2022年6月1日水曜日

関節リウマチ診療における「患者報告アウトカム(PRO)」の重要性

 ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 理事長


関節リウマチ診療において「患者報告アウトカム(PRO)」が果たす役割について教えてください。

 近年、骨破壊を抑える効果が期待できる生物学的製剤の登場など、診断技術や治療方法の大幅な進歩によって、強い痛みや関節の変形などの症状が消失した状態である「寛解」を目指し、長期にわたって寛解状態を維持できる“新しい時代”を迎えています。

 一方で、治療の進展にかかわらず、残存する目に見えない痛みや倦怠感、朝のこわばりといった症状は、周囲の理解を得ることが難しく、また伝えることも容易でないため、日常生活において悩みを抱える患者さんがおられます。

 患者さんのこうした現状をもっと深く理解し、患者さんが医療者に伝えたい望みや困っていることを指標化した評価法を診療の現場に取り入れ、患者さんがより高い満足度を得られる治療につなげていこうとする動きが活発になってきました。

 その評価法が「患者報告アウトカム(PRO=Patient-reported outcome)」で、例えば「今の痛みの程度は0点から10点のうち何点ですか?」と質問するなど、痛みや不安など身体・心理的な症状や健康状態を患者さんに直接尋ね、患者さんの主観的な評価を測定する指標・考え方のことです。

 更に具体的にいうと、医療者は「症状のコントロールと長期障害の予防」を最大の目標に治療を行いますが、患者さんは「今日のこの痛みを何とかしたい」「日常の活動がもっとできるようになりたい」と考えています。医療者と患者さんでは治療目標に違いが生じますが、リウマチの改善に対する評価・考え方が異なるためです。患者さんにとっては、客観的なデータである血液検査の数値や画像検査の所見が良くなっていたとしても、他人にわかりづらい痛みや倦怠感、こわばりといった症状が残っていればリウマチが改善したとはいえないのです。

 患者さん自身が語る症状や健康状態をもとに、疾患がもたらす負担などを評価する患者報告アウトカムの種類はいくつも登場しています。患者報告アウトカムは、患者さんが待合室で規定の用紙に記入するか、タブレットなどを使用した電子フォームに入力するのが一般的です。患者さんは患者報告アウトカムを通じて、自身の疾患管理に関与していることを実感でき、治療満足度の向上に有効であると考えられます。

 医療者が持っている専門的な所見を押し付けるのではなく、あくまで患者さんの体感に基づく説明を尊重しながら、対等に医療者の見方とすり合わせて主観的な納得を築こうという患者報告アウトカムのようなアプローチは、今後ますます重要になっていくことが予想がされます。


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