/緑の森皮フ科クリニック 森 尚隆 医師

肌のアンチエイジングについて教えてください。

「アンチエイジング」とは「老化・加齢に対抗する」という意味で、最近では老化が医学的に解明されつつあり、新しい学問分野にもなっています。皮膚のアンチエイジングに関してですが、皮膚の老化の原因としては、加齢よりも紫外線の影響が大きいということが分かってきています。また、皮脂量の低下による皮膚の乾燥、肌の弾力成分であるコラーゲンやエラスチンの減少、活性酸素による細胞の酸化、たばこの害なども要因としてあげられます。
 特に冬になると肌が乾燥し、皮脂や汗などの分泌の低下、血流や新陳代謝の低下で、皮膚の水分保持力、保護機能、弾力などが低下し、皮膚の老化の原因であるしわやたるみが出現します。また、皮膚の入れ替わり(ターンオーバー)がうまく行われず、しみの原因にもなります。

肌の老化を改善する方法はありますか。

できてしまったしみには、ピンポイントで照射するレーザー治療が可能ですが、最近はカメラのフラッシュのように顔全体を照射し、全体のしみが同時に改善される「フォトセラピー」が主流になってきています。この治療はしみだけでなく、赤ら顔、小じわ、毛穴の開きなども同時に改善するという総合的な肌の若返りが期待できます。
また、皮膚の弾力に必要なコラーゲンを増生させる治療法として、赤外線領域の波長の光を照射し、コラーゲンを自分の力で増生させ、皮膚を引き締め、しみやたるみを改善する方法もあります。ほかにも、最近注目されている治療法として、肌のリセット(入れ替え)を目的に極細針で皮膚に無数の穴を開け、薬剤を皮膚に直接吸収させるマイクロニードルセラピー、ヒアルロン酸やコラーゲンを直接くぼんだ部分に注入して溝を平らにする注入法などがあります。このような治療法のほとんどは痛みも少なく安全で、治療後すぐにメイクや洗顔が可能です。
しかし、これらの治療は、保険の適用外になりますから、効果や料金などについて、医師とよく話し合い、納得してから治療することをお勧めします。

2007年2月14日水曜日

「ピロリ菌と胃疾患の関係」について

ゲスト/やまうち内科クリニック 山内 雅夫 医師

ピロリ菌について教えてください。

正式にはヘリコバクター・ピロリという胃粘膜に生息するらせん形の細菌で、胃・十二指腸潰瘍(かいよう)、胃炎、胃ガンの原因であることが明らかにされています。1983年、オーストラリアのワレン及びマーシャル博士によって、初めて分離・培養され、両博士はこの功績により2005年のノーベル賞を授与されました。発見以前は、強酸性の胃の中では細菌は生存できないと考えられていましたが、ピロリ菌にはアンモニアを産生する力があり、胃酸を中和して胃の中でも生存できることがわかりました。
ピロリ菌は、乳幼児期の免疫機能が不完全な時期に感染すると、慢性的な持続感染になり、成人以降に新たな感染は少ないと考えられています。日本では若い人の感染率は低いのですが、40歳以上では約80%もの人が感染しています。幼少時の衛生環境の差によるものと推測されます。
ピロリ菌に感染すると、まず胃粘膜に炎症が起こり(活動性胃炎)、この状態が長期間持続すると胃粘膜の委縮(委縮性胃炎)が進行しますが、この委縮性胃炎は前ガン状態と考えられています。ピロリ菌感染者の一部に胃、十二指腸潰瘍が発症しますが、胃潰瘍患者の80%、十二指腸潰瘍の95%がピロリ菌陽性です。

ピロリ菌の除菌について教えてください。

胃・十二指腸潰瘍の主要な原因がピロリ菌であることが分かってきてから、治療法は大きく変わりました。除菌療法といい、ピロリ菌を駆除するために2種類の抗生剤を1週間内服し、加えて胃酸分泌を強力に抑制するプロトンポンプ・インヒビターを併用する方法です。この治療法によって、大部分の胃・十二指腸潰瘍の再発を防ぐことができます。もっとも、胃・十二指腸潰瘍の中にはピロリ菌が関与していないもの(鎮痛剤による潰瘍など)もあり、この場合は除菌療法の対象外です。
 ピロリ菌感染の有無は、内視鏡検査で胃粘膜を採取して調べる方法のほか、尿素呼気試験、血清抗体測定、便中の抗原測定などがあり比較的簡単に分かります。なお、近年、委縮性胃炎に対しても胃ガン予防の見地から、除菌療法をしたほうが良いという意見もあります。

2007年2月7日水曜日

「眼の老化予防」について

ゲスト/ふじた眼科クリニック 藤田 南都也 医師

眼の老化について教えてください。

眼の老化は、光刺激によるものと、眼内の血管の変化によるものが主な原因です。
光は波長によって色が違って見えます。可視光線の中でも、短波長でエネルギーの高い、紫から青色の光が有害光とされています。また、可視光線よりも波長が短い光が紫外線(UV)です。紫外線は、その波長により、さらに紫外線A、紫外線Bなどに分類されます。
紫外線Bは眼の表面の角膜に吸収されるので、スキーなどで雪による照り返しや、長時間の屋外作業など、浴びる量が多ければ角膜炎や翼状片(よくじょうへん)などの原因となります。角膜炎は、角膜に炎症が起こり、激しい目の痛みと視力低下などの症状を引き起こします。翼状片は、長時間戸外で作業をしている人に多い疾患で、黒目の横に濁りが生じます。
紫外線Bより有害な紫外線Aは、水晶体に含まれる透明なタンパク質を傷つけ、それが徐々に蓄積して水晶体の濁りである白内障を引き起こす原因になります。空気が薄く紫外線の強いネパールやチベットなどの高地に住む人は、白内障の有病率が高いことが分かっています。
また、有害な青紫色の光は、そのエネルギーにより、水晶体をも透過して、視力にとって最も大切な網膜の中心にある黄斑(おうはん)という部分が変性し視力が低下する黄斑変性症の原因になることも判明しています。

予防や対策について教えてください。

晴れた日には雪面の反射もあり、まぶしく感じることも多いこの季節、スキーや雪道のドライブ時は、サングラスを着けて目を紫外線から守る必要があります。ただし、UVカットの表示があるものでも、紫外線Bしかカットしないものが多いので、過信は禁物です。つばの広い帽子やフードのついた上着、春以降は日傘なども効果的です。
また、テレビやOA作業時のモニター画面から出る青色光が眼にとって有害ですので、長時間の視聴やOA作業の際には、眼の保護が必要です。
血管の変化やその他の加齢による老化を防止するには、バランスのとれた食事を心掛けたり、眼の健康に役立つサプリメントをとる、適度な運動をしてストレスをため込まないなど、生活習慣の見直しが大切です。

2007年1月31日水曜日

「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」について

ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 医師

COPDについて教えてください。

「Chronic Obstructive Pulmonary Disease(慢性閉塞性肺疾患)」の略で、気管支の炎症や肺の弾力性の低下によって気道が狭窄(きょうさく)し、呼吸機能が低下する慢性気管支炎や肺気腫を指します。2000年のWHO(世界保健機関)の調査では世界の死亡原因の第4位で、20年には虚血性心疾患、脳血管障害に次いで第3位になると予想されています。日本には予備軍も含め500万人以上の患者がいるといわれています。  原因は喫煙や大気汚染、職業上の塵埃(じんあい)暴露などですが、最も大きいのは喫煙です。特に40歳以上の男性に多く、喫煙者の約2割の人がCOPDになるといわれています。せき、たん、体動時の息切れが主な症状です。正常な肺胞は膨張と収縮を繰り返して新鮮な空気を取り入れますが、COPDでは肺胞壁の炎症、破壊による気腔の拡大、気管支支持組織の断裂、気管支の慢性炎症による狭窄などによって換気機能が低下します。肺胞に取り込まれた空気が外へ出にくくなり肺が膨張します。破壊された肺胞は元には戻りません。

診断、治療法について教えてください。

診断は、喫煙習慣、せき、たん、息切れといった症状、視診、打診、聴診に、レントゲン、呼吸機能検査、胸部CT検査などで詳しく調べます。特に呼吸機能検査は息切れの発症を早期に検知できます。似た症状の疾患として、気管支ぜんそく、肺結核後遺症、気管支拡張症、肺線維症などがあります。  治療には、まず禁煙が一番です。禁煙により肺機能の低下を緩やかに抑えられます。最近は、禁煙外来を行なっている医療機関が増えているので、なかなか禁煙できない人は受診するといいでしょう。禁煙プログラムに沿って保険診療が受けられます。  薬物療法は症状の軽減、増悪の頻度を低下させ重症化を防ぐのに有用です。吸入用抗コリン薬を中心にその他の薬剤との併用が一般的で、残っている呼吸機能を最大限に生かすために、理学療法、運動療法、食事なども大切です。進行して呼吸不全になった場合は酸素療法が必要です。日常生活の注意点としては、人込みを避ける、寒冷刺激を受けない、普段から風邪などの感染症対策を行うことなどが重要です。

2007年1月24日水曜日

「これからの分娩(ぶんべん)」について

ゲスト/愛産婦人科 三宅 敏一 医師

出産に際して重要なことは何ですか。

妊娠した女性が受診される際に、まずじっくりご夫婦と話し合う時間を大切にしています。そのとき、お産には最悪の場合、妊婦の死亡、胎児・新生児の死亡をはじめとした合併症のリスクがあるということをお話しします。日本は世界的に見て、非常に分娩環境が良く、妊婦、新生児、乳児の死亡率も先進国でも低い部類に入ります。しかし、出産には常にリスクが伴うことを妊婦さん、そして父親になるご主人、双方のご両親などにきちんと理解していただきたいのです。
出産に際して医師および助産師が必死で取り組むのは当然ですが、妊婦さんやご主人にも同様の心構えで取り組んでもらい、リスクを極力減らしたいと考えています。

お産に関して、最近の傾向というのはありますか。

立ち会い出産を希望する人が増えています。ある調査では夫の八割以上が立ち会いを望んでいるという結果もあります。私は強制はしませんが立ち会い出産を推奨しています。夫の存在は、妊婦さんの支えになるということはもちろん、医療の現場を自分の目で見て納得するという意味合いからも、ぜひ立ち会ってほしいと考えています。
また、妊婦さんの希望としては、同じ助産師に、継続的にきめ細かなケアをしてもらいたいというのがあります。これは、今後産科医師が減少するという日本の現実を考える上でも重要なことだと思います。助産師と妊婦が協力して出産に取り組み、医師が万全のバックアップ体制をとる。ひとたび妊娠・分娩が急変すればいつでも医師が駆け付け帝王切開や緊急手術で対応する、あるいは高次医療機関へ搬送できる、という体制が必要なことはいうまでもありません。
助産師分娩は時間がかかりますが、出産スタイルも自由で、会陰(えいん)裂傷をおこしたり、会陰を切開することも少なく、また、妊婦さんのアメニティが高く、産後の回復も早いことが特徴です。今後は妊婦さん側の希望によってこのような出産が増えると思います。

2007年1月17日水曜日

「リウマチの早期診断と新しい治療」について

ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 医師

リウマチについて教えてください。

関節リウマチは、膠原(こうげん)病という自己免疫疾患の一種で、全身の関節が炎症を起こし壊れていく病気です。重症になると歩行困難や痛みのため日常生活が大きく制約されます。原因は不明で、女性は男性に比べ3~5倍と多く、主に20~60代にかけて発症し、40代がピークで決してお年寄りの病気ではありません。
リウマチの完治は難しいのですが、最近はさまざまな治療薬があり、上手に付き合っていくという心構えが大切です。リウマチを進行させないためには、初期の段階で治療をスタートすることが肝心です。
初期の症状としては、朝起きたときに「手を握りづらい」などの関節のこわばり、関節の痛みや腫れ、むくみ、微熱やだるさが2週間以上続くなどがあります。このような症状があらわれた場合は、なるべく早めにリウマチ専門医、または整形外科を訪ねて検査を受けてください。

治療方法について教えてください。

関節破壊を予防するために、できるだけ早期から抗リウマチ薬を使用します。炎症や痛みを抑えるため、ステロイド薬や非ステロイド性抗炎症薬を使用することもあります。同時にリハビリや湿布、関節注射、リウマチを正しく理解するための教育なども必要に応じて行います。関節の変形や脱臼などが起こった場合には、外科手術を行うこともあります。
このような治療は以前から続けられてきたものですが、近年、レミケードやエンブレルなどの生物製剤が出てきて、リウマチ治療に画期的な効果をあげています。症状を和らげるだけでなく、関節の破壊を食い止める効果があります。中には、発症以前と変わらずに生活できるほど改善する場合もあります。ただし、肺炎や結核など感染症にかかりやすくなる、健康保険が適用されていても高価であるなどの問題点もあります。治療法については、自分で納得することが重要ですから、よく医師に相談するとよいでしょう。

2007年1月11日木曜日

「高血圧」について

ゲスト/宮の沢内科・循環器科クリニック 佐藤 愼一郎 医師

高血圧について教えてください。

まず、高血圧の基準ですが、日本でも世界でも上(収縮期血圧)が140mmHg以上、下(拡張期血圧)90mmHg以上で高血圧ということになります。  高血圧は、肩凝り、頭痛、動悸(どうき)、めまいなどの症状が現れることもありますが、多くの場合はっきりとした症状がないため、健康診断などで指摘されても、あまり気に留めない人が多いのも事実です。  しかし、高血圧の本当の恐ろしさは合併症にあります。高血圧によって血管や心臓に強いストレスをかけ続けていると、やがて狭心症、心筋梗塞(こうそく)、心不全、脳卒中、腎不全など、生命の危機や、大きな障害に結びつく重大な疾患を引き起こす要因となります。健康診断などで医師に高血圧を指摘された場合は、必ず専門医を受診してください。

高血圧と診断されたらどうなりますか。

最初に過去の経過や家族歴、合併症などから重症度を評価し、軽・中等症の場合、治療のスタートは食事療法、運動療法など生活習慣の改善から始まります。 また、高頻度に合併する糖尿病や高脂血症のコントロールが特に大切です。  食事面では、まず塩分制限が重要になります。高血圧患者の一日の塩分摂取目標は6g以下です。さらに体重がオーバーしている場合は、カロリーコントロールが必要です。適度のアルコールは構いません。喫煙している人は、ぜひ禁煙してください。タバコは血管をひどく傷めます。  運動は、軽めの運動を30分程度、週に3回以上続けると効果があります。ひと駅歩く、エレベーターを使わないなど日常の中で意識して運動量を増やすといいでしょう。  このような生活習慣の改善を行っても、血圧が高いままの場合は、薬物治療を開始します。最近は副作用も少なく優れた効果の降圧薬も多く、服薬の継続が血圧の安定をもたらし、心・脳・血管系の病気の予防や健康寿命に役立っています。もちろん、減塩や肥満の是正など生活習慣の改善が順調であれば、それだけで血圧が良好に管理されることも可能です。ただし、家族歴のある人は慎重な観察が必要です。いずれにしても、自分勝手な判断で服用を中止するのは危険です。

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