2011年2月3日木曜日

心の健康と認知行動療法

ゲスト/五稜会病院 千丈 雅徳 院長

今、認知行動療法に注目が集まっていますが、その要因は何でしょうか。
 近年、マスメディアでは抑うつや引きこもり、ニート、PTSD(心的外傷後ストレス障害)といった精神的問題が毎日のように報道されるようになりました。また、職場における抑うつの増加が社会問題となり、抑うつの低年齢化も指摘されています。抑うつと関連が深いとされる自殺についても、1998年以降、自殺者数は毎年3万人を超えています。健康問題や景気の悪化による中高年の自殺、過重労働によると見られる働き盛り世代の自殺も増えています。
 さまざまなストレスが私たちの心の健康を脅かしている現代社会。その中で健やかに生きていくためには、誰かに依存するのではなく、自分で自分の心を守っていく必要があります。そこで大きな期待を寄せられているのが「認知行動療法」と呼ばれる心理療法の考え方です。認知行動療法は、さまざまな心理療法の中でも幅広くその活用が見られ、かつ一定の治療効果が報告されている心理療法です。悩みを抱えやすい人が物事の見方やとらえ方、それに伴う行動を変えることで症状を改善していく療法で、その考え方は、日常生活の悩みやストレス対処に生かすヒントにもなります。

認知行動療法とはどのような治療法なのでしょうか。
 認知行動療法は、人の持つ物事に関するとらえ方、考え方とそれに伴う行動が、どのような形でその人の心の状態に影響を与えているかということに注目し、物事のとらえ方、考え方や行動の変化から、不快な感情の改善を図ろうという心理療法です。例えば、すべてを悲観的にとらえるマイナス思考や、完璧にしないと気が済まない完全主義思考など、自分の考え方のクセ(認知のゆがみ)を見つめ直すことで、柔軟な思考を身に付け、不安や落ち込みなど心理的ストレスを軽くしていきます。ここで重要なのは、否定的思考を肯定的・積極的思考に転換することではなく、ある状況を見る視点はいくつも存在するということを自覚し、現実的な考え方のバランスを取って、問題に上手に対応できる心の状態をつくるコツを身に付けることです。自分の今までの考え方を変えるというだけでなく、時にはそれを大切にしながらもさらに自分にとって楽な考え方を見つけていくのです。
 認知行動療法に関する入門書や専門書は数多く出版されていますので、一度手に取っていただければと思います。個々人のメンタルヘルスの治療の主役は、なんといっても当事者自身。自分で自分の心の健康を守ることが何よりも大切です。しかし、それがなかなかうまくできないと感じたときや、自分で自分の心をコントロールできそうにないと自覚した場合には、気軽に専門医を訪れて、早めに対応してもらうのが有効です。

人気の投稿

このブログを検索