2014年5月28日水曜日

顎(がく)変形症と子どもの矯正治療


ゲスト/つちだ矯正歯科クリニック 土田 康人 院長

顎変形症とはどのような病気ですか。
 顎変形症は、上下の顎の形や大きさ、位置関係の異常が著しく、かみ合わせが不正の状態をいいます。反対咬(こう)合(受け口)、上顎前突(出っ歯)、開咬(上下の歯がかんでいない状態)、顎偏位(顔や顎が曲がった状態)などがあります。
 かみ合わせが悪いままでいると、食べ物をうまくかめず、胃腸に負担をかけたり、消化不良を起こしやすくなったりするだけではなく、さまざまな問題が生じてきます。顎の関節に負担がかかり、顎の関節が痛い、音が出る、口を大きく開けられないなどの顎関節症を併発しやすくなります。また、不自然なかみ方は頭を傾斜させることになり、結果的に体全体のバランスが崩れ、肩こりや頭痛、腰痛など、不定愁訴と呼ばれる症状を引き起こします。下顎が小さいケースでは、睡眠時無呼吸症候群(SAS)になるリスクが高いことも分かってきました。
 顎変形症の傾向がある人は、子どものうちに治療する方が良い結果を得られる場合が多いです。成人してからでは、抜歯や手術を要するような症例でも、骨が軟らかい成長途中の子どものうちに治すことで、より自然に症状を改善できるからです。

子どもの矯正治療のタイミングについて教えてください。
 歯科矯正に相談する時期は、永久歯が生えてからと思っている親御さんもいらっしゃるかもしれませんが、それではタイミングを逃してしまう場合があります。1〜3歳にかけて乳歯が生えそろってくると、歯並びやかみ合わせについてもそれぞれお子さんの特徴が出てきます。歯磨き指導、虫歯予防も重要ですが、乳歯が生え出したらまず一度は矯正歯科にも足を運ぶことをお勧めします。
 治療を始めるタイミングは、顎の成長や歯並びによって違います。早い治療が望ましい症例は3歳からですが、その他は6〜10歳くらいまでとさまざまです。矯正装置を付けた治療をしなくてもよくなるお子さんも少なくありません。
 子どもの小顎症や下顎後退症は、反対咬合や上顎前突に比べると気付きにくいため、3歳児検診や学校検診でも見過ごされてしまうことがあります。“歯並びやかみ合わせのかかりつけ医”と呼べるような、信頼できる矯正の専門医で定期的に検診を受け、アドバイスをもらうことが何よりも大切だと思います。

2014年5月21日水曜日

依存症


ゲスト/医療法人北仁会  いしばし病院 白坂 知信 院長

依存症とはどのような病気ですか。
 飲酒を抑えられなくなるアルコール依存症、覚せい剤、脱法ドラッグの使用や抗不安薬、睡眠薬の不適切な長期処方による薬物依存症、オンラインゲームなどに夢中になり過ぎてやめられなくなり、健康状態を悪化させたり、日常生活に支障が出たりするネット依存症…。その他、ワーカホリックや摂食障害など、さまざまな依存症が社会的な問題となっています。
 何かにはまって、われを忘れるほど夢中になったり、自分が解放された気分になったりするのは誰にでもあることです。しかし、ほどほどでやめられる人と、自らの意思でコントロールできなくなるまで、その高揚感を求めようとしてしまう人がいます。依存症になる人には、自己肯定感に乏しく自信がない、周囲に受け入れてもらえないという孤独感がある、などの特徴がよく見られます。心がこうした状態にあると、そのつらさ苦しさから逃れるために、自分がのめり込める対象に傾倒していきます。そして、いつしかそれがなければ、平静でいられなくなってしまうのです。
 依存症は、アルコールやニコチン(タバコ)、薬物などの「物質に対する依存症」、ギャンブルや買い物、万引など「行為に対する依存症」、恋愛や友人、親子など「人間関係に対する依存症(共依存)」の三つのタイプに分けられます。

依存症の治療について教えてください。
 治療の中心となるのは、認知行動療法です。依存に陥る心理や背景を読み解き、考え方の癖や行動パターンを修正し、依存に歯止めをかけるというものです。例えばアルコール依存症の場合、これまでのお酒に対する考え方や価値観を見直すことで、アルコールに頼らない生活を目指します。また、アルコールへの欲求が生じた時の対処法や、アルコールの誘いがあった時の断り方などの実践的な対策も学んでいきます。
 依存症は習慣ではなく、脳の病気です。強い依存の状態であれば、自分の力だけで克服するのは困難であり、医療機関での治療が必要です。しかし、依存症の患者さんには自分の問題を否認する傾向があり、本人が自らの意志で病院に行くことはまれです。周囲の説得で本人が受診する場合はいいのですが、そうでない場合には、周囲が専門機関に相談し、アドバイスを受けることが勧められます。

2014年5月14日水曜日

子どもの矯正歯科治療


ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 院長

子どもの矯正治療について教えてください。
 これまでこのコラムで何度かにわたって、子どもの矯正治療の重要性についてお話してきました。成長段階にある子どもは歯やあごの骨のコントロールがしやすく、成人と比べて早く治療を終えることができます。また、容姿に自信が持てるようになったり、思い切って口を開けて笑えるようになったりするなど、子どもの時代に歯並びやかみ合わせを整えておくことで、その後の人生における大きなアドバンテージを得ることができるからです。
 矯正治療が当たり前のように普及している欧米と比べて、日本ではまだ子どもの矯正治療に対する意識は低いようです。歯並びが悪いと、よくかめないばかりか、虫歯や歯槽膿漏(のうろう)の原因になったり、あごの関節に負担が掛かって顎(がく)関節症になりやすかったりします。歯並びの異常が引き起こす弊害についてさまざまなメディアで取り上げられる機会が増え、徐々に子どもの矯正治療への関心は高まっています。しかし、それでもなお「本当に矯正が必要なのか?」「大人になってからでもいいのでは…」とお考えになっている親御さんも多いのではないでしょうか。
 小さなお子さんが、自分から「歯並びがおかしい」と感じて「治したい」と訴えるケースはまれです。お子さんの人生を考え、矯正治療に一歩を踏み出すのは親御さんの役割です。矯正治療をして歯並びがきれいになることは、一生にわたってお子さんの健康的な笑顔を支える大切な財産となるはずです。どうか歯並び、かみ合わせについては子どもの頃から親御さんが注意して見てあげてください。

矯正歯科で検査を受けるのに最適な時期はありますか。
 永久歯が生える小学校在学時は、歯並びやかみ合わせを点検する重要な時期です。この時期にかみ合わせを見ると将来の歯並びが予測できるからです。近年、学校歯科検診でも歯並びがチェック項目に加えられています。学校から「歯並びに注意」といった用紙が渡されたときは、必ず一度矯正歯科で検診を受け、アドバイスをもらうことが大切です。治療が必要かどうか、治療を始める時期はいつ頃かなど、子どもの歯並び、かみ合わせの現状と将来の見通しの説明を受けるチャンスと考え、気軽に相談してみてください。それが後々必ず良かったと思える日が来るはずです。

2014年5月7日水曜日

大人のADHD(多動性障害)


ゲスト/時計台メンタルクリニック 木津 明彦  院長

大人のADHD(多動性障害)について教えてください
 ADHDは、注意力の欠如や衝動的な行動、落ち着きのなさ(多動性)を特徴とする発達障害で、生活にさまざまな困難を来す状態をいいます。思い付きをすぐ言動に移す、気が散りやすい、忘れ物をしやすいなどが代表的な症状として挙げられます。脳内の神経伝達に何らかの不具合を生じ、情報のフィルターや行動のブレーキがかかりにくくなっていると考えられます。
 ADHDは一般的に就学前に気づかれるものですが、成人後に「実はADHDだった」と分かるケースも増えてきました。そのような場合もADHDの症状に、子供のころからずっと悩まされています。多くの人は自分なりに努力していますが、なかなか状況が改善されません。そのため、自分自身を責めたり、本人が怠けている、親の育て方のせいといった非難や誤解にさらされたり、つらい状況に置かれがちです。ADHDが原因で周囲とのトラブルが起こり、抑うつ状態になってしまうこともあります。
 しかし、ADHDは本人の努力不足や、家族のせいではありません。正しい診断を受け自分の特性を把握し、適切な対策を立てることで、生活を改善していくことができます。同時に、周囲の理解を得ることも重要です。

ADHDの診断と治療について教えてください。
 子どものころの状態などを詳しく聞き取る問診のほか、アメリカでADHD研究に長年携わってきたコナーズ博士が開発した心理検査法などを用い、ADHDかどうかの判断を慎重に行います。
 治療は、環境調整などの心理社会的治療から始めます。これは、自分の特性をあらかじめ周囲に伝えおく、社会に適応するための生活術を学ぶなど、家族や職場との協力体制を築き、環境の調整を行うものです。心理社会的治療の効果や、周囲との状況から判断し、必要であれば薬による治療を組み合わせていきます。
 エジソンや坂本龍馬がADHDだったといわれていますが、彼らのように特性を自分の個性として強みにし、偉業を成し遂げた人もいます。ADHDだからこそ秀でている能力や才能、例えば、旺盛な好奇心や豊かな発想力を生かせる環境を探し、生かすことができればと思います。

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