2016年7月27日水曜日

「顎(がく)関節症」


ゲスト/つちだ矯正歯科クリニック 土田 康人 院長

顎関節症とはどのような病気ですか。
  顎の関節は、耳のすぐ前に人さし指と中指を当てて、口を開閉した時に動く部分です。顎関節症とは、口を十分に大きく開閉できなくなったり、口を開閉する時にカクカク(またはシャリシャリ)と音がしたり、下顎が左右にずれてガクガクしたりする状態をいいます。食事が困難になり、日常生活に影響が出るほどの症状に苦しむ患者さんもいます。顎を動かした時の症状が大半ですが、頭痛や耳鳴り、肩凝りなどの諸症状を伴う場合もあります。
 原因としては、精神的ストレスや歯ぎしり、歯をかみしめる癖などさまざまで、それらが積み重なって許容限度を超えた時に起こると考えられています。仕事上の問題など悩み事を解決したら治った、学生が受験を終えたら治ったという例もあります。顎の骨の形や大きさの異常、位置バランスの崩れが原因で起こる顎変形症の症状─反対咬(こう)合(受け口)、上顎前突(出っ歯)、開咬(奥歯はかんでいるが前歯は開いている状態)など、かみ合わせの悪さ(不正咬合)も顎関節症になりやすい要因の一つです。

顎関節症の治療について教えてください。
 症状の程度によって異なりますが、スプリントと呼ばれるマウスピースのようなものを歯にかぶせる治療が一般的です。スプリントを使い、下顎を適切な位置(やや下顎を前方に出した位置)で安定させ、その位置できれいなかみ合わせをつくります。
 続いて、矯正治療をスタートさせます。矯正治療によりかみ合わせを安定させておかないと、スプリントをはずした時に、下顎が元の悪い位置に戻ってしまう可能性があるからです。歯並びを矯正したり、かみ合わせや顎のずれを修復したり、場合によっては、口腔内の金属冠を作り替えたりし、かみ合わせが安定するようにします。
 顎関節症は中・高校生から成人にみられることが多く、小学生以下の子どもに発症するケースは少ないです。しかし、子どものうちの悪いかみ合わせや歯並びを放置してしまうと、大人になってから顎関節への悪影響が出る危険性があります。小児期に歯並び、かみ合わせの治療を行うことでこれらの心配を予防することができます。顎関節の診断や治療は専門医の受診が必要です。少しでも不安を感じたら、矯正の専門医にご相談ください。

2016年7月20日水曜日

加齢黄斑変性


ゲスト/ふじた眼科クリニック 藤田 南都也 院長

加齢黄斑変性とはどのような病気ですか。 
 年を重ねるとともに眼球の奥にある網膜の中心部「黄斑」に障害が生じる病気です。欧米では中途失明原因のトップであり、日本では50歳以上の約1%がこの病気になり、総患者数は70万人弱と推定されています。
 加齢黄斑変性には、「滲出(しんしゅつ)型」と「萎縮型」の2種類があり、日本人の加齢黄斑変性の約9割が滲出型です。健康な状態では存在しない新生血管と呼ばれる異常な血管が黄斑部の脈絡膜(みゃくらくまく)から発生し網膜側に伸びてくるタイプで、新生血管の血管壁は大変もろいために、血液が黄斑組織内に漏れ出し、黄斑機能を障害します。症状は、物を見るときに<中心がゆがむ><ぼやける><暗い>などさまざまですが、最初は片方の眼に起きて程度も軽いために、患者さん本人は年のせいとして見過ごしていることも少なくありません。滲出型は急速に進行し視力に障害を起こします。見たいところが見えず、読みたい文字が読めないというとても不便な状態になり、放置すると失明の恐れがあります。

診断と治療について教えてください。
 近年診断技術が飛躍的に進歩し、従来の造影剤を使った深い部分の血管の状態を見ることができる「蛍光眼底造影」に加え、患部の3D画像や眼球の断面図を鮮明に見られるOCT(光干渉断層計)を使った「網膜断層検査」などが行われます。これらにより進行の早い滲出型でも小さな新生血管を早期に発見し、効果的な治療につなげることができます。
 最近まで治療方法のない病気でしたが、治療も目覚ましい進歩を続け一時主流だった、新生血管をレーザー光で焼き固める「レーザー光凝固術」に加え、より正常な周囲の組織にもダメージを与える可能性の少ない、「抗VEGF療法」という新生血管の発育を抑える薬を、眼に直接注射する方法が最近実施されるようになりました。継続的な治療が必要ですが、視力の維持のみならず、視力の回復の可能性も高く、現在極めて有力な治療法になっています。
 予防の観点からは、亜鉛や抗酸化ビタミン、ホウレンソウやケールに含まれているルテインなどを摂取すると加齢黄斑変性の発病率が低くなることが分かっています。体に必要な栄養素は毎日の食事で補うのが基本ですが、それで足りない分はサプリメントを活用するのも手でしょう。加齢黄斑変性の予防や、発症後ごく初期の段階の人や一方の眼に発症した人には、サプリメントの内服が有力な手段です。

2016年7月13日水曜日

虚血性大腸炎


ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

虚血性大腸炎とはどのような病気ですか。
 虚血性大腸炎とは、大腸への血液の流れが悪くなり、循環障害が起こることで生じる病気です。高齢者に多いといわれていますが、若年者にも起こります。男女差はありません。高血圧、糖尿病など動脈硬化を進展させる疾患が危険因子ですが、便秘やストレスが関係することもあります。
 典型的な症状は、突然の強い腹痛(主に左下腹部)で始まり、冷や汗、悪心、嘔吐などの症状を伴うこともあります。その後、数回の下痢が続き、徐々に血性の下痢になっていきます。
 似たような症状の病気も多いですが、血液検査に加え、大腸バリウム検査・内視鏡検査により特徴的な所見が得られます。最も診断に有効なのは内視鏡検査で、主にS状結腸から下行(かこう)結腸の部分に、粘膜のむくみ、発赤、ただれ、潰瘍といった病変が見つけられます。
 病状の推移により、一過性型(約65%)、狭窄型(約25%)、壊疽型(約10%)に分類されます。一過性型とは、一時的なもので安静や点滴などで完治する例。狭窄型とは、潰瘍が治る過程で腸が狭くなり、便の通過が悪くなる例。壊疽型とは、大腸への血流が回復せず、腸管が壊死を起こす稀なタイプです。壊疽型は死亡率が約50%と重篤な病態ですが、病気の大半を占める一過性型や狭窄型は生命の危険が少なく、再発も比較的少ないといわれています。

虚血性大腸炎の治療について教えてください。
 一過性型と狭窄型は、保存的治療が原則です。炎症の程度にもよりますが、腸管の安静のために絶食し、補液や抗生物質の投与を行います。一過性型は、約1〜2週間程度の治療で軽快しますが、狭窄型の場合、腹痛や下痢などの症状が続くときには外科的手術を行うこともあります。壊疽型では症状が急速に進行し、腹膜炎の併発など生命に危険があるため、早急な外科的手術が必要です。
 治癒した後に注意する点は、高血圧、糖尿病などを合併している方は、治療を継続するとともに、血流が悪くならないように普段から水分を多めに摂取したり、適度な運動を心掛けたりする必要があります。また、便秘が引き金になったと考えられる方は、排便のコントロールに取り組むこと、ストレスが誘引になったと考えられる方は、極力ストレスを減らし、ゆったりとした生活を送ることが重要です。

2016年7月6日水曜日

成人における自閉スペクトラム症(ASD)


ゲスト/医療法人五風会 福住メンタルクリニック 菊地 真由美 医師

自閉スペクトラム症とはどのような病気ですか。
 この頃、「発達障害」という言葉を新聞などでよく目にするようになってきたのではないかと思います。「自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)」も、この発達障害の中の一つのカテゴリーです。
 かつて「自閉症」は、稀(まれ)にしかみられない重い障害で、中等度から重度の知的障害を伴うことが多いと考えられていました。ところが近年、自閉症をもっと幅広く捉えようとする考え方が専門家の間で広がり、それに伴い名称も自閉スペクトラム症(ASD)と改められました。これは従来の自閉症、「アスペルガー障害」、「広汎性発達障害」などを含んだ総称です。このような流れの中で、知的障害を伴わないアスペルガー障害や高機能自閉症が、これまで考えられていたよりもはるかに多いのではないかと推定されています。典型的な自閉症であれば、子どもの頃に周囲から気付かれるものですが、非典型的な場合は周囲も気付かず、成人になって初めて、その“生きにくさ”や“つまずき”を本人が自覚し、医療機関を受診するというケースもあります。
 ASDの症状の特徴は大きく2つあります。一つは<コミュニケーションに問題を抱えること>、もう一つは<こだわりの強さ>です。コミュニケーションの問題とは、暗黙裡(り)に存在する他者の意図や感情が正しく理解できず、冗談や皮肉を真に受けたり、発言が一方的過ぎたり、また、臨機応変な対人関係が苦手、ジェスチャーや視線を使ったコミュニケーションが不得手という人も多いです。こだわりの強さとは、自分の関心やペース、やり方を最優先させたいという志向のことで、これを乱されると感情的になり、パニックを起こす人もいます。特定の物事やマーク、天気図、地図、電話帳などに偏りのある興味を示したり、手順や配置、ルールに頑(かたく)なにこだわったりするのも特徴的な症状です。感覚の異常が見られる事もあります。

自閉スペクトラム症の治療について教えてください。
 ASDそのものに効果のある薬物治療は今のところありません。ただし、併発している二次的な精神症状には、場合によって薬物治療が行われることもあります。
 ASDとひとくちにいっても、その年齢や社会性、行動特質などにより障害はさまざまな程度に及ぶため、総合的なアプローチが必要です。障害の程度が強ければ、例えば、障害者手帳の取得や障害者枠での雇用など福祉的支援を活用することも選択肢に入ってきます。そこまで程度が強くなければ、まずは自分の特性をよく理解し、周囲に理解者、支援者を作っていくことが重要になります。
 ASDの症状にみられるような特性を持つ人は、健常者の中にも相当数存在すると考えられています。ただし、そのような特徴もしくは傾向があっても、それだけで障害があるとはいえません。生きていく上で、程度の差はあれ“つまずき”は誰しもが経験するものです。そこで安易に“障害”に逃げることなく、自分の特性と上手に付き合っていくことも大切なのではないかと思います。

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