2016年12月28日水曜日

睡眠時無呼吸症候群


ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 院長

睡眠時無呼吸症候群とはどのような病気ですか。
 夜寝ていて大きないびきをかいていると思ったら、そのいびきが突然止まったりすることはありませんか。朝起きた時に熟睡感がなく頭痛がして体が重く、日中に強い眠気やだるさを感じ、物事に集中できないことはありませんか。もし心当たりがあれば、それは睡眠時無呼吸症候群かもしれません。
 睡眠時無呼吸症候群は名前の通り、眠っている間に呼吸が止まる病態です。無呼吸とは呼吸が10秒間以上止まっている状態を指します。睡眠中に無呼吸が7時間に30回以上、または、1時間に5回以上あれば睡眠時無呼吸症候群に該当します。その多くは、眠っている時に、舌や口蓋垂(のどちんこ)が、空気の通り道である気道を塞いでしまうことによります。気道が狭くなる原因として多いのが、肥満により首や喉の周りに余分な脂肪がつくことです。扁桃肥大やアデノイドも原因となります。また、もともと顎が小さかったり、気道が狭かったりして起こる場合もあります。
 睡眠時無呼吸症候群は日常生活にさまざまな影響を及ぼします。例えば、繰り返し呼吸が止まることによって、低酸素状態となり自律神経が乱れてきます。また、肥満から動脈硬化が進みやすくなり、糖尿病や高血圧、脳卒中などを引き起こす原因になります。心臓にも負担がかかり、不整脈や心疾患にもつながります。日中の強い眠気により、車の運転中などに重大な事故を招く危険性もあります。

睡眠時無呼吸症候群の検査と治療について教えてください。
 検査方法は、簡易検査と「終夜睡眠ポリグラフ検査」があります。簡易検査は自宅で無呼吸の有無を調べます。終夜睡眠ポリグラフ検査は、病院に一晩入院して体にセンサーを取り付け、無呼吸の程度や酸素の低下状態、脳波などを詳しく調べるものです。確定診断のためには終夜睡眠ポリグラフ検査が必要です。
 特殊なマウスピースを装着し気道を広げる方法や、手術で喉を広げる方法など、治療法にはいくつかありますが、現在主流となっているのはCPAP(シーパップ)と呼ばれる治療です。寝ている時間だけ鼻にマスクを装着し、接続した機械から鼻マスクを通じて、一定の圧力をかけた空気を気道に送ります。これによって、気道が狭くなるのを防ぎます。CPAPは保険適用の治療で、継続することで科学的にも効果が証明されています。

2016年12月21日水曜日

舌側矯正


ゲスト/宇治矯正歯科クリニック 宇治 正光 院長

矯正に対する最近の傾向について教えてください。
 全身の健康やQOL(生活の質)にとって、咬(か)み合わせが重要な役割を果たしていることが一般の方々にも認知されるようになりました。それによって歯列のでこぼこや、上顎(がく)前突、下顎前突、さらに顎の左右のズレを気にする方が増えてきました。
 先日、30代の女性から「長年、でごぼこの歯並びがコンプレックスです。矯正治療を考えていますが、装置を裏からにするか、表からにするか迷っています」と相談を受けました。この女性に限らず、同様の悩みを持つ人は多く、よくこのような相談を受けます。
 咬合(こうごう)の大切さを認識し、矯正治療を受けようとする前向きな姿勢を隠す必要はありませんが、人知れずに治療したいという気持ちも分かります。特に社会人で、接客業など日常的に多くの人に接する職業の人はそう考えるでしょう。また、思春期のお子さんが矯正装置を気にする心情も理解できます。そういう場合は、舌側矯正をお勧めしています。

舌側矯正について教えてください。
 舌側矯正は、歯の裏側に矯正装置を入れます。表からは装置が目に付かないので、見た目にはまったく違和感がありません。ただし、内側にあることから、表側からの矯正(唇側矯正)と比較すると装着の違和感などで劣る部分もありました。しかし、近年これらの問題点を改善した舌側矯正装置「STb」が普及してきました。
 「STb」は、「ST」が大文字、「b」が小文字で表記されるのが正しく、「ST」は考案者2人の頭文字、「b」はブラケット(歯に付ける器具)の略です。「STb」は、従来の裏側に用いていたブラケットと比べると装置が非常に薄く、そして小さくなりました。それにより「話しにくい」「食事がしづらい」「舌が痛い」「歯が磨きにくい」といった今までの舌側矯正の不快感が飛躍的に改善されました。また、歯の痛みもほとんどなく、歯が早く動くともいわれており、より進化した次世代ブラケットといえます。
 「STb」の登場により、話すことが多い職業の人や舌の違和感に対する不安などの理由で、舌側矯正に踏み切れなかった人も気軽に、そして快適に矯正治療が受けられるようになったと思います。ぜひ一度、専門医に相談してみてください。

2016年12月16日金曜日

「双極性障害」


ゲスト/医療法人社団 正心会 岡本病院 山中 啓義 副院長

─双極性障害とはどのような病気ですか。
 双極性障害は、「躁病エピソード」と「大うつ病エピソード(抑うつ気分・興味や喜びの消失・食欲減退・睡眠障害・無価値感・自責感・疲労感・気力の減退・思考力や集中力の減退などが2週間以上持続)」の2種類の「気分エピソード」を繰り返す疾患であり、かつては「躁うつ病」と呼ばれていました。
 躁病エピソードの基本的な症状として、①気分高揚・爽快・怒りっぽい ②過度の自尊心・誇大的思考 ③睡眠欲求の減少 ④多弁 ⑤考えが次々と浮かぶ ⑥注意の散漫 ⑦目的指向性のある行動が高まる、あるいは焦燥 ⑧困った結果を引き起こす可能性が高いにもかかわらず、自らの楽しみに熱中する—などがあります。これらのいくつかの症状が少なくとも1週間、ほぼ毎日、1日の大半において継続する場合を躁病エピソード、少なくとも4日間継続する場合を軽躁病エピソードと診断します。
 躁状態やうつ状態は古代より疾患として認識されており、一見正反対の状態が同一の疾患であると提唱されたのは古代ギリシアの時代でした。現在、はっきりとした躁病エピソードのある場合は「双極I型障害」と診断され、軽躁病エピソードと大うつ病エピソードを繰り返す場合は「双極II型障害」と診断されます。わが国では、双極I型障害と双極II型障害を合わせての有病率は0.8%程度といわれています。発症は20歳代に多く、性差はほとんどありません。遺伝率は比較的高いとされています。
 双極性障害はうつ病と比べると、まだ社会的な認知度が低い疾患ですが、放置しておくと、何度も躁状態とうつ状態を繰り返し、人間関係や家庭生活、仕事や学業などに支障をきたすケースがあります。また、うつ状態では自殺の危険性も高まることが知られています。

─双極性障害の診断と治療について教えてください。
 双極性障害は、うつ病と診断される場合も多く、見逃されやすい疾患です。双極性障害の患者さんは経過中、約30〜50%の期間をうつ病エピソードで過ごしているという報告があります。このように、うつ病エピソードの期間が長いことが疾患の発見を遅らせる原因の一つなのかもしれません。また、双極性障害はうつ病エピソードで発症する場合も多いとされています。
 近年の研究報告では、うつ病として治療されていた患者さんが実は双極性障害であったと診断されるケースの関連因子として、①抗うつ薬による躁転 ②抑うつ性混合状態 ③過去1年間のエピソード回数が2回以上 ④大うつ病エピソードの初発年齢が25歳未満 ⑤自殺企図歴—などがあります。5項目のいずれかが認められる場合、より注意して過去の躁病・軽躁病エピソードを確認する必要があるとされています。
 診断が確定した場合、治療は気分安定薬や第2世代抗精神病薬などを主剤とした薬物療法が第一選択肢となります。また、心理療法として認知行動療法、対人関係療法、家族心理教育、集団心理教育などの有用性も報告されています。
 思い当たる症状があれば、まずは精神科・心療内科を受診して相談してみてください。

2016年12月7日水曜日

頭皮の湿疹と円形脱毛症


ゲスト/宮の森スキンケア診療室 上林 淑人 院長

頭皮の湿疹について教えてください。
頭皮の湿疹の原因は、大きく「皮脂」「アトピー」「その他」に分けられます。
 頻度が高いのは、頭や顔など皮脂の分泌が多い部位に発生する脂漏性湿疹です。頭皮の毛穴から分泌される皮脂が、頭皮に刺激を与える成分へと変化し、炎症を引き起こします。症状は皮膚が赤くなり、フケが多くなったり、かゆみを伴ったりします。体質も関係しますが、日常のケアにより症状を抑えることは可能です。まず、洗髪で頭皮を清潔に保ち、皮脂を十分に落とすこと。その際、指の腹でやさしく洗い、頭皮を傷つけないよう注意しましょう。また、偏食や野菜不足、睡眠不足、ストレスが症状悪化の原因となるので、生活習慣を整えることも重要です。治療は、炎症を抑える外用剤、ビタミンB群やかゆみを抑える内服薬が有効です。
 アトピー性皮膚炎の方には、頭皮の湿疹に悩む方がたくさんいます。治療には炎症を抑える外用剤や、かゆみを抑える抗アレルギー剤の内服が必要です。
 また、生活環境・習慣の中にある症状を悪化させるさまざまな因子を取り除くことも必要になってきます。また、アレルギー体質の人は、シャンプーやリンス、毛染め剤による湿疹に悩まされることも多いです。原因を絞り込み、それらを使わないようにするなど、頭皮にとって刺激とならないような日常的なケアが必要です。
 その他の頭皮のトラブルには、頭皮のニキビや、盛り上がったカサカサの紅斑ができる尋常性乾癬(かんせん)などもあります。症状や原因によって治療・対処法は異なるので、専門医へ相談することが大切です。

円形脱毛症について教えてください。
 頭髪がまとまって円形状に抜け落ちるのが円形脱毛症です。1カ所のみの場合から数カ所、あるいは頭皮全体に及ぶ場合、眉毛やまつ毛まで抜ける場合など程度はさまざまです。自分の体をウィルスや細菌などの外敵から守ってくれる免疫組織が、自己の毛根を攻撃する免疫異常が起こっているのが原因と考えられています。ストレスがきっかけになるといわれますが、詳しい仕組みは分かっていません。
 治療には、免疫や炎症を抑える外用剤や内服薬、また時に漢方薬を処方しますが、すぐに反応して毛が生えてくるとは限りません。治療期間が長くなるケースも多く、根気のいる治療が必要となります。

2016年11月16日水曜日

腸内細菌叢(そう)


ゲスト/佐野内科医院 佐野 公昭 院長

最近よく聞く「腸内細菌叢」とは何ですか。
 私たちの体は37兆個とか60兆個の細胞からなるといわれていますが、腸内にはそれよりはるかに多くの細菌がすんでいます。その数は、100兆〜1000兆個にもなり、500〜1000種類の多種多様な腸内細菌が群れを成しているのです。その様子を、腸内細菌叢といいます。その構成は一人一人違い、宿主であるヒトの健康に大きな影響を与えていることがわかってきました。
 腸内細菌は大きく「善玉菌」「悪玉菌」に分けられます。善玉菌は消化吸収を助けるなど腸に良い働きをし、代表的なものとしてビフィズス菌や乳酸菌が挙げられます。一方、毒素を出す、腐敗物質をつくるなど腸に悪い働きをするものが悪玉菌です。すべての腸内細菌は単純に善・悪に分けられるわけではありませんが、悪玉菌が悪さをしないよう、善玉菌が常に優位になるような腸内環境に整えることが健康維持にはとても大切です。
 近年、腸内細菌の遺伝子解析などの研究が急速に進み、腸内細菌叢のバランスの乱れが、下痢や便秘などの便通異常だけでなく、大腸炎や大腸がんなどの腸の病気、肥満や糖尿病、動脈硬化症などの生活習慣病、多発性硬化症や自閉症、認知症などの精神神経疾患などにつながることが分かってきました。病気の人に健康な人の腸内細菌を移植する治療法・糞便移植(正常細菌叢回復治療法)も試みられるようになり、劇的な効果を上げている疾患もあります。

日常生活の中で、腸内細菌叢を良い状態にするにはどうすればいいですか。
 まず腸内環境の良し悪しを把握するには、便の状態を観察することです。定期的に排便があり、色は黄色~黄褐色で、形がバナナ状(半練り状)であることが、腸内環境が良い状態であることの一つの目安となります。ある程度の量が出ることも大切です。石ころ状で硬い上に量が少なく、黒褐色の便のときなどは、悪玉菌が優位な腸内環境になっている可能性が高いです。
 腸内環境を整える方法として、まずは食生活を見直してみましょう。善玉菌を優位にするためには、野菜や果物、ドライフルーツ、海藻、豆類など食物繊維の多い食品、納豆や味噌、ヨーグルトなどの発酵食品がお勧めです。適度な運動も有効で、特に軽いウォーキングなどで腸の動きを刺激したり、お腹周りの筋肉を鍛えるような運動がよいでしょう。

2016年11月9日水曜日

最新の糖尿病治療


ゲスト/医療法人社団 青木内科クリニック 青木 伸 院長

最新の糖尿病治療薬について教えてください。
 糖尿病治療薬の最近の進歩は目覚ましいものがあります。飲み薬では、高血糖の時にだけ、すい臓からインスリンを分泌させ、正常血糖へ下げる「DPP-4阻害薬」があります。この薬は、理論的には低血糖を起こさず治療できる新薬で、糖尿病の平均血糖の指標であるHbA1c値を1.0%前後下げます。この薬と同じ系統の注射薬も登場し、「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれています。この注射薬はHbA1c値を1.6%前後下げます。1日1回の注射が必要ですが、現在は1週間に1回で済む注射薬も出ました。この系統の注射薬は、すい臓のインスリンを出す細胞を保護し、インスリンの分泌を弱らせない作用も持ち合わせているといわれています。従来まで体重を減少させる糖尿病薬がありませんでしたが、「SGLT-2阻害薬」が登場し、この薬剤は血糖を下げると同時に体重を減らします。最近の研究データによる結果では、この種の薬剤は、心血管系の動脈硬化症の出現を抑える働きも持ち合わせていることが判明してきています。
 一方、インスリン注射に目を向けると、「持効型インスリン(1回の注射で24時間効果を持続する長時間作用型インスリン)」があります。飲み薬の治療が効かなくなる症例でも、飲み薬をそのまま服用しながら、1日1回の持効型インスリンの注射を加えると血糖が改善する症例もあります。「混合型インスリン」は従来まで濁った製剤でしたが、透明な製剤が登場し、10回以上振って混合しなくても済むようになりました。

糖尿病の治療について教えてください。
 糖尿病の治療状況が良好といえる目安は、HbA1cが7.0%以下になっている場合です。糖尿病の患者さんの約半数が、高血圧と脂質異常症(高脂血症)を合併しているといわれています。糖尿病を合併した高血圧の治療はとても重要で、血圧の治療目標値は125/75mmHg以下です。自宅で測定できる血圧針を治療に役立てる方法もあります。この場合使用する測定器は、指先や手首に巻くタイプのものではなく、上腕に巻くタイプのものをお勧めします。脂質異常症の治療目標値は、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が120mg/dl以下です。以上のようなさまざまな基準値を長期間保てば、眼底出血(失明)、腎臓の悪化(透析)、足の潰瘍・壊疽(えそ)による足の切断など、糖尿病に由来する重症の合併症にならなくて済みます。それ以外にも脳梗塞、心筋梗塞などの予防にもつながります。

2016年11月2日水曜日

多焦点眼内レンズによる白内障治療(眼科領域の先進医療)


ゲスト/大橋眼科 大橋 勉 院長

多焦点眼内レンズによる白内障治療について教えてください。
 白内障の治療は、最終的には手術が必要で、濁った水晶体を摘出して人工眼内レンズに入れ替えます。
 日本で使われている眼内レンズの多くは単焦点眼内レンズですが、近く、あるいは遠くの1カ所にしかピントが合わず、メガネを手放せませんでした。それを解消しようと生まれたのが多焦点眼内レンズです。
 多焦点眼内レンズは、1枚のレンズに遠距離、近距離の両方に焦点が合うように設計されています。自由にピントは変えられませんが、近くにも遠くにもメガネなしで焦点が合いやすくなります。ただ、夜間の光をまぶしく感じたり、暗い場所ではくっきり感が落ちたりするなどの弱点もあり、全ての人に適しているわけではありません。
 多焦点眼内レンズは2007年に厚労省に認可され、08年に先進医療として承認されました。先進医療とは、厚生労働大臣が保険適用外の先端的な医療技術と保険診療との併用を、一定の条件を満たした施設のみに認める医療制度です。先進医療施設に認定された医療機関で、多焦点眼内レンズによる白内障治療を受ける場合、術前術後の診察などに保険が適用となります。また、民間の生命保険の先進医療特約の対象ともなり、先進医療に係る費用が全額給付されるケースもあります。
 眼内レンズの度数は、角膜屈折や眼軸長により計算して慎重に選びますが、目の状態によっては誤差が生じることがあり、術後に視力が思うように出ないケースもあります。そのような場合、適切な度数が得られる眼内レンズへの入れ替え手術を行うこともできます。単焦点から多焦点へと、また、多焦点の見え方になじめない時は、単焦点へと入れ替えることも可能です。

眼内レンズで乱視を矯正することはできますか。
 14年5月から、厚労省の認可を受け、乱視矯正機能を持たせた眼内レンズが発売されています。従来の眼内レンズでは矯正不可能であった乱視も、白内障手術と同時に治すことができるようになりました。
 保険外診療となりますが、遠近に加えて中間距離にも焦点の合う三焦点眼内レンズも登場しています。眼内レンズが進化し、白内障手術は患者さんのライフスタイルに合わせた治療の選択ができるようになり、視力の質をより一層重視する新しい時代に入ってきました。

2016年10月26日水曜日

摂食障害


ゲスト/特定医療法人北仁会  いしばし病院畠上 大樹 医師

摂食障害とはどのような病気ですか。
 摂食障害は、若い女性を中心に増加している病気で、「拒食症」と「過食症」の2つのタイプに分けられます。拒食症は、食べることを拒否してしまう病気です。体重増加への強い不安や恐怖心があり、食べ物を受け付けなくなっていきます。一時的に食べても、その後に嘔吐(おうと)して体重の増加を防ぐこともあります。やせている状態を正常と考え、病気であることを認めないケースが多いです。一方、過食症は、食べたいという欲求を自分で抑えることができず、衝動的に大量の食べ物を食べてしまう病気です。過食での体重増加を防ぐために、嘔吐を繰り返したり、下剤を乱用したりすることもあります。
 患者さんの多くは、生まれつき繊細な性格・体質であり、自信が持てない、傷つきやすい、過度に周囲の評価を気にするといった自己愛の強い人格が形成されている傾向があります。そこに、ダイエット、失恋、学業不振、人間関係でのトラブルなどの心理的・社会的ストレスが加わることによって異常な食行動が現れることになります。

摂食障害の治療について教えてください。
 摂食障害の治療では、まず自分を苦しめているのは自分自身ではなく、摂食障害という病気であると認識してもらうことから始まります。そして、自分一人でこの病気と闘うのではなく、回復のためには周りの助けが必要だと思えるようになるのも大切なことです。
 摂食障害になる人は、小さい頃から自分の思いを抑え、周囲の願望の達成を第一に考えていることが多いです。それだけストレスを心の内にため込んでいます。病気の発症は「これまでの生き方はもう無理で、一人では頑張れない」という意味にもとらえられます。カウンセリングや、物事の受け止め方の偏りを気付かせ、修正していく認知行動療法などを通し、この自分自身へのメッセージを素直に受け取れるようにし、拒食・過食・嘔吐している自分を責めず、そのままの自分を認められるように、自信を持てるように「自分らしさ」をつくっていきます。
 摂食障害は、治る病気です。一般的に治療は時間を要することが多いですが、症状は一進一退を繰り返しながら徐々に良くなっていきます。回復への道は決して平坦ではありませんが、あせらず、あきらめず、ゆっくりと進みましょう。

2016年10月19日水曜日

もの忘れ外来


ゲスト/札幌宮の沢脳神経外科病院  松村 茂樹 院長

もの忘れが気になるときは、どの診療科を受診すればいいのですか。
 「最近どうも忘れっぽい。でも何科を受診すればいいのか分からない。ただの老化現象かもしれないし…」。そう悩んだときに受診してほしいのが「もの忘れ外来」です。脳神経外科、精神科・心療内科、神経内科、老年内科で開設している病院やクリニックが増えてきています。
 皆さんがもの忘れを気にするのは、認知症への不安があるからです。「もの忘れ外来」では、問診と簡単な検査を行うことで、もの忘れの原因を判別し、認知症かどうかを診断します。
 まずは問診票などを使い、日ごろの症状を詳しく聞いたうえで、質問形式の認知機能検査(高次脳機能検査)を行います。これらの結果から認知症の疑いの有無を診ますが、これだけで判断するわけではありません。家庭や社会での生活に支障が出ていないかということも、重要な判断基準になります。さらに、脳のMRIやCTによる画像検査、血流や脳波の検査などを行い、ほかの病気にかかっていないかどうかも調べます。認知症のほかに、うつ病や特発性正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫といった脳の病気が、もの忘れの原因になっているケースもあるからです。
 前日の夕飯に何を食べたのか思い出せなかったり、人の名前が出てこなかったりなど、誰にでも、もの忘れはあるものです。ただ、自分自身についてもそうですが、家族の様子で「認知症では?」と心配になる場合は、老化による年相応のもの忘れなのか、認知症なのか、または別の病気なのかを明らかにするためにも早期の「もの忘れ外来」の受診をお勧めします。

認知症について教えてください。
 認知症は、脳の神経の働きが悪くなることで記憶力や判断力が低下し、生活に支障が出る病気です。認知症には、海馬という記憶を司る脳の部位が萎縮する「アルツハイマー病」、脳卒中が原因の「血管性認知症」、幻視や寝言、パーキンソン病のような症状を伴う「レビー小体型認知症」など、いくつかの種類があります。今のところ認知症は根本的に治すことはできませんが、薬などで症状の進行を抑え、生活機能の維持を目指すことが可能です。
 認知症は早い段階で治療を開始する方が、治療効果を期待できることが分かっています。早期の段階で認知症を発見するために「もの忘れ外来」があるといっていいでしょう。

2016年10月12日水曜日

痔核の治療と手術の適応


ゲスト/札幌いしやま病院 碓井 麻美先生

痔核の治療について教えてください。
 痔は、肛門付近で起きる病気の総称です。このうち外来で最も多いのが「痔核」で、いわゆる「いぼ痔」のことです。いぼができる場所によって、「外痔核」と「内痔核」に分類されます。
 肛門の皮膚部分にできる外痔核は、便秘で力んだり、重い物を持ったりして急に腹圧をかけることによって起こることが多く、痛みがあります。入浴で肛門部を温めて血行を良くし、排便の調整や座薬、軟膏などの投薬で、数日で軽快するのが一般的です。特に痛みが強い場合は、簡単な手術で痛みが軽快することもあります。
 一方、肛門の内側の粘膜にできる内痔核は、排便時のいきみなどによって肛門の出口から数センチのところにある柔らかい部分(クッション)が腫れにより本来あるべき位置からずれ落ちた状態です。出血を伴うことが多く、さらに、このクッションが肛門の外まで出てきた状態を「脱肛」といいます。患部に薬を塗るなどの方法で治療しますが、脱肛を繰り返すなど重症化したケースでは、切らずに治す注射療法(ALTA注射療法)や外科手術(当院では肛門形成術)を行うこともあります。

手術の適応について教えてください。
 「病院に行くと、すぐに手術される」などの恐怖心、不安感から受診をためらっている人も多いのではないでしょうか。そんなことはありませんので、安心して診察を受けてもらいたいと思います。痔核は、がんなどと違って悪性の病気ではないので、必ず手術が必要なものではありません。当然ですが、来院される痔核の患者さんすべてに手術を勧めるわけではありません。
 症状が軽い場合は、手術をせずに生活習慣の改善指導と投薬(座薬、軟膏、内服薬)で治療を行い、経過を観察します。初診の方の半数以上は、これらの治療で病状が改善します。薬を数週間使用しても症状の改善が見込めない場合や、痛みや出血などで排便や日常生活に支障をきたしている場合に、初めて注射や手術による治療を検討することになります。
 重要なのは、早期に受診して現在の病状を正確に把握することです。その上で、数ある治療の選択肢の中から、医師とじっくり相談して、患者さん一人ひとりの悩みやライフスタイルにあった最適最善な治療法を見つけることです。

2016年10月5日水曜日

「心療内科」と「精神科」の違い


ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 心療内科 梶 巌

心療内科と精神科の違いは何ですか。
  何か辛いことがあると、お腹が痛んだり、潰瘍ができたりします。頭痛、めまい、立ちくらみも生じます。血圧が上がりもするし、下がりもします。動悸(どうき)や狭心症が悪くなったりもします。このように、身体疾患の中で、病気の発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、そうした面からの治療が必要な病態を「心身症」と呼びます。心身症としての身体疾患を、患者さんの心の痛みや悩みに耳を傾けながら治療を進めていく専門診療科、すなわち、心と身体を同時に、同じ比重で診るのが「心療内科」です。
 一方、「精神科」は、ストレスなどが原因で生じる心の症状、病気を扱う専門診療科です。例えば、強い不安、イライラ、といった神経症や、抑うつ、幻覚、幻聴、妄想などの精神障害の治療を行います。
 ともに心理療法などを駆使しながらも、心療内科は心理社会的因子が絡む身体の病を、精神科は心の病を扱います。もちろん、心身症になったが故に、神経症的に悩むことになるなど、重なる部分も少なくないため、心療内科、精神科のどちらが診るのか迷うケースもあります。

心療内科、精神科の上手なかかり方について教えてください。
 心療内科と精神科の違いは、患者さんはもとより医療関係者でも知らないことが多く、それが今受けている治療に満足できない患者さんを生み出したり、さらなる治療を求めて渡り歩く患者さんを生み出したりする一因になっています。
 現実には心療内科と精神科は、的確に使い分けられてはいません。古くから精神疾患の身体症状を研究してきた精神科医が「精神科・心療内科」を標榜していることが多く、心療内科医が少ないからです。例えば、何らかの身体症状で一般科を受診し、医師から「心療内科へ行きなさい」といわれた患者さんが、それが心身症によるものであっても、心療内科ではなくその殆どが精神科を受診せざるを得ないのが現実です。いくらストレス絡みとはいえ、身体症状すべてを精神科医が診るのは容易ではありません。思ったような医療を受けられないこともあるでしょう。
 心身症は、精神科で扱うことも多いため、心の病気だと思われがちですが、身体の病気です。心身症を扱うのは精神科ではなく、本来は心療内科です。この違いをしっかりと理解した上で、自分が受診するべき医療機関はどちらなのかを区別することが大切です。

2016年9月28日水曜日

たかが便秘?


ゲスト/福住内科クリニック 佐藤 康裕 副院長

便秘について教えてください。
 毎日朝食後に排便できるのが理想的ですが、排便習慣には個人差が大きく、2〜3日に1回の排便でも腹痛や膨満感などの苦痛がなければ便秘とはいいません。
 便秘は「器質性便秘」と「機能性便秘」に大きく分けられます。器質性便秘は大腸がんなどの病気によって腸が狭くなり、便が通過しにくくなるために生じます。「便が細く少量ずつになってきた」「すっきりしなくて残便感が多くなった」など、排便習慣に変化が出てきた時には内視鏡検査を受けて原因を調べる必要があります。
 一方、機能性便秘は腸のぜん動から排出に至る排便機能の低下を原因とし、一般に便秘というとこちらを指すことが多いと思います。女性に多い典型的な便秘では、ぜん動が弱いために大腸の通過が遅くなり、便が長く大腸にとどまるため水分が過剰に吸収されて硬くなり、排出も困難になるという悪循環が生じます。また、食物繊維不足や運動不足、ストレス、咳止めなどの薬、糖尿病などの持病も便秘を悪化させる原因になり得ます。治療はまず規則正しい生活、適度な運動、水分や食物繊維の摂取が大切です。食物繊維の摂取が特に強調されることが多いですが、実はこれで便秘が改善するのは一部の患者さんのみです。

下剤の使い方について教えてください。
 生活習慣で改善しない場合には下剤が投与されます。下剤は「刺激性下剤」と「非刺激性下剤」に大きく分けられます。刺激性下剤は大腸のぜん動を促すことで作用し、即効性がありすっきりさせる効果は高いのですが、耐性・習慣性があります。つまり、続けて服用していると下剤なしでは排便できなくなり、毎日服用しているうちに次第に効果がなくなってどんどん増量せざるを得なくなっていきます。市販薬の多くは刺激性下剤が主成分なので連用は望ましくありません。
 一方、非刺激性下剤は主に便を軟らかくすることで排便を促します。耐性が生じることはなく、毎日服用しても問題のない薬であるため、なるべく非刺激性下剤で排便を調整していくのが望ましい治療法です。安価で安全性の高い薬である「酸化マグネシウム」を処方するケースが多いです。また、最も新しい便秘薬である「ルビプロストン」も有用です。たかが便秘とあなどらないで、症状が続いている方は医療機関で検査や治療を受けることをお勧めします。

2016年9月21日水曜日

脳神経外科で診るめまい


ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長

めまいについて教えてください。
 脳神経外科の外来では、めまいを訴えて受診される患者さんが多くいらっしゃいます。初めて経験するめまいは、患者さんにとっては大変恐ろしく感じられるものです。「天井がぐるぐる回った」「後ろに倒れそうになった」「立ち上がったら目の前が暗くなった」といった症状がみられますが、多様な病気の原因が考えられます。
 頻度が高いものは、内耳障害によるめまいですが、脳の障害によって起こる“怖いめまい”との鑑別が重要です。症状の強さだけで判断することは禁物で、めまいとともに言葉のもつれや手足の脱力・しびれが出ているようであれば、脳の障害が疑われます。脳の障害によるめまいは極力早く診断し、治療に入る必要がありますが、その際にはMRIによる画像診断が有用です。

高齢者のめまいについて教えてください。
 高齢者は、加齢に伴う平衡感覚の衰えや血圧を調整する能力の衰えなどがあり、めまいを起こしやすいです。糖尿病や高血圧などの持病を抱えている人は、飲んでいる薬が多いため、その副作用などでめまいを起こすこともあります。もともと耳鳴りがあったり、以前から難聴があったりするケースも少なくありません。このような状況の下にめまいが起こっても、必ずしも内耳に障害があるとはいえず、高齢者のめまいは原因を明らかにできない場合もあります。
 「起立性低血圧」とは、座った状態から立ち上がる時に血圧が急激に低下する病態をいいます。若い人は起立性低血圧により、顔が青ざめ冷や汗が出るなどし、失神してしまうケースもあります。高齢者では若い人のような激しい反応は起こりにくいとされていますが、一方で、加齢のため血圧が少し下がっただけでもめまいを起こしやすくなっているため、やはり立ち上がる際には注意が必要です。
 暑い時期は汗をかきやすいため、脱水からめまいを起こすこともあります。特に高齢者はのどの渇きを感じにくいので、脱水が生じやすいです。夜間にトイレに行くのを減らそうと水分補給を控えてしまうと脱水を起こしやすくなってしまうので、入浴前後や就寝前にはコップ1杯の水を飲むようにしましょう。
 漢方薬がめまいの症状に有効なことも多いです。めまいの症状でお悩みの方は、ぜひ医療機関にご相談ください。

2016年9月14日水曜日

インターネット依存症


ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院  太田 健介 院長

インターネット依存とはどのような病気ですか。
 インターネット依存(ネット依存)とは、オンラインゲームなど、スマートフォンやSNS、動画閲覧を中心にインターネットのサービスを長時間使い続け、なかなかやめられず、健康や生活に支障が出ている状態のことをいいます。ネット依存の疑いがある成人は国内で約421万人、また、中高生は約52万人に上るといわれ、年々増加傾向にあります。
 ネット依存は、常にネットのことが頭から離れない状態になり、「少しだけ」と思ってネットにアクセスしても、その時間が守れず、使用時間が長時間化します。使用出来ないと易怒的になり、感情を爆発させたり、他のことへの意欲をなくしたりするケースもあります。その結果、昼夜逆転などによる不登校や欠勤、成績低下のほか、睡眠障害やうつ状態を呈するなど精神面でのトラブルや、頭痛や肥満、視力の低下といった身体的な症状を引き起こしたりします。
 ネット依存は短期で至り、また依存期間が長いほど回復しにくくなるため、特に子どものネット依存には注意が必要です。不登校やネット依存の疑いで外来を訪れる子どもの特徴として、その背景に両親の不仲や離婚・放任など家庭にも問題があるケースも目立ちます。

インターネット依存の治療について教えてください。
 先ず発症予防が大切です。インターネット、スマホの使用開始年齢をなるべく遅らせること、使用開始時には使用時間や使用場所などルールを決め、ペアレンタルロックをしっかりかけること。ネット依存について勉強することが役に立つと思います。
 現代社会でネットの使用を完全に絶つのは難しいので、ネット依存に関しては使用の軽減が治療目標となります。まず、ネット依存という病気について正しく知ることが治療の第一歩です。ネットのために自分が何を犠牲にしているのかを理解してもらい、本人の「このままではいけない」「変わりたい」という気持ちを引き出すことが必要です。家族のケアも大切です。特に、子どものネット依存では、家族をはじめ周囲の人が、本人と一緒に考えて、乗り越えていく手助けをしてあげる必要があります。その上で、2週間ネット使用を休む、時間場所を制限するなどの対応方法を決めます。ただし、依存症が重度になる程、問題の自覚がなく、治療の意思がないことも多いのです。その場合は、親などの支援が重要となります。
 ネット依存に限らず、内観療法という認知療法が行われることもあります。これにより、自分のことを客観的に見られるようになり、親や周囲の責任だと思っていたことを、自分の問題として捉え、前向きに行動できるようになります。

2016年9月7日水曜日

「禁煙外来」のすすめ


ゲスト/つちだ消化器循環器内科 土田 敏之 院長

タバコが主な原因とされる病気について教えてください。
 タバコを長年吸っていると、咳や痰が出やすくなる・止まらなくなる、体を動かすと息切れがするなどの症状が出てきます。重症になると息苦しさなどで日常生活にも支障をきたすようになり、最後は慢性呼吸不全と診断され、呼吸器だけでなく心臓や消化器など全身に症状があらわれるなど、生命の危険にもつながる病気を引き起こします。
 これらは「慢性閉塞性疾患(COPD)」と呼ばれる、肺への空気の流れが悪くなりうまく息が吐き出せなくなる病気です。以前は「慢性肺気腫」と呼ばれていました。タバコ以外にも大気汚染や粉じんなどが原因となることもありますが、現在は90%以上が喫煙によるものと考えられています。タバコなどの有害な物質を吸い込み肺に炎症が起こった状態が続くことで、痰が増えて気管支が狭くなったり、肺胞が壊れたりして呼吸をすることが難しくなっていきます。
 一度壊れた肺胞は二度と元には戻りません。呼吸機能が低下して重症になる前に、できるだけ早く正しい診断を受け治療を開始することが必要です。

禁煙のメリットについて教えてください。
 慢性閉塞性疾患の治療は、狭くなった気道を広げて呼吸を楽にする気管支拡張薬が基本となりますが、これだけでは病気の進行は止められませんので、禁煙が必要となります。禁煙のメリットは、肺を病気から守るだけでなく、味覚・嗅覚が鋭敏になる(食事が美味しく感じられる)、冷え性が改善される、骨が強くなる、血圧への悪い影響が減少する、免疫機能が正常になる、がん・脳卒中・心臓病にかかるリスクが減るなど多岐にわたります。
 タバコを吸っていると皮膚のハリがなくなり、目尻・口まわりなどのシワが増え実際の年齢よりも老けて見えることがあります。このような喫煙者に特有の顔を「スモーカーズ・フェイス」といい、ほかにも歯や歯茎の着色、唇の乾燥、口臭なども伴います。タバコは健康に害があるだけでなく、美容的にも悪影響であることは明らかです。副流煙を含め他人のタバコの煙を吸う受動喫煙の研究も進み、問題点が広く意識されるようになりました。自分と周囲の大切な人たちのためにも、症状のあるなしにかかわらず、一度、禁煙外来を訪れてみてください。

2016年8月24日水曜日

好酸球性肺炎


ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長

好酸球性肺炎とはどのような病気ですか。
 肺炎は文字通り肺が炎症を起こした状態を指します。日本人の病気による死因の第1位はがんですが、肺炎が3位であり油断できない病気です。一般的な肺炎は細菌やウイルスなどの病原体が、肺の奥にある小さな袋状の部分(肺胞)に感染して引き起こされる炎症です。原因となる病原体や、感染にいたった環境によっていくつかの種類に分けられ、症状や治療法もその種類によって異なります。好酸球性肺炎は、白血球の中の成分であり、アレルギーと関わりが深い好酸球によって引き起こされる特殊な肺炎です。タバコ、薬剤やある種のカビに対するアレルギー反応として発症したり、ぜんそく患者さんに併発したりすることがあります。
 症状は、細菌による一般的な肺炎とほぼ同様で数日から1〜2週間でせきや発熱、だるさなどが生じます。ぜんそくも悪化し、ヒューヒュー、ゼーゼーした音が生じることもあります。好酸球性肺炎は細菌によるものではないため抗生物質(抗菌薬)は効きません。せきや呼吸困難で病院を受診し、胸部X線検査や血液検査などで肺炎と診断され、抗生物質による治療でもよくならないため呼吸器の専門医に紹介されてくることがしばしばあります。

好酸球性肺炎の診断と治療について教えてください。
 検査では、胸部X線写真で肺炎像が確認されますが、一般的な肺炎とほとんど区別がつきません。胸部CTによる画像診断、血液検査や喀痰(かくたん)検査による好酸球の測定も行いますが、それでも確定診断にいたらない場合もあり、気管支鏡を用いて肺の中を洗浄して好酸球が増えているのを確認したり、肺の組織の一部を取る検査が必要になることがあります。このように、好酸球性肺炎は診断が難しい病気の一つです。
 治療は、原因物質が特定できる場合は、それらを除去・回避することによって自然に軽快します。原因物質が不明な場合にはステロイド薬による治療を行います。ただし細菌性の肺炎に対しては、ステロイド薬はかえって病状が悪化する可能性があるので、肺炎の鑑別による治療薬の選択が非常に重要です。ステロイドは一般的によく効きますが、薬の量を減らしていく過程で再発することもあり、数カ月間から数年間にわたるステロイド療法が必要となる場合もあります。

2016年8月17日水曜日

リウマチ治療〜『賢い患者』になるために〜


ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 院長

的確な治療を受けるために、上手な診察の受け方はありますか。
 リウマチの診断・治療は目覚ましい進歩を遂げています。特に関節リウマチの炎症や痛み、腫れ、関節破壊を引き起こす原因となる物質を抑える生物学的製剤が登場し、治療の目標は「寛解(症状が落ち着いて安定した状態)」を目指せるようになりました。現在では、患者さんが医師とともに目標をもって治療を進める「T2T(treat to target)」の時代となっています。ただそれでもリウマチの療養生活は長期戦です。患者さん自身もリウマチという病気とその治療法を理解して根気よく付き合い、「賢い患者」となり医療機関を上手に活用していかなければなりません。ここではリウマチ専門医としての立場から、賢い患者になるためのヒントを紹介します。
 受診する時は医師任せではなく、自分から症状を話し、どうしたいかを伝えることが重要です。医師に伝えたいことは事前にメモし、準備しておきましょう。“いつから”“どこが”“どのように”と症状や病状の変化を伝えるほか、治療中の病気など既往歴、おくすり手帳の服用履歴、健康診断の結果、不安や心配なこと、お願いしたいことなども患者さんから伝える大事な情報です。
 医師の説明が分からない時は、納得するまで質問することです。特に、検査や治療の“目的”“方法”“効果”“見通し”など大事な説明は、聞き間違いなどを防ぐために、メモを取りながら聞きましょう。医師に直接言いにくいことは、看護師に相談するのも手です。
 近年、患者さんから選ばれる病院を目指し、接遇力向上に力を入れる病院も増えています。私自身、知識や技術、経験だけでなく、不安を抱えている患者さんに寄り添う姿勢を忘れずに、一生のお付き合いができる関係づくりを大切にしています。患者さんも医師も人間同士。波長が合わない時もあるかもしれませんが、お互いが気持ちを通じ合わせる努力をすることも必要です。病気を治す目標に向けて二人三脚で歩む意欲を持ち、コミュニケーションを重ねていくことが、相互理解を深め信頼関係を強めるのです。
 一人で悩まないでだれかに相談することも大切です。不安や悩みを分かち合い、支え合うことのできる患者会やサポートグループへの参加はとても有意義です。患者さんやご家族の立場に沿った情報も得られ、病気に対する意識が高まり治療にも役立ちます。

2016年8月10日水曜日

甲状腺の病気


ゲスト/やまうち内科クリニック 山内 雅夫 院長

甲状腺の病気について教えてください。
 甲状腺は、首の前面、喉仏の下にあるチョウのような形の臓器です。甲状腺の最も重要な働きは、海藻などの食べ物に含まれるヨードを原料に、甲状腺ホルモンをつくることです。甲状腺ホルモンは、人間の身体の基礎代謝の維持に必要なだけでなく、体の発育にも関係する大切なホルモンの一つで、子どもの成長促進にも欠かせません。
 甲状腺の病気は、大きくは三つのタイプに分けられます。一つは甲状腺の機能が異常に高くなり、ホルモンの分泌が過剰になる甲状腺機能亢進(こうしん)症で、よく知られたバセドー病が大半です。これとは逆に、炎症が起きて機能が低下する病気もあり、代表的なものが橋本病(慢性甲状腺炎)です。三つめは甲状腺の腫瘍で、良性と悪性(がん)のものがあります。
 甲状腺の病気の多くは自己免疫疾患で、本来はウイルスなどの異物を撃退するための免疫系に何らかの異常が生じ、自分の体の組織の一部を抗原として認識してしまうために起きます。基本的には誰にでも起こりえる病気ですが、女性に多く、また、遺伝的な要因が大きく関係するとされています。

甲状腺の病気の検査、治療について教えてください。
 甲状腺ホルモンの分泌が多ければバセドー病の疑いが強まり、逆に少なければ、橋本病による甲状腺機能低下の可能性が高まります。甲状腺ホルモンやある種の抗体などを調べる血液検査、超音波検査やエックス線検査などを組み合わせて、正確な診断が可能になります。一方、腫瘍の診断は、触診、超音波検査、細胞診が三本柱です。
 バセドー病の治療は、抗甲状腺薬の服用が中心となりますが、手術や放射性ヨードの投与による方法もあります。橋本病には、甲状腺ホルモンの補充療法を行います。甲状腺腫瘍は、悪性の場合は進行度に応じた手術を選択します。良性の場合、基本的には経過観察を行いますが、腫瘍が大きい、圧迫などの症状がある、がんが否定しきれないなどのケースでは手術を行うこともあります。
 自覚症状がないことも多く、また症状が出てもほかの病気と間違われやすい甲状腺の病気ですが、早期に診断を確定して適切な治療を受ければ、健康な人と変わらない生活が送れます。家族に甲状腺の病気の方がいる場合は、症状がなくても定期検診をお勧めします。

2016年8月3日水曜日

働く人の心の健康


ゲスト/医療法人社団五稜会病院  中島 公博 理事長

ストレスチェック制度が始まり、働く人の心の健康づくりが求められています。働く人の心の健康の現状はどのようなものでしょうか。
 悲しいことですが、自殺者数が減った現在でも、毎日18.6人のサラリーマンが自ら命を絶っており、その多くに「うつ」があるといわれています。心の健康問題は、長期休職の理由として最も多くなっています。仕事を続けている状態でも、本来の能力を発揮できなくなっており、こうした生産性の低下による経済損失は、自死や休職による損失を大きく上回ると推定されています。また、平成27年は心の健康問題による労災申請が過去最多となりましたが、時間外労働時間別に労災が認められた件数を見ると20時間未満が最多となっていました。働く人の健康を守る上で時間外労働の削減は重要課題ですが、心の健康を守るためには、それだけでは十分ではないといえます。昨年12月から義務化されたストレスチェック制度は、働く人ひとりひとりが自分のストレスの状態を把握し、希望すれば医師に相談をする機会を得ることができます。また、会社は職場のストレスについて把握し、必要性や有効性を検討した上で対策を行うことができるようになります。働く人の心の健康を守るだけでなく、失われている生産性の回復につながるため、ストレスチェック制度は働く人と企業の双方に利益があると思います。

心の健康づくりのためにできることを教えてください。
 まず、心の健康も「つくれる」「予防できる」という認識を持つことが大切です。個人で取り組めることとしては、まずは健康的な生活を心がけることです。メンタルヘルス不調の多くは脳の機能不全が見られます。脳は身体の臓器の一つです。食事や運動、睡眠など一般的にいわれる健康習慣は、心の健康づくりでも基本です。その上で、ストレスチェックで自分の心の状態を確認し、ストレスが強い時には、迷わず専門家に相談すると予防につながります。医師以外でも、会社に保健師がいる場合やカウンセリング窓口がある場合は、そこに相談するのもよいと思います。会社としては、ストレスチェックの結果を踏まえ、心の健康づくりに計画的に取り組む必要があります。ただ、ストレスチェックの結果を活用するためには、専門的な知識が必要です。会社もうまく専門家を利用することが大切だと思います。

2016年7月27日水曜日

「顎(がく)関節症」


ゲスト/つちだ矯正歯科クリニック 土田 康人 院長

顎関節症とはどのような病気ですか。
  顎の関節は、耳のすぐ前に人さし指と中指を当てて、口を開閉した時に動く部分です。顎関節症とは、口を十分に大きく開閉できなくなったり、口を開閉する時にカクカク(またはシャリシャリ)と音がしたり、下顎が左右にずれてガクガクしたりする状態をいいます。食事が困難になり、日常生活に影響が出るほどの症状に苦しむ患者さんもいます。顎を動かした時の症状が大半ですが、頭痛や耳鳴り、肩凝りなどの諸症状を伴う場合もあります。
 原因としては、精神的ストレスや歯ぎしり、歯をかみしめる癖などさまざまで、それらが積み重なって許容限度を超えた時に起こると考えられています。仕事上の問題など悩み事を解決したら治った、学生が受験を終えたら治ったという例もあります。顎の骨の形や大きさの異常、位置バランスの崩れが原因で起こる顎変形症の症状─反対咬(こう)合(受け口)、上顎前突(出っ歯)、開咬(奥歯はかんでいるが前歯は開いている状態)など、かみ合わせの悪さ(不正咬合)も顎関節症になりやすい要因の一つです。

顎関節症の治療について教えてください。
 症状の程度によって異なりますが、スプリントと呼ばれるマウスピースのようなものを歯にかぶせる治療が一般的です。スプリントを使い、下顎を適切な位置(やや下顎を前方に出した位置)で安定させ、その位置できれいなかみ合わせをつくります。
 続いて、矯正治療をスタートさせます。矯正治療によりかみ合わせを安定させておかないと、スプリントをはずした時に、下顎が元の悪い位置に戻ってしまう可能性があるからです。歯並びを矯正したり、かみ合わせや顎のずれを修復したり、場合によっては、口腔内の金属冠を作り替えたりし、かみ合わせが安定するようにします。
 顎関節症は中・高校生から成人にみられることが多く、小学生以下の子どもに発症するケースは少ないです。しかし、子どものうちの悪いかみ合わせや歯並びを放置してしまうと、大人になってから顎関節への悪影響が出る危険性があります。小児期に歯並び、かみ合わせの治療を行うことでこれらの心配を予防することができます。顎関節の診断や治療は専門医の受診が必要です。少しでも不安を感じたら、矯正の専門医にご相談ください。

2016年7月20日水曜日

加齢黄斑変性


ゲスト/ふじた眼科クリニック 藤田 南都也 院長

加齢黄斑変性とはどのような病気ですか。 
 年を重ねるとともに眼球の奥にある網膜の中心部「黄斑」に障害が生じる病気です。欧米では中途失明原因のトップであり、日本では50歳以上の約1%がこの病気になり、総患者数は70万人弱と推定されています。
 加齢黄斑変性には、「滲出(しんしゅつ)型」と「萎縮型」の2種類があり、日本人の加齢黄斑変性の約9割が滲出型です。健康な状態では存在しない新生血管と呼ばれる異常な血管が黄斑部の脈絡膜(みゃくらくまく)から発生し網膜側に伸びてくるタイプで、新生血管の血管壁は大変もろいために、血液が黄斑組織内に漏れ出し、黄斑機能を障害します。症状は、物を見るときに<中心がゆがむ><ぼやける><暗い>などさまざまですが、最初は片方の眼に起きて程度も軽いために、患者さん本人は年のせいとして見過ごしていることも少なくありません。滲出型は急速に進行し視力に障害を起こします。見たいところが見えず、読みたい文字が読めないというとても不便な状態になり、放置すると失明の恐れがあります。

診断と治療について教えてください。
 近年診断技術が飛躍的に進歩し、従来の造影剤を使った深い部分の血管の状態を見ることができる「蛍光眼底造影」に加え、患部の3D画像や眼球の断面図を鮮明に見られるOCT(光干渉断層計)を使った「網膜断層検査」などが行われます。これらにより進行の早い滲出型でも小さな新生血管を早期に発見し、効果的な治療につなげることができます。
 最近まで治療方法のない病気でしたが、治療も目覚ましい進歩を続け一時主流だった、新生血管をレーザー光で焼き固める「レーザー光凝固術」に加え、より正常な周囲の組織にもダメージを与える可能性の少ない、「抗VEGF療法」という新生血管の発育を抑える薬を、眼に直接注射する方法が最近実施されるようになりました。継続的な治療が必要ですが、視力の維持のみならず、視力の回復の可能性も高く、現在極めて有力な治療法になっています。
 予防の観点からは、亜鉛や抗酸化ビタミン、ホウレンソウやケールに含まれているルテインなどを摂取すると加齢黄斑変性の発病率が低くなることが分かっています。体に必要な栄養素は毎日の食事で補うのが基本ですが、それで足りない分はサプリメントを活用するのも手でしょう。加齢黄斑変性の予防や、発症後ごく初期の段階の人や一方の眼に発症した人には、サプリメントの内服が有力な手段です。

2016年7月13日水曜日

虚血性大腸炎


ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

虚血性大腸炎とはどのような病気ですか。
 虚血性大腸炎とは、大腸への血液の流れが悪くなり、循環障害が起こることで生じる病気です。高齢者に多いといわれていますが、若年者にも起こります。男女差はありません。高血圧、糖尿病など動脈硬化を進展させる疾患が危険因子ですが、便秘やストレスが関係することもあります。
 典型的な症状は、突然の強い腹痛(主に左下腹部)で始まり、冷や汗、悪心、嘔吐などの症状を伴うこともあります。その後、数回の下痢が続き、徐々に血性の下痢になっていきます。
 似たような症状の病気も多いですが、血液検査に加え、大腸バリウム検査・内視鏡検査により特徴的な所見が得られます。最も診断に有効なのは内視鏡検査で、主にS状結腸から下行(かこう)結腸の部分に、粘膜のむくみ、発赤、ただれ、潰瘍といった病変が見つけられます。
 病状の推移により、一過性型(約65%)、狭窄型(約25%)、壊疽型(約10%)に分類されます。一過性型とは、一時的なもので安静や点滴などで完治する例。狭窄型とは、潰瘍が治る過程で腸が狭くなり、便の通過が悪くなる例。壊疽型とは、大腸への血流が回復せず、腸管が壊死を起こす稀なタイプです。壊疽型は死亡率が約50%と重篤な病態ですが、病気の大半を占める一過性型や狭窄型は生命の危険が少なく、再発も比較的少ないといわれています。

虚血性大腸炎の治療について教えてください。
 一過性型と狭窄型は、保存的治療が原則です。炎症の程度にもよりますが、腸管の安静のために絶食し、補液や抗生物質の投与を行います。一過性型は、約1〜2週間程度の治療で軽快しますが、狭窄型の場合、腹痛や下痢などの症状が続くときには外科的手術を行うこともあります。壊疽型では症状が急速に進行し、腹膜炎の併発など生命に危険があるため、早急な外科的手術が必要です。
 治癒した後に注意する点は、高血圧、糖尿病などを合併している方は、治療を継続するとともに、血流が悪くならないように普段から水分を多めに摂取したり、適度な運動を心掛けたりする必要があります。また、便秘が引き金になったと考えられる方は、排便のコントロールに取り組むこと、ストレスが誘引になったと考えられる方は、極力ストレスを減らし、ゆったりとした生活を送ることが重要です。

2016年7月6日水曜日

成人における自閉スペクトラム症(ASD)


ゲスト/医療法人五風会 福住メンタルクリニック 菊地 真由美 医師

自閉スペクトラム症とはどのような病気ですか。
 この頃、「発達障害」という言葉を新聞などでよく目にするようになってきたのではないかと思います。「自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)」も、この発達障害の中の一つのカテゴリーです。
 かつて「自閉症」は、稀(まれ)にしかみられない重い障害で、中等度から重度の知的障害を伴うことが多いと考えられていました。ところが近年、自閉症をもっと幅広く捉えようとする考え方が専門家の間で広がり、それに伴い名称も自閉スペクトラム症(ASD)と改められました。これは従来の自閉症、「アスペルガー障害」、「広汎性発達障害」などを含んだ総称です。このような流れの中で、知的障害を伴わないアスペルガー障害や高機能自閉症が、これまで考えられていたよりもはるかに多いのではないかと推定されています。典型的な自閉症であれば、子どもの頃に周囲から気付かれるものですが、非典型的な場合は周囲も気付かず、成人になって初めて、その“生きにくさ”や“つまずき”を本人が自覚し、医療機関を受診するというケースもあります。
 ASDの症状の特徴は大きく2つあります。一つは<コミュニケーションに問題を抱えること>、もう一つは<こだわりの強さ>です。コミュニケーションの問題とは、暗黙裡(り)に存在する他者の意図や感情が正しく理解できず、冗談や皮肉を真に受けたり、発言が一方的過ぎたり、また、臨機応変な対人関係が苦手、ジェスチャーや視線を使ったコミュニケーションが不得手という人も多いです。こだわりの強さとは、自分の関心やペース、やり方を最優先させたいという志向のことで、これを乱されると感情的になり、パニックを起こす人もいます。特定の物事やマーク、天気図、地図、電話帳などに偏りのある興味を示したり、手順や配置、ルールに頑(かたく)なにこだわったりするのも特徴的な症状です。感覚の異常が見られる事もあります。

自閉スペクトラム症の治療について教えてください。
 ASDそのものに効果のある薬物治療は今のところありません。ただし、併発している二次的な精神症状には、場合によって薬物治療が行われることもあります。
 ASDとひとくちにいっても、その年齢や社会性、行動特質などにより障害はさまざまな程度に及ぶため、総合的なアプローチが必要です。障害の程度が強ければ、例えば、障害者手帳の取得や障害者枠での雇用など福祉的支援を活用することも選択肢に入ってきます。そこまで程度が強くなければ、まずは自分の特性をよく理解し、周囲に理解者、支援者を作っていくことが重要になります。
 ASDの症状にみられるような特性を持つ人は、健常者の中にも相当数存在すると考えられています。ただし、そのような特徴もしくは傾向があっても、それだけで障害があるとはいえません。生きていく上で、程度の差はあれ“つまずき”は誰しもが経験するものです。そこで安易に“障害”に逃げることなく、自分の特性と上手に付き合っていくことも大切なのではないかと思います。

2016年6月22日水曜日

裂肛(れっこう)


ゲスト/札幌いしやまクリニック 西尾 昭彦 院長

裂肛とはどのような病気ですか。
 痔とは、肛門およびその周辺に起こる病気の総称です。肛門疾患で多いのは、痔核(じかく)、裂肛、痔瘻(じろう)の3つで、外来の約8割を占めます。痔核はイボ痔、裂肛は切れ痔、痔瘻はあな痔とも呼ばれます。
 便秘気味の若い女性に多くみられるのが、肛門内側の皮膚(肛門上皮)が切れる裂肛です。痔の中でも痛い病気の代表です。症状は排便時の痛みが主で、出血はないか、あっても少量です。一度裂けた傷は排便の度に延ばされるため治りにくく、痛みが続くようになります。痛みが嫌で排便を避けるようになると、便がますます硬くなり、症状を悪化させるという悪循環が生じます。
 繰り返し切れて慢性化すると、傷が深くえぐれて潰瘍化していきます。炎症性の肛門ポリープと呼ばれる突起物ができたり、傷の縁の皮膚が盛り上がって肛門が狭くなったりして、排便時の苦痛が増します。トイレの中で気が遠くなるという患者さんもいるほどです。

裂肛の治療について教えてください。
 裂肛の治療は、便を軟らかくして排便を楽にする内服薬や、排便時の痛みを抑えるための塗り薬、肛門に注入する座剤、軟こうなどの外用薬が中心です。
 傷の治療を行いながら、生活習慣を改善して便通を整えることも裂肛治療では大切です。朝食をきちんと取る、水分や食物繊維を十分に取る、便意を我慢しない、適度な運動をするなど、便秘を防ぎ、硬過ぎず軟らか過ぎない“質の良い便”を出す生活を心掛けてください。
 傷が深い、肛門が狭いなどの慢性化した裂肛になると、薬などの保存治療では治らず、外科治療が必要になります。肛門周囲の痛みだけが取れる硬膜外麻酔をして、硬く狭くなった肛門の括約筋を正常な状態になるまでマッサージをして引き延ばす治療です。マッサージの時間は10秒程度で、入院の必要もなく、翌日の排便から痛みがなくなるケースがほとんどです。
 さらに重症例になると、2~3日入院してマッサージに加えて潰瘍やポリープの切除が必要な場合もあります。
 恥ずかしさから受診をためらわれている方も多いようですが、切らずにすむ治療により、痛みのない快適な生活を取り戻せることが多いことを知ってほしいと思います。

2016年6月15日水曜日

かかりつけ歯科医


ゲスト/医療法人社団アスクトース 石丸歯科診療所 近藤 誉一郎院長

「かかりつけ歯科医」を持つ意義は何ですか。
 かかりつけ歯科医とは、従来からの治療の経緯を踏まえ、予防から治療、管理、メンテナンスまで幅広く対応してくれる歯医者さん、より専門的な検査や特殊な治療が必要な時、別の診療科など適切な医療機関を紹介してくれる歯医者さんを意味します。
 毎回異なる歯科医に受診するのではなく、同じ歯科医を定期的に受診すれば、口の中の小さな変化にも気付いてもらえるので、虫歯や歯周病などの早期発見・治療が可能になります。また、患者さんの症状や治療の経過、生活背景、持病などを把握できるので、より的確な診療に結び付けられます。
 近年の歯科医療では、口腔(こうくう)内を健康に保つための予防医療が重視され、患者さんと歯科医とがじっくりと時間をかけて話し合い、適切なケアや治療法を模索していくことが多くなりました。そういった点からも、長期にわたって患者さんに寄り添ってくれるかかりつけ歯科医を持つことが重要です。高齢化社会の進展に伴い、訪問歯科診療・口腔ケアのニーズも急速に高まっています。これまで以上に個人の経緯を踏まえた歯科医療の対応が必要となり、かかりつけ歯科医の果たす役割はますます大きくなっていくと思われます。

「かかりつけ歯科医」を選ぶポイントを教えてください。
 かかりつけ歯科医に特別な資格はありません。患者さんと歯科医とのコミュニケーションの中から自然に生まれる信頼関係です。しばらく通院してみないと相性が良いと感じられるかどうかは分かりにくく、かかりつけ歯科医を探すというのは、そう簡単なことではないかもしれません。
 ポイントとしては、近くにある“かかりやすさ”、患者さんからの質問に快く応じてくれるかなど“相談しやすさ”が挙げられます。周囲の評判なども参考にしながら、院内の雰囲気や先生の人柄を知るために、初めの数回は相談だけで通ってみるのも手です。治療方針や治療計画の説明をしっかりと聞き、今後、長年にわたって付き合っていけるのかをよく考え、納得した上で治療を受けることをお勧めします。歯科医と良好な関係を築くためには、患者さんも予約の時間には遅れないなど最低限のルールを守り、歯科医と一緒になって口腔内の健康を守っていこうという気持ち、意欲を持つことも大切です。

2016年6月8日水曜日

アルツハイマー病


ゲスト/医療法人社団 正心会 岡本病院 山中 啓義 副院長

アルツハイマー病とはどのような病気ですか。
 認知症の呼称について、日本認知症学会ではアルツハイマー型認知症を総称して「アルツハイマー病(AD)」として用いることが多いです。認知症の中でもADの割合は多く、近年、さらに増加傾向にあることが知られています。
 現在、日本の認知症患者はすでに453万人、軽度認知障害の方でも400万人を超え、65歳以上の高齢者の30%を占めています。世界では、現在3560万人が認知症に罹患(りかん)し、2050年には1億1540万人になると予想されています。
 わが国でのAD増加の背景には、生活習慣を含む環境的要因が関与している可能性が考えられます。危険因子として、疾患感受性遺伝子、ダウン症候群、食生活、高血圧、糖尿病、アルコールとの関連が示唆されています。
 家族が気付く初期症状は、すぐに忘れる、同じ事を何回も言ったり聞いたりする、置き忘れやしまい忘れ、人や物の名前が出てこない、漢字が書けないなど記憶障害に基づく症状が多いです。また、日付が分からなくなったり、道に迷ったりする時間や場所の見当識障害や、以前はあった興味・関心が薄れたり、だらしなくなる、些細な事で怒りっぽくなる、疑い深くなるなどの性格変化、「財布や通帳が盗まれた」などの被害妄想が生じることもあります。この時点では、うつ病と軽度認知障害の鑑別が重要となるケースもあります。
 症状は1年〜数年単位で進行し、①記憶障害 ②実行機能障害(段取りができない) ③換語障害(物の名前が出てこない)④失行(服の着方や道具の使い方が分からない) ⑤失認(品物を見ても何か分からない)が徐々に顕著になっていきます。最終的には、着衣、食事、トイレ、入浴などのセルフケア能力や、立つ、座る、歩くなどの基本的動作能力さえも喪失してしまう場合があります。

診断と治療について教えてください。
 認知症とは一度獲得された知的能力が脳の病気のために失われ、社会生活や日常生活に支障を来した状態です。そのため、診断には詳細な症状・生活歴などの問診に加えて、脳画像検査、採血検査、認知機能検査などの総合的評価が必要となります。
 ADの治療には精神的ケアと薬物療法があります。前者にはデイケアを利用した在宅介助があり、運動療法、レクリエーションなどの有効性が報告されています。後者は、現在4剤が治療薬として保険適用となっています。しかし、いずれの抗認知症薬にもメリットとデメリットがあり、使用の可否や薬剤の選択は専門医のもとで相談することが望ましいです。
 ADの長期介護に対する対応は介護者にも大きな肉体的・精神的負担を強いるため、負担の分担や精神的サポートなどの支援も重要です。介護保険、成年後見制度、かかりつけ医、ケアマネージャー、公的支援制度、老人介護施設やグループホーム、家族会、支援組織などに関する情報入手や利用も、必要に応じて積極的に行っていくべきです。

2016年6月1日水曜日

虫刺され


ゲスト/宮の森スキンケア診療室 上林 淑人 院長

虫刺されについて教えてください
 ハイキングやキャンプなど屋外で活動する機会の多くなる季節です。自然に足を踏み入れる際、気を付けなければならないのは虫刺されです。刺されるとかゆみや痛みに悩まされるだけでなく、ときには命に関わる感染症にかかることもあります。
 蚊やブユは代表的な吸血性昆虫ですが、ヌカカをご存知の方は意外と少ないのではないでしょうか。ヌカカは、体長1〜2ミリと非常に小さい吸血性昆虫です。小さいゆえに無警戒になりがちですが、一度に複数の箇所を刺され、後になって小さな腫れがあちこちにできていることに気付くケースが多いです。かゆみが強く、特にアレルギー体質の人は、赤く腫れて熱を持ち、腕や脚がむくむこともあります。
 春から夏はマダニの活動も活発になる時期です。マダニが怖いのは、いくつかの感染症を媒介することです。日本紅斑熱、ライム病のほか、致死率が高いのは重症熱性血小板減少症候群です。西日本中心に死亡例が報告されています。しかしながら北海道でも原因となるウイルスを持ったマダニが確認されており注意が必要です。予防ワクチンも治療薬もないので、まずはかまれないように気を付けましょう。
 5〜6月はチャドクガの幼虫にも注意が必要です。刺されると赤いブツブツができて、かゆみも強いです。毛虫そのものに接触しなくても、風に乗って飛んできた微細な毒針毛に触れただけでも発症します。このため、毛虫が原因と気付かないことも多いです。

虫刺されの予防策とケア、治療について教えてください。
 まず服装に気を付けてください。長袖を着る、ズボンの裾を靴下で覆うなど、できるだけ肌を露出しない工夫をすることです。市販の虫よけスプレーなども有効です。
 もしマダニにかまれてしまった場合は、無理に取らないこと。はがそうとすると、体の一部がちぎれて残ったりするので、形成外科、皮膚科での処置が必要です。
 どの虫であれ、刺されてもかかないことが大切です。かきむしると傷口から細菌に感染したり、炎症が長引いて色素沈着を起こしたりします。また、放置すると皮膚が硬い状態になり、強いかゆみが出る結節性痒疹(ようしん)につながる例もありますので、たかが虫刺されと侮らず、早めに皮膚科を受診しましょう。

2016年5月25日水曜日

舌突出癖と筋機能療法


ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 院長

舌突出癖とはどのようなものですか。
 お子さんの成長とともに、歯とその歯並びは大きく変化します。一般的に歯並びが悪くなる原因を大きく分けると遺伝的な要因と後天的な要因とがあります。遺伝的な要因としては、歯の大きさや形、顎の骨の発育の仕方など、後天的な要因には、乳歯を早期に失ってしまった場合や、逆に永久歯が生えてきているにもかかわらず、乳歯やその歯根が残ってしまっている場合などがあります。そのほか、生活上の習慣や癖も歯列の乱れやかみ合わせを悪くする原因となります。その一つが「舌突出癖」です。
 舌突出癖とは、歯を舌で裏側から押したり、上下の前歯の間に舌を挟んだりする舌の癖のことです。歯ならびは、口のまわりや頬の筋肉の外側から押す力と舌が内側から押す力のつり合った位置に安定します。舌の悪い癖はこのバランスを乱すため、例えば、前歯のすき間に舌を入れることで、前歯の成長が妨げられ、上の歯が短くて下の歯に届かず、かみ合せようとしてもすき間ができる開咬(かいこう)を引き起こしたりします。歯は余計に力がかかった方向へと徐々に移動していくため、舌の力で前歯が出てしまうなど、開咬以外にもさまざまな不正咬合の原因となるのです。
 舌突出癖を放置すると悪化して治療が難しくなり、発音障害や顔の表情が不自然になるなどの問題が起こります。永久歯全体のかみ合わせの異常につながる恐れもあります。

舌突出癖の改善について教えてください。
 舌の癖の改善には、舌の動かし方などを訓練する筋機能療法(MFT)があります。舌や口唇などの口腔周囲筋をトレーニングするプログラムで、咀嚼時や嚥下時、発音時の舌の位置の改善や呼吸をはじめとした口腔機能の改善効果が期待できます。舌突出癖があると、歯列矯正が順調に進まなかったり、矯正治療後に後戻りすることがあるため、矯正治療を成功させるためにMFTの併用が必要なケースも多いです。また、MFTのみで不正咬合がある程度改善する場合もあります。
 普段から口を開けていることが多い、舌を出すなど食べ方がおかしい、きちんと発音できない言葉があるといった時には、舌突出癖など口の中に何らかの問題があるかもしれません。気になる点については、ぜひ矯正歯科医に相談してください。

2016年5月18日水曜日

社交不安障害


ゲスト/特定医療法人北仁会  いしばし病院 内田 啓仁 医師

社交不安障害とはどのような病気ですか。
 近年、ストレス性のうつ病をはじめ、パニック障害などのストレス関連疾患が急増していますが、社交不安障害(SAD)もその一つです。
 SADは、人前で話をするなど注目を浴びる行動に不安を感じ、顔が赤くほてる、脈が速くなる、息苦しくなるなどの症状が現れる病気です。人から注目を集める場合に不安を感じることは誰にでもあり、それを“あがり症”などと呼びますが、SADの人は常に「悪い評価をされるのではないか」「笑い者にされるのではないか」という不安感を覚え、そうした場面に遭遇することへの恐怖心を抱えています。SADのため、他人との関わりがつらくなり、不登校や出社拒否、自宅に引きこもるなど、社会生活に支障を来すケースも多いです。また、うつ病やパニック障害、アルコール依存症の併発などさらなる精神疾患の引き金となることもあります。
 SADは実はとてもポピュラーな病気ですが、気持ちの問題か、心の病気か、一見しただけでは見分けがつかないのも特徴的な一面です。「内気な性格」「引っ込み思案」などと思い込み、診療の機会を失ったまま過ごしている人が多い病気でもあります。

治療について教えてください。
 SADの治療法には大きく二つ、薬物療法と精神療法があります。薬物療法では、不安や恐怖を感じる原因とされる脳内物質のバランスを保つ薬・SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を第一選択で用いるケースが多いです。そのほか、ベンゾジアゼピン系抗不安薬やβ遮断薬などを併用し、不安時の身体症状の緩和を図ります。精神療法では、物事の受け止め方のゆがみや偏りを気付かせ、修正していく「認知行動療法」や、不安が生まれる状況にあえて飛び込んで、段階的な目標に沿って徐々に身を慣らしていく「暴露療法」などが有効です。同時に適度な有酸素運動などの生活指導、呼吸法やリラックス法など不安状況への対処法の指導も行われます。
 SADは次第に認知されてきましたが、まだ十分に知られていない病気です。何より重要なのは、SADは単なる性格の問題ではなく、治療可能な心の病気だと理解することです。「SADかな」と思い当たることがあれば、思い切って心療内科や精神科を受診して適切な治療を受けることをお勧めします。

2016年5月11日水曜日

子どもの歯科矯正治療


ゲスト/宇治矯正歯科クリニック 宇治 正光 院長

子どもの矯正治療について教えてください。
 お子さんの歯並びに矯正が必要かどうか迷う人も多いのではないでしょうか。歯並びを確かめる方法の一つとして、お子さんの口元を顔の正面から観察してみてください。上下の前歯の真ん中の位置が一致していれば安心ですが、ずれている場合は、矯正の必要があると考えられます。出っ歯や受け口など、上下の顎が前後に大き過ぎたり小さ過ぎたりという骨格的な問題は、一般の方でも気付きやすいですが、左右のずれは発見しにくいものです。
 前後あるいは左右にずれが認められる場合は、顎骨(がっこつ)の成長コントロールが可能な9〜11歳までに矯正治療を行うのが理想的です。就寝時にバイオネーターと呼ばれる機能的顎(がく)矯正装置を装着し、寝ている間にずれた顎の骨を中央に移動させます。子どもの成長の力を利用して、無理なく自然にバランスのよい骨格をつくれます。痛みはほとんどなく、日中は装着の必要がありません。ずれの程度にもよりますが、装着期間は半年〜1年が平均で、経過観察のための通院は、1〜3カ月に一度が目安となります。
 ずれの原因はさまざまですが、歯そのものがずれているケースもあり、永久歯がはえそろってからでも治療は可能です。その場合、抜歯する可能性は高くなりますが、きれいに治療できるケースがほとんどです。矯正治療をいつ始めるべきかという判断は非常に難しいので、一度専門医にご相談ください。

家庭でチェックするための別の方法はありますか。
 頬づえやかみ癖、就寝時の姿勢が左右どちらかに大幅に偏っている場合などは、左右のずれを引き起こす原因になることがあります。上下の前歯の位置を確認したら、次は鼻の先端を基準に、鼻の中央に前歯の中心が沿っているかを見てください。ずれの原因は一見して分かるものではなく、万が一、骨格のずれを歯のずれと勘違いして放っておくと、矯正に最適な成長時期を逃してしまうので注意が必要です。
 子どものうちの悪い歯並びやかみ合わせを放置していると、成長に伴い虫歯や歯周病の原因となったり、顎関節にも悪影響を及ぼす恐れがあります。また、大人になってから心理的なストレスの原因となる場合もあります。少しでもおかしいと感じたら、早めに専門医に相談することをお勧めします。

2016年5月6日金曜日

最新の糖尿病治療


ゲスト/医療法人社団 青木内科クリニック 青木 伸 院長

最新の糖尿病治療薬について教えてください
 糖尿病治療薬の最近の進歩は目覚ましいものがあります。飲み薬では、高血糖の時にだけ、すい臓からインスリンを分泌させ、正常血糖へ下げる「DPP-4阻害薬」があります。この薬は、理論的には低血糖を起こさず治療できる新薬で、糖尿病の平均血糖の指標であるHbA1c値を1.0%前後下げます。この薬と同じ系統の注射薬も登場し、「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれています。この注射薬はHbA1c値を1.6%前後下げます。1日1回の注射が必要ですが、現在は1週間に1回で済む注射薬も出ました。この系統の注射薬は、すい臓のインスリンを出す細胞を保護し、インスリンの分泌を弱らせない作用も持ち合わせているといわれています。従来まで体重を減少させる糖尿病薬がありませんでしたが、「SGLT-2阻害薬」が登場し、この薬剤は血糖を下げると同時に体重を減らします。最近の研究データによる結果では、この種の薬剤は、心血管系の動脈硬化症の出現を抑える働きも持ち合わせていることが判明してきています。
 一方、インスリン注射に目を向けると、「持効型インスリン(1回の注射で24時間効果を持続する長時間作用型インスリン)」があります。飲み薬の治療が効かなくなる症例でも、飲み薬をそのまま服用しながら、1日1回の持効型インスリンの注射を加えると血糖が改善する症例もあります。「混合型インスリン」は従来まで濁った製剤でしたが、透明な製剤が登場し、10回以上振って混合しなくても済むようになりました。

糖尿病の治療について教えてください。
 糖尿病の治療状況が良好といえる目安は、HbA1cが7.0%以下になっている場合です。糖尿病の患者さんの約半数が、高血圧と脂質異常症(高脂血症)を合併しているといわれています。糖尿病を合併した高血圧の治療はとても重要で、血圧の治療目標値は125/75mmHg以下です。自宅で測定できる血圧針を治療に役立てる方法もあります。この場合使用する測定器は、指先や手首に巻くタイプのものではなく、上腕に巻くタイプのものをお勧めします。脂質異常症の治療目標値は、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が120mg/dl以下です。以上のようなさまざまな基準値を長期間保てば、眼底出血(失明)、腎臓の悪化(透析)、足の潰瘍・壊疽(えそ)による足の切断など、糖尿病に由来する重症の合併症にならなくて済みます。それ以外にも脳梗塞、心筋梗塞などの予防にもつながります。

2016年4月27日水曜日

動脈硬化と油


ゲスト/社会医療法人 孝仁会  札幌西孝仁会クリニック 寺西 純一 医師

動脈硬化について教えてください。
 動脈硬化とは、動脈壁の中に、プラークと呼ばれるLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を主成分とした「油かす」がたまり、血管を狭窄させたり、血管を閉塞させる状態をいいます。心臓に栄養や酸素を送る血管である冠動脈に動脈硬化が起これば、狭心症や心筋梗塞の原因となります。1970年代アメリカで、コレステロールを始めとした油の摂りすぎが、動脈硬化の原因であるとの研究報告がなされ、以来日本でも、コレステロールの多い食品を摂りすぎないように指導され、コレステロール低下薬を使って、LDLコレステロールを下げる治療が盛んに行われるようになりました。しかし、これらの指導や治療によっても、狭心症や心筋梗塞を発症する患者さんは思ったほど減りませんでした。そのため近年、LDLコレステロールの量よりも、その質が問題ではないかと考えられるようになり、LDLコレステロールの中でも粒の小さなもの(スモール・デンス・LDL/超悪玉コレステロール)が、プラークを作り出す“犯人”と分かってきました。スモール・デンス・LDLは、現在、一般の病院では検査できませんが、中性脂肪とLDLコレステロールを同時に調べることで推定できます。一般的には食後の中性脂肪が高いと、スモール・デンス・LDLも高いと予想されます。

動脈硬化の予防について教えてください。
 動脈硬化の予防には、良質の油を摂ることが重要です。良質の油としては、血中の中性脂肪を下げ、体の中の炎症やアレルギーを抑える作用も持ったαリノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)などの「ω(オメガ)3系脂肪酸」があります。青魚、亜麻仁(あまに)、エゴマ、くるみなどに多く含まれています。また、オリーブ油に多く含まれるオレイン酸(ω9系脂肪酸)も動脈硬化を起こしにくい油です。さらに、糖分を摂りすぎないことも重要です。糖が体に吸収されると、膵臓からインスリンがでて、血糖を下げますが、同時にインスリンは中性脂肪を合成してしまう働きもあり、食後の中性脂肪を上昇させ、スモール・デンス・LDLも上昇させてしまうからです。
 これらに注意しても、LDLコレステロールや中性脂肪が高い時は、動脈硬化のリスクを考えて薬物療法の併用を検討するのがいいでしょう。

2016年4月20日水曜日

白内障手術のリスク


ゲスト/大橋眼科 大橋 勉 院長

白内障手術について教えてください。
 白内障は、瞳の後ろにある水晶体が濁るために起きる視力障害です。治療には点眼薬が投与されますが、最終的には手術が必要です。一般的な手術法は、水晶体を包んでいる袋を残し、袋の中の濁りを超音波で細かくして取り除き、その袋の中に人工の眼内レンズを挿入するものです。従来、眼内レンズは1つの距離に焦点を合わせた単焦点眼内レンズが使われていましたが、最近では遠・近距離の複数に焦点が合う多焦点眼内レンズや、乱視矯正と多焦点が一体となったトーリック多焦点眼内レンズなど、眼内レンズの選択の幅も増えています。

白内障手術の注意点、リスクについて教えてください。
 白内障手術は、安全性の高い手術ですが、外科手術である以上、事前に予測が困難な事態が起こる可能性はゼロではありません。
 例えば、白内障以外に緑内障や眼底出血などの眼の病気(網膜や視神経の病気、脳の病気など)があると、白内障手術が無事成功しても、本人が期待されている見え方まで回復しないケースがあります。術前に白内障以外の眼疾患についてさまざまな医療機器を用いて詳しく調べますが、白内障の濁りが強いなど、診断が難しい場合もあるからです。
 また、合併症も起こり得ます。最も合併症が起きやすいのは、進行して茶褐色になった白内障です。濁りが固くなっているため取り除くのが難しく、水晶体の袋を支えるチン小体も弱くなっているため、濁りが目の中に落下することがあります。また、眼内レンズを支える膜が何らかの原因で手術中に破れることもあります。これを破嚢(はのう)といいます。重度の合併症としては、術後、角膜の内皮細胞の傷みが大きく、角膜が水ぶくれの状態となり視力が低下する水疱(すいほう)性角膜症などが挙げられます。4000人に1人というごくまれな状態ですが、術後に眼内で細菌が繁殖し、網膜の障害で失明に至るケースもあります。
 術後、数カ月から数年して、またものが見にくくなってくることがあります。多くの場合、後発白内障によるものです。眼内レンズの入った、水晶体の袋の後ろ側が濁ってくるのが原因です。後発白内障は再手術の必要はなく、特殊なレーザーを使って簡単に濁りを取ることができます。外来でできる治療で、視力もすぐ回復します。

2016年4月13日水曜日

胆石症とはどのような病気ですか


ゲスト/札幌宮の沢脳神経外科病院 笹森 由美子 医師

胆石症とはどのような病気ですか。
 食べ物を消化する仕組みの中で、重要な働きを担うのが「胆のう」です。肝臓で胆汁という消化液が作られ、胆管を通って十二指腸に分泌されますが、胆のうはその途中にある臓器です。食事の際、タイミングよく収縮してためていた胆汁を放出します。
 「胆石症」とは、胆のうや胆管の中で胆汁の成分が固まり、石のようになる病気です。胆石症は、胆石のできる部位によりいくつかに分類されますが、ここでは、その約80%を占める「胆のう結石症」について説明します。
 胆のう胆石の約70%は、胆汁に含まれるコレステロールが固まったものです。40歳以降の方、女性でお子さんの多い方、肥満の方、白人にできやすいといわれています。また、高脂血症や食生活習慣、急激なダイエット、胆のうや、腸の働きが低下していることも胆石ができる因子です。
 典型的な症状は、胆石発作と呼ばれる腹痛です。食後、特に脂っこいものを食べた後に、みぞおちや右上腹部に痛みを生じます。我慢できないほどの強い痛みを生じる場合もあれば、違和感を感じる程度の軽い痛みのケースもあり、また、背中や右肩に痛みが拡散することもあります。

胆石症の診断と治療について教えてください。
 胆石症の診断には、まず血液検査や腹部X線写真、腹部エコー検査などを行います。腹部エコー検査は簡単で、体への負担も少なく有用な検査です。このあと、腹部CTやMRIなどの検査で、さらに詳しく調べていきます。
 治療については今年改訂された日本消化器病学会の胆石症診療ガイドラインが参考になります。ガイドラインでは胆石症のさまざまな病態について、根拠に基づいた治療法が書かれています。症状のない胆石は治療を行わず、年に1回の腹部エコー検査などによる経過観察を行うことが勧められます。経過観察を行うのは肝機能障害や胆のう癌(がん)発生の可能性を考えてのことです。症状が無くても胆のう壁が厚くなっている場合や壁の様子がよく観察できない場合、また何らかの症状のある場合には手術が勧められます。手術は腹腔(ふくくう)鏡下胆のう摘出術が第一選択です。体への負担が少ない、術後の傷が目立たない、入院期間も短いので早期の社会復帰が可能などの利点があります。手術を希望しない場合、胆のうの機能が正常であることなどいくつかの条件を満たせば胆石を溶かす薬を飲んだり、体外からの衝撃波で胆石を小さく砕いて取り除いたりする治療を行うこともあります。

2016年4月6日水曜日

女性と脳の病気


ゲスト/札幌宮の沢脳神経外科病院 笹森 由美子 医師

女性に多い脳の病気について教えてください。
 こめかみから目のあたりにかけてドクン、ドクンと脈打つように痛む片頭痛は、20〜40代の女性に多く見られる病気です。吐き気を伴い、体を動かすと痛みを増すのが特徴で、頻度は年に1、2回からほぼ毎日とさまざまです。
 頭痛は大別すると2種類に分けられます。脳腫瘍(しゅよう)やくも膜下出血などによる「症候性頭痛」と、片頭痛や緊張型頭痛などの「機能性頭痛」です。症候性頭痛は原因が明らかですが、機能性頭痛はCTなどの検査でも明確な異常が認められないことが多いです。片頭痛は女性の場合、生理前後のホルモンバランスの変化や疲労、ストレスなどが引き金になると考えられています。
 片頭痛の治療は、生活習慣の改善と薬物療法が中心です。片頭痛の薬は、通常の鎮痛薬で効果が乏しい人にも有効な場合が多いので、痛みを我慢せずに病院で治療を受けてきちんと対処しましょう。
 また、脳の血管が詰まる脳梗塞、血管が破れて出血する脳出血、くも膜下出血の3つが主となる脳卒中は、男性に多い病気と思われがちですが、それは間違いです。女性も自分が脳卒中を発症する可能性があることを知ってください。

女性の脳卒中について教えてください。
 例えば、脳梗塞は男性なら30代以降に発症数が増えますが、女性は閉経後、女性ホルモンの分泌が急激に減ることで、動脈硬化を起こしやすくなり、脳梗塞の発症数も増えてきます。また、くも膜下出血は高齢の男性に多いイメージがありますが、実は女性が7割を占めており、発症率は男性の約2倍です。
 脳梗塞予防の基本は、禁煙や暴飲暴食を慎むなど生活習慣を改善し、動脈硬化を進めないことです。くも膜下出血に関しては、遺伝的素因のある場合は、積極的に脳ドック(MRI、MRAなどの検査)を受診すれば、動脈瘤(りゅう)の有無が分かり、予防的な治療もできます。40歳を過ぎたら健康診断のつもりで一度検査を受けることをお勧めします。脳出血に関しては、高血圧の管理・治療をしっかり行っていくことが何よりも大切です。
 女性は家事育児に時間をとられて自分の受診が後回しになりがちですが、大切な家族のためにご自身の健康に留意してください。

2016年3月23日水曜日

アルコール依存症


ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院  太田 健介 院長

アルコール依存症について教えてください。
 飲酒のコントロールが効かなくなる病気です。健康を損ね、家庭生活や仕事に支障を来しても、お酒をやめることができません。国内にはアルコール依存症の疑いのある人が約440万人いると推計されています。
 アルコール依存症は薬物依存症の一種です。個人の人格や意志の弱さが原因ではありません。繰り返し飲酒することで、お酒に含まれるエチルアルコールという依存性の薬物に対して、脳の神経細胞に耐性が生じ、飲酒量をコントロールできなくなるのです。つまり、お酒を飲む人であれば誰でもかかる可能性のある病気です。
 依存症になると、飲酒を原因とする多種の合併症が生じます。例えば、高血圧、高脂血症、アルコール性肝障害、肝硬変、認知症などが挙げられます。アルコール依存症とうつ病の合併も頻度が高く、お酒に頼る生活が自殺のリスクを高めることも明らかになっています。
 依存症は中高年の男性に多い印象がありますが、若年層や女性の患者も増加しています。特に、未成年の飲酒は発達途上の脳への障害が大きく、ほんの数年で依存症になってしまう危険性があります。飲酒に対し規制が緩やかな日本社会では、中高生からの酒害教育を行っていく必要があるでしょう。

依存症の診断と治療、予防について教えてください
 依存症の判断基準はいろいろありますが、代表的なものとして「価値観の逆転」があります。大切にしていた家族や仕事、自分の健康より飲酒を優先させる状態のことです。依存症になってしまったら、自分一人の力で抜け出すのは非常に困難で、適切な治療を受けない限り、徐々に悪化していくケースがほとんどです。
 治療には、断酒が必要です。節酒では駄目で、きっぱりやめるしかありません。薬物療法や認知行動療法、断酒会への参加により、断酒につなげていきます。ほかの病気と同じように、軽いうちに治療を始めれば、早期の回復が可能です。重要なのは、病気だと自覚し、正しい知識を得て、有効なやめ方を知ることです。
 依存症の一番の予防は、お酒と病気について正しく知ること。依存症は人生が破綻し、周囲を傷つける進行性の深刻な病気であると理解することが大切です。また、お酒の持つ負の側面を十分に認識し、お酒と安全に付き合っていくことが大切です。

2016年3月16日水曜日

うつ病からの職場復帰


ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 響 徹 診療部長

うつ病が増え続ける現在、休職中の人の職場復帰が大きな課題となっていますね
 厚労省の調査によると、2011年全国のうつ病患者数は95万8千人、1996年の43万3千人から倍増しています。うつ病が原因の休職者も多くの職場で増加し、社会全体・組織全体としてのメンタルヘルス対策が必要となってきました。
 うつ病の治療のため休職をした人にとって気にかかるのが職場復帰です。多くの患者さんは早期の復職を希望しますが、いったん復職しても、遅れを取り戻さなくてはという焦りや、周囲に対する申し訳なさから無理をしてしまい、再発や休職を繰り返してしまうケースも目立ちます。
 うつ病は再発しやすい病気で、治るプロセスも一進一退で波があります。復帰した職場が、うつ病になる前と同じような状況で、同じようなストレスがある場合、再発の可能性が高くなります。一時的に症状が改善しても、主治医の指示に従って焦らずに適切な治療を続けることが必要です。その上で、本人と主治医、職場の上司や人事担当者を交えた面談(診察)の中でじっくり話し合い、復職の時期や復職後の働き方、職場環境の調整などについて考えていくことが大切です。

職場復帰のポイントについて教えてください。
 うつ病になりやすい人は、責任感が強く、無理をして頑張りがちです。前の自分に戻ろうとするのではなく、「無理をしない」「頑張りすぎない」という心の管理の仕方を覚えるのが大事です。
 職場の上司、同僚の協力と理解も不可欠です。休職者が無事に復職してきたときは、病気に配慮しつつも、特別視することなく、これまでと変わらない態度で温かく迎えてあげてください。また、一定期間は短時間勤務やフレックス勤務といった“慣らし出社”の時期を設けて、段階的にフルタイム勤務に近づけていくのがいいでしょう。うつ病と診断された部下、同僚とどのように接するか、職場としてどのように迎え入れるか、それは今や誰もが考えておくべき問題といえます。
 うつ病の治療、うつ病からの回復において、家族やパートナーなど身近な人たちのサポートは、患者さんにとって何より大きな支えになります。つらい気持ちに共感してあげること、そしてよく話を聞いてあげることが重要です。「決して一人じゃないんだよ」という気持ちが伝われば、必ず光明が見えてくるはずです。

2016年3月9日水曜日

気管支ぜんそくとCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の合併


ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 医師

気管支ぜんそくとCOPD、両者の合併について教えてください。
 アレルギーなどにより気道に慢性的な炎症が生じる気管支ぜんそくは、気道が過敏になり狭窄(きょうさく)を起こしますが、治療により回復しやすいのが特徴です。一方、COPDは慢性閉塞性肺疾患といわれ、慢性気管支炎や肺気腫を指します。主にタバコが原因で、気管支の炎症や肺の弾力性の低下によって気道が閉塞し、呼吸機能が低下します。症状としては体を動かした時に息切れが生じやすくなります。人口の高齢化に伴い増加している病気で、気管支ぜんそくと比べると回復しにくいです。
 近年、この両者の特徴を併せ持ち、診断上どちらか一方に明確に分けられない病態として「気管支ぜんそく・COPDオーバーラップ症候群(ACOS)」が注目されています。ACOSは、それぞれの単独例よりも増悪の頻度が高く、予後が悪いという点が問題になります。気管支ぜんそくの患者さんでは、年齢とともにCOPDの合併率が上がり、65歳以上では約半数が合併しているという報告があります。一方、COPDの患者さんでも、約3割が気管支ぜんそくを合併しているといわれています。ACOSの診断基準はまだ確立されていませんが、両者の所見が同程度みられる場合はこれを疑います。

治療について教えてください。
 気管支ぜんそくの治療には、吸入ステロイドや短時間及び長時間作用性β2刺激薬などが、COPDの治療には短時間及び長時間作用性β2刺激薬や短時間及び長時間作用性抗コリン薬などが用いられます。ACOSの薬物療法の基本は、吸入ステロイドと長時間作用性気管支拡張薬の併用です。長時間作用性気管支拡張薬にはβ2刺激薬、抗コリン薬、経口テオフィリン薬などがあり、自覚症状や副作用に注意しながら、単剤もしくは多剤併用で使われます。吸入ステロイドは、COPDでは中等症以上で使用されますが、ACOSの場合は早期から必要になります。最近は重症のぜんそくに長時間作用性抗コリン薬が保険適用になり、症状のコントロールが不十分な場合は追加投与が可能になっています。
 気管支ぜんそく、またはCOPDの治療を行っているにもかかわらず、症状が持続したり、増悪を繰り返したりしている場合には、ACOSを疑ってみることも大切です。

2016年2月26日金曜日

妊娠・出産とおしりの病気


ゲスト/札幌いしやま病院 川村 麻衣子 医局長

妊娠中や出産後に痔(じ)になりやすいのはなぜですか。
 妊娠、出産を経験すると、痔になったり、痔を悪化させたり、おしりの病気に悩まされる女性は少なくありません。
 妊娠で悪化する痔で最も多いのは痔核(いぼ痔)です。妊娠による子宮の増大で、肛門周辺の血管が圧迫されて、うっ血するのが主な原因です。また、同じく子宮の増大による腸管の圧迫や、女性ホルモンのバランスの変化などにより、これまで便秘体質ではなかった人でも便秘がちになることが多く、結果、硬くなった便を出そうと強くいきんで、肛門の出口付近が切れる裂肛(切れ痔)も発症しやすくなります。
 出産に伴うものでは、分娩時のいきみで痔が悪化するケースが多いです。妊娠中に腫れぼったくなっていた痔核が、分娩時にさらに腫れて、脱肛気味になることもよくあります。また、出産後は赤ちゃんの世話による睡眠不足やストレスで便秘がちになることに加え、母乳育児では体内の水分が母乳に吸収されるため、便が硬くなりやすくなり、痔を発症しやすい傾向にあります。

予防法や対処法について教えてください
 妊娠中の便秘対策は、こまめな水分補給を意識したり、食事内容を見直して、豆類・きのこ類・野菜類など食物繊維が豊富な食材を取るように心掛けましょう。また、排便時にはトイレットペーパーで強く拭くのではなく、勢いを弱めたトイレシャワーなどを使い、少ない刺激で洗い流しましょう。肛門周辺を清潔に保ち、長い時間力むような動作をしないこと、血行を良くするために、入浴や半身浴をして体を温めたり、体調が良い時は、ウォーキングなど適度な運動をすることも便秘の予防に有効です。
 妊娠中は、痔の手術治療は原則としてできませんので、主に座薬などによる保存治療と便秘改善などの生活指導が中心となります。痔の市販薬を自己判断で使うのは控え、医師に相談して妊娠中、出産後でも使える薬を処方してもらうと安心です。産後、痔の症状は少しずつ改善していくことが多いですが、ある程度以上悪い状態のものは、今後のために通院による治療や手術・入院による治療をお勧めするケースもあります。この次の妊娠、出産の時、さらに悪化することが十分に予想されるからです。手術の方法も年々改良されてきて楽に、短期間で完治するようになっています。

2016年2月24日水曜日

ストレスチェック制度


ゲスト/医療法人社団五稜会病院  中島 公博 理事長

働く人の心を守るための「ストレスチェック」を事業者に義務付ける制度が、昨年12月1日から始まりました。これはどのような制度ですか。
 昨年改正された労働安全衛生法に基づく制度で、背景には過労やパワハラによる精神疾患での労災認定の増加などがあります。労働者が50人以上の事業者に義務付けられ、道内は約5千の事業者が対象となります。
 制度では、「時間内に仕事が処理しきれない」「ひどく疲れた」など仕事や最近1カ月の状態などについての質問票に従業員が回答。ストレスの状態が数値化され、長時間労働やストレスが多いと「医師による面接指導が必要」と判定され、従業員に伝えられます。本人の了解なしに結果が会社側に知らされることはなく、本人の希望がなければ面接も行われません。関わった職員や医師らは、罰則付きの守秘義務を負います。面接後に医師が必要だと判断すれば、会社は労働時間の短縮や配置転換などの措置を取ることが求められます。

制度の意義と課題について教えてください。
 この制度は、精神的不調を抱える労働者を探し出すことではなく、労働者が自分のストレス状態を知り、うつ病など心のトラブルを未然に防ぐという目的があります。悪化しないうちに十分に休養を取るなど適切に対処すれば、多くの場合で状態は改善します。
 また、事業者は検査を踏まえて、従業員が働きやすい環境を整えることが求められています。心の不調を訴える従業員の多い会社は、他の従業員にしわ寄せが及び、新たな不調者が発生する悪循環に陥りがちです。例えば、部署全体のストレスチェックの結果をまとめて分析、比較すれば、高ストレス者が多い部署が分かり、仕事の進め方を見直すなどの環境改善につなげられます。心の健康を損ない休職、離職する問題が深刻化している現在、制度は職場全体にとっても有意義と考えられます。事業者は、単に検査をするだけでなく、フォローをきちんと行うことが重要です。
 面談などを行う産業医の不足や個人情報の管理の問題、効果的なチェックができるか、従業員が不利益な扱いを受けないかなど課題もありますが、従業員の心の健康を守り、会社の力を十分に引き出すためにも、本制度によるメンタルヘルス対策は非常に有効であると思います。制度の実施を契機に職場全体で対策を進めるとともに、労働者も意義を理解し積極的に検査を受けてほしいです。

2016年2月17日水曜日

MCI(軽度認知障害)と認知症


ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長

MCIと認知症について教えてください。
 80歳以上の人口が1000万人を超え、4人に1人が65歳以上という高齢化社会を迎えました。「物忘れなどが増え、自分は認知症ではないか?」との心配から脳神経外科を受診される方が増えています。脳ドックでも、以前は脳卒中の予防が主な受診動機でしたが、近年は認知症の早期発見や予防を目的とされる方も多いです。
 MCI(軽度認知障害)は、認知症の前段階で、正常と認知症の間くらいに相当する状態を指します。MCIをそのまま放置していると、5年間で約半数の方が認知症へと進行するともいわれています。しかし、MCIの段階で進行を食い止めるための対策を行えば、認知症の発症を防ぐことも可能です。現在、認知症を治す薬は残念ながらありませんが、認知症の進行を遅らせる効果のある薬は登場しています。そういった意味でも早期での受診・診断・治療が非常に重要です。

MCIの診断と認知症への進行を予防する対策について教えてください。
 診察では、まず問診を行います。次に、記憶力や判断力のテスト、画像診断などを行います。重要なのは問診で、特にご家族からの情報が診断の鍵となることが多いです。物忘れの回数などに正常値があるわけではありませんが、以前に比べて著しく回数が増えている場合や、物忘れの質的な変化がある場合は、本人よりご家族の方がその異常を敏感に感じ取っているケースが多いからです。画像診断は、認知症と似た症状を引き起こす別の病気との鑑別において重要です。また、アルツハイマー型認知症などでは、脳の一部に萎縮が起こるなど特徴的な所見を呈するので、画像診断が、軽い症状のうちに治療を開始するための決め手となります。
 MCIと診断されたからといって、全ての方が認知症になるわけではありません。適切な対策をすることによって認知症の発症を防げる可能性もあります。食事や運動などの生活習慣を見直すこと、具体的には①野菜や果物をよく食べること ②肉類より魚類を多く食べること ③定期的な有酸素運動を行うことが推奨されています。多くは生活習慣病の予防と重なります。加えて、体をよく動かすこと、人とのつながりを大切にすること、心に適度な刺激を与えることなどが、アメリカのアルツハイマー協会からも推奨されています。

2016年2月10日水曜日

「兎眼(とがん)」


ゲスト/札幌エルプラザ 阿部眼科 阿部 法夫 院長

兎眼(とがん)とはどのような病気ですか。
 兎眼とは、瞼(まぶた)を完全に閉じることができなくなった状態です。ウサギが目を開けて眠ると信じられていたことから名付けられたようです。原因の一つとして挙げられるのは、顔面神経麻痺(まひ)です。顔の左右どちらかの麻痺は、おでこの皺(しわ)がなくなったり、口が開けっ放しになったりする症状のほか、目を閉じられなくなることもあります。瞼が常に開いている状態になると、眼表面が乾燥しドライアイになり、同時に目の下方に涙がたまる涙目となります。目の乾燥が進行すると、角膜潰瘍や角膜混濁が生じ、視力の低下を引き起こすこともあります。
 顔面神経麻痺以外の原因で軽い兎眼になっているケースも多くみられます。まばたきの浅い人(瞬目不全)や、夜寝ている間、特に朝方、瞼が開いて白目や黒目の下方がみえている人(夜間兎眼)などです。近年は、瞼を人工的に二重にするため皮膚に塗ったり貼ったりするノリやテープが出回っており、これらにより瞼が引きつってしまい兎眼状態を作り出しているケースもあります。そのほか、瞼の外傷・瘢痕(はんこん)、眼瞼(がんけん)下垂手術・重瞼手術後の後遺症や、甲状腺機能亢進(こうしん)症に伴う眼球突出、眼窩(がんか)腫瘍などの病気が原因となり、目を閉じられなくなっていることもあります。

兎眼の治療について教えてください。
 兎眼が軽度の場合(涙が眼表面に比較的正しく分布するような場合)、通常のドライアイの治療で経過をみます。ジクアホソルナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、人工涙液の点眼を組み合わせて使用し、乾燥を防ぎます。睡眠中に症状がみられる場合は、就寝時に眼軟こうを塗布することで対応します。顔面神経麻痺の場合、その原因治療を行うとともに、目を閉じた状態で上から専用保護膜を貼ったり、場合によっては一時的に上下の瞼を縫合したりするなどして、症状の進行を防ぐこともあります。兎眼が重度の場合、または保存的治療が功を奏しない場合は、形成外科などでの手術療法が必要となります。
 一般に、眼科診療所でみられる兎眼は軽度なものが大半で、単にドライアイと診断されていたり、見過ごされていたりするケースも多いです。目の表面の強い乾き、ごろつき感、痛みなどがある時は、専門医にご相談ください。

2016年2月3日水曜日

発達障害


ゲスト/医療法人社団 正心会 岡本病院 瀬川 隆之 医師

発達障害とはどのような病気ですか。
 発達障害は、行動や認知の特性によって、いくつかの個別の障害に分類されます。主に、忘れ物や落ち着きのなさなどの症状が目立つADHD(注意欠如多動症)、他人の気持ちの理解やコミュニケーション能力に難のある自閉症やアスペルガー症候群を含むASD(自閉スペクトラム症)などがあり、発達障害はそれらの総称として使われています。症状には個人差があり、複数の障害を併せ持つ人もいます。
 発達障害は、生まれながらにして脳の発達に凸凹がある障害と考えられています。脳の発達の凸凹は誰にでもあり、その人の個性とも捉えることができますが、その凸凹が極端で、生活に支障が出るほどになれば治療を行います。
 従来、子どもに特有の障害と考えられがちでしたが、近年は大人になるまで障害と気付かずに見過ごされ、社会へ出てから仕事や対人関係に対応し切れなくなって初めて認識されるケースが増えています。その結果、職場で孤立したり、「どうしてうまくやれないのか」と過度に自分を責めたりして、うつ病など二次障害に至るケースもあります。背景には、障害の「見えにくさ」や周囲の理解不足が指摘されています。

発達障害の治療について教えてください。
 現在のところ、発達障害を根本的に治す方法はありませんが、ADHDの症状を緩和する治療薬はあります。また、非薬物療法としてカウンセリングなどを通し、社会に適応するための生活術を身につけてもらう、本人の特性をあらかじめ周囲に伝え、どうしても難しいことについては何らかの配慮を得るなど、家族や職場との協力体制を築き、発達障害の人が生活しやすい環境づくりを行ったりします。必要であれば、症状を緩和させるための薬物療法を組み合わせるケースもあります。
 障害の特性により、周りの人との間に誤解を生むことも少なくありません。しかし、特性は時に強みにもなり、他人との違いを生かしたスペシャリストとして社会の中で活躍している人も数多く存在します。できないことよりもできることに焦点を当て、これまでの生活で叱られたり注意されたりして失った自己肯定感を取り戻す手助けをしてあげてください。発達障害の人が個々の特性を生かし、能力を発揮するには、周囲の十分な理解と温かなサポートが不可欠です。

2016年1月27日水曜日

高齢者ぜんそくとCOPD(慢性閉塞性肺疾患)


ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長

高齢者ぜんそくとCOPDの合併について教えてください。
 気管支ぜんそくに対する吸入ステロイド薬をベースにした、ぜんそく治療が広く普及した昨今では、ぜんそくによる死亡者数は大きく減少しています。しかし、人口構成の高齢化に伴い、ぜんそくによる死亡者数に占める65歳以上の高齢者の割合は増加しており、ぜんそく死亡者数の約9割にも上ります。
 一方、長期間にわたる喫煙習慣が主な原因であるCOPDは、「肺の生活習慣病」として社会的にも大きな注目を集めています。これは肺気腫や慢性気管支炎により、肺の機能が低下した状態をまとめた病名で、進行すると肺の組織が破壊され、肺機能が低下し、呼吸困難まで引き起こします。
 現在の高齢者は喫煙歴を有する人の割合が高く、COPDを合併する高齢のぜんそく患者は少なくありません。厚生労働省の調査では、高齢のぜんそく患者の約25%はCOPDを合併していると報告されています。高齢者ぜんそくとCOPDの合併は、相互に増悪しやすい環境を作り出し、生命予後を大きく悪化させます。

診断と治療について教えてください。
 2つの病気は、気道が狭まって呼吸困難になるなど症状が共通しています。ぜんそくかCOPDか、あるいは両方を合併しているのかについては、身体の状態を詳しく問診しいろいろな検査を経て、鑑別、診断します。
 現時点でCOPDを根本的に治し、肺を元の状態に戻す治療法はありません。呼吸機能を改善し、咳(せき)、痰(たん)、息切れなどの症状を緩和し、生活の質を高めることが治療の目的となります。症状の軽重にかかわらず、治療の基本は禁煙です。喫煙を続ける限り、病気の進行を止めることはできません。そして、薬物療法により症状を改善しながら、呼吸機能の維持・増進を図っていきます。ぜんそくでは吸入ステロイド薬、COPDでは長時間作用性抗コリン薬、長時間作用型β2刺激薬などの気管支拡張薬が用いられます。
 ぜんそくとCOPDが合併していると、単独の場合よりも治療が難しいケースがほとんどですが、早期に専門医による適切な治療を開始し、禁煙や服薬など自己管理を徹底することで、生活の質は改善され、健常な人と同様の生活を送ることは十分可能です。早めに治療を行うほど高い治療効果を望めますので、早期受診がなによりも重要です。

2016年1月20日水曜日

リウマチ実地診療のあるべき姿


ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 院長

関節リウマチ診療の現在と今後の展望について教えてください。
 関節リウマチの治療目標は「寛解」です。寛解とは、関節リウマチの症状が、ほぼ消えて、病状がコントロールされている状態のことをいいます。2011年に米国リウマチ学会と欧州リウマチ学会が共同で、「T2T(Treat to Target)」で目標にすべき寛解の基準を定めました。T2Tとは、目標に向かって治療を行うという意味で、寛解を目標にした関節リウマチ治療のスローガンとなっています。13年には最新版のリコメンデーション(治療推奨)が発表されました。リコメンデーションは、「関節リウマチの治療は、患者とリウマチ医の合意に基づいて行われるべきである」「炎症を取り除くことが、治療ゴールを達成するために最も重要である」など4つの基本的な考え方と、「関節リウマチ治療の目標は、まず臨床的寛解(炎症反応がなくなり、患者さん本人も、周囲の人も症状を感じていない状態)を達成することである」など10の声明で成り立っています。
 私が考える「リウマチ実地診療のあるべき姿」の基本は、何よりも患者さんを思う心を大切にし、T2Tを守ることを前提に、❶自らがまず健康で楽しく仕事ができる ❷医の倫理を守る ❸責任感を持つ ❹マルチタレントであれ ❺謙虚であれ ❻やる気を持って何でも積極的にやることです。患者さんに対しては、生活面全般でサポートを考えてあげることが大事です。新しい寛解基準や治療目標の確立、早期診断および治療を可能にする関節エコーや生物学的製剤の登場などによって、関節リウマチは「治る」時代に入りました。一方で、患者さんの目には見えない満足度の向上も非常に大切であると考えます。例えば、関節リウマチは治療が長期にわたるため、患者さんにとっては心理的負担も大きく、また、薬価の高い生物学的製剤の導入となれば経済的にも大きな負担となります。これらのさまざまな問題を解決するには、医師以外のメディカルスタッフの協力が必要となります。患者さんが悩んでいること、困っていることをしっかりと受け止めて、目の前の障害を一つずつ解決し、患者さんに心から喜んでもらい、幸せになってもらうという目標を、スタッフ全員が共有する必要があります。患者さんの満足度向上は、多職種によるチーム医療によって達成されるものと思っています。

2016年1月13日水曜日

ノロウイルス感染症とその予防


ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

ノロウイルスによる感染症について教えてください。
 激しい下痢や嘔吐(おうと)の症状を引き起こすノロウイルスによる胃腸炎は、11月〜2月頃にかけて流行します。ノロウイルスは、わずかなウイルスの量でも体内に侵入すると腸内で爆発的に増殖します。そのため、体内にノロウイルスを侵入させないことが最も有効な予防法になります。
 ノロウイルスに感染する原因として特に注意しなければならないのは、ノロウイルスに感染している患者さんの下痢便や吐しゃ物に触れ、気付かないうちに感染してしまうケースです。これを二次感染といいます。下痢便や吐しゃ物には大量のノロウイルスが含まれているため、ノロウイルス感染患者さん、または感染が疑われる方の介助の際や、利用した後のトイレやお風呂などを使う際には注意が必要です。

ノロウイルスの感染予防で特に気を付ける点は何ですか。
 最も注意したい場所はトイレです。ノロウイルス感染患者さんが下痢や嘔吐をした時、これらの汚物の飛沫(ひまつ)が舞い上がり、便器や周囲の壁などに付着します。また、患者さんの手や指にも付着し、便座やドアノブ、水道の蛇口などに触れることで汚染範囲は拡大します。ノロウイルスは少量の飛沫でも非常に強い感染力があるからです。また、トイレの周囲に付着したノロウイルスは、乾燥した寒い時期であれば、約1カ月は不活化(感染性を失うこと)しないといわれています。駅や商業施設などのトイレは不特定多数の方が利用するので、ノロウイルスに汚染されているリスクがあります。利用する際は、丁寧に手を洗うことを習慣にしてください。
 ノロウイルスの感染予防には、汚染を広げないように家族の健康管理も重要です。家族に下痢、発熱、嘔吐などノロウイルスが疑われる症状がある場合には、手洗いの徹底、ドアノブや便座、台所などの消毒のほか、二次感染を防ぐためにタオルの共用などを避け、吐しゃ物の処理は使い捨ての手袋などを使い迅速にするようにしましょう。ノロウイルスによる食中毒では、多くの事例で感染していた調理従事者が汚染原因となっています。症状がある時は、調理行為を避けてください。
 2015年〜16年の冬期間は、新型のノロウイルスの感染が世界的に流行することが危惧されていますので、予防と対策をしっかりと知っておくことが大切です。

2016年1月6日水曜日

歯に優しい土台「ファイバーコア」


ゲスト/医療法人社団アスクトース 石丸歯科診療所 近藤 誉一郎院長

最近耳にする機会が増えた「ファイバーコア」とはどのようなものですか。
 ファイバーコアとは、グラスファイバーという特殊な素材でできた、歯の土台のことです。
 虫歯やその他の原因によって歯の神経を除去すると、その後の処置として歯の補強を行う必要があります。歯の神経の管を利用して、歯根の2分の1から3分の2程度の位置に、基礎となる土台を立ててからクラウン(冠)をかぶせるのが一般的な治療法です。歯の土台とは、いわゆる差し歯をつくる際に必要不可欠なものです。
 これまで保険診療では、鋳造した金属のみの土台(メタルコア)、または金属と樹脂を併用した土台しか認められていませんでしたが、2016年1月から金属を使用しないファイバーコアも保険診療で使えるようになり、その注目度が高まっています。

ファイバーコアの利点とは何ですか。
 神経を取った歯は痛みを感じませんが、神経がある歯と比べてややもろいところがあります。神経の処置を施した後に立てた歯の土台は、土台の深い場所から応力が生じやすく、かむ力の強い人や歯ぎしり、食いしばりの強い人などは、歯根の破折を起こしてしまうケースもあります。歯根の破折は抜歯するしか手立てがないため、歯科医師にとって長い間、悩みの種でした。
 歯の土台は家に例えるならば、柱や基礎となる大変重要な部分です。金属材料を使った土台の欠点として、歯根のしなり具合よりも金属の方が硬いため、ストレスが集中し、歯根への負担が大きいということがあります。一方、ファイバーコアは、適度な強度としなやかさを持ち合わせており、これを強い接着システムにより歯根と一体化させているので、歯根が破折しにくくなっています。耐震性、免震性のある土台といえます。また、金属製の土台の場合、腐食などにより歯茎の色が変色することもありましたが、その心配も軽減できます。
 大臼歯のクラウンは金属のものしか保険が適用されませんが、小臼歯においてはハイブリッドセラミック冠の一部が保険適用になっています。ブリッジ以外の小臼歯の治療では、保険診療でメタルフリーの治療が可能となり、金属アレルギーの不安もありません。
 今後の歯科治療は、可能な限り金属材料を使わない方向で発展進歩していくと思われます。