2022年9月29日木曜日

健診や検診の上手な活用法

記事/ライターコラム

生活習慣病やがんは、新型コロナの収束を待ってくれません。健康診断(健診)やがん検診の受診を控えることは、健康上のリスクの早期発見の機会を逃してしまう可能性があります。コロナ禍で健康を見つめ直す今だからこそ、健診やがん検診を受診しませんか?


健診は受けっぱなしで終わらせない

 健診には、職場で行われている定期健康診断や、40歳以上の人に対して行う特定健康診査などがあります。これは身体測定や血液検査など、体全体の検査を通して、自覚できない病気の症状や前兆を調べるものです。主に、糖尿病や高血圧症、脂質異常症などの生活習慣病のリスクがあるかどうかを調べるために行います。

 従来、健診の主な目的は病気の早期発見・治療でしたが、最近は病気を未然に防ぐ予防的な役割も重要視されています。健診の結果、生活習慣病のリスクがあれば生活習慣を改善し、発症予防や重症化予防に取り組むことが大事です。結局そのままの生活習慣を続ければ、健診の意味がないばかりか、病気のリスクは日に日に高まります。健診は、受けっぱなしで終わらせないことが重要なのです。

 初期の生活習慣病は自覚症状がないことが多いため、いつの間にか病気が進行してしまう危険があります。健診は健康なうちに受診してこそ意味があります。「時間がない」「元気だから大丈夫」と考えず、ぜひ定期的に受診してください。


早期発見・治療のためがん検診受診を

 国内で毎年、約100万人ががんと診断されています。日本人の2人に1人がかかり、3人に1人が亡くなる死因第1位の国民病です。ただ、医学の進歩により早期発見・治療ができれば、治る可能性が年々高まっています。がんは、早期の段階では自覚症状が出ないことが多く、症状が出現する頃には手遅れとなっていることもあります。早期発見のためには、「がん検診」が有効です。

 国が推奨する5つのがん検診(胃がん、大腸がん、肺がん、子宮頚がん、乳がん)は、早期発見と早期治療で死亡率が低下することが科学的に検証されたものです。また、検証結果に基づき、検診の間隔や対象年齢、検査方法も定められています。この5つのがん検診は、市区町村が検診費用を補助しており、無料か小額の自己負担で済むことも良い点です。お住まいの地域で検診窓口をお知りになりたい場合は、日本医師会によるホームページ「知っておきたいがん検診」にアクセスしてみてください。

 がん検診の結果、「要精密検査」といわれたら、必ず精密検査を受けることも重要です。また、今回異常が見つからなくても、1回限りではなく、定期的にがん検診を受けることも大切です。


 健診・がん検診の受診が大切な命、大切な人を守ることにつながります。コロナ禍でも健診・がん検診の受診は「不要不急の外出」には該当しません。病気を見つける大切な機会を逃さないよう、必ず定期的に受けるようにしてください。

2022年9月22日木曜日

脂漏(しろう)性皮膚炎

ゲスト/宮の森スキンケア診療室 上林 淑人 院長


脂漏性皮膚炎とはどのような病気ですか。

 鼻や耳の周囲、おでこや頭皮など体の中で皮脂の多い場所(脂漏部位)に起こる皮膚炎です。皮膚が赤くかさついて剥がれたりかゆみを伴ったりします。頭皮ではフケが多くなり、かゆみを伴うことが多いです。

 脂漏性皮膚炎の原因は単一的なものではなく、いろいろな要因が影響して発症、悪化すると考えられています。その要因の一つは、皮脂が皮膚に常在するマラセチア菌という真菌(カビの仲間)などに分解された結果、刺激物となりそれによって炎症が起こると言われています。その他、化粧品による肌への負担、洗顔不足や過剰な洗顔など間違った洗顔方法、睡眠不足や疲労、ストレスなどで皮脂分泌が増えること、偏った食生活や野菜(特に緑黄色野菜)不足などによるビタミン類の不足などさまざまです。体質的、遺伝的素因によることもあります。


診断と治療、予防について教えてください。

 診断では似たような症状を伴うアトピー性皮膚炎や、鼻や頬の周囲など顔の赤みが特徴の「酒さ」との鑑別が重要です。

 治療は炎症を抑える塗り薬が中心となります。必要に応じてマラセチア菌の増殖を抑える抗真菌薬や皮脂分泌を調整するビタミン剤、かゆみを抑える内服薬を処方することもあります。症状が消えたり再発したりを繰り返すのも特徴で、根気よく治療を続けることが大切です。

 治療以外に大切なことは生活習慣の改善が非常に重要です。小まめな洗顔、洗髪、入浴で過剰な皮脂を落とし清潔に保つことが基本です。乾燥を防ごうと油分の多い基礎化粧品などを過剰に使用していると、皮脂を閉じ込め脂漏性皮膚炎を引き起こしてしまうことがあります。特に、クリームや美容オイルなどを重ねづけすると、肌表面の油分が多くなりすぎるので注意してください。

 また、野菜や魚などを多く摂取してバランスの良い食生活を心掛けましょう。休息や睡眠を十分に取り、規則正しいリズムで生活し、ストレスや疲労をため込まないように気を付けてください。しぶとく再発しやすい皮膚炎ですが、気にならない程度にうまくコントロールできる皮膚疾患です。顔の赤みや頭のフケ、かゆみでお悩みの人は、自己判断せずに医療機関を受診してください。

2022年9月15日木曜日

高齢者の摂食嚥下障害

医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 野田 順子 歯科医師


摂食嚥下障害とはどのような病気ですか。

 摂食とは食べること、嚥下とは飲み込むことを指します。摂食嚥下とは、食べ物を認識し、口腔内で咀嚼して飲み込み、咽頭や食道を経て胃へ送り込む過程をいいます。この無意識に行われる一連の動作が、何らかの原因で障害されることを摂食嚥下障害と呼びます。

 高齢になると、う蝕(しょく)=虫歯や歯周病の進行による歯の欠損、舌やのどの筋力低下、だ液水分量の不足などが原因で、食べ物を口の中で飲み込みやすい形にできなくなり、それをそのまま飲み込むことでむせたり、食道に流れ込むべきだ液や食物が誤って気管に入ってしまう誤嚥を起こしやすくなります。

 加齢に伴う摂食嚥下障害には個人差があり、高齢になっても問題がない場合もありま

すが、持病のある方では治療のために服用している薬剤が摂食嚥下障害に関係しているケースもみられます。また、高齢になると認知症を合併することも多く、認知症の進行とともに摂食嚥下障害は重症化していきます。

 まずは歯科を受診してう蝕・歯周病の治療や、必要があれば義歯を使うなど「食べられる口」をつくることが大切です。食べる楽しみが失われると、生活の質が低下することも大きな問題です。


注意すべきポイントを教えてください。

 摂食嚥下障害の症状は特に食事中に顕著に現れます。口から食べ物がこぼれる、むせることが多い、飲み込むまで時間がかかる、食べ物がのどに残っている感じがする、食後に痰が出やすいなどの症状がみられると、低栄養や脱水を引き起こしたり、食事や飲み物を誤嚥することで窒息や誤嚥性肺炎につながったりすることもあります。

 誤嚥性肺炎は特に高齢者に多い疾患で死亡者が増加傾向にあり、高齢化の進展に伴って今後もさらに増えることが懸念されています。誤嚥性肺炎の直接的な原因は、口腔内の常在菌であることが分かっています。歯の有無にかかわらず歯ブラシなどで口腔内を清掃することは、歯を健康に保つだけではなく口腔内の細菌数を減らし気道感染、誤嚥性肺炎を予防するためにも重要です。

 上記の症状のほかに体重の減少や夜間のせき、熱発を繰り返すなどの症状がある場合は摂食嚥下障害が疑われますので、歯科医に相談するなどして、摂食嚥下障害を専門的に診る医療機関を受診することをお勧めします。 

2022年9月8日木曜日

高齢者のめまい

西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長


めまいについて教えてください。

 脳神経外科の外来では、めまいを訴えて受診される患者さんが多くいらっしゃいます。初めて経験するめまいは、患者さんにとっては恐ろしいものです。「天井がぐるぐる回った」「後ろに倒れそうになった」「地震かと思った」「立ち上がったら目の前が暗くなった」などの症状がみられますが、その訴えの中にはさまざまな原因が考えられます。

 頻度が高いものは、内耳障害によるめまいですが、脳の障害で起こる“怖いめまい”との鑑別が重要です。症状の強さだけで判断することは禁物で、めまいとともに言葉のもつれや手足の脱力・しびれが出ているようなら、脳の障害が疑われます。中には非常に鑑別の難しいめまいもあります。脳の障害によるめまいは極力早く診断し、治療に入る必要がありますが、その際にはMRIによる診断が有用です。


高齢者のめまいにはどのような特徴がありますか。

 高齢者は、加齢に伴い平衡感覚の衰えや血圧を調節する能力が衰えているので、めまいを起こしやすいです。高血圧や糖尿病などの持病を抱えていることも多く、それらの薬の副作用でめまいを起こすこともあります。

 高齢者のめまいには、原因を簡単に明らかにできないことも多いです。もともと耳鳴りや難聴がある場合のめまいは、必ずしも内耳に原因があるとはいえません。例えば「起立性低血圧」とは、座った状態から立ち上がった時に血圧が低下する状態をいい、若い方は顔が青ざめ冷や汗が出るなどし、失神してしまうケースもあります。高齢者はこのような激しい反応は起こりにくいとされていますが、一方で、加齢のため血圧を一定に保つ自律神経の働きが衰えているため、血圧が少し下がっただけでもめまいを起こしやすく、やはり立ち上がる際には注意が必要です。

 また、暑い時期は汗をかきやすいため、脱水からめまいを起こすこともあります。特に高齢者はのどの渇きを感じにくくなるため、脱水状態になりやすいです。夜間にトイレに行くのを減らそうと水分補給を控えることがありますが、脱水の予防を考えると好ましくありません。入浴や就寝前にはコップに1杯の水を飲むようにしましょう。

 漢方薬がめまいの症状に有効なことも多いです。長引くめまいの症状でお悩みの方は、ぜひ一度専門医にご相談ください。


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