2023年1月26日木曜日

不安症・不安障害

 医療法人五風会 福住メンタルクリニック 菊地 真由美 院長


不安症・不安障害とはどのような病気ですか


 不安や恐怖は本来、危険やストレスが迫っていることをいち早く察知して対処するための、生きていく上で欠かせない情動です。ところが、何らかの原因で不安や恐怖が持続的に過剰になってしまい、日常生活に支障を来す程度になってくると「不安症・不安障害」の可能性が出てきます。

 ある患者さんは、人前で話したり注目を浴びたりする状況で過度に緊張してしまうので、職場での会議がひどく苦痛になり、欠勤するなどして緊張する場面を避けるようになってしまいました。また別の患者さんは、夜間にテレビを見てくつろいでいる時に突然、動悸(どうき)と発汗、胸痛、窒息感に襲われ、「このまま死んでしまうのではないか」という強い恐怖から救急車を呼び、病院に搬送されましたが、検査や診察の結果、身体的にはまったく異常が見つかりませんでした。その後も同様の発作に何度も襲われ、いつ発作が起こるか不安で仕方がなくなり、発作が起こった時に助けを求められない状況を避けるようになってしまいました。

 DSM-5という精神疾患の診断基準によると、不安症・不安障害には分離不安症、社会不安症、パニック症、広場恐怖症、全般性不安症などが含まれています。日本における不安症・不安障害の生涯有病率は約4%といわれており、決してまれな病気ではありません。


治療について教えてください


 治療法は、薬物療法と認知行動療法などの精神療法を併用するのが一般的です。薬物療法では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)がよく使われます。不安症・不安障害では、脳の扁桃体(へんとうたい)という部位の働きが過剰になっていると考えられ、SSRIにはこの過剰な働きを抑える作用があります。その他、ベンゾジアゼピン系抗不安薬なども使われています。

 不安症・不安障害には、「不安」症状そのものと、不安により日常生活における「行動」が障害されるという2つの側面があります。不安を“ゼロ”にしようともがけばもがくほど、かえって不安は増強しやすいものです。加えて、完全主義的な傾向からいろいろな行動を、症状が消失してから着手しようと先送りにしがちです。一般に、不安症・不安障害の人は、成功したい、より良い成績を収めたい、より健康でありたいという気持ちが強いことが多いのですが、その希求とは裏腹に、実際には回避行動により「こうありたいと思う姿」から遠ざかってしまいます。不安を持ちながらも、今できる“ほどほど”のことから少しずつ普段の行動を取り戻していくことが、回復への足掛かりとなります。

2023年1月19日木曜日

冬も気を付けたいあせも

 宮の森スキンケア診療室 上林 淑人 院長


あせもについて教えてください

 汗は汗腺という組織で分泌され、汗管という通路を通って皮膚の表面に出てきます。汗管を通ることのできる汗の量はある程度決まっており、通りきらない量の汗をかくと汗が詰まって皮膚内に取り残されます。皮膚のやや深い所(表皮内)で汗が詰まると、汗の刺激で炎症が起こり、強いかゆみを伴う赤い発疹が生じます。これを「紅色汗疹(こうしょくかんしん)」と言って、あせもの一種です。額や首の周り、胸、背中など汗をかきやすく、蒸れやすい部位に現れます。

 汗の詰まりが皮膚の表面近く(角層)で起きると、直径数ミリの透明な水膨れがポツポツと現れます。これがいわゆるあせもで、正式には「水晶性汗疹」といいます。水晶性汗疹は、かゆみの症状がなく、数日で自然に消えてしまうことがほとんどで、特に治療の必要はありません。

 あせもと聞くと、汗をかく機会が増える夏の病気だと思われがちですが、実は冬にも多い肌トラブルです。厳しい寒さやウォームビズの実施などで、冬場は厚着になりますが、暖房の効いた学校や職場、電車など意外と暖かくて汗をかいてしまうことが多いからです。


冬場のあせも対策と、治療について教えてください

 汗を小まめに拭き取り、皮膚を清潔に保つことが大切です。汗を吸収・蒸発させやすい綿素材の肌着を着るのも効果的です。一方、熱を発生させる効果のある機能性肌着(ヒートインナー)は、場合によっては余計に汗をかき、また汗の吸収が悪く、肌と衣類との間が蒸れやすいので、汗をかきやすい人は避けた方がいいでしょう。

 特に注意が必要なのは乳幼児です。乳幼児の肌は、乾燥しやすく、刺激に敏感で、汗をかきやすいという特徴があります。風邪をひかせないようにと暖房を強めに設定し、暖かい服をしっかりと着込ませることが、結果として、乾燥して敏感になっている赤ちゃんの肌に汗の刺激が加わりあせもが発症するケースが目立ちます。暑すぎない程度に暖房を抑え、必要以上に厚着・重ね着させないことが大切です。

 あせもの治療は、ステロイド外用薬など炎症を抑える塗り薬が主体となります。かゆみを我慢できず、思わずかきむしってしまい重症化するなど、症状が長引くケースも多く見られます。たかがあせもと侮らず、症状の軽いうちに、しっかりと治療を行うことが重要です。

2023年1月12日木曜日

帯状疱疹ワクチン

 白石内科クリニック 干野 英明 院長


帯状疱疹(ほうしん)とはどのような病気ですか。


 近年、「帯状疱疹」になる方が増えています。帯状疱疹は、体や顔の左右どちらかに痛みを感じ、水膨れのある発疹が出ます。半月ほどでかさぶたになって治りますが、「帯状疱疹後神経痛」と呼ばれる痛みが続くこともあります。帯状疱疹は過去に水ぼうそうにかかった時、神経の中に水痘(すいとう)・帯状疱疹ウイルスが潜伏し、加齢や疲労などで体の抵抗力が下がった時に再び活性化することで発症します。水ぼうそうの経験がある方なら、誰でも罹患(りかん)リスクがあります。80歳までに約3人に1人が帯状疱疹を発症するといわれています。

 増加傾向にある理由は、高齢化や2014年に水痘ワクチンが小児対象に定期接種化されたことで、ウイルスに暴露する機会が減り、それに伴って帯状疱疹への抵抗力が弱まったことなどが考えられます。


帯状疱疹ワクチンについて教えてください。


 予防のための帯状疱疹ワクチンには生ワクチンと成分ワクチン(サブユニットワクチン)の2種類があります。どちらも適用は50歳以上となっています。

 生ワクチンは1回の接種で済み、副反応は発熱や局所の発赤程度で済むことが多いようです。ただし、抗がん剤やステロイドを使っている方、リウマチなどで免疫を抑制する薬を使っている方などは再感染のリスクがあるため接種できません。

 成分ワクチンは、遺伝子組み換え技術を用いて作られたものです。ウイルスそのものではなく、感染時にウイルスの表面に発現するたんぱく質の一つを人工的に合成したものと、「アジュバント」と呼ばれる物質・成分を組み合わせた最新のワクチンです。アジュバントとは、ワクチンと一緒に投与して、その効果を高めるために使用される物質です。人工的に合成したたんぱく質に対して効率よく抗体が産生され、ウイルス感染を抑制できます。8週間以上の間隔を置いて合計2回接種します。生ワクチンと比べ、発熱や倦怠感(けんたいかん)などの副反応が強い傾向があります。

 帯状疱疹の発症予防効果は、生ワクチンでは約50%、成分ワクチンでは(50歳以上で)97%という結果が出ています。また、成分ワクチンの予防効果は約9年間持続することが確認されていて、成分ワクチンは副反応が強く起こる可能性はあるものの、効果は非常に高いといえます。

 自治体によってはワクチンの接種費用の補助が出るようです。かかりつけの医療機関にお問い合わせください。

2023年1月5日木曜日

社交不安症

 医療法人 北仁会 いしばし病院 内田 啓仁 医師


社交不安症とはどのような病気ですか


 社交不安症(SAD)は多くの人から注目される行動に不安を感じ、顔が赤く火照る、脈が速くなる、息苦しくなる、おなかが痛くなるなどの症状が現れる病気です。例えば、公式な席であいさつをする、会議で指名され意見を言う、よく知らない人に電話をかける、外で他人と食事をするといった状況で症状が出ることが多いようです。

 恥ずかしいと思う場面でも、多くの人は徐々に慣れてきて平常心で振る舞えるようになりますが、SADの人は「恥をかいたらどうしよう」「変に思われるかもしれない」という不安感を覚え、そうした場面に遭遇することへの恐怖心を抱えています。SADのため、他人との関わりがつらくなり、不登校やひきこもりなど社会生活に支障を来すケースも少なくありません。

 SADは10〜20代に発症することが多く、症状が慢性化してくると、うつ病やアルコール依存症など別の精神疾患との合併が問題となります。心の病気か、性格の特性か、一見しただけでは見分けがつかないのもSADの特徴で、「内気」「人見知り」「引っ込み思案」などと思い込み、診療の機会を失ったまま過ごしている人も多いようです。


治療について教えてください


 治療法は大きく2つあり、薬物療法と精神療法です。薬物療法では、不安や恐怖を感じる原因とされる脳内物質のバランスを保つ薬・SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を用います。抗不安薬やβ遮断薬などを併用し、不安時の身体症状の緩和を図る場合もあります。

 精神療法では、物事の受け止め方のゆがみや偏りを修正していく「認知行動療法」や、不安が生まれる状況にあえて飛び込んで段階的に身を慣らしていく「暴露療法」などが有効です。同時に、適度な有酸素運動などの生活指導や呼吸法、リラックス法など不安状況への対処法も指導します。

 SADは次第に認知されてきましたが、まだ十分に知られていない病気です。何より重要なのは、SADは「治療できる病気」ということです。治療により長年の苦痛から解放され、人生が大きく変わる患者さんもたくさんいます。不安の頻度が多かったり、社会生活への影響が大きい場合は、思い切って専門医を受診し、適切な治療を受けることをお勧めします。

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