2019年12月25日水曜日

社交不安症

ゲスト/医療法人北仁会 いしばし病院 内田 啓仁 医師

社交不安症とはどのような病気ですか。
 近年、ストレス性のうつ病をはじめ、パニック障害などのストレス関連疾患が急増していますが、社交不安障害(SAD)もその一つです。SADは、人前で話をするなど注目を浴びる行動に不安を感じ、顔が赤くほてる、脈が速くなる、息苦しくなる、おなかが痛くなるなどの症状が現れる病気です。例えば、公式な席であいさつをする、会議で指名され意見を言う、よく知らない人に電話をかける、外で他人と食事をするといった状況で症状が出ることが多いです。
 恥ずかしいと思う場面でも、多くの人は徐々に慣れてきて平常心で振る舞えるようになりますが、SADの人は「恥をかいたらどうしよう」「変に思われるかもしれない」という不安感を覚え、そうした場面に遭遇することへの恐怖心を抱えています。SADのため、他人との関わりが辛くなり、不登校や引きこもりなど社会生活に支障を来すケースも少なくありません。
 SADは10〜20歳代に発症することが多く、症状が慢性化してくると、うつ病やアルコール依存症など別の精神疾患の合併が問題となります。心の病気か、性格の特性か、一見しただけでは見分けがつかないのもSADの特徴で、「内気」「人見知り」「引っ込み思案」などと思い込み、診療の機会を失ったまま過ごしている人も多いです。

治療について教えてください。
 SADの治療法には大きく2つ、薬物療法と精神療法があります。薬物療法では、不安や恐怖を感じる原因とされる脳内物質のバランスを保つ薬・SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を用います。抗不安薬やβ遮断薬などを併用し、不安時の身体症状の緩和を図る場合もあります。
 精神療法では、物事の受け止め方のゆがみや偏りを修正していく「認知行動療法」や、不安が生まれる状況にあえて飛び込んで段階的に身を慣らしていく「暴露療法」などが有効です。同時に、適度な有酸素運動などの生活指導や呼吸法、リラックス法など不安状況への対処法も指導します。
 SADは次第に認知されてきましたが、まだ十分に知られていない病気です。何より重要なのは、SADは治療のできる病気ということです。治療により長年の苦痛から解放され、人生が大きく変わる患者さんもたくさんいます。不安の頻度が多かったり、社会生活への影響が大きい場合は、思い切って専門医を受診し、適切な治療を受けることをお勧めします。

2019年12月18日水曜日

高位脛骨(けいこつ)骨切り術と半月板損傷の治療

ゲスト/医療法人知仁会 八木整形外科病院 薮内 康史 医師

高位脛骨骨切り術について教えてください。
 中高年になると膝に痛みを感じる人が増えてきます。その多くは変形性膝関節症によるものです。膝の関節軟骨がすり減り、関節内に炎症が起きたり、関節が変形したりして痛みが生じます。膝への衝撃を吸収するクッション役の半月板が切れたり、裂けたりする半月板損傷を伴っているケースも多いです。症状が進むと、歩けば膝が痛く、正座や階段の上り下りが難しくなります。さらに症状が進むと膝が変形し、歩行困難など日常生活に支障を来します。
 治療としては、薬(消炎鎮痛剤や関節内注射など)やリハビリ、装具(膝装具や足底板など)による保存治療がまず行われます。保存治療で痛みが軽減されず、日常生活や仕事に不便を感じるようであれば、手術が考慮されます。手術は、一般的には症状が軽度〜中程度であれば高位脛骨骨切り術が、高度であれば人工関節置換術が行われます。
 変形性膝関節症では、多くの人が膝の内側の軟骨がすり減り、徐々にO脚となり、さらに膝の内側に負担が偏ります。高位脛骨骨切り術は、自分の脛(すね)の骨を切ることでO脚を矯正し、膝の外側へと負担を分散させる手術です。いくつか術式がありますが、最近では、膝の内側から骨を切って広げ、時間とともに本物の骨に置き換わる人工骨を挿入し、金属のプレートで固定する方法が多くなっています。半月板損傷を伴っている場合は、関節鏡を使って断裂した半月板を切除したり縫合をします。関節内全体をクリーニングしたり、必要に応じて軟骨移植もあわせて行うこともあります。

高位脛骨骨切り術の利点について教えてください。
 最大の利点は、自分の関節を温存することができるので、比較的侵襲(心身に及ぼす影響)が少なく、他の手術方法と比較して術後の日常生活に対する制限が少ないことです。回復すれば、ゴルフ、テニス、ジョギングといったスポーツや農作業などの肉体労働の仕事も可能ですし、正座も引き続きできることが多いです。
 術後に運動や体を動かす仕事、旅行などを積極的にしたいといった患者さんは高位脛骨骨切り術を受けるのに適しているといえるでしょう。また、人工関節は技術の進歩とともに耐久性は向上していますが、その寿命は一般的に20年程度と考えられていますので、若い患者さんにも高位脛骨骨切り術が勧められます。

2019年12月11日水曜日

リウマチクリニックにおける看護師の役割

ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 院長

リウマチ診療におけるチーム医療の重要性について教えてください。
 近年、骨破壊を抑える効果が期待できる生物学的製剤の登場など、診断技術や治療方法の大幅な進歩によって、リウマチの症状や兆候が消失した状態である「寛解」を目指し、寛解が維持できる“新しい時代”を迎えています。とはいえ、リウマチはその治療が長期にわたるため、患者さんにとっては心理的負担も大きく、また高額な薬剤費による経済的負担も大きくなります。これらのさまざまな問題を医師だけで解決することは難しく、医師以外のメディカルスタッフの協力が必要となります。
 医師、看護師、検査技師、薬剤師らがそれぞれの立場から患者さんへの聞き取り、日常生活のチェックなどを行うことで、あらゆる角度から患者さんの容体をみつめ、医師の診察だけでは分からなかった問題点を発見することがチーム医療の狙いの一つです。看護師の介在は、患者さんと医師のコミュニケーションには必須です。
 高齢化社会を迎え、リウマチ患者さんの高齢化が進むとともに、高齢発症の患者さんも増えております。高齢者はフレイルという虚弱状態に陥りやすく、リウマチの治療を継続しなければ、身体機能の低下で寝たきりになる可能性もあります。そこで大切なのは、個々の患者さんが希望される治療内容や社会的背景(医療・福祉制度の利用状況など)を十分に考慮しながら、治療(通院)の継続を支えていくことです。その中で大きな役割を果たすのが、医師以上に患者さんと長い時間向き合っている看護師の存在であると私は考えます。
 看護師は、患者さんが家事などの日常生活に不便を感じたり、医療費を負担に感じていないかなど、個々人の背景を把握するよう努めることも仕事の一部です。患者さんが利用できるさまざまな制度について情報提供をするなど、それぞれがより良い人生を送るために、日々の生活をどのように過ごし、どう治療を継続していくかという個別指導の取り組みも重要になります。
 患者さんが新たに医療・福祉制度を利用し、さまざまなサービス、支援・助成を受けるというリウマチのトータルケアの一助となれるように日々努力を積み重ねることも看護師の責務です。
 看護師が自己研鑽して培ってきた技能やアイデアを活かし患者さんに貢献することでチームとしての医療体制が整い、より良いリウマチ診療を生み出すことができるでしょう。

2019年12月4日水曜日

股関節の関節外クリーニング手術

ゲスト/医療法人社団 二樹会 足立外科・整形外科クリニック 加谷 光規 副院長

股関節が痛くなる原因を教えてください
 股関節に痛みを引き起こす病気は、股関節周囲炎やアスリートの股関節痛、変形性股関節症などが知られています。
 「五十股」とも呼ばれる股関節周囲炎は、股関節の使い過ぎなどで股の付け根に痛みを発症する病気です。痛みで受診しても、レントゲン検査では異常が発見されないことも多く、薬物療法やリハビリを行っても改善しないケースも少なくありません。アスリートの股関節痛は、サッカーや野球、バドミントンなど足を使うスポーツ選手に多いです。股関節の前面から大腿骨にかけて、膝を伸ばす大腿直筋という筋肉がついているのですが、この筋肉の股関節側の付着部の損傷が痛みの原因です。変形性股関節は、何らかの要因により股関節が変性し痛みを発症する病気です。大部分が骨盤の臼蓋(きゅうがい)の形成不全が原因です。
 股関節の痛みに対する治療には、痛みを緩和しながら日常生活を問題なく送るための手助けを行う保存的治療と、手術を行って痛みの原因を根本的に取り除く外科的治療があります。手術にもいくつか種類がありますが、新しい治療法として注目されているのが股関節鏡を用いた「関節外クリーニング手術」です。

股関節の関節外クリーニング手術について教えてください。
 関節外クリーニング手術は、1センチの創を2〜3カ所作り、そこから内視鏡を挿入して筋肉と筋肉の癒着や炎症などを取り除き、股関節の痛みを改善する治療法です。骨を削るなどの治療を必要としないので、入院期間は3日程度で済み、おおむね10日〜2週間で社会復帰が可能です。
 治療の対象となるのは、股関節周囲炎や運動に伴う股関節痛です。レントゲン画像で異常はないものの股関節痛があり、薬やリハビリではなかなか改善しないといった症例の約半数に適用となります。また、変形性関節症の中にも関節外クリーニング手術だけで改善する例もあるので、病状を見極めた上で治療法を決定することが重要です。
 股関節の痛みは、理学療法士による徒手的なリハビリで治るケースも少なくありません。さらに、術前に徒手的リハビリを実施することで、関節外クリーニング手術を行いやすくしたり、また術後に徒手的リハビリを行って回復を早めたりするなど、手術と組み合わせる治療も有効なケースが多いことが分かっています。

2019年11月27日水曜日

秋から冬の乾燥肌ケア

ゲスト宮の森スキンケア診療室 上林 淑人 院長

乾燥肌について教えてください。
 秋から冬にかけて寒い季節に、多くの人が悩まされる肌のトラブルといえば乾燥肌です。皮膚が乾燥して、カサカサした状態になり、ひどくなると白く粉をふいたり、ひび割れてうろこのようになったりします。ある程度乾燥すると、それだけでかゆみを伴い、掻(か)くと悪化して皮膚炎を起こす場合もあります(皮脂欠乏性湿疹)。
 皮膚表面を覆う脂分など、皮膚の潤いを保つ成分が、加齢などにより減ったり、不足したりすること、また、ストレスや疲労、ビタミン不足などによる肌荒れの進行が乾燥肌の原因です。外気や室内の乾燥、皮膚を強く洗いすぎるといった生活習慣なども外的な要因として挙げられます。
 乾燥してカサカサした皮膚は、目に見えない細かな傷がたくさん付いた皮膚ともいえます。これらの傷からいろいろな刺激物が入り込んでかゆみを起こし、さらなる皮膚トラブルの原因となります。放っておくとますます症状は悪化しますので、早い時期から治療することが大切です。

乾燥肌の治療と対策について教えてください。
 治療は、傷ついた皮膚の表面に潤いを与える保湿剤が中心となります。皮膚のダメージに応じて、かゆみや炎症を抑える薬を処方することもあります。ただの乾燥肌と思っていたら別の皮膚の病気が隠れていたというケースもあるので、自己判断に頼らず、専門医と相談の上で治療することをお勧めします。
 乾燥肌対策の最重要ポイントは、保湿クリームなどを小まめに塗り、皮膚の潤いを保つことです。1日1回塗るより、1日2回朝と夜(可能なら入浴後)に塗った方が保湿効果は高いという研究結果が出ています。「保湿剤を塗る量はどのくらい?」という質問をよく受けますが、1FTU(ワン・フィンガー・チップ・ユニット)という単位を目安にしてもらっています。これは人差し指の先端から第一関節までチューブから絞り出した量が薬0.5gで、両方の手のひらに塗る量に相当するという塗り方です。ローションの場合は手のひらの上に1円玉大が1FTUの目安です。塗る量が少し多いと感じるかもしれませんが、十分な量をしっかり塗ることで、期待する効果が得られやすくなります。感覚的には「保湿剤の油分で皮膚の表面が光る程度」「ティッシュペーパー1枚が皮膚に貼りつく程度」と覚えておくといいでしょう。

2019年11月20日水曜日

広がる新型たばこの健康リスク

ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 院長

―火をつけない新型たばこのシェアが拡大しています。新型たばこの健康上のリスクについて教えてください。
 紙巻きたばこの喫煙・受動喫煙は長年の研究で、肺がんなどの危険を高めることが科学的に証明されていますが、近年、従来の紙巻きたばこより有害物質が少ないと宣伝される新型たばこが登場し、今や世界規模で普及しています。新型たばことは、電子たばこと加熱式たばこを指します。
 電子たばこは、ニコチンや多様な香料を含む液体を専用装置で加熱してエアロゾル(気体中に分散して浮遊する液体及び個体の微粒子の総称)を吸うものです。日本ではニコチンを含む電子たばこは法律で規制され市販されていませんが、8000種類以上あるといわれている香料の香りや味を楽しむものは規制外です。電子たばこは発売当初から有害性が議論になっています。有害成分の濃度が低いという業者の主張とは異なり、従来の紙巻きたばこに比べて安全とはいえない可能性が高いという研究結果が相次いでいます。米国では、電子たばこを吸った後、深刻な肺の病気にかかった患者が死亡した例もあり、電子たばこに含まれる未知の有害成分が関係しているとみて調査が進められています。
 一方、加熱式たばこは、たばこの葉に直接火を付けるのではなく、たばこの葉を加熱してニコチンなどを含んだエアロゾルを発生させる方式のたばこです。日本で急速に広がる加熱式たばこは「有害物質が少なく、煙が出ないのでクリーン」と俗にいわれていますが、本当にそうなのでしょうか。確かに、ニコチンは減少するものの、紙巻きたばこに含まれるその他の発がん性物質や有害物質は一律に減少しないことが明らかになっています。発がん性物質や有害物質には許容範囲がないので少量でも使用しないことが大切です。また、加熱式たばこの喫煙者が吸い込んだエアロゾルの約3分の1は、そのまま吐き出されます。その煙は見えにくく、においもほとんどありませんが、高濃度の有害な成分を含んでいることが実験で確認されています。受動喫煙がないという誤解・誤認識により、加熱式たばこの使用を認める飲食店が増えているようですが、受動喫煙の点からは問題だといえます。
 新型たばこは市販されてからの期間が短く健康被害の調査がまだ十分に行われておらず、紙巻きタバコよりも安全だという保障はまったくありません。日本呼吸器学会からは「使用者にとっても、受動喫煙させられる人にとっても、電子たばこや加熱式たばこの使用は推奨できない」という見解が出されています。

2019年11月13日水曜日

全般不安症・全般性不安障害

ゲスト/医療法人社団 正心会  岡本病院  山中啓義 副院長

全般不安症・全般性不安障害とはどのような病気ですか。
 全般不安症・全般性不安障害(GAD)は、慢性的にコントロールできない心配によって不眠、筋緊張などの身体症状や集中困難をきたす疾患です。社会的・職業的機能障害、ほかの精神疾患や身体疾患との併存、放置しておくと自殺につながる恐れもあるとも考えられています。
 しかし、その概念や診断基準の変遷から患者さんはもちろんのこと、医師の中でもその認知度や理解度は未だに低い疾患の一つと思われます。
 GADの原点はドイツ精神医学(以下、伝統的精神医学)における「不安神経症」に遡ることができます。「何か悪いことが起こるのではないか」という予期不安、慢性不安を誘因としてさまざまな症状が生じるものとされます。伝統的精神医学は個々の症例を様々な角度から深く検討していくという長所がある一方、明確な基準がない、同じ症例でも医師によって診断の一致率が低いという短所もあります。
 1980年、疫学調査や自然科学的研究を進める上でDSM-3(心の病気に関する診断基準)が誕生し、不安障害の再編成が行われました。現在用いられているDSM-5において全般不安症・全般性不安障害は「多数のことへの制御不能で過剰な不安と心配(予期憂慮)が、起こる日の方が起こらない日より多い状態が少なくとも6か月間にわたる」と定義されています。そして、その不安および心配は以下6つの症状のうち3つ以上を伴っているものとされています。①落ち着きのなさ、緊張感 ②疲労感 ③集中困難 ④易怒性、焦燥 ⑤筋肉の緊張 ⑥不眠。DSM-5では「たとえ、うつ病期間中のみに起こったGAD(全般性不安障害)であっても、GADとしてよい」とされ、どんな気分障害とも併存すると規定されました。


治療について教えてください。
 GAD治療には長く抗不安薬や睡眠薬が用いられてきました。しかし、特にベンゾジアゼピン系薬剤による依存、耐性、離脱、眠気、認知機能低下などの観点から近年は推奨されていません。
 現在は、抗うつ薬であるSSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)が薬物療法の第一選択薬となっています。また、非薬物療法として支持的精神療法、認知行動療法、リラクゼーション訓練などの有効性も報告されています。

2019年11月6日水曜日

股関節の関節外クリーニング手術

ゲスト/医療法人社団 二樹会 足立外科・整形外科クリニック 加谷 光規 副院長

股関節が痛くなる原因を教えてください。
 股関節に痛みを引き起こす病気は、股関節周囲炎やアスリートの股関節痛、変形性股関節症などが知られています。
 「五十股」とも呼ばれる股関節周囲炎は、股関節の使い過ぎなどで股の付け根に痛みを発症する病気です。痛みで受診しても、レントゲン検査では異常が発見されないことも多く、薬物療法やリハビリを行っても改善しないケースも少なくありません。アスリートの股関節痛は、サッカーや野球、バドミントンなど足を使うスポーツ選手に多いです。股関節の前面から大腿骨にかけて、膝を伸ばす大腿直筋という筋肉がついているのですが、この筋肉の股関節側の付着部の損傷が痛みの原因です。変形性股関節は、何らかの要因により股関節が変性し痛みを発症する病気です。大部分が骨盤の臼蓋(きゅうがい)の形成不全が原因です。
 股関節の痛みに対する治療には、痛みを緩和しながら日常生活を問題なく送るための手助けを行う保存的治療と、手術を行って痛みの原因を根本的に取り除く外科的治療があります。手術にもいくつか種類がありますが、新しい治療法として注目されているのが股関節鏡を用いた「関節外クリーニング手術」です。

股関節の関節外クリーニング手術について教えてください。
 関節外クリーニング手術は、1センチの創を2〜3カ所作り、そこから内視鏡を挿入して筋肉と筋肉の癒着や炎症などを取り除き、股関節の痛みを改善する治療法です。骨を削るなどの治療を必要としないので、入院期間は3日程度で済み、おおむね10日〜2週間で社会復帰が可能です。
 治療の対象となるのは、股関節周囲炎や運動に伴う股関節痛です。レントゲン画像で異常はないものの股関節痛があり、薬やリハビリではなかなか改善しないといった症例の約半数に適用となります。また、変形性関節症の中にも関節外クリーニング手術だけで改善する例もあるので、病状を見極めた上で治療法を決定することが重要です。
 股関節の痛みは、理学療法士による徒手的なリハビリで治るケースも少なくありません。さらに、術前に徒手的リハビリを実施することで、関節外クリーニング手術を行いやすくしたり、また術後に徒手的リハビリを行って回復を早めたりするなど、手術と組み合わせる治療も有効なケースが多いことが分かっています。

2019年10月23日水曜日

くも膜下出血

ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長

くも膜下出血とはどのような病気ですか。
 くも膜下出血は、発症するとおよそ3分の1の方が亡くなり、3分の1の方が障害を残すといわれる重篤な病気です。しかし、残る3分の1の方は順調に経過して、元気に社会復帰しています。
 くも膜下出血は、脳動脈瘤(りゅう)と呼ばれる「血管のこぶ」の破裂により起こることがほとんどです。脳動脈瘤は、脳の表面を走る太い血管にできることが多いです。症状は頭痛が特徴的です。よく「激しい頭痛」と表現されますが、ごく軽い頭痛で発症するケースもみられます。痛みの強さよりも、「突然に発症した頭痛」であることが診断のポイントになります。出血した際に、頭の中の圧が高くなり、脳に血液が流れなくなることで意識障害を伴う場合もあります。
 初回の出血を切り抜けても、2回目の破裂による再出血で重篤な状態になる方も多く、治療の第一の目的は「再出血の防止」です。一般的な治療は、脳動脈瘤のくびれた部分をクリップではさむ「ネッククリッピング術」です。最近では、頭を切らずに、血管の中から治療する「コイル塞栓術」という方法も登場しています。再出血の予防がうまくいったら、その後は脳血管れん縮や全身の合併症の治療を行います。最初の手術と合併症の治療、この二つを乗り切ることが重要です。

くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤について教えてください。
 脳動脈瘤は破裂する前にその兆候が分かる場合もあります。「動眼神経麻痺(まひ)」という片方のまぶたが下がってくる症状や、物が二重に見えるなどの症状です。これらは大きくなった動脈瘤が動眼神経を圧迫していることから生じる症状です。短期間で大きくなる動脈瘤は破裂の危険性が高いので、なるべく早く脳神経外科での検査・治療が必要になります。
 破裂していない脳動脈瘤は、脳ドックでの脳の血管を調べる検査(MRA検査)で見つかることがあります。また、脳梗塞などほかの病気の検査で偶然見つかる場合もあります。見つかった動脈瘤の大きさや形、患者さんの年齢や身体的な状況を考慮して、破裂する前に治療することをお勧めするケースもあります。通常、動脈瘤があるというだけでは、破裂の危険性が高いわけではないので、その判断は慎重に行う必要があります。複数の医師に相談し、ご自身でよく考えて十分に納得した上で治療に臨むことが大切です。

2019年10月16日水曜日

感染性腸炎

ゲスト/佐野内科医院 佐野 公昭 院長

感染性腸炎とはどのような病気ですか。
 感染性腸炎とは細菌やウイルス、寄生虫などの病原体が腸に感染してさまざまな消化器症状を引き起こす病気です。多くは食品や飲料水を通して経口的に病原体が体内に入ります。そのほか、病原体が付着した手で口に触れることによる感染、感染者の吐しゃ物や便の処理時の感染などがあります。
 病原体として、細菌ではカンピロバクター、サルモネラ、腸炎ビブリオなどがあり、ウイルスではノロウイルスやロタウイルス、そのほか寄生虫では赤痢アメーバやランブル鞭毛(べんもう)虫などがあります。病原体によって食物や潜伏期間(感染してから発症するまでの時間)に一定の関係性があり、たとえばカンピロバクターでは鶏肉、サルモネラでは鶏卵、腸炎ビブリオでは魚介類、ノロウイルスは牡蠣などの二枚貝が主な感染の原因となります。
 一般的な症状としては、発熱を伴った下痢、腹痛、吐き気・嘔吐などです。ウイルス性では吐き気や嘔吐症状が強いのが特徴で、発熱はあっても38℃以下の場合が多いです。感染性腸炎は数日で治ることが多いのですが、病原体の種類によっては下痢が長引いたり、下血・血便を伴うなど重症化する場合もあります。病状や患者さんの様子により、必要な対応が変わってくるので、注意が必要です。

診断と治療について教えてください。
 診断には問診が大切です。症状とその発現時期、いつ頃、どのようなものを食べたか、同じような症状の人はいないか、最近の旅行歴などを聞くこともあります。比較的潜伏期間の長いカンピロバクター(2〜10日)、腸管出血大腸菌(4〜8日)などでは患者さんが何を食べたのか覚えていない場合があり、診断が難しくなることもあります。
 治療法は症状に応じた対症療法が中心です。腸内環境を回復させるために整腸剤、乳酸菌製剤を用いながら、病原体の種類や患者さんの状態によって、制吐薬(吐き気止め)、抗菌薬の投与を考えます。下痢や嘔吐、発熱などのために脱水症状にならないよう、経口補水液やスポーツドリンクなどでの水分補給が大切です。ペットボトルから直接飲むのではなく、常温にして少しずつコップに注いで飲むのがポイントです。嘔吐などのため自分で摂取できない場合には補液(点滴)を行うこともあります。うつらない・うつさないための対策も重要です。お手洗いや食事の前には手洗いを徹底してください。また、下痢や嘔吐が続く間は、集団生活をできるだけ避け、調理などの食品を取り扱う作業は控えること。そのほか、トイレはふたを閉めてから流す、タオルの共有を避ける、といった配慮も望まれます。

2019年10月9日水曜日

社交不安症

ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院  太田 健介 院長

社交不安症とはどのような病気ですか。
 人前で話をしたり、初対面の人と接したりするなど、他人から注目される場面や緊張を強いられる状況に対する不安を「社交不安」と呼びます。誰でも多かれ少なかれ経験があるものですが、この不安の程度が強く、日常生活にも深刻な影響が生じる状態が「社交不安症」です。
 苦手な状況や場面は人それぞれで異なりますが、人前で電話をかける、人前での食事、他人と視線を合わせることなども代表的なものです。「恥ずかしい思いをするのではないか」「失敗してしまうのではないか」という強い不安や恐怖を感じることで、手足や声の震えや動悸(どうき)、発汗、赤面、下痢などのさまざまな身体症状が表れます。このような堪え難い精神的・肉体的苦痛を味わうため、そうした状況を避けようとして登校・出社拒否など、毎日の生活や仕事に支障が生じるのです。
 発症年齢は10代半ばが多くみられます。はっきりとした原因は明らかになっていませんが、脳内の扁桃(へんとう)体やセロトニンの働きが関与しているのではと考えられています。
 社交不安症は、うつ病など他の精神疾患を併発するケースも多いです。パニック症や強迫症、全般不安症、アルコール依存症などが合併しやすいといわれています。

治療について教えてください。
 治療には大きく分けて、薬物療法と精神療法があります。症例によって、それぞれ単独、あるいは併用して治療を進めます。
 薬物療法では、抗うつ薬である「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」の有効性が認められています。精神療法では、認知行動療法の一種である「暴露反応妨害法」を用います。これは、まず社交不安症がどういう病気なのかを理解してもらう心理教育から始めます。次に、不安や恐怖を招くような場面で患者さんに避けないようにしていただき、段階的な目標に沿って徐々に身を慣らしてもらいます。最初のうち患者さんは強い不安を覚えますが、段階を踏んで行っていけば、不安や恐怖がなくなっていくことを実感できるようになります。
 この病気を持つ人は、不安や恐怖、心配を「内気」「あがり症」など自分の性格のせいだと考えて、医療機関を受診することが少ないようです。社交不安症は、きちんと治療すれば改善する可能性の高い病気です。早期受診・治療が改善への近道です。

2019年10月2日水曜日

最新の糖尿病治療

ゲスト/医療法人社団 青木内科クリニック 青木 伸 院長

最新の糖尿病治療薬について教えてください。
 糖尿病治療薬の最近の進歩は目覚ましいものがあります。飲み薬では、高血糖の時にだけすい臓からインスリンを分泌させ、正常血糖値へ下げる「DPP-4阻害薬」があります。この薬は、理論的には低血糖を起こさず治療できる新薬で、糖尿病の平均血糖の指標であるHbA1c値を1.0%前後下げます。この薬と同じ系統の注射薬も登場し、「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれています。この注射薬はHbA1c値を1.6%前後下げます。1日1回の注射が必要ですが、現在は1週間に1回で済む注射薬も出ました。この系統の注射薬は、すい臓のインスリンを出す細胞を保護し、インスリンの分泌を弱らせない作用も持ち合わせているといわれています。従来まで体重を減少させる糖尿病薬がありませんでしたが、「SGLT-2阻害薬」が登場し、この薬剤は血糖値を下げると同時に体重も減らします。最近の研究データ結果によると、この種の薬剤は、心血管系の心不全の出現を抑える働きと糖尿病性腎臓病を良くする働きを持ち合わせていることが判明してきています。
 一方、インスリン注射に目を向けると、「持効型インスリン(1回の注射で24時間効果を持続する長時間作用型インスリン)」があります。飲み薬の治療が効かなくなる症例でも、飲み薬をそのまま服用しながら、1日1回の持効型インスリンの注射を加えると血糖値が改善する症例もあります。「混合型インスリン」は従来まで濁った製剤でしたが、透明な製剤が登場し、10回以上振って混合しなくても済むようになりました。

糖尿病の治療について教えてください。
 糖尿病の治療状況が良好といえる目安は、HbA1cが7.0%以下になっている場合です。糖尿病の患者さんの約半数が、高血圧と脂質異常症(高脂血症)を合併しているといわれています。糖尿病を合併した高血圧の治療はとても重要で、血圧の治療目標値は125/75mmHg以下です。自宅で測定できる血圧計を治療に役立てる方法もあります。この場合使用する測定器は、指先や手首に巻くタイプのものではなく、上腕に巻くタイプのものをお勧めします。脂質異常症の治療目標値は、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が120mg/dl以下です。糖尿病に重症の虚血性心疾患を合併している場合には、LDL-コレステロールは70mg/dl以下と治療の基準値が厳しくなりました。
 以上のようなさまざまな基準値を長期間保てると、眼底出血による失明、腎臓の悪化による透析、足の潰瘍・壊疽(えそ)による足の切断など、糖尿病に由来する重症の合併症にならなくて済みます。それ以外にも脳梗塞、心筋梗塞などの予防にもつながります。

2019年9月25日水曜日

胆石症

ゲスト/福住内科クリニック 佐藤 康裕 院長

胆石症とはどのような病気ですか。
 肝臓で作られる胆汁は脂肪の吸収を助ける消化液で、肝臓から胆管を通って十二指腸に排出されます。胆管の途中に胆のうという袋状の臓器があり、胆汁を一時蓄え食事を取ると収縮して放出します。この胆汁の通り道にできた石を総称して「胆石」といい、胆のうの石を「胆のう結石」、胆管の石を「胆管結石」と呼んでいます。
 胆石の大きさは砂状のものから3cmを超えるものもあり、個数も1個から何十個以上までさまざまです。胆石の約80%は胆のう結石で、胆のうは7〜9cmもあるため、この中を自由に動けるときにはほぼ無症状です。しかし、細くなっている胆のうの出口や胆管に詰まってしまうと症状が出ます。
 胆石は肥満やコレステロールの多い食事、さらに急激なダイエットも誘因になるといわれています。日本では高齢化や食事の欧米化によって増加傾向にあり、成人の約10%が胆石を持っています。

胆石症の検査や治療について教えてください。
 胆石で胆のう炎や胆管炎を起こすと、みぞおちから右上腹部の痛みや発熱、黄疸などが出ます。お年寄りは発熱のみで、痛みがない場合もあるので注意が必要です。
 病院では血液検査、超音波・CT検査などで診断をします。胆のう結石と胆管結石では治療が異なり、一般に胆管結石の方が重症化しやすく緊急での治療を要します。
 胆のう結石で痛みが出ている場合は、手術によって胆のうごと摘出するのが一般的です。炎症の程度や患者さんの状態によっては、緊急で手術をする場合と薬や点滴で炎症を治めてから手術をする場合とがあります。健診などの機会に無症状で見つかった場合、多くは定期的な検査のみで治療を必要としません。無症状の胆のう結石は半数から8割が、そのまま一生症状が出ないと考えられています。胆石を溶解させる薬もありますが、長期間の内服が必要であり、完全に溶けきる割合は高くはありません。
 一方、胆管結石は無症状であっても内視鏡による治療が必要であり、痛みや発熱がある場合には緊急で治療を行います。治療は内視鏡を十二指腸にある胆管の出口まで挿入し、出口を拡げた後に胆石を排出させます。胆石が疑われる症状があれば早めに受診しましょう。

2019年9月18日水曜日

よくある皮膚のできもの・粉瘤(ふんりゅう)

ゲスト/医療法人藻友会 いしやま形成外科クリニック 石山 誠一郎 院長

粉瘤とはどのような病気ですか。
 粉瘤というのはアテロームとも呼ばれる、袋状のできもの(嚢腫・のうしゅ)です。皮膚のできものの中でも発症頻度が高く、体中のどこにでもできます。良性で痛みを伴わないため、放置してしまう方がとても多い疾患です。
 何らかの原因によって、皮膚の下に袋状の嚢腫ができ、中には角質(垢・あか)や皮脂が溜まっています。ドーム状に盛り上がり、触れると中に塊があるように感じます。表面には黒い点のような開口部があり、そこから不快な臭いのするペースト状の白い物質が出てくることがあり、強い体臭や加齢臭の原因ともなります。
 粉瘤は自然に治る病気ではありません。最初は小さく、日常生活に支障をきたしませんが、大きくなると皮膚の膨らみやしこりが気になり始めます。放置しておくと、10cm以上の大きさになることもあります。また、細菌感染や炎症を起こすと、急に大きくなり、赤く腫れあがって激痛を伴うこともしばしばです。単なるおできや吹き出物と自己判断し、受診が遅れると重症化するケースも多く注意が必要です。

治療について教えてください。
 細菌感染や炎症がある場合などは、皮膚を少しだけ切開して膿(うみ)を出す治療が行われることが多いですが、袋はそのままなので再発の可能性があります。一時的に痛みが楽になると放置してしまい、また数カ月後に再び炎症を起こし、同様の処置を行うという一連の流れを繰り返す方も非常に多いです。炎症と切開処置を繰り返した部位は、瘢痕(はんこん)化といって皮膚や皮下組織が硬く固まってしまい、完治させるのが難しかったり、治療の傷が大きくならざるを得なかったりする場合もあります。
 粉瘤は飲み薬や塗り薬で自然と消えることはなく、切開のみでは再発を繰り返すことが多いです。完治には、外科的に袋ごと取り除く必要があります。粉瘤の大きさにもよりますが、手術は局所麻酔で行う日帰り手術で、所要時間は10分から20分程度です。
 私たち形成外科医は「手術が必要な体表面の異常を、できる限り外見に気を配りつつ治療する」ことを専門にしています。機能的な面のみならず、整容面も十分に考慮しながら手術・治療を行います。粉瘤の完治を目指す治療を希望する場合は、ぜひお近くの形成外科へご相談ください。

2019年9月11日水曜日

舌側矯正

ゲスト/宇治矯正歯科クリニック 宇治 正光 院長

矯正に対する最近の傾向について教えてください。
 近年、歯のかみ合わせと全身の健康状態やQOL(生活の質)との関係が、注目されるようになりました。それに並行し、口もとの美しさや歯並びに対する関心が高まり、歯の矯正治療が広く認知されてきました。矯正治療は子どものものと思われがちですが、最近は大人になって行う人も増えています。
 先日、30代の女性から「長年、歯並びの悪さがコンプレックスで矯正治療を考えていますが、装置を表からにするか、裏からにするか迷っている」との相談を受けました。この女性に限らず、歯列の凸凹や、上顎(がく)前突、下顎前突、さらにあごの左右のずれを気にする方は多く、よくこのような相談を受けます。
 咬合(こうごう)の大切さを認識し、歯列やあごの骨のずれを治す矯正治療を受けようとする前向きな姿勢を隠す必要はありませんが、人知れずに治療したいという気持ちも分かります。特に社会人で、接客業など人前で話をする機会の多い方はそう考えるでしょう。思春期のお子さんが矯正装置を気にする心情も理解できます。そういう場合は、着けていても目立たない舌側矯正を選ぶ方もいます。

舌側矯正について教えてください。
 舌側矯正は、歯の裏側に矯正装置を入れます。表からは装置が目に付かないので、見た目にはまったく違和感がありません。他の人に気付かれることなく治療を行うことができる「見えない矯正治療」といえます。ただし、内側にあることから、表側からの矯正(唇側矯正)と比較すると、装着時の違和感など劣る部分もありました。しかし、近年これらの問題点を改善した舌側矯正装置「STb」が普及しています。
 「STb」は、従来の裏側に用いていたブラケットと比べると装置が非常に薄く、そして小さくなりました。それにより「話しにくい」「食事がしづらい」「舌が痛い」「歯が磨きにくい」といった今までの舌側矯正の不快感が飛躍的に改善されました。また、歯の痛みもほとんどなく、治療期間も短くなり、より進化した次世代のブラケットといえます。
 「STb」の登場により、舌側矯正に踏み切れなかった人も気軽に、そして快適に矯正治療が受けられるようになったと思います。ぜひ一度、矯正歯科に相談してみてください。

2019年9月4日水曜日

大人のADHD(注意欠陥多動性障害)

ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 岩﨑 大知 医師

近年、大人になってから発覚するADHDが注目されています。
 ADHDは「注意欠陥多動性障害」という発達障害の一種で、不注意、多動・衝動性を特徴としています。子供の問題として知られていますが、半数近くは成人になっても症状が続くといわれています。子供の時に問題とされていなくとも、大学生や社会人となり、それまでより高度な能力が必要とされて初めて症状を自覚する場合があります。代表的な症状として「話を聞く時や作業時に集中力を保てない」、「会話の道筋が分からなくなる」、「物事の段取りを立てるのが苦手」、「ケアレスミスや忘れ物が多い」、「大事な約束をよく忘れる」などがあります。落ち着きがない・衝動的な行動をとるなどもADHDの症状ですが、成人ではそれらは目立たなくなっていることがあります。また成人のADHDの方はうつ病、不安症、物質依存(酒、タバコ、薬など)などを合併している割合が高いといわれています。それらの症状で受診した際に、背景にあるADHDが見つかる場合もあります。

治療について教えてください。
 治療にあたって、まずは自身の特性を理解していただきます。成人で受診する方の多くは「生きづらさ」を自覚しており、自己評価を低く持ちがちです。諸々の問題が精神発達によるものだと理解することは、自己評価を修正し、対策を考えるきっかけとなります。例えば時間や約束事の管理が下手と分かっていれば、スマートフォンのアプリなどを駆使して能力不足を補うことで、ある程度問題が解決する場合もあります。ADHDはある種のホルモンの異常が原因ともいわれており、それらを整える薬を使用して改善する場合もあります。心理療法を用いた訓練が有効な場合もあります。症状により周囲との関係に支障を来たしている場合は親や配偶者への心理教育、大学や職場の担当者との意見交換も重要となります。発達障害者への支援を行う機関や精神障害者保健福祉手帳(ADHDの診断で取得可能となっています)を利用していただくことも出来ます。
 誰もが長所と短所を持っており、ADHDの症状はその一つの側面と考えています。短所と上手く付き合い、長所を伸ばすことで自信を持って生活出来るようになっていただくことが我々の目標です。必ずしも薬や定期通院が必要となるわけではありませんので、気になる症状がある方は気軽に専門医に相談してほしいと思います。

2019年8月28日水曜日

糖尿病網膜症

ゲスト/大橋眼科 藤谷 顕雄 副院長

糖尿病網膜症とはどのような病気ですか。
 糖尿病が原因で網膜の血管が傷む病気です。2019年現在、日本人の中途失明原因の2位を占めます。厚労省の国民健康・栄養調査によると、糖尿病が強く疑われる成人の患者は16年時点で約1000万人と推計されています。
 血糖値が高い状態が長く続くと網膜の血流障害が進み、様々な眼障害を引きおこします。糖尿病網膜症には三つの段階があります。「単純網膜症」といわれる初期では、網膜の血管が傷んで細い血管にこぶができたり、弱くなった血管壁から血漿(けっしょう)成分が漏れたりしますが、この段階では血糖値管理を徹底すれば良くなる可能性があります。次の「前増殖網膜症」になると血管が閉塞し、白い綿のようにみえる軟性白斑が網膜にできることもあります。さらに進んで最終段階の「増殖網膜症」になると、網膜に弱くて出血しやすい新生血管ができて、硝子体出血や網膜剥離を起こしやすい状態となり、放置すれば失明のリスクも高くなります。
 厄介なのは、前増殖網膜症まで進行しても自覚症状がないことも多く、見えにくいと自覚するころには増殖網膜症に進行している可能性が高いことです。また、糖尿病網膜症は、網膜の中心である黄斑に浮腫を合併するケース(糖尿病黄斑浮腫)もあり、この場合は病状がそれほど進んでいなくても視力が落ちることもあります。

治療について教えてください。
 前増殖・増殖糖尿病網膜症においては、血管が閉塞した部分にレーザー光を当てる「網膜光凝固術」が多くの場合必要となります。新生血管から出血したり、網膜剥離を起こしたりしている場合は「硝子体手術」を行います。
 また、糖尿病黄斑浮腫に対する治療としては近年、「抗VEGF薬」が保険診療として認められました。眼球に直接抗VEGF薬を投与するもので、患者さんの体への負担が少なく、黄斑浮腫を軽減し、視力を改善できるようになりました。ただ、複数回の治療を要すことや稀ではあるものの感染の危険性があること、保険適用であっても自己負担が比較的高い治療であることに留意する必要があります。黄斑浮腫の治療には、ほかにステロイド剤投与、レーザー治療、硝子体手術も検討されます。
 糖尿病網膜症が原因の失明を防ぐとともに、可能な限り視力回復・改善を目指すには、早期発見・治療が原則。そのためにも、糖尿病と診断された時から定期的な眼底検査などのチェックが何よりも重要です。

2019年8月21日水曜日

先天欠如と過剰歯

ゲスト/E-line矯正歯科上野 拓郎 院長

先天欠如、過剰歯とはどのような状態をいいますか。
 乳歯が抜け、永久歯へと生え替わるのは成長の過程として当然、と思っていたはずが、お子さんになぜか抜けない乳歯があったり、乳歯が抜けても永久歯がなかなか生えてこなかったりすると、ちょっと不安になってしまいますよね。それはもしかすると、生まれつきの歯の形成異常の一種である「先天欠如」が原因かもしれません。一度かかりつけの矯正歯科に相談されるのがいいかと思います。
 先天欠如とは、永久歯がなんらかの原因で作られず、欠損している状態のことをいいます。国内では1本から数本の永久歯が生えてこない子どもが10人に1人程度いるとみられ、調査では下顎(かがく)の第2小臼歯の欠如率が高いとされています。
 永久歯が先天欠如すると、その部分の生え替わりが起こりません。乳歯がそのまま残っている間はいいのですが、その後どこかのタイミングで抜けてしまうことも多く、欠損部を放置していると周囲の歯が移動したり傾いたりして、歯並びやかみ合わせがどんどん悪くなります。
 先天欠如が見つかった場合に重要なのは、長期的な治療計画を立て、適切な時期に適切な治療を行うことです。残っている乳歯を大事にしながら、歯並びやかみ合わせに異常が生じないように管理を続け、しかるべきタイミングがきた時に矯正・補綴(ほてつ)治療を行います。6本以上の先天欠如であれば、矯正治療は保険適用となります。
 先天欠如とは逆に、正常な歯の数を超えてできた歯を過剰歯と呼びます。普通の歯と違い、きれいに生えてくることはあまりなく、多くの場合は顎の骨の中に埋まった状態か、正常な歯と歯の間に余分な歯が埋まっていたり、正常な歯と隣り合わせに生えてきたりします。放置していると歯並びやかみ合わせに悪影響を与えるのはもちろん、過剰歯の埋まっている場所が悪ければ、そのまま骨の中で成長すると永久歯の根元を溶かしてしまうことも。過剰歯が生える場所として最も多いのは、上顎の2本の前歯の間で、「前歯の間の隙間がふさがらない」「左右の前歯の生える時期が極端に違う」などの症状で気付くことが多いです。
 治療は、顎(あご)の骨の奥深くにあり、近くの歯に影響を与える心配がないときには抜かずに様子をみますが、将来的に悪影響が大きい場合は抜歯するのが基本。先天欠如と同様に、年齢に合わせて歯や顎の成長を予測、観察しながら長期的な治療プランが必要になります。

2019年8月14日水曜日

摂食障害

ゲスト/医療法人北仁会  いしばし病院 畠上 大樹 医師

摂食障害とはどのような病気ですか。
 摂食障害はさまざまな心理的・社会的要因から、体重や体型の変化に過度にこだわり、食行動に異常を起こす病気です。極端に食事を制限する「神経性やせ症」、頻繁に過食をしてしまう「神経性過食症」「過食性障害」に大きく分けられます。
 極端なダイエットの反動から過食に変わるケース、拒食と過食を繰り返すケースなどさまざまで、摂食障害と同時にうつ病やアルコール・薬物の使用障害など、ほかの精神疾患を併発する例も少なくありません。
 本人が隠したり、家族や周囲の人も病気に気付かなかったり、適切な治療を受けないまま重症化するケースが多く、摂食障害の死亡率は約5%(栄養失調による合併症など)と精神疾患の中で特に高い数値となっています。
 症状が出てから受診するまでの期間が、その後の経過を大きく左右するため、早期の診断・治療開始がとても重要です。

治療について教えてください。
 摂食障害の患者さんは、病気を治したいという思いよりも「これ以上太りたくない」「もっとやせたい」という気持ちの方が強くなっているなど、そもそも治療への意欲が低下していることが少なくありません。摂食障害の治療は、まず自分を苦しめているのは自分自身ではなく、「病気」であることを認識し、「気の持ちよう」や「本人の努力」だけでどうにもならないと知ることから始まります。周囲の助力と医療機関の助けが不可欠だと理解してもらわなければなりません。
 そのために、病気を「別れなければいけない恋人」に例えるなどし、擬人化することで、患者さんの内面に問題があるのではなく、その恋人=病気こそが問題の元凶なのだというふうに発想の転換を図ってもらう(外在化の技法)など、患者さん自身が治療に積極的に取り組み、医療者と力を合わせて治していこうという気持ちを持ってもらえるよう、さまざまな手を尽くします。
治療に特効薬はありませんが、認知行動療法や自助グループでの対話に効果が認められています。一般的に摂食障害の治療は時間を要することが多いです。一進一退を繰り返しながら徐々に良くなっていきます。回復への道は平坦ではありませんが、治る病気です。あせらず、あきらめず、ゆっくりと治療を続けることが第一です。

2019年8月7日水曜日

COPDとオーバーラップ症候群

ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長


COPD、オーバーラップ症候群とはそれぞれどのような病気ですか。
 COPD(慢性閉塞性肺疾患)は「肺の生活習慣病」とも呼ばれます。喫煙が主な原因とされ、肺への空気の通りが慢性的に悪くなり、ゆっくりと進行していきます。せき、たん、息切れなどが主な症状ですが、かぜなどの感染症をきっかけに症状が重症化(急性増悪)することもあり注意が必要です。急激に肺機能が低下し、呼吸困難を引き起こすケースもみられます。
 一方、オーバーラップ症候群とは、COPDと気管支ぜんそくが同時に同じ患者さんで起こっている状態を指します。気管支ぜんそくを合併しないCOPDの患者さんと比較して、症状が重症化しやすく、生活の質(QOL)も低い(予後が悪い)といわれています。また、肺機能の急速な低下や高い死亡率が認められています。
 COPDは日本での推定患者数が500万人以上とされています。ぜんそくの患者さんでは、年齢とともにCOPDの合併率が上がり、中高年の方の約半数が合併しているという報告があります。また、COPDの患者さんからみると、約3割が気管支ぜんそくの要素を持っているなど、診断を受けていなくても実際はかなり多くの方がオーバーラップ症候群なのではないかと疑われています。

治療について教えてください。
 現時点でCOPDを根本的に治し、肺を元の状態に戻す治療法はありません。呼吸機能を改善し、せき、たんなどの症状を緩和し、生活の質を高めることが治療の目的となります。症状の軽重にかかわらず、治療の基本は禁煙です。喫煙を続ける限り、病気の進行を止めることはできません。そして、薬物療法により症状を改善しながら、呼吸機能の維持・増進を図っていきます。COPDでは長時間作用型β2刺激薬(LABA)、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)などの気管支拡張薬が用いられます。
 一方、気管支ぜんそくとCOPDが合併しているオーバーラップ症候群では、ぜんそくに用いる吸入ステロイド薬(ICS)とCOPDに使うLABA、LAMAの3剤によるトリプル治療が基本となります。従来、ICSとLABAの配合薬とLAMAの1日2回の吸入が必要でしたが、近年、3剤の配合薬が登場し、1日1回の吸入で済むようになり、多くの患者さんにとって治療の継続と症状のコントロールがしやすくなりました。

2019年7月24日水曜日

おしり(肛門)から血が出たら

ゲスト/札幌いしやま病院 河野 由紀子 医師

血便などおしりの出血があるとき、どんな病気が考えられますか。
 「便に血が付いた」「おしりを拭いた紙に血が付着した」「排便後に血がポタポタと落ちた」「便器が真っ赤になるほど多量に下血をした」という「おしりからの出血」を訴えて大腸や肛門の専門病院を受診される患者さんはとても多いです。出血の状態(色、出血量など)やそれに伴う症状によって原因(病気)をある程度推測できます。
 考えられる第1の可能性は「痔」です。排便の後、便器や紙に真っ赤な血が付く場合、その量がある程度多く、ほとばしるように出るときには内痔核(いぼ痔)が疑われます。また、排便のときに痛みがあり、さらに出血を伴う時には裂肛(切れ痔)の可能性が高いです。裂肛は放っておくとやがて慢性化し、傷口が深くえぐれて潰瘍になるケースもあります。潰瘍部分が悪化すると、肛門が狭くなる肛門狭窄になり、排便に大きな支障をきたすようになるので注意が必要。早期受診こそが痔を早く確実に治す近道です。
 第2の可能性は、大腸の内壁が袋状に突出し、その血管が弱くなって出血する「大腸憩室出血」です。突然、多量に出血するのが特徴で、腹痛、下痢を伴わないことが多いです。第3の可能性は、大腸への血液循環が悪くなって起こる「虚血性大腸炎」です。突然、腹痛が起こり、しばらくして下痢、下血が起こる急激な発症の病気です。これらの病気による出血(下血)は、食事をやめて便が通らないようにし、腸の安静を保つようにするなどの内科的治療で回復することが多いですが、憩室出血の場合は止血処置が必要となることもあるので早期受診、早期診断が大切です。
 便に粘液を伴った血が混じっている場合は、大腸の粘膜に潰瘍やただれができる「潰瘍性大腸炎」や、潰瘍性大腸炎と同じく炎症性腸疾患と呼ばれ、小腸や大腸に潰瘍を形成する「クローン病」も疑われます。このほか、「大腸がん」や「大腸ポリープ」、さまざまな細菌による腸炎なども、おしりからの出血を伴う病気です。
 このように、おしりの出血の後ろには、痔以外にもいろいろな病気が隠れていることがあります。命にかかわるような重い病気のサインが隠されていることもあります。大切なのは、自分で判断しないこと。おかしいなと思ったら、迷わず専門医の検査を受けましょう。「おしり」を診察されることを恥ずかしく思い、来院しにくいと感じるかもしれませんが、専門医は十分に承知しています。どうか安心してください。

2019年7月17日水曜日

死別の悲しみに寄り添うグリーフケア

ゲスト/医療法人社団五風会 さっぽろ香雪病院 梶 巌 内科部長

最近「グリーフケア」という言葉を耳にしますが、どういう意味なのでしょうか。
 昨今、治る見込みのない末期がんに罹患した患者さんの痛みや精神的、社会的な苦しみを和らげる緩和ケアを提供する環境整備が進んでいます。治療や疼痛(とうつう)管理などの医療の高度化、さらにニーズの多様化に対応できるホスピスの充実など、穏やかな終末を迎える患者さんも少なくありません。
 ただ、この時から同時にご家族の苦しみが始まっていることを忘れてはなりません。ご家族にも援助の手が差し伸べられてしかるべきでしょう。しかし、大切な方を亡くした後の配偶者、ご家族、親しい人たちの悲しみに寄り添い、癒やそうとする医療の重要性は、まだあまり認識されておらず、ひとり悲しみと闘う人たちも多いのが現状です。
 愛する人、親しい人を失うことは大きなストレスです。悲しみにくれ、喪失感や寂しさ、孤独感、無力感に陥る方々に対して、医師や臨床心理士などの専門家が行う<慰め>や<癒やし>の援助を「グリーフケア」と呼びます。
 死別にはいろいろな形があります。若くして配偶者を失った人、親を、子どもを亡くした人、また、共に病と闘いながらの別れ、今まで元気だった人との突然の別れ…。それぞれに抱える辛さ、悲しみがあります。それらの辛い現実と向き合い、乗り越え、新しい未来に向かって歩み始める背中を後押ししてあげる役割。また、悲しんでいる方々の心にそっと寄り添い、辛い胸の内を明かす声に耳を傾け、ともに手を携えながら、再出発の道を一緒に歩んでいくこと。それがグリーフケアです。
 「あの時、ああしてあげたら(しなかったら)あの人は死ななかった、苦しまなかったのに…」。こうした自責感情は人を苦しめます。喪失感で悲しみの中にある時、自責感情はさらに当事者を苦しめることになります。また、「あなたがしっかりしなくちゃダメ」。こうした周囲の心ない一言が、死別に悲しむ人をさらに追い込んでしまう場合もあります。これらのケースでは、早急に専門家による援助が必要です。しかし、残念ながらグリーフケアを求めて病院の門を叩く患者さんは少なく、うつなどの症状が重くなってから初めて受診するケースがほとんどです。
 愛する人、親しい人を失った後、立ち直って普通の生活ができるようになるまでにはかなりの時間がかかりますが、外来で思いの丈を話し、思い切り泣ける人は立ち直りが早いです。自分一人で解決すべきことだと抱え込まず、遠慮なく精神科や心療内科を受診してもらいたいと思います。新しい未来に向けて歩み始めるために、専門家の力を借りて心のケアを受けることが何よりも大切です。

2019年7月10日水曜日

「咀嚼(そしゃく)と健康」

ゲスト/医療法人社団アスクトース 石丸歯科診療所 近藤 誉一郎院長

咀嚼について教えてください。
 大まかにいうと、咀嚼とは、口に取り込んだ食べ物をゆっくりと時間をかけて噛み砕き、細かくすることです。専門的に説明すると、上下の歯列によって食べ物を噛み砕いたり、すりつぶしたりしながら、唾液と混和し、嚥下(えんげ)(食べ物を飲み込むこと)に適した性状(=食塊、食べ物の塊)に調整するための口の働きです。
 味覚中枢を刺激し、唾液の分泌を促進することも、咀嚼の大切な役割の一つです。唾液にはアミラーゼやムチン、ガスチン、リゾチーム、ラクトフェリンなどさまざまな成分が含まれ、その働きは「味覚を敏感にし、食べ物をおいしく感じさせる」「口腔内の汚れを洗い流し、害ある細菌の繁殖を抑える(=むし歯や歯周病を予防する)」など多岐にわたります。よく味わい、よく咀嚼することで分泌される唾液は「長生きのもと」とも呼ばれています。
 そのほか、よく咀嚼することのメリットは、唾液や胃液の分泌が増すことで消化吸収を助け、血糖値の上昇、空腹感を満たし肥満や糖尿病の予防につながることなど、数多く挙げられます。

よく咀嚼すると脳の活性化につながると聞いたことがあるのですが。
 しっかり咀嚼することで、脳の血流が増え、脳の神経活動が活発になることがさまざまな研究結果から明らかになっています。食事の時に私たちの脳がどんな活動をしているかを調べてみると、記憶にもっとも関係している前頭前野や海馬をはじめ、脳のさまざまな領域が活性化することが確認されました。つまり、咀嚼は記憶力、認識力、思考力、判断力、集中力、注意力といった脳の働きと密接に関係していることが示唆されています。
 「残っている歯の本数が多い人ほど認知症になりにくい」「お年寄りが合わない入れ歯を使用していると、認知症が進行しやすい」という研究結果などから、咀嚼が認知症予防につながることも分かっています。
 お年寄りの場合、自分で使っている義歯に問題がないと思っていても、実は上手に咀嚼できておらず、知らず知らずのうちにやわらかい食べ物(炭水化物など)の摂取が多くなり、栄養が偏ってしまっているケースも多く見受けられます。近年は、簡単に咀嚼機能を科学的に判定する検査が登場していますので、一度かかりつけ歯科医院で相談してみるといいでしょう。

2019年7月3日水曜日

高位脛骨(けいこつ)骨切り術

ゲスト/医療法人知仁会 八木整形外科病院 小野寺 純 医師

高位脛骨骨切り術とはどのような治療法ですか。
 膝の骨が変形し、痛みが増して曲げ伸ばしがしづらくなる膝関節の病気が、変形性膝関節症です。初期には立ち上がりや歩き始めに膝の痛みを感じますが、症状が進んでくると、歩けば膝が痛く、正座や階段の上り下りが難しくなってきます。さらに症状が進んでくると膝が変形し、歩くのが困難になって日常生活に支障を来たします。
 変形性膝関節症に対し、脛(すね)の骨の一部を切り、元の関節を残して変形を矯正する手術が、高位脛骨骨切り術です。変形性膝関節症では多くの人が、膝の内側の軟骨がすり減って、徐々にO脚となります。この変形のために膝の内側に負担が偏ります。そこで、自分の骨(脛骨)を切ることによってO脚を矯正し、脚の形を真っ直ぐからややX脚に変えることで、膝の外側に荷重を移動させる手術です。
 変形性膝関節症の治療は、薬(関節内注射、消炎鎮痛剤など)やリハビリ(ダイエット、運動療法による筋力効果など)、装具(膝装具、足底板など)による保存治療がまず行われます。保存治療で痛みが軽減せず、仕事や日常生活が不自由になるようであれば、手術が考慮されます。一般的には、症状が初期から中期であれば骨切り術、末期であれば「人工関節置換術(傷んだ関節を切り取り、人工関節に置き換える手術)」が行われます。

高位脛骨骨切り術の利点について教えてください。
 手術の流れは、脛骨の内側に切り込みを入れ、時間とともに骨に置き換わる特殊な人工骨を挟んで角度を調節し、チタンプレートで固定します。手術は約1時間程度で、傷はプレートを入れる約6㎝の傷が必要です。プレートは約1年後に取り除きます。患者さんは術後2週間以内に歩行練習を始めることができ、4~6週間後にはほとんどが歩いて退院できます。
 骨切り術の最大の利点は、自分の関節を温存できるので、手術後の日常生活に対する制限が少ないことです。回復すれば、人工関節では難しい正座や、テニス、ゴルフ、ジョギングといったスポーツもできるケースが多いです。
 骨切り術が適しているかどうかは、もちろん関節の軟骨の状態によりますが、患者さんの考え方やライフスタイルによるところも大きいです。主治医の先生とよく相談してください。

2019年6月26日水曜日

バイオ医薬品とバイオシミラー

ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 古崎 章 副院長

バイオ医薬品とバイオシミラーについて教えてください。
 関節リウマチでは、抗リウマチ薬を中心に、非ステロイド性抗炎症薬や副腎皮質ホルモンを使って炎症や骨破壊、疼痛などを抑える治療を行います。これら従来の薬は化学的に合成された低分子の医薬品です。一方、「バイオ医薬品(生物学的製剤)」は、生体が作る物質を使用した薬剤のこと。最先端のバイオテクノロジーで製剤され、高分子で構造が複雑な医薬品です。リウマチの治療においては、体内にある炎症や骨破壊を起こす物質に直接作用し、多くの患者さんに対して高い治療効果が期待できます。その反面、薬剤費は高いです。
 低分子医薬品(従来の一般的な薬)は大きく2つに分けられます。先発医薬品と後発医薬品(ジェネリック医薬品)です。先発医薬品は製薬会社が大きな費用を投じて研究・開発した薬。開発後20年〜25年は特許で守られ、開発したメーカーだけが製造できます。この特許が切れた後に別のメーカーがつくるのが後発医薬品です。有効成分を同じ量含有していますが、開発コストが不要なため価格が安くなっています。先発医薬品の約2〜7割ほどといわれます。
 一方、バイオ医薬品のジェネリック医薬品で、先行バイオ医薬品と同じように使えることが確認されているものを「バイオシミラー」と呼びます。

バイオシミラーの特徴を教えてください。
 バイオ医薬品の特許が切れた有効成分を用い、抗体や遺伝子組み換え技術などを応用してつくられています。バイオ医薬品の場合、薬の分子構造を完全には再現できないためシミラー(類似)と呼びます。
 先行バイオ医薬品と効果や安全性が同等かを比較するため、実際の患者さんに使用する臨床試験を行い、安全で有効な医薬品と確認された上で製造販売が承認されることになっています。
 バイオ医薬品は治療効果の高い薬ですが、医療費が高額になってしまうのも事実です。その点、バイオシミラーは先発バイオ医薬品と比較して価格が6〜7割と安いため選択肢の一つになります。医療経済的にも今後必要性が高まってくると考えられます。
 先発バイオ医薬品と比べ、バイオシミラーの有効性・安全性に差はないとしても、まったく同じものではありません。実際に使うかどうかは担当医とよく相談した上で選択することをお勧めします。

2019年6月19日水曜日

口唇ヘルペス

ゲスト/宮の森スキンケア診療室 上林 淑人 院長

口唇ヘルペスについて教えてください。
 かぜをひいたり、疲れたりして免疫力が低下した時、くちびるやその周囲にピリピリとした痛みやかゆみを伴う、小さな水ぶくれができる病気です。水ぶくれは1〜2週間ほどで乾き始めて、かさぶたとなり治癒します。必ずくちびるにできるわけではなく、頬や鼻の下、目の周り、耳などにできることもあります。
 口唇ヘルペスは、単純ヘルペスウイルスが原因で起こります。単純ヘルペスウイルスは、一度感染すると症状がなくなった後も体内に残り神経細胞にすみつく特徴を持っています。これを潜伏感染といいます。多くは子どものころに感染しますが、気付かない場合もあります。症状が出ていなくても単純ヘルペスウイルスが潜伏している人は多く、大人で50%以上とされ、年齢が高くなるにつれ、その感染率は高くなります。大人が初めて感染すると、発熱する場合もあり、症状が少し重くなる傾向があります。
 普段は活発に活動せず、神経節にじっと潜伏し、症状を表すことのない単純ヘルペスウイルスですが、疲労やストレス、体調不良、かぜ、紫外線などの影響で体の免疫力や抵抗力が落ちると、ウイルスが再活性化します。増殖したウイルスは神経細胞を通って、主にくちびるやその周辺に移動し、発症します。

治療について教えてください。
 現在のところ、体から単純ヘルペスウイルスを駆逐するのは難しいとされ、症状がひどくならないうちにウイルスの活動を抑え、早く治すのが治療の目的となります。
 治療は抗ウイルス薬の内服が中心です。患部の乾燥や細菌感染を防ぐために外用薬を併用することもあります。体調や健康状態などにより、症状の程度は異なりますが、早期に対処すると治りが早く、悪化を防ぐことができます。くちびるに、ピリピリ、チクチクとした違和感や痛みを感じたり、水泡に気づいたり、ヘルペスを疑う症状がある場合はできるだけ早く対処しましょう。
 くちびる以外に出る単純ヘルペスは、ほかの皮膚疾患と間違えられやすく、また初期の帯状疱疹と見分けにくいケースがあるので注意が必要です。
 単純ヘルペスウイルスは、体内に潜み、何度も再活性を繰り返すことのある厄介なウイルスです。疲れ・ストレスをためる、紫外線を長時間浴びるなど、免疫力・抵抗力を弱めるような状況をできるだけ避け、症状が出たら速やかに医療機関を受診し治療を始めるのが大切です。

2019年6月12日水曜日

抗不安薬について

ゲスト/医療法人社団 正心会 岡本病院 瀬川 隆之 医師

抗不安薬とはどのような薬ですか。
 抗不安薬は、不安や恐怖を和らげる薬です。不安や恐怖を感じることは、それ自体は異常なことではありませんが、日常生活に支障をきたすほど強くなると治療の対象となります。
 抗不安薬は簡単にいうと、脳の奥にある扁桃体と呼ばれる神経の集まりの興奮を抑えることなどにより効果をもたらします。抗不安薬の代表的なものとして、ベンゾジアゼピン系とその類似薬(BZ系薬)と選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の2つがあります。
 BZ系薬は効き目がはやく、不安や恐怖がとても強くて急を要する場合に欠かせない薬です。しかし、いったん飲み始めると薬をやめにくいという依存の問題や、眠気やふらつき、認知機能の低下といった副作用の問題があります。一方、SSRIは不安障害の治療の中心となる薬です。効果が現れるまで数週間を要しますが、BZ系薬と比較して依存性は高くありません。ただ、吐き気や眠気などの副作用が出現することがあります。また、急に薬をやめると吐き気、しびれ感などの中断症候群が出現する場合もあるので、薬を減らしたい時には主治医とよく相談してください。

処方・服用のポイントについて教えてください。
 BZ系薬、SSRIには、それぞれ長所・短所がありますので、不安や恐怖を主な症状とする精神疾患の治療においてはSSRIのみ、またはSSRIとBZ系薬の両方を使って治療を始め、BZ系薬を併用した場合にはSSRIの効果がみられ始める頃にBZ系薬を徐々に減らして中止するといった工夫が必要です。
 実際には、BZ系薬のみで治療を行う場合もあり、症状が強い時だけ即効性の抗不安薬を内服するといった頓服使用で生活している患者さんもいます。BZ系薬が多剤や大量処方になっている場合や、本来は薬を中止できる状態にもかかわらず処方が継続されているケースの時は、依存や副作用について患者さんとよく話し合いながら、BZ系薬の減量を目指します。しかし、薬を減らすことへの不安を持つ患者さんも多く、減薬が難しいこともあります。BZ系薬は即効性という大きなメリットがあるため、医療者、患者さん双方に使い勝手のいい薬なのですが、依存や副作用の危険性についてはよく理解しておく必要があるでしょう。

2019年6月5日水曜日

難治性ぜんそく

ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 院長

難治性のぜんそくについて教えてください。
 ぜんそくはせきや喘鳴(ぜんめい)、発作性の呼吸困難などを特徴とする気道の慢性炎症性疾患です。原因は遺伝的素因やアレルギー、感染などさまざまです。ぜんそくの有病率は6〜10%とされており、そのほとんどは標準的な薬によってコントロールできます。しかし、複数の長期管理薬を使ってもコントロールの難しい、いわゆる「難治性ぜんそく」の患者さんは、ぜんそく全体の5〜10%を占めています。
 難治性につながる因子の一つが「肥満」です。肥満があるとぜんそくになりやすく、ぜんそくの人が肥満になると症状が重症化しやすく、薬が効きにくいという特徴があります。そのため、治療ととともに減量指導が重要になります。
 「副鼻腔炎」を合併したぜんそくも難治性になりやすく、両疾患を総合的に治療することが重要です。特に、白血球の中の好酸球が関与するタイプの副鼻腔炎は、難治性のぜんそくを合併しやすいといわれています。
 「アスピリン不耐症」も因子の一つです。アスピリンぜんそくともいわれており、アスピリンや非ステロイド性抗炎症薬を服用後にぜんそく発作などを起こすもので、成人ぜんそくの約10%にみられます。好酸球性の鼻ポリープを合併しやすく、それに対する治療も必要となります。
 そのほか、喫煙、受動喫煙、ペットなどの持続的なアレルゲンの暴露、PM2.5などの大気汚染も難治性につながる因子として挙げられます。

難治性ぜんそくの治療について教えてください。
 ぜんそくの治療は「吸入ステロイド薬」から開始し、重症度に応じて「ロイコトリエン受容体拮抗薬」「テオフィリン徐放製剤」「長時間作用性β2刺激薬」、「長時間作用性抗コリン薬」などを追加し、組み合わせて使います。
 近年、症状悪化の原因となる分子を選択的に阻害する「分子標的薬」と呼ばれる薬剤の開発が進んでいます。分子標的薬は作用が強力で副作用が少なく、難治性の場合に使用される全身ステロイド薬を減量または中止できる可能性があります。ただし、ぜんそくにはいくつかのタイプがあり、分子標的薬はすべての難治性ぜんそくに有効とは限りません。また、非常に高額であり、適応を見極めた上で投与する必要があります。1カ月に1〜2回の皮下注射をし、数カ月から1年位を目安に効果の判定をして、その後も継続するかどうかを決めます。

2019年5月29日水曜日

抗VEGF療法

ゲスト/ふじた眼科クリニック 藤田 南都也 院長

抗VEGF療法とはどのような治療法ですか。 
 眼科の治療は年々進化しています。近年始まった新しい治療法の一つが抗VEGF療法です。健康な状態では存在しない「新生血管」という異常な血管の増殖を抑える治療法です。
 治療は、眼球に直接抗VEGF薬を投与します。注射の前に点眼麻酔をしますので、痛みはほとんどありません。投与の回数は病気の状態によりさまざまですが、毎月1回〜数カ月ごとに1回の治療を継続的に行い、効果をみながら間隔を延ばしていくのが一般的です。
 現在、保険適用のある抗VEGF薬は数種類ありますが、治療効果や副作用などを考慮しながら薬剤を選択します。これまで目の中にレーザーを当てて治療する必要があった状態や、治療法のなかった疾患に対し、より長く視力を保てるケースや、病状の進行を食い止められるケースが増えています。

主にどんな疾患に、どのような治療効果が期待できますか。 
 これまで「加齢黄斑変性」に対する治療法として知られてきました。早期なら視力の回復も期待でき、現在、第一選択の治療法となっています。近年、治療抵抗性のある(これまで有効であると科学的に証明されている治療法を行なっても、効果がみられなかったり、段々と効果が減弱し再発・再燃してしまう状態)がある「糖尿病網膜症」や「網膜静脈閉塞症」による黄斑浮腫にも有効であることが分かり、保険適用範囲が大幅に拡大されました。
 長期にわたる高血糖により、黄斑部に浮腫などを起こす糖尿病網膜症。従来、糖尿病網膜症は、網膜にレーザーを照射する光凝固術が標準的治療でしたが、正常な網膜の一部にもダメージを与えてしまうデメリットもありました。抗VEGF療法の適用で、患者さんの体への負担が少なく、黄斑浮腫を軽減できるようになりました。また、高血圧や動脈硬化に伴って起こる網膜静脈閉塞症にも、新生血管の発生の予防や浮腫の軽減に効果を望めます。
 複数回の治療が必要になることと、保険適用であっても自己負担がある程度必要なことには留意する必要がありますが、治療をあきらめていた患者さんにとって抗VEGF療法は新たな選択肢の一つとなっています。まずは十分医師と相談してほしいと思います。

2019年5月22日水曜日

E型肝炎

ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

E型肝炎について教えてください。
 E型肝炎ウイルスに感染し、肝臓に炎症が生じた状態です。急性肝炎を起こすことがあり、劇症肝炎という重篤な肝炎を発症することもあります。また、血液疾患の患者さんなど免疫機能が低下している方が感染すると、慢性化することが明らかになっています。2017年の急性ウイルス性肝炎の届け出件数では、ウイルス性肝炎の中で最も多く、近年注目されている疾患の一つです。
 E型肝炎は、ふん便に存在するE型肝炎ウイルスに感染することで発症します。水や氷、野菜、甲殻類などに混入しており、これらを不衛生な状態で摂取することで感染します。そのため、衛生状況がE型肝炎の流行に深く関連し、衛生環境の整備されていない途上国を中心に確認される傾向があります。従来、日本における発症例は、輸入感染症と考えられていましたが、渡航歴のない方でも感染することがあり、以前推定されていたより日本にも広く分布していると考えらます。日本での主な感染原因は、ブタ・イノシシ・シカの肉や二枚貝を生あるいは加熱不十分な状態で食べることによるものです。そのほか、E型肝炎ウイルスが混入した血液製剤、母子感染などの感染経路も知られています。
 E型肝炎の潜伏期間は約6週間であり、似たような臨床経過を示すA型肝炎よりもやや長い傾向にあります。初期症状としては食欲不振、吐き気、嘔吐、腹痛、肝臓の腫大に伴う腹痛などです。その後、黄疸の症状が急激に出現し、2週間程度の経過で治ります。劇症肝炎にかかると黄疸や倦怠感に加えて、意識障害や腹水・胸水、全身のむくみなど、肝不全に伴う症状が出るようになります。
 E型肝炎ウイルスによる劇症肝炎は、妊婦さんに発症リスクが高く、妊娠後期に感染すると死亡率は約20%にものぼるとの報告もあります。

治療について教えてください。
 治療は、A型肝炎と同様に、急性期には入院、安静加療が必要です。劇症肝炎に対して血漿(けっしょう)交換、場合によっては肝移植による治療が考慮されます。E型肝炎ウイルスに特化した治療がないため、①動物の肉や内臓を食べる際の十分な加熱処理、②調理時や喫食時の交差感染(直接または器物を介して間接的に伝播すること)の防止、を徹底することが重要です。

2019年5月15日水曜日

かくれ脳梗塞(無症候性脳梗塞)

ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長

かくれ脳梗塞とはどのような病気ですか。
 脳ドックを受けたり、けがで脳の検査をしたときに医師から、脳梗塞があると言われてドキっとした、というような経験をされた方も多いのではないでしょうか。俗に「かくれ脳梗塞」というように、自分には思い当たるような症状がないのにもかかわらず、検査時に偶然見つかる脳梗塞をそう呼びます(正しくは無症候性脳梗塞といいます)。
 脳梗塞と聞かされると、驚いてしまいますが、即、大きな発作につながることは少ないと考えられますので、必要以上に不安になる必要はありません。検査結果を伝える際に、医師の説明が十分でないために不安が増している場合も多く、われわれ医療従事者も気を付けなくてはならないところです。「隠れ脳梗塞がありますよ」と言われた場合には、ご自身の持病や生活習慣などを見直すきっかけにしていただくのが得策ではないでしょうか。こういった機会に禁煙を決断される方もいらっしゃいます。

かくれ脳梗塞が見つかった場合、どう対応すればいいのですか。
 無症候性脳梗塞と診断された場合、差し迫った危険はないとはいえ、何も手を打たずに放っておいていいわけではありません。無症候性脳梗塞の方は、健常者に比べると脳梗塞や脳出血、あるいは認知症になる危険がやや高いことが分かっています。また、非常にわずかながら脳にダメージを与えているのではないかとする説もあります。つまり、自分が他の人より脳梗塞など脳の病気を発症するリスクが高いことを自覚して、その予防に積極的に取り組むことが大切です。
 だからといって、慌ててすぐに脳梗塞再発予防の薬を飲む必要性はありません。まずやるべきことは、脳梗塞の危険因子のチェックです。脳梗塞の発症に一番関係が深いのが「高血圧」の存在です。高血圧があれば、その後しっかり血圧を管理していくことがとても大切です。そのほかの危険因子では喫煙や糖尿病、脂質異常症などがあります。それぞれ医師の指導のもと適切に管理していく必要があります。
 脳神経外科の専門医では、さらに頸(けい)動脈の動脈硬化や脳血管のチェックなどを行って、リスクの高い方には内服薬を処方する場合もありますし、再発予防のための手術を勧める場合もあります。

2019年5月8日水曜日

双極性障害(そううつ病

ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院  太田 健介 院長

双極性障害とはどのような病気ですか。
 双極性障害は、気分が落ち込んで、気力が湧かず憂うつな「抑うつ状態」と、うつ状態とは逆に気分が高揚し、発言や行動が活発で抑制がきかなくなりがちな「そう状態」を繰り返す病気です。およそ100人に1〜1.5人の割合でかかる可能性があります。
 そう状態では、症状が軽い場合、睡眠時間が短く多弁となり、意欲が増し、アイデアが次々浮かんできたりすることから、本人は「調子が良い」と感じ、周囲も「やけに元気そうだな」と思う程度で見過ごされがちです。しかし、症状が重くなると、過大な消費を続けたり、攻撃的な言動で周囲の人とトラブルになったり誇大妄想に影響されて無謀な行動をしたり、興奮状態を呈する場合もあります。
 また、そう状態からうつ状態に転じます。うつ状態では、重症化すると自殺の危険性が高まり、一般の方と比べ、約15倍も自殺のリスクが高くなると指摘されています。
 お酒や薬物に依存する「物質使用障害」、パニック障害などの「不安障害」など、ほかの精神障害を併発するケースが多いのも特徴の一つです。

診断と治療について教えてください。
 双極性障害は、初めにうつ状態を呈することが多いです。双極性障害のうつ状態とうつ病は症状が似ているため、見分けがつきにくく、診断が難しいです。なかなか治らないうつ病と思っていたら、実は双極性障害だったというケースも少なくありません。双極性障害とうつ病は治療方針も治療に用いる薬も異なるため、この2つの病気をしっかりと鑑別することが重要です。
 治療は薬物療法が有効です。うつ病では主に抗うつ薬が処方されますが、双極性障害では気分安定薬を使い、うつ状態とそう状態の波を小さくすることが治療の目標となります。近年、双極性障害に効果の高い新しい薬も登場しており、治療の選択肢は広がっています。
 治療せず放置していると、重症化したり、再発を繰り返したりします。本人が気づきにくい病気なので、周囲が「今までと様子が違う」ことに気づいたら、いち早く医療機関につなげることが大切です。継続的な治療が必要な病気ですが、元気に回復した人や症状をコントロールしながら普通に日常生活を送っている人もたくさんいます。

2019年4月24日水曜日

子どもの歯科矯正治療

ゲスト/宇治矯正歯科クリニック 宇治 正光 院長

子どもの矯正治療について教えてください。
 お子さんの歯並びに矯正が必要かどうか迷う人も多いのではないでしょうか。歯並びを確かめる方法の一つとして、お子さんの口元を顔の正面から観察してみてください。上下の前歯の真ん中の位置が一致していれば安心ですが、ずれている場合は、矯正の必要があると考えられます。出っ歯や受け口など、上下の顎が前後に大き過ぎたり小さ過ぎたりという骨格的な問題は、一般の方でも気付きやすいですが、左右のずれは発見しにくいものです。
 前後あるいは左右にずれが認められる場合は、顎骨(がっこつ)の成長コントロールが可能な9〜11歳までに矯正治療を行うのが理想的です。就寝時にバイオネーターと呼ばれる機能的顎(がく)矯正装置を装着し、寝ている間にずれた顎の骨を中央に移動させます。子どもの成長の力を利用して、無理なく自然にバランスのよい骨格をつくれます。痛みはほとんどなく、日中は装着の必要がありません。ずれの程度にもよりますが、装着期間は半年〜1年が平均で、経過観察のための通院は、1〜3カ月に一度が目安となります。
 ずれの原因はさまざまですが、歯そのものがずれているケースもあり、永久歯がはえそろってからでも治療は可能です。その場合、抜歯する可能性は高くなりますが、きれいに治療できるケースがほとんどです。矯正治療をいつ始めるべきかという判断は非常に難しいので、一度歯科医にご相談ください。

家庭でチェックするための別の方法はありますか。
 頬づえやかみ癖、就寝時の姿勢が左右どちらかに大幅に偏っている場合などは、左右のずれを引き起こす原因になることがあります。上下の前歯の位置を確認したら、次は鼻の先端を基準に、鼻の中央に前歯の中心が沿っているかを見てください。ずれの原因は一見して分かるものではなく、万が一、骨格のずれを歯のずれと勘違いして放っておくと、矯正に最適な成長時期を逃してしまうので注意が必要です。
 子どものうちの悪い歯並びやかみ合わせを放置していると、成長に伴い虫歯や歯周病の原因となったり、顎関節にも悪影響を及ぼす恐れがあります。また、大人になってから心理的なストレスの原因となる場合もあります。少しでもおかしいと感じたら、早めに歯科医に相談することをお勧めします。

2019年4月17日水曜日

鼻から入れる内視鏡(経鼻内視鏡検査)

ゲスト/やまうち内科クリニック 山内 雅夫 院長

鼻から入れる内視鏡について教えてください。
 これまで、胃内視鏡検査は口から入れる経口内視鏡を用いるのが一般的でした。しかし、最近は「経鼻内視鏡検査」という鼻から挿入する方法で検査が行われることが増えてきました。経鼻内視鏡はかなり以前からあったのですが、近年は性能が良くなり、導入する医療機関が急増しています。
 経鼻内視鏡は弾力性のあるしなやかなチューブで、直径は5mm台と一般的な経口内視鏡に比べて細く、スムーズに挿入することができます。画像もクリアな高画質で、視野が広く、ごく小さな病変も発見することが可能です。
 経口内視鏡は挿入時、舌の付け根の舌根という部分に内視鏡が触れることで、検査の最中に吐き気をもよおすことがあるなど、患者さんの負担が大きかったのですが、経鼻内視鏡では、鼻から挿入した内視鏡は鼻腔(びくう)を通って食道に入るため、嘔吐感や痛みがほとんどありません。また、検査中に医師と会話できることも、患者さんと医師双方にとって大きなメリットになっています。

経鼻内視鏡検査の流れを教えてください。
 最初に鼻づまりがあるか、鼻血が出やすいかなど鼻の状態を確かめます。鼻の疾患がある場合などは、経鼻内視鏡が使えないこともあります。
 前処置として、鼻腔に「局所血管収縮剤」をスプレーし、鼻の通りを良くして出血をしにくくします。続いて、鼻腔に麻酔薬を注入してから、麻酔薬を塗った内視鏡と同じ太さの柔らかなチューブを挿入し、鼻腔の局所麻酔を行います。これによって、内視鏡が通過するときの痛みが抑えられます。局所麻酔なので、眠くなったりすることはありません。この後、内視鏡が鼻から挿入され、鼻腔、喉、食道、胃、十二指腸と順次観察がなされ、通常数分以内に終了します。
 がんや潰瘍など、食道や胃、十二指腸などの疾患は、早期発見・早期治療が完治への近道です。「検査が怖い」「以前すごくきつかった」など経口内視鏡を苦手とするあまりに受診が遅れ、症状が進行していることもあります。経鼻内視鏡は患者さんの体への負担が少ないので、内視鏡検査をちゅうちょしている人は1日も早く医師に相談してほしいと思います。

2019年4月10日水曜日

非アルコール性脂肪肝炎(NASH)

ゲスト/佐野内科医院 佐野 公昭 院長

非アルコール性脂肪肝炎とはどのような病気ですか。
 肝臓の細胞に脂肪が多くたまった状態が脂肪肝です。お酒の飲み過ぎによって引き起こされるアルコール性脂肪肝がよく知られていますが、お酒を飲まない場合でも脂肪肝になることがあり、これを非アルコール性脂肪性疾患(NAFLD=ナッフルディー)といいます。肥満や糖尿病、脂質異常症、高血圧症などの生活習慣病を伴うことが多く、メタボリックシンドロームの肝病変と考えられています。NAFLDにはほとんど病態が進行しない非アルコール性脂肪肝(NAFL=ナッフル)と、炎症や繊維化を伴い、肝炎から肝硬変、さらには肝がんに進行する危険性のある「非アルコール性脂肪肝炎(NASH=ナッシュ)」があります。飲酒歴がなくても脂肪肝の人で肝臓の病気が進行してしまうことがあるということです。
 肝臓は“沈黙の臓器”といわれるように、多少の負担がかかってもすぐには症状があらわれません。NASHになっていても、かなり病気が進行しない限りほとんど症状はありません。脂肪肝を治療せずに放っておくと、知らない間に肝硬変や肝がんまで進行してしまう場合があることを知っておいてほしいです。

診断と治療について教えてください。
 脂肪肝は自覚症状がほとんどないか、あっても倦怠感がある程度です。一般的な血液検査だけで診断することは難しく、超音波検査やCTによる検査で肝臓への脂肪沈着を確認します。NASHと診断するためには肝生検を行う必要がありますが、簡単に行える検査ではありませんし、多少のリスクもあります。そこで肝臓の線維化に着目して肝機能(GOT、GPT)や血小板数、年齢などから予測式(FIB-4 index)を用いて肝生検を行うべきかどうかの目安にします。電卓があればご自分でも計算できますが、データを入力すると結果を出してくれるホームページもあります。
 治療は、多くの場合肥満を伴っていますので、NAFLでは食事療法や運動療法など生活習慣の改善による減量が基本となります。NASHの場合も肥満のある場合は減量が大切で、糖尿病、脂質異常症、高血圧症がある場合にはそれらの治療も重要となります。こうした疾患に対する薬剤のなかにはNASHに対しても効果があると示唆されているものもあります。保険適用の問題はありますが、抗酸化作用があるビタミンEなども使われることがあります。肝障害の進行を防ぐため、初期の段階から積極的に治療を行なっていきます。
 特定健診など、健康診断で肥満と多少なりとも肝機能異常を認める場合には、症状がなくても専門医に相談してほしいと思います。

2019年4月3日水曜日

最新の糖尿病治療

ゲスト/医療法人社団 青木内科クリニック 青木 伸 院長

最新の糖尿病治療薬について教えてください。
 糖尿病治療薬の最近の進歩は目覚ましいものがあります。飲み薬では、高血糖の時にだけすい臓からインスリンを分泌させ、正常血糖値へ下げる「DPP-4阻害薬」があります。この薬は、理論的には低血糖を起こさず治療できる新薬で、糖尿病の平均血糖の指標であるHbA1c値を1.0%前後下げます。この薬と同じ系統の注射薬も登場し、「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれています。この注射薬はHbA1c値を1.6%前後下げます。1日1回の注射が必要ですが、現在は1週間に1回で済む注射薬も出ました。この系統の注射薬は、すい臓のインスリンを出す細胞を保護し、インスリンの分泌を弱らせない作用も持ち合わせているといわれています。従来まで体重を減少させる糖尿病薬がありませんでしたが、「SGLT-2阻害薬」が登場し、この薬剤は血糖値を下げると同時に体重も減らします。最近の研究データ結果によると、この種の薬剤は、心血管系の心不全の出現を抑える働きと糖尿病性腎臓病を良くする働きを持ち合わせていることが判明してきています。
 一方、インスリン注射に目を向けると、「持効型インスリン(1回の注射で24時間効果を持続する長時間作用型インスリン)」があります。飲み薬の治療が効かなくなる症例でも、飲み薬をそのまま服用しながら、1日1回の持効型インスリンの注射を加えると血糖値が改善する症例もあります。「混合型インスリン」は従来まで濁った製剤でしたが、透明な製剤が登場し、10回以上振って混合しなくても済むようになりました。

糖尿病の治療について教えてください。
 糖尿病の治療状況が良好といえる目安は、HbA1cが7.0%以下になっている場合です。糖尿病の患者さんの約半数が、高血圧と脂質異常症(高脂血症)を合併しているといわれています。糖尿病を合併した高血圧の治療はとても重要で、血圧の治療目標値は125/75mmHg以下です。自宅で測定できる血圧計を治療に役立てる方法もあります。この場合使用する測定器は、指先や手首に巻くタイプのものではなく、上腕に巻くタイプのものをお勧めします。脂質異常症の治療目標値は、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が120mg/dl以下です。糖尿病に重症の虚血性心疾患を合併している場合には、LDL-コレステロールは70mg/dl以下と治療の基準値が厳しくなりました。
 以上のようなさまざまな基準値を長期間保てると、眼底出血による失明、腎臓の悪化による透析、足の潰瘍・壊疽(えそ)による足の切断など、糖尿病に由来する重症の合併症にならなくて済みます。それ以外にも脳梗塞、心筋梗塞などの予防にもつながります。

2019年3月27日水曜日

胃がんの内視鏡治療

ゲスト/福住内科クリニック 佐藤 康裕 院長

胃がんの内視鏡による治療はどのように行われますか。
 口から挿入した内視鏡(胃カメラ)により、胃の内側からがんを切除します。胃がんは粘膜から発生し、次第に下層へ広がり、ある程度の深さに達すると胃の周囲のリンパ節に転移を起こし始めます。外科手術では周囲のリンパ節を含めて胃を切除しますが、内視鏡で切除できるのは胃の粘膜だけです。つまり、内視鏡治療で治る条件は、がんが胃の粘膜にとどまり、リンパ節への転移がないということになります。
 近年開発された「内視鏡的粘膜下層剥離術」によって、以前より多くの病変が切除可能になりました。治療中は鎮静剤などの注射により苦痛は少なく、入院は1〜2週間程度で済みます。外科手術では胃の下側の3分の2の切除や全摘などが行われ、患者さんによっては術後に体重が減少したり体力が低下したりします。一方、内視鏡治療であれば、術後も胃の大きさは変わりません。手術の傷痕も残らず、術前と同じような生活を望めます。

早期胃がんはどのように発見されますか。
 良い治療法であっても、がんを早期発見できなければ内視鏡治療を受けることはできません。自覚症状が出てから見つかったがんは進行がんで外科手術が必要です。症状のない早期がんの発見には「胃がん危険群」に対する定期検査が重要です。胃がんのほとんどは、現在または過去のピロリ菌感染者が発症し、ピロリ菌を持っている人は未感染者の150倍ほど胃がんになりやすいと推測されています。ピロリ菌は乳幼児期に感染し、持続的に胃の粘膜に住みつきます。大人に感染することはまれですので、できるだけ若いうちに検査を受けて除菌することが望まれます。
 2019年1月より札幌市では、指定医療機関においてがん検診の一つとしてピロリ菌検査を実施しています。満40歳・42歳・44歳・46歳・48歳の方を対象に、自己負担は千円で、血液検査のみで判定できます。除菌によって胃がんの発症は約3分の1に減少しますが、除菌時期が中年以降であれば未感染者と比べるとかなり高い発がんリスクがあります。ピロリ菌が胃がんの原因であることが広く知られ、除菌した患者さんも増えていますが、「除菌したので胃がんにはかからない」と誤解されている方もまだ多くいます。除菌後も定期的な内視鏡検査を受けることが重要であり、1年ごとの検査を目安にすれば、がんの早期発見が可能になります。

2019年3月20日水曜日

「眼瞼下垂症〜まぶたのたるみと老人性顔貌」

ゲスト/医療法人藻友会 いしやま形成外科クリニック 石山 誠一郎 院長


─眼瞼下垂症とはどのような病気ですか。
 眼瞼下垂症は、読んで字のごとく眼瞼(まぶた)が下垂する(垂れ下がる)ため、まぶたがうまくあげられなくなり、前方が見えにくくなる病気です。生まれつきの場合もありますが、多くが後天性です。最も多いのは、加齢や生活習慣に伴う腱膜性の眼瞼下垂です。コンタクトレンズを長年使用していたり、アトピー性皮膚炎や花粉症のかゆみでまぶたを強く擦(こす)ることが続いたり、スマホやパソコンなどによる眼の酷使、白内障の手術後、あるいは加齢に伴いまぶたを吊り上げる筋肉が、まぶたを支える瞼板(けんばん)から外れることが原因で起こります。
 老化が原因の場合は、まぶたの皮膚自体も垂れ下がることが少なくありません。「眠たそうな顔をしているといわれる」「若い頃より目が小さくなった感じがする」「実年齢より老けて見られる」など、整容的な問題を伴うことも多いです。また、眼瞼下垂症は視野が狭くなり、前が見えにくくなるため、おでこの筋肉を使って眉毛を強く上げたり、顎を突き上げたりして物を見るようになります。この結果、おでこや眉間に深いしわが寄るなど、老人に似た特有の顔つき(老人性顔貌)になりやすいです。近年では、眼瞼下垂症が頭痛や肩こりなどさまざまな不定愁訴を引き起こす要因となっていることも分かっています。

─治療について教えてください。
 薬では治すことができないため、手術が必要となります。腱膜性の眼瞼下垂の場合は、一般的にまぶたを吊り上げる筋肉を瞼板の正しい位置に再固定する手術が行われます。この際に余剰な皮膚も切除します。局所麻酔で行うので日帰り手術も可能です。手術後の腫れは1、2週間かけて引いていきます。眼が大きくなり、二重まぶたがくっきりするため、少し若返った印象になる方が多いです。傷跡は二重の線にかくれるので、ほとんど分かりません。眼瞼下垂症の治療は美容的な側面もありますが、視界の妨げや頭痛、肩こりなどの症状の改善が主体の場合は、健康保険が適応されます。
 「目は口ほどに物をいう」ということわざがある通り、眼の表情や視線は他人に与える印象を大きく左右します。私たち形成外科医は機能的な面のみならず、整容面も十分に考慮しながら手術を行います。眼瞼下垂症でお困りの方は、ぜひお近くの形成外科へご相談ください。

2019年3月13日水曜日

うつ病の受診のポイント

ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 響 徹 診療部長

うつ病について教えてください。
 うつ病は、気分が強く落ち込み憂うつになる、やる気が出ない、集中できないなどの精神的な症状のほか、眠れない、疲れやすい、体がだるいといった身体的な症状が現れることのある病気です。長引く不調や、他の診療科を受診しても症状が良くならない場合も、うつ病が原因の可能性があります。ストレス社会で生きる私たちにとって、うつ病はいつ、だれが発症してもおかしくない、非常に身近な病気です。
 日常生活の中で憂うつになったり、気分が落ち込んだりといった感情の変化はだれもが経験しますが、うつ病の場合には時間がたっても気分が晴れず、喜びや好奇心をなくした状態が長期間続きます。そのため、仕事や学校に行けなかったり、体を動かすことができなかったり、社会生活に大きな支障をきたします。
 残念なことに、症状が悪化するとうつ病のために自殺をしてしまう方も少なくありません。「心のかぜ」といわれることのあるうつ病ですが、実際は「かぜ」よりもっと恐ろしい病気なのです。症状の悪化を避けるためには、早期発見・早期治療が肝心です。
 うつ病の治療には、休養、薬物療法、精神療法などがあります。治療の経過は人によりさまざま。良くなった状態が続いても、自己判断で治療をやめると再発することもあるので、あせらずに取り組むことが大切です。

受診のポイントについて教えてください。
 うつ病の多くは、ストレスが持続的にかかった結果です。ストレスによって心身が疲れきり、さまざまな症状が出ているのです。一般的に「疲労」は「休め」のサインです。うつ病にならないためにも十分な休養を取る必要があります。危険なのは、普段であれば疲れを感じてもおかしくない状態なのに、身体感覚が鈍って疲労を感じなくなっている場合です。うつ病になっている可能性が高く、一刻も早い受診が必要です。
 本人がうつ病による不調を自覚していなくても、周囲の人が「以前と様子が違う」「どこか変だ」と感じることがあります。なるべく早い段階で周囲がこれらのサインをキャッチし、うつ病に気づいてあげることが重要です。うつ病は、医師や専門家による適切な治療はもちろんですが、周囲の人が病気への理解を示し、共感してあげること、そして、受診につなげてあげることがとても重要です。

2019年3月6日水曜日

多焦点眼内レンズによる白内障治療

ゲスト/大橋眼科 大橋 勉 院長

白内障の治療について教えてください。
 白内障は、瞳の後ろにある水晶体が濁るために起きる視力障害です。治療には点眼薬が投与されますが、最終的には手術が必要です。日本白内障学会などによると、白内障手術は全国で年間140万件以上行われており、最も実施件数の多い外科手術の一つです。
 一般的な手術法は、水晶体を包んでいる袋を残し、袋の中の濁りを超音波で細かくして取り除き、代わりに人工の眼内レンズを挿入するものです。それぞれの目によって症状、程度、状況が異なるため、同じ白内障の手術でも難易度に差があります。
 通常、眼内レンズは1つの距離に焦点を合わせた「単焦点眼内レンズ」が使われていますが、近年では遠距離と近距離の2点に焦点が合うように設計された「多焦点眼内レンズ」も一般的になってきました。

多焦点眼内レンズによる白内障手術について教えてください。
 自由にピントを変えられるような見え方とは異なり、遠くにも近くにもメガネなしで焦点が合いやすくなります。場合によってはメガネを必要とするケースもありますが、頻繁に掛け外しをする煩わしさからは解放されます。乱視の治療も同時に行うことができますが、比較的治療の難易度が高く、多焦点眼内レンズを挿入後に乱視矯正の追加の治療が必要な場合もあります。
 夜間の光をまぶしく感じたり、暗い場所ではくっきり感が落ちたりするなどの弱点もあるので、どちらのレンズにするかは医師と話し合い、ライフスタイルを考慮して選択することをお勧めします。
 多焦点眼内レンズは2007年に厚労省に認可され、08年に先進医療として承認されました。先進医療とは、厚生労働大臣が保険適用外の先端的な医療技術と保険診療との併用を、一定条件を満たした施設のみに認める医療制度です。先進医療施設に認定された医療機関で、多焦点眼内レンズによる白内障治療を受ける場合、術前術後の診察などに保険が適用となります。また、民間の生命保険の先進医療特約の対象ともなり、先進医療に係る費用が全額給付されるケースもあります。
 保険外診療となりますが、遠近に加えて中間距離にも焦点の合う「三焦点眼内レンズ」も登場しています。眼内レンズの進化に伴い、白内障手術も見え方の質をより一層重視する時代に入ってきました。

2019年2月20日水曜日

社交不安症

ゲスト/医療法人北仁会  いしばし病院 内田 啓仁 医師

社交不安症とはどのような病気ですか。
 社交不安症(SAD)は、人前で話をするなど注目を浴びる行動に不安を感じ、顔が赤くほてる、脈が速くなる、息苦しくなる、おなかが痛くなるなどの症状が現れる病気です。例えば、公式な席であいさつをする、会議で指名され意見を言う、よく知らない人に電話をかける、外で他人と食事するといった状況で症状が出ることが多いです。その不安が、公衆の面前での行動に限定されている場合を「パフォーマンス限局型」と呼びます。
 恥ずかしいと思う場面でも、多くの人は徐々に慣れてきて平常心で振る舞えるようになりますが、SADの人は「恥をかいたらどうしよう」「変に思われるかもしれない」という不安感を覚え、そうした場面に遭遇することへの恐怖心を抱えています。SADのため、他人との関わりが辛くなり、不登校や引きこもりなど社会生活に支障を来すケースも少なくありません。
 SADは10〜20歳代に発症することが多く、症状が慢性化してくると、うつ病やアルコール依存症など別の精神疾患の合併が問題となります。心の病気か、性格の特性か、一見しただけでは見分けがつかないのもSADの特徴的な一面で、「内気」「人見知り」「引っ込み思案」などと思い込み、診療の機会を失ったまま過ごしている人も多いです。

治療について教えてください。
 SADの治療法には大きく2つ、薬物療法と精神療法があります。薬物療法では、不安や恐怖を感じる原因とされる脳内物質のバランスを保つ薬・SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を用います。抗不安薬やβ遮断薬などを併用し、不安時の身体症状の緩和を図る場合もあります。
 精神療法では、物事の受け止め方のゆがみや偏りを修正していく「認知行動療法」や、不安が生まれる状況にあえて飛び込んで段階的に身を慣らしていく「暴露療法」などが有効です。同時に、適度な有酸素運動などの生活指導や呼吸法、リラックス法など不安状況への対処法の指導も行われます。
 SADは治療のできる病気です。治療によって長年の苦痛から解放され、人生が大きく変わる患者さんもたくさんいます。不安の頻度が多かったり、社会生活への影響が大きい場合は、思い切って専門医を受診し、適切な治療を受けることをお勧めします。

2019年2月13日水曜日

肺年齢とCOPD(慢性閉塞性肺疾患)

ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長

肺年齢について教えてください。
 胸部X線検査は、肺の異常所見を見つけるものですが、呼吸器疾患の早期発見は難しいとされています。早期発見のためには、肺活量のようにどのくらいの量の空気を吸い込んだり吐き出したりできるか、またどれくらいの速さでたくさん吐き出すことができるかを調べる「スパイロメトリー」という呼吸機能検査が必要です。しかし、従来のスパイロメトリーによる検査値の判定(表示)は、患者さんにとって理解しにくいものでした。そこで、日本呼吸器学会が呼吸機能検査の結果をもとに、呼吸機能を年齢という身近な指標に置き換え、肺の健康状態を知る目安として考案したのが「肺年齢」です。例えば、59歳の患者さんが「肺年齢は93歳。実年齢よりも34歳高いです」と指摘されたら、日常生活に苦痛や不便を感じていなくても、少なからず危機感を覚えるはずです。実年齢との差を自覚することで、呼吸機能の健康への関心と早期治療への意識が高まることが期待されています。
 肺年齢は、大きく息を吸ったのち一秒間にいっきに吐ける息の量(一秒量)を測ることで、自分の肺の機能が実際は何歳ごろの肺の状態に相当しているのかをみる一つの目安です。一秒量の標準値は性別、年齢、身長によって異なり、20歳代をピークに加齢とともに減少します。測定後、患者さんの肺年齢と評価コメントが表示され、「異常なし」から「境界領域(現時点では異常なし)」、「肺疾患の疑い(要精検)」、「COPDの疑い(要経過観察・生活改善)」、「COPDの疑い(要医療・精検)」まで5つのグループに分類されます。「肺疾患の疑い」となった場合は、専門医による精査が必要と判断されます。また、「COPDの疑い」がある場合には、専門医の診断後、禁煙指導や気管支拡張薬、吸入ステロイド薬などによる治療が開始されます。
 肺年齢を老化させる病気の代表がCOPDです。喫煙が主な原因とされ、肺への空気の通りが慢性的に悪くなり、ゆっくりと進行していきます。これまで肺気腫や慢性気管支炎と呼ばれていたもののほとんどが含まれます。せき、たん、息切れが主な症状ですが、進行すると呼吸困難で日常生活に支障をきたし、呼吸不全で死に至るケースもあります。
 COPDは初期の段階では症状を自覚しにくいので、早期発見に呼吸機能検査は不可欠です。まずは自分の肺年齢を知ること。そして、定期的な肺年齢の測定を心掛け、COPDをはじめとする呼吸器疾患の予防と早期発見につなげることが大切です。

2019年2月6日水曜日

おしり(肛門)の痛み

ゲスト/札幌いしやま病院 碓井 麻美 医師 

おしりに痛みがあるとき、どんな病気が考えられますか。
 おしりの痛みといえば、痔を思い浮かべる人が多いと思います。痔とは肛門に起こる良性の病気の総称です。その中で頻度が高いのが、痔核(いぼ痔)・裂肛(きれ痔)、痔瘻(あな痔)の3大疾患です。
 痔核と裂肛は、排便時と排便後しばらくの間痛みがある、おしりから出血するなどはっきりとした自覚症状があるケースが多いです。また、痔瘻は皮膚に孔(あな)を形成することが多く、痛みや発熱が生じるのが一般的です。ただ、痔瘻の中でも特殊なタイプであり、皮膚から深い位置の膿瘍が原因の痔瘻(深部痔瘻、複雑痔瘻)は、頻度が少なく自覚症状も軽いケースが多いため、比較的診断が難しいです。おしりを専門的に診る肛門外科以外の診療科では、しばしば見逃されることが多い病気です。
 同じ痔核でも、肛門の内側の粘膜にできる内痔核と肛門の皮膚部分にできる外痔核とでは、痛みの種類や症状は異なります。また、痔以外にも肛門周囲膿瘍、肛門周囲炎、おしりの奥の筋肉のコリなど、おしりや肛門周囲に痛みや違和感を感じる病気がたくさんあります。
 重要なのは早期に受診して、痛みの原因と現在の病状を正確に把握することです。専門医による的確な診断の後に、治療方法、タイミングなど患者さんのライフスタイルに合わせた治療を行います。

「おしりの病院」を受診するコツを教えてください。
 肛門外科など「おしりの病院」に行くのをためらう理由は、「おしりを見せるのが恥ずかしい」「手術をしなければならないのが嫌」などが多いように思います。知ってもらいたいのは、おしりの病気の多くが薬による治療が可能です。当然ですが、来院される患者さんすべてに手術を勧めるわけではありませんので、安心して受診してください。ですが、おしりの痛みを放っておいて悪化した後では、本当に手術しなければならなくなることもあります。症状が軽いうちに受診することが大切です。
 おしりの病気に限りませんが、今抱えている痛みについて、医師や看護師にできるだけ具体的に伝えることが、適切な診断・治療につながります。病院に行く前に「いつから、どのぐらいの時間痛むのか」、また、「どこが、どんなときに、どんなふうに痛くなるのか」をメモに控えておき、診察時に伝えるのも上手な受診の仕方です。

2019年1月30日水曜日

歯性上顎洞炎

ゲスト/医療法人社団アスクトース 石丸歯科診療所 近藤 誉一郎院長

歯性上顎洞炎とはどのような病気ですか。
 「上顎洞(じょうがくどう)」とは聞き慣れない言葉ですが、頬骨の内側にある空洞のことです。鼻腔周囲の骨中の空洞を「副鼻腔(ふくびくう)」といい、上顎洞はその一つです。副鼻腔の中は、粘膜で覆われており、粘膜の表面には線毛と呼ばれる細い毛が生えています。線毛は、外から入ってきたホコリや細菌、ウイルスなどの異物を、粘液と一緒に空洞の外へ送り出す働きを持っています。
 副鼻腔がかぜやインフルエンザなどの感染から炎症を起こし、不快な症状を引き起こす病気が「副鼻腔炎」です。膿が副鼻腔にたまることが多く、「蓄膿症」とも呼ばれます。上顎のむし歯や歯周炎が主な原因となり、蓄膿症同様、上顎洞に膿がたまる病気を「歯性上顎洞炎」といいます。
 上顎の奥歯の歯根の先は、上顎洞に近接しており、歯によっては歯根が上顎洞内に入り込んでいます。そのため、深いむし歯で奥歯の根っこが炎症や壊死を起こしていたり、歯周病で歯根のまわりに膿がたまったりしているのを放置すると、細菌が上顎洞に侵入し始めます。歯性上顎洞炎にかかると、鼻から膿が出てくる、息をしたときに臭い、かむと痛い、頬が重苦しいなどの症状があります。第二大臼歯が最も原因になりやすいとされ、左右いずれか、片側のみに起こりやすいのも特徴です。

診断と治療、予防について教えてください。
 症例によっては、診断や原因歯の特定が難しいケースもありますが、近年では「歯科用コーンビームCT」を用いた低被ばくのCT検査により、より精度の高い診断ができるようになりました。
 治療は耳鼻咽喉科と歯科を受診し、上顎洞炎の治療とその原因となっている口腔内の治療をいっしょに行う必要があります。歯科では原因歯を特定し、抜歯や根の治療、歯周病や歯槽膿漏の治療を行います。歯性上顎洞炎は長引くと手術が必要となる場合も多く、上顎の歯の違和感と副鼻腔炎の症状が伴う場合は、早めの受診をお勧めします。
 予防は、上顎の歯の近くには上顎洞があることを意識して、日ごろから歯みがきなどのケアを怠らないこと。また、一見正常に見える詰め物治療後の奥歯が、実はその下で炎症を起こしているケースがあるので、定期的に歯科検診を受け、歯の根の治療は根気よく、丁寧に処置してもらうことが大切です。

2019年1月16日水曜日

リウマチ患者の災害への備え

ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 院長

─リウマチ患者の災害への備えについて教えてください。
 日本は世界の中でも災害の多い国です。昨年9月の北海道胆振東部地震、道内全域、約295万戸が停電する国内初のブラックアウトという未曾有の事態に都市機能はまひし、市民生活に大きな支障をきたしました。地下鉄や路線バスをはじめ、道内の交通機関は全面的にストップ、新千歳空港も閉鎖されました。また、家庭では冷蔵庫など保冷設備も通電せず、停電で店舗も閉まり、物資確保に困窮する人が続出しました。
 われわれ医療機関にも深刻な打撃を与えました。医療技術の進展で電力依存度が高まる中、電源喪失により外来診療を取りやめざるを得ない病院・クリニックも多かったです。当院もビルのエレベーターが止まり、電話が止まり、その日受診予定だった患者さんの対応に苦慮しましたが、万一の場合にと、紙カルテに電子カルテの処方箋の写しを残していたため、薬の処方という点では混乱なく対応することができました。近くの医療機関と普段から連携を進めるなど、災害に強いクリニックづくりを進めていかなければとあらためて強く思いました。
 安全確保のため、自宅を出て避難しなければならないような緊急時、関節リウマチの患者さんは、手足に症状が出て移動が困難になったり、薬による治療の中断を余儀なくされ症状が悪化したりすることが考えられます。自分が受けている医療を、避難先でも継続できるよう特段の準備をしておくことが重要です。
 災害時には、かかりつけの医療機関を受診できなくなる可能性も高いです。主治医以外の医師の診察も受けられるよう、自身の病状を把握しておく必要があります。服用している薬の説明に役立つのが「お薬手帳」。アレルギーや合併症の有無などを記録できるうえ、調剤を受けるたびに処方される医薬品の内容が更新されるので、緊急時に医療者が患者の病状を知る大きな手がかりになります。お薬手帳は分かりやすい場所に保管し、避難するときに忘れず持ち出せるよう普段から準備しておくことです。避難が必要になった時でも、財布と携帯電話やスマートフォンは持参している場合が多いので、薬のメモを財布に入れておいたり、薬の情報や写真を携帯電話に記録したり(撮ったり)しておくのも一案です。
 いつも飲んでいる薬は、非常用に3日分くらいを袋に入れて、決まった場所に保管しておきましょう。薬は、飲み切ってから処方が原則ですが、リウマチなど慢性疾患では、かかりつけ医と相談して完全に薬がなくなる前に受診し、常に数日〜1週間分ぐらい余裕があるようにしておくのも大切な備えです。

2019年1月9日水曜日

不登校

ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 江川 浩司 副院長

不登校について教えてください。
 文部科学省は、1年間の欠席日数が病気などを除いて30日以上になることと定義しています。文科省が2018年2月に公表した「児童生徒の問題行動・不登校等調査」によると、年間30日以上欠席した不登校の子どもは、全国の小中学生合わせて前年度比6.1%増の13万3683人に上り、4年連続で増加しています。うち小学生は同10.4%増の3万448人、中学生は4.9%増の10万3235人。小学生では全児童の1%、中学生では全生徒の4.1%が不登校となっています。
 不登校の子どもへの支援を考えるとき、不登校の状態や継続している原因などを事例ごとに詳しく分析し、個別的にアプローチしていく必要があります。文科省の同調査(2014)によると、不登校になったきっかけと考えられる状況として、①学校生活によるトラブル(いじめ、集団生活が苦手、教師と合わないなど) ②学業不振 ③非行や遊び ④家庭環境(家庭内不和、金銭的問題など) ⑤無気力(登校しないことへの罪悪感が少ないなど) ⑥不安など情緒混乱(漠然とした不安や身体の不調を訴えるなど)の六つの要因が挙げられています。小中高生いずれも「不安など情緒的混乱」と「無気力」が例年、最も大きなウエイトを占めています。

子どもが不登校になったとき、どのように対応すればいいですか。
 不登校になったきっかけと考えられる原因を取り除いたり、環境・状況を調整したりすることも大事ですが、その裏に「本当の原因」「潜在的な要因」として、うつ病、双極性障害(躁うつ病)、統合失調症、パニック障害、自閉症スペクトラム障害、ADHD(注意欠陥・多動性障害)などの精神疾患が隠れているケースも多いです。また、メンタルヘルスの問題以外の契機で不登校となっていても二次的にこれらの精神疾患を発症することもあります。
 うつ状態は自殺につながるリスクがあり、軽症であっても放置することは危険です。うつ病に限らず、心の病気は早期発見・治療が、病気からの回復・予後の改善に何よりも重要です。
 病院での適切な治療を経て、不登校が解消された例はたくさんあります。1〜2週間の欠席が続き、その原因がはっきりしない場合や、病気やけがが見つからないのに頭痛や腹痛などを訴え、欠席が続く場合などは、精神疾患が隠れている可能性があるので、「少しあやしいな」という時は迷わずに心療内科・精神科を受診してもらいたいと思います。

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