2010年12月22日水曜日

「前立腺肥大症」

ゲスト/ベテル泌尿器科クリニック 三熊 直人 院長

前立腺肥大症とはどのような病気ですか。
 前立腺肥大症は中高年男性でよくみられる前立腺の良性腫瘍(しゅよう)で、加齢とともに増加します。近年では前立腺肥大症の発症時期が若年齢化の傾向にあり、40代から悩みを抱える人もおられます。また、以前にはほとんど見ることのなかった、前立腺の推定重量が100〜200gにも及ぶケースも増えてきています。その原因は不明ですが、食生活の欧米化により、動物性タンパク質や脂肪を多く摂取するようになったことが要因の一つと考えられます。
 初期の自覚症状はおしっこが近い、夜中に何回もおしっこに起きるなどの頻尿です。肥大が進んでくると尿道が圧迫されて、尿の勢いが悪くなります。また、就寝後に2回以上おしっこに起きる夜間頻尿の患者さんでは、おしっこに起きた時に転倒して骨折したり、脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞の発症により、死亡率が夜間頻尿のない場合の2~3倍になる事も知られています。

前立腺肥大症の治療について教えてください。
 症状が軽度であれば投薬による治療を行います。しかし、前立腺重量が35gを超えるようになると、薬によっては十分な症状の改善が得られず、外科的治療を考慮する必要があります。
 外科的治療には多くの方法がありますが、新しい治療法として注目されているのがホルミウムレーザーによる経尿道的前立腺核手術(HoLEP:ホーレップ)です。ホーレップでは尿道内から前立腺の肥大した部分のみをくり抜くように切除します。この方法では再発のリスクが低く、また、出血が少なく回復が早いため入院期間も短縮できます。当院では2005年1月5日から2010年12月6日までにホーレップの手術件数が1420件に上りますが、患者さんに最も喜ばれているのが術後の痛みがほとんど無いという事です。
 薬による治療で十分な患者さんも多くいらっしゃいます。しかし、手術以外に症状を改善できない状態でも、漫然と薬を飲み続けている患者さんも少なくありません。手術による痛み、出血そして再発などの問題を考慮するとHoLEPは、前立腺肥大症を抱えたすべての患者さんにとって良い知らせであると思います。

2010年12月15日水曜日

「インフルエンザ」

ゲスト/つちだ消化器循環器内科 土田 敏之 院長

インフルエンザとはどのような病気ですか。
 インフルエンザとは、インフルエンザウイルスによる感染症を指します。インフルエンザには強い感染力があり、短期間のうちに流行が拡大し、死者を出すほど重症に陥るケースも珍しくありません。
 インフルエンザにかかると38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、倦怠(けんたい)感など全身の症状が強く、合わせて、のどの痛み、咳(せき)、鼻汁などの症状も見られます。さらに、気管支炎、肺炎などを併発することが多いのもインフルエンザの特徴です。ただし、インフルエンザか風邪かを自己判断するのは危険です。急激に熱が上がっても、ただの風邪である場合や、逆にインフルエンザ特有の症状がなく、体温も微熱程度や平熱のままでもインフルエンザであるということがよくあります。体の不調を感じたら、早めに医療機関を受診するのが良いでしょう。

インフルエンザの治療と予防について教えてください。
 もしもインフルエンザにかかってしまったら、まずは安静にして、十分に睡眠をとるようにしましょう。発症が48時間(2日)以内であれば、医療機関でインフルエンザウイルスの増殖を抑える薬を処方してもらえます。できるだけ病気の初期に治療を開始した方が効果を期待できますので、あやしいと思ったらすぐに医師の診断を受けることが大切です。
 家族に感染者が出たら、周りの人たちはウイルスに感染する機会を減らすことが重要です。インフルエンザウイルスは湿度に弱いので、加湿器などを使って部屋を適度な湿度(50〜60%)に保つようにしてください。
 また、空気中のウイルスを減らす空気清浄機を使用するのも、一つの方法です。時々窓を開けて室内の空気を入れ替えること、流行期には外出する際にマスクを着用することも有効です。
 マスクは罹患(りかん)した人では、咳やくしゃみの飛沫(ひまつ)から他人に感染するのを防ぐ効果もあります。感染者の衣服にはインフルエンザウイルスが付着していると考えられますが、ほかの家族の衣服などと一緒に洗濯しても感染する可能性は少ないです。

2010年12月8日水曜日

「降圧剤と合剤」

ゲスト/北海道大野病院附属駅前クリニック 古口 健一 院長

降圧剤とはどのような薬ですか。
 降圧剤は血圧を下げる薬です。現在使われている降圧剤は数多くあり、血圧を下げる仕組みも作用の強弱も千差万別です。同一薬剤でも何種類もの働きを持つものがあり、また心臓や腎臓機能に対する作用もまちまちです。例えば、心臓が1回に送り出す血液量を減らして血圧を下げる薬に、β遮断薬や利尿剤があり、一方、末梢(まっしょう)神経を拡張させることで血圧を下げる薬に、ACE阻害薬やカルシウム拮抗薬があります。また、現在主流の一つであるARB(アンギオテンシン受容体拮抗薬)には心臓・腎臓の保護効果があります。
 血圧を調節するメカニズムは複雑です。また、1種類の薬だけでは使用量が増え、副作用が起こりやすいので、高血圧症の治療には作用機序の違う薬を組み合わせて使うことが多くなります。例えば、ARBと利尿剤。これらを1種類のみ使い、目標血圧まで下げようとすると副作用が出やすくなりますが、両方を少量ずつ使うことにより降圧効果も見込め、副作用の出現を抑えることができます。さらには組み合わせる種類によっては、副作用を打ち消し合うこともできます。

合剤について教えてください。
 何種類かの同じような薬効、あるいは異なる薬効を持った成分を一つの薬の中に配合した医薬品を合剤といいます。降圧剤においても、近年、次々と新しい合剤が登場しています。ARBに利尿剤を組み合わせた合剤やARBにカルシウム拮抗薬を組み合わせた合剤(降圧効果が強く、虚血性心疾患や脳血管障害にも使いやすい)が出ていますが、この他にカルシウム拮抗薬に高脂血症薬を組み合わせた血圧とコレステロールを同時に下げる薬も登場しています。
 合剤のメリットとして、患者さんにとっては、処方された複数の薬を服用するよりも、合剤は基本的に1日1回1錠で済むようになっていますから、手軽でQOL(生活の質)への影響も少なく、飲み忘れや服用比率のミスを防げる点で安全です。ただし、合剤はあらかじめ一定の割合に配合されているため、特定の成分のみ量を増やすことができません。医師にとっては投与量の微妙な調整がしにくいというデメリットもあります。
 今後もおそらく、合剤への流れは続くと思われますが、患者さん個々の症状によっては合剤の使用がすべてプラスに働くとは限りませんので、まずは専門医にご相談ください。

2010年12月1日水曜日

「皮膚がん」

ゲスト/宮の森スキンケア診療室 上林 淑人 院長

皮膚がんとはどのような病気ですか。
 皮膚がんは、どの組織の細胞から、がんが発生したかで分類され、さまざまな種類があります。数多くの皮膚がんは、皮膚の表皮から発生するがんと、ホクロから発生するがんの二つに大きく分けられます。前者は一般に顔や手の甲など日光によくさらされるところに出やすいのが特徴です。このことが日光、特にその中に含まれる紫外線が主な原因であることを端的に物語っています。後者のホクロのがんは非常に悪性の度合いが高く、比較的初期の段階から転移する可能性が高いので注意が必要です。身体のあらゆる部分から発生しますが、最も多いのが足のうらです。
 皮膚がんは他のがんと比べて、皮膚の変化が目で見てすぐ分かるため、原則的には早期発見しやすく適切な治療が可能です。しかし、いつまでも治らないキズや湿疹(しっしん)だと思って放置してしまい、発見が遅れると根治治療が難しくなる場合もあります。
 高齢になりますと、さまざまな皮膚のできものができやすくなります。多くのものは良性ですが、中には悪性のものもあります。一般の人が直接見て判断するのは難しいと思われますので、突然できて治りにくいできものやジュクジュクしているもの、盛り上がってきたもの、腐ったようなにおいを発しているものであるならば、まず専門医に相談するのがよいと思います。

皮膚がんの治療や予防について教えてください。
 さまざまな見た目をとり、種類も多い皮膚がんの診断は、見る診察が基本であり、重要です。できものの一部を採取して病理組織検査を行う場合もあります。皮膚がんの治療で最も一般的な方法は、患部の外科的切除です。できものの性質、大きさ、部位などを総合的に考慮して行われます。がんが小さいうちに発見できれば、それだけ傷は小さく目立たなくなります。
 予防という観点からは、過度に日光、紫外線を浴び過ぎないということです。これは年を取ってからばかりではなく、子どものころから心掛ける必要があります。紫外線の浴び過ぎは、皮膚がんの頻度を増加させることに加え、皮膚の老化も促進します。
 多くの皮膚がんに痛みやかゆみなどの自覚症状が見られないことから、気が付かなかったり放置したりしてしまう傾向があります。毎日見ている自分や家族の皮膚に、日ごろ目にしない変化を認めたら、迷わず専門医を受診することが何より大切な心構えです。

2010年11月24日水曜日

「網膜上膜」

ゲスト/札幌エルプラザ 阿部眼科 阿部 法夫 院長

網膜上膜とはどのような病気ですか。
 網膜上膜は、網膜の比較的中心部に膜が張って、物がゆがんで見えたり見づらくなったり、かすんで見えたりする病気です。セロハン黄斑症、網膜前膜、黄斑上膜、黄斑前膜などとも呼ばれ、これらはすべて同じ病気です。ポピュラーな眼疾患とはいえませんが、健康診断の眼底検査などで偶然に発見されることも珍しくありません。遠くのビルを眺める時、直線部分が波打っているように見えたり、テレビに映る人物の輪郭がゆがんで見えたり、また、文字を読む時も見誤りが多くなるなど、普段の生活にも不便を感じるようになります。ただし、両目で見ていると、良い方の目が優先され、見づらさを感じない場合があるので、片目ずつ確認する必要があります。
 加齢に伴い、眼の中の硝子体が縮むことが原因で、眼底の中心に近い網膜の上に膜が張り付いたような状態になります。それが収縮すると、しわが寄り、物がゆがんで見えづらくなるのです。発症の多くは40歳以降に見られますが、はっきりとした発生頻度は不明です。進行が早く、約1年で眼底に広がってしまうほど悪化するケースもあります。
 網膜上膜と同様の症状を呈する病気に、加齢黄斑変性や黄斑円孔など失明の危険性があるものもありますので、専門医による詳細な診断が必要です。

網膜上膜の治療について教えてください。
 点眼や内服薬で有効なものはありません。自覚症状が軽度の場合には経過観察をします。自然に治癒するケースもありますが、症状が進行し、ゆがみやかすみが強くなり、視力が低下すると硝子体手術を行います。長らく治療の困難な疾患でしたが、硝子体手術の進歩により手術が可能になりました。
 長寿社会の今日、完全な失明には至らないまでも、文字が読みづらくなるような“社会的失明”は避けなければならないリスクです。そのためには早期発見・早期治療が原則となります。眼疾患には自覚症状のないものも多いので、人間ドックや健康診断の眼底検査などを積極的に受診しましょう。若い人も眼鏡作成時の検査、コンタクトレンズの検査などをきちんと受ける習慣を付けることが大切です。また、定期的な検査を継続できるよう主治医を決めておくことをお勧めします。

2010年11月17日水曜日

「インフルエンザ」

ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長

インフルエンザとはどのような病気ですか。
 インフルエンザは、毎年、冬から春先にかけて大きな流行を繰り返すインフルエンザウイルスによる感染症です。昨年は新型インフルエンザが猛威を振るい、社会も大混乱したことが記憶に新しいと思います。インフルエンザウイルスは患者さんの鼻汁や痰(たん)に潜んでいて、くしゃみや咳(せき)とともに空中に飛び出します。インフルエンザウイルスは温度が低く、湿度が低いほど長時間生存し、感染する力を保持します。そのため、寒く、乾燥するこれからの季節ほどまん延しやすいと考えられています。
 インフルエンザの症状は、ほかの風邪のウイルスに比べて、全身の症状が強いことが特徴です。高熱、頭痛、関節痛、全身のだるさなどが体を襲います。特に抵抗力の弱い乳幼児や高齢者が重症化しやすく、死亡する可能性もあります。昨年の新型インフルエンザでも、世界中で多くの人が犠牲になりましたが、日本の新型インフルエンザの死亡率は先進国の中では最低でした。これは日本の国民皆保険制度のおかげで、発症早期に病院を受診でき、また初期からタミフルやリレンザなどの抗ウイルス薬を使用できたことなどによります。

インフルエンザの予防と治療について教えてください。
 インフルエンザの予防にもっとも有効な対策はワクチンの接種です。今シーズンのインフルエンザワクチンは,昨年発生した新型インフルエンザと従来の季節性インフルエンザ(A香港型)とB型の3つの株が混合された3価ワクチンを使用して実施されています。
 昨年は約2000万人の方が新型インフルエンザに罹患しましたが、今年も再度,新型インフルエンザが流行する可能性は十分にあり、また昨年流行しなかったA香港型の流行も予想されますので、自分自身や家族を守るためにもワクチンの接種をお勧めします。
 誰にでも手軽にできるインフルエンザの予防法が手洗いとうがいです。手洗いは手指など体に付いたウイルスを除去するために有効であり、うがいは口の中を清浄にします。どちらも感染症予防の基本ですので,日ごろから徹底するように心掛けましょう。万一、38℃以上の高熱や関節痛などインフルエンザ症状がでてきたら、病院を受診してください。ウイルスの増殖を抑える薬を処方しますが、早いほど効果的です。

2010年11月10日水曜日

「最新の糖尿病治療薬」

ゲスト/医療法人社団 青木内科クリニック 青木 伸 院長

最新の糖尿病治療薬について教えてください。
 糖尿病治療薬の最近の進歩は目覚ましいものがあります。飲み薬では、高血糖の時にだけすい臓からインスリンを分泌させ、正常血糖へ下げる「DPP-4阻害薬」があります。この薬は理論的には低血糖を起こさず治療できる新薬です。糖尿病の平均血糖の指標であるHbA1cを下げる効力は1.0%前後。この薬と同じ系統の注射薬も登場し、「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれています。この注射薬のHbA1cを下げる効力は1.6%前後。現在は1日1回の注射が必要ですが、将来的には1週間に1回で済む注射薬も出る予定です。この系統の注射薬は、すい臓のインスリンを出す細胞を保護し、インスリンの分泌を弱らせない作用も持ち合わせているといわれています。
 一方、インスリン注射薬に眼を向けると、「持効型インスリン(1回の注射で24時間効果を持続する長時間作用型インスリン)」があります。飲み薬の治療が効かなくなる症例でも、飲み薬をそのまま服用しながら、1日1回の持効型インスリンの注射を加えると血糖が改善する症例もあります。「混合型インスリン」は、持続型インスリンと超速効型インスリンの合剤ですが、超速効型インスリンの含有率が50%〜70%の製剤が最近使用できるようになりました。食後血糖の高い症例を治療するのに便利なインスリンです。

糖尿病の治療について教えてください。
 糖尿病の治療が良好といえる目安はHbA1cが6.5%以下になっている場合です。糖尿病の患者さんの約半数が高血圧と脂質異常症(高脂血症)を合併しているといわれています。糖尿病を合併した高血圧の治療はとても重要で、血圧の治療目標値は130/80mmHg以下です。自宅で簡易血圧測定器を使用して治療に役立てる方法もあります。この場合使用する測定器は、指先や手首に巻くタイプのものではなく、上腕に巻くタイプのものをお勧めします。脂質異常症の治療目標値は、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が120mg/dl以下です。以上のようなさまざまな基準値を長期間保てば、眼底出血(失明)、腎臓の悪化(透析)、足の潰瘍(かいよう)・壊疽(えそ)による足の切断など糖尿病に由来する重症の合併症にならなくて済みます。それ以外にも脳梗塞(こうそく)、心筋梗塞などの予防にもつながります。

2010年11月4日木曜日

「肺炎球菌とワクチン」

ゲスト/産科 婦人科 はしもとクリニック 橋本 昌樹 医師

肺炎球菌とはどのような菌ですか。
 肺炎球菌は細菌の一種で、その名の通り肺炎を引き起こす菌です。肺炎は高齢者に問題となっていますが、今回は子どもの病気についてお話します。生まれたばかりの赤ちゃんは、お母さんからもらった抗体による免疫で、さまざまな菌から身を守っていますが、肺炎球菌に対する抗体は生後3カ月程度でなくなってしまいます。その一方で、幼稚園・保育園で集団生活をしているほとんどの園児の、のどや鼻の粘膜から肺炎球菌が見つかっています。
 肺炎球菌が起こす病気には菌血症、肺炎、髄膜炎などがあり、また急性中耳炎の原因にもなっています。特に問題となるのは髄膜炎で、それは死に至ることのある疾患だからです。髄膜炎にかかると、発熱、授乳困難、嘔吐(おうと)、けいれんなどの症状が出ます。また大泉門(頭蓋(ずがい)骨の間にあるやわらかい部分)が炎症で隆起します。大人に比べて子どもでは症状の進行が早いため、とにかく速やかな治療が必要になってきます。
 治療には、細菌に有効な抗生物質を使います。しかし近年、耐性菌によって抗生物質が効かない菌も増えていますので、治療は難しくなっているのが現状です。

肺炎球菌の予防にはワクチンが効果的と聞きましたが。
 日本では毎年約1000人の子どもが細菌性の髄膜炎にかかるといわれており、肺炎球菌による髄膜炎の死亡率は10%、マヒや精神障害などの後遺症が残る率も30〜40%と非常に高くなっています。
 2007年に世界保健機構(WHO)は、肺炎球菌ワクチンの有効性と安全性を高く評価し、加盟各国に子どもたちへの定期接種を勧告しました。現在、世界100カ国以上でワクチンが承認され、45カ国以上で定期接種化されています。
 日本では、今年の2月に小児用の肺炎球菌ワクチンが初めて販売され、任意接種ですが使えるようになりました。このワクチンは、肺炎球菌の7種類のタイプに効果があることから「7価ワクチン」と呼ばれており、肺炎球菌の70〜80%に有効であるとされています。また、現在国内では、より多種類のタイプに効果のある新しいワクチンの開発も進んでいます。子どもたちにとって福音となる、これらのワクチンが社会に広く普及することが望まれます。

2010年10月27日水曜日

「非びらん性胃食道逆流症(NERD)」

ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

非びらん性胃食道逆流症とはどんな病気ですか。
 胸焼けしたり胃酸が込み上げたりするなどの逆流症状を来す疾患を胃食道逆流症(GRED)と言いますが、その中で食道に炎症を認めるものを逆流性食道炎、炎症を認めないものを非びらん性胃食道逆流症(NERD)と言います。
 GREDは食生活の欧米化、高齢化が進んだのに加えて日本人のピロリ菌感染者が減ってきたことなどにより今後の増加が予想されています。そして、GREDの患者さんの約70%がNERDであるとされ、その原因がまだ明らかにされていないため、治療にも難渋することが多く、近年問題となっています。
 NERDの患者さんは逆流性食道炎の患者さんと比べて胃酸の逆流の程度は軽いにもかかわらず、逆流性食道炎の患者さんと同等以上の胸焼け症状を自覚することが特徴です。その原因として胃酸以外の液体や気体の逆流の関与、逆流に対する食道の知覚過敏、逆流が関与しない食道の運動機能異常などが考えられています。
 NERDの診断は、症状と逆流との関連性を評価する有用な検査として「食道pH・多チャンネルインピーダンスモニタリング」というものがありますが、現状では国内の一部の限られた施設でしか行われておらず、日常臨床では難しいため、逆流症状があるが、内視鏡検査で食道に炎症所見が認められないことにより診断されるのが一般的です。

治療法について教えてください。
 NERDの治療は、逆流性食道炎と同様に第一選択薬に「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」という強力な酸分泌抑制薬を使用しますが、50%近くが標準的なPPIによる治療に反応しないため、その場合は投与量や投与方法を変更したり、さらに消化管運動改善薬、漢方薬などを併用したりします。以上の内科的治療でも効果が乏しく、逆流症状によって著しいQOL(生活の質)の低下を来している場合は、逆流防止手術が選択されることもあります。
 NERDは、「見えない現代病」ともいわれ病気としての認知度が低く、病変が見つからないことで気のせいだと言われたり、胃炎などほかの病気と間違われて不要な薬が処方されたりしかねない病気ですので、左記のような症状がある人は早めに専門医を受診しましょう。

2010年10月20日水曜日

「歯科金属アレルギー」

ゲスト/庄内歯科医院 庄内 淳能 院長

歯科金属アレルギーについて教えてください。
 金属アレルギーといえば、汗や体液によってアクセサリーや時計などの金属が溶け出し、皮膚にかゆみや湿疹(しっしん)を引き起こすという症状が一般的ですが、歯の治療で用いた金属が原因で引き起こされる歯科金属アレルギーもあります。これは、金属の冠や支台、インプラントに含まれるニッケルやパラジウムなどがだ液で溶けて、体内に蓄積されることによって起こります。症状としては、手のひらや足の裏に水ぶくれのようなものが現れる掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)、アトピーに似ているが食べ物に反応しない偽アトピー性皮膚炎、顔に赤くカサカサした湿疹ができる顔面湿疹などが挙げられます。
 皮膚科で検査しても原因が特定されず、対症療法(病気の根本原因にかかわらず、症状を抑えることを目的とした治療)で治癒しなかったり、再発を繰り返す場合には、歯科金属アレルギーが疑われます。

診断方法や治療法を教えてください。
 金属アレルギーの有無はパッチテストで判定できます。パッチテストとは、歯科治療に使用される金属に対応したパッチを皮膚に張り、どの金属にアレルギーがあるかを調べる検査です。歯科金属アレルギー治療の一環として、パッチテストを行う場合は保険が適用できます。当クリニックでは17種類の金属アレルギーに対するパッチテストを実施しています。パラジウムなど一部の金属は、少し時間が経過してからアレルギー反応が発現することがありますので、48時間後、72時間後、7日後に金属アレルギーの有無を判定しています。
 金属アレルギーがあった場合、とりあえず歯の金属冠をはずして様子をみます。本来は症状がなくても、金属を口腔(こうくう)内に入れず、代替のオールセラミックやハイブリッドセラミックを歯冠修復に使用するのが理想的です。しかし、保険が適用にならないため費用が高くなり、すべての歯科金属を排除するのは現実的には困難です。小臼歯と前歯については、プラスチックの一種である硬質レジンを保険適用で使用することができます。
 いずれにしても、金属アレルギーの傾向があり、原因不明の皮膚炎や症状に悩まされている人は、一度歯科金属アレルギーに詳しい歯科医を受診し、原因を特定することをお勧めします。

2010年10月13日水曜日

「歯科矯正」

ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 院長

なぜ、歯科矯正が必要なのですか。
 初対面の人を見るとき、歯並びやかみ合わせは、顔の印象を決める大きな要因の一つです。実際患者さんの中には、歯並びが悪く「口をあけて笑うことができない」「人前で話したくない」など、見た目のコンプレックスから歯科矯正を始める人が多いのも実状です。しかしながら、歯並びやかみ合わせを治すということは、ただ審美的にきれいな口元を作り出すことだけが目的ではありません。
 歯並びが悪いと、歯磨きが隅々までできず、虫歯や歯周病、口臭の原因になります。しっかりとかんで食べることができないので、胃腸など消化器官にも大きな負担がかかります。また、かみ合わせが悪いと、肩凝りや頭痛、顎(がく)関節症の原因にもなります。前歯がかみ合わない開咬(かいこう)や、下のあご(歯)が出ている反対咬合(こうごう)などのケースでは、発音に影響する場合があります。さらに、正しいかみ合わせでよくかむという事は、脳の発達に良い影響を及ぼすという研究結果もあります。
 きれいな歯並びを持つことは、口の中の健康、そして全身の健康を維持することにつながります。歯科矯正は、他の病気を治すのと同じように歯の正常なそしゃく機能を回復することと、健やかな心と体をつくるための歯科治療なのです。

歯科矯正を始める時期について教えてください。
 年齢に上限はありませんが、成長期にある子どもは成長を利用しながら治療を進められるので、条件がより有利になるといえるでしょう。子どものうちに適切な検査・診断を受け、必要であれば矯正治療を行ってきれいな歯並びにするのが理想的です。
 日本では歯科矯正に対する認識が欧米に比べるとまだ低いといえますが、近年は成人の矯正治療も増加傾向にあります。成人矯正の大きな問題点であった矯正装置の見た目の問題も、矯正装置(ブラケット)を歯の裏側に付ける見えない治療方法や、表側でもセラミックや人工ダイヤなどの素材を使った目立たない治療が可能となっています。また、金属アレルギーに対しては、チタン製やニッケルの含有量の少ないブラケットやワイヤーも開発されています。
 歯並びやかみ合わせのタイプや程度によって治療に最適な時期や内容は異なりますので、まずは専門医に気軽に相談してみてください。

2010年10月6日水曜日

「過敏性腸症候群」

ゲスト/佐野内科医院 佐野 公昭 院長

過敏性腸症候群とはどのような病気ですか。
 下痢や便秘などを繰り返し起こし、腹痛を主とするおなかの症状があるのに、検査をしても原因となる異常が見つからない病気です。症状は大きく分けて、頻繁におなかが痛くなり、下痢をするタイプ(下痢型)、便秘が続き、排便の前におなかが苦しくなるタイプ(便秘型)、下痢と便秘を繰り返すタイプ(混合型)の三つに分けられます。便通の異常以外に、いつもおなかが張った感じがする、便が残っているような気がする、おなかがゴロゴロ鳴るといった症状を伴う場合もあります。
 過敏性腸症候群の症状に悩んでいる人は、全人口の約10%といわれ、ここ数年で増加傾向にあります。しかし、実際に医師の診察を受けている人はその半数以下であり、多くの人が一時的な下痢や便秘と思い込んで、市販の薬で対処するなど自己流の治療を行っているようです。
 過敏性腸症候群の原因は、まだはっきりと解明されてはいませんが、不規則な生活習慣や食習慣の乱れ、ストレスなどが関係しているのではないかと考えられています。感染性腸炎に罹患(りかん)した後に発症する場合もあります。

過敏性腸症候群の治療について教えてください。
 問診で症状を聞き、血液や便、X線(レントゲン)撮影などの検査を行います。必要があればバリウム検査や大腸内視鏡検査なども行い、炎症や潰瘍(かいよう)など別の病気がないかを調べます。
 過敏性腸症候群は、その主な原因が心理的・精神的な問題と深く関係している場合が多いため、まず病気についてよく理解し、病気が起こった背景を明らかにし、医師と深い信頼関係をもって二人三脚で治療を進めることが重要です。治療の主軸となるのは、生活習慣と食事の改善です。毎日決まった時間に食事を取る、夜遅くの飲食は避ける、適度な運動をする、睡眠をしっかりとるなど、規則正しい生活を送れるよう支援していきます。また、下痢や便秘などの症状を改善するために、内服薬による加療を行います。場合によって、軽い精神安定剤や抗うつ剤などを処方することもあります。
 「たかが便秘」「単なる下痢」だからと便通の異常や腹部の張り、残便感などの症状を放っている人もいますが、中には深刻な病気が潜んでいる場合もあります。このような症状でお悩みの人は一度、専門医(消化器内科など)を受診することをお勧めします。

2010年9月22日水曜日

「大腸がん」

ゲスト/札幌いしやまクリニック 樽見 研 院長

大腸がんとはどのような病気ですか。
 以前は欧米人に比べ、日本人には大腸がんは少なかったのですが、近年は急激に増加しています。原因としては、食生活の変化が挙げられます。日本人は昔と比べ、動物性の脂肪やタンパク質を非常に多く取るようになり、一方で食物繊維の摂取量は減少しています。このような大腸がんリスクファクターの増加によって、大腸がんによる死亡者数は、かつて日本人に多かった胃がんの死亡者数に追いついてきています。特に女性のがんの部位別死亡人数は大腸がんがトップになっています。
 大腸がんは、ポリープなどの前がん病変の段階で発見できれば、簡単に治療できますが、一般的には自覚症状がないため、無症状の時期に発見することが非常に重要となります。早期発見のために定期的な検査を受けることが一番の予防といえます。
 お尻から出血した場合、その多くは痔(じ)によるものと考えられますが、大腸がんのように重大な病気が隠されていることもあります。自己判断せず、必ず専門医を受診して、正しい診断と適切な治療を受けてください。

大腸がんの検査と治療について教えてください。
 大腸がんの早期発見を目的とし、がん集団検診では便潜血(せんけつ)検査を推進していますが、精度が高くないのが欠点です。もっとも正確に診断できるのが、肛門からスコープを挿入して大腸を見る内視鏡検査です。この検査が不安で受診しないという人もいますが、最近の内視鏡は高性能で、医師の技術も高くなっていますから、以前に比べ苦痛は小さくなっています。40歳以上の人は、2〜3年に1度は内視鏡検査を受けることをお勧めします。
 大腸がんの治療は早期の場合、大腸切除せずに内視鏡を使ってがん病巣のみ切除する内視鏡的治療が可能なものもあります。進行がんの場合は、以前は下腹部を切開する開腹手術しかありませんでしたが、現在は、症例によって小さな創(きず)ですむ腹腔鏡下手術が行われています。術後の痛みも少ないため、回復が早く、その結果として早期退院、早期社会復帰が可能となります。
 大腸がんは、その発生に食生活の内容が大きな影響を与えています。動物性脂肪を控え、ビタミン類や食物繊維を豊富に取るバランスの良い食生活を心掛けるなど、今までの生活習慣を見直すことも大腸がんの予防には大切なことです。

2010年9月15日水曜日

「白内障」

ゲスト/大橋眼科 大橋 勉 院長

白内障の症状・治療について教えてください。
 白内障は瞳の後ろにあるレンズ(水晶体)が濁るために起きる視力障害です。40歳以上の人に多くみられ、最も多いのは加齢に伴う老人性白内障です。主な自覚症状としては目のかすみ、ガスがかかったような視力低下、明るい場所で見えにくいなどが挙げられます。治療には主に点眼薬が投与されますが、老化現象の一つで、最終的には手術が必要になります。

白内障の手術はどのようなものですか。
 日本で白内障の手術は、眼科手術の約8割に及ぶ年間100万件くらい行われているといわれています。現在最も一般的に行われている手術法は、水晶体を包んでいる袋を残し、袋の中の濁りを超音波で細かくして取り除き、その袋の中に人工レンズを挿入するものです。安全性の高い手術ですが、それぞれの目によって症状、程度、状況が異なるため、同じ白内障の手術でも、手術の難易度に差があります。手術のしにくい目としては、小さな目や奥目、角膜に濁りがある目、水晶体を包む袋を支えているチン小帯が弱い目などが挙げられます。
 最も合併症が起きやすいのは、進行して真っ白になった白内障です。進行した白内障の濁りは非常に固く、超音波で細かくすることが難しかったり、袋を支えるチン小帯が弱くなっていることが多く、このためレンズを入れる袋が支えきれず、濁りが目の中に落下するというような合併症が起こる可能性が高くなります。
 また、片方の視力が良いため、もう片方の進行した白内障を放置している人が最近増えています。白内障の進行は左右の眼でバラバラということも多いので、放っておかず早めに検査を受け、治療することをお勧めします。進行して白内障が固くなりますと手術の難易度が高くなります。白内障の重度の合併症としては術後に、眼内で細菌が繁殖し、網膜が障害を受け、失明に至るケースがあります。これは数千人に一人というごく珍しい状態ですが、ただちに硝子体手術を行うと救われる事もあります。最近では、従来の白内障治療では実現できなかった老眼治療にも対応した、遠くも近くも見える多焦点レンズや、乱視を矯正するトーリックレンズなどのレンズの選択の幅も増えています。

2010年9月8日水曜日

「誤嚥(ごえん)性肺炎とその予防」

ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 院長

誤嚥性肺炎とはどのような病気ですか。
 水分や食物を飲み込んだときに、食道に入っていかずに気管に入ってしまうことを誤嚥といいます。唾液(だえき)や、胃から食道への逆流による誤嚥によって、肺の中で細菌が増殖すると肺炎が起こります。これを誤嚥性肺炎と呼びます。
 寝たきりの人に多い誤嚥ですが、健康な人でも加齢に伴う喉頭(こうとう)の筋肉の衰えなどにより起きやすくなります。誤嚥性肺炎は、何らかの疾患を持ち、免疫力が低下している人に発症しやすい傾向があります。原因となる疾患としては、脳梗塞(こうそく)や脳内出血、パーキンソン症候群、アルツハイマー型認知症、口腔(こうくう)・咽頭(いんとう)・喉頭の疾患、胃食道疾患などがあげられます。誤嚥は一度発症すると治療が困難になることもあるので、予防が重要になります。

誤嚥性肺炎の予防について教えてください。
 脳梗塞などの脳血管障害では、神経伝達物質のドーパミンの生成が低下し、嚥下にかかわるサブスタンスPという物質が減少します。その結果、嚥下機能と咳(せき)反射の低下をきたし、誤嚥しても咳をして吐き出す力が落ちて、誤嚥性肺炎につながります。予防はパーキンソン病治療薬の塩酸アマンタジンやアンジオテンシン変換酵素阻害薬という高血圧の薬などによって、ドーパミンの生合成を促進させ、咳反射を改善させることができます。
 口腔内の問題としては、清潔度を保つための歯磨きと歯茎のマッサージが大切です。歯茎をマッサージすると血行が良くなり、唾液の分泌が促進され、嚥下反射も改善されます。胃から食道への逆流を防ぐには、ゆっくりとよくかんで食べ、食事が終わってもすぐに横にならずに、2時間くらいは座った状態を保持することです。また、平らな状態で寝ていると逆流が起きやすいので、就寝時には少し上半身を起こすだけでも誤嚥性肺炎の予防になります。平素から胃腸を良好な状態に保ち、便秘にならないようにして、なるべく食物が胃に滞留しないようにすることも重要です。
 誤嚥をしたら咳をして吐き出すことが大切ですが、咳をするには腹筋の力が必要です。日ごろから腹筋を使うような運動を心掛けてください。また、高齢者の人は食事量が減ることで、タンパク質の減少とともに筋肉の衰えが出やすいので、普段から栄養を十分に取るようにしましょう。

2010年9月1日水曜日

「生理痛の原因と子宮内膜症」

ゲスト/札幌駅前アップルレディースクリニック 工藤 正史 院長

生理痛の原因について教えてください。
 生理痛の症状を訴える女性のうち、約5パーセントが日常生活を制限されるほどの生理痛を経験し、治療を必要とするといわれています。生理痛は、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症や、クラミジアや淋菌(りんきん)感染などの後遺症による骨盤腹膜の癒着性病変など器質的疾患が認められる(病気が隠れている)場合と、原因となる病気のない機能的月経困難症とに分類されます。
 
最近、若い女性に増えている子宮内膜症とはどのような病気ですか。
 子宮内膜症は、子宮という名は付いていますが、子宮以外の部位に起こる病気です。卵巣、卵管、膀胱(ぼうこう)、腹膜、膣(ちつ)壁、直腸のほか、まれに肺に発症することもあります。
 子宮内膜とは、子宮の内側を覆っている粘膜です。妊娠が成立しないときは増殖した子宮内膜は不要となってはがれ落ち、血液などと一緒に体外へ排出されます。これが月経です。子宮内膜症は、本来であれば子宮の内側だけに存在するはずの子宮内膜組織が、子宮の内側以外のところで発生して増殖する病気です。子宮以外の場所には、不要となった子宮内膜が排出されるところがないため、出血した血液はその部分にたまってしまい、痛みを主に血尿などさまざまな症状を引き起こします。周囲の臓器と癒着して不妊症や子宮外妊娠の原因となるのも特徴です。
 治療は、対症療法と内分泌療法、外科療法になります。生理痛の痛みが強い女性は、子宮内膜からプロスタグランジンという物質が多く産生されており、これが痛みの原因となっています。プロスタグランジンの産生を阻害する薬を飲むことが対症療法で、出血が始まったらすぐに服用するのがコツです。鎮痛剤が効きにくい場合、低用量のピルを用いた内分泌療法を行います。ピルは経口避妊薬ですが、生理痛だけでなく、生理前の症状(イライラ・気分の落ち込みなど)や月経不順などの症状も改善します。また、鎮痛剤と異なり、子宮内膜症に対して治療的に働くなどのメリットもあります。薬やピルでは治療困難の場合には、外科療法が効果的で、現在は体にかかる負担の少ない腹腔(ふくくう)鏡で行う手術が主流です。
 痛みを我慢して過ごす時間は人生の大きな損失です。いたずらに怖がることなく、まずは専門医を受診することをお薦めします。

2010年8月25日水曜日

「緑内障治療の新しい話題」

ゲスト/ふじた眼科クリニック 藤田 南都也 院長

─緑内障治療の最新情報を教えてください。
 緑内障は、目の中の圧力(眼圧)が高くなり、そのために眼底の網膜神経線維が障害を受けて視野が欠け、放置すると徐々に進行していく病気です。また日本人には、眼圧が正常範囲にあっても神経線維が傷んでいく「正常眼圧緑内障」が多いのです。緑内障では、治療を怠ったために症状が進行して一度失ってしまった視野や視力は、その後の治療によって回復させることはできません。
 昔は緑内障治療に有効な薬物は非常に少なく、診断はできても進行を見守るだけという時代が長く続きました。しかし1980年代にβ(ベータ)遮断剤(交感神経遮断剤)、90年代中ごろにプロスタグランジン製剤や炭酸脱水酵素阻害薬剤が登場して治療は大変進歩しました。最近はこれらの点眼薬を用い、症状の進行具合に合わせて2、3種類、他の点眼薬も含め4種類と、多数の点眼薬を使わざるを得ないケースも多くなっています。その場合問題になるのは多数の点眼薬を使うことにより、薬に添加された防腐剤の副作用で角膜表面に傷がついたり、何種類もの点眼薬を使う煩わしさから、点眼回数や種類を守れないケースがあることです。アドヒアランスと呼び、患者さんが積極的に治療に取り組み継続できるかどうか(服薬遵守)の問題です。ところが、今年に入り、合剤といって、プロスタグランジン製剤と炭酸脱水酵素阻害剤を混ぜた目薬、それにβ遮断剤と炭酸脱水酵素阻害剤を合わせた目薬が使用できるようになりました。

─緑内障治療はどのように変わりますか。
 患者さんにとっては点眼薬の煩わしさが軽減されるのでさし忘れの減少、防腐剤による副作用の低下・軽減が期待できます。また、薬剤の選択にあたって、より眼の状態を把握する必要があるため、視野検査や眼底の視神経乳頭の精密な観察が重要になってきます。今までは複数の点眼薬を、しかも状態によっては1日の回数もバラバラで点眼しなければならず、正しく点眼できずに治療を挫折したりする患者さんもいましたが、今回登場した合剤だとコスト的にも従来の点眼薬よりメリットがあり、緑内障の点眼治療の劇的な進歩だと思います。

2010年8月11日水曜日

「慢性硬膜下血腫」

ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 医師

慢性硬膜下血腫とはどのような病気ですか。
 慢性硬膜下血腫は、硬膜という脳を包んでいる膜と脳との間に血がたまる(血腫)病気です。頭にケガをした後に起こることが一般的ですが、覚えていないような軽いケガでも起こる場合があります。血腫が少ない場合は、ほぼ無症状です。血腫がたまって、脳を圧迫してくると頭痛や頭に重だるさを感じるなどさまざまな症状が出てきます。さらに圧迫が進むと、歩行障害や手足のまひが出てきて、脳梗塞(こうそく)などの脳血管障害と似た症状を示す場合も多いです。高齢者の場合、認知症と間違われることも多く、また、頭痛の訴えが少ないため、そのまま寝込んでしまっていることもあるので、周りの人が注意する必要があります。
 慢性硬膜下血腫は、ケガをしてから3週間〜数カ月たって症状が出てくることの多い病気です。50歳以上の中高齢者、お酒の好きな人、肝臓の悪い人、血液をサラサラにする薬を服用している人に多く見られる傾向があります。

慢性硬膜下血腫の治療について教えてください。
 無症状であれば、よほど圧迫が強くない限りはそのまま経過を観察します。軽いものであればそのまま治ってしまう場合もあります。症状が出ているものは手術を行います。
 脳外科の手術というと恐ろしいイメージを持つ人が多いと思いますが、慢性硬膜下血腫の手術は、脳に直接触れることはほとんどなく、一般的には危険は少ないです。また、局所麻酔で行うので、高齢の人でも比較的軽い負担で治療ができます。手術は、血腫のあるところの真上の皮膚を切開します。頭蓋骨に穴を開け、硬膜を切開して血腫の中に管を入れます。血腫の中身は多くの場合は液状なので、管を通じて取り除くことができます。管を入れて中の血腫を自然に排出させる方法を「穿頭(せんとう)ドレナージ術」といい、管を通して血腫の中に生理食塩水を入れて、血腫を洗い流す方法を「穿頭洗浄術」といいます。1週間ほどで抜糸して退院できることがほとんどで、術後2〜3日で退院して外来で抜糸するケースもあります。
 頭を打った時など、軽いケガであれば慌てて病院に来る必要はありませんが、1カ月ほどしてから、頭が痛くなってきたり、先に挙げたような症状が気になる時には、我慢しないで専門医を受診してください。

「子どもの歯科矯正治療」

ゲスト/宇治矯正歯科クリニック 宇治 正光 院長

─子どもの矯正治療について教えてください。
 お子さんの歯並びが気にかかり、矯正が必要かどうか判断に迷われる人も多いと思います。子どもの歯並びのチェック方法の一つとして、お子さんの口元を顔の正面から観察することをお勧めします。上の前歯と下の前歯の真ん中が一致していればひと安心ですが、ずれている場合は、矯正の必要が考えられます。
 出っ歯や受け口といった上下の顎(あご)が前後に大きすぎたり小さすぎたりという骨格的な問題は、一般の人にも気付きやすいのに対し、左右のずれは発見しづらいものです。自然な矯正治療なら、顎骨(がっこつ)の成長コントロールが可能な9〜10歳までが理想的です。この時期なら就寝時に、バイオネーターやFKO(エフカーオー)と呼ばれる機能的顎(がく)矯正装置を装着し、ずれた顎の骨を中央に移動させます。子どもの成長能力を生かしたもので、痛みはほとんど感じられず、日中は装着する必要がありません。ずれの程度にもよりますが、装着期間は平均で半年から1年。経過観察のための通院は、1カ月から3カ月に1度が目安です。
 ずれの原因には、歯そのものがずれている場合もあり、永久歯がそろってからでも治療は可能です。その場合は、抜歯をする可能性が高くなりますが、きれいに治療できます。判断は非常に難しいので、ぜひ専門医にご相談ください。

ほかに、家庭でできるチェック方法はありますか。
 ほおづえやかみ癖、就寝時の体位が左右どちらかに大幅に偏っている場合などは、左右のずれを引き起こす原因となることがあります。上の前歯と下の前歯の中央が一致しているのを確認したら、次は鼻の先端を基準に、顔の中央に前歯の中心が沿っているかを確認してください。ずれの原因は一見して分かるものではなく、万が一、骨格のずれを歯のずれと勘違いして放っておくと、矯正に最適な成長期を逃してしまう危険性もあります。
 子どものうちの悪い歯並びやかみ合わせを放置してしまうと、大人になってから心理的な悪影響を及ぼしたり、虫歯や歯周病、顎関節への影響が出てきたりします。小児期に歯並び・かみ合わせの治療を行うことでこれらの心配を予防することができます。少しでもおかしいなと思ったら、早めに専門医に相談することをお勧めします。

2010年8月4日水曜日

「うつ病」

ゲスト/医療法人社団 正心会 岡本病院 山中 啓義 副院長

うつ病とはどのような病気ですか。
 日本のうつ病患者は、推定で450〜600万人といわれています。日本人の13人に1人が、一生のうちで一度はうつ病にかかるという報告もあります。しかし、実際に病院・診療所を訪れている人や治療を行っている人は全体の1割程度でしかありません。うつ病は特別な病気ではなく、発症率の高い、誰でもかかる可能性のある病気であること、そして、うつ病はきちんと診察を受け、適切な治療を受ければ治すことのできる病気であることを理解してください。
 誰にでもある憂うつな感じは、気分転換などによって大抵は数日のうちに回復します。しかし、うつ病になると、症状の状況が好転したり、周囲の援助があったりしても、気分の晴れない状態などが2週間以上にわたって続きます。よく見られる心の症状としては、「気力が出ず、何事も面倒に感じる」「好きなことを楽しめない」「興味がわかない」などが挙げられます。朝の調子が悪く、夕方から少し楽になるという症状もうつ病には特徴的です。また、うつ病には睡眠障害や疲労・倦怠(けんたい)感、食欲低下・体重減少などの身体的な症状が現れることも多くあります。
 うつ病は、ストレスなどで生じた脳内物質のバランスの乱れが原因で起こる脳の病気です。決して「心の弱い人がかかる病気」や「心の持ちようで克服できる病気」ではないことを十分に知る必要があります。

うつ病の治療について教えてください。
 うつ病の治療は「休養」「薬物療法」「環境調整」が3本柱となります。
 まずは心身ともにしっかりと休養を取ることが大切です。周りの人たちは、決して怠けているわけではなく、何もできないことに本人が一番苦しんでいることを理解してあげてください。また、うつ病になっている人に励ましは禁句です。「しっかりして」「頑張って」という言葉は、かえって追い詰めてしまうことになります。
 薬物療法は、主に抗うつ薬を使います。脳の機能を正常に戻すには、適切な内服薬を継続して服用することが大切です。投与初期には副作用(口の渇きや便秘、排尿困難など)の出現に注意しながら、徐々に薬剤を増やしていきます。医師の指示通りに内服していれば、依存や中毒になることは少ないでしょう。
 個人を取り巻く環境に着目した治療も重要です。多くのうつ病の発症にはストレスが絡んでいるので、可能ならそのストレスを軽減する必要があります。環境調整には職場、家族、友人などの理解が必須です。
 うつ病は、症状が一進一退するため、治療が長期にわたることもあります。治癒途中で悪化することがあっても、悲観せずじっくり回復を待ちましょう。

2010年7月28日水曜日

「子どもの便秘」

ゲスト/医療法人社団 いし胃腸科内科 松原 央 副院長

子どもの便秘について教えてください。
 便秘とは通常、週2回以下の排便回数のことを指します。しかし、便の回数が少なくても、特におなかを痛がる様子もなく、食欲もあって機嫌が良ければ、あまり心配する必要はありません。反対に、排便回数が週2回以上でも、お腹が張っていたり、便を出すのがつらそうで嫌がったりしているようなら便秘の可能性があります。
 子どもの便秘の原因には、年齢的な特徴がみられます。新生児期より生じる便秘には、肛門(こうもん)の位置や神経に異常があるなど、先天的な病気が原因となっている可能性があります。この時期に自発的排便がみられない場合には、専門医に相談してください。乳児期の便秘では離乳食が原因となることが多くなります。便秘傾向が続く時には、食事内容が適切かどうか検討してみる必要があります。水分をたっぷり与えるように心掛け、食事は食物繊維を多くして便が固くならないように工夫しましょう。野菜類(特に根菜)、豆類、キノコ類、海草類などが勧められます。トイレトレーニング開始時期も便秘になる子どもが多くなります。排便の失敗をしかられて、トイレでするよりも排便を我慢することを繰り返し、便秘になるケースが見られます。幼稚園に入園する時期から小学生にかけて、集団生活の中で「大便することが恥ずかしい」という風潮にさらされることも、便秘の原因の一つです。

日常生活で気を付けるポイントを教えてください。
 水分や食物繊維を十分に取るように毎日の食事に気を付けることは重要ですが、まずは便をため込まないように習慣付けることが何よりも大切です。毎日決まった時間に排便する習慣を付けること、便意を感じたら我慢せずにトイレに行くことを大事にしてください。便が固いと排便の際、肛門が切れて、少し血が出たりします。一度切れてしまうと、便を出そうとするたびに痛い思いをするので、子どもは余計排便することを嫌がるようになります。そうなってしまうと、どんどん便秘が悪化していくという悪循環が起きてしまいます。
 家庭でのケアでは解決できない便秘や、嘔吐(おうと)したり、強い腹痛がある場合、また肛門が切れての出血が続く場合は、専門医の診察を受けてください。状況に応じて、便通を整える内服薬や子ども用の浣(かん)腸を処方してもらいましょう。

2010年7月21日水曜日

「外科矯正」

ゲスト/つちだ矯正歯科クリニック 土田 康人 院長

外科手術による矯正治療について教えてください。
 反対咬(こう)合、上顎(がく)前突、上下の歯が噛(か)み合っていない開咬など顎変形症の症状がひどく、矯正治療のみでは治しきれない場合、外科手術によって治療する方法があります。下顎全体を後に下げる、上顎全体を前に出すなど、いろいろな手術がありますが、どのような手術が必要かは、患者さんの症状に合わせて選択します。顎を手術しただけではきれいに噛み合いませんので、手術前後に矯正治療を行います。矯正歯科医と口腔外科が協力し、手術前の治療に約1年、手術後に約1年、固定に約1年、合わせて3年ほどの治療期間が必要です。
 外科矯正では、顎の骨に手術を行うので、手術時には顎の成長が終了している必要があります。手術後に大きな成長があると、後から咬み合わせがずれてしまう場合があるからです。高校生以降が開始時期の目安となりますが、顎変形症のタイプや程度によって治療に最適な時期や内容が異なりますので、年齢にかかわらず、まずは専門医の診察を受けてください。

入院期間や費用などが心配ですが
 手術は口の中から行うので、傷あとが顔に残ることはありません。入院期間はだいたい2週間程度です。かつて、このような治療は高度先進医療機関に指定されている大学病院などでのみ許可されていました。しかし、現在は都道府県指定の更生医療機関などの矯正歯科医なら、口腔外科と協力して行えるようになりました。一般の矯正治療は保険診療の対象外ですが、外科治療を伴う場合はすべて保険診療対象となります。著しく噛み合わせがずれているまま放っておくと、発音や咀嚼(そしゃく)、顎関節症など機能面や健康面で問題が生じます。また、外見的にも悩まれる人が多いのも実状です。
 外科矯正は機能性の向上を求めて根本的に治療するので、噛み合わせ改善することで、自然と外見的な変化に繋がると考えられます。
 外科治療せずに顎の変形を治したい場合は、永久歯が生えてくる小学校1、2年生のうちに、矯正治療を始めることをお勧めします。ただし、状態によっては成長後の外科手術が必要になることもあります。

2010年7月14日水曜日

「ピロリ菌と胃の病気」

ゲスト/やまうち内科クリニック 山内 雅夫 院長

ピロリ菌について教えてください。
 ピロリ菌は1983年にオーストラリアのワレンおよびマーシャル博士によって初めて分離、培養されました。正式名称はヘリコバクター・ピロリ菌という胃粘膜に生息するらせん形の細菌で、胃、十二指腸潰瘍(かいよう)、胃炎、胃がんの原因となっていることが分かっています。胃には胃酸があるため通常の菌は生息できませんが、ピロリ菌はアンモニアを産生し、胃酸を中和して胃の中でも生存することができます。
 日本では若い人の感染率は低いのですが、40歳以上では約80%もの人が感染しています。ピロリ菌感染を予防する方法は、はっきりと分かっていませんが衛生環境が整った現代ではピロリ菌の感染率は著しく低下していますので、あまり神経質になる必要はないでしょう。
 ピロリ菌に感染すると、まず胃粘膜に炎症が起こり、この状態が長期間持続すると胃粘膜の萎縮(いしゅく)が進行します。この萎縮性胃炎は前がん状態と考えられています。ピロリ菌感染者の一部に胃、十二指腸潰瘍が発症しますが、胃潰瘍患者の80%、十二指腸潰瘍患者の95%がピロリ菌陽性です。

ピロリ菌の除菌について教えてください。
 胃・十二指腸潰瘍の主要な原因がピロリ菌であることが分かり、また再発や治りにくさにもピロリ菌が関係していることが分かってから治療法が大きく変わりました。ピロリ菌を除菌するために2種類の抗生剤と胃酸分泌を強力に抑制するプロトンポンプ・インヒビターを併用する方法で、治療期間は一週間です。治療後、4週間以上経過してから、ピロリ菌が除菌できたかどうか、もう一度検査します。この治療法によって、大部分の胃・十二指腸潰瘍の再発を防ぐことができます。もっとも、胃、十二指腸潰瘍の中にはピロリ菌が関与していないもの(鎮痛剤による潰瘍、お酒やタバコ、ストレスによる潰瘍など)もあり、この場合は除菌療法の対象外です。
 ピロリ菌感染の有無は、内視鏡検査で胃粘膜を採取して調べる方法のほか、尿素呼気試験、血清抗体測定、便中の抗原測定などがあります。なお近年、萎縮性胃炎に対しても胃がん予防の見地から除菌療法をしたほうが良いという意見が強くなってきています。

2010年7月7日水曜日

「関節リウマチの新しい診断基準」

ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 院長

関節リウマチの診断について教えてください。
 リウマチクリニックを初めて訪れる患者さんは、関節のこわばり、痛み、腫れなどの自覚症状があり、不安に思っている人がほとんどです。医師としては、初期のリウマチを見逃さないように慎重に診断する必要があります。初期リウマチの発見は難しいものです。まず、患者さんの話をよく聞いて、リウマチを疑う症状を見つけます。本人持参の資料、メモ、検診表を見て、丁寧に診察します。診察では特に「腫れ」に注目します。握力も大事な所見です。診断基準表に記入し、診断の目安をつけます。腫れの具合が分かるような写真撮影や、その時点で異常がなくても後に比較が可能なレントゲン撮影も欠かせません。関節エコー、MRI(磁気共鳴画像装置)などの画像診断も可能な限り積極的に行います。血清検査はとても有効です。基準値以下でも症状が持続する場合には注意深く観察します。
 
関節リウマチの新しい診断基準が提唱されたと聞きましたが、その内容について教えてください。
 最近、アメリカとヨーロッパのリウマチ学会で、今までに代わる新しいリウマチの診断基準が提唱されました。私たち日本の学会でも日本の患者さんに当てはめ、それがどのように有用か、問題はないかなどを確かめ始めているところです。今回の改正のポイントは今までの診断基準ではかなり症状や所見がそろわないと確定診断ができなかったところを、少しでも多くの早期の患者さんを発見することができるよう改正したことです。その理由は、リウマチを早期に発見し診断すれば、早期に治療に入ることができるからです。また、現在はかなり有力な治療法(特に生物的製剤)が出てきて、それらを早期に使用すれば関節を破壊しなくても済む可能性が出てきているからなのです。
 今回提唱された内容は、①関節病変②血清学的因子③滑膜炎持続期間④炎症マーカーの4項目から成り立ち、各項目の総合点でリウマチと考えるかを決めることになっています。しかし大切なのは、この基準に当てはめる前にリウマチに似た他の疾患を除外しておくことです。これは時によって難しいケースも多く、リウマチの専門医にとってはその点をしっかり診て、判断していくことが今後の重要な使命の一つになるといえるでしょう。

2010年6月23日水曜日

「目の屈折矯正手術」

ゲスト/広域医療法人社団メディカルドラフト会 錦糸眼科 矢作 徹 院長

目の屈折矯正手術について教えてください。
 近視、遠視、乱視は屈折異常という病気です。これまではメガネやコンタクトレンズで矯正する以外に方法がありませんでしたが、近年はレーザーの発達によってレーシックという手術で屈折異常を矯正できるようになりました。レーシックはエキシマレーザー装置を用いて角膜の屈折率を変え視力を矯正する方法です。
 手術と言っても麻酔は点眼で行い、両眼15分~20分程度で終了します。治療は日帰りで行い、当日は裸眼で帰宅することができます。

治療を受ける前に知っておきたいことを教えてください。
 レーシックにはメリットだけでなくリスクも伴います。治療の良い面だけでなく、事前のカウンセリングで副作用なども十分に説明してくれる医療機関を選ぶことが重要です。予期せぬことが起こる可能性はゼロではありません。どのような手術においても完ぺきということはないことをよく理解する必要があります。
 徹底した衛生管理を行っているかも重要なポイントです。そのため治療法も1眼ずつの使い捨て器具を使用する術式が主流となりつつあります。
 もっとも大切なことは、自分にとってどの治療法が適切であるかということです。手術は万人に共通して可能ということではなく、目の状態によっては治療が不適応となることもあります。治療の対象年齢は18歳~60歳で、眼疾患がある方や、過去に重い病気にかかった方、事故で角膜を傷つけたことのある方、あるいは内科的な病気、たとえば糖尿病や神経症の方は治療が行えない場合があります。また、強い近視で角膜が薄い場合にも治療ができないことがあります。
 確かに万人に可能な手術ではありませんが、レーザー装置などは進歩しており、数年前では手術が難しかった方でも治療できるケースが増えています。
 メガネやコンタクトレンズの使用で悩んでいる方にとって、屈折矯正手術は生活をより快適に大きく変えてくれる新しい選択肢です。治療を希望される方は、カウンセリングや診察で十分に説明を受けて、屈折矯正について正しく理解し、そして十分に納得したうえで治療に臨むことがなによりも大切です。また、レーシックは自由診療で健康保険の適用外となり、当院では費用は両眼で30万円前後です。料金は医療機関により異なります。

2010年6月16日水曜日

「心の健康と認知行動療法」

ゲスト/五稜会病院 千丈 雅徳 院長

今、認知行動療法に注目が集まっていますが、その要因は何でしょうか。
 近年、マスメディアでは抑うつや引きこもり、ニート、PTSD(心的外傷後ストレス障害)といった精神的問題が毎日のように報道されるようになりました。また、職場における過労や抑うつの増加が社会問題となり、抑うつの低年齢化も指摘されています。抑うつと関連が深いとされる自殺についても、1998年以降、自殺者数は毎年3万人を超えています。健康問題や景気の悪化による中高年の自殺、過重労働によると見られる働き盛り世代の自殺も増えています。
 さまざまなストレスが私たちの心の健康を脅かしている現代社会。その中で健やかに生きていくためには、誰かに依存するのではなく、自分で自分の心を守っていく必要があります。そこで大きな期待を寄せられているのが「認知行動療法」と呼ばれる心理療法の考え方です。認知行動療法は、さまざまな心理療法の中でも幅広くその活用が見られ、かつ一定の治療効果が報告されている心理療法です。悩みを抱えやすい人が物事の見方やとらえ方、それに伴う行動を変えることで症状を改善していく療法で、その考え方は、日常生活の悩みやストレス対処に生かすヒントにもなります。

認知行動療法とはどのような治療法なのでしょうか。
 認知行動療法は、人の持つ物事に関するとらえ方、考え方とそれに伴う行動が、どのような形でその人の心の状態に影響を与えているかということに注目し、物事のとらえ方、考え方や行動の変化から、不快な感情の改善を図ろうという心理療法です。例えば、すべてを悲観的にとらえるマイナス思考や、完璧にしないと気が済まない完全主義思考など、自分の考え方のクセ(認知のゆがみ)を見つめ直すことで、柔軟な思考を身に付け、不安や落ち込みなど心理的ストレスを軽くしていきます。ここで重要なのは、否定的思考を肯定的・積極的思考に転換することではなく、ある状況を見る視点はいくつも存在するということを自覚し、現実的な考え方のバランスを取って、問題に上手に対応できる心の状態をつくるコツを身に付けることです。自分の今までの考え方を変えるというだけでなく、時にはそれを大切にしながらもさらに自分にとって楽な考え方を見つけていくのです。
 認知行動療法に関する入門書や専門書は数多く出版されていますので、一度手に取っていただければと思います。個々人のメンタルヘルスの治療の主役は、なんといっても当事者自身。自分で自分の心の健康を守ることが何よりも大切です。しかし、それがなかなかうまくできないと感じたときや、自分で自分の心をコントロールできそうにないと自覚した場合には、気軽に専門医を訪れて、早めに対応してもらうのが有効です。

2010年6月9日水曜日

「正しい食生活から生まれる口腔機能」

ゲスト/医療法人社団アスクトース 石丸歯科診療所 石丸 俊春 院長

食生活と口腔機能の関連について教えてください。
 欧米型の食事や外食の普及、加工食品の増加など、食生活や食卓の風景が変わってきました。こうした食をめぐるさまざまな変化により、私たちの暮らしに新たな問題が生まれていますが、高齢者や成長期の子どもに“噛(か)まない・噛めない”“口が開かない”“食べこぼす”“飲み込めない”“むせる”“うまく話せない”など口腔(こうくう)機能の障害が増加していることもその一つです。
 「8020運動」の浸透で、80歳まで自分の歯を20本以上保っている人が増えています。しかし、残っている歯の本数ではなく、その質に注目した「FTU(機能歯指数)」という評価方法で見てみると、12点満点中、平均値が2点以下という厳しい実態となっています。これは、20本以上の歯が残っていても、上の歯と下の歯の噛み合わせが悪く、本来の機能を果たしていないということです。子どもや若年層にも歯列不正や顎関節症など、噛み合わせに問題のある人が増えています。
 咀嚼(そしゃく)や嚥下(えんげ)、正しい噛み合わせの基本は、毎日の食生活にあります。よく噛み、味わい、しっかり飲み込むなど、正しい食生活が口腔機能を育て、成長させるのです。
 
普段の食生活や食習慣でどのようなことに気を付ければいいですか。
 ファストフードや調味料に頼った食品、あまり噛まなくても飲み込めるような食事を避け、噛めば噛むほど味の出る食材を選ぶようにしましょう。自然に上手に噛むことができ、噛む力も強くなります。季節感のある食材を選ぶことも大切。旬の食べ物のおいしさに感動する体験が、正しい食生活につながります。
 食習慣の改善も重要です。まずは正しい姿勢で食事をとること。食事中、床に足が着いていなければ体のバランスが取れず、噛むのに力が入りません。テーブルやイスは体格に合ったものを選びましょう。次に、孤食を避け、家族や友人と一緒に食事をすること。一人での食事は、好きなものばかり食べたり、早食いしたりと食生活の乱れを招きます。“ながら食事”もやめましょう。食事に集中できず、噛むことがおろそかになりがちなうえ、姿勢を崩す大きな原因にもなります。
 口の健康はもちろん、心身の健康を維持するためにも、日常の食生活・食習慣を見直してみてください。

2010年6月2日水曜日

「夜間頻尿」

ゲスト/ベテル泌尿器科クリニック 三熊 直人 院長

夜間頻尿とはどのような症状ですか。
 排尿に関する症状は、蓄尿症状(おしっこをためることに関する症状)、排尿症状(おしっこを出すことに関する症状)、そして排尿後症状の三つに大別されます。
 蓄尿症状は、さらに夜間頻尿、昼間頻尿、尿意切迫感(我慢できない強く切迫した尿意感)、尿失禁に分類されます。夜間頻尿とは夜間に排尿のために1回以上起きなければならない症状です。夜間頻尿は加齢とともに増加し、生活の質(QOL)を低下させる大きな要因となっています。これは排尿困難(おしっこが出づらいこと)とともに典型的な前立腺肥大症の症状ですが、前立腺肥大症以外の要因でも起きることは意外にも知られていません。夜間頻尿の発生頻度は、前立腺を持たない女性でも男性とほぼ同等です。

夜間頻尿の原因として、前立腺肥大症以外にどんな病気が考えられるのですか。
 第一の病因は夜間多尿です。多尿とは尿の過剰生産を意味します。その原因としては糖尿病、水分過剰摂取(食物からの摂取と飲水)、薬によるもの、脳障害、高血圧、うっ血性心不全、腎機能の低下、肝不全、低たんぱく血症、アルコール、カフェインの摂取、ADH(脳下垂体ホルモン)分泌異常など多岐にわたります。この中で、水分過剰摂取が原因として考えられるケースでは、心因性要素が強い過剰飲水によるものと、脳梗塞(こうそく)、心筋梗塞、狭心症の予防を目的として水分摂取が過剰になっている場合があり、専門医による適切な生活指導や飲水指導が必要となります。
 第二の病因は過活動膀胱(ぼうこう)です。過活動膀胱とは週1回以上の尿意切迫感を伴う頻尿の状態で、前立腺肥大症によっても発生しますが、それ以外に加齢、脳血管障害、パーキンソン病、後縦靭帯(じんたい)骨化症なども関与します。
 第三の病因は睡眠障害です。3回以上の夜間頻尿では不眠の影響が大きく、不眠症、うつ病、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群などが原因です。高齢者の睡眠は浅く、目が覚めやすいことが知られています。
 このように夜間頻尿の原因は複雑です。一つの病気ですべてを説明できることは少なく、複数の原因が関係しています。まずは病態を知ることが治療の糸口になりますが、治療は決して容易ではありません。

2010年5月26日水曜日

「北海道の花粉症」

ゲスト/大道内科呼吸器科クリニック 大道光秀 医師

北海道の花粉症について教えてください
 今年はスギ花粉の飛散が少なく、本州・四国・九州の花粉症はあまりひどくならずに終息しました。しかし、北海道の「花粉症」は今がピークです。道内の花粉症の原因は、主にシラカバ、ハンノキによるもので、花をつける4月下旬から始まります。さらに、カモガヤなどのイネ科の牧草やヨモギによる花粉症が9月ごろまで続きます。主な症状は、しつこい鼻水、鼻づまり、クシャミ、眼のかゆみなどです。シラカバ花粉症はスギ花粉症に比べ、鼻、眼の症状はあまりひどくはありませんが、スギ花粉症では少ない次の二つの特徴があります。一つは、シラカバ花粉症の人の約半分の人で、リンゴやモモ、サクランボなどのバラ科の果物を食べると、口の中がかゆくなったり唇が腫れたり、のどがかゆくなったりする果物過敏症があります。ひどい場合呼吸困難などになったりするので注意が必要です。もう一つは、花粉症状がおさまっても、頑固な咳(せき)が出る事です。シラカバ花粉症では気管支の粘膜が過敏な状態になり、感冒をきっかけとしてひどい咳になる事がよくあります。シラカバ花粉症の時期に咳がひどい場合、花粉症による咳か、鼻水が喉(のど)に落ちてきたための咳かを区別して治療しなければなりません。もちろんこの時期でも、肺結核、肺炎、ぜんそくの場合もありますのでその区別も必要で、胸部写真や肺機能検査を受けて適した治療を受ける必要があります。
 アレルギーを起こす原因物質は、血液検査で比較的容易に分かるので、一度検査を受けて、アレルギー物質を特定しておくと安心です。

具体的な治療、予防法について教えてください
 根本的に治そうと思うのなら、時間をかけて体質を改善するしかありませんがかなり難しいです。今現在の症状を緩和するには、抗アレルギー剤の服用、点鼻薬、点眼薬などがあります。毎年のように発症する人は、原因の花粉が飛び始める2週間程前から、予防的に抗アレルギー剤を内服すると、シーズン中の症状が軽減されます。症状が出てしまってからでも、なるべく早めに服用すると重くならないので、早期の受診をお勧めします。
 予防法としては、花粉の飛散量が多い晴れた風の強い日は外出を控えたり、外出時にマスクを装着することです。帰宅時は、家に入る前に衣類や髪、持ち物に付いた花粉を払い、手洗い、うがいを行うといった基本的なことが効果的です。晴れた日には窓を開けない、掃除機を小まめにかける、フィルター付き空気清浄機の利用などで、影響を少なくすることができます。

2010年5月19日水曜日

「花粉症の方のコンタクトレンズ使用法」

ゲスト/札幌エルプラザ阿部眼科 阿部 法夫 医師

花粉症時のコンタクトレンズ使用について教えてください。
 道内は地域によって多少のバラつきはあるものの、3月のハンノキから、5月シラカバ、6月イネ科植物と次々と花粉症シーズンが到来します。花粉飛散時期に花粉症の症状があっても、約半数以上の方はコンタクトレンズ(以下CL)を使用し続けているのが実態です。
 目の自覚症状はかゆみ、充血、流涙、眼脂、異物感、CLの曇り・見づらさ・上方移動・装用感の悪化などです。もともとCL装用に起因する乳頭状結膜炎(上まぶた裏にゴロゴロした多数の腫瘤(しゅりゅう)状のものができる)があると、さらに重篤な症状になる方もいます。このような重篤なケースはすぐにCLを装用中止にするのが原則ですが、個々人の事情や職場環境もあり、中止できないという方が多いのが現状です。
 一方、軽症の場合は比較的アレルギーに強いタイプのCLの開発もされています。これに点眼液、洗浄、装用時間などを工夫すれば、なんとか乗り切れる場合もあります。また、耳鼻科やアレルギー科などで治療を受けていると、目の症状も緩和されることがあります。

予防法、治療法を教えてください。
 例年、同じ季節に花粉症を起こしている場合、眼科領域でも2週間前からの抗アレルギー薬の予防的点眼で、症状を軽減させることが報告されています。実際、発症前に点眼液を希望される方も増えています。原則は、飛散が多い日には花粉防止用メガネ(ゴーグル型)や無理をせず使用中のメガネへの切り替えが無難です。防腐剤フリーの人工涙液の頻回点眼も花粉の洗い流しに有効です。
 どうしてもCLを使用したい場合、1DAYタイプの使い捨てレンズが理想です。2週間・1カ月タイプ、ハードCLを使用する場合、入念なこすり洗いの励行、装用時間の短縮が必要ですが、洗っても完全には取れないと理解してください。さらに、抗アレルギー薬やステロイドの点眼も必要で、CLを装用していると点眼できないものもあるので、かかりつけの眼科医に相談する必要があります。
 いずれにしても、乳頭状結膜炎のような重篤なものは、やはり装用を中止して治療に専念すべきです。

2010年5月12日水曜日

「合併症予防のための糖尿病数値管理」

ゲスト/医療法人社団 青木内科クリニック 青木 伸 院長

糖尿病について教えてください。
 細胞内に糖を取り込み、血糖値を下げる働きのあるホルモン・インスリンが作用不足で、継続的に血糖値の高い状態になる病気が糖尿病です。初期には自覚症状がなく、のどが渇く、倦怠(けんたい)感などの症状が現れた時にはかなり進行しています。検診で糖尿病の診断を受けても、まだ初期で無症状の場合がほとんどです。
 しかし、血糖値が高い状態を放置すると、やがて血管や神経などに合併症が起こります。腎臓や目、神経に現れた合併症はいずれも完治が難しく、人工透析が必要になったり、失明、足の切断など、重症化することもまれではありません。また、動脈硬化が進み、心筋梗塞(こうそく)や脳卒中の原因になることもあります。糖尿病と診断されたら、合併症予防のためにも、進行させないことが大切です。

合併症を予防するための注意点を教えてください。
 糖尿病の治療は、血糖をコントロールすることが基本です。具体的には、食事療法、運動療法、薬物療法を行います。初期のうちに、主治医の下で適切な治療を受け、生活習慣を見直せば、合併症は予防できます。治療と自己管理が適切かは、数値で判断できます。HbA1c(過去1~2カ月の平均的血糖値)は重要で、糖尿病の場合は6.5%以下に維持します(正常値は5.8%以下)。実際には難しいと思うかもしれませんが、医師の下できちんと管理を行っていれば、保てる数値です。数値を維持できれば、長期に支障なく生活できます。
 また、糖尿病患者の約半数は高脂血症や高血圧症を合併しています。高脂血症予防には、糖尿病の場合LDL(悪玉)-コレステロール値120mg/dl以下を目標に(健康な場合は140mg/dl)、狭心症のある人は100mg/dl以下に保ち、心筋梗塞や脳梗塞を防ぎます。中性脂肪値は糖尿病の場合、150mg/dl以下の維持を目指します。血圧については、糖尿病のある人は、130/80mmHg以下に維持します。糖尿病の合併症を予防するには、これら血糖値以外の検査値にも注意を払う必要があります。

2010年5月7日金曜日

「ニキビ」

ゲスト/宮の森スキンケア診療室  上林 淑人 医師

ニキビについて教えてください。
 ニキビは、毛穴に皮脂が詰まり、そこにアクネ菌が感染して起こる化膿(かのう)性皮膚疾患のひとつです。ニキビには大きく分けて、思春期に出るニキビと、20~30代で出るアダルトニキビがあります。思春期には男女とも男性ホルモンが多くなります。それによって皮脂分泌が増えニキビが出やすくなります。顔だけではなく、胸や背中にも出ることがあります。病的なものではないですが、ニキビの跡が残ることもあり、きちんと治療することをお勧めします。
 アダルトニキビに悩むのは、ほとんどが女性です。男性にもできますが、化粧をする女性のほうが悪化したり長引いたりしやすい傾向にあります。原因は体質や肌質、化粧による肌への負担、職場や家庭でのストレス、偏った食生活などいろいろです。思春期のニキビに比べて治りにくい傾向があります。なかなか改善せず長引く場合、ニキビ跡を残さないためにも早めに治療を開始すると良いでしょう。

ニキビの治療法について教えてください
 ニキビには「こうすれば必ず良くなる」という治療法はなく、その人に合った方法を見つけ、それを継続することが大切です。思春期のニキビは、比較的治療効果が出やすく、塗り薬だけで改善されることが多いです。一方のアダルトニキビは、治療が困難な場合が多く、塗り薬以外にビタミン剤や一時的な抗生物質の服用が必要になることもあります。いずれの場合も、頑固なニキビには、漢方薬による治療もおこなわれる場合があります。ニキビの性状や体質、体格などから判断し、その人に合った漢方薬を処方します。また、最近出た「アダパレン」は、ニキビ専用の塗り薬で効果が期待されています。
 日ごろの「ニキビをつくらない」心掛けも重要です。規則正しくバランスの良い食生活をおくり、睡眠不足を避けるようにします。洗顔は大事ですが、洗い過ぎはよくありません。洗顔料を十分に泡立てて優しく洗い、しっかりとすすぐようにしましょう。また、間違ったスキンケアで悪化する場合があります。ニキビは油分で悪化することも多いので、なるべく油分の少ない化粧品を選び、乳液や栄養クリームなどの使用は最小限にとどめましょう。

2010年4月28日水曜日

「むずむず脚症候群」

ゲスト/つちだ消化器循環器内科 土田 敏之 医師

むずむず脚症候群について教えてください。
 文字通り脚がむずむずする、ピリピリする、ピクピクする、火照る、かゆい、じんじんする、虫がはっているような感覚、かきむしりたくなる衝動、電気が流れている感じなどが主な症状です。このような脚の不快感に耐えられず、脚を動かさずにはいられないという状態になってきます。夕方から夜間にかけて出やすく、ぐっすり眠れない、寝ていても途中で目が覚めてしまうことも多く、睡眠障害になったり、睡眠不足で疲れやすく、ストレスがたまり、生活の質が低下するおそれがあります。
 また、日中でもバス、電車、飛行機での移動中、講義や講演会、授業中、仕事中、病院の待合室など、脚を動かせずじっとせざるを得ない時に症状が起きやすくなります。

原因は? 治療方法はありますか
 じっとしている状態でも何かに熱中したり、立ち上がって動き始めると気にならなくなるものです。むずむず脚症候群は100人中2~5人いると推測されています。40代以降に多く、男性よりは女性に多いと思われます。原因はまだ、解明されていない部分が多い疾患ですが、有力な説として脳内の神経伝達物質の一つであるドーパミンの機能障害や、鉄不足が関係しているのではないかといわれています。
ドーパミンは、運動機能を円滑にするために欠かせない物質です。鉄はドーパミンを作る過程で必要とされます。鉄が不足するとドーパミンがうまく合成されず症状を引き起こすのではないかと考えられています。ほかに、腎臓病、妊娠、糖尿病、パーキンソン病、関節リウマチ、薬の副作用などが原因として考えられています。
 症状を軽減するには、コーヒーや緑茶など、睡眠の障害になるカフェインの摂取を控えます。アルコールやタバコも症状を悪化させます。鉄分を意識したバランスのよい食事を取ることも大切です。 また、ウオーキングなどの適度な運動、就寝前のストレッチやマッサージなど、筋肉をほぐしてから就寝するのもいいでしょう。
 それでも改善しないようでしたら、最近は効果が期待できる治療薬もあるので、症状がひどくなる前に医師に相談することをお勧めします。

2010年4月21日水曜日

「心房細動」

ゲスト/北海道大野病院附属駅前クリニック 古口 健一 医師

心房細動について教えてください。
 心房細動は不整脈の原因として多く見られます。通常、心臓は1分間に60〜70回という一定のリズムで動いていますが、心房細動では、心房が部分的に興奮収縮し、心室の収縮が不規則な間隔で起こるため、心房全体としての統制がとれず、1分間に350〜600回の無秩序な収縮が起きます。そのため、血液を送り出すポンプとしての心臓の機械的効率が低下し、心不全が起こりやすくなります。心房細動が続くと、めまいや動悸(どうき)、胸部の圧迫感などを感じるだけでなく、心房の中の血液がよどんで血栓ができ、脳梗塞(こうそく)などの原因となります。
 心房細動は加齢とともに多くなります。原因は大きく分けて二つあり、急に起こる発作性のものと、基礎疾患が原因のものがあります。基礎疾患には高血圧、糖尿病、虚血性心臓病、心臓弁膜症、甲状腺機能亢進(こうしん)症などがあります。

治療法を教えてください。
 心房細動は持続時間から三つに分類されます。7日以内に自然停止するものを発作性心房細動、7日以上1年以内持続するものを持続性心房細動、1年以上持続するものを慢性心房細動と呼びます。心房細動は慢性になると血栓ができ、脳梗塞などの危険因子となりますから、数カ月あるいは数年間不整脈に悩まされ、基礎疾患がある場合は特にリスクが高いと考えてください。慢性期の治療法は大きく分けて三つあります。1分間の心拍数を整える投薬治療(レートコントロール)、心拍数を変えずにリズムを調節する投薬治療(リズムコントロール)、血栓を予防する投薬治療です。もっとも一般的なのは血栓予防の投薬治療で、抗不整脈剤の投与や抗凝固療法を行います。抗凝固療法では、基礎疾患など危険因子がない場合はアスピリン、基礎疾患がある場合はワーファリンを投与することが多く、特にワーファリンには高い効果を認めるデータがあります。ワーファリン投薬は定期的に血液検査を行い凝血能を観察しながら適切な量に調節します。薬物療法以外では、不整脈の原因部分を切除するカテーテルアブレーションという手術療法もあります。

2010年4月14日水曜日

「矯正治療のタイミング」

ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 歯科医師
矯正を始めるタイミングについて教えてください。
 最近は、歯並びに対する意識が高まり、3〜4歳児を連れて来院する方も増えています。しかし、乳歯の段階では極端な受け口のようなはっきりとした咬合(こうごう)異常でない限り、治療を急ぐ必要はありません。仮に早くに治療をスタートさせたとしても、3、4歳で装置を受け入れてくれるかは疑問です。矯正治療は、一般的に永久歯が生え始める7歳前後がスタート時期になります。ただ、最近みられるのが、乳歯の段階でのデコボコした乱ぐい歯(叢生・そうせい)です。本来、乳歯は一本一本の間に空間のある「すきっ歯」が正常な状態です。ぴったり並んだ、一見「歯並びが良い」状態では、永久歯に生え変わった時に乱ぐい歯になる可能性があります。まして、乳歯の段階で乱ぐい歯では、あごが極端に小さく、永久歯が正常な歯並びになるのは難しいと思われます。子どもの口の中を見てこのような感じでしたら、一度矯正専門医に診察してもらうといいでしょう。すぐに治療を始めなくても、適切な治療開始時期についてアドバイスしてもらえるでしょう。

就学時はどのような点に注意すればいいですか。
 乱ぐい歯(叢生)、出っ歯(上顎前突)、受け口(下顎前突)を中心とした基本的な歯並び、噛(か)み合わせの状態を見ます。反対咬合はもともとの骨格が影響している場合が多く、成長とともに悪化するためあごの成長を抑える必要があり、長い場合は成長のピークが過ぎる時期までの継続的な矯正治療が必要となります。逆に上顎前突は成長を利用します。いずれの場合も早期からの治療によって、より美しく自然な噛み合わせになる可能性が高いです。
 中学生では、基本的に大人に準じた治療となりますが、まだ成長期なので子どもと同じ治療ができる可能性もあります。思春期なので矯正装置を嫌がる場合も多いのですが、最近は歯の裏側から治療することもできるので、矯正を受ける人も多くなってきました。
 極端に下顎が突出していたり逆に引っ込んでいるなど、外科治療が必要な場合は、成長のピークが過ぎた高校生以降の治療になります。
 いずれにしても、時期によって的確な治療法があります。また、いくつになっても「もう遅い」ということはありません。

2010年4月7日水曜日

「子宮頸がんの予防ワクチン」

ゲスト/札幌駅前アップルレディースクリニック 工藤 正史 医師

子宮頸がんの予防ワクチンについて教えてください。
 子宮頸がんがワクチンで予防できる時代になりました。子宮頸がんは初期の段階ではほとんど自覚症状がなく、しばしば発見が遅れます。20~30代で急増しているがんであり、日本人では年間約1万5000人が発症していると報告されています。
 子宮頸がんの原因となるのは、発がん性ヒトパピローマウイルス(HPV)です。HPVは性的接触で感染します。HPVの感染は一時的なもので、約90%は自然に体内から排除されますが、残りの約10%は感染が持続し、そのうちの約1%が子宮頸がんを発症します。このHPVは特別な人だけが感染するのでなく、多くの女性が一生のうちに一度は感染するありふれたウイルスです。子宮頸がんと関係あるHPVには15種類ほどのタイプがあり、その中でも16型、18型は子宮頸がん患者の約60~70%の感染率となっています。ワクチンは、この16型、18型の感染を防ぐものです。
 HPVに感染する可能性が低い10代前半にこの子宮頸がん予防ワクチンを接種することで、子宮頸がんの発症を約70%減らす効果があると考えられています。残りの約30%のがんを早期発見するためには、子宮頸がん検診の受診も必要です。公的な子宮頸がん検診は、20歳以上を対象として2年に1回の受診間隔で実施されています。 10代でワクチンを接種し、20歳を過ぎたら定期的な子宮頸がん検診を受けることが、効果的な予防・早期発見・治療のためには理想的です。
 また、40歳でも3~4割程度の効果がありますので、45歳くらいまではワクチン接種のメリットはあると考えられます。

具体的にワクチン接種はどのように行いますか。
 接種は、10歳以上の女性に3回、腕の筋肉に注射します。2回目は1カ月月後、3回目は初回の6カ月後です。主な副反応は、痛みとかゆみです。世界ではすでに96カ国で小学生や中学生の女子にワクチンを接種しています。課題は、ワクチンの値段が3回の接種で約5万円かかることです。ただし、このワクチンは3回の接種だけで長期(約20年以上)にわたって抗体価が維持され、予防効果が持続します。公費による補助が実現する可能性もありますが、おそらく年齢制限が設けられ、全額無料になるかは未定です。

2010年3月24日水曜日

「裂肛(れっこう)」について

ゲスト/札幌いしやま病院 樽見 研 医師

裂肛について教えてください。
 一般に「きれ痔(じ)」といわれます。便が肛門(こうもん)部分を通過する際、肛門内側の皮膚が裂けることによって起こります。出血はごくわずかなことが多いのですが、強い痛みがあります。原因は硬い便によるもので、便秘しやすい女性に多い疾患です。便秘とは逆に繰り返す下痢が原因となることもあります。
 一度裂肛になると排便時に肛門が痛むために便意を我慢して、さらに便秘が悪化、裂肛も悪化するという悪循環も多くみられます。排便のたびに同じ所が繰り返し裂けたり、傷口に細菌が入るため炎症を起こしたり、傷が硬くなって潰瘍(かいよう)になったり、傷部分が盛り上がってイボができたりします。これによって肛門の括約筋が硬くなって肛門が狭くなり、排便時の痛みはさらに強くなり、ますます排便しづらく、裂けやすくなってしまいます。

予防法と治療法について教えてください。
 裂肛の予防で一番大切なのは、原因となる便秘を改善することです。便秘を防ぐには、まず規則正しい食生活を心掛けることです。特に朝食をしっかり取ることが大切です。水分不足は硬い便の原因になります。便を軟らかくするためにも、規則的な便通の習慣を付けるためにも、冷たい牛乳や水なども積極的に摂取し、胃腸に刺激を与えましょう。
 野菜、果実、イモ類、穀類、海藻など繊維質を多く含む食品も便秘解消に有効です。食物繊維は、体内ではほとんど消化されず、水を含む性質が大変に強いため消化管の中で水分を吸収して膨らみ、腸の運動を促します。
 ほかにも、患部を清潔に保ち、冷えや同じ姿勢を続けるなど、血行不良を招くことは避ける必要があります。
 治療としては、注入軟膏(なんこう)の処方が一般的です。市販薬もありますが、裂肛に合うもの合わないものがあるので、専門医の受診をお勧めします。
 慢性化して肛門が狭くなった場合は、麻酔をして、硬く狭くなった肛門の括約筋を、正常な状態になるまでマッサージして引き延ばす手技が効果的です。入院の必要も、痛みもなく、短時間で治療できます。

2010年3月17日水曜日

「非アルコール性脂肪肝炎」について

ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 医師

―非アルコール性脂肪肝炎とはどんな病気ですか。
 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、非飲酒者で主に肥満などの生活習慣病を誘因として発症する慢性の進行性肝疾患です。日本では現在、100万人、成人の約1%が患者と推定されます。そのうち2割が10年程度で肝硬変へ進行すると予想され、しばしば肝細胞がんの発症母地ともなります。
 NASHはメタボリックシンドロームの肝臓における表現型であるといわれており、遺伝的な要因に肥満(特に内臓脂肪型肥満)を背景とする糖尿病(特にインスリン抵抗性)などの環境因子が加わり、酸化ストレス、炎症などにより発症に結びつくと考えられています。
 診断は、肝臓のGOT(AST)、GPT(ALT) というトランスアミナーゼ値が高いことが一つの指標になります。さらにB型肝炎、C型肝炎を除外できる、飲酒習慣がない、BMI35以上の肥満であるという条件にあてまはる人はNASHの可能性が高いです。血小板数と肝臓の硬さの指標になる線維化マーカーの値を調べ、超音波検査を行い、慢性の肝臓病と確認されたら肝臓の組織の一部を採取して調べます。

―治療法について教えてください。
 治療は、まず食事と運動による減量を行います。NASHでは3kg程度の減量でも、トランスアミナーゼ値の低下など肝機能の改善がみられますので減量による効果はかなり大きいです。効果が期待できない場合は、薬物治療になります。
 NASH患者の7割程度は高血圧を合併しており、高血圧により肝臓の線維化が進行するということが明らかになってきているので、高血圧の場合は降圧剤によって血圧の正常化を図ります。また脂質異常も合併していることが多く、肝臓を保護する点においてもコレステロールを厳重にコントロールしていくことは重要です。肝硬変の疑いがある、あるいは初期の肝硬変まで進行したNASHにおいては最近、糖尿病の治療薬でありインスリン抵抗性を改善するチアゾリジン誘導体の有効性が報告されており、進行を抑制する目的で使用されています。
 いずれにしても現在のところNASHに特異的に効く治療は確立しておりませんので、メタボリックシンドロームの治療を確実に行い、肝硬変への進行をいかに防ぐかが重要です。

2010年3月10日水曜日

「ホワイトニング」について

ゲスト/庄内歯科医院 庄内 淳能 歯科医師

歯の色を健康的にするにはどうしたらいいですか。
 進学、就職などで4月から新しい環境でスタートする人も多いでしょう。今のうちに歯科検診を受け、虫歯の治療などを済ませておきましょう。
 初対面の人の口元は意外に気になるものです。白く健康的な歯であれば印象も良くなります。歯が変色する要因は、虫歯、タバコのヤニやお茶などの色が付着、義歯や詰めものの変色などがあります。義歯や詰めものの変色は詰め替え、かぶせ替えで、きれいになります。お茶、コーヒー、タバコのヤニなどによる、エナメル質表面の着色は、PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)で除去することができます。
しかし、PMTCだけではきれいにできないエナメル質の奥にまでしみこんでしまった汚れには、ホワイトニングが効果的です。エナメル質の中にある有色素成分を直接分解する方法で、歯を傷つけることなく汚れのみを落とします。

ホワイトニングについて教えてください。
 歯科医で行う「オフィスホワイトニング」と、歯科医の指導のもと、自宅で行う「ホームホワイトニング」があります。オフィスホワイトニングは1~数回の通院で、高濃度の薬液を使用し、レーザーなどを当てて短期間で歯を白くします。ホームホワイトニングは、歯科医でマウスピース型のトレイを作って自宅で薬液を使って行います。上下の歯で4週間程度掛かります。どちらの方法を選ぶかは、歯科医に相談するといいでしょう。一度オフィスホワイトニングを行い、その後、半年に一回程度ホームホワイトニングでメンテナンスをするという方法もあります。ホワイトニングをすると、人工的でわざとらしい白さになるのでは、と心配する人もいますが、歯本来の白さを取り戻すだけなので、不自然になる心配はありません。
 虫歯治療、歯周病治療、PMTCを行っても、口臭が気になるという人がいます。内蔵疾患が原因の場合もありますが、ホワイトニングですっきりと臭いが消えることもあります。ホワイトニングは保険適応外であり、行っていない歯科医院もあるので、一度かかりつけの歯科医に相談してみるといいでしょう。

2010年3月3日水曜日

「機能性ディスペプシア」について

ゲスト/佐野内科医院 佐野 公昭 医師

機能性ディスペプシアとはどんな疾患ですか。
 2006年に国際的な診断基準が改訂になりました。煩わしい食後の膨満感、早期飽満感、みぞおちの痛み・灼熱(しゃくねつ)感などの症状が半年間続いているにもかかわらず、検査では異常が見つからない場合に「機能性ディスペプシア」と呼びます。もう少し具体的に症状を言うと、げっぷや胸焼け、胃もたれ、上腹部痛、胃の違和感、胃がやける感覚、吐き気、胃がムカムカする、のどの痛み、便の異常、飲み込みづらい、のどにつかえるなどです。20代からお年寄りまで幅広い層に見られ、日本では4人に1人が経験があるといわれるほど、よくみられる疾患です。
 胃が機能的な異常を起こす原因は、胃排せつの遅延、食後貯留能の低下、知覚過敏、胃酸の異常などのほか、うつや不安的要素、ストレスなど社会的・心理的要因も考えられます。

診断、治療法などについて教えてください。
 診断は、まず問診を十分に行ない症状を詳しく聞くことから始めます。症状が多彩で日によって、あるいは時間によって変わったり、患者によって表現が異なることもあります。「出雲スケール」という問診票も有効で利用することもあります。ついで内視鏡検査、超音波検査、血液検査、便検査などを行い潰瘍(かいよう)などの器質的疾患がないことを確かめて診断します。
 機能性ディスペプシアは命にかかわる病気ではありませんが、生活の質を低下させるという意味では、注意すべき疾患です。治療の基本は、食事と生活習慣を改善することです。就寝前に食事をしない、暴飲暴食、早食い、喫煙、過度の飲酒など、胃に負担を掛ける生活習慣を改めます。また、ストレスを取り除き、散歩など適度な運動を心がけることも大切です。薬を使った治療では漢方薬、抗コリン剤などのほか、抗うつ剤、抗不安薬などが奏効することもあります。症状があるときに「食べないと体に悪いから」と無理に食事することは控えましょう。
 癌(がん)など大きな病気が隠れていることもあります。自己判断せず、不快な症状を改善するためにも、胃腸(消化器)の専門医に相談してください。

2010年2月24日水曜日

「非結核性抗酸菌症」について

ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 医師

非結核性抗酸菌症について教えてください
 風邪やインフルエンザの咳や痰(たん)は、通常数日で改善します。しかし、半月以上続く場合は、何か別の病気が隠れている可能性があります。最近日本で増えているのが、非結核性抗酸菌症です。結核菌の仲間を抗酸菌と呼びますが、概して結核菌以外の抗酸菌で起きる病気で、非定型抗酸菌症とも呼ばれます。
 この菌は生活環境の中に広く分布し、土壌、粉塵(ふんじん)、川、風呂場、シャワーなどに存在します。毒性は弱く健康な人には感染しにくく、少量であれば肺の中に入っても発症することはほとんどありません。結核との大きな違いは、人から人へ感染しないため、発症した人と接触してもうつらないこと、毒力が弱く重症化しにくいこと、抗結核薬があまり効かないことなどです。

症状、治療について教えてください。
 非結核性抗酸菌は、自然界に約120種類あり、人間に感染するのは20種類ほどといわれています。日本で最も多いのはマック菌(アビウムコンプレックス菌)で、全体の7~8割、次はカンサシ菌で1~2割、その他の菌が約1割です。マック菌は高齢者や慢性の肺疾患を持つ人や、免疫が低下した時などに感染します。ところが最近は、基礎疾患がない健康な50~60歳代の女性に発症するケースが増えています。遺伝的な要因が疑われていますが、詳しいことはよく分かっていません。一方、カンサシ菌は若い男性の喫煙者に多いといわれています。この菌には抗結核薬が有効です。非結核性抗酸菌症は自覚症状に乏しいことが多いのですが、進行すると咳、痰、血痰、微熱などの症状が出てきます。
 診断には、胸部レントゲン写真やCT検査を行います。痰の培養検査から抗酸菌の存在を確認し、さらに詳しい検査によって菌の種類を明らかにします。治療は結核に準じた薬物療法が中心です。一般的に予後は良いとされていますが、単独で効く薬がないため、クラリスロマイシンという抗生物質と2、3種類の抗結核薬を組み合わせて投与します。しつこい菌なので1年程度は内服を続ける必要があります。病巣が限られている場合は外科的に切除することもあります。

2010年2月17日水曜日

「熱傷」について

ゲスト/たけだ皮膚科スキンケアクリニック 武田 修 医師

熱傷とはどのような症状ですか?
 一般的には「やけど」と呼ばれていますが、その中には火による「火傷(かしょう)」、化学薬品等による「化学熱傷」、熱湯や油はねなどの熱源によるいわゆる「熱傷」があります。熱傷には1~3度の分類があります。1度は皮膚の表面(表皮)のみの傷害で、軽い日焼けと同じ程度です。3度は皮下組織に達する深い傷害で、皮膚が壊死(えし)したり、植皮手術の必要や感染症が生じたりします。
 家庭で正しく判断していただきたいのは、患部に水ぶくれができる真皮に起きる2度の熱傷についてです。2度はさらに2段階に分かれ、やけどが達する皮膚が比較的浅いものをSDB(浅達性2度熱傷)、やや深いものの皮下組織までは達していないものをDDB(深達性2度熱傷)といいます。水ぶくれが2週間以内に乾くかどうかが大きな境目です。新しい皮膚が出来上がるまでに2週間以上かかるDDBは、「しみ」として色が残り続けたり、皮膚がひきつれケロイド状になるなど、あとが残る可能性があります。
 また、1度の熱傷や2度のSDBと思われても、上皮化後にヒリヒリしたり、触って違和感を覚えたら、早めに医師へ相談してください。時間がたってから症状が現れることもあります。

家庭でできる熱傷の対処法はありますか?
 低温熱傷はこの季節、湯たんぽやパネルヒーターなどに一定時間以上、皮膚をくっつけて圧力をかけた場合に起こり得ます。特に糖尿病などの基礎疾患により感覚が鈍くなっている高齢者は、就寝中に熱傷を負う危険性が高まります。熱傷を起こしたら、まず流水で20分程度は冷やしてください。氷や冷却シートを直接当てると水ぶくれを破る恐れがあります。また、患部が心臓より低い位置にあったり、手の熱傷の場合に手を激しく振ったりすると、患部につゆがたまり水ぶくれがさらに大きくなることがあります。足なら就寝時に座布団などで足元側を高く保つと良いでしょう。
 水ぶくれの処置としては、火で軽くあぶって殺菌した針で表面に数カ所小さな穴を開け、患部より大きなガーゼを厚めに当てて中のつゆが自然と出やすいようにします。薬局で熱傷の薬、皮膚に付着しづらいガーゼも購入できます。ティッシュペーパーや綿は患部に付着するので避けてください。
 熱傷は数日かけて症状が重くなることが多いので、おかしいなと思ったら早めに皮膚科医への受診をお薦めします。

2010年2月10日水曜日

「目立たない矯正器具」について

ゲスト/宇治矯正歯科クリニック  宇治 正光  歯科医師

矯正に対する最近の傾向について教えてください。
 全身の健康やQOL(生活の質)にとって、咬(か)み合わせが重要な役割を果たしていることが一般の方々にも認知されるようになりました。
 それによって歯列の凸凹や、上顎(がく)前突、下顎前突、さらにあごの左右のズレを気にする方が増えてきました。先日、30代の女性から「上顎前歯が出て、下顎の凸凹しているのがコンプレックス。現在矯正治療を考えていますが、装置を裏からにするか、表からにするか迷っています」と相談されました。矯正治療は決して恥ずかしいものではありません。むしろ、「大人になってからよく決断したな」と思われるのではないでしょうか。
 咬合(こうごう)の大切さを認識し、矯正治療を受けようとする前向きな姿勢を隠す必要はありませんが、人知れずに治療したいという気持ちも分かります。特に社会人で、接客業など日常的に多くの人に接する職業の人はそう考えるでしょう。また、思春期のお子さんが矯正装置を気にする心情も理解できます。そういう場合は、舌側矯正をお勧めしています。

舌側矯正について教えてください。
 歯の裏側、つまり舌側に矯正装置を入れます。表からは装置が目に付かないので、見た目にはまったく違和感がありません。ただし、内側にあることから、表側からの矯正(唇側矯正)と比較すると、発音が不明瞭(めいりょう)、歯磨きや食事がしづらいという問題がありました。しかし、最近これらの問題点を改善した舌側矯正装置「STb」が開発されました。従来のものと比べて、非常に薄く、小さくなっています。話しづらい、食事がしにくい、舌が痛いといった、舌側矯正ならではの不快な点が、飛躍的に改善されました。人と話すことが多い職業の人や、違和感に対する不安などが理由で、今まで舌側矯正へ踏み切れなかった人にもお勧めできます。矯正治療の期間は、裏側でも表側でもそんなに違いはありません。
 歯並びをコンプレックスに感じている人は、成人でも意外に多いのではないでしょうか。心と体の健康のためにも、自身の歯並びに気になることがあったら、ぜひ一度矯正歯科医または経験豊富な歯科医に相談してください。

2010年2月3日水曜日

「リウマチ治療の今」について

ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 医師

リウマチについて教えてください。
 自己免疫疾患である膠原(こうげん)病の一つが関節リウマチです。40代をピークとして20~60代の女性に多く発症します。初期症状としては手のこわばり、関節痛などが代表的で、特に起床時の痛み、こわばりが何日も続くようなら、関節リウマチの可能性があります。専門医を受診した場合は、まず問診で症状の経過と現在の状態を確認します。続いて、関節の痛みや腫れ、熱感、屈曲など患部診察を行い、採血やレントゲン写真、超音波診断(関節エコー)やMRI(磁気共鳴画像装置)などで総合的に診断します。リウマチも他の疾病と同様に、早期に発見し、治療を開始することが、その後の症状改善に役立ちます。

治療と日常生活の注意点について教えてください。
 関節リウマチの場合は、患者さん本人によく理解してもらうことが重要です。悪化したきっかけとして思い当たることを聞くと、正月や法事などで多忙だったり、床掃除、除雪、引越しなどの家事労働、また運動や旅行、看病など、何気ない日常生活が挙げられました。過度の家事労働やストレスをためないことも大切です。そのほか、低気圧の接近や雨天、肥満など天候や健康状態による症状の悪化もあります。
初期治療としては、関節破壊を予防するために、抗リウマチ薬を処方します。さらに、消炎鎮痛剤、少量のステロイドも考慮します。同時に理学療法、作業療法を用いたリハビリテーションを進めます。このような治療を3カ月以上行っても、痛みや腫れが持続し、炎症反応が見られる場合は、次の段階として、抗リウマチ薬のメトトレキサート製剤による治療を行います。それでも十分に効果が得られないようであれば、生物学的製剤による治療を行います。生物学的製剤は近年導入された新薬で、リウマチ治療に大きな効果をあげています。薬の種類・タイプも増え、選択肢が広がっています。ただし、感染症にかかりやすくなる、高価であるなどの問題点もあります。リウマチは完治の難しい病気ですが、治療薬も日々進歩しています。あきらめずに上手に付き合っていくという心構えを持つことが肝心です。

2010年1月27日水曜日

「加齢黄斑(おうはん)変性症の新しい治療法」

ゲスト/大橋眼科  大橋 勉  理事長

加齢黄斑変性症について教えてください。
 人間の眼は、角膜、水晶体、硝子体(しょうしたい)を通って、網膜の上に像を結んで物を見ます。その中心部は黄斑部と呼ばれ、物を見るために最も重要な部分です。この黄斑部に異常な老化現象が起こり、視力が低下する病気が加齢黄斑変性症です。視野の中央がよく見えない、暗く見える、ゆがむといった症状が現れたら、加齢黄斑変性症が疑われます。
 原因は、健康な状態では存在しない新しい異常血管が、黄斑部の脈絡膜(網膜より外側に位置し、血管が豊富な膜)から発生し、網膜側に伸びてくることによります。この新しい血管は新生血管と呼ばれ、血管壁が大変もろいため、血液や血液成分が黄斑組織内に滲出(しんしゅつ)し、黄斑機能を妨げます。視力の低下、物がゆがんで見えるなどの症状が出現し、放っておくと高度の視力障害や、最悪の場合失明することもあります。

治療法について教えてください。
 もっとも新しい治療法として注目されているのが、抗血管内皮増殖因子抗体眼局所投与治療です。これは、脈絡膜新生血管の成長を活発化させる体内のVEGF(血管内皮増殖因子)という物質の働きを抑える薬です。薬を眼の中に注射することで、新生血管の増殖や成長を抑えることが可能です。基本的には月1回の注射を連続3カ月行い、その後症状を見ながら必要に応じて注射します。眼に直接注射をするため、まれに感染、視力低下、眼痛、出血などの合併症が起こる場合もあります。視力の維持だけでなく、改善も期待できる治療法で、まさしく画期的なものですが、リスクや費用も含め、医師と話し合って納得してから治療を受けるようにしましょう。
 ほかにも、光に対する感受性を持つ光感受性物質(ベルテポルフィン)を、ひじから注射し、新生血管に到達したとき、非熱性の半導体レーザーを当てて光感受性物質に化学反応を起こさせる、光線力学療法(PDT)などもあります。
 いずれにしても、早い時期に治療することが大切です。視界に異変を感じたら、すぐに眼科専門医を受診することをお薦めします。

2010年1月20日水曜日

「脳梗塞(こうそく)」について

ゲスト/コスモ脳神経外科 院長  小林 康雄

脳梗塞について教えてください。
 脳梗塞は虚血性の脳卒中で、脳の血管が血栓などによって詰まったり、動脈硬化によって血管が狭くなるなどして起こる疾患です。その背景となるのは基本的には、メタボリック症候群です。内臓脂肪が過剰になると、糖尿病や高血圧症、高脂血症といった生活習慣病を併発しやすく、動脈硬化が急速に進行します。
 脳梗塞の症状としては、半身不随、半身麻痺、しびれ、感覚の低下、手足の運動障害、意識障害、言語障害、昏睡などが挙げられます。突然起こる場合が多いのですが、場合によっては予兆となる症状があります。半身のしびれ、口のもつれなどで、このような症状が表れた場合は、迅速にかかりつけ医の指示をあおぐか、脳神経外科へ直行することをお薦めします。発症後3時間以内であれば、血栓や塞栓(そくせん)を溶かす薬を使って治療します。効果があれば、比較的後遺症が軽くすみます。投薬治療ができない場合は手術となりますが、この場合も治療までに要する時間が短いほど、後遺症を軽くすることができます。いかに迅速に治療を始めるかが、予後に大いに関係してきます。

脳梗塞を予防するにはどうすればいいですか
 30代、40代で動脈硬化が始まりますから、会社などの健康診断でメタボリックシンドロームの兆候があれば、普段の生活習慣を見直しましょう。食事は塩分を控え日本食中心にし、適度な運動、禁煙、節酒を心掛ける。ストレスや寝不足などで疲労が蓄積しないように規則正しい生活を目指しましょう。
 また、健康診断で不安要素があったり、動脈硬化症の近親者がいる場合は、一度「脳ドック」を受けることをお薦めします。レントゲン検査で頭と首の健康状態を調べ、MRI(磁気共鳴画像装置)で脳の断層写真を撮り、MRA(磁気共鳴血管造影)で血管の狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)部分・脳動脈瘤(りゅう)の発見、動脈硬化の程度などを調べます。健康保険の適用外になりますが、1~2時間程度で受けられます。脳梗塞は一度発症すると命にかかわり、後遺症の影響も大きい疾患です。自分の健康・生活を守るためにも、予防を心掛けましょう。

2010年1月13日水曜日

「橋本病」について

ゲスト/青空たけうち内科クリニック 竹内 薫 院長

橋本病について教えてください。
 橋本病は、慢性甲状腺炎とも呼ばれ、リウマチなどと同じ膠原(こうげん)病(自己免疫疾患)の一つで、甲状腺機能低下症の代表的な疾患です。同じ甲状腺の病気・バセドー病とは正反対で、甲状腺ホルモンの量が不足することによって、新陳代謝が悪くなり、全身に影響が出ます。寒がり、疲れやすい、動作が鈍い、体重増加、声かれ、むくみ、のどの違和感、ボーッとした表情、物忘れ、無気力、眠気、脈が遅くなる徐脈、息切れ、食欲低下、便秘、皮膚乾燥、脱毛、脱力感、筋力低下、肩凝り、月経不順、コレステロール値上昇、貧血など、さまざまな症状が出てきます。
 橋本病の原因は、甲状腺を異物とみなして甲状腺に対する自己抗体(抗サイログロブリン抗体、抗マイクロゾーム抗体)ができ、この抗体が甲状腺を破壊していくため、徐々に甲状腺機能低下症になります。
 また、甲状腺が腫大する(硬く腫れる)ことがあり、甲状腺腫が大きい人は、のどの圧迫感や違和感を訴える場合があります。20歳以降の女性に多く、潜在性や軽症例を含めると成人女性の約10%程度と高頻度です。

治療について教えてください。
 甲状腺機能が正常であれば、体には影響はなく自覚症状もないので、薬は必要ありません。甲状腺機能の低下がある場合は、足りない分の甲状腺ホルモンを補充します。薬の効果が出れば症状が軽減し、家事、仕事、妊娠など日常生活を普通に送ることができます。ただし、足りない分を補っているだけなので、長期間の治療が必要になります。
 橋本病は合併症を起こしやすく、リウマチやシェーグレン症候群などの膠原病を合併しやすい病気です。また、まれに悪性リンパ腫になることもあります。治療の必要がなくても、定期的な診察は欠かさないようにしましょう。比較的多い疾患ですので、首に違和感を覚えたり、前述の症状がある場合は内科医等を受診することをお薦めします。

2010年1月6日水曜日

「個人と社会の関係」について

ゲスト/五稜会病院 千丈 雅徳 医師

「自分さえよければ」という傾向が強くなっていると感じられますが。
 日本人は昔から「世間体を気にする」といわれてきましたが、最近は、ごく限られた仲間内だけの世間体を非常に気にするという傾向が見られます。たとえば、メールが来たらすぐに返信しなければならない、そのために人前でずっと携帯をいじっているなど公共空間でのマナー違反、ルール違反を平気で犯す。つまり、ごく小さな世界での世間体を優先し、公の世間体には無頓着になっています。
 昨年、オバマ大統領が就任式のスピーチで「一人一人の責任ある行動」を強調しました。また、約50年前の大統領で今も人気がある故ジョン・F・ケネディは、就任式で「わが同胞のアメリカ人よ、あなたの国家があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたがあなたの国家のために何ができるかを問おうではないか。わが同胞の世界の市民よ、アメリカがあなたのために何をしてくれるかではなく、われわれと共に人類の自由のために何ができるかを問おうではないか」と述べ、文句を言うだけで何でも他人のせいにすることを戒め、主体的に自らの運命を切り開いていくことを強調しました。

自分を犠牲にすることでストレスもたまるのではないですか。
 自己を犠牲にする必要はありません。「何をしてもらえるかではなく、何ができるか?」という意識の大切さについては、昨年日本を沸かせWBCで活躍した選手たちが良いお手本になります。
 たとえば、イチローが9年連続200本安打を達成し、ダルビッシュは北海道日本ハムのリーグ優勝に貢献し、パ・リーグのMVPも獲得しました。彼らはチームの中で何とか貢献しようという気持ちが強く、そのために厳しく自己管理を行い、結果として個人の成績も残したわけです。個の利益と公の利益は、決して対立するものではありません。
 私たちも自分を磨きながら同時に社会の役に立つよう心掛けたいものです。しかし、そのためにはメンタル面での強さが必要です。スポーツの現場では、メンタルトレーニングは一般的になりつつあります。悩みを独りで抱え込んでプレッシャーに押しつぶされては駄目です。周囲に相談してください。相談できる人がいない、自分で感情のコントロールが難しいと感じたら、心療内科や精神科で、専門家にアドバイスを求めることをお薦めします。ストレスからうつに移行する患者さんも多いので、早めに受診することが肝心です。

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