医療法人社団 正心会 岡本病院 山中啓義 副院長
認知症について教えてください。
2030年には65歳以上人口が全体の31%に達すると推定されています 。21年の日本の平均寿命は新型コロナ感染症の影響で低下しましたが (男性81.4歳/女性87.5歳) 、医学水準の発達により今後も平均寿命は延びていくことが予想されます。このような状況の中で加齢をリスクとする認知疾患者の増加は必然です。
認知症とは「物事を記憶すること」「物事を判断すること」「物事を予定や計画を立てて実行すること」の機能が低下し日常生活や社会生活に支障を来した状態です。認知症タイプは70種類以上ありますが、「アルツハイマー病」「脳血管性認知症」「レビー小体病」の3タイプで全体の 90%以上を占めます。
アルツハイマー病は「アミロイドβ(ベータ)」や「タウ」といった異常なタンパク質が脳内に貯まることで神経細胞が死滅し、記憶を司る海馬を中心に脳が萎縮して認知機能低下を引き起こします。脳血管性認知症は、生活習慣病が原因で脳血管がつまったり破けたりすることで脳細胞の壊死が起こり認知機能が低下します。レビー小体病は、脳内にタンパク質が集まってレビー小体という小さな塊ができ、それにより神経ネットワークに異常が生じて認知機能が低下するものです。
世界中の研究者が認知症治療薬開発に尽力していますが、決定的な著効薬は未だに開発されていません。
軽度認知障害(MCI)について教えてください。
近年非常に注目されている概念が「軽度認知障害(MCI)」です。その理由は「認知症の前段階で認知症の始まりを捉えることが、認知症治療で重要」と考えられるからです。例えば、アルツハイマー病に向かう変化は、脳の側頭葉の「嗅内野(きゅうないや)」から始まりますが、その変化は40 〜50 歳代の半数にみられます。
MCIは「同年齢の人と比べて認知機能低下を認め、正常とはいえないが認知症の診断基準を満たさないレべル」といえます。疫学研究ではMCIから1年後に10%、5年後に40%が認知症に移行するとも報告されています。
専門的には、脳内の神経原線維変化が嗅内野にとどまっている状態や、「臨床的認知尺度(CDR)」による認知機能や生活状況などに関する6項目評 価(記憶/見当識/判断力・問題 解決/社会適応/家庭状況及び興味・関心/介護状況)で認知障害の疑いとされるものがMCIとなります。
MCIを進行させないためには「脳血流量を減らさないこと」が重要です。具体的には暴飲暴食を避け、適度な運動やダイエットなどで生活習慣病を予防し改善すること。また、本人が楽しいと思える運動や趣味を定期的に行うことは、脳の活性化につながり、MCIの進行の遅延効果を期待できる可能性があります。