2022年11月3日木曜日

長引くせきの治療と新しい治療薬

医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 北田 順也 副院長


長引くせきは、どんな病気の可能性があるのでしょうか。


 秋から冬へと季節が移り変わっています。この時季には、長引くせきに苦しむ方が病院を訪れますが、その多くはアレルギー性の「せきぜんそく」や「気管支ぜんそく」です。北海道の秋は、イネ科の植物やヨモギなどによる花粉症が知られていますが、ダニやほこりなどハウスダストが原因で発症するケースもよく見られます。夏場に繁殖したダニの死骸やふんが、空気の乾燥したこの季節に風で舞ったり、室内で暖房を使い始め、温風によって空中に浮遊したものを吸引してしまうのが原因です。

 医学的には8週間以上続くせきのことを「慢性咳嗽(がいそう)」と呼んでいます。例えば、持続期間が1ヶ月以内のせきの原因の多くは感冒を含む気道の炎症ですが、持続期間が長くなるにつれて感染症の頻度は低下します。慢性咳嗽の原因疾患としては、アレルギー性のぜんそく、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)や胃食道逆流症、肺がんや肺結核、肺炎、肺気腫などがあります。血液検査や喀痰(かくたん)検査、胸部写真(X線、CTなど)、呼吸機能検査などで詳しく調べて原因を特定し、その病気に対する適切な治療を行うことが必要ですが、適切なせき止め薬や吸入薬を使っても症状がなかなか改善しない難治性の慢性咳嗽や、中にはいくら検査しても原因がはっきりとしないという慢性咳嗽も存在します。


難治性の慢性咳嗽の治療について教えてください。


 なかなか打つ手がありませんでしたが、2022年4月に新たな作用機序を持つせき止めの新薬が登場し、治療の選択肢が増えました。従来のせき止めのような脳への直接作用ではなく、気道で刺激を感知して、せき中枢へと伝えるセンサー「P2X3受容体」をブロックすることで、せきの発生を抑える薬です。臨床試験では難治性の慢性咳嗽に対して一定の効果が確認されています。

 難治性の慢性咳嗽により日常生活に支障を来している患者さんが新薬の対象となります。新薬により、せきが減って生活の質が改善することが期待されています。注意点としては、程度の差はありますが服用した患者さんの約6割に、味覚不全など味覚に関連した副作用が現れることです。新薬の服用を検討する場合は、専門医に効果と副作用の両面からよく相談してみてください。

 長引くせきは「気管支からの危険信号」です。放置しないで、呼吸器の専門医を受診してください。

人気の投稿

このブログを検索