2016年7月6日水曜日
成人における自閉スペクトラム症(ASD)
ゲスト/医療法人五風会 福住メンタルクリニック 菊地 真由美 医師
自閉スペクトラム症とはどのような病気ですか。
この頃、「発達障害」という言葉を新聞などでよく目にするようになってきたのではないかと思います。「自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)」も、この発達障害の中の一つのカテゴリーです。
かつて「自閉症」は、稀(まれ)にしかみられない重い障害で、中等度から重度の知的障害を伴うことが多いと考えられていました。ところが近年、自閉症をもっと幅広く捉えようとする考え方が専門家の間で広がり、それに伴い名称も自閉スペクトラム症(ASD)と改められました。これは従来の自閉症、「アスペルガー障害」、「広汎性発達障害」などを含んだ総称です。このような流れの中で、知的障害を伴わないアスペルガー障害や高機能自閉症が、これまで考えられていたよりもはるかに多いのではないかと推定されています。典型的な自閉症であれば、子どもの頃に周囲から気付かれるものですが、非典型的な場合は周囲も気付かず、成人になって初めて、その“生きにくさ”や“つまずき”を本人が自覚し、医療機関を受診するというケースもあります。
ASDの症状の特徴は大きく2つあります。一つは<コミュニケーションに問題を抱えること>、もう一つは<こだわりの強さ>です。コミュニケーションの問題とは、暗黙裡(り)に存在する他者の意図や感情が正しく理解できず、冗談や皮肉を真に受けたり、発言が一方的過ぎたり、また、臨機応変な対人関係が苦手、ジェスチャーや視線を使ったコミュニケーションが不得手という人も多いです。こだわりの強さとは、自分の関心やペース、やり方を最優先させたいという志向のことで、これを乱されると感情的になり、パニックを起こす人もいます。特定の物事やマーク、天気図、地図、電話帳などに偏りのある興味を示したり、手順や配置、ルールに頑(かたく)なにこだわったりするのも特徴的な症状です。感覚の異常が見られる事もあります。
自閉スペクトラム症の治療について教えてください。
ASDそのものに効果のある薬物治療は今のところありません。ただし、併発している二次的な精神症状には、場合によって薬物治療が行われることもあります。
ASDとひとくちにいっても、その年齢や社会性、行動特質などにより障害はさまざまな程度に及ぶため、総合的なアプローチが必要です。障害の程度が強ければ、例えば、障害者手帳の取得や障害者枠での雇用など福祉的支援を活用することも選択肢に入ってきます。そこまで程度が強くなければ、まずは自分の特性をよく理解し、周囲に理解者、支援者を作っていくことが重要になります。
ASDの症状にみられるような特性を持つ人は、健常者の中にも相当数存在すると考えられています。ただし、そのような特徴もしくは傾向があっても、それだけで障害があるとはいえません。生きていく上で、程度の差はあれ“つまずき”は誰しもが経験するものです。そこで安易に“障害”に逃げることなく、自分の特性と上手に付き合っていくことも大切なのではないかと思います。
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